聖龍隊 気高き二次元人達   作:セイントドラゴン・レジェンド

12 / 17
 聖龍隊メンバーから見た現状を各々執筆していきます。
 修司&側近そしてミラーガールの視点(後編)です


聖龍伝説 ――修司&側近&ミラーガールVision―― 後編

[chapter:魔鏡聖女]

 

 聖龍隊基地施設、そのメインフロアにて総長である修司の自宅に直結している地下の洞窟を改造したフロア。

 この日、修司とアッコを除いた聖龍隊の面々が修司自宅の真下に位置しているフロアに集まり皆で談話をしていた。

「いや~~、聖龍隊のメンバーも偉くぎょうさん増えて、余計に賑やかになりはったなぁ」

「ホントよねぇ、まさかあの修司君が此処まで聖龍隊を本格的に活動させるなんて予想していなかったわ」

「はは、でもこれで聖龍隊も国際的に認められる組織に発展して行く事が出来るんだから良いんじゃないかい? 別に僕等の存在が単に必要と認められるだけだし」

「それはそうやけどなぁアルテミスはん」

『………………』

 用意されているテーブルの上の菓子を摘まみながら、黒ネコと白ネコと会話する背中に羽の生えた猫の様な不思議な生き物。

 そんな三匹のやり取りを目を丸くしながら黙然としてしまっている新メンバーのコレクターズの結/春菜/愛、そしてちせとシュウジ。

 と、その時。そんな黙り込んで凝視している五人に、羽を生やした生き物がコテコテの関西弁で話し掛けて来た。

「ん、なんや? あんさん等、そんな珍妙な顔してどうしたんや?」

 訊かれた五人は目を丸くしながら答えた。

「い、いや……」「ま、まさか……猫が喋るなんて」「え、ええ……」

「しゃ、喋る猫、って……」「う、うん……」

 コレクターズの三人にシュウジとちせは、自分達の眼前で喋り合っている三匹の動物の存在に驚愕し呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 その時、そんな五人にメタルバードのバーンズが話し掛けた。

「そんな事で一々驚くな。聖龍隊に入った以上、猫が喋れるだの何だの大した事と感じる暇なんて無いんだぜ」

 この言葉を聞いた五人は半ば呆然としたままであった。

「わあ~~っ、こんなカワイイ猫ちゃん達に羽の生えたクマさんが聖龍隊には居たんだなぁ」

「へえぇ、こんな子達も聖龍隊で飼われていたのね」

「まぁ、可愛らしい」

 三匹を見て満面の笑顔で無邪気に騒ぐ光、そして微笑む海と風。そんな三人に複雑そうな顔をしながら

「ちょ、ちょっと、私達は猫じゃなくって……」

「ルナ、話すと少し長くなるし、それはまた今度ゆっくり」

 と三匹の内の二匹、黒い猫のルナと白い猫のアルテミスが互いの顔を見詰めながら会話をしていると、すぐ隣の羽を生やした小動物も言い出した。

「ちょっとねえちゃん達、ワイは猫やのうてケルベロスっちゅう大層な生きモンやと言っているはろ? 言っちゃなんやが、見た目がまんま普通の猫のルナはんやアルテミスはんと一緒にしないで貰いたいがな」

「て、ちょっとケロちゃん!」

「見たまんまって、君だって見た目は羽が生えている以外は殆ど猫と変わらないじゃないか」

 テーブルの上で好物のたこ焼きを食べながら言う羽の生えたケルベロスこと通称ケロちゃんの発言に、ルナとアルテミスは文句を言う。

「まあまあ三人とも」「そんなに怒らない怒らない」

 宥める様にルナとアルテミスに話し掛けるのは、二匹のパートナーであるセーラームーンこと月野うさぎとヴィーナスこと愛野美奈子(あいのみなこ)。

「もう、ケロちゃんだってルナさんとアルテミスさん達と大して変わらないじゃん」

 ケルベロスのパートナーである木之本桜が複雑そうな微笑を浮かべながら話し掛けると、ケルベロスはすかさずさくらに言い返した。

「何を言うんやさくら。ワテはルナはん等とは違い、その気になれば本来の姿……そう、守護獣の姿である勇猛な獅子の姿にワテは成れるんでっせ。セーラー戦士が戦っている最中も猫のまんまの二人と一緒にしないでくれなはれ」

