オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品 作:野生の生蛇
「お前がラキュースか」「小さいの」「まだ若い」
「は、はい……」
でかい。
なぜこれほど大きい存在をこれほど近くづかなければ視認できなかったのだろう。
竜の城に招かれ、皿の上にやってきたラキュースはそう思う。
俎板の鯉──というよりは皿の上の鯉状態だ。
そして同時に、怖い。
何も感じないことが。
ここまで近づいてもラキュースは何も感じなかった。
確かに目に映る、声が聞こえる、呼吸音がする。だがそれだけだ。
強さがまるでわからない。
ラキュースは冒険者として戦っていくうちに、相手の強弱という物が解るようになってきた。
自らより強いイビルアイもリグリットも強さが解る──差が解る程だった。
戦えば勝ち目がないのだとわかる。だが目の前の竜にはそれがない。
人が空の広大さを理解できないように。山脈の偉大さをわからないように。
ラキュース(人)では竜王の力を把握できない。
「この姿では対話しにくいか」「しばしまて」
閃光。
眼を開けていられず、閉じてしまう。
光が収まった後、そこにいるのは一人の女だった。
妖艶な美女という言葉が似あう容姿。
染み一つない──人形のような精巧な容姿と、生きた人間の……ラナーやラキュース自身のような生物だからこそ出せる妖艶。
身長も非常に高い。男の戦士よりも同等か、もしくは少し高い程の──数字にして180cm程の長身。
胸と尻。女性的な部分が出ているがふくよかという訳ではない。きっちりと整った体だ。
紅の髪に黒い、深淵を思わせる黒だけの眼球はラキュースに恐怖を与える。
頭部には山羊のような黒い角。尻には黒い蜥蜴の尻尾がついている。
それが人となったラ―ドゥンであった。
そして全裸。
「え、え、あの、その」
たじろぐ。
国家元首の裸──そんなものを一介の冒険者に見せていいのだろうか。
これが太ったおっさん等ならともかく、相手は非常に整った容姿の者だ。同棲のラキュースならば問題は無いが。
嫉妬や渇望が湧くよりも素直な賞賛が先に出てしまう、誰もが認めざる負えない美貌の持ち主。
「では、こっちにこい」
「は、はい」
何処からか布を取り出し、纏う。
少々全裸よりエッチでは? という思考と完全武装したままなんだけどという混乱の元、ラキュースは慌ててついて行った。
■
「さ、かけてくれ」
「失礼します」
連れられた先は普通の部屋だった。
実用的と言えばいいのか、あるのは机と椅子のみ。
壺や花瓶などはなく、装飾品が一切ない部屋。
王が使う部屋となればそれ相応の彫琢品が必要になるはずだ。
これは何もただ贅沢をするという訳ではない。
彫琢品という物はそれ時代が"自分はこういった物を用意できる"という力。"自分にはこういった物に価値があるとわかる"という頭脳を示す重要な物だ。
(……相手が竜なら、違うのかしら)
ぶんぶんと、背もたれにある専用の穴から尻尾を出し、振り回す国家元首を見る。
「……? どうした? 紅茶は嫌いか?」
「い、いえいただきます」
いつの間にかメイドが居り、紅茶を入れられていた。
それほどまでにラキュースは混乱している。
竜が──異形が人の姿になる。
あり得ない。そう断言できる。
確かに人に近い姿の亜人や異形はいるだろう。だが竜が人になる? あるわけがない。
確かに一部の異形──悪魔などは人に近い姿になれる。だが竜がなるというのは聞いたことがない。
(いや──竜王国の女王は竜の血を引いている。なら人に成れても不思議はない?)
「……そんなに我等が人の姿になったのが変かな?」
「──あ、いえ……竜が人に成れるとは、知らなかったので」
「ま、我らは特別だからな……さて、話をしようか──」
何故、竜王は人に成れるのか?
