オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品   作:野生の生蛇

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第15話

 神殿。第一印象はそんなところか。

 墓地の中にあるのならば相応しい──されど日本人であるモモンガにとっては少々奇妙に感じる建物だ。

 超簡易的なナザリック、とでも言ったところか。石性の神殿。

 そこにモモンガが<飛行>(フライ)でやってくる。

 

「──なんだあれ」

 

(なぁにあれきっしょ)

 

 モモンガが<飛行>(フライ)で飛び、見つけた果てにいるのは元凶と思わしき男だった。

 禿げた頭部に上半身裸の体。周囲にはローブを纏った者達の死体。

 特徴的なのはその胸。胸には川にでも転がっていそうな人のこぶし大の石がハマっている。

 時折──一秒に一回、紫色の光を放つと共に脈動するそれは心臓のようだと思わせた。

 脈動と同時に紫色の靄を身体から吐き出す。明らかに人間ではない。

 

 そして何よりも気色悪いのは、モモンガにとって心地いい(……)こと。

 

 モモンガ(アンデッド)にとって心地いい力。つまりは負のエネルギーを発している。

 ならばアンデッドか、だがモモンガの<特殊技能>(スキル)である不死の祝福は奇妙な反応をしている。

 アンデッドと人間──定命の狭間。そのようにモモンガは感じ取った。

 

「誰だ?」

 

 胸に石のある男が二重の声で問いかけた。

 声にエコーがかかっているのではない。完全に一言一句同じタイミングで二つの声が発せられた。

 機械音声かと疑いたくなる程に正確に。

 

「この事態を解決しに来た冒険者だよ」

 

 ゆっくりと下降し、指でカランとプレートを鳴らした。

 

「ふん。銅級(カッパー)……だが第三位階を使いこなす魔法詠唱者、か」

 

 男が顔を歪めた。

 

「たかが魔法詠唱者一人で我をどうにかできるとでも思ったか!」

「できるとも、少なくともお前如きはな」

「いいだろう! 汝を殺し、世界を血で染めてやる!」

 

(俺血無いんだけどな)

 

 カジット・デイル・バタンテールと言う男が居た。

 母との再会を望み、歪み狂ってしまった男。

 

 その男を歪めた元凶。あるいはその一端。

 死の宝珠と呼ばれる、知性ある道具(インテリジェンス・アイテム)。数少ない──あるいは、この世界で彼だけの唯一の存在。オンリーワンとも言えるだろう。

 

 かの宝珠は死者の支配能力の強化と、生者──人間種に限定される精神操作能力を持っている。

 死の宝珠の望みじゃたただ一つ。"世界を死で満たすこと"その為にカジットの精神を歪め、己にとって都合のいいように利用した。

 そして弱点。死の宝珠はアイテム。誰かに使われなければ力を行使できない。

 

 そして、死の宝珠は"カジットと融合を果たした"。

 

 人間の思考能力の大半は脳に宿る。

 ごくまれに体だけ──頭部が無くなっても動くような例外もいるが兎も角脳が重要器官だということを死の宝珠は熟知している。

 

 そして、死の宝珠はカジットの脳を破壊した。

 脳を破壊し、思考能力を削ぎ落し──自身の思考能力を割り当てることで体を会得。カジットの自我を破壊し消えた中身に死の宝珠が入り込んだ。

 その為には膨大な負のエネルギーが必要。試算では数年かけて負のエネルギーを蓄積する予定だったがそれを大幅にショートカットすることができた。

 理由は勿論竜帝国である。

 竜帝国建国に当たる亜人種の暴動。モンスターの増加。これ幸いと戦地を回り負のエネルギーの回収。及びアンデッドの量産を果たした。

 カジットは信仰を捨てた神に祈りを捧げそうになった。

 

 今の彼はカジット・死の宝珠・バタンテールとでも言うべきか。第四位階の魔法をも使いこなす恐るべき存在である。

 

 なおモモンガは第十位階魔法を使いこなす最上位アンデッドである。

 

「魅せてやろう。死を支配する我の力を!」

「ふーん」

 

(死の支配者って、こいつオーバーロードか?)

