GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者:XV原作IF特別篇集   作:ハヌシナサワマ

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GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者 特別篇:戦姫絶唱シンフォギアXV/EPISORD2-確かに救えた命

シンフォギア:確かに救えた命

 

 パヴァリア光明結社の残党の一人、ミラアルクが起こした───三年前のツヴァイウイングライブの惨劇を想起させる………殺戮の舞台と化した、翼とマリアの二重奏による横浜のライブ会場。

 奏含め、多くの人を救えず生き残ってしまったかつての激情(トラウマ)に駆られての荒々しい攻めにより、一時はミラアルクを追い詰め、トドメの突きの一閃を繰り出そうとした翼だったが。

 

「何ッ」

「やってくれたぜ風鳴翼ッ 弱くて不完全なウチらじゃ敵わないゼ」

 

 冷静さを欠いていたのもあり、瓦礫の白煙が晴れるまで、ミラアルクが逃げ遅れた観客の女の子を人質に取っていたことに気づけず、紙一重で彼女を突き殺すところだった。

 

「弱い……だと」

「だからこんなことしたって───」

 

 ミラアルクが、紅色の鋭利な爪が生えた右腕を振りかざし。

 

(やめろ──)

 

「恥ずかしくないんだゼッ」

 

 翼の眼前で──。

 

(やめろォォォォーーー)

 

 人質にした少女の肉体を串刺しにした───。

 

 

 

 

 

 ────筈だった。

 

「何──だゼ」

 

 今度はミラアルクが驚愕する。

 翼を絶望に追い込む為、少女を贄にしようとした爪は………〝物体(ナニカ)〟に阻まれていた。

 

「盾」

 

 物体の正体は、掌に納まるほどの、円形で、甲羅の文様が刻まれた──盾(シールド)。

 それに呆気に取られていた、刹那。

 

「ガァァァ」

 

 今度は超高速で迫った〝火球〟が、少女の首を捕らえていたミラアルクの左手を吹き飛ばし。

 

〝~~~♪〟

 

 日本語でも、英語でも、バビロニア語でも、まして統一原語ですらない〝言語〟による、凛と澄み渡る歌声が響いたとともに───ミラアルクの腹部へ、速くも重いミドルキックが直撃し、突き飛ばされ、荒れ果てた会場の大地にのたうち回った。

 

『間に合ったな……』

 

 同じく、呆気に取られていた翼とマリアと緒川の耳に、電子的なエフェクトがかかった聞き慣れた〝声〟が聞こえ。

 

「あ、朱音……」

 

 少女を間一髪助け出して抱え上げ、歌い続けながらもミラアルクの左腕を彼女の口からそっと優しく外し。

 

『大丈夫』

 

 歌唱に使われる肉声の代わりに、胸の集音器(マイク)たる〝勾玉〟から少女を呼び掛けたその者こそ、異端のシンフォギア──ガメラの担い手にして、かつて地球の守護神──ガメラであったシンフォギア装者………草凪朱音その人だった。

 装者の中で、現状唯一にならずとも単独飛行が可能な朱音は、おっとり刀で駆けつけ、ギリギリのところで自身のアームドギアの盾──シェルシールドでミラアルクの攻撃を防ぎ、すかさず奴の腕を《プラズマ火球》で吹き飛ばすと同時に蹴り込み、人質にされた少女を救出したのだ。

 

「う、うん」

 

 少女は死の恐怖で顔中が涙でぬれ切っていたが、ギアの鎧越しでも伝わる朱音の温もりと………そして聞く者を勇気づける麗しくも力強い〝歌声〟に安心し始めた様子で、こっくりと笑みを浮かべ初めて頷いた。

 

『緒川さん、この子含めた生き残っている観客の避難誘導をお願いします』

「分かりました」

 

 朱音は少女を緒川に託し、彼は彼女を抱えたまま忍術でその場から煙を炊き出して姿を消した。

 

『〝呆けるな〟に〝うろたえるな〟っていつも言ってる癖に、その呆け面は何 翼にマリア』

「あ、ああ……すまない」

「ごめんなさいね………この体たらくで」

 

 やっと我に返った翼とマリアは、戦闘の再開へ瞬時に対応できるよう歌い続ける朱音に詫び入れる。

 