 と皆が言い合っているその時、一人の緑色の野性的な服装の少年が微笑みながら賑やかに話し合っている彼女達の所に歩み寄り会話に入る。

「はは、ほらみんな。今日は新メンバーを交えて、少しでも互いの仲を深めたり解り合って行く為に父さんが設けてくれた場なんだし、楽しく行こうじゃない」

 すると今度は水色の衣の少女が少年に続いて話に加わった。

「そうですよ皆さん。折角ウッズさんやウエルズさんが用意してくれた場なんですし仲良くしましょ」

 そんな二人にバーンズが言った。

「そうだぜお前等。ジュニアやアプリの言う通りだ。これからいつ敵が攻めてくるか解らねえが、その前に少しばかり一息入れようじゃないか、なぁ」

 そうバーンズは緑色のジュピターキッドの衣装に身を纏うジュニアと、水色の衣を纏うアプリコットの二人に同意する。

 眼前で行われるやり取りを見聞きしたコレクターズの三人とシュウジ/ちせ達は唖然としてしまう。

 唖然とする中、シュウジが呆然とした表情で隣に居たちせに言った。

「ま、まぁ……折角だし頂くか、なぁちせ」「う、うん」

 ちせもシュウジの問い掛けに小さく頷いた。

「ま、折角のお呼ばれ何だし私たちも参加させて貰いますか」

「賛せーーいっ、見る限り美味しそうなお菓子ばっかりだしね」

「ふふ、結ちゃんは相変わらずですね」

 ちせとシュウジの二人に続き、自分達も聖龍隊の面々と和み合おうと意見を出す愛に、目の前に広がるテーブル上の多種多様な菓子に目を奪われる結を見て微笑む春菜。

 と、新メンバーの面々と以前より聖龍隊に加盟していた者たちがそれぞれ茶を飲んだり菓子を頬張ったりしながら和んでいるその時。

「はは……あ、アレ? そう言えば……」

 仲間の会話を聞きながら思わず笑っていたちびムーンことちびうさが急に辺りを見回した。

「ん、どぢだの? ちびうざ」

 そんなちびうさを見て、彼女の傍らでお菓子を頬張っていたうさぎが訊ねると、ちびうさは答えた。

「ねぇ、そう言えば修司さんとアッコさんが見当たらないんだけど……」

「ッん? ……あ、ああ、俺じゃ無い方の修司か」

 ちびうさの発言を聞いて、思わず自分が呼ばれたのではないかと勘違いしてしまいそうになるシュウジ。

 そしてちびうさの言葉を聞いてセーラープルートこと冥王せつなも述べる。

「そう言えばそうですね。二人とも余り聖龍隊の基地施設内でも見かける事が少ないのですが、新メンバーを迎えての交流にも顔を出さないなんて……」

 せつなに続き聖羅も喋った。

「まぁ、修司君の方は余りこういった賑やかな場に自分から入ろうとはしないけど、アッコちゃんが来ないのは気に成るわね」

 するとその時、バーンズが皆に話し始めた。

「どうも修司は修司でやる事が山ほど有るらしく、アッコの方は修司とウッズの手伝いやらで書類や資材を施設内に運んだりしていて、二人とも多忙みたいでよ」

「へぇ~~、総長である修司さんはまだしも、アッコさんまで忙しいなんて……」

 ナースエンジェルこと森谷りりかが呟くと、如月春菜(きさらぎはるな)が神妙な顔で言葉を発する。

「そう言えば私達、あの子が自分から書類の山を大量に運んでいるの見ましたわ。どうやら彼女、自分は聖龍隊でも弱い方だから自分が出来る事を精一杯頑張っているんだって話してくれましたわ」