これには大して深くも無い理由がある。
別にワールドアイテムの力でも、人化の指輪を持っている訳ではない。
では何故か──理由はそれほどたいしたことではない。
他のプレイヤーからクレームが来たのである。
如何にアイテムの力でボスになろうとラ―ドゥンとて一介のプレイヤーであることには変わりない。
自らを打倒した者達への報酬としてマジックアイテムを用意しなければならない以上、ダンジョンなどを攻略する必要がある。
それ以外にもメインクエストやったりするにもやはり町というのは利用しなければならない。
ダンジョン攻略に必須のアイテムの補充や情報の収集為利用しざる負えない。
そしてラ―ドゥンは体長170mの巨体。
そんな超巨大なプレイヤーが街に行けばどうなるか?
バグる。以上。
壁にめり込むだけなでなく未来でも生きているハヴォック神の怒りを買い上へ下へ飛び回るならまだしも家が透けてみることもしばしばある。
そういったバグが起こらずともそもそもがでかい以上他のプレイヤーが視界の邪魔になるし通ることもできない。
そして運営にクレームが行った。運営は今回の件だけなら泣いていい。
結果竜王は史上初の竜のプレイヤーというだけでなく、史上初の人化能力を持つ異形種プレイヤーとなったのだ。
ちなみにこの妖艶な美女の姿は運営が用意したものである。
なお運営には「やるじゃねぇか」「見直したぞ運営君」「こういうの作れるならもっとNPCのビジュアルマシに城」というクレームが行った。ロンギヌスで必要NPC消せるのやめてくれませんか運営。
無論制約はある。
スペックは単純な百レベルガチ構成の竜人種であり、戦闘能力はラ―ドゥン本来の姿とは滅茶苦茶劣る。
仮に専用のフルゴッズを揃えたところで半分にも満たない程に脆弱である。
そしてこの姿は街に入ると強制的に変身するというところ。
どんな街に入ろうと必ず強制的に変身させられるのである。まぁこれは当然と言えば当然だが。
「さて──では、"依頼"の話をしようか」
「依頼……ですか?」
「そうだ、我らの依頼といっても大したことではない。欲しいのは冒険談だ」
「冒険談……といいますと?」
「うむ、青の薔薇がこれまでどういった冒険をしてきたのか。それが知りたい」
冒険談。
実のところ、この手の依頼は結構来る。
ただの冒険者ならば兎も角ラキュースは貴族令嬢であり、第三王女とも親交のあるアダマンタイト級冒険者だ。
ミスリルになったあたりからこの手の話が来るようにはなっては来ていた。
だが大半はそれを口実にラキュースと繋がろうとするものや、息子や自分と結婚しないかという縁談が大半である。
中には「息子/娘にせがまれて……」と、本当に冒険談を離すだけの依頼もある。
依頼主の大半が貴族であるから実家であるアインドラ家にも迷惑が掛かり得ないと一応受けてきたタイプの依頼だ。
大半はラキュース一人でどうにでもなる依頼ではある。
「わかりました……正式な依頼ということならば、冒険者組合に依頼を出して──」
「なに? 個人で依頼を受けるのは駄目なのか?」
「……はい。私たち冒険者はあくまでも冒険者組合の一員であり、組合の規則上個人での依頼の受注はできません」
依頼というものは全て冒険者組合が管理している。
冒険者は依頼の前後関係を気にせずに、また依頼の危険度や詳細を組合が調べてくれるため安心して依頼を受注できる。
だがそういった組合を通さずに個人で依頼を受けるものはワーカーと呼ばれている。
そういった者達は基本、白い眼で見られている。
身分を証明する者も保証されることもない武装した一個人……恐れられて当然である。
また依頼を受ける際も裏どりも何もかもすべて個人でしなければいけない以上費用も時間もかかる上、相手が個人だからと依頼料を踏み倒そうとするものもいる。
「むぅ、困ったな……この場合は王国の組合に依頼を出せばいいのか?」
「いえ、聖王国──失礼、今は竜帝国ですね。この国の組合に依頼を出せば受理してもらえますよ」
「なに? そうなのか……だが冒険者組合はこの前潰したばかりだからなぁ……」
「──」
何でもないことの様に、ラ―ドゥンは呟いた。
実際そうなのだろう。彼女──正確には彼なのだが、彼女にはどうでもいいことに過ぎない。
冒険者組合というのは、実のところ国家には不要な組織である。
成熟した国家には冒険者組合はもはやいつ爆発するかわからない火薬庫同然だ。
たった一人で何十人か何百人──あるいは千人もの軍人を殺しうる個。
かの逸脱者フールーダ・パラダインは帝国全軍と匹敵すると詠われるように、超越した個というのはもはや恐怖の象徴だ。
そして冒険者組合には逸脱者には劣るアダマンタイト級──英雄級の者が幾人も所属している。
もしも、冒険者が国家に反逆したら?
