オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品   作:野生の生蛇

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第14話

 #闘鬼ゼロ。またの名を休みゼロ

 

「ふん!」

 

 

 拳を振るう。

 スケルトンに命中。そのまま余波で遠くの腐肉漁り(ガスト)や他のスケルトンが吹き飛んだ。

 

「ちっ! 雑魚が多い!」

 

 叫び再び拳を振るう。

 

 突如として現れたアンデッドの軍勢。

 一山いくらの雑兵の群。だがアンデッドは集まればより強い、より多くのアンデッドを生み出す。

 

(クソ! これもあれも全部黄金のクソのせいだ!)

 

 スキンヘッドの大男。

 半裸の──鍛え上げた筋肉を魅せつけるような服装。

 体には幾つかタトゥーが刻まれている。

 鍛え上げた拳を──アダマンタイトにも匹敵する硬度を持つと自負する拳を振るいアンデッドを蹴散らしていく。

 

 彼の名はゼロ。元は八本指という犯罪組織に属していた者。

 

 何故彼がこんなところで──エ・ランテルで特所湧きだしたアンデッドと戦っているのか。

 訳を話せば非常に長くなる。

 

 第一に、八本指と癒着していた貴族が処刑された。

 まさに電光石火。対処をするもクソも無い速度。

 八本指も貴族も察するもクソも無い、突如家に押し入られいきなり「お前処刑な!」と叫ばれガゼフ・ストロノーフに首を切り落とされた。

 いや、それ以外にもブレイン・アングラウスや元オリハルコン級冒険者。ガゼフ・ストロノーフの私兵である戦士団に家に無理やり──扉などは普通に壊され殺されていった。

 電光石火どころではない。文明というか野蛮人というか蛮族もびっくりな処刑祭りである。気づいたら八本指と繋がっている貴族の九割は殺された。

 ポウロロープ候やぺスペア候。その他政治をするに必要な者達が突如殺された。

 なおすべてたった一日で起こった出来事。転移を酷使されたイビルアイとリグリットは泣いていい。

 本来冒険者は政治にかかわらずという不文律があるがイビルアイが転移魔法を使えることは誰にも知られていない。だからごり押しされた。

 ビバ黄金の姫。話術で彼女に敵うのは誰もいないだろう。

 

 結果八本指は表の権力を失った。

 これは流石にまずいと裏に潜ろうとしたが元イジャニーヤであるティアとティナに拠点を割り出され襲撃を受けた。

 起こったのは大量虐殺。レベルが十も違うのだから戦闘など成立しえない。

 非戦闘員──その頭やコネを用いて裏の権力者として動いてた者達は殺されていった。奴隷部門の長であるコッコドールと麻薬部門の長であるヒルマ・シュグネウスはバラバラにされて殺された。

 残ったのは戦うことができる──黄金の姫が欲していた警備部門の者達のみ。

 だがそれでも六腕以外は殺された。不要と判断されて。

 ──八本指の六腕で実際にアダマンタイト相応なのはゼロ一人。

 ペシュリアンやマルムヴィスト等は確かに技術では優れている。だがステータスが足りていなかった。

 

 結果ゼロが取った手は──降伏である。

 

 それはそう。最秘宝を纏ったガゼフ・ストロノーフには誰も勝てない。

 あらゆる防御を無視し切り裂くレイザーエッジにアダマンタイトでできたクリティカル無効の鎧。疲労無効の腕に再生の護符。

 これに誰が勝てるのか。アダマンタイト級のパーティでも苦戦──仲間の一人や二人は失わざる負えない。

 追加で装備が多少──国宝には劣るがアダマンタイト級相応の装備を持つガゼフ・ストロノーフ(ブレイン・アングラウス)。誰が勝てるというのか。

 

