(書籍発売中!)逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜   作:うちっち

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番外編 実況&感想スレpart4+エピローグ

【逃げる魔法使い】番外編 実況&感想スレpart4【結婚式⁉】

 

 

3:風の名無しさん

 えー、結婚式だそうです

 以下、誰が結婚するかのスレ内オッズ

 

 ここは負けられない1番人気 カヤ 2.8

 勝ちは十分狙える2番人気 回答拒否 4.8

 この順位は少し不服か3番人気 フィリナ 78.4

 

 意外に離されましたね

 どうですか解説の長命種ニキさん

 

11:長命種ニキ

 えっ俺……?

 いや、まあ、そうなるだろうなと

 カヤが一番人気なのが少し意外ですね

 おそらく前話の名前関連のエピソードでファンを獲得したものと思われます

 

16:風の名無しさん

 副官のフィリナも名前関連のエピソードがあった気がするのですが、そのあたりいかがでしょうか?

 

18:長命種ニキ

 何事にもプラスとマイナスがあるということでしょうね

 

21:風の名無しさん

 心臓に悪いから“結婚”と“魔法使いちゃん”を同じ文に入れるのやめて

 

26:風の名無しさん

 魔法使いちゃん、猫の影絵作ってる

 かわいい

 

35:風の名無しさん

 指の形が複雑すぎて怖い

 そりゃ騎士の息子も二度見するわ

 

42:風の名無しさん

 騎士の息子ちょっと勇者に似てるね

 

 

 

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 ・

 

 ・

 

 

 

58:風の名無しさん

 魔法使いちゃん

 やっぱ昔から魔力ないんだwww

 

66:風の名無しさん

 騎士の息子もいい奴じゃん

 「成功した時に拍手する人間がいた方がいいと思って」だって

 

70:風の名無しさん

 枝が動くわけないのでお世辞かな?

 だって魔法使いちゃん魔力0だもんね

 ……チッ

 

73:風の名無しさん

 俺はいいと思うな

 なんかほのぼのしててさ

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

98:風の名無しさん

 決闘wwww

 

100:風の名無しさん

 フィリナが困惑してるの珍しい

 

101:風の名無しさん

 冒険団の仲間の悪い笑顔が光りますねえ

 

106:風の名無しさん

 副官相手に戦って勝てるわけないだろ!

 いい加減にしろ!

 あ、丸投げした

 

115:風の名無しさん

 これは戦うのを逃げたフィリナの負けなのでは?

 

123:風の名無しさん

 騎士の息子容赦なくしごかれててワロタ

 

131:風の名無しさん

 町の若い子を訓練と称し寄ってたかってボコボコにする冒険団がいるらしい

 

140:風の名無しさん

 あ、でも意外にガッツあるじゃん

 

144:風の名無しさん

 俺この子応援したい

 魔法使いちゃんと手をつなぐぐらいなら許してやってもいいぞ

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

174:風の名無しさん

 「パンの耳、すき」

 おれこの言い方、すき

 

182:風の名無しさん

 かわいい

 

190:風の名無しさん

 何回でもリピートできる

 

199:長命種ニキ

 ……カリカリ派?

 

207:風の名無しさん

 炙るといっそう固くなるような気もするが

 

215:風の名無しさん

 「かりかり派には、かりかり派の……生存戦略が、あるの」意味わからんけどかわいい

 

233:風の名無しさん

 叙情的だね

 今も昔も焚火の色は変わらない

 

231:風の名無しさん

 こんな平和な時間がずっと続くといいよな

 ……理術省? 知らない人たちですね……

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

255:風の名無しさん

 さあ、冒険団にボコられた成果を見せるときが来たぞ!

 

263:風の名無しさん

 そういや杖は?

 魔法使いちゃん、この頃は杖って持ってないの……?

 あれがあれば一発じゃん

 

271:風の名無しさん

 は?

 ない方がいいに決まってんだろうが

 

275:風の名無しさん

 「君をずっと守りたいんだ」

 そうだ言ったれ!

