(書籍発売中!)逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜   作:うちっち

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【2期】9話 「別れの先に、約束を」

 早いものでもう、魔法都市に来て2か月ほどが経つが……気になることがある。

 

 私は、今日も変わらず庭でぐるぐると回されている仲間の3人を、じっと見つめた。「そんなに回るのが気に入ったの?」と思った頃もあったが、違うな、あれは。うん、違う。さすがにそろそろ話した方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 そこで、話し合いの場を持つことにした。場所は、普段は懺悔室に使っているという部屋を、白巫女さんが快く貸してくれた。

 

 神殿の奥まった場所にある懺悔室。少しほこりの香りがするその場所は、静かで落ち着いていて、話すにはちょうどよかった。白巫女さんも私達がこんなに長く居座るとは思っていなかったのではなかろうか。その証拠に、今日も「お仕事とか大丈夫なんですか?」とか聞かれたし。

 

 

 

 ……そう。今日の話し合いのテーマは、まさにそこだった。

 

 

 

 

「私のためにやってくれているのに申し訳ないんですけれど……もう、帰りませんか? みんな、お仕事とかあると思うんです」

 

 そう言いながら、私は無職である。世界を救ったときに貰った褒美金がまだまだ沢山あるので、働く気がいまいち起こらないのだ。そう考えると、お仕事をしている他の3人はすごくえらい。えらいのだが……。

 

 

 

「大丈夫よ。世界を救った褒美として、皆、休暇を貰っているんだから」

 

 王女様が、椅子の背に優雅に身を預けながら、しれっと言った。しかし私は知っていた。王宮からの使者が毎日やってくるのだ。最初は2週間に1度だった。今は半日に1度である。さすがに察するというもの。

 

「私たちが世界を救ったのって、もう10年以上前じゃ……」

「そう? もうそんなに経ったの? ふー……ついこの前みたいに感じるわね……」

 

 王女様が、ぐいーっと伸びをしながら、わざとらしく首を傾げた。その目は、さっきから天井の方にずっと向けられており、なぜか私の方を全く見なくなっている。

 

 

 

「それに、王宮の使いの人の顔がどんどん怖くなってますし」

「あら、気づかなかったわ」

「来週、王様が来るって言ってました」

「お、おおおおお父様が⁉ あいつら……! ついに言いつけやがったわね……!」

 

 王女様は弾かれたように振り向き、左の壁をギロリと睨みつけ、ギリギリと歯を食いしばった。おそらくあっちに王宮があるのだろう。目が怖かった。

 

 

 

 王族がしちゃいけない表情を浮かべてる王女様を置いておいて、次に、私は剣士の方に向き直った。その表情は動かなかったが、ぴくりと肩が動いたのを私は見逃さなかった。こちらも自覚はあるらしい。

 

「剣士さんのお弟子さん、来てましたよね?」

「……」

「先生が帰って来ない、って困ってましたよ」

「…………」

 

 あ、聞こえないふりしてる。しかし、目を閉じて腕組みをしているところを見ると、剣士にも耳の痛い話題だったと思われた。

 

 

 

 

 

 

「というわけで。そろそろ家に帰りませんか……? あ、ちなみに勇者は誰も迎えに来なかったよ」

「それ言う必要あった?」

「1人だけ触れられないと寂しいかなって……」

「急に流れ弾飛ばしてくるのやめてくれますー?」

 

 ふむ。確かに悪いことをしたかもしれない。でもこの前の感じだと、迎えには来てないけど、周りの村の人からはけっこう探されてたような……?

 

 

 

 

 

 私は、手に持った筒を耳に当て、改めて集中してみた。えーっと、勇者の住んでた場所は、あっちの方と。これは使い方にコツがあって、結構難しいのだ。

 

「うん、やっぱり、近くの村では心配されてるみたい。なんか、ついに好きな人の後を追ったんじゃ、とか。……え? 勇者って好きな人いたんだ? 誰?」

「その耳に当ててる筒みたいなやつ下ろしてくれる?」

「わかった」

 

 勇者が鬼みたいな顔をしたので、私は手に持っていた筒を渋々消した。こわい。

 

 

 

 

 その後、王女様から「いい加減ちゃんと言いなさいよ」とか何やら突っつかれていた勇者は、渋い顔のままで口を開いた。

 

「ていうか謎アイテムどんだけ持ってんだよ」

「なんかね、何かくれる人が数百年に1回はいるから」

 

