オーバーロードに野生のラスボスが現れたの竜王RPするプレイヤーが居る作品   作:野生の生蛇

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第7話

「どう思う? 爺」

 

 バハルス帝国。皇城。

 椅子に座った優男が、老人に尋ねた。

 まだ二十台前半、若く気品にあふれた若人だ。

 纏う衣服は豪華な装飾が付いているだけでなく、魔化された超一級品。

 身に着けた指輪なども全てがマジックアイテムという、金をかけた姿。

 

 バハルス帝国皇帝。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスその人である。

 

 

「恐らく真実かと、陛下」

 

 爺と呼ばれた老人が答えた。

 枯れ木の様な老人だ。

 直ぐにでも折れてしまいそうなほど、はたから見れば心配になる程に老いている。

 しかし侮ることなかれ。人の領域を超えた超越者。第六位階魔法というこの老人一人しかたどり着いていない極致にいるもの。

 よく見ればローブも手にした杖も、指輪でさえも皇帝が纏っている物よりも金銭的には高価な物ばかり。

 全てが自身が魔化を施した──あるいは古代の遺産なのだから。

 帝国全軍に匹敵──あるいは上回るとされる逸脱者。フールーダ・パラダインだ。

 

「ふぅん……どこからともなく現れた竜王を名乗る物が聖王国を滅ぼし、竜帝国を気づけ上げた、か」

「……竜王を名乗るのに、竜帝国なんですかい?」

「既に竜王国があるからでは?」

「確かに」

 

 そこに帝国四騎士──帝国最強の騎士二人が雑談する。

 

「だが、肝心なのは……アベリオン丘陵の亜人を支配した、か」

「並大抵の者ではありませんな」

「爺、どれくらい強いと思う? 雑感でいい」

「ふぅむ、であれば……単純にアベリオン丘陵の亜人を支配するだけならば難度125程度。ですが伝え聞く力が本当ならば──何度二百は最低でも超えるでしょう」

 

「……そうか。爺と同等……いや、それ以上と考えるべきか」

 

 ジルクニフは思案する。

 かの竜王を。

 竜は財を欲するという。ならば財を提供……給料という形で渡せば支配できるかもしれないと。

 あるいはアーグランド評議国の一員なのかもしれないと。

 思い浮かぶは竜を支配した未来の姿か、竜を打倒した偉大な皇帝と称えられる自身の姿。

 無論支配にも打倒にも相応の被害が出ると予測する、できる。

 最悪の場合は帝国全軍とフールーダ・パラダインを失うことさえ考える。

 

 

「……ひとまず静観、だな……ちょうどいい機会だ、爺に頼ってばかりの諜報部隊の訓練代わりにしてみようか」

 

 全てを判断するには情報が足りなすぎる、と付け加えた。

 

 

 ──その後、思ったよりも竜王がヤバい奴と判明し、更にスレイン法国が竜帝国に支配されると聞いて毛が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 "この国は滅亡する"

 そう、少女はわかってしまった。

 まだ幼く、だが美を兼ね備えた少女──ラナー。

 人外の頭脳を持って導き出した、青の薔薇とメイドたちのほんの僅かな情報でラナーは竜王の異質さを知った、把握できた。

 

 竜王の本質。それは「力を得た弱者」であるということ。

 

 そうだ、竜王の本質は弱者だ。

 力を欲し、地位を欲し、居場所を欲し──何もかもがない脆弱な者。

 そして、夢見るしかなかったはずの力を何の因果か手にしてしまった。

 だからこそ恐れている。力を奪われることを。地位を、場所を。自身の全てを奪われることを。

 まるで麻薬中毒者だ。

 持たない恐怖を知るからこそ、失う恐怖に怯え続けている。

 ──確かにラナーは天才だ。一を知り教えていない十五まで知る天才。

 そう、一を知る必要がある以上、いかに人外の頭脳を持っていようと竜王の真の正体にまで知ることはできずとも──その本質を察することはできた。

 竜王は王国も帝国も、法国だって評議国でも……伝え聞くミノタウロスの国なども攻め落すだろう。そう確信できた。

 伝え聞いた力が真実ならば抵抗できるものは誰もいない。そうやって世界を手にするまで竜王は戦い続けるだろう。

 寿命の概念が無いという竜種である以上他者に殺されるか世界征服を成すその日まで。竜王は暴れ狂い続ける。

 

 ならばどうするか? 

