オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品   作:野生の生蛇

26 / 30
第26話

 遥か昔。人の国が七つあった時代。人がまだ愚かではなかった時代のおとぎ話。

 

 

 ごうごうと風が吹く。

 目を開けていられない豪風。雪が舞い、塵が降り注ぐ死の世界。

 風の音と雪が風で抉れる音で自身の呼吸音も足音も仲間の気配も感じられない山脈にパーティが居た。

 

『うっひょー! さみぃ!』

 

 男が叫んだ。

 雪山だというのに軽装鎧──更には金属製。

 皮膚と癒着でもしそうだがしていないのはマジックアイテムだからか。あるいは着用者の能力が高いからか。

 

『叫ぶな! 耳に木霊する!』

 

 そこに女の声が男の脳内に響く。

 豪風の中会話できるのは魔法の力。風など無視して声を相手に届ける魔法──伝言の魔法。

 異世界に来たことで幾つかの魔法は変異した。

 伝言の魔法もその一つ。本来はただ相手に言葉を届けるだけの魔法は無詠唱で使うことにより口を開かずとも会話を可能にした。

 暴風で鼓膜が裂けそうな地では非常に有能。魔法が無ければ意思の疎通はままならないだろう。

 

『叫んでないで体を動かして。まだまだ先は長いんだから』

 

 そこに全身鎧──珍しい白金の鎧をまとった者が声を挟む。

 

『わかってるよ! けどこんだけ寒いと文句も言いたくなる!』

 

 がハハハハと男が豪快に笑い、女がまったくもう、と呟く。

 

 ざくざくと雪を踏みしめ、山脈を超えようと歩き続ける。

 新たな魔神を撃たんとする一党は。

 ──アルゼシリア山脈。人が踏み入れたことのない雪の山脈。

 誰も生きて帰ってきたことはないとされる地に一党は魔神討伐に赴いていた。

 このような地に魔神が何故来たのか──理由としては霜の巨人(フロスト・ジャイアント)でも支配しようとしたのか。

 いや。それ以外にもこの山で雪崩でも起こしてトブの大森林に被害でも与える気か。あるいは山脈をくりぬいて異形の楽園でも作るのか──兎も角放置は出来ないと一党は白い世界を進む。

 

 ──そこに。

 

 ぎゃ、という声が耳に入った。

 単なる聞き間違いか。気のせいか。されど声は幾度も響く。

 流石にただ事ではない、と一党の全員──リーダーである男と前衛の鎧。女魔法詠唱者の二人は陣形を組んだ。

 

「GYAAA!」

 

 雪の暴風を物ともせず。現れたのは白き竜。

 新雪のごとき純白。穢れ無き白。

 

 どこか蛇にも似た細長い体と被膜の付いた翼。

 雪に適合したドラゴン。霜の竜(フロスト・ドラゴン)

 

 そして何よりも──でかい。

 凡そ目算で十六メートル程。

 下手な一軒家の倍はある巨体。

 

(──まずい!)

 

 そこに、鎧が恐怖する。

 自身は問題ない。だが仲間たちがまずいと。

 仲間のうち一人は戦士。かつこのような──足場の悪い中での戦いは未経験。

 いや。経験があったとしてもこの条件は非常に厳しいと言わざる負えない。

 雪で足は滑り、暴風で視界は遮られる、

 仲間は更に最悪。魔法詠唱者という肉体的能力が低いのに加えこの暴風では飛行魔法で距離をとることすら出来ない。

 

 その事実にリーダーも気づき、さてどうするかと背中の剣を抜き──

 

「GIGYA?!」

 

 横から飛んできた斧が竜を襲った。

 竜の体が揺れ、大地に近づき──その翼で体を持ち直す。

 体を振るい、背についた斧を振り落とす。

 遠くの方──斧が飛んできた方角を向き、忌々しそうに目線を向け、直ぐに飛び去った。

 

「大丈夫か? おぬしら」

 

 何が起こったか把握できていない一党に声がかかる。

 暴風の中、なぜか普通に聞こえる男の声。雪を踏みしめる足音。

 

 子供よりは大きく──大人よりは非常に小さい体躯。

 長い髭と小さな体に力と熱を持つ種族──ドワーフ。

 身の丈に合わぬハンマーを背負う。鎧。斧。全てに一党全員が見慣れる文字が刻まれた装備を身に纏った生粋の戦士。

 

「──と、ここでは声が出せんか。まぁきけ。隠れ家……といっても洞窟がある。ついてこい!」

 

 がはは、と笑いこちらの返事を待たず進むドワーフ、一等は顔を見合わせ──ついていくしかない、とドワーフの背を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依頼についてお話しましょう」

 

 ──客間。

 長い長いテーブルに幾つもの椅子が置かれた長い部屋。

 明かりとして天井から<永続光>(コンティニュアル・ライト)の魔法が込められたマジックアイテムのシャンデリアがぶら下がっている。

 紅茶の入った湯あみも全てが木製なのはエルフのこだわりか。

 コップがあるのは青の薔薇とグレロッドのみ。モモンガとアルベドにはない。

 それだけならば嫌がらせにも思えるが実際は飲食出来ないからこそ。

 アルベドは普通に飲食できるが「主がしないというのに従者がとるわけにはいかない」と拒否。

 

「入ってください」

 

 グレロッドの言葉に反応し、木の根の扉が蠢く。

 入ってくるのは緑色の肌に子供の服を着た者。

 最弱の魔物の代表。ゴブリン。

 

「し、失礼します」

 