 

 異世界の人間の力がどういう物か。モモンガは疑問を抱く。

 聞いた限りの生まれついての異能(タレント)や武技ではわからないことが多い。それに異世界の者は魔法を新たに開発することも可能だという。

 やはり実際に眼で見た方がいい。モモンガはそう判断しあえて相手を放置する。最悪アルベドもいるしヘーキヘーキと多少思考を放棄する。

 

「クリエイティブ・アンデッド! ダブル!」

「ほう?」

 

 見たことも無い。聞いたことも無いスキルにモモンガは流石に警戒する。

 クリエイティブ。クリエイトではない。更にはダブルと来た。ツインではなく。

 いったい何が起こるのか。沈静化に苛まれながら事態を見守る。

 

 死の宝珠の両隣から土を、死体を吹き飛ばし巨体が湧き上がる。

 地の底から這いあがるように現れたのは骸の竜(スケリトル・ドラゴン)。それが二体。

 何だこの程度かとモモンガが落胆しかけた時、更に死の宝珠が叫ぶ。

 

「シンクロアンデッドとぉぉぉ!」

 

 杖を掲げ、叫ぶ。

 二体の骸の竜(スケリトル・ドラゴン)がバラバラに──ただの骨に戻る。

 戻った骨は死の宝珠の頭上に集い、新しく体を構成する。

 

「見るがいい! これこそが我の力だ!」

 

 わはははと叫ぶ。

 

「——面白い力だな」

 

 少し──いや。本気で欲しいなとモモンガが呟いた。

 

 融合し、現れたのは骸の竜(スケリトル・ドラゴン)

 だがサイズが一回り大きくなり、翼が一対増え、眼球部分も増加した。

 体積的には小さくなったのか、体部分の骨はスカスカに見える。

 

 あえて言うのならば骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)とでも言ったところか。

 骸の竜(スケリトル・ドラゴン)が持つ斬撃軽減。刺突無効に第六位階までの魔法の無効化。

 それだけにあらず単純なステータスの増加。竜ならば必ず保有しているドラゴンブレスの会得。と言ってもアンデッドなので負の属性のブレスだが──それを会得した。

 難度換算にして九十相当──少なくともアダマンタイト級でなければ戦うことすら許されない強力無比なアンデッド。

 まさしく最厄。ドラゴンブレスは長範囲攻撃。上空という来れる者が限られる場所からブレスを放てば誰も対処できない。

 これ一体でエ・ランテルは滅び、アンデッドが跳梁跋扈する死の都市と化す。

 更にオリハルコン級相当の魔法詠唱者である死の宝珠もいる以上倒すのは並大抵の者では不可能。

 幾つかの情報系魔法を使い、それらを把握したモモンガは歓喜した。ユグドラシルでは存在しない──否。存在しえないアンデッド。

 同じアンデッドを融合させることで上位のアンデッドへ変貌させる。なんという素晴らしい力だと感動すら覚えた。

 まぁ

 

暗黒孔 (ブラックホール)

 

 モモンガの前では等しく雑兵に過ぎないが。

 

「は?」

 

 モモンガがぽつりとつぶやき、虚空に小さな穴が生まれる。

 骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)の頭部の少し前に生まれた穴は急速に肥大化し、骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)を吸い込む。

 塵一つ──骨の欠片すら之小指、骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)は消えた。

 

「は?」

 

 上を見る。下を見る。もう一度上を見た。

 

「は?」

 

 再度、死の宝珠が間抜けな声を出した。

 

「──え?」

 

 理解が出来ない。

 骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)は魔法無効化能力を──厳密には第六位階までの魔法無効化能力を持つ。人よりも長い時を生きる──道具が生きるというのは正しいか不明だが──兎も角死の宝珠はそれを知っていた。

 そして、骸の魔竜(スケリトル・ドラゴン)は魔法によって倒された。それはつまり。

 

 目の前の魔法詠唱者は、最低でも第七位階魔法を使う超越者だということ。

 

 ぞっと、死の宝珠にはないはずの恐怖が湧き上がった。

 

 いったいなんだ、これは。こんなことがあっていいのか? 

