(書籍発売中!)逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜   作:うちっち

25 / 55
おまけアニメ回(上)

 

 ミアと団長がいたあの村から帰ってきて以降、皆の様子がおかしい。

 

 今は全員で、海沿いにある王女様の別荘にいるのだけど、最初のうちは普通だった。

 

 なんでか知らないけれど、勇者がやたらにからかわれたり。王女様が「私と王国の別荘よ! 感謝しなさい!」って胸を張ったり。

 

 

 

 

 しかし、しばらくして私を除く皆は、深刻な顔をして顔を突き合わせるようになった。ミアの固いパンでお腹を壊したのかと思ってそれとなく聞いてみたが、そういうわけではないらしい。

 こんな雰囲気だと、「外でボール遊びしましょうよ〜!」とは言いづらい。私も空気くらい読めるのだ。

 

 ふむ。こういう場合は、はっきり聞いてしまうに限る。とすると、誰に聞くか。勇者に聞くとはぐらかされそうだ。王女様か剣士か……。この前は王女様だったから、次は剣士に聞いてみよう。

 

 

 

 さっそく廊下で姿を見かけたので、とてとてと駆け寄ってみた。

 

「剣士さん! みんなはどうしてそんなに元気がないんですか?」

「それは……。お前が……」

 

 剣士は途中で口をつぐみ、こめかみを抑えた。頭痛かな? お大事にね。

 

「お前の名前、フィリナなのか」

「あ、それは団長さんが付けてくれた仮の名前で……んん?」

 

 私は今の会話を頭の中で反芻した。剣士がクール副官時代の名前で呼んできた。つまり、私があのクール副官であるということを認識している、わけで。じゃああれか? 私がクール副官として振舞っていたあれやこれやについて、みんなはあんな深刻な顔をして話し合っていた……?

 

 

 

 

 その瞬間、私の脳内で、想像上の会議が始まった。

 

 重たい沈黙が流れる部屋。真剣な顔の王女様が、口を開く。

 

「いつもしかめっ面してたみたいだけど、アレ、なんだったのかしら……?」

 

 剣士が重苦しい口調で答える。

 

「よろしくおねがいしましゅ、とはどういう意味だ?」

 

 勇者がテーブルに手を組んで、陰のある声で呟く。

 

「パンの耳って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおわああああああああああああ!」

「どうした⁉」

 

 気が付いたら、私は大声で叫びながら床を転がり、柱にガンガンと頭を打ち付けていた。……おっと、いけない。

 

 

 私はパタパタと埃を払い、澄ました顔で立ち上がる。さっきまで打ち付けていた額がじんじんと痛むが、私は大人なので我慢した。

 

 そうだ、黒歴史で転がっていいのは自室のベッドの上のみで、しかも1人の時に限るのだとカヤも言っていた。私にもわかる、ここは廊下で、自室ではない。

 

 

「えへへ~、すみません。間違えちゃいました~」

「何を間違えた。言え」

「えっ……場所……? 今のは見せちゃいけないものだから」

 

 

 廊下を叫びながら転がり、しかもそれを仲間に見られるのはたぶん、黒歴史だと思う。なんと、黒歴史からますます生まれる黒歴史。こういうのを確か永久機関って言うんだっけ。昔の知り合いが言ってた。

 

 ……あの人、今も生きてるのかな? 彼は私が知っている限り、一番長く生きている人間だった。

 

 

 

 

「体が痛むのか」

「頭と心が少し痛いです……」

「そうか……なにか、してほしいことはないか」

「あの、どうして私がフィリナだって思ったか、教えてもらってもいいですか?」

「勇者が言っていた」

「そうなんですね……どうも……ありがとうございます~」

 

 

 

 私は激怒した。おしゃべり野郎の勇者を必ず罰してやらねばならぬ。首を洗って待っていろ。

 

 剣士との会話を切り上げ、私はさっそく愛用の杖を手に勇者の部屋へ突撃した。

 

 

 扉を破り、勢いよく飛び込むと――なぜか王女様もいたので、私はとっさに杖を消して口笛を吹く。ギリギリ見られてない……はず。

 

「お前、普通に入ってこいよ⁉ 扉は開けるためにあるんだぞ!」

「これが私の普通だもん」

「そんな入り方してたの見たことないんですけど⁉ ていうか今、杖持ってなかったか⁉」

「見たらわかると思うけど、私、何も持ってないよ~」

 

