オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
リ・エスティーゼ王国。
毎年バハルス帝国と戦争をしている大国である。
亜人という脅威も、魔物の脅威も無くぬくぬくと安全圏で発展し──腐敗してしまった国。
そんなある種悲劇の国の王城──ロ・レンテ城の奥深く。
王族が住む場所としては少々──平民からすれば充分以上に広い部屋。
そこに、二人の女と一人の男が居た。
二人はドレスを着た美女だ。
いや、美女というには二人ともまだ若い。
片方は幼く、年齢も十六歳と言ったところだ。
栄養が足りていなかったのか、成長が遅れているようにも見える。
もう一人の女は成長しきった、という印象を与える。
少女が女に変わる時期──とでも言えばいいのだろうか。
ドレスの隙間から見える肉体は鍛えられており、ただの貴族ではないことが伺える。
そして共通するのはどちらとも美しいこと。
街中を歩けば十人中十人が振り返るであろう圧倒的な美。
貴族に生まれたというアドバンテージ抜きでもわかる程の美貌。
まだ幼い方が、口を開く。
「──竜帝国?」
「えぇ、聞いたことない? ラキュース」
「……確か、聖王国を滅ぼした竜がそう名乗っている、んだっけ。ラナー」
女──ラキュースと呼ばれた方が確かめるように言う。
そうね、とラナーと呼ばれた女が肯定した。
「自らを『竜王』ラ―ドゥンと名乗り、聖王国を滅ぼし竜帝国なる物を築き上げたという竜……」
ローブル聖王国。という国があった。
史上初の女王、聖王女カルカ・ベサーレスが治めていた国だ。
そして聖王国はたった一人の竜と、竜が率いる亜人たちによって滅ぼされた。
現状その『竜帝国』がローブル聖王国を滅ぼし建国したと言いふらしている──ただそれだけしか情報が無い新国家。
その二人の会話に挟まることなく、腰に剣をささげた少年が聞いている。
「その国に、何かあるの?」
「何かある、というよりその『何か』を探して欲しいの」
「……つまり、件の竜帝国に行って欲しい、と?」
「えぇ、これは冒険者としての──史上最年少のアダマンタイト級冒険者であるあなたに、行って欲しいのよ」
軽い口調で言うラナーに対し、ラキュースは「うぅん」と悩む。
「……どうしたの? 相手は竜だから、問題は──」
「逆に竜だから問題があるのよね……」
ドラゴン。最強の種族。
聖王国を滅ぼしたと言いふらす竜──ただそれだけならば問題は無かった。
だが件の竜は「建国した」と言いまわっている。
これが問題なのだ。
ドラゴンスレイヤーはあらゆる物が夢見ることであるが、同時に"やりにくい"ことでもある。
単純に竜を倒せる実力云々ではなく、政治的な問題が絡むという点だ。
「アーグランド評議国のこと?」
「そう、ね」
ラナーが答えた。
アーグランド評議国。
五匹とも七匹とも呼ばれる竜が評議員を務め、王国から見て北西にある竜の国。
ある程度の──冒険者の行き来や交易こそあるものの、国家としての繋がりは非常に弱い国だ。
王国も評議国もお互いに興味がなく、何も言わずともされずともお互いに相互不干渉となっている国だ。
そして竜──竜帝国を築き上げたという竜王は、果たして評議国と無関係なのか?