『謝るのは後、今の子みたいな逃げ遅れもいるかもしれない、BAT GIRLは私が相手をするから、二人は救助を』

「分かったわ」

「心得た……頼んだぞ」

 

 朱音は、かの光の巨人の如く、頷いて応じた。

 そして、二人が救助活動を始め出し、程なく。

 

「でぇりゃ」

 

 戦線に復帰したミラアルクからの先制攻撃が押し寄せ、朱音は足裏のスラスターのホバリング移動で横合いに躱す。

 一撃目を回避されたミラアルクは、空中から朱音を見下ろし。

 

「お前もやってくれたゼ 草凪朱音 今度はお前がウチの弄り役だゼッ」

 

 と、言い放つと同時に蝙蝠状の翼をしならせ、斜線を描いて急降下し、機動性ではシンフォギアでトップを飾る天羽々斬と翼ともやり合ったその飛行速度で、地上に佇む朱音に強襲を仕掛ける。

 対して朱音は歌い続けつつも、凶暴なケダモノそのものと言える………ミラアルクの空中からの猛攻を、最小限の動きを維持したまま、まるで踊る様な体捌きでひたすら避け続けていた。

 傍目からは、朱音が追い込まれている様に見え。

 

「そんな呑気に踊っていられるのもッ」

 

 ミラアルクは一層スピードを上げ、赤く染まって肥大化し怪物化した腕を掲げ。

 

「今の内──」

 

〝──だゼ〟と言い切るとともに、一層上げたスピードでその拳を叩き込もうとしたが。

 

「うがっ」

 

 ミラアルクの口から、鮮やかな深紅の血が……盛大に吐き出された。奴の拳が当たる前に、満を持して朱音は相手をも上回るスピードで飛翔し突貫。

 ミラアルクの鳩尾へ瞬速のアッパーを叩き込み、その上でヒットした瞬間に手甲の指間部から伸びた赤熱する三つの爪──《ドライフォトンクロー》で突き刺し、相手の体内に火炎の地獄を味あわせた。

 間髪入れず、爪を引き抜くと同時に、両腕から《エルボークロー》を伸長させると同時にこれもプラズマ振動で熱し。

 

《ヴァリアブルセイバー》

 

 下段から振り上げたプラズマの炎刃でミラアルクの翼を焼き切り、悲鳴を上げる暇すら与えずダメ押しに筋肉質でゴツい脚からのフロントキックで、奴の下顎を大きく蹴り上げて、上空へと盛大に打ち上げると──。

 

(これ以上アルカノイズを投下させないッ)

 

〝~~~♪〟

 

───フォニックゲインの出力が、声量が増しながらも音程(ねいろ)が巧みに制御された歌唱に比例して急上昇、右腕のアーマーが変形して手を覆い、《フォトンアームキャノン》となって、さらに砲身が伸びて砲塔の後ろに折り畳まれていた五つのリフレクターが、砲口を囲む形で花びら状に展開し、打ち上げられたミラアルクとアルカノイズらがいる上空へ向け。

 高速回転し始めた砲口とリフレクターから、橙色のマイクロウェーブの稲妻が集束し。

 

(穿て──)

 

 朱音の前世の敵の中で、まさしく最も強敵であった宇宙怪獣郡の女王が使っていた《マイクロ波シェル》を再現した、装者としての彼女(ガメラ)の必殺技の一つ。

 

「フォトン~~スパイラル~~シュゥゥゥゥ───トッ♪」

 

 《フォトンスパイラルシュート》──伴奏に合わせてその名を歌い叫び、右腕の砲身から、強烈な閃光迸る橙色のマイクロ波の奔流が解き放たれ、災いたちが跋扈する上空を薙ぎ払った。

 夜天が光り輝くほどの大爆発が、宙に引き起こされる。

 朱音は、次なる敵からの攻撃を危惧し、アームキャノン形態から解除しつつも、掌のプラズマ噴出口から、穂先が魔を祓う仏教の法具の一つである五鈷杵状なロッド──《ブランドスピアーロッド》を形成して構えるも………爆発が霧散し、元の夜天に戻った空からは、雲と星以外は、何も残っていなかった。

 朱音はロッドの構えを解き、すっかり破壊し尽くされたライブ会場へ降り立ち、そこへ翼とマリアが駆け寄ってきた。

 

「朱音」

「やったの」

「いや……アルカノイズは一掃したが、あのイカレたBAT GIRLには逃げられたみたいだ………その遠くない内に、またやり合うことになる」

 