 そしてゼロの目論見通り六腕は黄金の姫に雇用された。

 そう。黄金の姫にしてみれば六腕は最も欲していた戦力。アダマンタイトには多少劣る戦士が五人にアダマンタイト級そのもののゼロ。勝ったな、と笑った。

 そして待っていたのは酷使される社畜の日々。ゼロの顔から笑みが消えた。

 元雇用先である八本指の拠点や盗賊の殲滅。やったことの無い軍人としての業務──暴走した貴族の反乱軍の虐殺やモンスター退治。休む暇がない。

 仕事に追われ一度死にかけたら「大丈夫。ラキュースが蘇生するから安心して死んで。費用は国が持つから」と死を許されなかった。

 

 更に元六腕の長──管理職なのだからと文官の仕事も回される日々。

 

 そんな中元同僚(ディバーノック)はアンデッドなので疲労は無く。日々を充実して過ごしていた。浄化されろと心の中で六大神に祈った。

 

 生まれて初めて戦いたくないと叫んだ。仲間は休ませてくれと祈っていた。

 雇用主には「ほーれボーナス」と仕事が多すぎて使う暇のない金貨が渡された。

 

 子供の頃ぶりに泣いた。夢の中で親が"自業自得"と罵ってきた。目が覚めたら枕が濡れていた。

 涙をぬぐう暇なく次の職場に案内された。

 

 そうして王国内の各地を転々としたどり着いたのはエ・ランテル。

 王国内にて最も危険度の高い場所。

 何故か、トブの大森林に最も近いからだ。

 

 竜王ラ―ドゥンによってトブの大森林は掌握された。

 だがすべての亜人が従った訳ではない。知能の低い獣やゴブリンは反乱を起こす。

 結果こんなところ捨ててやると亜人たちがトブの大森林から這い出たのだ。

 

 現在のゼロの立場は警備隊長。実質的なエ・ランテルの武力トップ。

 だがゼロは元犯罪者。街に居場所など無い。

 冒険者組合からも都市長からも使い捨てにする勢いで酷使されている──というか酷使しないとエ・ランテルが湧き出る亜人で滅ぶからだが。

 トブの大森林には現在エルフが居るが、エルフ達とて数が多いゴブリンなどは殺しきれない。残った魔物はどうしようもない。

 余談だが現在帝国は突如トブの大森林から湧き出る魔物に対処中である。ガンバレ禿皇帝、ほぼ詰んでるけど。

 そうしてゼロはトブの大森林に突っ込んだり周辺の村々を回ったりする日々である。

 頑強な職業であることも幸いし365連勤も目じゃない。

 

 無論こんな目にあっているのはゼロだけではない。他の六腕も他の街や森に行ってゼロ動揺酷使される日々だ。

 

 竜帝国による影響は大きい、アベリオン丘陵にトブの大森林。竜王国の支配──起こったのは兵力不足による魔物の増加。

 それはそう。特に聖王国は常に亜人の危機があったというのに軍人全滅状態。亜人は逃げ出した。

 竜王は巨体。遥か遠くからでもその姿と力を視認できる。支配を拒んだ──というか災害そのものだと認識した亜人等は王国や帝国。法国に逃げ込んだ。

 そこに追い打ちをかけるかのような貴族の処刑祭り。戦力不足も当然である。

 如何にアダマンタイト級が二パーティ居ても足りはしない。結果としてゼロ達も取り込まれた訳だが。

 

 そんな時、久しぶりの休みで六時間は寝れる。起きたら真面な食事をするんだと生きこんでいたら突如湧き出たアンデッドの軍勢。

 神よそんなに俺が憎いのか。ゼロは六大神に祈った。

 

 

「全く……人生ままならん!」

 

 叫び、拳を振るう。

 そこに居たスケルトンを掴み、武器のように振り回し放り投げる。

 無限に湧き出るように思える──というか実際無限に湧いているアンデッド相手に無双状態である。

 

「……いくらでも湧いてくるな」

 

 倒せば倒す程、無限にアンデッドが湧いて出てくる。

 湧き出るのはどれも最下級のスケルトンやゾンビ。腐肉漁り(ガスト)内蔵の卵(オーガン・エッグ)等の雑兵。

 ゼロにとっては雑魚に過ぎず、オリハルコン級でも問題なく掃討できるだろう。

 

 無限に湧き出るということを考えなければ。

 

