今回は「最終兵器彼女」のちせ&シュウジです。
[chapter:隠せない真情]
聖龍隊の施設、その一室。
其処では複数の特殊戦闘スーツに身を纏った聖龍隊員が真剣な真顔でテレビに視線を釘付けにしていた。
テレビでは聖龍隊総長で在りアニメタウンの市長である小田原修司が報道陣を前に過激な発言の数々を吐きながら、これから聖龍隊が行おうとしている活動について淡々と語っていた。
そんな修司の公言をテレビ越しで目の当りにし、その場の皆が次第に不安で顔色を変えて行った。
その内の一人、新メンバーでもあるシュウジも腰を下ろしながら報道陣に対する修司の態度に不安の色を隠せずには居られなかった。
「……………………」
一人、無言でテレビを睨み付ける様に見入るシュウジ
と、そんなシュウジに気付いて一人の丸顔の男が彼に歩み寄って声を掛ける。
「どうした新人。顔色が他の連中以上に悪いぜ」
すると声を掛けられたシュウジは鋭い眼つきを男に向けて、不満そうな表情で言った。
「お前らんとこの総長……いつもあんな感じなのか?」
訊かれた男はシュウジの睨みに怯む事無く平然と答えた。
「……まぁな。修司の奴、結構トゲのある言葉を平然と吐いちまうからな。俺達も参っちまっているぜ」
若干呆れ顔で言う男の言葉を聞き、シュウジは再び思い更けてしまう。
そんな彼を見ていた男はシュウジの肩をポンと叩いて彼の顔を向けさせた。
そして険しい面持ちのシュウジに男は言葉を掛けた。
「……心配なのかい? お前さんの彼女が」
「そ、そっ……! それはそのっ……」
言われた途端、顔を真っ赤にするシュウジに男は再び言葉を掛けた。
「お前さん結構照れ屋だなぁ。だが、それほどまでに彼女を思っているんだな」
「……ま、まぁ、その…………それは、そうなんだが……」
シュウジは顔を真っ赤にしたまま、照れながら男に言った。
それを聞いた男は口元に笑みを浮かべて微笑の面持ちでシュウジに言い聞かせた。
「ま、お前さんやあのちせって子の事は大方兄貴や修司から聞いたよ。あの子の将来の為にも、そしてお前さん自身の為にも、一緒に頑張っていこうじゃないか」
「………………」
だが不安の色が消えないシュウジは男の発言に対して無粋な面持ちで言葉を返せずにいた。
と其処に同室に居た二人の女性が不安の心境で頭がいっぱいのシュウジに話し掛けて来た。
「ウェルズさんの言う通りよ坊や」
「ぼ、坊やって。おばさんそんな〔ゴチッ〕いッ、いってェ……!」
話し掛けて来た女性におばさん発言をした途端、女性に軽く拳骨を喰らわされるシュウジ。
そしてシュウジに拳骨を喰らわした女性はムスッとした顔でシュウジに怒鳴った。
「おばさんじゃないでしょ、お姉さんと云うのが正しいでしょ。シュウジ君」
「ッ……」
拳骨を喰らわせられた頭部の個所を手で押さえながら涙目で女性を睨むシュウジ。
するともう一人の女性が苦笑しながらもシュウジに拳骨を入れた女性を宥める様に話し掛ける。
「は、はるかさん落ち付いて……。え、ええっと確か、君もシュウジ君だったわよね。聖龍隊の総長である修司君と同じ名の」
「あ、ああ、そうだが……」
女性に答えるシュウジに、話し掛けて来たもう一人の女性は安心感が醸し出される穏やかな笑みを浮かべてシュウジに話し出した。
「貴方の事はもちろん、あのちせって子がどんな思いをしてきたか粗方の事情は聞いているわ。だからこそ貴方の協力もお願いしたいのよ。貴方とあのちせちゃんが私達に協力してくれれば、これから私達が戦う異次元からの脅威と互角以上に立ち向かえる筈だわ」
「つまりそれは……俺やちせに、再び命を殺めさせる、という事だろ?」
「そ、そんな積りは……!」
睨みを利かせながら返答するシュウジの言葉に動揺する女性。
すると再び男がシュウジに話し掛ける。
「新入り、そんなにやっかむなよ。お前さんが気苦労しているのは知っているが、少しはナイーブにみんなと接しろよ。これから俺たちゃ一緒にやって行く仲間なんだしよ」
男がそう言った途端、シュウジは男に向かって権幕を立てて怒鳴った。
「フザケルなッ! 俺はもちろん、ちせだってまだアンタ等の様な得体の知れない連中とやって行くとは一言も言って無いんだぞ! 聖龍隊だか何だが知らねえが勝手に仲間にしてんじゃねえよ、腹立たしい……!」
そんなシュウジの様子を見てやれやれと云った感じで唖然となる男。
男は最後に草臥れた様子でシュウジに話し伝えた。
「まぁ、焦る事はねえ。これから先は長いんだ、少しずつ周りのみんなと上手く接して行けば良い事だしな、うん」
だがシュウジは不機嫌そうな表情を変える事無く不満気に黙り込んでしまう。
男は頭を悩ませながらもシュウジに対して名乗ると同時に優しく教えた。
「ま、色々あるよなぁ人生は……。どっちにしろ、お前はこれから聖龍隊でこの俺ウェルズ・J・プラントの下で共に戦って行くんだからその積りで居ろよな。何か解らない事が有れば遠慮なく訊いてくれや。此処に居る高木はるかや芹沢ルリ子を始め、俺ら聖龍別働隊の面々が色々と教えてやるよ」
男ウェルズがシュウジに言うと、続いてはるかとルリ子の二人もシュウジに言った。
「そういう事よ、これから一緒に頑張りましょうねシュウジ君」
「まだまだ色々と問題もある組織だけど、みんな気の良い人達ばかりだから安心して。大丈夫、少しずつで良いからみんなと馴染んで行きましょうよ、ねっ」
しかし、はるかとルリ子に言われながらもシュウジは心の底にある行き場の無い不安と戸惑いに人知れず苦しんでしまっていた。
そんなシュウジを見てウェルズはどうにか此処に居る聖龍隊の面々と上手く過して行きながら、彼等と協調性を得てくれればと人知れず思いふけていた。
[暴走する力]
そして聖龍隊の合同訓練の中、シュウジもウェルズに言われ半ば強引に訓練に参加されていた。
渋々聖龍隊の皆と訓練をするシュウジがであったが、一番驚いてしまった事が有った。
それは自分が配属された別働隊もそうであったが、本隊と呼ばれる面々の方も、等しく同じでまだ年端もいかない様な少年少女、それも少女の方が特に目立っていた事である。
シュウジはそんな聖龍隊の皆を見渡しながら訓練をしていると、其処へウェルズがシュウジに声を掛けてきた。
「おいどうした。さっきから訓練に身が入って無いじゃないか」
声を掛けられたシュウジは未だに心を開いて無いのか、声を掛けて来たウェルズを睨み付ける様に振り返り言い返した。
「おいアンタ、ほんとに此処の組織はどうなっているんだ? 女子供ばっかじゃねえか」
するとウェルズは真顔で平然と答えた。
「ま、まぁな。聖龍隊は特殊な能力が使える連中で構成された組織だからな。しかも、その能力者の大半は女が多いんだよ。ま、早く慣れる事だな」
だがシュウジはそれに対し不満そうな顔で吐き捨てた。
「タク、こんなガキ共ばかりの部隊でホントに大丈夫なのか? しかも軽く見積もっても数十人しか居ないみたいだし……」
女子供、しかも数十人しかメンバーが居ない事に不満を口にするシュウジ。
と、其処へシュウジと同じ別働隊の早見青児(はやみせいじ)とミスティーハニーの二人が歩み寄りシュウジに声を掛けて来た。
「どうしたんだ新人」
「さっきから集中ってものが見られないわよ」
そんな青児とミスティーに対してシュウジは素気ない態度で言葉を返した。
「仕方ないだろ、女やガキばっかの訳の分からない所でやって行けって言われて頭が混乱しているんだよ。それ以前に半ば強引に連れて来られて集中なんかできっか」
そんなシュウジの言葉を聞いて呆気に取られる二人。
更に青児とミスティーに続いて高木はるかと芹沢ルリ子の二人もシュウジに言いに来た。
「シュウジ君、もう少し他のみんなと仲良くしなさいよ」
「そうよ、さっきから何かと愚痴ってばっかりじゃない」
聖龍隊に居ること事態を気に入って無いシュウジに言い寄るはるかとルリ子、だがシュウジはそんな二人に対しても険しい不満気な面持ちで言った。
「別に、俺はこんな珍妙な輩と仲良くする積りは毛頭も無いんだよ。ほっといてくれ」
「「…………」」「「…………」」「…………」
態度を一向に変えず不機嫌な心情のシュウジ、彼の言動に青児とミスティー、はるかとルリ子、そしてウェルズは憂鬱な表情で互いの顔を見合った。
その頃、ちせの方はと云うと。
「おーーい、お嬢ちゃーーん。オレはいつでも良いから何処とでも懸かって来なよ、なぁ!」
ちせの前方、少し離れた所に銀色の獣人、メタルバードに変身したバーンズが声を上げてちせに呼び掛ける。
しかし当のちせの方は、いくら前もって修司に言われているとはいえメタルバードに攻撃する事を躊躇っていた。
メタルバードはそんなちせの戸惑う様子を見ながら再度告げた。
「おいおい大丈夫だよお嬢ちゃん、オレ様は簡単にはくたばらないからよ。早く手合わせしねえと、それこそ修司の逆鱗喰らって半殺しにされちまうんだよ、アイツ気が短けぇから」
メタルバードに言われ続けたちせは憂悶の顔で心中に不安を一杯にしつつ、渋々と両手を前に突き出す様に伸ばす。
すると彼女の腕が見る見るうちに機械化し、レーザー兵器の先端へと一変していった。
「お、おっ、遂に来るか? はてさて、威力はどれくらいなんだ……?」
少しばかり顔に不安の色が浮かび上がって来るメタルバード。
そしてちせは耐え凌いでいた力を放出するかの如く、一気にエネルギーをメタルバード目掛けて発射した。
「す、すげェ、これがこの子の力か、ってワッ……!」
ちせの放った高エネルギーは全てメタルバードに直撃、彼を後方の壁を突き抜ける勢いで吹き飛ばした。
