即興小説トレーニング30分SSです。お題は「阿修羅朝飯」でした。どんなお題やねんと全力でツッコミいれながら書いたほのぼの話。
三面六臂の阿修羅でも、食べる量はひとりぶんなんじゃないかなと思います。

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君には勝てない

「まず君に言いたいことがある」

「聞こう」

 きりっと表情を改めて言えば、彼女もまた同じ表情で返してくれた。このノリの良さは彼女の長所だと私も心の底から思っているが、今だけは少々憎らしい。

 私たちの間には昔ながらの丸いちゃぶ台があり、そこには彼女お手製の非常に美味しそうな朝食が並んでいる。わざわざ作ってくれた彼女に感謝の念こそあれ、文句などあるはずはない。あるはずはないのだが。

「ご存じだろうか、私は健全な成人男性であって、阿修羅ではない」

「無論、知っているとも。つまり?」

「つまり、口が三つあって腕が六本あるわけじゃない。君の料理は確かに美味しい。確かに美味しいのだが」

 さすがにこの量は食べきれない。

 ちゃぶ台を埋め尽くしている茶碗や皿はちょうどいつもの三倍ある。そう、何故か私の前には三人前の朝食が並んでいるのだ。ちなみに彼女の前にはいつも通りの一人前の食事がある。

 私の言葉を聞いた彼女がそっと箸を置き、その手を膝に置く。

「まず指摘しておきたい」

「聞こう」

「阿修羅は確かに三面六臂だけど、身体はひとつだから三人分食べるわけじゃないと思う」

「……オーケー、君が正しいよ。指摘を受け入れる。だけど私が言いたかったのはそこじゃない」

 わかってるだろ君、と胡乱な視線を向ければ、彼女は堪えきれないというように噴き出した。もちろんわかっているとも、と気取った口調のまま言った。

「ちょっと張り切って作りすぎちゃってさ。食べてくれるかなあって」

「食べてくれるかなってね、君。私は昨日、ダイエットを決めたと伝えたつもりだったんだけど」

「そう、それ。ダイエット。だからだよ」

 私は、君のそのふかふかのお腹が好きなのに。

 ぴっと彼女は箸で私のお腹を指した。行儀が悪いよ、と言うとあっさりと箸をおろしたが、気にした様子もなく彼女は続ける。

「だいたいね、言うほど太ってもいないのにダイエットなんて必要ないよ」

「いや、一応健康を考えて……」

「健康診断は全部問題なしだったじゃない。だいたい人間、ちょっとふっくらしてたほうが身体にいいんだよ」

 だからダイエットは反対、と可愛らしく彼女は言う。可愛いのだが、むむむ、とさすがに詰まる。強いこだわりをもってダイエットを始めると言ったわけではなかったが、彼女に言われてやめるというのもさすがに癪だ。だいたい、この可愛い彼女の隣にいても恥ずかしくない自分でありたいと思ったから始めようと思ったダイエットだというのに。

「……しかしだね、君」

「ほら、今日の卵焼きはすっごい綺麗に巻けたの」

「ダイエットはもう決めたことであって、」

「今日のお味噌汁もね、お出汁いい感じにとれたんだよ~。ほらほら、食べて食べて」

 美味しいよ、とにっこり笑う彼女ときたら、何と小悪魔的で可愛いことか!

 誘惑にまけて卵焼きをひとつ口に入れる。続けて味噌汁にも口をつけた。そりゃ、もちろん、言うまでもなく美味しい。彼女の手作りだとか、私の好みを知り尽くした味付けだとか、そういうことをすべて含んだうえで美味しい。口に入れる前からわかってた。

 にこにことこちらを見ている彼女は、もう自身の勝利を完全に確信している。私が白旗をあげるのを、笑顔で待っていた。

「……聞いてほしいことがあるんだが」

「いいとも、聞こう」

 ご飯に添えてあったたくあんをひとつ、口に入れる。嗚呼、美味しいとしか言いようがない!

「……ダイエットは考え直すので、次からは一人前に戻してほしい。君も作るのは大変だろう」

「そう言ってくれると思っていたよ」

 満足そうに頷いた彼女は、ごはん残していいからね、と軽く言う。だが、そんな選択肢は存在しない。

「大丈夫、全部食べるよ」

「え、無理しなくていいよ?」

「食べるよ」

 私が君の料理を残すわけないだろうといえば、また彼女は嬉しそうに笑った。




我ながらこんな無茶なお題でよく書いたなと思う。

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