 ──言葉を話す。そのことにこの場の全員──アルベド以外が驚愕する。

 

「アーグ。あなたがここに来た経緯を話してください」

 

「わ、わかりました」

 

 ぎちぎちと体を動かし、緊張したままゴブリン──アーグは話始めた。

 

 

 

 竜王ラードゥンによるトブの大森林の平定。

 そこに住まう種族──トードマンやリザードマン。西の魔蛇などは竜王の配下となった。

 だがその支配を拒んだ者達。それがアーグの部族であり──大本である東の巨人であった。

 東の巨人であるグは偶々、竜王が森の魔樹──世界を滅ぼせると伝われるそれとの戦闘を見ていなかった。

 南の大魔獣と西の魔蛇は竜王を直視し、戦うとかそういう次元の存在ではないと降伏。

 自分たちを蟻の様に踏みつぶせるそれよりも遥かに巨大。異質。

 それを優に上回る巨体。森を消し飛ばす吐息。

 逃げるとか愚考。無意味。降伏以外生き残るすべはないと頭を垂れた。

 戦うことすらせず配下に加わった──東の巨人は南の大魔獣と西の魔蛇を臆病者と笑い、自らの勢力を持って竜王を撃とうと馬鹿なことを考えた。

 無論アーグたちも反対だがそこで逆らっても東の巨人に殺されるだけ。

 今は従い、気を見て逃げ出す。アーグはそう考え従い続けた。

 

 ──そんな時だ。異変が起こったのは。

 

 増やした配下の住処。ゴブリンやオーガの住まう場所として洞窟を掘っていた時。それは現れた。

 がちゃがちゃとつるはしで破壊した先もまた、洞窟。

 ほかの部族が掘った穴か。あるいはモンスターの寝床か。

 答えを言うならば後者。だが相手はとんでもないモンスターだった。

 

 まず、先遣隊──というよりは何も考えなかった東の巨人が洞窟の中に一歩足を踏み入れた。死んだ。

 突如現れた木の根に頭部を貫かれ死んだ。

 配下であるトロールもオーガも何が起こったかわからないまま。

 どういうことだと全員が混乱に陥り、木の根が蠢いた。

 東の巨人を貫いた木の根が急成長し、さらにトロールを貫く。

 トロール固有の再生能力も関係ない。抗うこともできず東の巨人と同じく死に至った。

 

 そしてアーグは一番最初。グが貫かれた瞬間「アッこれここにいると死ぬわ」と逃走。

 他のゴブリンやトロールの悲鳴を置き去り全力疾走で駆け抜けた。

 その先は偶々先遣隊として森を調査していたエルフと遭遇。

「殺さないで」と命乞いをしたところエルフも「殺しはしない」と拘束。グローリーホールへ連れ帰った。

 ──それが凡そ一週間前の出来ことである。

 

「皆様にはこの事態の調査。および可能ならば解決をお願いしたいのです」

 

「それは……きついですね」

 

 何が起こっているのか。

 青の薔薇のこれまでの経験から大体の推測──といってもこういうのはただのモンスターによるものと判断していい。

 新種か突然変異か。他所から来たモンスターか──経緯は兎も角モンスターなのはほぼ確定だろう。

 問題はそのモンスターの強さ。東の巨人を即死させる力を持つ……東の巨人がどれほど強いのかラキュースは知らないが部族の長となると難度60以上は確定だろう。

 それを即死させる存在となるとどれほど危険か想像もつかない。

 

「私たちとて直ぐに解決を、とは思っておりません。ただそのモンスターの活動範囲等を知りたいのです」

「なるほど……わかりました。最大限努力いたします」

 

 

 

 ■

 

 グローリーホール。大樹の下。

 生活の場が木の上や木の中という異質性か大地には何も無い。

 せいぜいが昇降用の階段が大樹につけられているだけ。

 エルフという狩りの種族。かつ元から人間主より身体能力の高いエルフは細い木の枝を足場にし跳躍し、上へ下へと三次元的移動を可能にする。

 ならば梯子や階段はエルフ以外──客人以外は使わないし、大地も訓練や薬草園等以外では利用しない。

 エルフならではの大都市といったところか。

 

 そして一党がゆっくりと階段を下りた先には案内役が居た。

 

「おお! そなた等が事態解決に赴く者たちでござるか!」

 

 ぶんぶん、と嬉しそうに尻尾を振るう異形。

 白銀の毛皮を持ち、狼の如く四肢を持つ魔獣。

 体には面妖な紋様を持ち、人の言葉を解する高い知能。蛇の尾を持つ者。

 森の賢王と恐れられし大魔獣。南の大魔獣と畏怖された者。

 

「それがしはハムスケ! よろしくでござる!」

 

 ふふん、と何処か誇らしげに名を名乗り、胸を張る。

 

「……ジャンガリアンハムスター?」

 

 モモンガの口から言葉が零れ落ちた。

 

「おお! 某の種族を知っているでござるか!」

 

 その言葉に敏感に魔獣──ハムスケが反応する。

 

「ああ。いや……かつての仲間が似た種族を飼っていまして……」

 

 おお、と一同──アルベドも含めて感嘆の声を漏らす。

 

「ふむ。その話は後で詳しく聞かせてほしいでござるが──」

 

 むん、とハムスケは向きを変える。

 

「まずは森の異変の調査からでござる。それがしについてくるといいでござるよ」

 

(ハムスターに案内されるとかなんかこう……変な気分だな)

 

 おとぎ話の中にでもいる気がする。

 そのようなことを考えながら一同はハムスケについていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。