 実際に撤退した様子は見えなかったが………朱音は直感でミラアルクはマイクロウェーブの光線が直撃する直前に、テレポートジェムかそれに類する瞬間移動法で退却を選んだと確信していた。

 

「くそっ」

 

 翼は悔しさでやるせない想いを、口から吐き捨てるが。

 

「でも……朱音」

「What's up?(どうした)」

「ありがとう………あの少女を助けてくれたことも含めて」

「私からも礼を言わなきゃね……翼の直ぐ近くに、同じ戦場(いくさば)の渦中にいたのに、パヴァリアの残党に遅れを取ってしまったから………ありがとう」

「じゃあお言葉に甘えて、どういたしまして」

 

 マリアとともに朱音へ、感謝の言葉を述べ、朱音も快く応じた。

 今回の惨劇による犠牲者の数も、決して少なくはなく、またいずれパヴァリアの残党たる錬金術師たちとアルカノイズどもとの戦いが待っている。

 

 

 

 それでも確かに、錬金術師たちの主義も思想も倫理すら見られない凶行から───救うことができた命もまた、多く残っていることも、確たる事実であった。

 

 

だがしかし、ミラアルクとの戦いが一段落つき、朱音が安堵の笑みを浮かべていた時だった。

 

 

パチンッ

 

 

そんな小気味の良い音が聞こえてきたかと思うと、突然辺りが真っ暗になり、先程まで朱音に感謝の気持ちを述べていた翼とマリアの姿がなくなっていた。

 

どこまでも続くその闇に、自分自身がまるで取り込まれてしまいそうな気持ちになり、思わず身震いする。

 

 

「な、何 翼 マリア」

 

 

突然の状況の変化に戸惑いつつも、翼とマリアを呼ぶが、当然返事はない。

 

だがそんな時だった。

 

突然朱音の頭に、激しい衝撃と脳神経を破壊するかの様な激痛が走る。まるで上から何かに、押しつぶされる様な感覚と、視界がグラグラ揺れる感覚を覚えながら、朱音はその場に倒れる。

 

そしてその衝撃の正体、朱音に攻撃を仕掛けた者が、上から音もなく着地するのが、朦朧とする意識の中で分かった。

 

真っ白の、いかにもお嬢様然としたデザインのおでこ靴が、倒れた朱音の視界を支配する。

 

 

「だ、誰......?」

 

 

朱音が息も絶え絶えの様子で、攻撃してきた者の顔を見ようとすると、相手がそんな朱音に自らの顔が見えるようにしゃがみ込む。その顔は、作り物かと思う程に端正であり、病的なまでに白い肌は、どこか人間とはかけ離れた印象を醸し出していた。

 

切り揃えられた白銀の髪を胸元まで伸ばしており、まだ未発達の華奢な身体には、真っ白なミニドレスを身に纏っている。

 

少女はすっかり動けなくなっている朱音を見て言った。

 

 

「たったの一撃でこのザマ ガメラも大した事ないんだね」

 

 

子供のように年相応に笑ってみせたかと思うと、少女は立ち上がり、朱音を氷の様な冷たい目で見下ろす。

 

そして朱音のカシスベリーがかった黒髪を掴んだかと思うと、そのまま頭皮が剥がれそうな程の勢いで、引っ張り上げる。

 

 

「アァァァッ!! アァァァァァッッ」

 

 

引っ張られる勢いで、ブチブチブチっと髪が抜けるのが自分でも分かる。それでも少女は、無表情で髪を引っ張り上げると、朱音の髪を掴んだまま、朱音の腹に膝蹴りを打ち込む。

 

それも一撃では終わらず、何発も何発も朱音の腹に打ち込まれる。少女の攻撃とは思えないほどに、一撃一撃が凄まじく重く、蹴られる度に朱音は吐血する。

 

朱音の吐き出した血が、少女の真っ白なドレスに飛び散るが、気にする事なく、機械のように朱音の腹に膝蹴りを放つ。

 

 

 

何発蹴られた頃だろうか。朱音を蹴る少女の脚が止まったかと思うと、今度は髪を掴む力が強くなる。そして少女は両足で地面を蹴り、その勢いで朱音の顎を蹴り上げる。

 

 

「ウガッ」

 

 