「きゃ、きゃあっ」「な、何だ一体?」
同じ訓練場に居た面々が突如辺りに響き渡る轟音に驚愕し声を荒げ出す。
そして皆が視線を向けた先にはエネルギーを放出し、愕然とした表情でちせは突っ立っていた。
そして彼女の視線の先には一筋の黒く焦げた痕そして崩壊した訓練場の壁、それらを見た聖龍隊の面々は一驚した。
「ち、ちせ!」
エネルギーを放出し眼前のメタルバードと壁を崩壊してしまい顔色を悪くしてしまうちせに、彼女を見たシュウジが名を叫んだ。
すると大破した壁の中から全身が真っ黒になってしまったメタルバードが千鳥足でフラフラと出て来て、愕然と立ち尽くすちせに一言云った。
「……ふ……ふぅ~~……こ、これがキミの能力……なのかい……?」
銀色の光沢輝くボディが黒焦げになりながらもちせに訊ねるメタルバード。
と其処へ、ナースエンジェルとの対話を終えた修司が二人の騒ぎを目にして、微笑を浮かべながら歩み寄りメタルバードに言う。
「ははは、見事に黒焦げだなメタルバード……。まぁ、未だにちせの能力は制御が難しいが、コントロールさえ出来る様になればかなりの戦力になるだろう」
そして修司は続けて、ちせにも言った。
「ちせ、さっきも言った様にこのメタルバードは聖龍隊でもG並に生命力が強いから、お前の相手には丁度良い筈だ」
「しょ、しょんな……。お、オレだって回数が上がれば持ち堪えられねえよ……こ、こんな高威力のレーザーは……」
黒焦げに成りながら擦れた声で修司に言い返すメタルバード、そんな彼を見て心痛の想いで胸を一杯にするちせ。
そして彼女は思ってしまう。
やはり自分には、破壊と殺戮の、兵器としての力しか無いのかと
自分が聖龍隊の様な、多くの人々から信頼を得られている人達と一緒に行動する事など無理ではないのかと
今まで、壊し殺す事しかできない自分が誰かを護るなど不可能ではないのか、と不安の胸中に駆られてしまった。
そして、そんなちせの心情を察しているのか、シュウジ自身も心の奥で不安の真情が駆け廻っていた。
周りの皆が高火力のちせの能力に驚倒する勢いで愕然としてしまっていたのをシュウジは感じ取っていたのだが、彼は悩んだ。
自分を慕い、自分を愛してくれている恋人が苦しんでいるのに、自分は何もできない。
そんな現状にシュウジは戦場で彼女と再会した当初から思い悩み、自責の念に苦しんでいた。
自分はどうしたら良いのだろうか、どうすれば彼女を救えるのだろうか
どうすればまた以前の様に気兼ねなく笑い合えるように成れるのだろうか、いや戻れるのだろうか。
シュウジは人知れず苦悶の真情に悩まされ続けていた。
兵器に成ってしまった少女と、そんな恋人にどう接すれば良いのか苦悶する青年。
少女と青年、二人の運命の葛藤は今 始ったばかりだった。
[殺戮の兵器と対話する破滅の戦士]
訓練場での一件以来、ちせは聖龍隊の誰とも会おうとせず人との関わりを避ける様に、用意されていた自室に一人籠りっきりに成っていた。
彼女は訓練場で感じた周りの視線に人知れず悲しみ、そして苦しんでいた。
制御のできない危険な能力、そして破壊力に怯え危険な存在(もの)を見る様な視線。
ちせはそんな人からの視線に対し悲痛な心境に陥り、そんな視線から避けるかの如く部屋に籠っていた。
そんな、ちせが悲痛な心境の最中、部屋に訪れて来た少女達が居た。
「あ、あの~~……」「こ、こんにちわ……」
最初に部屋のドアから顔を覗かせたのは金髪のツインテールの少女と黒の長髪の少女。
「だ、大丈夫、ですか……?」
「少し御邪魔しても良い……?」
二人に続いて室内のちせに訊ねるのは、水色のショートカットの少女と茶髪のポニーテールの少女。
「え、え~~っと、その……き、気分はその、どうかしら?」
「あ、あの……大丈夫でしたか? お姉さん……」
更に金髪のロングヘアーに赤いリボン、そしてピンクのシニヨンヘアーの少女二人が。
「済みません、こんな大勢で押し掛けて来てしまって。私が話しに行くと言い出したらみんなも付いて行くって……」
そして最後におかっぱ頭の少女が室内のちせに申し訳なさそうに言いながら部屋に入って来た。
「……あなた達は、確か……」
ちせは部屋にやって来た少女達に悲痛な表情そして空虚な眼差しを向けて呟いた。
すると少女達は再度ちせに自己紹介をし出した。
「や、やぁ、えっと確か、ちせちゃんだったよね。前にも名乗った事は有ったけど、私は月野うさぎ、セーラームーンだよ」
「私はセーラーマーズの火野レイよ」
ツインテールに黒髪の少女二人、うさぎとレイが名乗ると他の四人も続いて名乗った。
「私は水野亜美(みずのあみ)、セーラーマーキュリーよ」
「私はジュピターの木野まこと」
「愛野美奈子(あいのみなこ)ことセーラーヴィーナスでぇす」
「私はちびムーンのちびうさだよ」
水色のショートカットの少女水野亜美、ポニテの少女木野まこと、金髪ロングに赤いリボンのヴィーナス、ピンクのシニヨンヘアーのちびうさがそれぞれ名乗る。
そして最後におかっぱ頭の少女が悲愴な面持ちでちせに名乗る。
「私はセーラーサターンの土萠(ともえ)ほたると申します。改めて……本当にこんな大所帯で押し掛けて済みません、ちせさん」
名乗ると共に丁寧に詫びを述べるほたるの言葉を聞いて、ちせは部屋にやって来たセーラー戦士達に言う。
「なんですか、こんな大勢で私なんかの所に……危ないから此処には来ない方が良いですよ」
「そ、そんな。私達、もう同じ聖龍隊の仲間じゃないの。そんな謙虚に成らなくても……」
暗鬱な表情で言うちせに対し言葉を返すレイ、しかしちせは暗く悲しげな心情が変わらぬままセーラー戦士達に絶えず申した。
「私なんかと一緒に居たら、いつ自分が死ぬか解りませんよ……。あなた達だって見たでしょ、私の力がどんなものか……」
「そ、それは、そうだけど……」ちせの弱々しくも悲痛な言葉に思わず口を噤んでしまう美奈子。
更にちせはセーラー戦士達に申し続けた。
「もし、戦闘で私を使うのでしたら、成るべく皆さんとは離れて別行動で戦いますので、どうか私なんかに気を使わずに……」
「な、何を言っているの……! 使うって、まるで道具みたいに……」
ちせの自暴自棄染みた発言に驚いてしまう亜美。するとちせは下を向いて語り始めた。
「私は、皆さんの様に自分の力が制御できないんです。いつ力が暴走してしまうか不安定ですし、その時は周りに居た敵味方を問わずに多くの命を奪ってしまいました。……私は、もう普通の人間ではない、単なる――殺人兵器なんです。……だから、私と関わる事は危険なんです。どうか、私の事は放っておいてください」
自らの事を投げ遣りにしてしまうちせの話を聞いて悲愴な心境になるセーラー戦士達。
すると、そんな自暴自棄なちせにジュピターの木野まことが話しかける。
「で、でもね、ちせちゃん……私達はみんなで協力し合って、これからいつ来襲してくるか分からない敵に対処しなければいけないのよ。私たち自身もあなたの力に成りたくて……」
しかしちせは話してくるまことに対してすかさず言い返した。
「良いんです、私の事なんか……! あなた達の総長であるあの男の子が何を思っているのかは知らないけど、私とは関わらないで下さい。それがお互いの為なんです……」
ちせの言葉に暗然と成り返す言葉が無いセーラー戦士達。
と、その時。あのおかっぱ頭の少女ほたるが暗雲としているちせに言葉を掛けた。
「……あ、あの……ちせさん」「……?」
ちせがほたるに顔を向けると、ほたるはそのままちせと目を合わせたまま話し出した。
「ちせさんが私達の事をどう思っているか解らないけど……少なくとも、此処に居る私達はちせさんとの仲を結びたいと願っているんです」
「…………」
「ちせさんが今まで兵器としての能力でどれだけ人を傷付けてしまったかは知りません。だけど、だからこそ私達はちせさんの苦しみや悲痛な想いを一緒に分かち合って行きたいんです。各云う私も、かつては此処に居る仲間達に途方も無い迷惑を掛けていた時期がありました」
「……」
「だけどその時も、みんなが私の為に力を出し合って私を救ってくれました。実を言うと私も、ちせさんと同じで……ちせさんと似た能力を持っているんです……!」
「……え……っ?」
突然のほたるの発言に軽く驚いてしまうちせ、ほたるはそのまま話を続けた。
「私、セーラーサターンは土星を守護の星とするセーラー戦士。そしてその能力は破滅と誕生を司る、戦士達の中でも禁忌の力なんです。故に私も当初は戦士達の中では、今のちせさんと同じような扱いだったんです」
「…………!」
ほたるの話の内容に内心無言で愕然と驚くちせ、ほたるはそんなちせに温情漂う微笑みで言った。
「ちせさん、貴女が自衛隊で何をされていたとしても、自衛隊で何をしていたのかも、私達はそんなの気にしません。ただ、これからは一兵器としてではない……私達、聖龍隊の大切な仲間だって事だけは胸に留めておいてください……! 私達だってちせさんと同じ、尋常では無い能力が使えると云う点では同じ存在なんです。もう、一人で悲しい思いを堪える必要は無いんです」
「……………………」
星の力を司るセーラー戦士達の心強い言葉の数々に人知れず心の内に何かを感じ始めるちせ。
しかし彼女は自分に言葉を掛けてくれるセーラー戦士達に対して言葉を返す事は無かった。
いいや、返す言葉が見つからなかったと云うのが適切であろう。
どんなに優しく、そして温もり溢れる言葉を告げてくれたとしても、兵器と化してしまった少女の心の殻は固く閉じたままであった。
