オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品   作:野生の生蛇

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第2話

 聖王国。

 長い──二百年の歴史を持つ大国。

 六大神でも四大神でもない神を信仰する宗教国家。

 民は成人と同時に徴兵され、数年間の軍属を強いられる。

 そのため帝国や王国と比べれば民一人一人が強く、有事の際には心強い戦力となる。

 今でこそ南部と北部に分かれ、対立している状態だがそれは史上初の女王が就任してからの話。

 いや、これまでもぼそぼそとした対立はあれど、ここまで表立って対立する事は無かっただろうし、ないだろう。

 何故ならば亜人という最大の脅威が存在するからだ。

 平和ボケし、身内で殺し合いしている帝国と王国以外の国々は亜人種という脅威を十分に理解している。

 亜人はあらゆる能力で人間種を上回っている。

 知能。技術。魔法。すべてにおいて人間は勝てない。

 ならばなぜ今人間がこれほど繁栄できたのか、という疑問が出るが──それを気にする余裕は無かった。

 

 そして聖王女カルカ・ベサーレスの統治は、なんの問題も無かった。はずだ。

 史上初の女王ということで問題もあれど、民が氾濫することも無く、犯罪組織によって国が蝕まれることは無く。

 亜人種については多少、「理解できるかも」という甘い考えこそあったが、締めるところは締めていた。

 ただ一つ、欠点があるのならば。

 

 それは、運が無かったことだろう。

 

 

 

 

 

「なんだ……なんだこれは!」

 

 

 

 

 武装した亜人連合が、首都である聖都にまで攻め入ってきている。

 オークとケンタウロスが共闘し、ミノタウロスとマーギロスが連携し軍を蹂躙せんと攻め入っている。

 平和に暮らしていたはずの民がゴブリンに生きたまま腹を裂かれる。

 ミノタウロスが斧を振り落とし、レンガでできた家々を破壊し、隠れ潜む幼子を食い殺す。

 普段通り大通りを歩いていてしまった者達は、その道を血で赤く染め上げてしまっている。

 それはいい、まだいい。

 だが、城が消えている。跡形も無く。

 

 氷の様に──正確に表現するのならばアイスだが、彼女はそれを知らない──溶けて、消えている。

 百年以上国の象徴として君臨し続けた城が、解けている。

 たまたま、運がいいのか悪いのか、城外に出ていた聖王国最強の聖騎士レメディオス・カストディオは城が溶けて消えるという悪夢のような光景を見てしまった。

 

「カルカ様は……無事なのか」

 

 思わず、自身の口から出た言葉だというのにハッとし、剣を手に走り出す。

 道中マーギロスもゴブリンもオークも切り倒し、家々の壁をぶち壊し、逃げ惑う民と指示を求める聖騎士を無視する。

 道中のあらゆる障害を無視し、最速最短で城の跡地にまで駆け抜ける。

 そして出会う。

 

「ふむ、この国の騎士か?」「他とレベルが違うな」「団長か?」「ナスレネから聞いた特徴と一致する」

 

 竜王。

 ふと、そんな言葉が相応しいと思ってしまった。

 何故気づけなかったのか──城が溶けているということに思考のリソースを割いてしまっていたからか、眼前に着くまで気づけなかった。

 

 城よりも大きい、巨大な爬虫類。

 頭部の一つ一つが下手な貴族の屋敷よりも大きいだけでなく、十も存在する。

 黒曜石の彫琢品のような漆黒の鱗。

 

 溶けて消え、されど元は城だったのだとわかる残骸の上に居座り、竜が──竜王ラ―ドゥンが、その十の首をレメディオスに向けた。

 

 

「お前が……やったのか」

 

「そうだ」

 

 レメディオスの問いに、竜王が軽く答える。

 

「お、ま、え、がぁぁぁ!」

 

 剣を振りかざし、聖剣の力を解放しようと死──

 

 

「邪魔だ」

 

 

 ぐちゃり。

 

 

 足で踏みつぶされ、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、今のが国家最強?」「あまりにも弱すぎる、別人ではないか?」「亜人共の力を観ろ、この程度でも脅威なのだろうよ」「えぇ? こんな雑兵以下が?」

 

 

 

 蚊のようにべちゃりと血を吹き出した死体を見下ろし、竜王が上位者として考える。

 その横に、女が一人やってくる。

 

「おめでとうございます、ラ―ドゥン様。これにて聖王国の北部はあなた様の物です」

 

 スゥっと、膝を付き忠誠を示す。

 

 

「うむ、次は南部だな」「待て待て、その前に戦力の補充だ」「この度の戦争で結構亜人が減った、数が足りぬ」「ふん、雑兵等いなくてもよかろう」「いやいや、戦力にはならずとも統治するのに駒はいるだろうよ」