 

279:風の名無しさん

 魔法使いちゃん1人になってたところを見ると

 ずっと守れませんでしたね……

 

287:風の名無しさん

 まあ気持ちの問題だろ

 ……は?

 

295:風の名無しさん

 ファッ⁉ 結婚⁉

 

303:風の名無しさん

 は?

 

304:風の名無しさん

 は?

 

305:風の名無しさん

 はぁ?

 

311:風の名無しさん

 長命種ニキ 説明してください

 私は今、冷静さを欠こうとしています

 

327:長命種ニキ

 ま、まあ、まだ言われただけですし

 ミアが頷くかどうかはまだわからないですし

 

335:風の名無しさん

 魔法使いちゃん、こくりと頷く(頬を染めながら)

 

340:風の名無しさん

 ヴァッ(首が折れる音)

 

343:風の名無しさん

 あの、NTRは範囲外なんですが……

 

351:風の名無しさん

 寝てから言え

 

359:風の名無しさん

 【悲報】魔法使いちゃん、人妻だった

 

367:風の名無しさん

 長命種ニキをここに連れてこい!

 

375:長命種ニキ

 いえ、さっきからいますけど……すみません……

 

383:風の名無しさん

 長命種ニキが大丈夫って言ったから信じてたのに……

 酷い……こんなのあんまりだよ……

 

388:風の名無しさん

 騎士の息子「結婚してほしい」

 魔法使いちゃん「よろしくお願いしますっ」

 俺「ああ、よろしくな」

 

389:風の名無しさん

 ってなんで俺くんが⁉

 

391:長命種ニキ

 いえ、それよりちょっと聞いてください

 これひょっとしたら……

 

399:風の名無しさん

 うるせえ!

 今それどころじゃねえ!

 

422:風の名無しさん

 壁にでも話してろ!

 

415:長命種ニキ

 はい……

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

455:風の名無しさん

 ???

 

463:風の名無しさん

 ……このおばあちゃんがミア……?

 えっ? 魔法使いちゃんここにいるけど?

 

471:風の名無しさん

 違う話だったってこと?

 単に過去によく似た人がいた、みたいな

 

479:風の名無しさん

 まさか別人であったとは読み切れなかった

 このリハクの目をもってしても……!

 

487:風の名無しさん

 安心した

 色気のある人妻な魔法使いちゃんはいなかったんだ

 

495:風の名無しさん

 なにそれくわしく

 

503:風の名無しさん

 ともかくよかった

 長命種じゃないなら狙われてないってことだし

 ……あれ? まだ続くの……?

 なんか嫌な予感が……

 

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

 

 

535:風の名無しさん

 【悲報】魔法使いちゃん、やっぱり長命種だった

 

543:風の名無しさん

 全然口調とか違ったじゃん!

 ていうかなんか……長かったじゃん!

 どういうこと⁉

 

551:風の名無しさん

 フィリナの時、見た目全然違ったよな

 

559:風の名無しさん

 杖もバキバキ鳴って変形してたし、持ち主の見た目も変わるのかもしれん

 

567:風の名無しさん

 性格とかも違ったし……

 ポンコツ副官のロールをしてたってこと?

 

575:風の名無しさん

 それで、今回は天真爛漫な少女のロール……?

 全部が作り物?

 

583:風の名無しさん

 本当の魔法使いちゃんってなんだったんだろう

 

591:風の名無しさん

 みんな演技だったの……?

 

567:風の名無しさん

 待って嘘でしょ

 そんな……

 えっえっ

 ということは

 

575:風の名無しさん

 思わず吐いちゃった

 

583:風の名無しさん

 いや気持ちは分かるが

 なんでそんなショック受けてるんだwww

 

591:風の名無しさん

 だって、60年前の話って言うから

 フィリナの時点で20歳だったとして、魔王を倒す旅に出る前、既に魔法使いちゃんは80歳だったってことだよね?

 

631:風の名無しさん

 それが?