 

「さて。お前が今回の首謀者だな?」

 

 確認の意を込めて、モモンガが呟いた。

 それに反論するように死の宝珠が叫ぼうとするも──

 

 現断(リアリティスラッシュ)

 

 空間を裂く刃が、死の宝珠を盾に切断した。

 

「──使う力の割に弱かったな」

(うーん。特殊能力超特化型か? 殺すのはちょっと惜しかったかな)

 

 こうして死の宝珠はその力の全容を明かされることも無く、破壊された。

 

 

 

 

 

 

 ■

 

「俺は……休むぞ……!」

「え、あ、はい。どうか休んでてください」

 

 ところ変わって墓地の門。

 救援に駆け付けた金級(ゴールド)冒険者を見て、たった一人で戦っていた者──ゼロは、地面にしゃがみこんだ。

 一時の休息……ほんの少し経てばまた戦いの日々……それらを忘れて休む。

 

 金級(ゴールド)冒険者と言えど四パーティ程。これならば撃ち漏らし無く戦い続けれるだろう。

 事態解決に赴いた魔法詠唱者もいる為数分か数十分待てば終わる戦いだ。ならば少しぐらい休んでもいいだろうとゼロは休む。

 そのはずだった。

 

「──ちっ」

 

 無駄に良い自身の耳を呪い、立ち上がる。

 <特殊技能>(スキル)は用いず純粋な身体能力を持って拳を突き出す。

 なんだ、という冒険者の反応を置き去りにし、丁度胸を貫かんとしたスティレットを弾く。

 

 きゃは、という可愛らしい女の声が響いた。

 

「ふん。趣味の悪い女だな」

「えー、そうかな?」

 

 気づけば──ゼロ以外──女が居た。

 ビキニアーマーを纏った金髪のボブカットの女だ。

 余程スタイルに自身があるのか、あるいはただの気狂いか。

 ビキニアーマーはよく見れば冒険者のプレート製。

 銅から金。中にはミスリルやオリハルコンすら混じっている。

 自分で狩って手に入れたか、あるいは裏ルートで入手したか──ゼロは先ほどの一撃と元裏の人間という知識を元に自分で狩って手に入れたと判断する。

 つまり、この女は最低でもオリハルコン級の強さを持つ。

 

(もうやだおうちかえりたい)

 

 尚お家はアンデッドによって綺麗に破壊されている模様。

 

「で、今ならさっきのはただの間違いってことで無視してやるが?」

(頼むこのまま何処か言ってくれ休ませてくれちくちょう!!!)

 ゼロの祈りは無視され、女が挑発する。

「はぁー? 何その言い草。マジムカつくんだけど」

 

 きらり、とオリハルコンでコーティングされたスティレットを掲げた。

 

「しっかし、かの六腕がこんなところにいるなんてねー?」

 

 女──名はクレマンティーヌ。

 元漆黒聖典所属の者。

 スレイン法国が誇る最強の部隊。一人一人が最低でも英雄級──アダマンタイト級に匹敵。あるいは上回る実力者しかいない部隊。

 今でこそ漆黒聖典時代の装備──マジックアイテムの類は全て無いが、それでも幾つかのマジックアイテムは彼女のコネで入手している。

 それこそ単純な戦闘力ならばかのガゼフ・ストロノーフにも匹敵する。

 

「それは昔の話だ!」

 

 どん、と地を蹴りゼロが駆けた。

 武技も何も使わない身体能力。技術も何もないがそれでも金級(ゴールド)冒険者では視認すら出来ない速度。

 しかしクレマンティーヌは直撃する寸前。コンマ一秒でもずれれば当たるタイミングで器用に回避する。

 こちらも武技でもなんでも無い。ただの技術とステータスによるごり押し。

 

「何をぼさっとしている! アンデッドを倒せ!」

「は、はい!」

 

 すごい、と感動を覚えた冒険者に対しゼロが叱責する。

 今だアンデッドは無限に湧き出ている。放置すれば最悪どころではない。

 更に今は最高戦力であるゼロが抑えられている。一歩でも間違えれば街が滅ぶかどうかの瀬戸際だ。

 

 ガンガンとスティレットと拳を交差させる。

 アダマンタイトすら砕くと自負する拳とスティレットが衝突できるのは偏にクレマンティーヌの技能。

 正面衝突を裂け、スティレットを迎え撃つ。

 単純なスピードでならゼロが負けている。攻勢に出ようものならその首を跳ね飛ばされるとゼロは理解した。

(クソ! 俺と同等──アダマンタイト級の相手だと?! ならあっちはどうだ?! あの仮面つけた魔法詠唱者は無事か?!)

 

 ゼロは焦る。

 アダマンタイト級が一人、ここにいるということは首謀者は最低でもアダマンタイト級相当。かつ護衛か何かでもう一人ぐらいいても可笑しくはない。

 ゼロはモモンガの実力を知らない。

(実際に解決するまでどれくらいかかる? 持つか?!)

