《ここが雄英高校です》
「わぁ……すごく大きいですね、パルテナ様!」
無事に雄英へと到着したピットは、その規模に目を輝かせた。目の前に聳え立つ校舎はエンジェランドでもなかなか見ない規模である。
その校舎に向かっていく様々な姿をした少年少女たち。彼らが今回の入試という場ではライバルとなるのだ。
それにしても、ピットのように羽が生えてるだけならむしろ没個性な方だ。
みな制服を着ているが、ピットの中学は私服学校なのか制服が無いらしい。しかしそれにしてもラフな服装じゃないかとピットは己のミスを察する。しかしシャツもジャケットも翼が阻むのだからしょうがない。
「パルテナ様、人がいっぱいです!」
《楽しそうですね、ピット》
「はい、なんだか新鮮で……ん?」
ふと、視界に黒い影がチラついた。
それはなんだか見覚えのある黒い羽根で……ピットは笑みだった表情を驚愕に変えた。
「ブラピ!? なんでここに!?」
「ブラピって言うな! ……お前こそ、なんでここにいるんだよ、ピット」
そこに居たのは、真実の魔鏡によって生み出された黒いピット。ブラックピットであった。
「パルテナ様がこの世界の神に面白そうって理由でボクを貸し出したんだ」
「そっちも似たようなものか……」
「ってことは、ブラピも?」
「ああ、ナチュレにな」
ブラックピットは、冥府軍との戦いの後自然王ナチュレが率いる自然軍の幹部となっていたはず。つまりナチュレが上司というわけだ。
そんな彼女もまた面白いことは好きだから、パルテナと同じく二つ返事で了承したのだろう。
「と言うことは、お前と学生生活を送ることになるかもしれないのか……」
「落ちろ」
「ちょ、受験前に縁起の悪いこと言うなよー!」
ブラックピットはピットと同じく翼が邪魔だったのか、タンクトップに上着とほぼ同じ服を着ている。側から見たら双子にしか見えない。
私服なのもあって、少し目立っているのだが、二人はお構いなしにやいのやいのと騒ぐのをやめない。
「ブラピはどういう設定でここに来たわけ?」
「……ギリシャ人と日本人のハーフ、個性は“天使”。孤児院育ちの一人暮らしで名前は……」
「名前は?」
ピットは自分の設定が全く同じなことにもツッコミたかったが、ブラックピットが言葉を詰まらせた名前をオウム返しに聞く。言いにくいほどキラキラネームなのだろうか。
「
「ブラピお前……本当にブラピになったのか」
「うるさい! ブラピって呼ぶな!」
「えーいーじゃん。黒羽ってなんか違和感あるし。あ、ボクは
「うるさい女神のフン」
「酷っ!」
久しぶりの辛辣オンパレードに、ピットは半泣きになりながらも「これがいつものブラピだよ」と思っていた。
パルテナが混沌の遣いによってピンチに陥った時は共闘したものの、普段のブラピはこれくらい塩だし辛辣なのだ。
しかしそれもまたブラピの性格だ。ナチュレはツンデレだがブラピも大概ツンデレだと思う。自然軍にはツンデレが多いのかもしれない。
《ピット、このままだと受験に遅刻してしまいますよ》
《ブラピも何をしておるのじゃ、はよう受付を済ませんか》
「あっ申し訳ありませんパルテナ様!」
「オレに指図するな。わかってる」
女神ふたりからの言葉を受け、ピットとブラックピットは受験受付を済ます。受験番号もぴったり隣同士で、もしやこれは女神達が裏で結託していたのでは、と考えざるを得ない。
ブラックピットは不満そうだが、ピットとしては知らない世界で知り合いがいるというのは少し心強かった。
「おー! 会場広ーい!」
《まずは筆記試験ですが……》
《我々の世界とこの世界の常識は違うからのう、ここは手助けしてやろうぞ》
「女神の助けなんて……」
《ほう? 合格できなくてもいいと?》
「ぐ……」
「まーまー、早く座りに行こうよブラピ!」
試験会場は広く、何百人もの受験者がきっちり収容できるようになっている。
