オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
「モモンガ様」
ナザリック地下大墳墓。第九階層のモモンガの私室。
豪勢な部屋だ。
まるで王族が住まう城を思わせる調達品の数々。一目見るだけで如何に教養の無い人間でも感動せざる負えない部屋。
いや、王族どころか世界のどんなものでも再現できない部屋。
その部屋の中で、モモンガが頭を文字通り抱えていた。
「モモンガ様」
「……なんだ。アルベド」
二度目のアルベドの問いかけに、モモンガは答えた。
「"竜王ラ―ドゥン"とは。どのような存在なのでしょうか」
「なに? いや、お前たちは知らないのか……」
竜王ラ―ドゥン。
その名を聞いた時からモモンガの心はここにあらずといった感じだった。
確かに薬草を採取し、村に戻ったはずだ。
だが記憶が余りない。ぼーっと──精神的な異常が起こらないはずのアンデッドであるはずなのに、頭に靄がかかったかのようにボーとしていた。
気づけば野営地から離れ、危険性をはらむが転移でナザリックに戻ってしまった。
「竜王ラ―ドゥンというのは、ナザリックでも勝てないのでしょうか」
思わず、アルベドの口からそんなことが漏れる。
竜王の名を聞いてからモモンガは明らかに可笑しい。
ブツブツとうわ言を呟き、あーでもこーでもないと掌を開いたり閉じたりしている。
「勝てない。絶対に」
答えは即答。更には絶対に、と。
「そ、それは本当なのでしょうか? 第八階層のあれら、いえ。ワールドアイテムを使えば──」
「勝てないんだよ! 絶対に!」
声を荒げ、机をたたく。
如何に魔法職とはいえステータスに優れる異形種。かつレベル百となれば魔化された机にも罅が入る。
「も、申し訳ございません!」
咄嗟に膝を付き、頭を下げ謝る。
「──すまない。アルベド。だが、絶対に、絶対に勝てないんだあれには……!」
ぎぃ、とアルベドの耳にも聞こえるレベルで歯を噛み締める。
「確かに……八階層のあれらを使えば、勝てるかもしれん」
「な、ならば!」
「だがな無理なんだよアルベド」
第一に、モモンガは指を立てた。
「竜王は巨体。更に存在が異質──"ボスキャラクター"という専用フィールドでの戦闘が前提の存在。異世界とはいえナザリックに入れるか怪しい。
2、仮に入れたところでどうやって八階層に入れる? 転移魔法は相手の同意が無いと意味がない。
三、道中どうする。竜王が暴れれば第八階層までのナザリックは壊滅する。四。確かに第八階層のあれらや守護者全員。
ギルド武器を持った私もいれば勝てるかもしれん。
だがな……一度勝ったところで無意味なんだ。竜王は何度でも蘇る」
「それは……蘇生魔法でしょうか?」
「それとは違う。竜王は数少ないアイテムの力でプレイヤーから"ボス"になった存在だ。ワールドエネミーになった魔王と違い、ボスキャラクターである竜王ラ―ドゥンは何度死のうが蘇る。
能力は変わらずにな」
それはつまり。
一度殺そうが百度殺そうが意味がないということ。
ユグドラシルプレイヤーは死ねば5レベルのダウンと装備しているアイテムの一つをドロップする。
一部の──蘇生魔法や課金アイテムを使わないと変えれない絶対不変の法則。
しかしながら竜王ラ―ドゥンには意味がない。
百度殺そうとレベルダウンはせず、装備はそもそも装備できていないので落とさず。
何度殺そうと意味がない。千回死のうが変わらずレベル100レイドボスとしての力を維持し続ける。
いや、殺せば殺す程逆に不利になるだろう。
こちらは一度殺すためにあらゆる手を尽くす必要があるが、竜王は殺されても蘇る。
どんな手を尽くそうと一度使えば二度と使えないということ。
ここは既にユグドラシルではない。店には最高級のポーションは売っていないし、データクリスタルなんてモンスターはドロップしない。
気軽に鉱山から最高品質の鉱石は取れないし、そもそもあるか不明。
戦えば戦う程ポーションとスクロールは減り、如何に神話級アイテムであろうと消耗する。
「──だから、詰んでるんだよ……」
「──ですがそれは、戦った場合では?」
「……何?」
「モモンガ様が仰ったとおり、確かに戦えばナザリックでも敗北するかもしれません。ですが絶対に戦うと決まった訳ではありません」