 

(国の滅びは回避できない。下手に延命しようとすれば逆に怒りを買うだけ。……恐らく支配される者には寛容なはず。下手に媚びを売るよりも……うん。"私自身の価値"を高めた方がいい。下手にコントロールしようとするより私の価値を認識させて"部下にした方がいい"と思わせることが重要ね。何もわからない馬鹿ということはない以上、私の価値を知れば利用するはず。ならやるべきは……帝国の補助じゃなくて八本指の殲滅ね。下手にこれ以上帝国を動かそうとすれば私を信用できないと切り捨てられる。それにこのまま竜王国も攻め落とすはず。空を飛べる竜なら地形も距離も関係ない。スレイン法国が戦争もしないで下ったのはちょっと気になるけど……それを知るのは後でいいわね。なら──)

 

 狂った少女は考え続ける。

 自身と最愛の少年がしあわせに暮らせる方法を。

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 その日、漆黒聖典の隊長である若い男はのちにこう記した。

 "私は神にあった"と。

 

 

「──我らに何の用だ? 人間」

 

 並の竜より何倍も大きい体。

 竜殺しを何度か成したことがある──出来てしまう程に強い隊長は、視認してわかってしまった。"これは勝てない"と。

 戦うだとか逃げるとか、そういった考えそのものが烏滸がましい何かだと。

 かつて番外席次にフルボッコにされたこともあるが、この竜相手ではそれが成立しえない。

 竜がちょっと小突く、それだけで自身は死に周囲一帯は荒野となる。それだけの力を有している。

 手加減だとかそいう言う話ではない。ほら今だって竜が声を上げただけで大気が震え、世界が恐怖している。

 

 全長約170m。

 漆黒の鱗に覆われた、一体十頭とでも表現すべき異形の竜。

 一つの体に十の頭部というまるでヒュドラのような異形。

 ……ヒュドラという種は首が十二あるというが、それよりわずか二つしか減っていない。そして何よりもヒュドラは十二の首揃って初めて"ヒュドラ"という種で難度が定められる。

 こうして視認してわかってしまった。"この竜の首一つで自分はチリの様に消される"と。

 一つ一つの首が推定難度250以上──どんな化け物だ。

 

「……竜の王ラ―ドゥン。あなたに聞きたいことがある」

「なんだ?」「言ってみろ」「脆弱な人間風情が、我らに問いかけるか」

 

「あなたは──ぷれいやー。なのでしょうか」

 

 竜が目を見開く。

 

「ほう、ほう!」「プレイヤーを知っているか!」「叱り! 我らは"プレイヤー"百の頭持つ竜"!」「竜王と恐れられしものよ!」

 

 やはり。

 竜王が歓喜し、声を荒げる。

 それだけで自身以外の漆黒聖典の隊員は恐怖し、膝から崩れ落ちた。

 突如として現れた難度にして三百は優に超える竜──逆にプレイヤーでなくてなんなのか。

 かの白金の竜王の端末と戦っていたという占星千里の報告があった以上、ただの竜ではないことはわかっていたが。

 

「して我らに何を望む? 小さき者よ」「世界の真実を知る者たちよ」

 

「──私たちが……人間が望むのは"人の繁栄"それのみです」

 

 スレイン法国は率先して亜人種を殺して周っている。

 だが、それは亜人全てを憎んでいるからではない。

 殺さなければ殺されるから殺している。ただそれだけなのだ。

 流石にスレイン法国もすべての亜人種を殺せるとは思っていない。共存が可能ならば共存したいと常常思っているし、事実としてほんの百年ほど前は亜人であるエルフとも友好に接していたのだから。

 だから竜王は亜人種と人間を支配していることには何の問題も無い。

 願うのはその支配される者の中にスレイン法国の……いや、"この世界の全ての人間"を入れてもらうだけだ。

 考えれば考える程、人間ほど脆弱な種族は存在しない。

 力でも技術でも知能でも。人の上位互換が数多くいる。

 それこそ下位種と断言できるのはゴブリンくらいか。それでも繁殖力では人を遥かに超えているが。

 今でこそ亜人はアベリオン丘陵やトブの大森林で原始的な生活を強いられているが、ひとたび外に出れば──スレイン法国の影響及ばぬ地ならば高度な……人を越えた文明を手に入れるだろう。人が神無くとも手に入れて、維持できるように。事実として大陸中央部では亜人種が人以上の文明を手にして繁栄しているのだから。

 ──そう、竜王にとって人間は不要。いつ殺されても可笑しくない下等生物。

 故に懇願するしかない。その支配される末席に加わることを。

 

「……どうする?」「別にいいんじゃない? 人間を支配するのも一興では?」「儂は反対じゃ! 人は今すぐにでも滅ぼすべきじゃ!」「待て待て、それなら亜人はどうする? 亜人も脅威は一緒だろうよ……我等以外すべて殺す気か?」「むぅ、ならばどうするか」

 

 十の首で話だし、相談する。

 

「ふぅむ、であれば人間」「貴様はスレイン法国の者だと言ったな?」

 

「はい」

 

 ──焦る。

 言いようのない不安感。恐怖に襲われる。

 今この瞬間、竜王の言葉一つでスレイン法国の……いや、人類の命運が決まる。

 もし、竜王が"面倒だから滅ぼす"と言えばその瞬間人類は終わりだ。

 スレイン法国が差し出せるものに竜王にとって価値あるものは何もない。

 

 力? 竜王はこれ以上ない程の力を有している。それに何の意味がある。

 歴史? そんなものに価値はない。あったとしてもたかが六百年程度。中央部の亜人種たちはもっと長い歴史を有する。

 技術? 既に失われて久しい。六大神の遺産を使ってどうにかやりくりしているだけだ。ドワーフ等で代用できる。

 金銭? 竜に価値があるというのか?人の世でしか使えぬ物質に。

 