いわばヤクザ等のマフィアに近い。
モンスターを退治してくれる為泣く泣く認めるしかなかった武装組織。機嫌を損ねれば殺されるかもしれないと毎夜怯えるしかない物。
それが客観的に見た冒険者だ。
結果、国家として成長し、軍を鍛え上げた帝国では事実として冒険者の数は激変し、需要がほぼなくなっている。
更にはスレイン法国ではそもそも冒険者組合が無いという。
竜帝国──旧聖王国には冒険者組合はあったが。なるほど竜王が支配することで亜人の脅威がなくなり、不要となったのだろう。
「ではどうしようか……」
「では、依頼ではなくただの"世間話"でならどうでしょう?」
「……ほぉ?」
「個人からの依頼を受け。報酬を得ればそれは違法です。ですがただ呼ばれた、ただ話をしただけ──これならば問題ないでしょう」
「なるほどな」
無論この提案はただの善意ではない。
国家元首と至近距離で、目と目が見つめ合う距離で会話ができる。
情報が──本人から直接情報が得られるチャンスだ。それを考えればグレーゾーンに踏み入るぐらいなんてことはない。
「では、話しをしてもらおうか」
「……はい。私が冒険者を目指したのは──」
■
「──では、これで」
「うむ、またいつか会おうぞ」
疲れた。非常に。
しかも国家元首が玄関まで付いてきた。それでいいのか国王。
「疲れた……」
自身に回復魔法を駆けたくなるが精神的な疲労を回復する魔法は無い。
精神へのダメージを回復する魔法はあるが内からの疲労はどうにかできない。
(ていうか、最後まで武装解除されなかったわね)
そう、ラキュースは最後まで武器を持っていたまだ。
基本こういったところに行く場合は武装解除を要請される。
だがそれがない。
魔剣も鎧も持ったまま。
竜王にとって武装した人間と服を着た人間は同じにすぎないと無警戒だったのか、こういったことに詳しくなかったのか。
どちらかはわからないが、恐らくは前者。
「疲れた……」
自分を殺しうる個との一対一での会話。更に相手は国王という自分より地位の高い者となれば疲労は定かではない。
こういうのが嫌で冒険者になったんじゃなかったけ──と、少し遠い眼をした。
「で、どうだったよ例の竜王様は」
「とんでもなかったわよ……」
宿屋"小さなトロール亭"。
普段自分たちが使っている王都の宿にサイズだけならば勝っている宿屋だ。
流石に彫琢品等は一級品ではあるものの数が足りてないが、それでも店員も教育されている一流の宿を胸を張って言えるだろう。
ベットにうつ伏せになり、鎧を脱ぎ捨て下着姿になったラキュースが「あーあー」とうめき声を上げる。
「——ヨシ復活! じゃあ、情報共有といきましょうか」
「ふむ、最初にラキュースの──」
「私は最後でお願い」
「……わかった」
ラキュースが国の兵士に連れらた後。残った青の薔薇はそれぞれ街を探索した。
結果わかったことが幾つか。
この街や城壁の修理などにスレイン法国の手を借りていること。
亜人も人間も仲良くしているのは竜王の命令だということ。
そして竜王への恐怖によって、亜人も人も仲良くなってきているということだ。
「恐怖?」
「誰も彼もが恐れている」
「正直、話を誇張しているのかと思ったけど……その方がまし」
曰く。
ただ歩くだけで自らの兵である亜人が死んだ。踏みつぶした訳ではない。ただ歩いて起きた風で吹き飛んで死んだ。
炎のブレスを放ち少し離れた──直撃もかすりもしていない兵士が死んだ。炎の熱で焼死したという。
竜王が翼を広げて飛んだ。それだけで暴風を巻き起こしサイクロンとなり、自身の兵も敵もただ死に、占領すべき街が跡形も無く消えた。
曰く、曰く、曰く──