 

639:風の名無しさん

 じゃあ、82年使っちゃったら、もうほとんど残ってないじゃん

 寿命が人の2倍なんでしょ?

 

647:風の名無しさん

 吐いた

 

655:風の名無しさん

 わァ...ぁ...

 

665:風の名無しさん

 また問題が最初に戻った……!

 

669:風の名無しさん

 そういえばまた赤色使ってなかったか……⁉

 寿命が2倍しかないくせに10年をそんなに簡単に捨てるな

 

674:風の名無しさん

 そんな……死んじゃやだ……

 せっかく4人で集まれたのに……

 

676:風の名無しさん

 魔法使いちゃんの性格がロールだったのもショックなんですけど!

 

679:長命種ニキ

 たぶんだけどこれ、魔法使いちゃんの寿命って

 

682:風の名無しさん

 あああああ!

 もうどいつもこいつもうるせえええええええ!

 いったん黙れや!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

(エピローグ)

 

 

 

 

 話を終えたミアが、皆から質問攻めにされているのを横目に……。

 

 私は「先に部屋に戻るね」と言い残して、こっそり寝室へと引き上げた。

 

 

 

 

 そして――ぽふっ、と音を立ててベッドにダイブした瞬間、「あああああああ!」と小さく叫びながら、布団の上でごろごろ転がった。

 

 まさか、まさか、私の黒歴史があんな形で目の前に現れるとは……!

 

 そう、“黒歴史”とは――もちろん、あの頃の「クールな副官」時代のことである。

 

 当時の私は、「クール」というものを根本から勘違いしていた。今にして思えば、あれではただの「常に不機嫌そうな無口な人」だった。

 

 どうりで、団長以外の冒険団の皆が、なかなか話しかけてこなかったわけである。

 

 

 

 ……しかし、しかしだ!

 

 今の私は、あの頃とは違う。剣士を見たとき、私は確かに聞いた。自分の中で、「目から鱗が何枚もボロボロと落ちていく音」を――。

 

 ……これだ……! 

 

 次にまた“クールな副官”を演じる機会があるのなら、今度こそ私は完璧にやってのけるだろう。そう確信しながら、試しにベッドの脇で立ち上がり、腕を組んで壁にもたれてみる。

 

 ……こうかな? む、バランスが意外に難しい……。

 

 そのまま、ずるずると壁沿いに床までずり落ちてみたり。おお、これはこれで意外に楽しい――と思って何度か繰り返しているうちに、眠くなってきたところまでは覚えているのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 ……気づけば、朝になっていた。

 

 いつの間にかベッドに戻されており、私の隣では王女がスースーと寝息を立てている。きっと、彼女が運んでくれたのだろう。

 

 私はしばらく、その寝顔をぼんやりと眺めた。

 

 それから、そっと布団を抜け出して部屋を出る。

 

 

 

 

 外は、早朝の澄んだ空気に包まれていた。まだ太陽は地平線のすぐ上にあって、空は淡い青と金色がゆっくり混ざり始めている。風が、草の上をすべるように通り過ぎていく。ほんの少し冷たくて、でも気持ちいい。遠くで小鳥がひと声鳴き、どこかで戸を開ける音がした。振り向いてみると、ミアだった。

 

「あら、早起きね」

 

 と言ってくすりと笑うミア。むしろ一緒にいた頃は私がミアを起こしていたし、「あなたのよだれで私のお気に入りのマントはびしょびしょになったのですよ」と言いたいところだが、何も言わないことにした。誰のものであろうと、黒歴史は埋めておくに限る。

 

「ミアさんも早いね」

 

 昔に比べたらね、という台詞を後ろに埋め込んだ台詞を返しておく。まるで貴族みたいなやり取りであった。

 

 

 

 ミアは、庭に設置された古びた石窯を覗き込んでいる。きっと今の彼女は、硬い端っこだけでできたようなパンを、あれで思うがままに量産しているのだろう。かりかり派の彼女と、もちもち派の私の間には、今も昔も、海よりも深い溝がある。