少女はそのまま華麗に宙返りし、朱音は無様に宙に打ち上げられる。

 

 

地面に叩きつけられた朱音に休む暇は与えられなかった。少女は、走り幅跳びの要領で高くジャンプすると、そのまま仰向けで倒れている朱音の身体を踏み付ける。

 

 

「ガッッッッッハ」

 

 

少女が身体に着地した勢いで、朱音の身体はくの字に折り曲がる。肋骨が何本か折れたのは確かだった。そして更に少女は、追い討ちをかける。少女は朱音の身体から退いたかと思うと、次は朱音の顔を幾度となく踏みつけにする。

 

 

「オラっ オラっ オラっ 死ね、死ね、死ねっ 雑魚がッ」

 

 

少女の興奮した高らかな笑い声と朱音の顔が何度も踏みつけられる鈍い音だけが暗闇で響き渡る。踏みつけられている最中、自分の鼻からサラサラしたものが流れるのが分かり、口内にそれが入ってくると鉄の味がする。顔はやがて熱を帯び、顔面全体が腫れ上がり、瞼が浮腫み、重くなるのが自分でも分かる。ようやく飽きたのだろうか。少女は朱音の顔から足を退ける。

少女に踏みつけにされた朱音の顔は酷いものだった。青紫色のアザと鼻血まみれになった朱音の顔を見て、少女はクスクスと笑う。

 

 

「お前にいいものを見せてあげる」

 

 

少女が言ったかと思うと、朱音の首に手をかけ、その手に力が入る。

 

 

「う、うぅぅぅぅ」

 

 

朱音は抵抗しようと、少女の鳩尾に拳を叩き込む。これで解放される。

 

そう思ったのも束の間だった。何と少女は、もろに朱音の突きを食らったと言うのに、その表情には不気味なくらい無邪気な笑みが浮かべられていた。

 

 

「な、何だと」

 

「まぁだ、そんな力が残ってたんだ。もしかして、こうしたかったのかな」

 

 

少女がそう言うと、次の瞬間朱音の鳩尾に凄まじい痛みが走る。見ると、少女の小さな拳が朱音の鳩尾にめり込んでいる。お腹の物が、全部出てきそうな程の気持ち悪さと痛みに、思わずお腹を抑える朱音を少女は、ゴミでも捨てるかのようにあっさり手を離す。

 

そんな朱音を気にするでもなく、少女は何もない暗闇に手を翳した。すると、何と先程逃げたはずのミラアルクがそこには写っており、もっと驚くべきなのは、朱音が先程救ったはずの観客の女の子が、ミラアルクに首根っこを掴まれているところだ。

 

 

「な、何で、この子はさっき私が助けたはず...」

 

 

嫌な予感がして、朱音の身体を悪寒が襲う。そして最悪の事態は起こった。

 

ミラアルクは、翼の目の前で人質の少女の心臓を貫き、翼がそれを見て激昂する。

 

 

 

そこで映像は途切れた。

 

 

朱音は何が何だかわからなかった。なぜ救えたはずの命が、なぜ逃げたはずの奴が...

 

真実を知ったその時、朱音の心を絶望と怒りが支配した。

 

 

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 

 

この途方もない怒りと絶望を、朱音は目の前の少女にぶつけようと、掌のプラズマ噴出口から、穂先が魔を祓う仏教の法具の一つである五鈷杵状なロッド──《ブランドスピアーロッド》を形成して構えながら、少女の方へ感情のまま突っ込んでいく。

 

だが、そんな朱音の怒りに任せた攻撃など、少女に届くはずもなかった。

 

少女はその跳躍力を活かし、自分より遥かに背の高い朱音の頭に片手をついたかと思うと、馬跳びの要領で朱音の頭上を飛び越え、攻撃をやり過ごす。

 

いや、正確に言うと、やり過ごすだけでは終わらなかった。

 

空いているもう片方の手で、炎の玉を形成すると、少女はそれを朱音の顔面に押し当てる。火の玉は、ボンっと小さく爆破すると、朱音の顔は見る影もなく醜くなっていた。

 

 

「あっははははははははッ ブッサイクな顔」

 

 

少女に踏みつけにされ、顔面は腫れ上がり、青紫に変色した皮膚は所々焦げ、鼻血を流す朱音。少女はその様を見て、子供が同い年の子をからかって喜んでいるような、そのくらい軽い調子で笑っている。

 

だがそんな少女の笑い声も今の朱音には耳障りに過ぎない。

 

 

 

〜〜〜♪

 

 

 

朱音はシンフォギア装者の『力の源』である歌を歌おうと声を上げた。

 

 

否、声を上げようとした......