 春菜に続き、愛もその時の様子を思い出しながら語った。

「あの子、アッコちゃんって本当にトコトン頑張る子よね。何も自分がやらなくて良い事まで率先して引き受けちゃうんだから」

 愛の発言に対し、結が愛に言葉を投げた。

「でも愛ちゃん、あのアッコちゃんは修司君だけじゃ無く私達の分も含めて、必死に頑張っているんだから立派な事じゃ無い」

「ま、まぁ。あの子はあの子なりに、精一杯努力している所は認めるけどさ……でも、少し無理しすぎじゃないかなって思うのよね」

 結と愛の会話に対して、新撰組の花丘イサミが話し出した。

「アッコさんって、昔っから誰かが困っていると見過ごせない……そんな一面が目立つんですよ」

 このイサミの発言に、デューイが不機嫌そうな面持ちで呟き返した。

「だけど時々、彼女のそういった行動が返って問題を肥大化させてしまう事が有るんだよね。正直言うと、単に彼女のお節介で世話焼きなだけだと僕は思うんだけど」

「は、はは。確かに、言われてみるとそうだな……」

 デューイの発言に対し思わず苦笑してしまう宇崎星夜(うざきせいや)。

 そんな時、春日結(かすがゆい)が徐に皆に訊ねた。

「ねぇ、前から思っていたんだけど……アッコちゃんって基本的どんな子なの?」

 皆が結の発言に目を向ける中、バーンズが思わせ振りな表情をしながら語り始めた。

「アッコか、そうだな……まぁ、一言で言えば、確かにデューイの言う通りお節介で世話好きな女だな」

 バーンズに続きジュニアが皆に加賀美あつこに対して述べ始める。

「ま、まぁ、確かにアッコさんは極度の世話好きだよ、それは否定はしない。だけどそれが彼女の、アッコさんの優しさって奴じゃないかな」

 ジュニアに続き、今度はうさぎを始めとしたセーラー戦士達も次々にアッコへの想いを述べて行った。

「ジュニア君の言う通りだよ。アッコちゃんは困っている人を見ると必ずどうにかして助けてあげたいって思っちゃう優しい子なんだよ」

「うんうんっ、時にはそのお節介が原因でトンデモない事件にまで発展しちゃう事が有るけど、それはまた御愛嬌って事で」

 笑顔でアッコへの心情を語って行くうさぎと美奈子。

「アッコちゃんは本当に困っている人を目にすると一直線に向かって行っちゃう……そんな子なのよね」

「まず自分の都合ではなく相手の事を真っ先に思ってあげる……そんな素晴らしい心の持ち主なのよね」

「そうだね、どうにか自分の変身能力で困っている人を助けてあげようとするその思いは非常に立派よ」

 うさぎと美奈子に続いて語り合うセーラーマーズこと火野レイとマーキュリーこと水野亜美とジュピターこと木野まこと。

「何よりあの子には……そう、俺達とは似ているが何かが違う感じがするんだ……俺達星の戦士はもちろん、聖龍隊の誰とも一線を引く何かが……」

「……そうだよね。私にも薄々感じる。アッコさんから発せられる不思議な何か……何だか、とっても懐かしいと云うか温かいと云うか……」

 自分達とは似ていながらも何処か違う何かを感じられると重い表情で言うタキシード仮面こと地場衛(ちばまもる)、そして彼に抱き上げられながら衛の意見に賛同する発言を述べるちびうさ。

 そして内部系セーラー戦士達に続くように、外部系の四人も神妙ながらも明るい表情で話し始める。

「彼女、加賀美あつこのコンパクトによる力には毎度驚かされるよ。ボク達セーラー戦士や此処に居るみんなとも似て非なる力を彼女は使いこなしているんだからね」

「そうね、彼女のコンパクトから発せられる神秘的な力は、極限まで人の思いや感情と云った思想をエネルギーとして増幅させて私達にも多大なる恩恵を与えてくれるんですものね」