 それでもこれまではだいたい杖で何とかしてきたのだが、勇者たちは杖を使うのがちょっと嫌みたいなので……。そのため、杖以外のアイテムの出番が、最近はたまにあるのだ。それはともかく。

 

「長生きして私と遊んでくれようとするのはすごく嬉しいんです。けど、さすがに自分の生活を崩してまで、っていうのは申し訳なくて」

 

 

 そう、彼らには、彼らのやるべきことも、生きるべき場所もある。ここで板に張り付けられてぐるぐると回されている暇はないはずなのだ。そりゃあ、たまには悪くないかもしれないが、2か月間、毎日はさすがにおかしい。

 

 

 

 

 しかし、私の予想に反して、その後、議論は大いに紛糾した。

 

「だってお前、俺らがいなかったら杖使うし」

「理由がなかったら使わないよ」

「ほら使うじゃん。こんだけ色々持ってたら、使う場面なくないか?」

「あるよ。起きたら追手1000人くらいにぐるっと囲まれたときとか」

「1000人に囲まれて気付かないのかしら……?」

 

 いや、寝てたから……。あのときはびっくりした。なんだかうるさいから洞窟から顔を出したら、右を見ても左を見ても魔法兵。私はよっぽど疲れてたんだなぁ、と感心した。

 

 しかし、同じことがあったら、さすがに杖なしでは対応が難しい。私の持っているアイテムは、戦闘にはあまり使えないものが多いのだ。

 

 

 

 

 

 

 勇者と私、両者の話を聞いた王女様は、眉間に深い皺を寄せ、悩んだ結果……重々しく、裁定を下した。

 

「よっぽど困ってない限り、使わないこと」

「わかりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後もみんなで世界樹に行ったり、白巫女様に相談したりしたものの、長生きする方法というのはやっぱり見つからなかった。

 

 まだ可能性がありそうなのは、世界樹に通い詰めたらしい勇者によると「生まれ変わる」という手段らしい。世界樹でうさんくさい学者の人が話してたあれ。あれが一番可能性がありそう、という時点で、行く先の厳しさが見えるというものだった。それに、疑問が1つ。

 

「……そもそも生まれ変わりって、やろうと思ってやれるものなの?」

「長生きの方は、マジで俺たち誰も向いてないらしいからな。これしかない」

「でも時間が掛かるらしいじゃない。その間、あなたを1人にしてしまうのは……」

 

 3人の視線が、私に集まる。その中に籠められているのは、多大な心配と申し訳なさ、そして、少しの寂しさ。

 

 

 

 

 私は、心配をかけないよう、笑って言った。

 

「私は、どれだけ時が過ぎても、いつだろうと……未来のどこかで、生きてます。それがたとえ、100万年の彼方でも」

 

「でも……!」

 

「だから、待ってますね。ちゃんと見つけてもらえるように、私も頑張ります」

 

 

 

 

 

 ほんの一瞬、静寂が降りた。

 

 王女様は口元に手を当てて、何かを堪えるように目を伏せ、剣士は小さく息を吐いて視線を遠くにやった。

 

 勇者は、黙ったまま、それでもまっすぐ私を見ていた。まるで、その言葉をひとつ残らず胸に刻むように。

 

 

 

 

 

 やがて、誰からともなく、緩んだ表情が戻ってくる。

 さっきまで張り詰めていた空気がふっとほどけ、部屋の温度が少しだけ和らいだ。

 

「……じゃあ、この話はおしまいにしましょうか。また、あとで。ね?」

 

 王女様がぽつりと言った。

 

「ああ。……すまない。待たせる」

 

 剣士のその言葉には、これまでにない温かさがあった。

 

 

 

 

 すると、後ろからぐいっと引っ張られ、私は振り向いた。こんなことをするのは1人しかいない。犯人は、もちろん勇者だった。

 

「なに?」

「生まれ変わってでも行くわ。1000年後でも、絶対」

 

 勇者は、息を飲むくらいに真剣な顔をしていた。これまで見た、どの時よりも。

 

「いや、そんなに無理して急がなくても……」

 

 ピンポイントすぎるでしょ。「よし1000年後に生まれ変わるか!」って思ってその通りになる? 予約制なの? 絶対違うと思うよ。それに、勇者ってよく迷うじゃん。1人じゃきっと辿り着けないよ。

 

 

 

 

 

 

「もちろん、私も行くわ。もともと私が言い出した約束だもの」

「先に着いて待っている」

 

 王女様と剣士が、自信満々に続く。

 

「ああほら、変なこと言うから2人が乗ってきちゃった……! もう、この馬鹿勇者!」

「馬鹿って言うな!」

「じゃあ勇者!」

「この流れでそっち残されても悪口にしか聞こえねえんだわ……! ……くくく」

 