ピットとブラックピットは連番なので隣同士の席だ。全く同じ顔の二人に他の受験生がギョッと視線を向けてくるが、二人とも気にせず着席する。
時間的にギリギリだったのか、着席して数分後に受験担当官と思われる大人が入ってきた。誰かが「セメントスだ……」と呟く。
「はーい、ではこれから筆記試験を始めます。机にある紙は開始の合図があるまで開けないでくださいねー」
口頭で注意事項を伝えられる。ピットはこういった形の試験は初めてで、うずうずと羽が動いていた。
横を見れば、落ち着いた様子のブラックピットが頬杖をついて説明を聞いている。そういえば彼は自然軍幹部。たしか幹部になるには試験が必要だ。似たような経験があるのかもしれない。
始まった筆記試験は、ピットにはトンチンカンなものばかりだった。
数学は知らない単位が出てくるし、国語や社会はそもそも世界線が違うのだから知らなくて当然だ。ピットにとってここは異世界なのだから。
パルテナのカンニングが無かったらマークシートに博打で書き込んでいたに違いない。
ブラックピットもナチュレの力に結局頼っているようだし、二人は順調にマークシートを埋めていった。
「うーん、終わったぁ〜」
「バカ、まだ筆記試験だけだぞ」
「わかってるよ」
数十分間シャーペンを動かし続け、ようやく筆記試験は終わった。伸びをするピットに、ブラックピットがため息を吐く。
《次はいよいよ実技試験です。わたしたちはサポートできませんから、頑張って》
《この世界でも神器は自由に使えるようじゃし、大丈夫じゃろ》
《油断は禁物ですよ》
実技試験。女神ふたりは内容を知っているらしい。
セメントスと呼ばれていた男が部屋を出て行き、入れ替わりに入ってきたのは何やらハイテンションな男だった。
「ボイスヒーロー、プレゼント・マイクだすごい……!」
そんな声が聞こえる。
「入試要項通り! リスナーにはこの後10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」
「模擬市街地演習……つまり街での戦いってことかぁ」
「指定の演習会場、お前とは別か……張り合いの無い」
「あ、連番なのに会場違うんだ」
《同じ学校同士で協力させないためでしょうか》
コソコソとそう話し合っていると、なにやらキビキビとした少年がプレゼント・マイクに質問をしている。
そして緑髪の少年が注意されていた。
ピットは厳しいなぁと思いつつ、入試要項を読み直す。
敵はポイントが獲得できるものが三体。0ポイントが一体。
ピットもブラックピットも神器を自由に使うことが可能だ。奇跡は使えないらしいが、まぁなんとかなるだろう。
飛翔の奇跡が使えたら便利なんだろうなとは思うが。
ピットもブラックピットも飛べない天使。この翼は現状飾りのようなものだ。
「それじゃあブラピ、負けるなよ!」
「そっちこそ、ヘマして落ちたら承知しないからな」
なんの武器を使おうかなと考えながら、ピットは自分の会場へ足を向けた。ここで一度ブラックピットとは別れることになる。
会場は広く、またほとんど本物の市街地と変わらずできていた。ピットにとってはここまで建物の高さがある市街地というのも新鮮なのだが、それを幾つも所有している雄英の凄さがわかる。
ピットはワクワクに羽をパタパタさせる。
「ハイ、スタートォ!!」
「え?」
《どうしたんですかピット、スタートですよ!》
「か、カウントダウンとかそういうのは無いんですね!?」
スタートの掛け声のみとは、不意を突かれた。
確かに実戦ではカウントダウンなんて存在しないか。とピットは即座に撃剣を構えた。今回はシンプルに「最初の撃剣」だ。
射撃も打撃も安定してできる撃剣は、さまざまな状況に対応できる。取り敢えずはこれで様子見といったところだ。
ピットは市街地の中に走り出す。
実技試験が、始まった。