オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
「これで終わりだ。女」
ゼロが勝利を確信し、笑みを浮かべた。
獰猛な猛獣の様な笑みだ。子供が見れば泣き叫びそうな笑顔。
「──あーあ。ここまでか。畜生」
はぁ、とため息を地に伏したクレマンティーヌが付いた。
「このアンデッドの軍勢を止めろ」
「えー? 無理。もう私じゃどうしようもできないし」
「なんだと}
「いやね? ホントは私ここに来るつもりなかったのよ。けどカジッちゃんが狂って私まで襲ってきたしー。もうどうしようもないっていうか?」
「……それは。つまり」
「魔ぁ正直に言うとカジッちゃん──この魔法を使ってる奴倒さないと無理。更に言うなら
「……クソが」
ゼロは動けない。クレマンティーヌを抑えなけれな成らないため。
ここで動けばこれ幸いとクレマンティーヌは逃げ出す。だがゼロが動かなければ事態は解決しえない。
クレマンティーヌでも倒せない──つまりアダマンタイト級以上の相手が首謀者。
そうなれば第三位階……
現状ゼロにできるのは祈ること。謎の仮面の魔法詠唱者が首謀者を倒す──あるいは、ここまで他の冒険者がやってくること。
それにはまず仮面の魔法詠唱者が倒されず、アンデッドの軍勢を金級冒険者で抑えられ、街から援軍が来るという複数の要素がいる。
(ここにミスリルじゃなくて金級が来た。ということは街にはもっとやばいの──
どうするべきか。何が最善か。
ここでクレマンティーヌと一緒に逃げ出しても後で追手が来て捕まるのがオチだ。やはりできるのは祈ること──
「えっ」
「なに?」
二人同時に、間抜けな声を出した。
突如、アンデッドが消えた。
全てが消えた訳ではない。だが幻の様に消える。
丁度冒険者が剣を振り落とした先に居たスケルトンが消え、地面を削るだけに終わる。
しかし幾体かのアンデッドは残っているが、数的には金級だけで相当できる程度。
つまりは。
(仮面の魔法詠唱者が首謀者を倒し、魔法を阻止した!)
召喚モンスターという物は術者が死ぬ──ないしは意識を強制的に失われると消滅する。
これが術者自身の意思で眠るなどは消えないが、睡眠の魔法等で意識が無くなれば消える。
仮面の魔法詠唱者が──あるいはそれ以外の誰かが、首謀者を倒しアンデッドを消した。
といっても状況的に魔法詠唱者一択だが。
「──これで終わり、かぁ」
詰まらない人生だった、とクレマンティーヌはぼやいた。
「……そうでもないかもしれんぞ」
ぼそり、とゼロが憐れみを込めた目で
■
クレマンティーヌは元スレイン法国──現竜帝国の一員だった。
六大神を崇める宗教国家。世界最古の人類国。
では、何故クレマンティーヌが脱走兵となったのか──それにはいくつかの要因があるが、それは置いておこう。
何故逃げれたか、となれば国の混乱に乗じたからだ。
突如起こった六人の大神官と竜王ラ―ドゥンの謁見。それに伴うスレイン法国の解体。
国民も六式聖典も大慌て。昨日までの常識は今日から非常識となり、法律もまた変わった。
特に大きいのはエルフの国との戦争とエルフの奴隷。奴隷は即日開放に治癒魔法で治し、元の一個人とされた。
亜人種の差別も廃止され、するものは皆処刑という重すぎる罪となった。
実際にエルフを奴隷のままにしようとしたものは竜王ラ―ドゥンによってその屋敷事──地位と家族もろとも踏みつぶされた。
そしてエルフの国との戦争の勝利。エルフの王デゲム・ボウガンは竜王によって食い殺された。
竜王にとっても「強者だった」と言わしめたが、そもそもエルフとスレイン法国が戦争できていたのはデゲムの存在が大きい。
なにしろデゲム・ボウガンはレベル70代以上──難度にして240を超える超越者を越えた存在。
確実に勝てるのはデゲムの子でもある番外席次ただ一人。それ以外は──たとえ漆黒聖典の者であろうと雑兵に等しかった。
そこに竜王ラ―ドゥンの参戦。首とつが難度300代の怪物。デゲム・ボウガンは灰となった。
そして起こったのはエルフの国との合併。
事実上エルフはデゲム・ボウガンの奴隷の様に扱われた。今更"国として独立して"と言われても政治もクソも無い。
そもそも長年の戦争で国は疲弊しきっている。国としての態勢すら維持できない程に。
エルフの領域には多種多様な魔獣も住まうが既にエルフ達にそれを維持できる戦力は無い。変わりに六式聖典が派遣された。
その他の政治をするためにも真面な政治家などおらず、スレイン法国に頼らなければいけない始末。
またダークエルフ達はトブの大森林への帰還を望み、竜王が承諾。
スレイン法国の上層部は全員が神の為──否。人生全てを人類の為に捧げんとする狂信者。故に寝る間も無い程の重労働箔でも何でもなかった。
だがクレマンティーヌは違った。
クレマンティーヌはやってもやっても終わらない狩りと書類仕事に悩殺され、家族コンプレックスだとかもどうでも──別によく放ってないが、そこら辺を考える思考リソースは無くなった。
確かにクレマンティーヌは弱者を甚振るのが好きだ。趣味と言ってもいい。
だが毎日毎日殺しても殺しても湧き出る雑魚を掃討するのは趣味と言っても問題がある。
肉が好きだからと一ヵ月三食肉を強制させられれば誰でも狂う。クレマンティーヌは元から狂ってたのでマイナスかけるマイナスはプラスの法則で正気に戻った。
元エルフの国への移動や物資の輸送。それに紛れてクレマンティーヌは罪を犯して逃げてきた。
そう。クレマンティーヌは元社畜。
故にわかる。わかってしまった。
ゼロの顔が──社畜と同じことに。
漆黒聖典時代。竜帝国に居た頃同じ顔をした者は多くいた。
主に下級の貴族や文官。給料がいいため地位を低いままにしていた者達と非常に顔が──雰囲気が似ている。
何もかも諦め、考えることが出来ず只々仕事をこなす者達。
だが何よりも恐ろしいのは、まるで仲間を──否。同じ地獄に落ちる同胞を見るかのような眼。
何だ、その目は。何故私を同胞の様に見る?
クレマンティーヌは知らない。ゼロが何故国家に取り込まれたのか。
大方金で雇われでもしたのだろうと、法国の者達で結論が付いた。王国における戦力として犯罪者としても貴重なのだから。
それは正しい。だがクレマンティーヌは知らなかった。王国の悲惨な現場を。
倒しても倒しても終わらないモンスター。足りぬ文官による次々と湧き出る書類。足りぬインク。
ゼロ達六腕の日々は社畜。幾らやっても終わらない仕事に悩殺される日々。
そんな中仕事が出来る者は重宝される。正に馬車馬のごとくという言葉が正しい程酷使される。そもそもが犯罪者だ。人権なんて無いに等しい。
だからゼロは思う。この女も自分と同じように首輪をつけられ社畜にされるのだろうと。同じ職場で上司に愚痴を言い合う中になるのだろうと。
ゼロは祈った。こいつみたいな力のある犯罪者めっちゃ出てきて仕事が楽にならないかな、と。
無理な願いであった。