竜帝国がもし、評議国と関りがあるのならば、王国は実質周辺国家全て敵に回した状態になった。
逆に関係がないとしても、竜王を名乗る物に評議国が何もしないとは考えにくく、下手に手を出せば藪をつつくどころか竜の逆鱗に触れることになりかねない。
評議国と竜帝国による挟み撃ち──それだけならまだしも、そこに帝国も攻めてこられたら王国は終わりだ。
これが悪魔やアンデッドなら話は簡単だった。
悪魔によって滅びた都市等は数は少ないけれどある以上、冒険者が依頼で討伐なり何なりしに行くことに問題は無い。
だが相手は竜、知性ある者。
もしも評議国と関りのあるのならば冒険者が公的……王国の王女からの依頼を受けて行けば政治的な問題を引き起こしかねない。
それも行くのが王国の貴族令嬢、更にアダマンタイト級の冒険者となれば猶更だ。
「だけど、それは依頼を受けて行けば、の話よね」
にっと、ラキュースが笑った。
「友達の頼みを聞いて、ただ観光しに行く──これなら何の問題も無いでしょう」
「──ありがとう! ラキュース!」
ぱぁっと、ラナーはその幼さに見合った笑みを浮かべた。
■
風が吹く。
まだ季節は冬に変わる前──ほんの少し生暖かい風が吹く場所。
王城の建設に当たって土を置く場所になったとか、転移魔法のマーキング場所だったなどと言われる場所だ。
平民の家々を見下ろせる程度には高く、王城や貴族の別宅を見るには見上げるしかない中間地点。
小さな草が踏みつぶされる音が、風によって遮られた。
「──イビルアイ、こんなところに居たの?」
少年──クライムに連れられ、王城を出た後。
仲間の「様子が可笑しい」という話を聞き、一人で何処かへ行ってしまった者を追い、ラキュースはやってきた。
地理的に風がよく拭く場所に、仮面を着けた者がいた。
額に結晶の付いた仮面。
全身を覆い隠す紅いマントに、手足を隠すかのような服。
まるで素肌を見られたくない格好をする、魔法詠唱者。
つい先日、ラキュースたちが打ち負かし仲間になった少女だ。
「……ラキュース」
「どうしたのよ」
どさり、と横に座る。
ドレスならば汚れてしまうが、格好は既にフル武装──冒険者としての格好に変えているからか、気にも留めない。
「……私たちに負けたの、まだ根に持ってる?」
「いや……そうじゃない」
しばしの無言の後、イビルアイが口を開いた。
「十三英雄の……リーダーの言葉を思い出していたんだ」
「十三英雄の?」
十三英雄。
かつて世界を魔神から救ったと言われる英雄たち。
実際には十三人どころではなく、もっといたと当事者たちが言う者達。
最後には神竜を倒し、世界を救ったと言われる"実話"だ。
貴族等はただのおとぎ話と断じているが、実際にあったことだとラキュースの愛剣や目の前のイビルアイが証明している。
「リーダーが話してくれた……ゆぐどらしるの話に、"竜王ラ―ドゥン"があったんだ」
「え」
ラキュースの疑問を他所に、イビルアイは沈黙を破り話始めた。
「ゆぐどらしるで上位に数えらるぷれいやー……幾千の傷を負っても瞬く間に治し、どんな魔法も剣技も無意味とする"吸血鬼の王『ハルコン』。不死の軍勢を作り出し、使役するだけでなく何百人というプレイヤーを抗うことを許さず即死させた"死の超越者"『モモンガ』。力に溺れ何百というぷれいやーをたった一人で虐殺した"傲慢の魔王"。幾人ものプレイヤーが挑み、敗北した"竜王"『ラ―ドゥン』……これは偶然だろうか」
「──」
絶句。
その名は先ほどラナーに言われた国家元首と同じ。更に二つ名まで一緒だ。
これをただの偶然と断じるのは余りにも愚かだ。
「つまり相手は……神話の存在?」
「かも……しれない」
イビルアイは二百年以上の時を生きる大魔法詠唱者であり、歴史の生き証人であり──神話を知るもの。
"リーダー"の話を聞いた者は数いれど、ここまで覚えているのは"白金の騎士"や"死者使い"ぐらいだ。
つまりは真実。
「……その神話の存在の元に、行くわ」
「──はぁ?!」
何処か上の空だったイビルアイが立ち上がり、声を荒げる。
「何を考えている?! 相手は竜王──幾つものぎるど……国々を滅ぼしたという超越者だ! 勝てるわけがない!」
「落ち着いてイビルアイ、私たちは何も相手と戦いに行くわけじゃないわ」
「なにを──」
荒ぶるイビルアイを落ち着け、話をする。
ただ諫めるだけでも五分程かかってしまったが。
説得に成功する。
「──そうか……国を見に行く、と」
「えぇ、表向きは──いや裏もないんだけど、私たちは"観光"という名目で竜帝国に行くの」
「確かに……観光するだけならば……問題は無いのか……?」
「いいや、あるとも」
二人の会話に、老婆の声が入る。
枯れた老木のような体。
魔法詠唱者らしくローブを纏った老人。
直ぐにでも老衰で死にそうな危うさと、今だ現在だと主張する大木のような存在感を併せ持つ者。
