それでも着いてこられるやつだけ読んでくれ。
不定期更新です。
「ピット、あなたに仕事があります」
「なんですか? パルテナ様」
エンジェランド、パルテナの神殿。
女神パルテナに呼び出された天使ピットは、不思議そうに小首を傾げた。
冥府軍との激闘からしばらく経ち、ピットはパルテナ親衛隊隊長として部下を鍛えたりエンジェランドの治安維持に務めていた。
自然軍とも今は休戦状態であるし、概ね平和と言える。
そんな中からパルテナの呼び出しだ。すわ新たな敵軍かとピットは急いでパルテナの元へ駆けつけたが、パルテナの様子はいたって落ち着いている。
しかし仕事とは言っているし、ピットに直接命を下すのだから重要なことなのだろう。
なんにして、パルテナ様のお役に立てるならなんでもしますよ! とピットは拳を強く握った。
「ちょっと高校生になってきて欲しいのですが」
「…………え?」
コーコーセー。なんだそれは?
ピットは聞き馴染みのないそれに更に首を傾げた。
「少し世界が違うのですが……そこの神に、少しあなたを貸して欲しいと頼まれたのです」
「はぁ、なんでですか?」
「『世界に“個性”という特殊能力を実装したけど、まだなんか面白みが足りないから、天使も投入したら面白いかなって』……だそうですよ」
「それ、完全に神の余興じゃないですか!」
神はいつだってマイペースで突然だが、まさか天使を面白さで動員する神がいようとは。
いや、ピットもパルテナも大乱闘なんとかブラザーズに戦いに行ったりとなんだかんだ遊んでいるのだが、神直々となるとまた別の話だった。
「そこの神はこちらほど強く人間に干渉しないのですが……まぁ、遊び心ですね」
「え、それ、パルテナ様オーケー出したんですか?」
「ここ最近は天界も人間界も平和ですし、ピット、休暇ついでに行ってらっしゃいな」
「オーケーしちゃったんですね!?」
ピットはパルテナから勝手に貸し出された自分の身の上がちょっとかわいそうになった。が、パルテナ様のためならなんでもやるこの男、二言は無い。
早速ピットが行くことになったらしい「別の世界」の説明を聞くことにする。
パルテナはわかっていたとばかりに微笑んだ。
「ピットは日本という国の学生……高校生になってもらいます。その世界は“個性”という様々な特殊能力を持った人間が過ごす世界。天使や神、魔物といった存在はほぼ御伽話のようですね」
「特殊能力って……例えばなんですか?」
「そうね、光ったりとか」
「光ったり」
「物を浮かせられたりとか」
「浮かせられたり」
なんというか、……ショボくない?
ピットはそんな感想を抱かずにはいられなかった。しかし人間が神の使う奇跡のような力を得てしまったら、それはもう大変だ。このくらいで丁度いいのかもしれない。
「その個性を使った犯罪を働く“ヴィラン”と、それを取り締まる“ヒーロー”と呼ばれる存在がいるのも目立った点でしょうか」
「ヒーローにヴィランかぁ……なんか漫画みたいですね」
「まぁ、我々も似たようなものですし。冥府軍と天使軍のような関係ですね」
「そんな世界で、コーコーセーとして暮らせばいいんですか?」
「そうです。ただし、普通の高校生では面白くないので……ピット、ヒーローを目指してみましょうか」
パルテナは手に持っていた「日本の歩きかた〜個性編〜」を開き、ピットに見せる。
そこには「雄英高校」という学校の詳細が書かれていた。
「雄英高校ヒーロー科?」
「この学校に入学してもらいます。座学が心配だけれど……まぁなんとかなるでしょう」
ピットはその本を受け取り、読み進めてみる。ヒーロー科とはその名の通りヒーローになるための教育を施すコースらしく、災難救助や犯罪者との戦闘なんかの訓練もするらしい。
ヒーローというか、警察とか消防士みたいだと感じないこともない。
パルテナ曰くこの世界では個性による通常の人間を超えた犯罪や脅威があるらしいので、その専門の職業というのがヒーローなのだろう。
ピットはだんだんとこの世界のことを理解していた。
「とりあえず、ここに入学して……何をすればいいんですか?」
「普通に過ごしてください。授業を受けたり、人間と仲良くなってみたり。もちろん、私もサポートしますから」
パルテナの顔にはハッキリと「面白そう」という感情が透けていたが、もはやいつも通りであるとピットはスルーした。
「じゃあ、早速向こうでのピットの設定を練っていきましょう」
「楽しそーですね、パルテナ様……」
「名前は日本風にした方がいいかしら? それともあえての外国風? ハーフという手もありですね」
「あのー、パルテナ様ー? 聞いてますー?」
嬉々としてピットの設定を本人より熱中して考え始めたパルテナ。放置されたピットはもはやその楽しそうな姿を眺めるほかなかった。
人間に紛れての生活というのは初めてだ。そもそもピットは天使であって、人間とよく関わるような種族ではない。
パルテナのサポートがあるとはいえ、うまく溶け込めるだろうか?
