リバースユース   作:四季弥

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サボり癖女子と世話焼き幼馴染

 

 暖かい日差しと心地良い風を肌に感じる昼下がりの屋上。私、月影楓華(つきかげふうか)は、日陰に寝転びながらこの穏やかさを享受していた。

 他に誰もいないこの空間は、私にとって正に安らぎの場所だった。

 

「あー、午後の授業も面倒臭いな。このままサボっちゃうか」

 

 既に四限の授業をサボってここにいた私は、午後の授業にも気だるさを感じて教室に戻ろうという気にはなれなかった。

 まあでも、結局は戻らなければいけないことになるだろう。いつも通り、あいつが来るだろうから。

 

「もー、やっぱりここにいた。授業はサボっちゃいけないものなんですよ」

 

 やんわりと私を叱責する聞き慣れた男の声。保育園以来からの付き合いである幼馴染の声は、もう絶対に聞き間違えることはない。

 

「分かってるとも。それでも授業というのは面倒臭いからサボりたくなるのだよ、風葉(かざは)くん」

「君づけキモイからやめてくれる?」

「辛辣!」

 

 ジト目で視線を送り、一つ重いため息を吐く目前の男子生徒は、羽月風葉(はづきかざは)。小中高と同じ学校に在籍し、極めつけにはクラスも全く一緒である幼馴染だ。かれこれ10年以上の付き合いがあるからこそ、私のサボり癖をも知り尽くした彼は、こうして私の所に注意しに来る。

 

「あ、そうだ…………はい、これ。小テストの答案」

「おお、ありがと。これぐらいなら机の中に突っ込んでおいてくれて良かったんだけど」

「先生が一応テストの点数もプライバシーだからって本人に渡しておいてくれるよう頼まれたんだよ」

「………風葉には思いっきり私の点数バレてるんだけど」

「そんなの知らないね。元はと言えば楓華が授業サボってるのが悪いし。というか、楓華の点数なんてどうせ悪いんだから興味もない」

「本当人の心にグサグサ刺さる言葉を容易く言うんだから」

 

 辛辣な言葉を並べる幼馴染に私は顔を引き攣らせるが、これも慣れたもので大したダメージはなかった。

 

「というか、あんまり授業サボってると留年するよ?楓華頭良くないんだし、ちゃんと考えてるの?」

「考えてる考えてる」

「………テスト前に泣きついて来ても助けてあげないから」

「嘘ですすみませんなんにも考えてないです!」

 

 私の心を読んだであろう返答に、思わず早口で平謝りをする。傍から見たらなんて情けない場面なんだと引かれているかもしれない。

実際、風葉の助けが無かったら赤点で留年コースだろうし、幼馴染の力が無ければ私は無力だった。

 

「はぁ………だったら授業来なよ。毎度毎度楓華の事を呼びに行く僕の身にもなって欲しいんだけど」

「それは………………」

 

 確かに、私は風葉には迷惑をかけてばかりだ。授業をサボっては呼びに来て、宿題は見せてもらい、テスト前には泣きついて教えて貰う。

 忘れ物をしたら風葉が持ってきてくれるし…………うん、我ながらとても情けないな。

 

「本当にすみません」

 

 今度は気持ちお辞儀の角度を深くした、本日二度目の平謝り。

 

「………分かってくれたらなら良いけど」

 

 私の言動に納得してくれたのか、風葉は呆れながらも柔らかい表情を露わにする。

 本当に幼馴染様々だ。やらなきゃな〜、と思っていても私の身体は気づいたらサボっている。もう病気だ。病院で診てもらった方が良いくらい。

 

 まあでも、流石にそろそろ私も変わらなくてはいけない。そう思ってしまうくらい、風葉には申し訳なさがあった。

 ………風葉はどうしてこんな私の世話を焼いてくれるのだろう。古くからの幼馴染だから?ただそれだけなのだろうか。

 

「ねえ………風葉はさ、どうしてこんな私の為にお世話を焼いてくれるの?」

 

私の言葉を聞いた風葉は、可笑しい様にくすりと笑う。

 

「そんなの幼馴染だからじゃん。それ以外に何かある?」

 

 彼のにこやかな表情は青空に上った太陽の下に照らされていた。

 

 

 

 

 

 

 僕には、幼馴染がいる。その幼馴染はとてもサボり症で、面倒くさがり屋。やると決めたら頑張るのに、動き出すまでが遅い何とも残念なタイプ。顔は悪くないし、運動もそこそこ出来るのだから、もっとやる気を出せばきっと彼女は優秀な人間の部類なはず。それなのに動こうとしないのは本当に勿体ない。

 

 そんな幼馴染こと、月影楓華のお世話を僕はたびたび焼いていた。

 楓華はあんな性格だし、目を離し続けては取り返しのつかないことになっているかもしれない。そんな楓華の両親の心配もあって、親同士のつながりがあった僕は楓華の面倒をいつの間にか任せられていた。

 

 朝起こしに行ったり、勉強を教えたり、授業をサボっては呼びに行ったりと、割と自分でも結構やっている方だと思う。

 別に楓華の世話を焼くことは苦ではなかった。それは楓華が恋愛的に好きだからとか、多分そんなんじゃない。

 

