オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
「……何処だここは?」
一番目の首が言葉を離した。
「わからぬ」「どこだ?」「ユグドラシルではない」「戦っていた者達は何処に行った?」
十の首が動き、喋りだす。
漆黒の鱗に覆われた、全長170mの巨大なドラゴン。
"百の頭を持つ竜"とさえ称される最強の竜を名乗る者──ラ―ドゥン。
竜王の名を自称するユグドラシルでも上位に入る存在が目覚めた。
ドラゴン。
最強の種族。
物理・魔法に対し高い防御能力を有し物理攻撃も魔法攻撃にも長け。耐性の無い者ならば即死させ得るブレスを持つユグドラシル最強の種族。
単純なステータス・実装されているAIを考えればこれほどまでに優遇されている種族もないだろう。
しかしそれはNPCでの話。
竜という種族はPCがなれる種族ではなかった。
では、この竜であるプレイヤーはどうやって竜になったのか──答えは単純、ワールドアイテムである。
ワールドアイテム:ウロボロス。
効果は"どんな願いもかなえる"というもの。
とあるギルドに対しワールドへの移動を禁じたり、一定条件を達成しないと絶対に慣れないクラスにつけたり等、効果は本当になんでもありなチートアイテム。
それを使い、ラ―ドゥンは本当の竜へと転生したのだ。
ユグドラシルにおいて、竜になる方法はない。
代用手段として種族の竜人があるが、あくまでも竜人、竜の人であって竜ではない。
竜の姿に鳴れはするがそれは一時的なモノに過ぎず、設定的にも竜ではないと明言されている。
そして彼は手に入れた、竜へなる力を。
そしてなったのだ──最強の竜に。
では、実際にどれだけ強いのだろうか。
準レイドボス──とでも言ったところか。
十の首は各種属性のブレスを吐き、それぞれが独立したAIとHPを持ち、更には再生能力は数秒で傷を癒す。
そして十の首全部の死と体にも設定された膨大なHPが削られない限り死なないという驚異の不死性を持つ。
竜の膂力は百レベルの戦士にとっても脅威、油断すれば爪と足に蹂躙されるだろう。
ブレスとて脅威極まりない。一つ一つの首が別属性のブレスを放つ。
ユグドラシルでは各属性への完全な耐性・無効化ができない以上どうしようもない。
下手なプレイヤーならば何十人集まっても倒せない最強の竜、だからこその竜王。
しかし、たかがこの程度である。
ワールドエネミーのように喰らえば即死の通常攻撃はなく、ワールドチャンピオンのような絶対防御等もない。
いや、ワールドディザスターのスキルの上位互換こそ持つが、されど対処法がないわけではない。
倒すだけならば百レベルゴッズ持ちプレイヤー四人。
安定して倒すならフルゴッズプレイヤー六人、と言ったところか。
しかし侮ることなかれ、上記は最低戦力。
それこそただの百レベルでは話にならず、クラス構成がガチの上位プレイヤー四人が最低戦力なのだ。
そもそもプレイヤーが複数人で挑む前提の能力を持つ、ということ自体がこのプレイヤーが優遇されている証拠だ。
如何に他にもワールドアイテムを持っているとしても、余りにもラ―ドゥンはプレイヤーとして並外れた力を持つ。
……まぁ、プレイヤーが対策を全力でして連合を組まなければ倒せなかった"魔王"という存在を考えればあながち存在しても可笑しくないかもしれないが。
「駄目だわからん」「何処だよ」「クソ運営何処行った」「ちくわ大明神」「ちんぽお」「誰だ今の」
十の首同士で会話し、現状の把握に努める。
会話、という体こそ成しているが実際はただの言葉遊びだ。
それぞれ人格を有し自己判断能力もあれど記憶は常に同期する,が──主人格の下に残りの人格がある以上、ただの人形遊びのようなモノだ。
「どうするべきか」「人を探すべきでは?」「まて、あれはなんだ?」
三番目の首が、何かを見つける。
「人か?」「腕が多い、違うな」「亜人……いや異形か?」「ふぅむ、どう接するべきか」
ばさり、と巨大な──巨体を支える翼を動かし、飛翔する。
体に合った翼は巨体に見合わぬスピードを発揮し、一瞬、転移魔法でも使ったのかと疑問を抱くレベルの速度で移動を完了する。
「な、は、え」
「急な訪問失礼する」「ここが何処かわからぬのでな」「ユグドラシルの何処だ? ミズガルズのどこに位置する?」「まて、アーズガル図かもしれんぞ」
四本腕の異形全身に魔法の刺青がついている種族──マーギロスたちが混乱する。
先ほどまで談笑していたのに急にドラゴンが現れ、しかも会話してきたのだ、誰だって混乱するだろう。
混乱する同胞を押しのけ、一人の女がやってくる。
「竜よ、我々に何の用だ?」
額に汗を流しながらマーギロスの女王──ナスレネがラ―ドゥンに問いかける。
「ふむ、話しがわかるな」「待て、こいつ口が動いたぞ」「胸も動いた、あり得ぬ」「あってはならぬことだ」
十の首がそれぞれ喋りだし、ナスレネが混乱する。
「待て、そう一遍に話すと混乱するだろう──すまぬな女人(にょにん)、幾つか聞きたいことがあるのだ」
主人格である一番右の首が喋る。
「えぇ、いくらでも質問してください」
にっこりと、恐怖を押し殺しナスレネが笑顔を浮かべた。
ナスレネの心の中はぐちゃぐちゃだ。
今日も今日とて丘陵の覇権を得るべく画策していたのに急な竜の来訪、更には竜にしてみては弱小種族に過ぎない自分たちに問いかけるという。
いったい何を? 何のために?
