オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
「いや殿下? 私の前で勧誘はちょっと」
「あら? 冒険者の引き抜きをしてはいけないというルールは無いですよ? アインザック組合長」
黄金の姫の主張に組合長が反論するも、たった一言で撃退される。
いやもっと頑張ってくれよ、とモモンガは願うが現実は残酷である。
確かに冒険者は政治に関わってはいけない、という規則がある。
だが別に冒険者を辞めて政治に関わりに言ってはいけない訳ではない。
事実としてレェブン候の配下は元冒険者である。彼らは冒険者を辞めた後レェブン候の私兵となった。
ならば在籍している冒険者を引き抜きしても問題ない。ラナーはそう主張した。
冒険者を辞めるのを禁止する規則などない。結婚や引退に伴い安定した人生を望み貴族の客将に迎え入れる者も多いのだから。
アインザックはそれに反論できない。確かに規則上では問題が無い以上引き抜きを辞めさせれない。そもそも相手は王族。反論など許されない。
「ちょっとー。何私の前で勧誘してんのよ」
そこにクレマンティーヌが不満を露にする。
「クレマンティーヌさんは犯罪者。モモンガさんは将来有望な人材。扱いが違うのは当然でしょう?
これが嫌だと言うのなら罪を消してなお余りある働きをしてください。罪には罰を。功績には報酬を。ごく当たり前のことです」
「いやまぁそれはそうなんだけど」
気持ちとしては納得できない、とクレマンティーヌはぼやいた。
「それで。モモンガさん、どうでしょう。魔法省での幹部地位に魔法の研究に関するバックアップ体制。王都の一等地の屋敷──簡単に上げればこの程度ですが。
貴方が望み。そして力を示してくれれば更に良い待遇で迎え入れますよ」
「……一つ。聞いてもいいでしょうか」
「なんでしょう」
「何故。私をここまで勧誘するのでしょう。私にそこまでの価値があるのでしょうか」
モモンガは客観的に自身の価値を判断する。
たかが第四位階魔法が使える魔法詠唱者でどこから来たのか不明の身元不明の怪しい人物。
仲間は宿の壁を破壊する野蛮人。この地の常識も何も知らない使う魔法に対し圧倒的に知識が足りていない者。
あからさまに怪しすぎる。そもそもこの世界の最高位魔法は第六位階魔法。それに二つも劣る程度の魔法しか使えない者を好待遇で迎え入れる必要など何処にあるというのか。
しかしこれは正しくない。
確かに身元不明で宿の壁を破壊した野蛮人擬き。だがそれを上回るメリットを持つ。
第四位階程度とモモンガは自重したが第四位階でも使える者が殆どいない魔法。
一般的な最高位は第三位階。第四位階はごく一部の天才が修練に修練を重ねて到達できる最高位。
かのフールーダ・パラダインの弟子たちは第四位階魔法に到達している。だがそれ以外の者達はほとんど到達していない。
つまりモモンガはフールーダ・パラダインに次ぐ実力者。更に僻地で研究していたという。ならば王国や帝国に無い魔法を知っていても不思議ではない。
確かに仲間のアルベドは少々野蛮だ。だが制御できない訳ではない。
それこそ帝国の皇帝であろうと竜王であろうと好待遇で迎え入れるだろう。それほどの逸材。
だがラナーにはもう一つ。喉から手が出るほど欲しい理由がある。
「そうですね。モモンガさんあなたは最低でも第五位階魔法──あるいは第六位階魔法が使えるのではないでしょうか? あるいは。それが使えるだけのアイテムを持っている」
違いますか、とラナーは付け足した。
何故、とモモンガが問いかける前にラナーが答える。
「先日のアンデッドの騒動。お聞きしました。アンデッドの群を焼き払う際に三つ。同時に同じ魔法を行使したとか。首謀者を倒した最。破壊が少なかったことも」
首謀者である死の宝珠はクレマンティーヌを上回る実力者だった。実際には相性さというのもあったがそれは事実。
そして魔法詠唱者の戦いという物は声が出る。魔法を発動する際どうしても詠唱が──叫ぶ必要が出る。
更にラナーが知っている限り魔法という物は破壊の痕跡が強く出る。
第四位階魔法を使える魔法詠唱者が、アダマンタイト級以上の者と戦って。無傷。更に戦闘跡等殆ど無い。
ならば首謀者が余程弱かったか。そんなことは無い。ゼロと対等に戦えたというクレマンティーヌが"勝てない"と断言した相手が弱い訳がない。
それにモモンガが倒したというアンデッドもまた可笑しい。本人の言や残った死骸から察しても余りも少なすぎる。
導き出される結論はただ一つ。
モモンガは最低でも第五位階魔法──あるいはそれ以上の魔法。あるいはラナーの知り得ぬ力を持つ存在だということ。
なるほど確かに。既存の魔法とは違うか上位の魔法を使えば戦闘など成立しえない。アダマンタイト級と銅級が戦いなど成立するモノか。
喉から手が出る程に欲しい。今の王国──否。竜帝国には魔法詠唱者というのは数が足りない。スレイン法国を取り込んだが主に信仰形魔法詠唱者ばかり。
魔力系や精神系なる系統の魔法詠唱者を竜王は望んでいる。それに従わなければならない。
逆らえばどうなるか。竜王国のビーストマンと聖王国がそれを物語っている。
命じられた訳ではない。ただそうぼやいたのを聞いただけ。
しかし竜王が望んでいるのならばそうすべきとラナーは判断する。自分の価値を高めるために。