先日までラキュースの仲間であったアダマンタイト級冒険者──"死者使い"リグリット。
「……なんの問題が?」
「……まぁ、ちと問題というには違うかもだが……少なくともインベルンの嬢ちゃんは行くべきじゃあない」
ここだけの話だが、とリグリットが前置きを言い、意を決して言う。
「つい先日、ツアーが件の竜王と戦い……敗北した」
「え」
「──そんな馬鹿な! ツアーが……負けたのか?!」
「といっても鎧の、じゃがな……それでもワシや嬢ちゃんが勝つとか負けるとかいう次元の相手ではない
相手にすることすら烏滸がましい存在……それでも、なお」
「それは、敵対するという前提じゃない?」
そこにラキュースが、待ったをかける。
「……ふむ?」
「その竜王と戦いに行くわけじゃない、ただ私たちは偶々、偶然にも聖王国──現竜帝国に友人が居て、友人の安否を確認しに行くだけ……ほら、戦うも何もないでしょう?」
「詭弁じゃな、竜王がそれに気づかぬはずがない。いや気づかなかったとしても竜王の鼻息一つ──敵対するという意思もなく、ただ寝返りをするだけで死ぬぞ」
「それはもうどうしようもないんじゃない? 病気や事故でいつ死ぬかわからないように、何をしてくるかわからないから近づかない、なんて街を歩けば殺人鬼がいるかもしれないと恐怖するのと同じ。どんな存在かもわからない竜王を恐れてたら何もできない。
それにリグリットやイビルアイの話が本当なら、今この瞬間に竜王が攻めて来ても可笑しくないんでしょう?」
その言葉にリグリットが面食らう。
一拍置き、盛大に笑う。
「嗚呼なるほど確かにその通り! 何もわからぬ恐怖に縛られればできることも出来なくなるか! いいじゃろう──
ワシも連れていけ! 竜帝国に!」
■
「で、結局ばあさん冒険者辞めないのかよ?」
「なぁに、これを最後に辞めるとも!」
わはは、と軽快に笑う。
「そろそろ国境を抜ける」
「要警戒」
「わかったわ、ティナ、ティア」
御者席から忍者の恰好をしたものが顔を出し、一言だけ言うとすぐに引っ込んだ。
ラキュースたち青の薔薇は現在、馬車で移動している。
御者はティナ、周囲の警戒にはティアという忍者──俗にいうシーフが当たっている。
「しかし……何処も馬車を出していないとはな」
「まぁ、仕方ねぇよな」
今使っているこの馬車は、青の薔薇が自費で買った物である。
馬車だけでなく、馬二頭も購入した。
流石にアダマンタイト級といっても、まだなったばかりである青の薔薇には少々痛い出費だが必要経費と割り切ることにした。
「ま、滅ぼされた国へ行こう者など、いる訳が無いわな」
男のようにしか見えない、がっしりとした体躯の者──ガガーランが答える。
当初、青の薔薇は普通に馬車で移動しようと考えていた。
道中亜人たちがいるアベリオン丘陵を通るとは言え、ある程度商会などの交易はあったのだ。
その移動への護衛依頼等を受ける、もしくは普通に乗合馬車でも使う予定だったが……なんとまさかの全て停止。
冷静に考えれば出てるはずがない。行き先は滅ぼされたという国なのだ。
余りにも奇妙すぎる国なうえ、道中亜人の脅威があるとなれば誰も彼も勇み足となる。
無論国へ行くのに危機を上回るメリットでもあれば別だが──それを判断する方法がない。
結果青の薔薇は大金を払って馬車を買うしかなかったという訳だ。
「──鬼ボス、奇妙」
「鬼ボスは余計……どうしたの?」
「既に地図上ではアベリオン丘陵に入ったはず。だけど亜人たちが見当たらない」
「──なんだと」
亜人が見当たらないというのは明らかな異常だ。
影も形も見当たらないという異常。
ここは亜人の領域。人が踏み入れる地だ。
知能の低いゴブリンなどは後先考えずに襲ってくるし、そうでなくても亜人たちはおの丘陵全域に生息している。馬車が通るとなれば亜人たちはある程度見てくるはずだ。実際に襲撃する市内に関わらず。
「ふむ、さてどうするか」
「いえ、このまま進みましょう」
「ほーん? その訳は?」
「何があったせよここで時間をかけていられない。亜人の襲撃がないのは好都合。一気に駆け抜けるわよ」
「了解、食料にも余裕がないからの」
今回、青の薔薇は馬車一台で移動している。
となれば当然、持ち運べる物というのは減ってくる。
ラキュース、ティナ、ティア、イビルアイ、ガガーラン、リグリット。
うち一人は食事の要らない種族だが、それでも五人分となれば生活必需品は大量にいる。
ある程度の塩と水はスクロールで代用できるし、リーダーが残したというマジックアイテムで通常よりアイテムを運べるが、それでも限度がある。
旅となれば道中の衛星事情等も考えなければならない花の乙女なのだから。
──そうして馬車で移動すること数日。
青の薔薇は道中亜人にも魔物にも襲撃されることなく、目的地に着いた。