まぁなんとかなるだろうとピットは楽観的に疑問に自答した。
「ではピット、あなたはギリシャ人と日本人のハーフ『
「はい! って、試験からなんですか!?」
てっきり入学まで飛ばしてくれるのかと。
ピットが驚くように言えば、パルテナは首を振った。
「流石に合格結果に無理やりねじ込むのは不自然ですからね。大丈夫、座学は私がしっかり教えて差し上げますから」
「ボク、勉強とか苦手なんですが……頑張ります!」
「最悪テスト中に答えを教えますからね」
「あ、それはいいんですね」
既に不正を宣言されたが、ピットとしては神々の余興に公平性も何もないだろうと納得した。
「原則他の世界に干渉はしないのですが、今回は向こうの世界からある程度許可を得ています。ピットが存在していても不自然じゃないように環境も作ってくれたそうですから、安心して行ってらっしゃいな」
「はい! 楽しんできまーす!」
ピットにとってはとても久しぶりの休暇である。冥府軍と戦っていた時はほぼ休みが無かったし、この際だから吹っ切れて楽しんでこよう。
ピットはパルテナの力により転送させられる。
何かを飛び越える感覚がし──気づいた時にはフローリングの上に転がっていた。
「うん??」
《無事に世界線を飛び越えられたようですね、ピット》
「パルテナ様、ここは?」
パルテナからの通信が頭にある月桂冠を通して伝わってくる。
周りを見ると、ベッドにテーブル、簡易的なコンロと流し台だけのキッチンがあるワンルームの部屋だ。
ピットは狭い部屋だなぁと思いつつ起き上がる。
《ここが日本でのあなたの家です。設定を覚えていますか?》
「ええと……孤児院育ちの中学生で、今は一人暮らし。国や孤児院からの資金援助を受けながら、雄英を目指す少年……?」
《よくできました。まずは着替えましょう。その姿では現代に馴染めませんから》
ご丁寧に納戸の中に入っていた服を着ようとするが、Tシャツやワイシャツは背中の羽が邪魔で着れない。なんとかタンクトップによって上裸を回避し、その上からダボっとしたアウターを肩を出して羽織った。ボトムは少年らしいハーフパンツだ。
慣れない現代服にぎこちなさを感じつつ、ピットは着替えを完了する。
個性によって羽が生えていると言い張れるのはこの世界では便利なことだった。
《ほらほら、はやく準備しないと。今日が雄英高校入試本番ですよ》
「いっ、いきなりですかぁ!? パルテナ様!!」
それを聞いて、大急ぎで筆記用具と書類を入れた鞄を掴み、玄関に置いてあったスニーカーを履いて外へ出た。
「わぁ……!」
眼前に広がる、完全に未知な風景。
ビルや車、大型看板などは、まだピットの世界では見られないものだった。
それにワクワクと興奮を刺激されつつ、パルテナの案内に従って雄英高校へと向かう。
これはピットが、雄英高校で面白おかしく過ごす天使の物語だ。