(何処からともなく現れた魔法詠唱者。それはまるで……竜王様のようではないですか)
ラナーは天才だ。人の域を越えた超越者。
単純な肉体能力などでならば間違いなくモモンガやNPCには遥かに劣る。その程度の存在。
だが知能でならば。知略でならば勝る。
ラナーには足りなかった知識と経験。NPC達では手に入らなかった者。肩書が現実にされただけの者達では持っていなかった者をラナーは持っている。
そしてラナーは竜王と会合し。知ったのだ。歴史の裏の超越者を。自らをプレイヤーと称してきた者達の存在を。
ならばモモンガはプレイヤーか。あるいは神人のどちらかか。はたまた何も関係ない一般超越者か。
何しても都合が良い。そうラナーは思案する。ここで勧誘しない手は無い。受け入れられずとも"勧誘した"という事実が重要なのだから。
「──お断りします。殿下」
「……理由を聞いても?」
「そうですね……私は冒険がしたいのです」
「冒険。ですか?」
どういうことか。ラナーは思案を巡らせる。
冒険。言葉の通りの意味か。あるいは隠語か。
「見上げれば空は青く。下を向けば虫が飛び交う。
人が創り出した文明の火は絶えることなく継ぎ足され、苦境も人々は乗り越えれる。
空気は澄んでいて、食事もある。街を行く人々の顔には笑顔が絶えない」
骸の魔王はまるで、懐かしむように。愛しいように語る。
「しかし世界は残酷。何処までも理不尽に溢れている。生まれながらの才能。地位。貧富の差──それらは決して変わることは無い。だが乗り越えることが出来る
足掻くことが許されている。その手を取り合い、前に進むことが出来る」
だが、とアンデッドは続ける。
「世界は広い。青い青い空の上には何があるのか。白き山脈の向こう側はどうなのか。伝え聞くドワーフの国。ミノタウロスの国家。ビーストマンの脅威が消えた地。
エルフが統治するという都市」
「私は空を見て、回りたい。そのために私は"冒険者"になったのです」
誰もが唖然とした。何を言っているんだと。
数分の沈黙。それが破れた。
最初に声を出したのはクレマンティーヌだった。
鎖に繋がれ、自由無き身のクレマンティーヌはくつくつと笑い声を漏らす。
「冒険。冒険、ね……あっははは! あんた面白いこと言うじゃん!」
まるで子供の用だと、クレマンティーヌは笑った。
次に、耐えきれなくなったかのようにアインザックが笑い出した。
「は、はははは! モモンガ君はそれを望むのか! 嗚呼、嗚呼なるほど。君程"冒険者"らしいものは初めてだ!」
その笑い声に、アルベドもまた微笑んだ。
分からないのはラナーとクライムのただ二人だけ。
"愛しか知らない精神の異形種"と"愛を求め。英雄に憧れる騎士"では理解できない。
冒険者というのは夢のある職業だと、誰もが一度はその扉を開く。
しかし大半は現実を知って辞めるだけ。
誰もが夢を見るのだ。誰も見ぬ迷宮に挑むことを。誰も知らない秘境へ潜ることを。
しかしそれは叶わない。世界にあるのは異形の脅威。無限に湧き出るアンデッドにモンスター。人間同士のくだらない政治争い。
それらを知って冒険者は諦める。真に夢があるのは子供ばかり。夢に憧れ一直線に進んでも結局は政治が絡んでしまう。人間という劣等種の
青の薔薇がいい例だろう。アダマンタイトという最上位冒険者に上り詰めた結果政治に、人に縛られ誰よりも囚われてしまっている。
それでもなおモモンガは持っている。そのことに二人は感動を覚えた。
誰もが持っていても、世界という波風に晒され風化し、錆びついて仕舞う物。
それを第四位階を使いこなせる魔法詠唱者が知らない訳が無い。そもそも冒険者の実体は既に講習で知ってしまったはず。
それでもなお、モモンガは"冒険者になりたい"と言った。言うことができた。
その事に
「ということですのでラナー殿下。それにアインザック組合長──」
ちらり、とモモンガが横目でアルベドを見る。
アルベドはわかっています、と微笑んだ。
「私はただ冒険者として世界を見て回りたいのです。ですのでラナー殿下。私は国に使仕えることは出来ません。
アインザック組合長。私は時機にこの都市を出ます。まだ見ぬ未知を求めて」
「ああ、構わないとも。誰も君を縛ることは出来ないさ。自由にするといい!」
ははは、とアインザックは笑った。
恐らく見破られていたのだろうな、とアインざくっは乾いた笑みを最後に漏らした。
今のエ・ランテルは非常に危険。
冒険者と兵士。両方の戦力が減少。物資不足。
ゼロの活躍とモモンガの活躍により被害は最小ですんだ。だが街と人は無傷とはいかない。傷ついた者は数多くいる。
それらを守る為、民の精神的な不安から守る為アインザックはモモンガに残って欲しかったが──これでは無理だと諦めた。
何よりも自身が止めたくない。そう思ってしまった。
「そうですか……それは残念です。ですが我が国の門は何時でも空いています。貴方が望めば何時でも来てください」
「──あぁ”疲れた」
「お疲れ様です」
エ・ランテル。街中。
(いきなり姫様とか一般人にはハードル高すぎるが???)
牢獄から出たモモンガはシャバの空気が美味いとでも言いたそうに、外の空気を味わう。
「帰るぞ。アルベド。俺たちの家へ」
「はい。モモンガ様」