「まず──」
そして竜の問いは余りにもあっけなかった。
ここは何処だ、国はあるか、お前たちは何者だ、人間はいるのか──だと。
余りにも基本的、常識的な事しか竜は問いかけない。
何がしたいのか、あるいは噂に聞く記憶喪失という奴か、強力な竜もなるのか。
疑問を他所にラ―ドゥンは「わかった」と話を終わらせる。
「すまぬな、幾つも質問をしてしまって」「うむ、だがこれは必要なことだ」「対価を払うべきか?」「問いかけには必要だな」「金貨一億枚ぐらいか?」「……それは多すぎないか? 五千万ぐらいじゃないか?」「うぅむ、それはそれで舐めていないか?」
「え、あの、その」
対価を払う──? 竜が?
亜人たちにとって強者は何をしても許される。
その日の気分で殺されても拷問されても、相手が強者ならば受け入れるしかない。
目の前の竜もそうだろうと思っていたら、急に対価を払うといいだし、混乱する。
いや、対価を払う竜ならば珍しいかもしれないがいるかもしれない。なんせ評議国には国を支配する竜が幾人もいるのだから。
だが対価として金貨一億枚? いや減ったとしても五千万?
余りにも過剰。馬鹿にしているのかモノを知らないにしても限度があるだろう。
「い、いえいえ! 対価など結構です! 私はただ質問に答えただけなので!」
「そうか? 「うむ、本人がいいならいいだろう」「今の懐では五億は結構痛いな」「もっと稼いでおけばよかったか」
「では、達者でな、ナスレネ──いずれ会うこともあるだろう」
翼を広げ、ラ―ドゥンが飛び去ろうとする。
「待ってください」
咄嗟に、そう何も考えずナスレネがラ―ドゥンを止める。
個の竜は使えると思ったのか、支配してやろうと思ったか。利用価値があるとでも思ったのか──この時点のナスレネには。自分自身も何故止めたのか理解できなかった。
「私の話を、聞いてはもらえませんか?」
ナスレネは、それはそれはいい笑顔で問いかけ──竜王は十の顔で見合わせた。
■
アベリオン丘陵と聖王国を別ける巨大な城壁。
遥か遠くまで続く城壁は、今混乱の最中であった。
「打て打て打てうて! 狙いなんか考えるな! あの数なら打てば当たる!」
「畜生! なんだってこんなことに!」
「なんで亜人たちが結集してるんだよ!」
オーク、ゴブリン、マーギロスにダークドワーフにケンタウロス。
ミノタウロスにスネークマン、その他もろもろ。
あらゆる──アベリオン丘陵に住まう亜人たちが、大連合となってやってきた。
「ふむ、面倒だな」「消そう」
そしてそれらを率いる竜王が、五番目の首が口を開く。
放たれるはアシッドブレス、触れるもの全てを溶かす竜王のブレスだ。
「み」
奇妙な遺言を残し、壁に居る人間の兵士が溶ける。
ドロドロに、奇怪に。
轟音が響くことも、悲鳴があがることもなく──巨大な壁が、竜王が通れてしまう程に溶かされる。
「征け」
全ての口が一斉に開き、亜人たちに命令を下した。
この日、何十年と国を守り続けた城壁は、たった一夜で崩壊した。