己の身体が兵器と化し、戦争で使われるだけの存在に成り果ててしまった少女の心には、簡単には晴れ渡る事の無い暗雲が立ち込めるばかりであった。
[人として生まれた幸せ]
セーラー戦士と話をしたちせであったが、それでも彼女が周りの聖龍隊と関わりを避けているのは変わらなかった。
ちせが一人、部屋に居ると其処へ一人の金髪でスレンダーな女性が入って来た。
「……貴女は……?」
悲愴な面持ちで静かに女性に声を掛けるちせ、すると女性は笑顔でちせに名乗ると共に訊ねた。
「私は如月ハニー、英雄(ヒーロー)名はキューティーハニーよ。少し御話しても良いかしら?」
「は……はい……」
ハニーの言葉にちせは若干の戸惑いを発しつつも承諾する。
そして二人は互いに向き合って会話を始めた。
「確かお名前は……ちせちゃん、って言ったわよね、貴女」
「……はい」
ハニーの問い掛けに、悲愴感漂う弱々しい小さい声で返事するちせ。ハニーはそんなちせに対して態度を変える事無く優しく話しかける。
「どうしたの一体? 訓練場で見掛けて以来、余り見て無いんだけど……聖龍隊のみんなと話はした? あなたはちゃんと食事は摂っている?」
「……はい、セーラー戦士の人達とは少し話はしました。食事はウッズさんが三食決まった時間に提供してくれているので大丈夫です」
「そう、良かったわ……」
悲愴な面持ちで答えるちせの話を聞いて安堵の微笑みを浮かべるハニー。
すると、そんなハニーにちせが唐突に言った。
「……安心してください。戦闘ではちゃんと戦えるよう栄養補給はしています、戦闘中のアクシデントも極力避ける為にもメンテナンスは行っているので大丈夫です。なので、私の事は気にかけなくても良いんですよ。言われた通り――命令通りに、殺して行く所存ですので」
「! な、何を言っているの!? そんな、殺して行くなんて……!」
ちせの発言に驚愕してしまうハニーは、言葉を発したちせにすかさず言った。
「そんな事、女の子が言っちゃいけないわ。そもそも、私達は人を護る為に戦っているだけで殺すなんて……」
このハニーの発言を聞いたちせは憂鬱な表情を浮かべてすかさず言い返した。
「……何を言っているんです、戦うと云う事は同時に敵の命を奪う事ではないですか。少なくとも私はそう自衛隊で教えられながら戦場で多くの命を奪って来ました……今までも、そしてこれからも……」
「っ…………」
余りのちせの言動に言葉を失ってしまうハニー。
ハニーは、ちせが今まで自衛隊でどの様な辛い日々を過ごしてきたか悟った。
そしてハニーはしばし考え込み、黙然としているちせに意を決して話し出した。
「……ちせちゃん、貴女は今では兵器に改造されてしまってはいるけど、それじゃ貴女の家族は今どうしてる?」
ハニーに訊かれ、ちせは無情の面持ちで答えた。
「家族は……今、私の故郷の北海道にまだ住んでいる筈です。……自衛隊に入隊してからは、ほとんど連絡を取ってはいませんけど……」
ちせの答えを聞いて、ハニーは話し続ける。
「ちせちゃん、少なくとも貴女の家族は、貴女の事を単なる兵器とは思って無い筈よ。例え身体が改造されてしまったとはいえ、実の子を兵器として忌み嫌いそして恐れる親なんて居やしないわ……!」
「…………」黙り込んでしまうちせ。
更にハニーは心痛な面持ちで語り始めた。
「ちせちゃん、実を言うと私……あなたや、あなたの恋人であるシュウジ君と違って、人では無いのよ」
「え……! そ、それって……」
ハニーの告発に動揺し出すちせ、そしてハニーはそんなちせに語り続ける。
「私は……いいえ、私と妹の聖羅は、実は人間では無かったの。私たち姉妹は、空中元素固定装置(くうちゅうげんそこていそうち)という機械の種子から産まれた、一種の人工生命体なの。貴女は、ちせちゃんは最近に成って兵器に改造されたみたいだけど、私達姉妹は産まれた時から人では無かったの」
「…………!」
ハニーの口から発せられる事実を知り、ちせは驚きの余り言葉を失ってしまった。そんな中ハニーはちせの目を見詰めながら神妙な面持ちで話し続けた。
「だけどね、ちせちゃん。私達は決して不幸じゃ無かった……私はその装置の開発者である如月猛(きさらぎたけし)って科学者に本当の娘として愛情を注がれて幸せな半生を送れた。聖羅は最初、ちょっとした事情で私たち聖龍隊と敵対はしていたけど、今は同じ聖龍隊の仲間として仲良くできているわ」
「……………………」
「要するにね、ちせちゃん。人で無い私や聖羅にだって、ちゃんとした人としての幸福感は得られるんだから、ちせちゃんだってその気になれば絶対に幸せに成れる筈よ! 私と聖羅は長い聖龍隊での戦いの中で、今では聖龍隊以外の知人にだって自分が人間で無かったと知られている……けど、その人達は決して私や聖羅に蔑視の眼差しで見て来る事は無いわ。今まで通り何気なく一緒の時間を過してくれているわ」
「………………」
「私はね、ちせちゃん。あなたにもそんな幸せを感じてほしいの……! あなたは単なる戦いの為の兵器じゃ無い、人としてホントに在り来りの幸せを感じてほしい。私の様な人工生命体だって得る事の出来た尊い幸せを……人として生まれた幸せを胸に秘めながら、精一杯生きて欲しいわ」
「……ハニーさん」
如月ハニーの優しくも温かい言葉に、ちせは心に小さな灯が付いた様な温もりを若干ではあったが感じ取っていた。
人では無く創りだされた存在ながらも、人としての幸せを感じながら懸命に生き続ける愛の戦士。
人として生まれながらも身体を改造され半身機械の身体と化してしまった幸薄い少女。
対照的な二人が話し合ったそれぞれの想い。
人として生まれ出た半身機械の少女は、愛の戦士からの言葉について何を思ったのであろうか。
一方のシュウジはと云うと、別働隊の方で各自武器の手入れなどを行っている真っ最中で有った。
「………………」
「ほほぅ……新入り、お前やけに銃器の手入れが慣れているな」
「まあな、これでも一時期とはいえ自衛隊で活動していた頃が在ったからな」
聖龍隊内で渡された備品の銃火器を手慣れた手付きで手入れしているシュウジを見て言葉を掛ける早見青児(はやみせいじ)。
「へぇ、これなら銃器類持たせただけで即戦力に成るわね。恋人だけ強いと思っていたら男の方も結構やるじゃん」
「………………」
葉月聖羅がシュウジに見直した視線で物申すが、シュウジはそれに対して無言を保った。
すると突然、シュウジがぽつりと言葉を吐いた。
「……戦力に成るなら、何を持たせても良いのか」
「え……」「っ……」
突然のシュウジの微かな呟きに動揺する青児と聖羅、そしてシュウジは銃器を弄る手を止め更に吐くように言い放った。
「戦力に成るなら、人の人生なんてどうでも良いのか……!!」
「ッ……!」「……!」
シュウジはこの時、相手の二人に狂気染みた目付きで睨みつけ、睨まれながら言葉を告げられた青児と聖羅は愕然となった。
そしてシュウジは再び手を動かし銃器の手入れをし出した。
只ならぬシュウジの様子に戸惑いを見せる青児と聖羅。
しかし突然、言葉を吐いたシュウジに向かって聖羅が告げた。
「……貴方、あのちせって子の事を言ってるの?」
「…………」
険しい顔付きで訊ねる聖羅に、シュウジは何も答えず自分が手にしている銃の手入れを続ける。
だが、聖羅はそんなシュウジに再度、強めの口調で言った。
「貴方!」「ッ!」
突如目の前まで顔を近づけて自分に言い寄る聖羅に驚愕するシュウジ。
聖羅はそのままシュウジに顔を近づけた状態で、強気な目付きで睨む様な眼差しの表情でシュウジに言った。
「貴方……まだそんなの気にしている訳? 最愛の彼女が兵器なんかに改造されてしまった事に……」
「なッ、何言いやがる! そんな事だと……? アンタ、俺やちせが今までどんな思いで過してきたか、解るのか……!?」
「解らないわよッ……私は、産まれた時から人じゃ無かったんですもの……!」
「!?」「せ、聖羅……!」
シュウジと言い合っている聖羅が突然発した言葉に、言葉の意味を理解していなかったシュウジは戸惑い、突然の聖羅の告発に驚愕する青児。
そして聖羅はシュウジに言った。
「良い? そもそも私達は、あなた達が今までどんな辛い人生を歩んできたかなんて知らないし知らなくても良い事なの。だけどこれだけは言っておくわよ……!」
「…………」
「……過去と云うのはね、一種の宿命みたいなもんなのよ。どう足掻こうと決して塗り替える事が出来ない事実なの。どんなに辛かったとしても過去は変わらないんだから貴方も、あのちせって子も、自分の過去って云う柵(しがらみ)から離れて明日(まえ)に向かって一歩でも半歩でも良いから進みなさいよッ!」
「…………」「…………」
聖羅の力強くも悲痛な問い掛けに言葉を失くして固まってしまうシュウジと青児。
そんな三人のやり取りを、少し離れた所で除き見ていたウェルズは心の中で思っていた。
(……ふぅ、聖羅の奴も言う様に成ったなぁ。まぁ、彼女自身も最初は苦しんでいたからな、自分が人間(ひと)で無かった事実に……)
そしてウェルズは思い更けながらその場を立ち去って行った。
(まぁ、あのシュウジも、その彼女のちせも、聖龍隊に入った事で少しでも前を向いて生きていける様に成れれば良いんだが……。二人以上に辛(しんど)い生き様の連中なんて聖龍隊には結構居るしなぁ)
(……ん? そう言えば……あの修司も結構な過去が在るとかどうとか兄貴が言っていたけど聞いた事はねえな。アイツの過去って何なんだろうか……?)