 

 金級(ゴールド)の冒険者ではやはり実力に不安が出る。

 十数分なら持つだろう。だが三十分、一時間と持つか? 

 更にアダマンタイトをこんなところで──街中に放たずゼロを抑えに来ている。つまりは相手は情報の入手にも長け、かつこのような所で戦力を投入できる余裕を持つということ。

 

 ゼロは疲弊している。

 これまでの過労にアンデッドと戦い続けた疲労。それらが蓄積している。

 故に焦る。素早く解決しないとこの都市が──最悪、国が滅ぶと。ゼロにしてみれば王国が滅ぼうがどうでもいいが必ず自分はその滅びに巻き込まれる、死んでたまるかと奮起する。

 

 一方クレマンティーヌも焦っていた。

 

(クソ! こんなところでゼロと遭遇とかついてねぇ! 仕事しろよ社畜が!)

 

 クレマンティーヌは元漆黒聖典。つまりは国の暗部ともいえる。

 故王国や帝国の実力者等は把握している。自身と同等──漆黒聖典級の者は六人。

 ガゼフ・ストロノーフ。ブレイン・アングラウス。青の薔薇。そしてゼロ──

 革命に伴い隠れていた、あるいは未発掘の戦士が王国に次々と現れたのだ。

 

 クレマンティーヌは脱走者。国の暗部を知っていて、かつ国の秘宝を盗み出した大罪人。

 この騒動──クレマンティーヌの同僚ともいえるカジットが起こす騒ぎに乗じて王国に潜む風花聖典──俗に言うスパイ──の追跡を完全に振り切り、自由の身になるつもりだった。

 だがここにゼロが居る。そのせいでアンデッドの大群は街を攻め落とせない。

 空を飛べるアンデッドである骸の竜(スケリトル・ドラゴン)がいるが骸の竜(スケリトル・ドラゴン)もミスリル級ならば充分倒せる程度。

 更にエ・ランテルにはミスリル級冒険者チームは三つもある。倒されても可笑しくない。

(カジッっちゃんも可笑しくなるしほんとついてねぇなぁ私!)

 

 クレマンティーヌにしてみればアンデッドの大軍を邪魔するゼロを排除し、即刻アンデッドでエ・ランテルを攻め落とさなければならない。

 だがゼロが聞いていたよりも強い。遥かに。

 

「……しょーがないなぁ」

 

 ちょっと本気出す、とゼロから距離を取った。

 

「なんだ? 逃げるのか?」

 

 ゼロが拳を構え、挑発する。

 もはやゼロにとっても見逃せない。ここで逃せば多分俺の首が飛ぶ。物理的にとゼロは逃がさんと気合を入れた。

 クレマンティーヌは猫のように体をしならせた。

 顎と地面が当たるすれすれまで下げ、足はクラウチングスタートのように構える。

「<能力向上>、<能力超向上><疾風走破>──!」

 

 クレマンティーヌが自身が使える最高最善の武技を使う。

 

「<能力向上>、<能力超向上>──!」

 

 それに合わせ、ゼロもまた武技を発動した。

 

 使ったのはどちらとも単純なステータスの強化。だが強者である二人が使えばその力は何処までも向上する。チラ見した冒険者は空間が歪んだように感じた。

 

 数秒の沈黙。二人はアンデッドの音を、戦いの音を無視し、お互いだけを認識する。

 

 そして──駆けた。

 

 超スピード──常人では視認できず、例えミスリル級であろうと把握できない速度。

 スティレットを構え、突き刺すように駆ける。

 一撃必殺の拳と一撃必殺の刺突がぶつかり合った。

 スティレットは本来ならば拳が貫かれる程の威力。それをゼロはモンクとして鍛え上げた拳を信じる。

 ぶつかり合い、衝撃波が発生し風が吹き荒れる。

<流水加速>

 

 クレマンティーヌが先に武技を発動し、ゼロの拳から逃れた。

 更に跳躍し、ゼロから先ほどと同じように──二十メートル程離れた。

 

「——マジヤバいね、お前」

 

 ふー、とスティレットを手で転がす。

 罅が入っている。ミスリル製。かつオリハルコンでコーティングしたスティレットが。

 

(──ちっ。どうするか。逃げる? けどなぁ)

 

 自身の能力を行使すれば逃げることは容易い。だがその後は? 