 言い争っていた私たちは、いったん口をつぐみ……顔を見合わせて、笑った。

 

 

 

「はいはい。じゃあ、おやつにしましょうか」

 

 王女様の声をきっかけに、日常が戻ってくる。

 

 

 

 

 こうして、寿命に関する私たちの冒険は、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 ただ、1つだけ。

 

 『1年に1度、あの温泉跡で顔を合わせること』

 

 それが、最後に、全員でした約束。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに1週間が経ち――。

 私たちは、ようやくそれぞれの場所へと戻る決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝早く、神殿の中庭。

 雲は薄く、高い空を静かに流れていた。

 

 

 

 まず、王女様が歩み寄ってきた。

 

 口元は笑っていたけれど、その目の下には、化粧の下でも隠しきれない濃い隈が浮かんでいた。……知っている。あれは、無茶な魔力の使い方をした時の証だ。

 

「これ、渡しそびれるところだったわ」

 

 

 

 

 彼女がそっと差し出したのは、淡い紅玉のついた金のブローチだった。手に取った瞬間、びりりと痺れるような気配が伝わる。私にもわかる。……魔力の込められ方が、尋常じゃない。

 

「何度でも使える防御魔法よ。ちゃんと充填したから。……時間はかかったけれど」

 

 冗談めかして言うけれど、その声は、少し掠れていた。

 私は言葉を探しかけたけれど、見つからなくて、ただ胸元にブローチを留めようとして――不意に、腕を引かれた。

 

 ふわりと、柔らかな香り。

 

 王女様が、私を強く、抱きしめていた。

 細い腕なのに、逃れられないような力で。

 

「お願いだから、もう怪我なんてしないでね……」

 

 その声は小さくて、少し震えていた。

 抱きしめる腕に、思ったよりずっと力がこもっていた。

 

 私は、そっと腕を返す。

 ぎゅっと、強く。

 

「……はい。もう、しません」

 

 それでようやく、王女様は息を吐くように私を離した。

 でも、その目の端は、ほんの少し赤くなっていた。

 

 

 

 次に、剣士が近づいてくる。いつものように無言で、しかし、少しだけ照れたような顔をしていた。

 彼が差し出したのは、小さな黒革の袋に入った、お守り。

 

「振ると、俺の斬撃が飛ぶ。……当たるかは、お前次第だが」

 

 ぶっきらぼうな言い方。でも、袋を揺らしただけで、空気がびりっと張りつめた。

 試しに掲げてみると、光の線のような斬撃が、ぴしりと空を走り抜け、庭の向こうの岩とついでに神殿の灯篭(とうろう)を真っ二つに割った。……やばい。白巫女様がめちゃくちゃこっち見てる……! ごめんなさい!

 

 

 

「……斬撃の素振り、1万回を2週間。よくやったわね」

 

 王女様が注釈を入れてくれた。剣士はほんの少しだけ目を伏せ、それから、ためらうように私の前に立った。

 

 そして――私の頭に、手を乗せた。

 

 分厚くて、武骨で、でもどこか優しい大きな手が、そっと髪を撫でていく。

 

「……また、来年会おう」

 

 短く、それだけを言って、彼は手を離した。けれど、残った温もりは、しばらく消えなかった。

 

 

 

 

 

 そして――。

 

 私は、門の外まで2人を見送った。笑顔で、手を振って、また会おうねと――普段通りに。

 

 きっと、何度もこれから会えるから、言葉にしすぎるのはよくないと思った。

 

 

 

 

 2人が去ったあと、勇者と2人きりになる。

 

 隣にいた勇者は、そっと、私の手を握った。

 

「じゃ、俺らも帰るか」

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7:風の名無しさん

 2か月たってて草

 

13:風の名無しさん

 王女様、いいのか?

 大丈夫? 王位剝奪されたりしない?

 

18:風の名無しさん

 魔法使いちゃんの方があっさりしてるよな

 仲間の方が諦められてない

 

24:風の名無しさん

 「こいつには自分がいてあげないと駄目」って思ってるキャラの方が実は相手に対して依存してる、というのはオタクにおいて一般常識

 

30:風の名無しさん

 2か月も同じ部屋の勇者と剣士ヤバない?