人として産まれ出なくても力強く前を向いて生きているミスティーハニーこと葉月聖羅。
彼女の言葉を、心情を告げられて自身や彼女の事で心を痛めているシュウジは何を思い感じ取ったのだろうか。
[希望を胸に]
更にちせの部屋に、当初ちせが誤って力を暴発させてしまい危うい目に遭わせてしまった、あのカードキャプターの木之本桜(きのもとさくら)がやって来てちせと対話を望んで来た。
ちせは初対面の際、力が暴発して危うくさくらを殺めてしまいそうになった事に凄く申し訳なく思っていた為、半ば仕方ない真情でさくらを部屋に招き入れた。
「あの……さくらちゃん、だったよ、ね……」
「は、はい、そうです。あのちせさん、気分はその、どうですか?」
部屋に招き入れたさくらに戸惑いながらも話しかけるちせ、さくらも同じく動揺しつつもちせに返事を交わす。
「え、ええ。少しは良いわ、その…………ありがとう、私なんかに気を使ってくれて……」
「そ、そんなの、当前じゃないですか。私達、もう同じ聖龍隊の友達なんだから」
「…………」
自分に気を使ってくれるさくらの発した友達と云う言葉に、ちせは思わず固まってしまう。
人を殺め続けていた自分に掛けてくれるさくらの優しい言葉にちせは微かな感動を感じた。
その時、ちせは唐突にさくらに口を開いた。
「あ、あの、さくらちゃん……」「ん? 何ですか」
「その……あの時はゴメンなさい。危うくあなたの事を、その……殺してしまう所だった」
「そ、そんな、もう良いですよ私は。ちゃんとカードが私の事を護ってくれたので無傷でしたし……」
初対面の夜、自分の能力で危険な目に遭ってしまったさくらに詫びの言葉を告げるちせ。対してさくらは笑顔で気にしてない素振りをちせに見せる。
そんな中、さくらは微笑みの表情でちせに話し掛ける。
「ち、ちせさん、元気出してください。私は何とも無かったんですし、これからは聖龍隊で一緒に活動して行く仲間じゃないですか」
笑顔を見せないちせに励ましの言葉を掛けるさくら、だがちせはそんなさくらに悲しげな瞳を向けて言った。
「……さくらちゃん、別に良いのよ。私は私、あなたの様な子が気にする必要は無いのよ」
「そんな……! 私はただ、ちせさんにも笑顔に成って欲しいなって……」
さくらが自分の想いを必死に釈明していると、ちせは悲痛な眼差しでさくらに話し返した。
「そんな必要は無いのよ……兵器に笑顔は似合わない、兵器に感情なんて必要ないんですもの。あなたの気遣いは嬉しいけど、私には余り関わらない方が良いわよ、こんな……死神なんかに」
「し、死神……!?」
突如ちせの発した死神と云うフレーズに戸惑うさくら、するとちせは訳を話し始めた。
「私はね、さくらちゃん。兵器として体を改造されて以来、多くの戦場で戦い続けてきた。だけどその度に、自分の能力が暴走して敵味方問わず多くの命を奪ってしまい、周りから付けられた名が……死神なの」
「…………!」
ちせの悲痛な過去を知り、言葉を失くすほど衝撃を受けてしまうさくら。
しかしさくらは意を決して再びちせに話した。
「で……でも、ちせさんは、何も自分の意思で命を奪って来た訳じゃないでしょ? ただ自分の力の制御が上手く出来ないだけで、一番苦しんでいるのはちせさん本人じゃないっ! 何もちせさんが悪く言われる筋合いは無いよ……!」
心痛なる想いでちせに話し掛けるさくら。
自分の意志とは関係無く力が暴走してしまい、それ故に多くの命を奪ってしまったちせの心情を知り、心を抉られるほど胸が痛むさくら。
そしてさくらは神妙な面持ちでちせに歩み寄り、ちせの両手を半ば強引に手に取りそのまま両手で握手をした。
「えっ、その……さ、さくらちゃん……?」
突然のさくらの行動に戸惑うちせ、するとさくらは満面の優しい微笑みをちせに向けて話し出した。
「ぜったい大丈夫だよ、ちせさん。私達はちせさんの様に、自分の能力で自分自身を傷付ける上に苦しんでしまう人達をたくさん見て来ました。そして、そんな人を助けてあげるのも聖龍隊の役目なんです」
「…………」
「だからちせさん、もう一人で苦しんだり辛い思いをしなくても良いんです……! これからは私達が、聖龍隊がちせさんの力に成って上げます」
「さくらちゃん……」
さくらの力強い想いが感じられる言葉に、ちせは目を丸くして表情を固める。
するとさくらは突然、ポケットから一枚のカードを取り出してちせに見せた。
「……これは?」
見た事の無いカードを見て不思議に思うちせが訊ねるとさくらは笑顔で答えた。
「これは私の持っている魔力を秘めたカードの一枚【ホープ(希望)】。ちせさん、これを貴女に渡して置きます」
「え!?」
突然手渡されたホープ(希望)のカードに戸惑ってばかりのちせ、するとさくらは笑顔を向けてそんなちせに優しさ溢れる口調で言った。
「ちせさん、このカードをちせさんが元気になるまで肌身離さず持っていてください。効力はほとんど無いカードなんですし、気休めにしか成らないかもしれませんが……ちせさん、決して希望を捨てずに最後まで一緒に頑張りましょう!」
「…………」
さくらの明るい発言に返す言葉を失くすちせ。
そして最後にさくらは笑顔でちせに言葉を一言掛けた。
「ちせさん、ぜったい大丈夫だからね。だから諦めず一緒に、これからもずっと仲良くしていこうっ」
さくらはそう言い残し、ちせの部屋から出て行った。
無邪気で明るい笑顔を見せながら自分と話をしてくれたさくら。
多くの命を奪って来た兵器と成り果ててしまった自分と明るく対話をしてくれたさくら。
そして、そんなさくらが自分に少しでも元気になって貰う為、決して希望を捨てずに互いに協力して行ける様に彼女が手渡してくれたホープ(希望)のカード。
ちせはそんな健気な少女さくらの想いを受け取り、心の中で何を思うのか。
その頃、シュウジはと云うと。
別働隊の方で、同じ隊のメンバーである李・小狼(リ・シャオラン)と李・苺鈴(リ・メイリン)の二人と一緒に居た。
「――……お前達は平気なのか?」
「えっ」「な、何をですか?」
突然、小狼と苺鈴に話し掛けて来たシュウジに戸惑いつつも苺鈴が訊き返すと、シュウジは真顔で二人に訊ねる。
「お前達は怖くないのか? まだ年端もいかねえ子供だって云うのに、死ぬかもしれない戦場に出させられて」
すると二人は互いの顔を一瞬見合わせると、平然とした態度で答えた。
「そりゃあ、怖くないと言えば嘘に成りますけど……」
「で、でも。私達が協力しながら戦わなければ、状況がますます悪化しちゃうんだし、頑張って戦わないといけないのは明白でしょ?」
「…………」
二人の答えを聞き、しばし考え更ける様に黙り込むシュウジ。
そしてシュウジは再び二人に言葉を掛ける。
「そう言えば、お前達にも不思議な能力が有るのか? 俄かには信じられねえが、魔法とか超能力とか……」
これに小狼が答えた。
「ええ、俺には一応、先祖代々受け継がれた魔導師の血筋による魔力が備わっています。苺鈴の場合はその魔力が受け継がれてはいませんが……」
この小狼の発言に付け足す様に、続け様に苺鈴もシュウジに告げた。
「で、でも、私には得意のカンフーが有りますし、充分戦力に成りますッ」
二人の発言を聞き、シュウジは思い詰めた様な面持ちで言った。
「そうかい……ま、所詮魔法とか霊能力だろうが、戦いそのものを止める事は出来ないだろうがな」
「えッ?」「そ、それって……」
シュウジの発言に戸惑い始める小狼と苺鈴。そんな二人にシュウジは悲痛な真顔で言い放った。
「所詮、特別な力が有ったって、ちせの失った人間としての部分は取り戻せない……。俺達の壊れた町や、死んでしまった親友達を生き返らす事は出来ない……。ちせが幸せだって感じてくれる事は、もう無いんだ」
重く苦しい悲痛な言葉を述べるシュウジに、小狼は居た堪れない心境に駆られた。
だが一人、苺鈴だけが険しい顔付きに表情を一変させてシュウジに歩み寄って一言告げた。
「アナタ!」「な、何だよ突然……」
突然強めの口調で言葉を掛けて来た苺鈴に困惑してしまうシュウジ。
すると苺鈴はシュウジの顔を強気な強面の面持ちで見下ろしながら話し出した。
「ちせさんが、自分の彼女がもう幸せだと感じられないですって……良くもそんな事言えるわねッ」
「………………」
自分に言い迫る苺鈴の言動に動揺し何も言い返せずにいるシュウジ。
「ちょ、ちょっと苺鈴。いきなり何言い懸かるんだよ」
「小狼は黙ってて……!」「ッ!」
興奮する苺鈴を宥めようと彼女に声を掛ける小狼であったが、苺鈴の鋭い眼光に怯んでしまう。
そして苺鈴は再び視線をシュウジに戻して話を続けた。
「確かに貴方やあのちせさんの心境は同情したくなるほど辛いものだって事は知っているわ。だけどそれが何なのッ、何より彼女が苦しがっているなら先ず恋人である貴方が真っ先に励まし続けて彼女を、ちせさんを元気付けてあげなきゃいけないんじゃないの!? 自分達は不幸だの何だのと言っている暇が有ったら、少しでもちせさんだけでも元気にそして笑顔に成れるよう励ましてあげるのが恋人である貴方の役目なんじゃないの!!」
「…………」
「貴方とちせさんは強い想いで結び付いている恋人同士なんでしょッ? だったら、こんな時にこそ彼氏である貴方がちせさんの力に成ってあげなきゃいけないんじゃない! ちせさんの身体はもう普通の女の子に戻れないけど、掛け替えのない恋人の貴方はまだ健在じゃないの。貴方は貴方で思う所は有るかもしれないけど、真っ先に考えてあげなきゃいけないのは自分を好いていてくれているちせさんの事じゃないの?」
そして最後に苺鈴は薄らと目に涙を浮かべながら必死にシュウジに叫んだ。
「恋人同士なんだから、最後まで励まし合って一緒に居てあげるのが当然でしょッ!」
「ッ……!」「め、苺鈴……!」
苺鈴の涙ながらの必死の力強い言葉に愕然と成るシュウジと小狼。
そんな三人のやり取りをまたまたウェルズが見ていて、彼は内心想い更けていた。
(苺鈴も良く言うぜ。まぁ、あいつもずっと想い願っていた恋が実らなかったからな。心情察するぜ)
ウェルズは知っていた。
苺鈴の恋想っていた相手、そう従兄の小狼に対する恋心が結局は実らなかった事を。
小狼がさくらと相思相愛の仲に成った事実を苺鈴は心の中で受け入れてはいながらも、奥底ではとても苦しく心痛な想いに駆られていた真情であったのを。
故に、自分の恋が実らなかったからこそ、今なお愛し合っているシュウジとちせの相愛の関係を想い願っている苺鈴。