 人は疲労する。戦えば戦う程スタミナは減り、一撃の威力は減る。

 魔法詠唱者ならば魔力が尽きるし、戦士であっても剣の切れ味は落ちていく。

 ジリ貧。孤立無援。

 

 現在ゼロがいるのは共同墓地から離れた地。

 墓地にある巨大な──アンデッドを抑えるための扉は既に崩壊し街中にアンデッドが死を運ばんと蠢いている。

 ゼロはたった一人でこれを阻止している。

 と言ってもゼロには範囲攻撃の技が無いためただただ暴れているだけだが。

 これでもゼロが居なければ街は大惨事。虐殺が起こるだろう。

 ゼロが百体殺す間にアンデッドが一体街に行く。

 ゼロが居なければ今頃街には何百──あるいは何千というアンデッドが襲い掛かっていた。

 

「……流石にきついな、これは」

 

 連戦に次ぐ連戦。

 如何にゼロが強くとも、千の敵を一瞬で薙ぎ払う力が無い以上討ち漏らしがでる。

 援軍はまだかと、拳を振るい──

 

「──魔法三重化(トリプレット)魔法最適化(マキシマイズマジック)<火球>(ファイヤーボール)

 

 空から炎が降ってきた。

 三つの炎の塊はアンデッドに着弾し、ゾンビを、スケルトンを焼き払う。

 残ったのは微かなアンデッドの灰のみ。それらも風に吹かれて消えていく。

 今だ遠くからガシャガシャと骸骨の音が響くが、五分ほどは休憩できるだろう。

 はぁ、と肩を休めると声がかかる。

 

「──無事ですか?」

 

 空からの声にゼロは顔を上げる。

 そこに居たのは仮面を着けた魔法詠唱者。全身を覆うローブを纏い、胸に冒険者のしるしであるドックタグをつけた者。

 

「申し訳ない。助かった」

「お気になさらずに。何が起こっているか聞いても?」

「こちらとしてもわからん。突如共同墓地からアンデッドが湧き出てな、訳も分からず応戦していた」

「──なるほど。実はこの原因に心当たりがあります」

「なんだと?」

 

 怪しい。ゼロはそう思う。

 突如現れた仮面を着けた魔法詠唱者。非常に怪しい。

 

 しかしゼロの方が怪しい。

 元八本指の幹部。部下にアンデッド──死者の魔法使い(エルダーリッチ)がいる。

 何なら客観的に見ればゼロが原因のようにも思えてしまう。

 

「えぇ。ですのでもうしばらくここで持ちこたえて頂きたく。直ぐに解決しますので」

 

 ──待ってくれ。頼む。お前も俺を置いていくのか。俺に仕事を置いていくのか、もうやだぼくおうちかえりゅ!!!

 

 そう叫びたいのを全力で──何なら武技能力向上を使い精神能力を上げて耐える。耐えた。

 

「そ、そうか。では俺が──」

「後で援軍も来ますので──<飛行>(フライ)

 

 効果が切れかけていたのだろう。仮面の魔法詠唱者──モモンガは再度飛行魔法を詠唱し飛んで行った。

 

 ──ファッキンゴット。ゼロは神に中指を建てた。

 

 

 

 ■

 

 

 時は少し遡る。

 

「なんだあれ」

 

 モモンガと漆黒の剣の面々は宿に向かって歩いていた。

 といっても漆黒の剣とモモンガではランクが違う為宿が違うので少しだけついて行く程度だったが。

 

 そんな中、この一同の中でモモンガが最初に気づけた。

 

 モモンガはアンデッド。不死者。種族特性として闇視(ダークヴィジョン)を持つ。故にこの暗闇でも気づけた。

 

 ──スケルトンが街中に居る。

 

 なんで? と口から言葉が漏れ出た。

 聞いた限りではアンデッドは生者を襲う忌み嫌われる者。そんな存在が何故街中に?