どれもこれもが信じられない。信じたくない物ばかり。
だが真実だ、とイビルアイが付け足す。
ガガーランとイビルアイはそれぞれ兵士などにも聞き取り、ティアとティナは町人から聞き出した。
リグリットは昔の伝手を頼ったり、ガガーランと合流し酔っ払いから話を旨い事聞き出したり。
流石に兵舎などへの不法侵入はしていない。リスクが大きすぎるから。
結果すべて真実と判明。
そして人も亜人も諦めた。「あれは理解できてしまう災害」だと。
荒れ狂う大波に挑む者はいないように。火山の噴火に立ち向かう者がいないように。
「あれは自我を持つ災害」と諦めたのだ。
ただ歩く、ただ喋る。それだけで災害と化す竜の王。
従う他ないのだと──諦めたのだ。
「……まさに神話の存在ね」
「ラキュースは実際に会って話したんだろう? どうだった?」
ガガーランの疑問に、意を決して答える。
「そうね……第一印象は"理解できない何か"だったわ」
竜王は理解できなかった。
これほど──ただ話すだけで丸一日かかったのは竜王が幾つも問いかけてきた体。
ラキュースにとっては常識でしかないことを、竜王にとっては見知らぬことを。
「そうして話して感じたことは理解しようと藻掻く怪物……かしらね。ただその藻掻くことで周囲にとんでもない被害を与えてる悲しき怪物って感じかしら」
「……不敬罪でしょっ引かれそうだな」
「そこはほら、イビルアイのアイテムを信用してるのよ」
もしくは愚痴でも言わないとやっていけないか。
「けど、人の世についてはぜんっぜんわかってない感じっぽいわ、国家機密ペラペラ話してたし」
「……一国の王としてそれでいいのかの?」
「それができるからこその竜王?」
「そして今からその国家機密を話すわ」
ふぅ、と息をのみ、覚悟を決める。
「──スレイン法国が竜帝国に従属したわ」
数秒。沈黙。
「っ──馬鹿な! スレイン法国が……人類の守護者が、竜に頭を垂れたというのか!」
最初に口を開いたのは以外にもイビルアイだった。
「えぇ。スレイン法国は既に竜帝国の……竜王ラ―ドゥンの物。そしてスレイン法国は消えて竜帝国に統合される」
全員が──あまり感情を出さない双子の忍者でさえ驚愕を顔に出す。
「そんな……こと……」
スレイン法国。
それはただの宗教国家にあらず。
過去に精通しているイビルアイとリグリットは驚愕が一層だ。
スレイン法国は人類史上最も古い最古の国だ。
今ある帝国も竜帝国も王国も何もかも。
いわば八本指もズーラーノーンでさえも、全ての祖はスレイン法国だ。
スレイン法国は六大神が世界に顕現した国。六大神の手によって建国された神の実在を示す国なのだから。
六大神が居なければ今の人類は存在しない。八本指という犯罪組織という概念も人の発展もあり得なかった。
だからこそ六大神を信仰し、崇め称える宗教国家であり、そこら辺を歩く子供の国民でさえ神が死ねと言えば喜んで死ぬような覚悟ガンギマリの連中。
それが、たかが竜に従った。
「──なるほど、やはり竜はぷれいやーか」
「……リグリット」
「ま、只者ではないと思ってたがの、ツアーが負けるような竜が何処からともなく現れたとなればぷれいやーぐらいしか考えられなかろうて」
ぷれいやー……プレイヤー。
自らをユグドラシルから飛来したと称する者達。
かつての六大神も八欲王も──最近では十三英雄もプレイヤーであった。
十三英雄はそのうちのたった二名という数が少ないが、それでも歴史を変えてきたのはすべてプレイヤーだ。
だからこそ、法国は求めていた──世界を変えるきっかけを、世界を変え得る存在を。
そしてきたのだ。竜の王が。世界をたった一人で変える(救える)神が。