 異常なまでのカリスマオーラを放ちながら二人だけの世界に浸りつつアッコへの心情を語って行くセーラーウラヌスこと天王はるかとネプチューンこと海王みちる。

「アッコさんは以前より、私たち聖龍隊のみんなはもちろん弱い人々の為に全力で、修司さんが扮する聖龍使いと共に戦い続けてくれているんです」

「自分の事よりも相手の事を優先して、その人の問題を自分なりに解決してあげたい……彼女は常に、そう思っているんです」

 セーラーサターンこと土萠(ともえ)ほたる、プルートこと冥王せつなが神妙な顔つきで淡々と語る。

「か、彼女は……アッコさんは、其処まで他人を救済したいと強く思い願っているんですか……!」

 セーラー戦士達の語りに衝撃を受けた風がアッコの身上について訊き返すと、今度はキューティーハニー達が語り出してくれた。

「そう、アッコちゃんは何が何でも困っている人を助けてあげたいと、聖龍隊に入る以前から自分のコンパクトを使って人を助けていたらしいわ」

「聖龍隊のみんなも同じだけど、アッコちゃんは聖龍隊だけでなく誰よりも人一倍、他人(ひと)を思いやれる、そんな心に満ち溢れた女の子よ」

「加賀美あつこ……いいや、ミラーガールとして能力を更に開花させた彼女は、その力で敵との戦闘で傷付いた一般の人々を慈愛の精神で救済したり、俺たち聖龍隊の力を増幅させて助けてくれたり……本当に感謝してもしきれないぜ」

 心優しいアッコの事を感謝の真情で語るハニーと聖羅、そしてミラーガールの力で今まで人々や自分達を幾度となく救ってくれた事に対して感謝し切れないほどの感銘を受けている早見青児(はやみせいじ)

「……本当に優しい良い子なんだね、アッコちゃんって」

 皆の話に穏やかな心情になる結が思わず言葉を零すと、その発言にカードキャプターの木之本桜(きのもとさくら)とナースエンジェルの森谷りりかが返した。

「でもアッコさんって、人を助けてあげたいと思っている反面、何が何でも助けようと先走っちゃって周りが見えなくなる事が有るのが難点なんだけどね」

「うん、もう困っていたり苦しんでいる人が居たら、脇目も反らずに一直線にその人を救済しようと一人で直進しちゃうのよね」

 微笑みながらアッコの事を語るさくらとりりか、二人の少女に続いて新撰組の三人組も語り出した。

「アッコさんのそんな優しさは一般の人や聖龍隊の仲間だけでなく、時には敵である人物にも向けられるんですよ」

「そうだな。悪い事した奴に対しても優しさを向けてくれる……ホント、イサミとは大違いだぜ」

〔バシッ〕「ッ、イってぇ……」

「はは、でもそんな優しさや慈愛が彼女の……ミラーガールの最大の長所であり魅力なんじゃないかなと僕は思っていますよ。戦う事よりも救う事を優先するミラーガールは、まさに聖女の名に恥じない美少女なんですよ」

 優しい心を敵にすら向けるアッコの真情を語るイサミ、その隣でイサミを小馬鹿にした為イサミに頭を叩かれるトシ、そして偽り無い優しい心を持つアッコは正真正銘の聖女の名に相応しい少女であると話すソウシ。

「要するにアッコさんは、困っている人を見過ごせない、人を思いやれる優しくて明るい女の子なんですよ」

 そして最後に新メンバーの面々に、ウォーターフェアリーことアプリコットが優しい笑みを向けながら話した。

 聖龍隊のミラーガールこと加賀美あつこに対する心情を知った新メンバーのコレクターズ/魔法騎士/そしてシュウジとちせは彼等の話に心の底で静かに感極まった。

 と、その時。皆の話を聞いた篠崎愛がアッコの事を語り明かしてくれた聖龍隊の面々に訪ねた。

「ね、ねぇ。私、思ったんだけど……確かアッコちゃんは、ミラーガールに変身できる前から色んなものに変身できていたって耳にしたんだけど」

 この愛の問い掛けにバーンズが答えた。

「ああ、そうだぜ。以前までの普通の魔法のコンパクトでは様々な人や動物、道具にしか変身できなかったんだが、新たに鏡の国の女王から手渡されたセイントコンパクトによってアッコは魔鏡聖女ミラーガールに変身する事ができる様に成れたんだよ」