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

 町人が叫んだ。運がいいのか悪いのか、たまたまモモンガよりも早くアンデッドに気づいてしまった。

 生者の叫びをアンデッドは聞き逃さない。生者を死者に変えんと拳を上げ──

 

「ふん!」

 

 それより早く、アルベドの拳がスケルトンを打ち砕いた。

 

 見ればアルベドはモモンガの真横に居たというのに気づけば一瞬で──最低でも二百メートルは一瞬で移動している。

 流石はレベル。如何にアルベドがタンク職と言えど速度は魔法職であるモモンガを優に上回る。

 

「な、なんだ?!」

 

 遅れて気づいたペテルが叫ぶ。

 

「──おいおいまてまてまて! なにが起こってる?!」

 

 ルクルットが──探知に優れたレンジャーが気づく。

 

「ど、どうしたである?!」

「街ん中にアンデッドが溢れてやがる! 数は最低百! それ以上はわからん!」

 

 さぁーと、漆黒の剣の顔が青くなる。

 街の中にアンデッドが百以上。

 それはつまり、この都市は滅びるということ。

 アンデッドの特性として死者が増えれば増える程より多くの、より強いアンデッドが生み出される。

 死者は単純な数依存。つまり無力な一般人が殺されれば殺されるほど事態は悪化する。

 

 ガシャガシャと、スケルトンが骨を鳴らし行進し、ゾンビが腐臭を放ち歩いてくる。

 恐怖が伝播し──

 

「落ち着けぇぇぇ!!」

 

 声が響いた。

 アンデッドが奏でる音よりもはるかに大きい音。

 民衆の中から軽装鎧を纏った男が剣を掲げアンデッドの群に突撃する。

 

 誰もが──モモンガも目を奪われる。

 

 一線。

 

 雑兵のごとく、モモンガが講習で見たよりも鋭い一撃が、アンデッドに放たれた。

 

「落ち着けお前ら! 心を乱すな! 銅級(カッパー)は民衆の避難誘導! 鉄級(アイアン)銀級(シルバー)は避難民の護衛! ほらどうした冒険者共! 英雄になれるチャンスにグーたら見てるだけかぁ?!」

 

 冒険者の男が──イグヴァルジがあえて冒険者を煽るように叫んだ。

 

「上等だイグヴァルジ! お前だけにかっこつけさせてたまるか!」

「そうだそうだ! お前が一番英雄らしいぞイグヴァルジ! よくやったイグヴァルジ!」

「俺、この戦いが終わったらあの子と結婚するんだ──」

「お前の好きな娘この前結婚して子供出来てたぞ」

「もうマジ無理突撃する」

 

 冒険者が馬鹿みたいに騒ぎ出す。

 騒いで騒いで騒ぎまくり、眠っている──時刻は既に夜──民衆が起きるように騒ぐ。

 

「わ、私たちもイグヴァルジさんの指示に──」

 

 従おうと、ペテルが言い切る前に再びイグヴァルジが叫んだ。

 

「──おい! モモンガ! こっちこい!」

 

 イグヴァルジが名無しで指名する。

 誰だ、と周囲の冒険者の視線がモモンガに集まる。

 はてさて何の用か。モモンガは多少疑問を抱きながら、他の冒険者の視線を受け止めつつイグヴァルジの元まで向かう。

 

「何の用でしょう?」

「お前。確か<飛行>(フライ)使えるよな。ちょっと飛んでこの事態解決してくれ」

 

「──なんですって」

 

 それは誰もが予想できなかったこと。特にイグヴァルジという人間を知る者達ならば。

 

「この事態を解決できるのは俺じゃねぇ。お前だ。突如現れた第四位階を使う魔法詠唱者で、アルベドっつー美人の護衛が居るお前が最適なんだよ!」

 

 アンデッドが群れを成してやってくるのを視認しながら、イグヴァルジは言う。

 

「いいからいけ。こりゃ恐らく墓地から湧いて来てる。──あれはこっちで何とかするから、行け。アルベドさんも翼あるんだから空ぐらい飛べるだろ」

 

 視線を変える。空から響く羽ばたきの音へ。

 全員が見上げる。その先には骨でできた竜。最低でもミスリル級相応の難敵。骸の竜(スケリトル・ドラゴン)