 

 

 

 

 

「ア、アァァァ」

 

 

 

 

 

自分でも驚いた。今声を発しているのは、本当に自分なのかと......

 

朱音の澄み渡るような自慢の美声は、例えるなら低く、くぐもった声にノイズのかかったような聴くに耐えない醜い声になっていたのだ。

 

当然、力など解放されるはずもない。

 

 

「あんなに威勢よく歌ってた癖に......歌えないシンフォギアなんて要らないね」

 

 

大好きな歌さえも歌えない、戦闘面でも全く歯が立たない、救えたと思ったはずの命も救えていなかった。

 

 

 

朱音の心身は、この数分の少女との戦いで、ドン底に突き落とされていた。

 

その場にへたり込む朱音を冷たい瞳で見下ろすと、少女は両手を合わせる。そして合わせた両手をゆっくり広げていくと、それと同時に少女の身の丈はあろうかと思う程の鎌が形成される。

 

 

「さて、そろそろ終わりにしようか」

 

 

目を細めて、ニッコリ微笑むその姿は、もはや不気味としか言いようがない。少女は微笑みを、一瞬にして氷のような無表情に変えると、朱音の方へ歩み寄り、自分の頭の上でその巨大な鎌をクルクル回し始めた。

 

 

そして、少女の手が止まったかと思うと、少女は鎌の柄頭で朱音の鼻っ柱を打ちのめした。

 

 

 

 

 

「はっ」

 

 

朱音が意識を取り戻すと、そこは真っ暗な空間ではなく、崩壊したライブ会場だった。今のは一体何だったんだ。自身の額に手を当てて考えていると、マリアが驚いたような顔でこちらに駆けつけてきた。

 

 

「ちょっと朱音 一体どうしたって言うの その顔は」

 

 

マリアがアザと鼻血まみれになった朱音の顔を見て、驚いた様子で言う。だが、そんなマリアを朱音は翡翠の瞳で睨みつける。

 

 

「今更何だよ 私が敵にやられて大変だったと言うのにっ 駆けつけてくれなかっただろっ 私はお前達だけじゃ救えなかった命をこの手で救ったんだぞッ」

「何ですって 貴方こそ翼が大変な時居なかったでしょ それに、貴方が救えた命なんて何一つないわよ」

 

 

マリアに冷たく言われ、朱音は唖然となる。そして思い出す。

 

少女に映像として見せつけられた信じたくもない''現実''を。

 

ミラアルクに無惨にも胸を貫かれ、死にゆく少女の顔を。

 

 

信じたくない......

 

 

受け入れたくない......

 

 

 

次の瞬間、朱音はマリアの華奢な肩を力いっぱい掴むと、唾を飛ばしながら感情のままに喚き散らしていた。

 

 

「マ、マリア 私、救えたよね あの女の子の命 きっとさっきのが夢なんだ はっ はははっ」

「ちょっと朱音、痛い」

 

 

マリアがそんな朱音を怪訝そうな表情で見ると、自分の肩に乗せられた朱音の手を退ける。そして、まるでゴミでも見るかのような目で朱音を見据えると、マリアは言った。

 

 

「何を言っているのかさっぱり分からないけど、この惨状を見てもまだ分からないの」

 

 

さっきまでここでライブが行われていたとは思えない程に、閑散としたライブ会場にバシッと何かを叩くような乾いた音が響き渡る。マリアが、朱音の既にボロボロになった顔に平手打ちをしたのだ。そして立ち上がると、無様に腰を落としている朱音を見下ろし続けた。

 

 

「目を覚ましなさい 草凪朱音っ 私達は何も救えてないの 人質は殺され、敵には逃げられ、ここに居る観客はみんな殺されたの これが現実よ」

 

 

マリアはそう吐き捨てると、呆然となる朱音を残し、すっかり戦意を失っている翼の方に駆け寄って行った。

 

一方朱音の頭の中では、マリアの先程の言葉が何度も何度も立体音響の様に復唱され続け、死んだ魚の様な目で何かをブツブツつぶやくばかりだった。

 

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