反射的に銃を構えたものの、この距離ではソードオフショットガンの有効射程とは言い難い。カレンは横倒しの軽トラから飛び降り、骸骨めがけて駆け出した。
ブーツがアスファルトを蹴り、筋肉で引き締まったすらりと長い脚が空を切る。
常人はおろかヘイローを持つキヴォトス人と比べてもはるかに速い速度で、カレンは骸骨との距離をあっという間に詰めていった。
再び放たれるロケット弾を難なくサイドステップで回避、矢継ぎ早に前へステップして着地と同時に腰だめで散弾を放った。
彼女の銃に装填されているショットシェルは、一般的なそれよりも長い三・五インチシェルな上、通常の実包より火薬もバックショット弾も多く詰めた
猛烈な衝撃力をまとった二発分の増量バックショット弾の群れが骸骨に降り注ぐ。
硬いか。カレンは内心で呟いた。
骸骨の左腕を粉みじんに砕くことには成功したが、鉛玉のほとんどは胴体のアーマーに命中。正面から突っ込んだ弾はかろうじてアーマーに沈み込みはしたものの、致命的なダメージは与えきれていないようだった。
左腕が無くなったことに怯みもせず、骸骨もカレンとの残りの距離を詰める。カレンは平静さを保ったまま、骸骨との身長差を実感した。二メートルは優に超えているだろうか。残る右腕で薙ぐようなフックがカレンに振り下ろされる。
膝を曲げて体を重力に任せ、カレンはさっとしゃがみこんでフックをかわす。同時に空薬莢を排莢し、撃った直後には取り出していた散弾を装填。骸骨の股の下を前転してくぐり抜けて背後を取る。
カレンは立ち上がると同時に振り返り、銃口を骸骨の後頭部に突きつけてトリガーを引いた。
頭の中にはどうやらまだ血肉が残っていたらしく、轟音と共に頭蓋骨は一瞬の赤い花となる。
その後それはすぐ血肉と骨の飛沫になり、骸骨た共に地面に伸びた。散弾の空薬莢がカランコロンと地面に落ちる音が続き、カレンは首無しの骸骨を見下ろしながらリロードを終える。
「……殺した、ってことでいいんだよな。なんなんだこいつ……」
カレンは骸骨のアーマーをブーツで小突いて呟く。カレンは生き物を銃で殺した経験はなかったが、相手が相手だったためか不思議と命を奪った感覚も嫌悪感も抱くことはなかった。むしろどこかせいせいした気すらあった。
ふと何かに気づき、カレンは遠くにそびえるミレニアムタワーの方を見据えた。
ゴタゴタで今までは気づけなかったが、遠くから断続的な銃声が聞こえる。ミレニアム内で戦闘が起きている。
スマホを取り出し、モモトークを開いて操作。何タップかして耳元に端末を持っていく。
『カレンか、無事かい? 今どこにいるんだい?』
普段はクールな声だが、発明が絡んだ時とは違う落ち着きのない声だった。電話の相手はエンジニア部の部長【白石ウタハ】。技術試験部がエンジニア部の発明したプロダクトのテスターを受け持つ事が多い他、カレンとは同学年ということもありそこそこ話す間柄だ。
「ステーションの近く。両肩にロケラン背負ったデカ骸骨にいきなり襲われたから返り討ちにしてやったトコだけど、今どうなってんだ?」
『どこからともなくそいつみたいな大量のモンスターが学校中に現れた。悪魔とでも表現できそうなヤツだらけな上、人を見るなり襲い掛かってくるものだから学校中大パニックだ。目撃談によればまるでワープしたみたいに現れたのもいるらしい。怪我人は大勢いるけど、今確認できる限りまだ死者は出てない。不幸中の幸いってところかな。一応大半の生徒はシェルターに避難して防衛線を張るところまではできた。けど奴らデカい割に素早いヤツが多いから、運動不足だらけのミレニアム生と相性が悪いし、拳銃弾は効果が薄くて対処できる人員が限られて防戦一方だ。
冷静かつ聞こえやすいよう心がけても、ウタハの言葉は少し駆け足気味になっていた。一通り話し終えるとカレンのスマホからはウタハの息を吸う音が続き、
『……とまぁこんなところだよ』
そしてそう締めくくった。
「遠征ついでにデジタルデトックスして帰ってきた矢先にモンスターパニックかよ冗談じゃねぇ……。あ、ウタハ。あの運搬ロボ、さっきそのモンスターにぶっ壊されちまった。ロケランで一撃、粉微塵のパーだ」
『【ドンキーくん】がやられたのか……作った一年の子たちに後で伝えておかないとね』
「すまん。あいつらは無事か?」
『ああ。タワーのシェルターに避難してる。私もそこだ。それに君が謝ることじゃないよ。全てはあのモンスター共が悪い』
「それはそうだな。ミレニアムでもう対抗策っつうか方針は決まってるのか?」
『確定事項としてはシャーレの増援が来るまで防衛線の維持を徹底、それとまだ検討段階の話が一つ』
カレンは相槌を打ってウタハの次の言葉を待つ。
『学園内のあちこちにヤツら側のものらしき
「わかった。一旦寮に戻って装備を整えてからそっちへ合流――いや、どこか人手が足りてない所があればそっちへ行こう。また後でかける」
『気を付けてね。寮
「ああ」
ウタハとの通話を切り、カレンは横倒しの軽トラを一瞥した。助手席に置いていた鞄に今使えそうなモノはないか記憶を確認。着替えや基礎的な生活用品と本ぐらいしか入れていない。回収は事が済んでからだなと思った後、カレンは寮区画の方面へと走り出した。