 幾つもの人骨で構成された竜。首が異様に長く、尻尾も長いため範囲攻撃を放ってくる。

 それだけでなくあらゆる魔法を無効化し、並のモンスターを遥かに超える膂力を持つ怪物。英雄譚には必ず出る竜を模した存在。それが二体。

 ミスリル級冒険者であるイグヴァルジでは勝てない怪物。自身では勝てないとわかっていながらイグヴァルジはより多くを救うためだとモモンガに要請する。

 

「ふ、ふふ、ふふふふ──」

「お、おいどうした?」

 

 モモンガは笑う。

 

 ──なんて尊いのだと。どうしてこうまで輝けるのかと。

 モモンガでは持てない。鈴木悟ではあり得ない輝き。命ある者達の──否。"今"を。"未来"を生きようと藻掻く者達の輝きを、モモンガは見た。

 アンデッドとなり、過去に執着するモモンガでは持てない物。何処までも過去にしがみ付くモモンガが欲していたモノ。

 

「——アルベド」

「はっ」

「この者達と共にアンデッドを掃討しろ」

「御心のままに」

 

「では──<飛行>(フライ)。お気をつけて」

 

 そう言い残し、モモンガは飛んで行った。

 

 

 ■

 

 

「どうしたイグヴァルジ。お前らしくもない」

「うっせうっせ。俺だって少しは変わるんだよ!」

 

 モックナックの言葉に軽く返し、剣を振るう。

 思ったよりもアンデッドの数が少ない。

 規模は精々十数体程度。だが休みなく一定間隔で湧き出る。

 

(こりゃ墓地の放に誰かいるな。モモンガ──いや。他の戦士。となると他の冒険者か最近来たゼロか?)

 

 アンデッドが湧き出したにしては数が少なく、人為的──誰かが召喚しているにしては数が可笑しい。

 となれば墓地から湧き出てくるのを誰かが抑えていると判断する。

 ならばどうするか。

 

「おい! (ゴールド)数人墓地に行け! 大元はそっちだ! こっちの掃討終わったら行くから持ちこたえろ!」

 

「了解!」

 

 鞘を付けたまま剣を振るい、骸の竜(スケリトル・ドラゴン)の足を殴る。

 属性が斬撃から殴打に変わったことでスケルトンの持つ斬撃軽減を無効化し、純粋な殴打ダメージのみ与える。

 

 アンデッドである骸の竜(スケリトル・ドラゴン)は損傷しようが悲鳴一つ上げず、生者に襲い掛かる。

 華麗に武技回避で避けるも、頭上から二体目の骸の竜(スケリトル・ドラゴン)が襲い掛かってくる。

 

「ふん!」

 

 突如イグヴァルジの眼前にアルベドが躍り出る。

 バルディッシュを盾のように構え、骸の竜(スケリトル・ドラゴン)の突進を防ぐ。

 

「どっせい!」

 

 凡そ女性が出していいモノではない声を上げ、骸の竜(スケリトル・ドラゴン)の頭部を蹴り上げる。

 パラパラと骨が砕けるも骸の竜(スケリトル・ドラゴン)は気にせず翼を動かし空に逃げる。

 

「すまん。助かった!」

「お気にならさず。モモンガ様の命令を守っているだけですので」

 

(人間を守れ、か)

 

 モモンガの命令の意図を考え──まぁいいかとアルベドは思考を放棄した。

 主の命令に従うのがシモベ。ならば他のことは考えても、実行に移さなくていい。

 アルベドは知った。モモンガの真実を。ならばアルベドに出来るのは主の意を汲むことではない。すべきことはモモンガの命令に従うことのみ。

 進言や提案はすべきだ。だが"主の命令だろう"という思い込みで動いてはいけない。報連相は守るべき。

 

「追加来てる! モンスターのゾンビだ!」

 

 屋根の上にいるレンジャーが叫ぶ。

 アルベドの異形種としての視力でならばわかる。向こう側から追加のアンデッド──ゴブリンやオーガ。トロールに蟲のアンデッドが湧き出ている。

 