 

 

 お前はどう思う、と最後に質問され、ナスレネは素直に答える。

 

「そうですね、ラ―ドゥン様なら南部も、帝国も王国も攻め落とせましょう──ですが仰ったとおり統治できる者が居りませぬ

 ですが聖王国を支配するに足る数はおります故、まずは南部を手に入れましょう」

 

 

「──ふぅむ、わかった」「では、明日には南部に向けて進軍を開始しよう」

 

 

 十の首が顔を上げ──

 

 

 

 

「ごべっ」

 

 

 

 

 一番右の首に、槍が突き刺さった。

 

 

 

「誰だ!!」

 

 

 

 残り全ての首が、頭上へと顔を向ける。

 

 竜王よりも遥かに遠い上空から、頭部に向かって槍を放ち、貫通させた。

 顔と台詞は怒りに染まっても、その心は冷静である。

 

(最低八十レベル、恐らく武器はレジェンドかゴッズ! ワールドは──ないな、だとしたら無効化できているはず)

 

 

「—──」

 

 

「なんだ? お前は?」

 

 

 そこに居たのは、白金の鎧だった。

 

 竜を象ったヘルムに、中身はさぞ大男だとわかる人にしては大きい鎧。

 周囲にはハンマー、大剣、刀が浮遊し、鎧にファンネルのように付き従っている。

 

「プレイヤーか?」

 

 

 返答はない。

 変わりに頭部を貫いていた槍が動き、鎧の元へ戻っていく。

 

 ぐじゅぐじゅと気色の悪い、聞く者すべてに不快感を与える音を鳴らしながら頭部が再生する。

 竜王にとって頭部へのクリティカルヒットは致命傷にはなり得ない。

 大ダメージこそはいるが、数秒で治癒できてしまう程度の怪我なのだ。

 

 

「ふん、答えぬのか」「死ね」

 

 

 八番目の首──城と城壁を溶かした首が口を開き、アシッドブレスを放つ。

 下手な合金や魔化された武具ならば容易に溶かすブレスは、鎧に当たることはなかった。

 当たる寸前に鎧が消え、上空に放たれたブレスが重力に従い落ち、聖都を溶かす。

 鎧は何処に行ったと視界を動かせば、アシッドブレスより斜め下に移動している。

 

「"世界断絶障壁"」

 

 溶ける聖都には目もくれず、鎧は腕を上げ、言葉を話す。

 

「なんだ?」

 

 聞いたことの無い魔法。

 鎧の言葉と同時に、大気が歪む。

 力の波動とでもいう物が広がり、鎧を中心に半径十数キロに及ぶ結界を作り出す。

 ラ―ドゥンが余裕をもって移動できる結界魔法。

 竜という知覚にすぐれた種族でなければ把握できない程に広大な結界だ。

 

(そんな魔法あったか?)

 

 ラ―ドゥンは魔法については詳しくない。

 精々が超有名どころとして超位魔法と第十位階の高火力魔法を知っている程度だ。

 低位階魔法は言わずもがな、それ以外にもバフ系等の魔法は一切知らない。

 だがそれでも、"世界"と名の付く力の異質差は知っている。

 

 

「ふん、何処の誰だが知らんがたった一人で我らに挑むとは」「余程死にたいらしいな」

 

 

 再生の終わった一番目の首が今度は口を開き、炎のブレスを放つ。

 

「光衣」

 

 

 今度はハンマーと大剣を動かし、鎧が自身の実を守ろうとする。

 

(そういえばナスレネどうなった?)

 

 ふと、部下はどうなったかと思考を回せば──最初のアシッドブレスの余波で死んでいた。

 他に連れて生きたバファルクやケンタウロスは既に逃げているのを視認した竜王は、まぁいいかと思考を鎧に戻す。

 

 

「ほう、耐えるか」

 

 

 十番目の首が、見下しながら鎧を見る。

 百レベルの竜のブレスでも、鎧は死ななかった。

 しかしながら守りに回した大剣とハンマーは融解し、鎧にも煤がついてしまっている。

 鎧はいまだ機能を保っているが、大剣とハンマーは武器としての機能は著しく低下しているだろう。

 少なくとも二割ほどは力が削がれ、斬ることも圧し潰すことも難しいはずだ。

 

「ならばこれはどうだ」

 

 次に四番目の首が電気のブレスを放つも、今度は飛行で避ける。

 

「ふん!」

 

 炎、冷気、酸──七つほどの首がそれぞれブレスを放つもすべて回避する。

 しかし完全な回避とはいかない。飛行だけでは回避できないのを浮遊する武器で防御し、時には転移で避ける。

 だが避けられた先は甚大だ、ブレスによって聖都が消し飛びれ隠れしのんだ人間が死に。逃げ遅れた竜王の部下が死ぬ。

 