「……じゃあどうする? 戦わないで済むのか?」
「はい。ナザリック独自の資金や技術を用い、竜王と交渉できれば──」
「交渉? すると思うか? 竜王が」
「交渉や取引はお互いがある程度対等でなければ成立しない。力の差があればそれはただの"命令"に過ぎない。
なぁアルベド。今のナザリックにラ―ドゥンと取引が成立するだけの力があるのか?」
今のナザリックは弱体化している。
元々は九人しかいないワールドチャンピオンの一人を抱え、更には幾人もの特殊型の職業構成──独自の奥の手を持ちうるプレイヤーを抱えたギルドだ。
基本的にこの手のゲームでは如何に自由度が高くともみな似たような職業に就く。"その職業の方が効率がいい"と知っているからだ。
モモンガのエクリプスの様な一芸特化にでも極めれば超強力な自分だけの奥の手とも呼べる力が手に入るが、そんなものはそうそういない。
一芸特化とはそれ即ち"それ以外が出来ない"ということだ。マルチプレイ前提のオンラインゲームでは一つのことしかできないプレイヤーなど嫌われる。
故何十人もの独自に能力を持ったプレイヤーが所属できていた全盛期の"アインズ・ウール・ゴウン"ならば竜王と交渉──ないしは命令できる程の力があっただろう。
だが今のアインズ・ウール・ゴウンに残るはたった一人のプレイヤーと、自我を得たばかりのNPC達。
竜王相手には使い物にならない──竜王もワールドアイテム保有者だ──ワールドアイテムが十一程度。
これでは話にならないだろう。
それこそ竜王にとっては容易く蹴散らせる雑兵に等しい。
これがレベル百NPCが二十人もいればまだましだったが、ナザリックのレベル百のNPCは八人程度。
直接戦えるのは守護者たちぐらい、かつガチ構成はシャルティアのみ。
うち一人のアウラはモンスターテイマーだ。直接的な戦闘力が低いし使役する魔物も竜王の前ではブレス一つで消し飛ぶ雑兵に過ぎない。
これでは勝てない。勝ち続けることは出来ない。
確かにナザリックの財宝を湯水のごとく消費し、NPCを使い捨てするように戦わせれば勝てるだろう。
だがそれは一度か二度程度。無限に蘇る竜王にその戦法は通じない。
そもそもNPCには戦闘経験が無い。
それこそスキル一つの柄板すら知らない程だ。
竜王ラ―ドゥンはユグドラシル時代何度も倒されてきたボスだ。
だが倒すのは非常に困難。
最低でもレベル百のプレイヤー六人。かつ全員がお遊び抜きのガチ構成──対竜用の専用職業に装備を纏い、単純なPSだけでも上位に食い込めるものが居れば勝てる程度。
実際に戦うとなればプレイヤー12人。つまりフルパーティ二組に一人当たり最低でも神話級一つ装備。かつポーションやスクロール等の消耗品大量に消費しなければ倒せないボスキャラクターである。
……これでもワールドエネミーには及ばないというのがユグドラシルの恐ろしい所だ。公式ラスボスは三十六人のレイドを組んだプレイヤーをただの一撃で殲滅する。
だが倒せば非常にうまいボスでもある。
その血はアムリタという超特殊ポーションの材料になる。
アムリタは蘇生能力に加え一定時間のステータス向上やクリティカル増加などの多種多様力を持つ。
それこそアムリタを使ったプレイヤーと使ってないプレイヤーでは絶対にアムリタ使ったプレイヤーが勝てる程のバフ効果を得る。
次に鱗。鱗は神話級の武具の材料として最適だ。鍛冶能力を極めた100レベルならば単純な火力最高峰の武器や魔法・物理に対しても最高の鎧を作れる。
次に皮。スクロールの材料のみならず皮鎧の材料にもなる。
等々、竜王の死体から得られる物品はナザリックにとっても喉から手が出る程に欲しい程。
更に、竜王がこれまで会得した財宝を得られる。
竜王はボスキャラクターという異質性からか死ねば全てのアイテム──ごく一部の例外以外──をドロップする。
そして竜王はどういう訳か結構稼いでいる。
高難易度ダンジョン限定で落とすアイテム。課金しないと手に入らない──あるいは入手が難しい超レアアイテム。
更に一部フィールドにしかいないレアモンスターやボスキャラクターのドロップ品等々。