「なるほど。やはり人為的でしたか」

 

 街中にゴブリンやオーガのアンデッドが湧く。あり得ない。

 アンデッドは寄り集まれば上位種を生み出すが、特定種族の動死体(ゾンビ)等は生み出さない。

 ならばこのゾンビは何者かが魔法か<特殊技能>(スキル)を用いて作ったとアルベドは推測する。一応ここは異世界なのでユグドラシルの法則と違い出現するかもと頭の片隅には置いておくが。

 

「イグヴァルジ!」

 

 アンデッドの反対側から叫び声が上がる。

 声を上げたのはプルトン・アインザック。元冒険者であることから歴戦の強者の風格を漂わせる者。

 

「おう組合長! 悪いな、俺の判断で動かしちまって」

「いや構わないとも」

 

 アインザックについてくるようにイグヴァルジの仲間であるクラルグラや天狼。

 エ・ランテルの総戦力が揃った。

 

「よし! いっちょドラゴン擬き退治と行こうか!」

 

 イグヴァルジは叫んだ。

 

 

 かつて、イグヴァルジという男は英雄に憧れていた。

 子供の頃聞いた英雄談に憧れ、冒険者となった。

 それだけならばよくいる冒険者に過ぎない。だがイグヴァルジには才能があった。

 ミスリル級まで上り詰めれる才能が。

 

 そして現実を知った。

 

 竜帝国の建国に伴うモンスターの増加。及び王国の革命による治安悪化に伴うモンスターの台頭。

 ミスリル級冒険者であるクラルグラももちろん駆り出された。

 本人はこれを機に英雄になるのだと意気込み思い知ってしまった。

 

 "ああ、自分は英雄には成れないな"と。

 

 モンスターを容易く一刀両断する剛剣を持つガゼフ・ストロノーフ。

 幾千の敵に囲まれても容易く切り捨てるブレイン・アングラウス。

 群にして個。五人の冒険者が個人ではなく群──もはや一個の生命体とすら呼べる程の連携を用いて強力なモンスターを容易く……クラルグラの面々では苦戦。あるいは倒せないモノを倒す青の薔薇。

 

 実際に眼にしてわかった。追いつけないと。

 

 特に青の薔薇とブレイン・アングラウス。青の薔薇はたった数年でアダマンタイトにまで上り詰めたという天才。

 ブレイン・アングラウスは元はただの農夫に過ぎず、碌に剣の練習をしないで御前試合にて準優勝を果たした。

 "貴族のボンボンが、どうせ金に任せて装備を揃えたんだろう"という、蔑みは直ぐに消えた。

 如何に金で装備を揃えられたとしても容易く死ぬ戦場で知ったのだ。

 

 そして諦めた。自身が英雄になることは。

 

 

 ふざけるな、と思った。

 

 冒険者の世界は何処までも才能の世界だ。

 昨日まで笑い合っていた仲間が突如死ぬことや、突如現れた新人に容易くランクを越えられることが多々あるのが冒険者だ。

 血が滲むほど努力しようと、技術を身に着けても、いくら知恵を手にしても──才能の壁は越えられない。

 いわばレベルキャップ。絶対に越えられない壁。超えることが許されない断崖絶壁。

 イグヴァルジもまた、それを思い知った。

 

 そして、奮起した。

 

 ああ、確かに自分は英雄には慣れない。アダマンタイト級には上り詰めれない。

 

 だからどうした。

 ここで諦めてどうする。ならこれまでの人生はなんだった。挫折を味わうだけの人生か。何もしないで馬鹿みたいに包まってるだけの人生か!

 

 

 英雄には慣れずとも、その隣を歩くことはできずとも、その背を追いかけることは出来る。

 その背を守ることはできるのだと。

 

 民衆のようにただ"お願い英雄助けて"と懇願するのではない。戦友として共に戦うことができずとも、その背を守ろう。ただ前だけを見て進む英雄の、その後ろを守ろうと。

 イグヴァルジは奮起したのだ。

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