 正直、自分でも何でかは分からない。だから、僕は勝手に自分で結論付けた。

 

『そんなの幼馴染だからじゃん。それ以外に何かある?』

 

 きっと幼馴染だから。ずっと昔から一緒だから。そう、自分勝手に。

 

 

 

 

 

 

「風葉~、次の数学の課題見せてください!」

 

 時刻は昼休み。楓華に小テストの答案を渡し終わって教室に戻ると、友人の佐渡薫に突如泣きつかれるように乞われた。

 

「数学の課題?いつも桜田さんに教えてもらってなかったっけ?」

「あ、あー……………そうなんだけど、ちょっと事情があってね」

 

 少しバツが悪そうに視線を揺らし、薫は微妙な表情をする。

 いつも桜田さんに勉強を教えてもらってるところをよく見ていたが故に、自分のところに来たことに対して少々疑問を持つが、あまり理由を答えたくなさそうなので僕は特に何も言わず承諾した。

 

「別に良いけど。ちゃんと授業前には返してよ?」

「もっちろん!本当助かります!ありがと!」

 

 ノートを受け取るや否や、そそくさと薫は自分の席へと戻る。

 

 あの二人に一体何があったのだろうかと、僕は肘をついて一度思案する。薫と桜田さんのことは薫自身から聞いていた。

 美化委員で一緒になり、そこから仲良くなって勉強を教えてもらっていると。クラスは違うが、ほぼ毎日やっていると聞いていたからこそいきなりの変化に少し驚いた。

 

 喧嘩でもしたのか。二人の関係に何かあったのだろうか。それこそ、二人が付き合ったとか?

 ……………一人で色々考えても、結局答えは出ない。

 

「おーい、風葉。数学の宿題見せて」

 

 そんなところに、聞きなれた声が突如目の前から聞こえてくる。

 

「楓華か。というか何?授業出る気になったの?」

「まあ、そうね~。午後からは取り敢えず出るよ。でも課題やってるわけないので見せてほしいという訳さ」

「なんでそんな自信ありげに…………まあでも残念だったね。ちょうど薫にもうノート貸した」

「ええ…………じゃあ、それが終わった後にでも」

「もう時間あんまりないけど」

 

 残りの昼休みの時間は既に15分ほどしかない。薫に急かさせたとしても間に合わないだろう。

 

「うっ、時間そんな経ってたのか」

 

 楓華は苦虫を噛み潰したかのように表情を歪ませる。

 まったく仕方ない。そう一つため息を吐いて、僕は席を立った。

 

「ほら、教えてあげるから座りなよ。早くしないと間に合わないけど」

「良いの……………?」

「何をいまさら。今まで色々やってきてるんだから遠慮せず早く座りなよ」

 

 おずおずと聞いてくる楓華は、僕の返答を受けて席へと座る。何処か今日の楓華は変だ。何かやりづらい。

 少し違和感を感じながらも、僕は楓華の前に立って前屈みになる。

 

「問一は普通に計算。文章長いけどただの積分だから。次は……………」

 

 僕の言葉を聞いて楓華はペンを動かすが、少し書いては止まり、また書き出しては止まる。その際にちらちらとこちらの方に視線を上げるが、目は合わない。

 一体どこを見ているのかと楓華の視線を追ってみる。首より下…………ブレザーの隙間…………下着。

 

 瞬間、僕はハッとして胸元を押さえる。そして楓華の事を睨みつけた。

 

「どこ見てんの……………?」

 

 視線の先がバレたであろう楓華はわたわたと慌てていた。

 

「あ、いや、こ、これは……………」

 

 迂闊だった。第一ボタンを緩めていたことを完全に忘れていた。羞恥から体温が上がっていくのを感じる。

 

「えっと…………ごめん」

 

 申し訳なさそうに言葉にしながらも、顔を赤らめている楓華。

 こっちの方が恥ずかしいんだけど。心臓の鼓動が煩い。

 

「………いや、僕もごめん。と、取り敢えず続き言うから」

 

 僕は強引に元の方向に持っていき、軌道の修正を図った。

 

「んで、問三は問二で使った公式と同じで、これを当てはめると」

 

 つらつらと解説を述べ、楓華のペンが動く様子を確認して少し一呼吸を置く。さっきと打って変わってしっかりノートに視線を向けて取り組んでいた。

 時折唸りながら苦戦している様子を尻目に、僕はまだまだ鳴り響く心臓の音に少し戸惑っていた。

  

 羞恥心は幾分か消えたはずなのに、鼓動は速いまま。いつ止まるのかと疑問に思いながら楓華の顔を見た。

 綺麗な黒髪。長いまつげ。ぱっちりした瞳。白い肌。艶のある唇。

 

 あれ、僕————————————。

 

「風葉?どうしたの?」

 

 突如近づく楓華の顔。今度は更に速まる心臓の鼓動。ああ、これは駄目だ。

 勝手に決めつけてただけだから。他の理由を無理やり探していただけだから。

 

 君のお世話を焼くのは幼馴染だからって。そう、思っていたのに。

 

 

 

 

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