それらをすべて金貨に換算すれば財宝だけでナザリックが九年はフル稼働……罠もフィールド効果もすべて全開放状態で維持できる程。無論そんなことはそうそうないので実際には更に何年も持つ。
つまりは、一度ならば殺しても利益が出る──あるいは損益が帳消しに鳴り得るほどだ。
だがそれでもモモンガは戦えないという。ならば。
「相手は竜。財宝を求める種族です。ナザリックの鍛冶長に財を作るよう命じれば──」
「アルベド。本当にそれができるのか? お前たち"アインズ・ウール・ゴウン"に尽くすよう作られたお前たちが! 竜王ラ―ドゥンに従属を誓うことが出来るのか!」
怒りの声を再び上げる。
確かにナザリックの資金・技術を差し出せば竜王とて無下にはしないだろう。
こちらにはかつての仲間たちが集めた膨大な資金と数々のアーティファクト。更には現地では確認できていない高レベルの鍛冶能力を持つ者もいる。竜王とて無視できない。
下手に殺そうとして失わせるよりも手にしたいと思える財宝。
だが、それは。
「それは竜王ラ―ドゥンに従属するのと同じだ……! "お金を上げるから殺さないで"と懇願するのと同じ……! 俺たちギルドメンバーに絶対の忠誠を尽くすお前たちが、竜王にも同じことが言えるのか?
竜王が死ねと命じれば死ぬことができるのか?!」
「そ、それは……」
出来ない。
アルベド達NPCはアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーに絶対の忠誠を誓っている。
命じられれば忌み嫌う人間の靴だって舐める程に。
だがそれは、自らの創造主に──"アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー"に命じられればすることだ。
決してその忠誠はラ―ドゥンには向かない、向けれない。
"創造されし者よ。かくあるべし"
そのためにだけに作られたのだからそれ以外は出来ない。
「それに俺はお前たちにそんなことはさせたくない……! 仲間が残してくれたお前達にそのような目は絶対にさせてたまるか……!」
威勢はよくとも現実はどうにもならない。
モモンガの──鈴木悟の能力ではどうにも出来ない。
「——一度ならば殺せる可能性がある、のですよね? ここは異世界。一度殺すことができれば──」
「蘇らないかもしれないと? 分の悪い賭けだな。もしユグドラシルの頃と同じように何事も無く復活してみろ、その瞬間俺たちの終わりが決まる」
「——モモンガ様」
アルベドが膝を付く。
「……なんだ?」
「モモンガ様は隠し事をしていらっしゃいますよね」
「──バレてたか」
「はい。バレバレです」
ふふ、とアルベドが微笑んだ。
そう。アルベドはとっくに気づいている。モモンガが凡人ということに。
エ・ランテルでの生活。漆黒の剣との冒険。
アルベドの優れた頭脳ならば否が応でも気づく。"モモンガは凡人"という事実に。
もしかしたら、自分以上の考えがあるのかもしれない。もしかしたら、優れた頭脳で何百年単位の計画を立てているのかもしれない──そんな幻想を見るのは辞めるべきだ。
だからアルベドは、真実を口にする。
"アインズ・ウール・ゴウン"ではなく"モモンガを愛している"アルベドは。
「モモンガ様。私たちが忠誠を尽くせる最後の御方。恐れないでください。我等NPCは貴方様にだけ忠誠を誓います。
モモンガ様がどのようなことを隠していても。抱えていても。我々は──いえ。私だけでも絶対に。変わらぬ忠誠を誓います」
「そうか……なぁ。アルベド」
──モモンガも覚悟を決める。
"モモンガ"ではどうにもならない。
ただ無駄に無意義に維持だけをしてきたモモンガでは。
「俺はお前たちが言う程頭がよくない。デミウルゴスは端倪すべからずとかいったが普通に言葉の意味が解らん」
──鈴木悟ではどうにもできない。
ただ日々を無為に過ごし、上司に言われるがまま過ごしてきた鈴木悟では。
「確かに戦闘能力はお前たちよりは高いかもしれん。だがお前たちが経験を得れば間違いなく俺よりも強くなる」
「だから。アルベド」
「はい」
「──俺は凡人。一般人。お前たちより遥かに劣る俺に。……ついて来てくれるか?」
「はい。何処まででも」
今この時。鈴木悟はモモンガを辞めた。