失恋した少女の一途な想いを、悲痛な心境の最中である青年は受け止めてくれたであろうか。
[これからは護る為に]
兵器と化した少女ちせは、己の身体が機械化すると同時に肉体の個所が損傷してしまい度々出血してしまう難点が有った。
故に定期的に機械としてのメンテナンスと肉体の治療処置が必要と成る。
ちせのサイボーグ能力のメンテナンスについては、修司がちせの身体を改造した科学者のムラセと彼女のメンテナンスを行っていた技師のワダから強引に脅し取ったデータを元に、ウッズと聖龍隊の協力者と成ってくれた犬養基継(いぬかいもとつぐ)博士と花丘魁(はなおかかい)の三人かがりで懸命なメンテナンスを施し続けていた。
一方の肉体の損傷は、聖龍隊でも別格の治癒能力を持っているナースエンジェルに損傷個所を治療して貰った。
「はい終わりましたよ。気分はどうですか?」
「はい……とても良いです。ありがとうございます」
損傷した部分をナースバトンから放出する光で治療したナースエンジェルが訊ねると、ちせは穏やかな笑みを浮かべながらナースエンジェルに丁寧に礼を述べる。
「また身体から出血などの損傷が起きてしまったら遠慮なく私を呼んでください。すぐに治しますから」
「ありがとう……」
いつでもどんな時でも怪我の治療をしてあげると笑顔で言うナースエンジェルに、ちせは薄らと寂しそうな笑顔を浮かべて礼を返した。
そんなちせの状態を見て、彼女の悲痛な心情を悟ったナースエンジェルは再び笑顔でちせに話を掛けた。
「……大丈夫ですか? まだ身体の何処か…………いいえ、心が痛むんですか?」
「っ……!」思わぬ真情を衝かれ、愕然と成るちせ。
そんなちせにナースエンジェルは微笑みながら話し掛け続ける。
「貴女は……ちせさんは……機械と化して傷付く身体の痛みよりも、自分の能力で多くの命を奪ってしまった事に対して、酷く苦しんでしまっているんですね……」
「…………!」
自分の心の内を鋭く指摘され、居た堪れない心境に駆られて行くちせ。
するとナースエンジェルは温情溢れる笑顔で優しくちせに話した。
「ちせさん、私も最初、貴女の過去を知った時はさすがにショックでした。しかし、今の貴女はこうして聖龍隊に居られるじゃないですか」
「…………」
「ちせさん自身が一番、自分のしてしまった行為に苦しんでいるのは凄く解ります。でも、いくら辛く悲しくても過去は変えられません……! だからこそ、必死に前を向いてこれからを懸命に生きて行かなきゃいけないんじゃないでしょうか」
「……」
「ちせさん、まだまだちせさんの心は辛く苦しい心境でしょうが、一緒に前に進んで行きましょう。私の能力(ちから)では不足かもしれませんが、少しでもちせさんの心が明るく成れるよう努めて行きます。だからちせさんも、自分から元気を出せる様、私と一緒に頑張りましょう」
「あっ……あぁ……!」
ナースエンジェルの温かい言葉に感化され、自分の意志とは無関係に目から涙が零れそうになるちせ。
そんなちせにナースエンジェルは、不意にちせの頭の後ろに手を回し、そっと彼女の頭を自分の胸に押し当て、同時に頭を優しく撫でながら優しい言葉を掛けてあげた。
「大丈夫ですよ、聖龍隊(ここ)には貴女を嫌う人は一人も居ません。もし居たとしても、私がちせさんの味方に成って護りますから……だから、もう大丈夫」
「うっ……うぅ……!」
ナースエンジェルの優しい言葉と頭を撫でる手から伝わる温もりが追い打ちと成り、ちせはそのままナースエンジェルの胸に頭を預けながら泣き出してしまった。
どんな怪我をも瞬時に回復できる白衣の天女が唯一治す事が困難であるのが心の傷。
白衣の天女ナースエンジェルは、自身の能力に苦しみ故に心が傷だらけに成ってしまった少女ちせに優しい言葉を掛けてやる事しか出来なかった。
しかし兵器と化した少女の傷だらけの心には、そんなナースエンジェルの優しい想いが詰まった温かい言葉だけでも充分に沁み渡ったのだった。
その頃、別働隊の待機室では――――。
「……なぁ、お前等」
「ん?」「何だよ、新入り」
部屋で一人暗い表情を浮かべながら下を俯くシュウジが、唐突にたまたま側に居た同じ別働隊の宇崎星夜(うざきせいや)とデューイに声を掛けていた。
声を掛けられた星夜とデューイがシュウジに顔を向けると、シュウジも二人に顔を向けて話し出した。
「なぁ、お前達は、なんで聖龍隊に入っているんだ?」
「え……!?」「な、何だよ、唐突に……」
不意に訊ねられ困惑してしまう星夜とデューイ、そんな二人にシュウジは話した。
「俺は正直……どうしたら良いか、まだ分からないんだ。俺は俺で、ちせの為に何かしたい……だけど俺には何もできない。どうしたら良いのか……」
悲痛な面持ちで話すシュウジに、今度はデューイの方からシュウジに訊ねてみた。
「なぁ、具体的に君はどうしたいんだい? 何もできないって自分の可能性を初めっから否定してちゃ、其処で既に終わっちゃっているだろうが」
デューイの訊ねにシュウジはすかさず答えた。
「だが……俺自身、ちせ同様に沢山の命を戦場で奪って来た。そんな俺が同じ命を奪って来たちせの苦しみを……ちせの痛みを拭い取ってやる事なんか、出来るだろうか……!」
悲痛な心境で釈明を述べて行くシュウジの言動に心が軋む想いに駆られる星夜。
しかし一人デューイだけは態度を変えずシュウジに平然と言い続けた。
「それがどうしたって云うんだい? 大事なのはこれからじゃないのかい?」
「ッ?」「?」
デューイの発言に敏感に反応するシュウジと星夜。
そんな二人を脇目にデューイはシュウジに言った。
「実を言うとねシュウジ、僕は以前まであのナースエンジェルの……りりかや星夜たちの敵だったんだよ」
「えっ……!」デューイの発言に衝撃を受けるシュウジ。
しかしデューイは更に話し続けた。
「僕は以前まで、ナースエンジェルや彼女を慕っている人達に危害を加えていた内の一人だったんだよ。だけど傷付いた僕を彼女が看病してくれた事が切っ掛けで、僕はナースエンジェルの味方に成り、今現在は聖龍隊の一員として彼女や星夜達と一緒に活動している訳なんだ」
「…………」
ただただデューイの経緯に衝撃を受け言葉を失くすシュウジ。
デューイは話を続ける。
「要するにシュウジ、人はその気になれば幾らでもやり直せるし変われるって事なんだよ。この僕だって、自分で言うのも何だけど立派に変われたんだから君やちせだって充分に変われる筈だよ」
「だ、だけど……」
困惑した表情を見せるシュウジにデューイは。
「シュウジ、君はちせを何とか救ってあげたいんだろッ? だったら先ず君から変わらなきゃ。君も同じだろうけど、あのちせって子は自分の能力で君以上に多くの命を奪ってしまい君以上に心が傷付いている。なら最初に君自身が自分を変えて見せなきゃ、ちせだってずっと命を奪い続ける兵器のままだよ……!」
「……!」「……」
迫真のデューイの話に愕然と成るシュウジと星夜。
「君達は今まで多くの命を奪って来てしまったのなら、これからは逆に命を護って行こうよ。人を傷付けてきた僕が今では人を護っている様に、君達もこれからは護る側に移り変われば良いだけだよ」
話し続けるデューイは最後に優しい笑みを浮かべながらシュウジに告げた。
「シュウジ、君もちせもこれから少しずつ、自分を変えて行けば良いんだ。今の自分を変える事が、先へのステップなんだと僕は思うよ」
「デューイ…………ああ、ありがとう」
シュウジは最後に薄らと微笑みを浮かべると、同時にデューイに小さく礼を言った。
その時、三人の会話をウェルズが部屋の外で立ち聞きしていた。
「へぇ~~……まさか、デューイが相手を励ます様な事を口にするとはねぇ……」
内心デューイの話に驚きながらも感心するウェルズ、そして彼は心の中でこう思った。
(自分を変えなきゃ前に進めない、か……。まさかデューイの口から聞けるとは思って無かったぜ)
更にウェルズは、デューイの話を間近で聞いていたシュウジについても思う。
(シュウジのあんちゃん、俺も少しは手助けしつつ応援して行くぜ。お前はもちろん、あのちせって女の子も変われる様、俺も精一杯お前達を支えて行くぜ)
ウェルズは心の中で静かに決意するのであった。
命を奪うだけの存在であった青年と、兵器と化してしまったが故に青年以上に命を奪ってしまい自分の心までも傷付けて来た少女。
しかし、例えどんな存在であろうとも、人が人である限り必ず変われる筈である。
青年はまず自分を心強い存在に変えつつ、同時に恋人である少女を単なる兵器で終わらせるのではなく、少しでも命を護れる存在に一緒に変わろうと心に決めた。
命を奪うのではない、命を護れる存在に、青年と少女は変われるのであろうか。
[戦うのではなく、護る為に]
その日、ちせの元に一人の少女が訪ねて来た。
少女の名は花丘イサミ。月影トシ、雪見ソウシの男子二人と組んで戦うしんせん組の一人であった。
イサミはちせに過去の経緯などを聞かせて欲しいと訊ねて来た。
ちせは最初、自分の辛い思い出を他人に話すのを酷く躊躇っていたのだが、イサミの押しに負けて少しずつ自分の出生などをイサミに伝え教えた。
自分は生まれつき体の弱い体質で病院に入退院を繰り返していた日々。
そんな辛い生活の中でも恋人であるシュウジが、たびたび病院に訪ねては励ましてくれていた事。
しかしそんな中、ある日自衛隊に人体改造の適合者として目を付けられ半ば強制的に自身の身体を兵器へと改造された。
そして戦場に投下され激しい戦乱の中、制御できない自身の能力によって、敵はもちろん周りの味方兵までも死傷させてしまう日々。
ちせはこうして、戦場で自衛隊の皆皆から「死神」「バケモノ」等の呼び名で忌み恐れられる様になった経緯をイサミに語った。
話を聞いたイサミは悲痛な心境の中、片手にペンを走らせ持ち込んできたノートに書き綴った。
ちせはそんなイサミの行動を不思議がり、思わずイサミに訊ねてみた。
「あ、あの……」「ん……なんですか?」
真剣な真顔でノートに向き合うイサミにちせが訊ねる。
「あの……あなたは、何故私の事をそんな真剣にノートに綴っているの……?」
若干の戸惑いの色を浮かべながらイサミに訊ねると彼女は真顔でちせに言った。
「え……ああ、それはですね。実は私、聖龍隊のみんなの事を記録として書き残しておこうと決めたんです。聖龍隊のみんなが、どんな想いで戦い、どんな心境で一緒に戦って行くのか――。それをしっかりと記録に遺しておこうと思って、こうしてノートに書き綴っている訳なんです」