 

 そういえば、昔話の中でも、「かりかり派にはかりかり派の生存戦略があるの」みたいな謎な台詞の部分は巧妙に誤魔化して話していた気がする。ミアにとってもあれは黒歴史だったのだろう。私のクールな副官時代はあんなにバラしたのに。こいつめ。

 

「そういえばミアさん、随分と質問されてたけど、何を聞かれたの?」

 

「長命種は自分の寿命が分かるのかと尋ねられました。……いちおう、漠然とならわかる、とそうお伝えしましたが……」

 

 へえ本当にそうなんだ、初めて知った。ミアって物知り。嘘から出た真、ってやつだね。

 

 

 

 ミアは、寂しそうに笑みをこぼした。

 

「彼らがフィリナを見つけたら教えてくれる、とも言われましたが……見つかる気が、しなくて。団長さんも同じ意見でした」

 

「団長さん?」

 

「ええ。この町の奥、丘の上の屋敷にいらっしゃるんですよ。……もうすぐ、100歳になるそうです。さすがにもうずっと臥せってらっしゃいますが……人が年を取るのは早いですね」

 

 団長もこの町にいるらしい。あとでお見舞いに行こうかな。

 

「確かに、人間だと100歳は長生きだね」

 

「このまま、あの人みたいに、フィリナも、私より先に旅立ってしまうと思うと……ふふ、笑ってしまいますよね。もう、ずっと昔のことなのに……未だに、こんなものを持っているんですから」

 

 懐から取り出した髪飾りを、どこか遠い目で見るミア。あれはきっと、私が渡したかんざしのお礼に何かくれると言っていたお礼の品だろう。

 

「それを、フィリナが受け取ればいいの?」

 

 そう言って手を差し出すと、ミアはきょとんとした顔で私を見返し、髪飾りを掲げて頭の上に持っていった。ぴょんぴょん飛んでみたけど、やっぱり届かない。

 

「……ええ。だから、あなたにあげるわけにはいきません。私の一番の心残りなんですから」

 

 ……うーん、困った。いきなりバキバキと姿を変えたら、私がフィリナだということは伝わるだろうが……。びっくりされるだろうし、色々と説明することが多すぎる。その中には、ミアが平和に生きていくためには知らない方がいいこともたくさん含まれている気がした。

 

 しかし、このままだと、あの髪飾りは出番のないままになってしまうな……。

 

 

 

「フィリナに会ったら渡すから、私にそれを預けてくれる?」

 

「駄目ですよ。こんな老婆のなりでも、きっとあなたより長く、私は生きるから」

 

 ……そうらしい。寿命を使い果たしたとか言ってたのに。まあ、使い果たした後の残り時間も、普通の人間より長いのだろう。

 

 私は、そっとミアを見上げた。

 

「大丈夫。私の方が、絶対にミアより長く生きるよ」

 

「……」

 

 ミアは、しばらく逡巡したあと、なんと私に髪飾りを渡してくれた。言ってみるものである。困惑したように呟くミア。

 

「どうしてでしょう。あなたが言うことに、逆らえませんでした。本当に、どうして……」

 

「フィリナに渡したと思って、安心して過ごすといい」

 

 私がクールに笑うと、ミアは困ったように笑った。少し、泣いていたかもしれない。それがなぜなのか、私には分からなかった。だが、彼女のその表情は……重い何かを、肩から下ろした人の顔だった。

 

「そうですね。……では、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 ミアは気を取り直すように、窯を覗き込んだ。

 

「さあ、そろそろパンが焼けたでしょうか。自信作なんですよ。パンの耳って、炙るとかりかりの部分が一層美味しくなって。まあ、皆はもちもちのパンが好きなようですけれど」

 

「かりかり派には、かりかり派の生存戦略があるんだもんね」

 

「………………」

 

