智慧の魔女の放浪譚〜活字らぶな黒髪少女は異世界でのんびり旅をする。精霊黒猫を添えて〜   作:嘉神かろ

65 / 66
九の浪 龍人族の里⑨

 ともかく一息つきましょう。

 クリムゾンドラゴンの胴体を背にして腰を下ろす。

 

「はい、お茶よ。多少魔力の回復も早まるから」

「ありがとう。助かるよ」

 

 身体強化が主とはいえ、これだけ長時間探索してたらそれなりに消耗するでしょうし。この環境だから、物理的な強化はしやすいはずだけれど、そもそもの魔力量の問題もある。

 

 まあ、彼女はまだ二十代前半らしいから、それにしては多い方だと思うけれど。

 

「そういえば、武神様っていうのはどういう方って伝わっているの? ドラグニエ教が崇める龍神とは別?」

「ああ、うん。あらゆる武を極めたって言われてる方でね、大昔に実在した龍人族なんだって」

 

 へぇ。『智慧の館』で閲覧できる情報通りね。ドラグニエ教関連の記述では見たことがなかったから、伝承の途絶えているものだとばかり思っていた。

 

「あと、女神様たちと関係があるらしい――あ、これは内緒ね! 過激な人たちが聞いたら大変なことになっちゃう」

「そうね。ここだけの話にしておくわ」

 

 一部の人たちはやたらと女神を敵視しているから。たぶん最高神扱いされてるのが気に入らないのでしょうけれど。

 どういうわけかこの里の人たちはそうでもないみたいだけれど、気を付けるに越したことはない。

 

 しかし、三女神とも関係があったのね。私では閲覧できない情報だから、きっと色々な思惑の絡んだ結果なのね。

 

「小さい頃からお祖父ちゃんに武神様の話を聞いて育ったからさ、いつかそんな風になれたらって思うようになったんだ」

「ああ、刀一本で海や世界を断ったとかっていう。本当かな?」

「本当なんじゃないかしら。三女神に関係のある人物だっていうのなら」

 

 私たちの知っているのは三女神の力の一端に過ぎないけれど、それでもできてしまいそうだと思わせるものなのだし。

 アマネさんにとっては妙な会話かもしれない。実際に不思議そうな顔もしている。何か納得したように頷いたのは、私たちの信心がかなり深いものとでも思ったのかしら。訂正する理由もないし、別にいいのだけれど。

 

 それよりも、夢を語る彼女が可愛らしくて、つい頭を撫でてしまう。

 

「う、なに、子供っぽかった?」

「そうね、幼いというわけではないけれど、私たちからすればあなたの歳はまだまだ子供ね」

「そうかもしれないけど、ちょっと恥ずかしいかも……」

 

 うん、可愛い。赤面する少女だなんて、可愛くないはずがない。

 え、アスト、あなたも撫でてほしいの? 仕方ないわね。

 

「あ、そうだ、二人の話も聞かせて! どうして旧世界の遺物だなんてものを探してるの?」

 

 あー、まあ、そうよね。気になるわよね。

 アストにちらりと視線を向ける。できればまだ、彼には知られたくない。

 

「学術的な興味が大きいわね。旧世界なんて学者以外が知ってることじたい珍しい話だし」

 

 嘘ではない。アストの寿命を延ばすための学術的な興味だ。

 

「なるほどね。じゃあ何が何でも見つけたいってわけじゃなかったんだ」

「今回はあなたの夢を応援したいって理由が強いのは否定しないわ」

 

 まったく、嘘を吐かずに騙すようなことばかり上手くなって。大人のずるいところね。

 アストは、そういうのは苦手だろうけれども。ぜひそのままでいてほしい。

 

「そっか。……ありがと。じゃあ、なおさら頑張らないと」

「でも無理しちゃだめだよ。いくら僕らがいるからって、間に合わないこともあるんだから」

「……そうね」

 

 ウルのときとは状況が違うけれど、似たような結果になってもおかしくない。ましてや、高難易度のダンジョンにいるのだから。

 しんみりしそうになるのを必死に隠し、アマネさんに視線を向ける。彼女はそうだよね、とだけ返したきり何か気にした風でもなく、お茶に口をつけた。良かった、特に違和感は感じられていないみたい。

 

「まあ、挑戦は悪いことではないわ。よほどの無謀でなければどうにかしてあげるから、思う存分、試行錯誤して」

 

 そうすればきっと、見極める目は養えるから。この若さでAランククラスになった彼女だもの。

 

「うん、ありがとう、ソフィエンティアさん」

 

 少し硬さの抜けた笑みに私も同じものを返す。それから話題を他愛のないものに移し、しばらくの間、雑談に興じた。

 

 一向に冷めないお茶を飲み干して、話題もそろそろ一巡しようかという頃。よしっとアマネさんが立ち上がった。

 

「あら、もういいの?」

「うん、もうほぼ万全!」

「なら行きましょうか」

 

 コップを片付けたら、残り一階層と少し。あまり遅くなっては長老さんの寿命が縮まってしまいそうだし、このまま一気に攻略してしまいたい。

 

 おっと、その前に。

 

 魔導でクリムゾンドラゴンの爪を切り落とし、妖精の悪戯鞄にしまっておく。さっき使った分の補充だ。

 鱗なんかも本当は持って帰りたいところだけれど、残念ながらこの鞄の容量は無限ではない。

 

「あ、今のってドラグニエ教的には不快でなかったかしら?」

「私たちは大丈夫」

「そ。なら良かったわ」

 

 どんなに良い人でも信仰が絡むと難しい。彼女が色々と厳しいタイプでないのは、冒険者をしてる身としてはありがたいところね。

 

「二人とも何してるの。早く行こうよ!」

 

 アストったら、急いちゃって。アマネさんと視線を交わし、肩をすくめる。彼女も苦笑い。硬さは、戻ってきてはいないみたいね。

 上々上々。あとはどれだけ格上との戦闘勘掴めるか。年長者として、出来うる限りのことをしましょう。

 

 四階層に辿り着いたのは、クリムゾンドラゴンと戦った場所を出発してすぐのことだった。人型も含めてSランククラスが一気に増えたけれど、今のところ問題はない。

 やっぱり大きいのはアマネさんの緊張が解けたこと。実力を遺憾なく発揮した彼女は、同格相手なら多少の手助けだけで怪我なく勝てるくらいに強い。まだまだ見極めの甘いところはあるとはいえ、次のステージに手をかけたと言っても過言じゃないんじゃないかしら。

 

 そうして進むことしばらく。とうとうダンジョンの終わりが視界には入った。

 バランシエの大迷宮ほど広くないとはいえ、思っていた以上に早い。アストのおかげだ。

 

「聞いていたとおりなら、この先にボスがいるはずね」

 

 階段の先を見下ろせば、例によって重厚そうな扉が見える。ここまでの傾向通りなら、古代竜(エンシェントドラゴン)あたりが待ち構えていると考えるのが自然なのだけれど……。

 

 アマネさんは、さすがに緊張しているのか、若干呼吸が浅い。でも、このダンジョンの入る直前よりは落ち着いている。

 この様子なら大丈夫でしょう。

 

「行きましょう」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。