「…………」
イサミの釈明を聞いて複雑な心境に思い遣られるちせは、思い切ってイサミに別の事柄を訊ねた。
「と、ところで、花丘さん……」
「もう、そんな他人行儀みたいに呼ばなくても良いですよ。それにちせさんの方が年上なんだし、気軽にイサミって名前で呼んでくださいよ。……それで何でしょうか?」
微笑みながらイサミが訊き返すと、ちせは神妙な面持ちでイサミに訊ね返す。
「え、ええ……い、イサミ、ちゃん。あなたは聖龍隊のみんなの事を記録に遺そうとしているのよね」
「は、はい、そうですけど……」
「そ、それで……なんでまた、私の事までも記録に綴っているの?」
「え? な、なんでって……」ちせの訊きに戸惑うイサミ。
ちせは沈痛な面持ちで語り出した。
「イサミちゃんに言ったように……私は聖龍隊(ここ)に来る前まで戦場で多くの命を奪って来た、それも敵味方問わず……」
「…………」
「そんな私が、多くの人の命を救い、そして沢山の人の心を癒してあげられた聖龍隊の人達と一緒に居ること事態痴(おこ)がましいのに、そんな聖龍隊の記録に遺されるなんて、何だか申し訳なくて……」
自分が聖龍隊の皆と同等に記録に遺される事を申し訳ない心情に想ってしまうちせ、そんな彼女の心痛な語りを険しい顔で耳を傾けるイサミ。
多くの命を奪って来た自分が、多くの命を救って来た聖龍隊の一員として皆と一緒に居ること事態を、心苦しく申し訳ない真情に感じてしまうちせ。
そして、そんな自分までも聖龍隊の輝かしい記録の一部として記されてしまう事すら心中居た堪れない心情なのであった。
そんなちせの沈痛な面持ちと、彼女の悲痛な心境を察して、イサミが言葉を掛けた。
「…………ちせさん」「……はい」
暗い面立ちをイサミに向け、悲しみに浸り切った瞳で彼女を見詰めるちせ。
「ちせさん、貴女がかつて戦場で犯してしまった行為は、確かに辛く悲しいものではありました。でも、大事なのは其処じゃありません」
「え……」イサミの言葉に驚き戸惑いを感じてしまうちせ。
イサミは平然と、堂々とした面構えでちせに話した。
「大事なのは、昔自分が仕出かしてしまった行いでは無く、これからをどう生きて行くか。其処が重要じゃありませんか?」
「……」
「確かに、ちせさんの能力は強力な上に制御が難しく大変危険な能力ではあります。故に下手をすれば多くの命を無意味に奪ってしまう懸念もあります」
「…………」
「だけどちせさん、いつまでも過去の失敗や行いを引き摺ってちゃいけません! 何より、これからちせさんは戦う為に聖龍隊に居るんじゃありません……そう、護る為に私達と一緒に戦って行くんですよッ」
「護る為に……戦う……」イサミの台詞に複雑な表情を浮かべるちせ。
イサミは溌剌とした顔で語り続ける。
「私達は確かに、共に戦って行く事に成ります。けどそれは、命を奪う為では無く、命を護る為に自分自身も必死で生き続ける為の戦いなんです……! 私達は命を奪うのでもなく、自分の命を投げ捨てる為に戦って行く訳でもありません。大切な人達を……この世界の人達の笑顔を護る為に戦うんです!」
「…………!」
イサミの力強い熱弁に衝撃を受けたちせ。
最後にイサミは、力強くも温かい笑みでちせ言った。
「ちせさん、貴女はもう命を奪う兵器ではありません。私達と共に力の弱い人々を、そして掛け替えのない大切な人達を護る為、共に戦う聖龍隊の仲間なんです」
「イサミちゃん……!」
力強くも頼もしいイサミの言葉に、ちせは胸中に深い衝撃を与えられた。
全ては戦う為では無く護る為、護る為に戦い抜く。
そんな辛くも儚い戦況が、もうすぐ少女達に迫ろうとしている。
しかし、そんな状況下の中でも、共に戦いを乗り越え、そして互いに助け合ってくれる心強い仲間が傍らに居てくれる。
そして、そんな仲間の一人として聖龍隊の皆は自分を受け入れて来てくれている。
少女ちせは幕末の日本で活躍した武士の末裔イサミからの激励の言葉に少しばかりの勇気を貰い受けた。
その頃、別働隊の集いでシュウジは。
「どうしたのシュウジ君、そんな暗い顔して」
「ん、ちょっと……」
一人暗い顔で思い更けているシュウジを気にして、同じ別働隊の高木はるかが声を掛ける。
声を掛けて来たはるかにシュウジは顔を向けて一言軽く返事をするのであったが、以前より暗く悲愴なシュウジを心配していたはるかは再度優しく話し掛けてみる。
「どうしたのよ一体、あれから聞いているけど貴方、少しずつ周りのみんなと打ち解け合っているみたいじゃない。それなのにそんな暗い顔しちゃって……」
「う、うん……」
はるかの問い掛けに小さく唸る様に返事をするシュウジ。
すると其処へ、携帯電話を片手に芹沢ルリ子が通話をしながらやって来た。
「だから、今はそれ所じゃないでしょッ。そっちはそっちで修司と共同しつつ聖龍隊の補助や支援、更には報道機関に対しても的確に対応して頂戴ね……ハァっ? この戦いが終わったらチャペルって……! フザケテ無いで私や修司の指示通りにして! それじゃっ」
ルリ子は若干苛立ちながら電話を切った。
「どうしたのルリ子ちゃん? 誰と電話していたの?」
苛立ちながら電話を切ったルリ子にはるかが訊ねると、ルリ子はふくれっ面で答えた。
「いえね、健の奴が少しは息抜きしようって一流レストランの食事に誘って来たんですよ。こんな忙しい時だって云うのに何を言っているんだが……オマケにこの戦いが終わったら式を挙げようねって性懲りも無く……」
「ふふ、相変わらず仲が良いのね、二人は……」
「別に……っ」
ルリ子の話に微笑むはるか、しかし当のルリ子は顔を背けて不貞腐れてしまう。
そんな二人のやり取りを傍らで眺めている暗い面立ちのシュウジにルリ子が気付いた。
「……んっ、どうしたの新入り。相も変わらず暗い顔しているけど」
そうシュウジに言うルリ子にはるかが答えた。
「そうなのよルリ子ちゃん。シュウジ君ったら、最近周りの子達と上手く馴染めてきたっていうのに、また暗い顔しちゃっているのよ」
「どうしたのよ全く。またちせって子の事で頭を悩ませているの? 考えたって何も変わらないんだし何も始まらないんだから、少しは前向きになりなさいよ」
ルリ子に言われたシュウジは視線を彼女に向けて話し返した。
「い、いや……俺は俺で色々と想っているんだよ。……」
そう言うとシュウジは再び顔を俯かせ暗い顔で思い更ける。
そんなシュウジの様子を見て、どうしても気に成ってしまうはるかとルリ子。
二人は思い更けるシュウジに声を掛け訊ねる。
「どうしたの? 今まで以上に悩んでいるみたいだけど……」
「何か有ったのか? 話ぐらいは聞いてやるぞ」
「い、いや……その……」
二人の女性に親身にされ困惑しながらもシュウジは話し始めた。
「俺は……俺は、ちせの為に何が出来るんだろうなって、そう思って……」
「「…………」」シュウジの話に悲痛な面持ちで顔を向き合わせるはるかとルリ子。
シュウジはそんな二人に話し続けた。
「俺は、この聖龍隊に来てから、色んな人から様々な指摘や助言をもらって来た。そして俺自身、少しは誰かの……いや、ちせの為に何かをして行きたいって僅かな願望が心の中に芽生えてきた。だけど俺がちせにしてやれる事って何が有るんだろうかって思っちまって……。俺に出来る事なんか、ほとんど無いのに……」
沈痛な面持ちで話を終えたシュウジ。
すると話を聞いたルリ子が口を開く。
「出来る事が無いって……ちゃんと有るじゃない」
「え……」ルリ子の発言に顔色を一瞬変えるシュウジ。
そしてルリ子はシュウジに神妙な顔で話し聞かせた。
「確かに、貴方はもちろん私達にも彼女の苦しみを完全に拭い取る事は出来ないかもしれないわ。だけど、そんな彼女の……ちせちゃんの話し相手ぐらいには成ってあげられるわ、それは無論貴方だって同じでしょ」
「……」
「そりゃ、話を聞いてあげただけじゃ何の解決にも成らないかもしれないけど、それでも少しは相手の心が晴れる筈よ。人が相手に自分の話を聞いて欲しいのは、問題の解決の為だけでは無く、そうやって相手に自分の苦しみや悲痛な想いを知って貰う事で少しでも心の中のモヤモヤを晴らしたいって思っている訳なのよ」
そして最後にルリ子は優しい穏やかな笑みを浮かべてシュウジに告げた。
「シュウジ君、大切なちせちゃんの苦しみを少しでも和らげる為に先ずは彼女の心の内に少しでも耳を傾けてあげて頂戴よ。貴方はちせちゃんにとっては唯一無二の恋人なんですし」
「…………」
芹沢ルリ子の助言に感化し言葉を失くすほど愕然と成るシュウジ。
問題の解決には成らないかもしれない、しかし信頼できる人に自分の心の内を聞いて貰えるだけでも心の暗雲は少しばかりは晴れ渡る事が有る。
青年シュウジは芹沢ルリ子の言葉に深く感化するのだった。
[恐れない心と正しい思考]
ちせが一人、部屋で思い耽っていると突然飛び込んでくる勢いで三人の少女達が部屋に入って来た。
「こっ、こんにちわーー……」
若干部屋に籠る重苦しい空気を感じ取ったのか、部屋に入ってすぐに戸惑う素振りを見せてしまう茶髪のウェーブヘアーの少女。
すると茶髪の少女に続いて、左目の下に泣ぼくろの有る黒髪の少女と赤みの掛かった桃色のロングヘアーの少女の二人も部屋に入って来た。
「ちょ、ちょっと結……」
「いきなりどうしたんですか結ちゃん……」
突拍子に部屋に入室する少女に困惑し、少女に声を掛ける二人。
「あ、あの……あなた達は……」
部屋に入って来た三人に驚きつつも言葉を掛けるちせ、そして言葉を掛けられた少女三人はちせに名乗る。
「あ、その……お、お久しぶり。ほ、ホラ、憶えてないかな。私達、あなたと同じ聖龍隊の新メンバーのコレクターズの三人。私は春日結(かすがゆい)」
茶髪の少女、春日結が名乗ると他の二人もちせに名乗った。
「私は篠崎愛(しのざきあい)」
「如月春菜(きさらぎはるな)です。ごめんなさいちせちゃん、いきなり結ちゃんが部屋に入ってちゃって……」
ちせに名乗りつつ謝罪する春菜、だがちせは苦笑を浮かべながら返事した。
「は、はぁ……と、所でその……春日、結さん、でしたよね。何でしょうか」
部屋に入って来た結達に戸惑いながらも訊ねるちせ、結はちせの問いに対して彼女に話し出した。
「え、ええっと、その……ち、ちせちゃん私達ね。ちせちゃんと少しばかり御話してみたくって……」
「……え?」「「…………」」