 ミアは、何かを考え込んだように黙り込んだ。具体的に言うと、3分程。目の前で話していた人間が急に3分黙り込むと、どうなるか。私は、大きな恐怖に襲われた。

 

 私は知っている、この沈黙は、何かが起こる前兆である。以前に海に浮かんだ流木で遊んでいたら大きな背びれが近くの水面にせり上がってきた時と同じ何かを感じる。

 

「どうしたの?」

 

「あなた………………まさか……」

 

「星が出てる。私は見たら奇声をあげて走り回るくらいに星が好き。だからもう行くね」

 

 ミアが何か言おうとしていたが、口を開く前に私はクールにその場を去った。逃げたともいう。なぜ気づかれかけたのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前な……それは、聞いてやれよ。ミアがかわいそうだろうが」

 

「一番の心残りが髪飾りって言ってた。それは受け取ったから。これでみんな幸せ」

 

 団長のお見舞いに来た私は、さっそく怒られていた。先ほどのやりとりを話したらである。団長はあごひげを撫でながら、しわくちゃの顔でため息をついた。ベッドに横たわるその姿は、すっかりおじいちゃんになっていたけれど、笑い方は昔と変わらなかった。

 

 言わない理由についても伝えた。長命種だとか面倒な部分も言わないといけなさそうだし。それって良くないと思う。ミアはおばあちゃんだから自分で身を守れないだろうし。

 

「俺はなんでいいんだ」

 

「団長は私が言わなくても、自力で辿り着いたから。それにもうすぐ死にそうだし」

 

「お前、お見舞いって言ってなかった? 実はけなしに来たの? 自力で辿り着きそうなミアから逃げてきたくせに」

 

 ……ふむ。その答えを、少し考え込んだ後、私は弾き出した。つまり、「辿り着く」っていうのは、私を捕まえるところまでだ。さっきのミアは、私を捕捉できなかった。だから惜しかったけど、失敗。

 

 団長は、呆れたように大きく口を開けて、ワハハと笑う。その笑い方だけは、昔とそっくりだった。そしてそこには、幾分かの諦めが混じっていた。

 

「じゃあ何か? お前さんとちゃんと話すためには、まず捕まえないといけないわけだ。なかなか難問だな。……そうだ、とっておきのパンがある。焼いてやるからちょっと待ってろ」

 

「前と同じ手に引っかかる私じゃない。私も日々、進化してるから」

 

 じゃあね、と言って私は団長の元を後にした。きっともう、彼が生きている間に会うことはないだろうから。だから、彼との会話を少しでも覚えておこうと思った。……パンは、ちょっと気になったけれど。

 

 

 

 

 

 なんだか嫌な予感がして、門でなく屋敷の塀を飛び越えて外に出ると(もちろん魔法を使った)、門からミアがとんでもないスピードで中に飛び込んで行くのが見えた。団長がどこかにメッセージを送っているのは何となくわかっていたが……こわっ。おばあちゃんになった自分があんなスピードで走り回るのを想像し、私は少し身震いした。

 

 

 

 

 

 町でも高台にあるここからは、山の麓までの景色が見下ろせる。綺麗だった。山肌の遥か下、遠くの方に、ぽつんと町が小さく見える。それをぼんやりと眺めていると、姿を見たからか、さっきのミアの話が脳裏をよぎった。

 

 

 

 ……そうだ。そういえば、寿命が分かるとか言ってたっけ。……私ってどれくらい、生きるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 私は、試しにそっと目を閉じて――自分の内側へと、意識を沈めていった。

 

 

 

 

 そこには、時間の流れがあった。

 

 幾重にも折り重なった日々の感触。風の匂い、雨の音、名前ももう思い出せない人たちの笑い声。

 叫ぶようにこちらに何かを訴えていた友人の女の子。何か言いたげに口を開いていた男の人。袖に触れてきた手。そっと視線を向けてきた横顔。

 

 禍々しく曲がった杖を渡しながら、そっと頭を撫でてきたおじさんがいた。

 