 もはやここに一時間前は栄えた都市があったのだと言っても誰も信じないだろう。それほどの惨劇を竜王はブレスを放つだけで作り上げた。

 

 

「……何がしたいのかわからんな」

 

 ブレスを放たず俯瞰していた首がぼそりと呟く。

 言葉が届いたのか、鎧が止まる。

 

「……それはこちらの台詞だ、プレイヤー」

 

「──なんだと?」

 

 今度は竜王が驚く番だった。

 

 ゆっくりと、緩慢ともいえる速度で鎧が降下し、竜王の前に落ちる。

 

「都市を焼き滅ぼし、亜人を支配し、何がしたい?」

 

 その台詞に、竜王は涎を垂らしながら答える。

 

「何がしたいかだと?」「決まっている」

 

 全ての首が同時に言い放つ。

 

「「世界征服」」

 

「……あぁ、なるほど、だが──」

 

 くるり、と竜王の手によって九割型消し飛んだ聖都を鎧は見る。

 炎によって家々が焼かれ、冷気によって氷に閉じ込められ、酸によって奈落のような大穴が生み出されている。

 

「こんな破壊をする必要はあったのか?」

 

「あるに決まっているだろう」「力は示さなければな」「愚者という物はこのように力を見せなければ理解しない」「それに弱者共の悲鳴は最高だ!」「うむ、何もできずただただ死を受け入れる人間共の顔! 見るだけで面白いわ!」

 

「……はぁ?」

 

 

 鎧が、理解できないと声を上げる。

 

「うん? 何が可笑しい?」「この世は弱肉強食! 、弱者が強者によって弄ばれるのは道理よ」「うむ、我らは世界の理に従っただけよ」「都市を滅ぼそうが亜人を支配ようが別にいいだろう?」「我らには力がある、ただやりたいことをやっただけだ」

 

 

「……そうか、お前の言い分はよくわかった」

 

 

 全ての武器の矛先が、竜王に向かう。

 

「──死ね、プレイヤー。世界を汚す者。私はお前を許さない」

 

「何様のつもりだ小さき者!」「ふん! 力があるだけの小さき者が! 思いあがるな!」「殺す! 嬲り殺して縊り殺してその血で世界を染めてやる!」

 

 

 

 ──今ここに、竜王と真なる竜王の戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、塵屑だったな」

 

 ぐしゃり、と踏みつぶす。

 鎧との闘いは、終始竜王が有利でことが進んだ。

 確かに鎧はラ―ドゥンが見たこともない力を幾つも使ってきた。だがそれだけだ。

 見たこともないスキルや魔法を使う敵を、竜王は幾人も葬ってきた。

 そもそもユグドラシルにおいても特定の個人だけが使うスキルや魔法というのは左程珍しくはない。

 各個人が各々完全に違う種族・職業を取る以上、完全に同じ能力のプレイヤーというのは存在しにくい。

 そしてユグドラシルでは隠し職業や種族が非常に多く、専用のスキルというのは結構あるのである。

 有名どころではオーバーロードのThe goal of all life is deathやワルキューレのエインヘリアル等だろう。それらも一定以上の種族レベルや職業レベルが条件となっている。

 

「たかが見たこともないスキルを使うだけの敵」「我らの敵ではないわ」

 

 げたげたと竜王が笑う。

 だがこの勝利は、鎧側が本気ではなかったのもある。

 鎧側はこの戦いで勝てるなどと思っておらず、情報の入手に全力を注いだ。

 流石に鎧が壊されるのは想定外だったろうが──それでも、この戦いにおける真の勝者は鎧だ。

 既に竜王は鎧が完全に死んだものだと思い、油断してしまっている。

 鎧を踏みつぶし、破片がとびったというのに血が──中身が出ていないことに疑問すら抱いていない。

 更に鎧は手札を四つしか切っていないのに対し、竜王は各種ブレスに身体能力によるごり押し、再生能力等竜王の能力の大半が見られている。

 流石に奥の手は見せていないが、逆に言えば奥の手以外全部バレたのである。

 次戦うのであれば鎧はそれらに対し対策を講じるだろう。

 情報戦という意味でなら、竜王は敗者だ。

 

 

 

 

 

「ら、ラ―ドゥン……様」

 

 げたげたと一通り笑った竜王に、勇敢にも一人のバファルクが話しかける。

 

 

「ああ、すまなんだ」「進軍を再開するか」

 

「はっ!」

 

 不幸にも──幸運にも竜王の戦いの残場をわかってしまった哀れな豪王は、ただ頷くしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……これから先は、言うまでもないだろう。

 最強の戦士と国王を失った聖王国は、一月も経たずたった一人の竜王に滅ぼされた。

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