 だから願うしかない。支配されることを。

 

 

「我らに隷属しろ」「我らが死ねと言えば死ね」「今この瞬間より貴様らの命運全て我らのモノ」「逆らうことあれば全てを焼き滅ぼそうぞ」「すべてを捧げろ! 人も! 魔法も! 信仰でさえも!」

 

「畏まりました。今のこの瞬間よりスレイン法国の全てはあなた様のモノです」

 

「……え」

 

 少し間抜けな声を出し──戦うことも力を見せつけることも無く。

 スレイン法国は竜王ラ―ドゥンに隷従した。

 

 

 ■

 

(なにこいつこっわ)

 

 それが竜王の感じたことである。

 流石に竜王とてこのような奴隷になれと言うのが通じるとは思っていない。

 拒絶するだろうと、抗うだろうと思い無茶を言ったのだ。

 しかし残念ながら人間にとって奴隷というのはーースレイン法国の主観になるがーー"まだまし"な扱いである。

 大陸中央部で人間がどのような扱いを受けているか。

 反応は主に二つ。

 まずは食料。人が牛や豚を家畜にしたように、人も家畜として扱われている。

 いや、家畜にされた者達は人と呼べるか少々怪しい。人間が蛾を家畜にし、蚕という別種に変えたように何百年と家畜として扱われた人間は既に別種族と言えよう。

 次に──タブー。触れてはならない何かとして扱われている。

 今だ食料扱いするのは大陸東部──八欲王の影響が最も少なかった地域だ。

 長命種の亜人は恐れているのだ。八欲王を。六大神を。

 突如現れ人の味方をした超越者たち。山を消し川を消し、地形を容易く変えた神々。

 寿命の長い亜人や寿命の無い異形種たちは当時を生きているものも多い。恐怖を鮮明に覚えている。

 

 そしてもう一つ──言葉が通じるというのが、ある。

 

 八欲王によって人と亜人の壁の一つが完全に消えたのだ。

 知性の低い亜人であるオーガやゴブリンでさえ言葉を話す。

 これまでただただ喚いてるようにしか思えなかった者達が、突如会話をしてきた。

 ……例えるなら豚や牛が突如話し出してきたのだ。「殺さないで」と「助けて」と。

 まともな感性ある者ならばどう感じるか? 気色悪く感じるに決まっている。

 虫や豚、これまでただの食料だったはずが突如会話してきたら気色悪いに決まっている。

 そして何よりも、八欲王が人に味方した──だから恐れる。

 かつてこの世界に現れたミノタウロスのプレイヤーは食料とされてきた人間を奴隷にしたというが、その背景には元々「食料にするのやめるか」という話が合った。

 考えてほしい。自分と似た姿をする者を、同じように意思が通じる──言葉を話す者を。

 少なくとも食べたいとは思わないはずだ、思えないだろう。

 竜王国では人を襲うビーストマンがいるが、ビーストマンとは何か? 

 アンデッドが本能的に生きている者を襲う様に、ビーストマンも本能のまま人を喰らいたい──というのも確かにあるだろう。だがそれよりも強い動機がある。

 "祖先の地を取り戻したい"ビーストマンは……否、数多くの亜人たちはそう思っている。

 かつて八欲王が君臨し、人の味方をして亜人を北部から追い出した。

 だから亜人たちは願っている。祖先の地を取り戻すことを。恐れている。八欲王を。

 もしも、八欲王の力が既にないと知れば、亜人たちは連合を組んでやってくるだろう。

「祖先の地を取り戻すのだ!」「国を取り返せ!」そうして一致団結し、故郷を取り戻すべく軍を率いてやってくる。

 そうなれば人は奴隷にされるのみ。……喋って歌う者を食料にするのはよっぽどの気狂いぐらいだろう。

 

 だからスレイン法国は恐れているのだ。亜人たちが何時「この地に八欲王はもはやいない」と気づくのを。

 

 

 では、今の竜王にとって人間はどういう存在か?

 ──恐れるもの。この世界で最も。

 

 竜王は知っている。人間の力を。あくなき欲望を。

 人はたかが二百年と少しで星を食いつぶした。それをこの世界の人間ができないとは到底思えない。

 だから支配しようと、恐怖を力で誤魔化してきた。

 

「……流石にそろそろ無理か」「だな」

 

「──何を……」

 

「スレイン法国の者よ、我らが支配しよう」「これよりスレイン法国全ては我等"竜王"ラ―ドゥンの物だ」「失うことは許さぬ。無駄にすることも許しはしない」「その血の一滴でさえも、髪の毛一本でさえも無駄にするな」「そして忘れることなかれ。我らの意に反することをすれば……我らがそうだと思ったその瞬間。我らは貴様らを滅ぼそう」

 

「──はっ! この命、魂すべて。竜王様の為に!」

 

 

 

 

 

 ──こうしてスレイン法国は戦うことなく、竜王に支配された。

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