「た、他人や動物……それに無機物にまで変身する事が出来るなんて……!」

「良く考えたら、私達の変身魔法より優れていますわ」

 バーンズの話を聞いた海と風は、自分達より優れた変身を行えるアッコの魔法の凄さに驚いた。

「わ、私たちはコムネットの中でしか変身できなかったけど、アッコちゃんは何処でも自由自在に変身できたって事よね」

「え、ええ」「ホント凄いわね、彼女の能力って」

 コレクターズの結/春菜/愛の三人もアッコの能力に目を瞠った。

「アッコちゃんの変身能力って、何だか私達とは比べ物に成らないほど用途が広いわよね」

 不意に神妙な面持ちで言葉を発する亜美の言葉にその場の全員気が付いた。

「そ、そう言えば……私達は単にセーラー戦士にしか変身できないのに対して、アッコちゃんは何にでも変身できるんだもんね」

「俺達は決まって一つの姿にしか変身できないのが基本だが、彼女の場合はその気になればどの様な姿形にも身を変えられるよな」

 亜美の発言を聞いてアッコの変身について語るうさぎと衛。

「言われてみたら……時にアッコちゃんは人の姿だけでなく敵である怪人や、はたまた幻獣にも変身した事があったわ」

「え、ええ。アッコちゃん、本当に臨機応変に姿を変えていたから今までも上手く戦って来られたのよね」

 うさぎと衛に続いてハニーと聖羅の姉妹も語り出す。

 するとその時、突拍子に今度はイサミが発した。

「あ、私気が付いたんですけど……アッコさんと私達の様に変身して戦う人達って、何だか似ている点が有りますよね」

「え?」「に、似ているって、何が似ているのよイサミちゃん」

 イサミの発言に思わず驚く芹沢ルリ子と高木はるかに訊かれたイサミは答えた。

「ほ、ほら。私たちしんせん組の三人は龍の剣などの武器を構えた状態で変身しますよね。それは他のヒーローにも共通している事ですし、アッコさん自身もコンパクトと云う道具を使って変身をする事が出来るじゃないですか」

 イサミに言われ、トシとソウシの二人も首を傾げて頷いた。

「た、確かに……」

「道具を使って変身を成せる……アッコさんに限らず、この場に居る全員が共通していますよね」

 そして皆それぞれ自分の所持している道具に目を向けた。

 セーラー戦士が自分達が変身する為に使用している様々な形状に色鮮やかな道具の数々。ハニー姉妹が変身する為に、常に腕に装着しているリストバンド。森谷りりかが所持しているナースエンジェルに変身する為に必要なエンジェルキャップ。新撰組は自分達の先祖が遺してくれたルミノタイトを使用した武器。コレクターズの三人は、コムネットの中で様々なコレクトスーツに変身する際に多種多様なアイテムを使用する事ができ、魔法騎士の三人も異世界セフィーロで与えられた装具により変身する事が可能であった。

 それは聖龍隊の戦士であるバーンズ/ジュニアも同じであった。バーンズは今や自分の側近として覚醒したコインと同じ大きさのチップバードを胸に当て「メタル・イン」と唱えれば変身する事ができ、ジュニアは子々孫々と受け継がれている鞭を使用する事により大地の申し子と呼ばれるジュピターキッドに変身する事ができる。

 一方のアプリコットは道具無しに変身する事ができるのだが、この時彼女は思った。自分が今この場に居られ、更に変身できるようになったのは全てアッコの所持しているセイントコンパクトの御蔭である事を。

 聖龍隊は加賀美あつこと自分達が変身する際の状況が酷似している事に感付いた。

「……あ、アッコちゃんって、本当に私達と変身する際の行動と云うか、パターンが似ているわね」

 美奈子が動揺しながらも発すると、それに対しレイが神妙な面持ちで返した。

「いえ、別の意味で言うと…………私達がアッコちゃんと同じ変身パターンなのよ」

『………………』レイの言葉に誰もが黙然としてしまった。

 