「……ちょっといい? あなたに、聞きたいことがあるの。剣士も入れて話しましょ」

 

 王女様の深刻な声。それはさっき私が想像した会議と同じ空気をまとっていて、私は身を震わせた。

 

 

 

 

 

 

「まず、確認。あなたは、フィリナなのよね」

「昔の名前は、そうですね~」

 

 食堂で、テーブルを挟んで私と3人は向き合っていた。私はできるだけ姿勢を良くして、ニコニコと王女様を見つめた。

 

「とすると…………」

 

 そこで、王女様は言葉を止めた。そして、何か悩むような顔をする。どの黒歴史と向き合わせられるのかと思い、私の背にも冷や汗が伝った。

 

 

 

 

 しばらく重苦しい沈黙がその場を支配した。すると、見かねたのか、剣士が口を開く。

 

「お前の寿命はどれくらい残っている」

 

 ……ん?

 

 私の残りの寿命って、えっと、設定の話だよね?

 

 たしか……ミアといたあの頃が20歳くらい(設定)で……あれが60年前……。

 つまり勇者と出会ったのが80歳? それから寿命を80年くらい使って、洞窟で10年寝て、170歳くらい……?

 

 普通の人間の寿命が80年、設定上で私は2倍……つまり160年。ということは……

 

 160(寿命)−170(経過)=−10年……?

 

 「私の残り寿命はマイナス10年です~」と口にしようとして思い直した。マイナス10年って何。死んでるじゃない。これか。これでみんなは悩んでいたのか。「おい、あいつ死んでるはずなのに動いてるよ」みたいな。確かにそれは怖かろう。

 

 

 

 

 どうしよう、と悩んだ結果。もうここまで来たら、本当のことを伝えることにした。

 

 団長さんは100歳生きてるわけだし、私の寿命も200年あったんですよと言ってもいいが、そうするとまた30年後にこんな会話をしなければならないし。

 

 

 この結論に達するまで、1分ほどかかった。途中の計算が難しかったのだ。しかし、3人とも、黙って私の話を待ってくれた。やさしい。

 

 

 

 

 

 私は息を吸い込み、顔を上げて3人の顔を見た。みな、揃って深刻な顔をしている。……むむ、これはいけない。

 

 問題ない、と伝えるために、私はあえて軽い口調で切り出した。

 

「ごめんなさい! 寿命の話なんですけれど……前に言ったのは嘘でした……」

 

 ここでいったん言葉を切り、申し訳なさそうに視線を落とす。ついでに膝の上で、両手をぎゅっと握りしめておいた。演技派な私。

 

 そして、ぱっと顔を上げ、満面の笑顔と共に告げる。

 

「実はですね! 私の寿命って数えきれないくらいにあるみたいなんです。だから、何も問題なんてないんですよ! そんなことよりほら、天気もいいし、浜に遊びに行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 泣かれた。

 大の大人が3人揃って、テーブルを囲んで、泣いた。

 

 私は困惑した。本当のことを言ってこんなことになるのなら、私はいったいどうすればいいのか。もしかして「残り寿命? 3分です〜!」とか言った方がよかった……? だが、それはなんだかまずそうな気がするし……。

 

 

 

 

 私は1人、窓の外へ現実逃避気味に視線を送った。外は、遠くの方から真っ黒な雲がゆっくりと近づいてはいるけれど、さんさんと光の降り注ぐいい天気だった。

 

 

 

 ……絶好の海水浴日和だと、思うんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

【逃げる魔法使い】おまけアニメ 実況&感想スレ

 

3:風の名無しさん

 えー、動画サイトで放送されるおまけアニメのスレです

 気になることはたくさんありますが

 海沿いの別荘に着いた一行はキャッキャしてます

 

5:風の名無しさん

 この感じだと色々なんとかなった後なんじゃない?

 ほら、あんなに楽しそうだし!

 

8:風の名無しさん

 王女様が「いい方の王国よ!」って繰り返してて草

 

15:風の名無しさん

 たどりついた幸せな未来、とかでは?

 優しさに包まれる世界観、なんだから

 

18:風の名無しさん

 本当だな? 信じるからな?

 よしみんな戻ってこい! 今度こそ大丈夫だぞ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。