結の返事に驚いてしまうちせ、そして目を丸くして唖然としてしまう春菜と愛。
「そ、そのね、私さぁ……元気の無いちせちゃんの力に成りたいなって、そう思ってさ。……ま、まぁ、何してあげれば良いか解らないんだけど、先ずちせちゃんと話をしてみようかなって……お、思ってみたの、ハハ……」
「…………」「「…………」」
大した考えも無しに行動してしまった結に対して、無表情で固まるちせ、そして呆れ果ててしまう春菜と愛の二人。
するとその時「……ふふ」「っ!」「「っ……」」
結の言動に思わず小さな笑みを零すちせを見て驚く結、春菜、愛。
彼女たち三人はちせの笑顔を見たのが、これが初めてだったからである。
「ち、ちせちゃん、今……」「え、ええ……笑った……」
今の今まで心痛な悲愴に満ちた表情しか見せなかったちせの笑顔を初めて見た春菜と愛は驚きで心が一杯だった。
「わあっ、ちせちゃん笑ったね。ハハ、ちせちゃんの笑顔初めて見たーー」
初めて目にするちせの笑顔に歓喜する結。
「え……っ、え、えっ、その……」
思わず笑みを零してしまったちせは結に自分の笑顔を指摘された途端、顔を真っ赤にして照れ出してしまう。
「ふふふ、ちせちゃんの笑顔初めて見ましたわ」
「そうね。ちせと顔を合わせて以来見たのはこれが初めてだわ」
結に続き、春菜と愛も初めて目にするちせの可愛らしい微笑みに思わず自分達も微笑むのであった。
そんな中、照れて顔を真っ赤にしてしまうちせに結が笑顔で言った。
「ちせちゃん可愛い笑顔するじゃない。いっつも暗い顔していたから驚いちゃったよ」
「…………」
「でも良かった。ちせちゃんが笑ってくれて」
「結さん……」
結の言葉に愕然と成るちせで有ったが、それと同時に心優しい結の真情に深く喜びを感じられた。
そうこうして、コレクターズの三人とちせは自然と和気藹々(わきあいあい)と話に入った。
「ちせちゃん、その後いかが御過ごしでしたか? 私達は私達で色々と忙しくって初対面の時以来顔を合わせられませんでしたが……」
「私は大丈夫です。気にしてくれてありがとう」
優しく話し掛けてくれる春菜に、ちせは穏やかな表情で礼を返した。
「私達もね、未だに現実世界では未経験の人間って事で素人扱いされて大変なのよ。……あ~~あ、なんで聖龍隊の総長である修司君は私達まで加盟させたんだろうな」
「え、ええ、そうよね……」
思わず愚痴を言う愛の発言に戸惑いながらも話を返すちせ。
「私たちのスーツは完成間近で、やっとの事でちせちゃん達と一緒に戦えるんだけど、それでも不安に感じちゃうのよねぇ」
「………………」
しかし結の発言に対して、ちせは突然口を噤んでしまった。
「……ん? ど、どうしたの? ちせちゃん……」
いきなり黙り込んでしまうちせに動揺してしまう愛が訊ねると、ちせは悲痛な面持ちで答えた。
「あの……私なんかと一緒に戦わない方が、良いですよ」
「え? な、なんで……」
思わず訊き返す結に、ちせは沈痛な口振りで訳を話した。
「私なんかと一緒に居れば、私の攻撃の巻き添えを受けてアナタ自信が傷付いてしまう……下手をすれば、冗談抜きで死んでしまうわ……」
そんなちせの心痛極まる言葉に、結がすかさず投げ返した。
「ち、ちせちゃん……だ、大丈夫だよっ。少なくとも、ちせちゃんは自分のできる事をできる範囲ですれば良いのよ。私達は私達で周りに気を付けながら戦うからさ」
「結さん……」
更に、結に続いて春菜と愛の二人もちせに優しい表情を浮かべながら言った。
「そうよちせちゃん、あなたもだけど私達だって色々と気を付けなければいけない事が山ほどあるんですし、あなただけが気を使う事は無いんですのよ」
「春菜さん」
「そうそう、何より失敗を恐れてちゃ人間なにもできないままよ。失敗を恐れず果敢に挑戦して行く事が大事なんじゃないのかな。私達だってコムネットで失敗したりと色々怖がっちゃった事が遭ったわ。だけど三人で協力しながら行動する事によって恐怖心も少しは薄れていったんだし、ちせちゃんだって私達や聖龍隊のみんなと一緒に協力して行けば上手くいくわよ」
「愛さん……はい、解りました。ほんとにありがとう」
「そ、そんな……っ、お礼を言われるほどの事なんか言って無いわよ」
三人の優しい言葉に元気付けられたちせは礼を述べた。そんなちせの礼に対して謙虚の素振りを見せる愛や結そして春菜。
人は一度失敗しただけでも、それがトラウマの様に後々まで引き摺ってしまう事が有る。
しかし失敗を恐れては、人は前に進む事は出来ない。
そして、そんな失敗までも共に受け止めそして支え合ってくれる掛け替えのない仲間が、人が側に居てくれるだけでも微かな幸なのかもしれない。
一方その頃、シュウジはと云うと。
「成程な。シュウジ君とやら、君は自分の親しい存在であるちせくんに対して、自分に何ができるのか悩んでいるのだね」
「はい、その通りです、犬養博士……」
丁度その時、シュウジは聖龍隊の基地施設内に設備されている研究室に出向いており、其処で二人の学者と話をしていた。
その内の一人、コレクターズの後見役でもある犬養基継(いぬかいもとつぐ)とシュウジが話をしていると、傍らに居るもう一人の学者もシュウジに優しく話し掛けた。
「要するにシュウジ君、君は君でちせちゃんの力に成ってあげたいって云うんだね」
「そ、そうです。花丘博士」
シュウジは話し掛けて来たもう一人の学者、花丘魁(はなおかかい)博士に返事する。
すると犬養博士はPC画面に顔を向けたまま、シュウジに平然と言った。
「……シュウジ君、済まないが君自身にできる事は非常に辛い事だがほとんど無いよ」
「なッ……」
博士の発言に驚愕してしまうシュウジ、更に花丘博士も続いて修司に語った。
「シュウジ君、君の気持ちは痛いほど解るよ。大切な人の身体が兵器に改造されてしまったのは凄く辛いものだ。だけど彼女の身体を元に戻す事はほぼ不可能なのは君だって解っている筈だよ。壊れた茶碗が二度と元に戻らないのと同じで、残念だけどちせくんの身体は……」
「わ、解っています! だけど、俺はそれでも……ちせの為に、彼女の為に何かしたいんです……!」
その時、シュウジは咄嗟に博士二人に対してこう言い放った。
「犬養博士、そして花丘博士、俺に何かできる事が有るんでしたら協力させてください! 無論、俺に出来る事なんか限られてはいるけど、何か俺にもできる事が有るんだったら御二人に協力しつつ、ちせの助けに繋げたいんです。博士お願いします」
これを聞いた博士達は互いに顔を見合わせると、再び顔をシュウジに向けて言った。
「シュウジ君、君のその気持ちだけで充分だよ」
「そうだ、君のちせちゃんの力に成りたいと云う願いと想いは素晴らしいものだよ。その真情だけでもう充分だ」
「だ、だけど……」
困惑してしまうシュウジに博士達は続けて言う。
「大丈夫だよシュウジ君。ちせくんの身体の事はもちろん、君たち聖龍隊のサポートも私達が受け持つから、君は君で頑張れば大丈夫だよ」
「…………」
「シュウジ君、君はそのちせちゃんに対する優しい想いを……正しい思考をこれからも失くさずに前を向いて懸命に生きていけば必ず道は開ける筈だ」
「正しい、思考……」花丘氏の言葉に何かを思い神妙な面持ちに成るシュウジ。
花丘氏はシュウジに話し続けた。
「そうだ、人と云うのは誰に限らず弱い存在だ。故に時としては誤った解釈や結論を出してしまう事も珍しくは無い。だからこそ、君は君でそのちせちゃんに対する優しい想いを忘れずに、これから先も彼女の支えに成ってあげなさい。彼女にとっての幸せは、兵器に成り果ててしまっても隣に居てくれる君自身だよ」
「ちせの、側に……」
「そうだ、君はこれから先もちせちゃんの心の支えとして一緒に居てあげる事が、最大の彼女の助けに成りえる筈だよ」
「…………」花丘の話に思わず無言に成ってしまうシュウジ。
そして花丘氏の発言に賛同するかの如く、犬養博士もシュウジに言い聞かせた。
「花丘さんの言う通りだシュウジ君。できる事は限られているのは変わらないが、ちせくんの側に居ながら彼女を支えてあげる事は君にしか出来ない事だ。無論、私達だって彼女の支援をして行くつもりだが、ちせくんにとっては君の優しい想いそのものが一番の心の支えなんだ。其処は誇りに思っても良いんじゃないかな」
「……」
二人の博士達の話に心が震えるほどの愕然を感じるシュウジ。
力には成れないかもしれない、故にその人の側に居てあげる事しかできない。
しかし人にとっては自分の側に掛け替えない大事な人が居てくれるだけでも、非常に心強い支えと感じられるのもまた事実。
[それでも皆と違う]
聖龍隊の面々と話を交わし続けてきたちせ。
彼女が一人、自室に籠って思い耽ていると、部屋の廊下越しのガラス越しから三人の少女の姿が目に入った。
ちせが彼女達と目を合わせると、少女達は微笑みをちせに返してそのまま部屋に入って来た。
少女達は、赤い髪に頭の後ろに短いポニテをしている獅堂光(しどうひかる)、青いロングヘアーの龍咲海(りゅうざきうみ)、そして眼鏡を掛けた鳳凰寺風(ほうおうじふう)。
魔法騎士(マジックナイト)と呼ばれる三人であった。
三人はちせと話をしたいと言い、そのまま彼女と会話し出した。
「ちせさん、その……大丈夫ですか? 合同訓練の時以来見掛けていませんでしたが、その後お身体の具合はいかがですか?」
「は、はい大丈夫です。気を使わせてしまって申し訳ありません、風さん」
聖龍隊の合同訓練以来、姿を見かけなかった為に心配していた風に、ちせは感謝しつつも頭を軽く下げた。
「気を使わせたなんて……そんな余所余所しいのは止めましょうよ。私達、もう同じ聖龍隊の仲間なんですし」
「は、はい……」
優しく話し掛けてくれる海に、ちせは何処か気まずい様子で小さく返事した。
「海ちゃんの言う通りだよっ。ちせちゃん、私達はもう聖龍隊で一緒に頑張っていく大切な友達じゃない」
「…………」
笑顔で元気良くちせに話し掛けて来る光に対して、半ば困り顔で無言に成ってしまうちせ。
「……どうしたんですか、ちせさん。先ほどから元気が有りませんがどうしたんですか? もしかして、また御身体の調子が悪くなりましたか……?」
余り元気のない顔を浮かべているちせを心配して、風がちせに話し掛ける。
するとちせは悲愴な面持ちで答えた。
「は、はい……やっぱり、私と皆さんは全然違うんだなって、そう感じて……」
「ち、違うって?」
思わず海が訊くと、ちせは悲愴な面持ちを変える事無く海の問いに答えた。