 争いを嫌い、戦う事よりも傷付き苦しむ人を救う事を優先する、まさに慈愛の精神に満ちた魔鏡聖女ミラーガールこと加賀美あつこ。

 友を、仲間を思いやり、時には敵にすらその優しい感情を向ける少女加賀美あつこ。

 しかし同時に聖龍隊の面々は気付いた。彼女と自分達、変身の際道具を使って変身を成し遂げるその異様までの酷似に、全員只ならぬ私情を感じていた。

 

 

 

 

[瞬殺の刃]

 

 後日、聖龍隊の増設されたメインフロアに、これまた修司とアッコを除いた面々が一堂に集まっていた。しかも皆が皆、神妙な面持ちで話し合っていた。

「……どういう事だ?」

「さ、さぁ。僕にも何が何だか……」

 神妙ながらも何処か複雑そうな表情を見せあって話すバーンズとジュニア。

「昨日見たばかりなんだけど……」

「あ、ああ、嫌な奴だから記憶に残っているぜ」

 イサミとトシが重苦しい空気の中語り合うと、続いてハニーも皆に言った。

「な、何より……突然この聖龍隊の施設から居なくなるなんて可笑しいわ」

 ハニーに続き、美奈子とレイの二人も口を開いた。

「この前なんか、私たち聖龍隊のこと散々嫌味言っていたのに突然居なくなるなんて……」

「まったく腹の立つ二人だけど、どうして突然……」

 皆がそれぞれ喋っていると、ちせとシュウジの二人が申し訳なさそうに話に入る。

「ご、ごめんなさい、皆さん……」

「二人に色々と言われたみたいで……」

 するとそんな二人にバーンズが咄嗟に言う。

「別にお前達が謝る事は無いだろ。あの二人……ミナモトと副長官の野郎は、お前達の事で勝手に腹を立てて聖龍隊にイチャモン言っていただけなんだからよ。お前達が悪い訳じゃねえだろ」

『…………』

 バーンズの言葉を聞いても尚、申し訳ない気持ちで一杯に成るちせとシュウジ。

 其処に亜美とまことが話し始めた。

「それにしても……何で突然居なくなったりして」

「しかもいつの間に戦死していたのかしら……その二人」

 首を傾げながら考え込む聖龍隊の面々。

 実はちせとシュウジの二人から、あの自衛隊から聖龍隊に視察をしに来ていた特別任務部隊統括司令長官のミナモトとその側近である副長官の二人が突然戦死したのだと修司から聞いたのである。

 以前より二人から様々な嫌味や悪態を告げられ、嫌気が差していた聖龍隊のメンバーであったが、突然姿が見えなくなった二人に驚き騒然と成っていた。

 するとその時、シュウジとちせからミナモト達二人が蒸発した事を聞いて、聖龍隊の基地施設内を隈なく探し回っていたウエルズ率いる聖龍別働隊の面々もその場にやって来た。

「お、お前等。どうだ? あの二人の行動で、なにか解ったか?」

 バーンズがやって来た別働隊に訊ねると、別働隊の高木はるかと芹沢ルリ子の二人が答え返した。

「ダメ、もう影も形も見当たらないわ」

「施設内で働いている小人族の方々にも訊いたんだけど、誰も知らないみたいで」

 聖龍隊関連の施設で働かせて貰っている、ウッズ親子やウエルズと同種族の小人族でさえも、ミナモトと副長官の行方を知ってはいなかった。

「やっぱり、こんだけ探しても居ないって事はやはり……」

「せ……戦死したってこと? でも、何で突然……?」

 思い更ける表情で呟く李・小狼(リ・シャオラン)と、二人がやはり戦死した事に多大な戸惑いを感じる李・苺鈴(リ・メイリン)の香港出身の従兄妹。

「あの二人組……いつの間にか基地から姿を消していたんだよ。まるで煙みたいに」

 ミナモト達が居なくなった事を皆から聞いて駆け付けたウエルズも首を傾げて考え込む。

 