 王女様と魔法使いちゃんはいいだろうけどさ

 

36:風の名無しさん

 男同士、密室、2か月間

 何も起きないはずがなく……

 

43:風の名無しさん

 白巫女様が明らかに帰ってほしそうで笑った

 

49:風の名無しさん

 「いつまでいるのこいつら」みたいな顔してるwww

 

55:風の名無しさん

 さすがに話し合いするのね

 でも解決案が全然見つかってなくない?

 

61:風の名無しさん

 寿命を伸ばす才能が全然ないと言われた3人にできることはあるのか

 白巫女様はいつまで部屋を貸してくれるのか

 王宮の我慢がそろそろ限界

 

68:風の名無しさん

 3アウトってとこか……

 

74:風の名無しさん

 3アウトっていうかレッドカード3枚というか

 

82:風の名無しさん

 「もう帰りませんか?」って魔法使いちゃん本人に言われるのダメージでかい

 いや他の3人は言わんだろうけども

 

89:風の名無しさん

 「休暇なのよ」

 王女様がすっとぼけてて草

 しらじらしい

 

94:風の名無しさん

 10年間有効の休暇は笑う

 

100:風の名無しさん

 いやでも世界救ったんだろ?

 死ぬまで休暇貰う資格あるよ

 

107:風の名無しさん

 王様来るんだwww

 王女様が一気に挙動不審にwww

 

113:風の名無しさん

 【朗報】剣士、弟子から忘れられてなかった

 

118:風の名無しさん

 なんで弟子は魔法使いちゃんに言うの……

 

124:風の名無しさん

 そりゃ剣士本人に言っても帰って来なさそうだし

 王女様や勇者には恐れ多くて言えんだろ

 

131:風の名無しさん

 【悲報】勇者、誰も迎えに来ない

 

138:風の名無しさん

 勇者が流れ弾喰らってて草

 

144:風の名無しさん

 魔法使いちゃんが何か取り出したぞ

 

151:風の名無しさん

 お、村人から心配されてるんだ?

 

159:風の名無しさん

 後を追ったwww

 意味が違うwww

 

163:風の名無しさん

 勇者の恋愛事情を近くの村の住民まで知ってて草

 

166:風の名無しさん

 「好きな人? 誰?」って目を輝かせるのやめてあげて

 声のトーンが上がるのも駄目!

 一番ダメージ入るやつだから!

 

 

 

 

 

 

 

274:風の名無しさん

 ……生まれ変わり?

 おとぎ話じゃなかったの?

 

282:風の名無しさん

 長命種ニキ!

 どう思う⁉

 

289:風の名無しさん

 そうだ!

 長命種ニキはどう思うんだ?

 

296:風の名無しさん

 長命種ニキ!

 

302:長命種ニキ

 ははは、なんだか照れますね

 お前ら! 俺の話を聞け!

 なんちゃって

 

309:風の名無しさん

 で、どう思う?

 

315:風の名無しさん

 スルーされてて草

 

323:長命種ニキ

 でも、王女様の「物に魂を込める」と、剣士の「死後に幽霊になる」はけっこう可能性高いんじゃないかと

 王宮の研究班が銀環の村から写本を持って帰ってましたからね

 意地でも解読すると思います

 

326:風の名無しさん

 剣士もたぶん20年全く同じ素振りできそう

 白巫女さんから帰り際に「もし成功したらまずここに戻ってきてください」とか言われてたし

 

329:風の名無しさん

 で、勇者は?

 

331:風の名無しさん

 き、気持ちがあるから……

 

334:風の名無しさん

 王女と剣士が門の外に出ていくシーンの演出、音楽がめちゃくちゃ良かった

 急にBGMが止まって、風の音だけになるあたり

 

341:風の名無しさん

 地味に勇者と魔法使いちゃんの

 「俺らも帰るか」→「うん」

 今までで一番、普通の友達感があって良かった

 

351:風の名無しさん

 1000年後の海の話、1人にさせないって言う勇者はマジ勇者

 

358:風の名無しさん

 きっと叶うんだろうな……

 それで、生まれ変わった3人と魔法使いちゃんが揃ってハッピーエンドでしょ

 

366:風の名無しさん

 なお、誰も来なかった模様

 【魔法使いちゃんが寂しそうに浜辺で1人で空を見上げる動画.gif】

 

373:風の名無しさん

 それ貼るのやめろや

 

379:風の名無しさん

 じゃあ、バッドエンド?

 魔法使いちゃん、結局1人になるの?

 

386:風の名無しさん

 せっかく再会したのに、そんなのあんまりじゃないか……

 

392:風の名無しさん

 最終話タイトルが明らかに合流できない感じなんですが

 もしもし監督?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、最終話

「この空の向こうにいる君と」

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