 金属細工を手に握らせて、何も言わずに背中を向けた英雄もいた。

 

 静かで、果てのない記憶の堆積が、私の中に、まるで山道のように続いていた。

 

 

 

 

 ……今まで、生きてきた時間。

 

 私が歩いてきたのは、山の上にぽつんと立つこの場所から、ちょうど下に見える町までの道のりくらい。遠くにある小さな屋根の並びと、朝の日差しを受けて光る小さな川の流れのように、記憶たちはいずれもきらきらとまたたいている。

 

 

 

 それが、五千年。

 

 じゃあ、あとどれくらい残っているんだろう。

 

 私は、試しに、さっきと逆、自分の進む方向に視線を向けてみた。

 

 

 

 

 

 

 すると、そちらには――。

 

 

 

 

 吸い込まれるような青空が、どこまでも続いていた。

 

 

 

 

 

 雲を貫き、淡い青が濃く変わり、遥か上空で白くきらめく鳥の羽音すら、かすんで消える。

 終わりなど、どこにも見えなかった。

 どこまで行っても、まだ“始まってもいない”とでも言うような、そんな感覚。

 

 

 

 

 

 私は、静かに息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 ――ああ、そうか。

 

 わたし、たぶん、まだほんの少ししか、生きてないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探したぞー」

 

 考え込んでいると、いつの間にか、勇者が隣に立っていた。私と同じく、下の町を見下ろして、目を細めた。きっと、私が何を見ていたかは、彼には理解できないだろうけれど。

 

「そういやさ、お前にちょっと聞きたいんだけど」

 

「なになに?」

 

「お前、槍なんて使えたっけ? 何あれ? ポーズ?」

 

 私はそっと目を逸らした。

 

「……使ってないもん」

 

「格好いいと思っちゃったの?」

 

「背の高い人に似合うのって槍だと思う。私には関係ないけど」

 

「はいはい。……なあ」

 

 

 

 

 意味深に言葉を止めた勇者の方を、思わず振り返る。勇者は、言葉だけでなく、足まで止めて、少し後ろから、私を見つめていた。

 

「……なに?」

 

「逃がさないからな。ずっと」

 

 

 

 

 そう言った勇者の目は真っすぐで……。どこまでも、それこそ空の向こうまで突き抜けていくようだった。

 

 

 

 「逃がさないからな」「ずっと」って言われた。

 

 こんな近くで面と向かって、そんなふうに言われたのは、初めてだったかもしれない。

 

 

 

 だから私は、ほんの少しだけ足を止めた。

 

 

 

 

 

 そんなふうに言ってくれるなら、ほんの少しだけ――届きそうな気がした。

 

 その先に……もうあなたがいないとしたって。

 

 

 

 

 

 なぜなら、それは、誰もできなかったことだから。

 

 

 

 

 

 

 ――そして、再び歩き出そうとした、そのとき。

 

 背中に、もう一度、声が届いた。

 

「……お前も、神託で聞いただろ?」

 

「え?」

 

「“人にできないことをするのが、勇者”ってやつ。俺、勇者だからさ」

 

 

 

 彼の声は、風に紛れるように低く、けれど確かに届いていた。

 

 

 

 私は、笑わずにはいられなかった。今の言葉は、なかなか面白かったから。

 

「ふふっ……じゃあ、がんばって?」

 

 背中を向けたまま、私は手を振った。

 

 ひとつ、ふたつ。

 

 

 

 

 

 

 ならば、さっきの言葉を、ちょっぴり訂正しよう。

 

 たとえ、もう誰もいないその先だとしても――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの、少しだけ。

 

 ……歩く速さをゆるめてあげてもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   (おわり)

 

 




ということで、完結です!(3度目)


みなさま、ありがとうございました! お気に入り、評価、感想くださった方(全然返せてなくてすみません)、ここすきしてくれた方々、この作品を読んでいただいた方々、どうもありがとうございました!



えー、異論があると思いますが、これはラブストーリーです。たぶん……そうだといいな……。
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