 何故、前触れも無く聖龍隊の施設から消えた二人が、突然に成って戦死したのか疑問に思い考え込むバーンズ。

 するとその時、彼は何かに気付いたかのような素振りをし、鼻をスンスンと嗅いだ。

「どうしたの、バーンズ」

 アプリコットが訊ねるとバーンズは険しい表情に顔付きを一変させて答えた。

「いや、何……少し臭うと思ってな」「え?」

 皆がバーンズの様子に戸惑っていると、バーンズは自身の側近であるチップバードを呼び寄せた。

「おいチップバード」

「はいはい、なんでっしゃろか王子」

 いつもの気さくな関西弁で話すチップバードをバーンズは手の平に乗せると再びチップに話し掛ける。

「チップ、例のライトに」

「例の……あ、あれやな王子! ホイきたッ」

 チップはバーンズに命じられると、自身の体をペン型の細いライトに変形させ、ライトから青白い光を放出した。

 バーンズはその光を自分達の足元に照らし始めた。

「ば、バーンズ……?」

 バーンズの突然の行動に困惑するハニーが声を掛ける。

 しかしバーンズは返事をせず黙々と床と云う床を照らし続けた。

 すると床の一部分だけであったが、広範囲で青白い光を当てられた個所が青く光った。

「こ、これって……」

 光が当っている床の個所が、まるで何かの染みの様に青く発光している現状に只ならぬ様子を見せる鳳凰寺風(ほうおうじふう)。

「バーンズ、これは……」

 ジュニアが青く発光している巨大な染みを指しながら訊くと、バーンズは険しい真顔で答え語った。

「今、チップに変形して貰っているのは特殊な電光ライトだ。この光は人間の血液に含まれる成分に反応して、その成分を青白く発光させるんだよ」

「そ、それって……!」

 バーンズの発言に驚き怯むりりかにバーンズは続けて語った。

「ああ、俺がお前達人間以上に嗅覚が発達しているのは前にも話したよな。遂さっき鼻にツーンと来る鉄の様な匂いが……そう、血の臭いが鼻に来たんだよ」

「! じゃ、じゃあこれって……!」

 小狼が驚きながら発すると、バーンズは険しい顔立ちで皆に言った。

「ああ、最近に成ってこの部屋で……大量の血が床に流れ出たみたいだな」

『ヒぃッ!』

 バーンズの言葉に一部の女子達は驚倒する勢いで声を上げ怖がり始めた。

 皆、自分達の足元を見渡した。するとライトで照らされた個所が、広範囲で青白く発光し、バーンズの言う通りであればこの部屋で最近多くの血が流れていたというのだ。

「で、でも一体……何より、誰の血がこの部屋に……?」

 ジュニアが言うと皆黙りこみ考え更けてしまった。

 その時、バーンズが部屋の一角に在るアルものに気付いた。

「んっ、あれは……よし、チップバード」

「なんでっか王子」

 バーンズは部屋の一角、天井に設置されている監視カメラを見詰めながらチップに命じた。

「この部屋の端末から聖龍隊の管理コンピューターにハッキングしてカメラの映像を入手しろ、良いな」

「ほいっ、解りやしたッ」

「ちょ、ちょっと! ハッキングって、良い訳? いくらあなたが聖龍隊の副長でもそんな犯罪紛いな事……!?」

 バーンズの取ろうとした行動に驚き意義を叫ぶ愛、だがバーンズは険しい眼つきで言い返した。

「仕方ねえだろ。オレ達が今居るこの部屋で大量の血が流れていたんだ、何が遭ったか見て置くんだ」

 そしてバーンズの指示の元、チップバードはハッキングして部屋に設置されていた監視カメラの映像をコレクターズが所持していたノートパソコンに映し出した。

 パソコン画面に映し出された映像には三人の人物が部屋に居るのがハッキリと解った。

「こ、この三人は……」「ひ、一人は修司さんよ」

 さくらとりりかが画面を指差して三人の内の一人を告げた。

「あ、後の二人は……」「こ、この二人……ああっ!」

 そして残り二人を目を凝らしていた小狼と苺鈴が見ていると、苺鈴が二人の顔に気付いた。

「こ、この二人……!」「間違いない……!」