「私は…………やっぱり光さん達や、聖龍隊の皆さんとは全く違う存在なんだなって思ったんです。皆さんの様に沢山の命や想いを護って来られた方とは違い、多くの命を奪って来てしまった私なんかが皆さんと一緒に居るのが、何だか凄く虚しく感じてしまって……」
「「…………」」「ち、ちせちゃん……」
悲痛な想いが籠ったちせの悲しく切ない心情に、悲観した心情に駆られてしまう魔法騎士の三人。
ちせは更に自身の感じた悲愴な真情を語り始めた。
「私は、光さん達や聖龍隊の皆さんから、たくさん励ましの言葉を貰いました。だけどみんなから励まされれば励まされるほど、自分はやっぱり恐ろしい兵器なんだなって思い遣られてしまうんです……」
「「「…………」」」
「もちろん、みんなが私の事を励ましたり元気付けようとしてくれた事は、深く感謝しています。だけど自分は、どんなに足掻こうと聖龍隊のみんなとは違うんです……どう頑張ろうと自分が人を殺めてしまうだけの兵器には変わらないんです……。そして、どう生きていこうと自分が殺めてしまった命は還って来ないんです……」
「ち、ちせちゃん……」「「……」」
「私だって、本音を言わせて貰うと、聖龍隊のみんなまでとは云いませんが、せめて少しでもみんなの様に誰かの力に成ってあげたいって思うんです。だけど、私は兵器……命を奪うだけの存在に変わらないんです」
自身の心情を悲しげに語るちせの話を聞いて、光たちは途轍もなく心痛極まった。
そして、ちせとの対話を済ませた魔法騎士の三人は聖龍隊の施設内の廊下を思い詰めた表情で話をしながら歩いていた。
「ちせちゃん、大丈夫かしら?」
「そうですわね……命を殺め続けてきた自分が、私達を始めとした聖龍隊と一緒に居る事そのものに苦痛を感じている様ですし……」
「ちせちゃん、元気出してくれれば嬉しいんだけど……」
自身を責め続けるちせについて、気に掛け続ける海/風/光の三人。
三人はそのまま話し続けた。
「確かに、ちせちゃんの過去って結構シビアだったのは知っているけど過去は過去。ちせちゃんにはもっと前向きに生きて欲しいわよね」
龍咲海が上目使いで言うと、海に続いて風も意見を述べる。
「命を殺めてしまった事を今でも悔いているのは、ちせさんがとても心優しい女の子だからこそ何でしょうが、彼女にはもっと明るい未来を信じて生きて欲しいですよね……」
更に光が、普段あまり見せない様な沈痛な表情で語った。
「ちせちゃん、何も昔の事ばっかり気にしなくても良いと思うんだけどなぁ……。人間、前を向いて元気良く生きていかなきゃ意味が無いのに。幾ら身体を兵器に改造されていたとしても、ちせちゃんはちせちゃん、とっても可愛らしい女の子には違いないのに……」
この光の話に、堪らず海と風も口を開いた。
「そうよ光の言う通りよ。ちせちゃんが幾らサイボーグであっても女の子には違いないものね」
「その通りですわ。ちせさんはもう充分、自分のしてしまった事を後悔していますし反省もしています。何よりこれからは私達と一緒に戦って行く大切な友達ですものね」
二人の発言に、光は笑顔で言葉を返した。
「そうそうっ、サイボーグでもちせちゃんはちせちゃん。私たちの新しい……あ、ううん、私達と同じで新しい聖龍隊のメンバーだもんね。これからずっと仲良くして行く為にも、私達は私達でちせちゃんの不安を少しでも失くしてあげようよッ」
光の提案に海と風は明るい笑みを浮かべて話し返す。
「そうね、私達は私達で自分がやれる範囲でも良いから、ちせちゃんが少しでも元気を出してくれる様に少し考えてみましょう」
「ちせさんだけじゃありませんわ。これから私達は聖龍隊で多くの人達と触れ合って行く事に成るんですから、ちせさん以外の方達とも上手く過していけるようにしましょうよ」
「賛せーーいっ、私も同感。私もちせちゃんだけでなく、これから聖龍隊でより多くの友達を築いていきたい」
最後に光が満面の笑顔で言うと、三人はそのまま話しながら廊下を進み続ける。
他人とは違うナニカが自分の中にはある。
それは治る事もあれば、一生治らないものもある。
そんなナニカを周りに知って貰い、そして受け入れて貰うのは至難の業。
されど人は、そんな己の中にあるナニカを他の人に理解しても貰いたいのが性なのかもしれない。
[少女と青年の決意と少年の不敵な眼(まなこ)]
ある日、聖龍隊の面々から様々な指摘や助言を貰い受けた兵器と化した少女ちせと青年シュウジは一人の人物の所に赴いていた。
その人物は、二人を聖龍隊に加盟させ、日本政府や自衛隊から二人の身柄を預かっている、あの小田原修司だった。
ちせとシュウジはその修司、アニメタウン市長にして聖龍隊の総長を務める小田原修司と対談した。
「……それで。俺になにが言いたいんだ、お二人さん」
二人の眼前で修司は、様々な道具を並べているテーブルの前で椅子に腰を下ろしながら、常に腰にぶら下げている日本刀【聖龍剣】の下拭いをしながら、ちせとシュウジに訊ねる。
二人はそれぞれの顔を見合わせると、再び修司に顔を向け戻して言った。
「あ、あの、私達……」「…………」
挙動不審な素振りで修司に話しかけようとするちせを、修司は刀に打粉をしつつ横目で黙視する。
「お、俺達よ……最初は無理やり連れて来られて、嫌になっていたんだけど、その……」
シュウジもちせに続いて話そうとする。
そして、先ずちせが意を決して修司に話し始めた。
「わ、私……少しは聖龍隊の皆さんと触れ合って、此処に居る人達がみんな、とても心の優しい人達なんだなぁって感じたんです」
「…………」
ちせに続いてシュウジも修司に話し始めた。
「お、俺も……最初此処に居るみんなの事、得体の知れない危険な連中とか思っていたんだけど、実際俺やちせの事を気遣ってくれる連中ばかりだったから意外に感じて……」
「…………」
「し、正直……聖龍隊(ここ)の人間たちも、俺はもちろんちせの事を只利用しようとしているだけの連中だと最初は思っていた。聖龍隊も、自衛隊の連中と何ら変わらない様な組織だとばかり……」
そしてちせは再び話し出した。
「私、未だにまた戦場に戻って戦うのは、凄く辛いですし不安です……。だ、だけど、聖龍隊のみんなだけに戦わせるのも凄く申し訳ないんです。だから私……」
「……」
「私……もし、みんなの……聖龍隊のみんなの力に成れる可能性がホンの僅かだったとしても…………戦っても良いかなって、そう、思ってしまって……」
沈鬱な表情で自分の決意を述べるちせ、彼女に続いてシュウジも話し出した。
「お、俺も……聖龍隊の連中となら大丈夫かなって……そう思え始めて来て……」
気まずい表情を浮かべながら語り続けるシュウジの話を聞いて、ふと修司は打粉をしている手を止め、テーブルに置かれている白い布を手に取ると聖龍剣に付着させた打粉を拭い出しながら、神妙な面持ちを浮かべるちせとシュウジに閉じてた口を開いて話し掛けた。
「……そりゃそうだろうな。正直、此処に居る連中は度を超えたお人好しばかり目立つからな。あいつ等の話を聞いていると、自信とか湧いた様な気にも成れるし、何より負の感情が消えたような感覚に成るからな。ま、俺的には充分な戦力に成ってくれるだけマシだけどな。ちせ、お前同様にな」
「「…………」」
修司の発言に言葉を返そうとはしないちせとシュウジ。
以前より修司の発言に棘が有る事は、テレビの公言や自分達に掛けられる口調、そして聖龍隊の面々から伝え聞いているので多少は免疫ができていたからだ。
修司はそのまま二人に話し続ける。
「まぁ、それ故に甘さや情けが有って戦闘に支障が出てしまう怖れもあるが……その分、特殊能力による戦力は通常の軍隊を凌ぐのは明白だ」
更に修司は、打粉を拭った聖龍剣に新しい油を塗りつつ話し続ける。
「そもそも……ちせ、お前は自分が聖龍隊の面々と違う存在だと言うが、他者から見たらお前も聖龍隊の連中も変わらねえぞ」
「……っ」
「強大な破壊力を持つサイボーグに、変身して己の身体を極限まで向上させる事が出来る女たち。第三者から見たらどっともどっちだと俺は思うぜ」
修司に指摘され顔を俯かせるちせ。そんな彼女に修司は油を塗り終わった刀の調子を観察しながら話した。
「だからこそ、俺はお前を……そして言っちゃなんだがオマケとして男の方も加盟させたんだ。お前等は単なる兵器、単なる兵士で終わらせるのは、ちと勿体無いと思うてな」
ちせとシュウジは返す言葉が見つからず、しばし黙り込んでいると――
「あ、そうそう」
そう言って修司は腰を据えていた椅子から立ち上がりつつ、調子を見ていた聖龍剣を鞘に納めながら二人に言った。
「そう云えば、お前達とも面識が多々有ったあの二人……ミナモトとその側近の副長官の事だが……」
「「……!」」
修司の口にした名前に、二人は言葉を失くして動揺してしまう。
自衛隊特別任務部隊統括司令長官のミナモトと、その部下である副長官から、ちせとシュウジは余り良く見られていなかったからである。
そんな不安な胸中に駆られ始める二人に、修司は目を細めながら話した。
「あの二人、色々とお前達の事はもちろん聖龍隊の連中にまで突っ掛かって来たみたいだが安心しろ。聖龍隊の後ろ盾には経済的に力の有る連中が五萬といるから、国はもちろん自衛隊ですら簡単に手出しは出来ねえ。お前ら二人はこれからも聖龍隊で活躍して行けば何の問題も無いから安心しとけ」
修司の話を聞いて、ちせとシュウジは無言で驚いてしまった。
更に修司は神妙な面持ちで二人に言った。
「それにな、その二人……ミナモトと副長官何だが――」
「「…………」」
次の瞬間、無言で修司の話に耳を傾けていたちせとシュウジの耳に驚愕の言葉が入った。
「……二人とも、戦死したってよ」
「「……!!」」修司の一言に、ちせとシュウジは愕然した。
「あ、あの……み、ミナモト長官らが、戦死したん、ですか……?」
驚きの余り動揺しつつも、ちせが訊ねると、修司は「ああ、死んだよ」と呟くように返事をしながら、ちせとシュウジに不敵な眼(まなこ)を向けた
「ッ……」「! ……」
修司の睨む様な不敵な眼を向けられたちせとシュウジは異形のものを目の当りにした勢いで驚愕した。
そして修司は二人に告げると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
部屋に残されたちせとシュウジは、修司の不敵な眼に驚いた衝撃で立ち尽くしてしまうばかりだったという。