 風花聖典はクレマンティーヌを追うだろう。彼らとて無能ではない。クレマンティーヌの知覚の範囲外から、ゆっくりとその手を伸ばして。

 そうなれば追撃の漆黒聖典の者が来て終わる。クレマンティーヌの勝機はただ一つ、この都市で死の螺旋を──アンデッドが跳梁跋扈する地に変えることのみ。

 そうすれば戦闘力の無い風花聖典は全滅し、クレマンティーヌを追う者は誰もいなくなる。

 

(しゃーない、かけるか)

 

 ゆっくりと、同じように体をしならせた。

 

「芸が無いな」

 同じようにゼロもまた、構える。

 

 どん、とクレマンティーヌが駆ける。先ほどと同じ構図。

 だが数歩前で、クレマンティーヌが止まった。

 

 何を、とゼロが驚愕した一瞬。クレマンティーヌがスティレットをゼロに向けた。

「起動!」

 

 クレマンティーヌの叫びに呼応し、スティレットから魔法が放たれる。

 魔法蓄積(マジックアキュムレート)。ユグドラシルには存在しない魔法。

 効果は魔法効果を物質に込める、ということ。術者が決めたワードを唱えることで魔法効果を誰でも発動できるようにする、という魔封じの水晶の上位互換ともいえる。

 それをクレマンティーヌは切った。

 発動するのは第三位階魔法<火球>(ファイヤーボール)。拳大の炎の球体が放たれ、ゼロに直撃。

 

「っしゃぁ!」

 

 クレマンティーヌが叫ぶと同時に、ゼロが炎に包まれた。

 炎はゼロの皮膚を焼き切ることは出来ない。だが視界を封じ、多少の傷ならば負わせられる。

 

<流水加速><超回避>

 

 二つの武技を使用し、体の向きを反転させる。

 そのまま疾走。クレマンティーヌは振り返らずゼロから逃げ出した。

 

(後は賭けだ! 風花聖典がどうなるか賭けるしかない!)

 

 クレマンティーヌは勝利を確信した笑みを浮かべ、少しの恐怖で顔を歪ませた。

 ゼロから逃げるのは容易い。その後が問題だと心の中で叫んだ。

 クレマンティーヌ(漆黒聖典の隊員)が知っているゼロならば。

 

 

 ──シャーマニック・アデプト、という職業(クラス)がある。

 

 この職業(クラス)最大の特徴は、ユグドラシルには存在しえない職業(クラス)だということ。

 

 シャーマニック・アデプトは動物の力を使う職業(クラス)

 そう、動物の──異形種の力を使う職業(クラス)だ。

 

 ユグドラシルには存在しえない。

 人間種。亜人種。異形種と差別化がされているユグドラシルでは。

 仮に存在するならばワールドアイテムでも使って得る必要があるかもしれない。

 あるいはエクスリプス──とまではいかずとも、ワルキューレや忍者の様な隠し職業(クラス)、上位の職業(クラス)に該当する。

 

 そして、ゼロはこれまで戦い続けた。

 同じ犯罪者から、無実の戦士と、亜人と、モンスターと──戦い続けた。

 その過程でシャーマニック・アデプトの力も行使した。というか使わないと過労死していた。

 そう、ゼロは膨大な戦闘経験と殺戮を繰り返した。

 結果起こるのは──レベルアップ。存在の上昇。

 

 ──シャーマニック・アデプトという職業(クラス)がある。

 

(パンサー!)!」

 

 ゼロが叫び、足が異形に──豹へと変貌した。

 その力は動物の──異形種の力の行使。

 

(隼ファルコン)!」

 

 再びゼロが叫び、その背から隼の翼が生えた。

 

 どん、と地を蹴り跳躍。その時に幾つかの<特殊技能>(スキル)も行使する。

 

 シャーマニック・アデプトの本来の力──ゼロがレベルを上げたことで会得したのは、異形種の力。

 単純なステータスの増加のみならず、異形種が持つ種族特性と種族技術の一時的な行使。

 

 背中の翼を器用に動かし、ゼロは飛翔した。

 高速──クレマンティーヌの疾走に追いつけるほどの速度。

 単純に走るのでは速度が足りず、武技を使っても即座に気づかれてしまう。故に飛翔。

 ちらり、と何かがはためく音を聞き、追加の骸の竜(スケリトル・ドラゴン)かと思ったクレマンティーヌが振り返り、絶句する。

 

「──は?」

 

 まるで天使のように羽ばたいたゼロを視認したクレマンティーヌは、ゼロの拳によって沈んだ。

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