ブルータルアーカイブ   作:N1N3_81RD

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Episode 1:Level 3 "デイジー"

 カレンは左手に握っていた自室の鍵を落とした。彼女の体を風が通り抜けていく。一週間ぶりの自室だったが、最後に見た時と比べて随分と様変わりしていた。

 

 ガラス片や焦げ付いた布きれ、本や書類だった紙片、ラックに飾っていたフィギュア……だったどろどろに溶けたプラスチックの数々。カレンの部屋には床中に様々な物が散らばっていた。窓枠近くにはひしゃげたフレームが落ちており、ベランダには欄干だったであろう瓦礫が転がっている。

 

 もう靴を脱ぐことに意味がなくなったことを悟ったカレンは、初めて自分の部屋に土足で足を踏み入れた。部屋に入り、足元にあったそれを拾い上げる。

 

 友達から布教用と半ば押し付けられるようにもらった銅の長い猫のぬいぐるみ。たしか名前はウェーブキャットとか言ったっけと、カレンは首から下が焼け千切れた頭だけのぬいぐるみを見つめて思い出す。それ以来気が向けば関連グッズを買ったりもしていたが、この散らばった床のどこに落ちたのだろうか簡単には見つけられそうもない。

 

 友達に選んでもらったお気に入りのスカートやジャケットは、穴が開くか飛んできたであろうガラス片でズタズタになっていた。

 

 初めてのアルバイトの給料で買い、少しずつコードの押さえ方を練習していたエレキギターは真ん中からボッキリと折れ、ズタズタのソファのひじ掛けに弦が引っかかっていた。

 

 誕生日プレゼント兼日頃のテスト協力のお礼にと、エンジニア部からもらった自動掃除機能付きロボット犬【床ペロちゃん】は自身が内部に溜め込んでいた埃を胴体のフタから撒き散らして倒れていた。首はもげて部屋の隅に転がっていた。

 

 絶版の貴重な古本や廃盤になったCDも、無事で残っているものはほとんど少ないだろう。

 

 ここでの暮らしで少しずつ集めてきた、数々の想い出の証。それらの大半がかつての姿を失ってしまった。人が生きるためにはどれも必要のないもの。衣食住に含まれない余剰の物。だが人の生を彩る想い出や生きる理由を失うことは、時に命を失うことよりも悲しい事である。

 

 そして己が人生を彩る花を踏みにじられた時、人は怒らねばならない。

 

 ガラス片をさらに細かく砕きながら部屋を進み、カレンは床に落ちていたG36Kを拾い上げる。荒事に巻き込まれた際の射程の確保のためだけに買った、特に思い入れのないアサルトライフルにはこれといって損傷はなかった。そばに置いてあった弾薬ボックスや肩掛けのマグポーチ(バンダリア)も目立った損傷はない。戦闘に使うものだからそんなものだろうと、皮肉めいた状況への溜飲をわずかでも下げるためにカレンは自身を納得させた。

 

 バンダリアを肩にかけ、弾薬ボックスを開ける。バンダリアのポーチや腰の弾帯ベルトにそれぞれライフルのマガジンやショットシェルを黙々と差し込んでいく。

 

 G36Kのマガジンを抜き、チャージングハンドルを引いて薬室を確認。マガジンを戻してもう一度チャージングハンドルを引き、初弾を装填する。ライフルの負い紐(スリング)を肩にかけると、カレンは部屋を出た。見る影もない自室は振り返らなかった。

 

 寮の階段を下ってエントランスに差し掛かると、来た時はまだ無事だった自動ドアは破壊されており、加えて見たことのないモンスターがいた。ウタハの通話の後寮に来るまでにも、火球を投げてくるトロい奴や空飛ぶ燃える頭蓋骨を文字通り吹き飛ばしてきたが、エントランスにいたのはそのどれでもない。

 

 真っ赤な、いやピンク色一色の大きな巨体。前からでも背骨が見えるほどの極端な猫背の先には、見えている面積のうちの半分を占めようかと思しきほどの大きな顔と口。黄色く光る目は丁度現れたカレンを既に捉えている。手足は短いが太く筋肉質で、もし殴られればヘイローがあっても体重さで吹き飛ばされるだろう。

 

 獲物を見つけた肉色のモンスターは低く唸り、カレンめがけて突っ込んでいく。

 

 カレンは部屋に戻った時から石のように変わらぬ表情でストックを肩に当てて、すぐさま照準を合わせると引き金を絞った。

 

 ライフル弾が空気を突き破る炸裂音が続けざまに鳴り響き、モンスターの足を無理やりにでも止めさせた。フルオートで放たれた弾丸は馬鹿げたほど頑強なリコイルコントロールの元、誤差数センチほどの範囲内で全てモンスターの眉間に叩き込まれていた。

 

 涼しげな金属音を立てながら空薬莢たちがタイル床を跳ね回る。威嚇するような隙も苦痛にうめく間も与えられぬまま、モンスターの眉間には赤黒い穴が掘られていった。

 

 三十発の鉛玉が仕事を終えると、カレンは反射的に中指でマガジンリリースレバーを押して空弾倉を落とす。プラスチックの箱がタイル床に落ちる音に続き、声すらあげなくなったモンスターは地面に崩れ落ちた。カレンは表情一つ変えず、広がっていくモンスターの血だまりを眺めながらリロードを続ける。引いたチャージングハンドルが離され、バシャリと音を立てて定位置に戻った。

 

 カレンはスマートフォンを取り出し、モモトークを起動。通話相手を表示。一度大きく息を吸ってしばらく止めた後、ゆっくり息を吐いてから、画面をタップしてスマートフォンを耳に当てた。

 

「ウタハ、装備は拾ってきたけど合流はしない。あのモンスター共片っ端からぶっ殺して回るから。じゃ」

 

『え、ちょっと待――』

 

 気を落ち着けたつもりだったが、カレン自身が想定していたよりも声のトーンは低かった。一方的に要点だけを伝えた後、返事も聞かずにカレンは通話を切った。

 

 手始めに学園中の様子を確認したいと思ったカレンは、学園内の監視カメラの映像を一挙に確認できる総合監視室へ向かうことを決めた。

 

 奴ら(デーモン)をミレニアムから一匹残らず皆殺しにするために。




スレイヤーとして必要なものを手に入れました。ピンキーは2016年版ではなく初代やII仕様となります。ちなみにG36Kは映画版のDOOMでプロップガンの元として使われてた銃です。
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