 早見青児と葉月聖羅の二人も、画面に映っている修司以外の二人の顔に見覚えが有った。

 そして皆と同様、画面に映っている二人を見たシュウジとちせも声を発する。

「み……ミナモト長官……!?」「ふ、副長官も……」

 そう、画面に映し出された修司と一緒に居る二人組は、今皆が居ないと騒いでいた自衛隊特別任務部隊統括司令長官のミナモトと彼の側近である副長官の二人だった。

 パソコン画面に映し出された修司とミナモト達は何やら話していた。

「こ、これじゃ何を話しているのか解らないわ」

 画面越しで三人が何を話しているのか解らない事に困惑する海。

 するとバーンズが聖龍隊のコンピューターにハッキングしているチップに命令を告げた。

「チップ、三人の唇の動きから彼等が何を話しているのか、画面に文章として映してくれ」

「了解、王子」

 チップは三人の唇の動きをコンピューターで読み取り、彼等が何を口から発しているのか画面下に文章として表示した。

 すると、修司とミナモトと副長官の三人は、このようなやり取りをしていた。

 

 

「……それで? 何が言いたい訳? お二人さん」

 小馬鹿にするような態度で二人に言う修司。すると相手のミナモトと副長官の二人は厳つい顔で修司に言い返した。

「だから言っているだろ! いい加減、このような馬鹿げた組織なんて意味が無いんだ!」

「わが軍の最終兵器で有るちせはもちろん、他の末恐ろしい能力者を集めている聖龍隊なんて、どうかしている!」

 立腹した様子で修司に反論するミナモトと副長官。

 しかし当の修司は平然と冷めた表情を変えずに二人に言葉を返す。

「だ・か・ら。さっきから言っているだろ。聖龍隊は日本政府はもちろん、国連からも認定された組織なんだぜ。そんな組織を急に解体しちゃったら大問題だよ」

 完全に馬鹿にする様な顔つきで二人に言う修司。これに対してミナモト達の苛立ちは増すばかりであった。

「……いい加減にしろよ、クソガキが……ッ! 大体、お前達のやり方では何一つ護れはしない。良いか、戦いに情や甘さなんて無意味なんだ。それなのに聖龍隊(ここ)の連中は互いに護り合ってばかりの軟弱なガキばかりじゃないかッ。そんな甘ったれた連中に大義を任しておけるか……!!」

 怒りを込み上げるミナモトに続き、副長官も苛立ちを顔に表しながら修司に言った。

「良いか小田原修司、お前達聖龍隊が何を企んでいるか知らんが、我々の大義を……神国日本を護ると云う健全たる職務を自衛隊から奪うとは、どういう了見なんだ! こんな訳も解らない輩の集まりなど無駄なだけだ」

 そんな立腹状態の二人を尻目に、修司は呑気に携帯の電話を弄って電話を掛けようとしていた。

「ってオイ小田原修司! 人が真剣に話しているのに電話を掛けるとは……我々を完全に舐めきっているのか!」

 副長官の発言を脇目に、修司は携帯を耳に当てながら二人に言った。

「あのな、良く考えなさいよお二人さん。俺達は国連からはもちろん、日本政府からもちゃ~~んと認可されている組織なんだよ。何より自衛隊だけでも応戦する事しか出来なかったのに、まだ異次元からの脅威と太刀打ちできると思っちゃっている訳?」

『…………!』

 修司の発言に厳つい顔で口元を歪ませる二人。

 そんな二人に修司は更に挑発染みた言動で告げる。

「それによぉ、お二人は何かとさっきから大義とか職務とか言っているけど、それって只単に自分達の立ち場を横取りされてカッカしているだけじゃないか。まともに戦う事ができなかったアンタ等自衛隊に代わって戦ってやるんだ、逆に俺たち聖龍隊に感謝して欲しいぜ、全く」

「ッ……!」「な……ッ!」

 修司の一言に完全に怒りが頂点に上るミナモトと副長官。

 怒りに駆られたミナモトが修司に怒声を掛けようとした、その時。

「それにな、あんた等のやり方では、戦力に成る兵士が、それこそ無駄に消耗しちまう訳だよ。国会の役員達だってそれを理解しているし、もし聖龍隊が異次元からの脅威と立ち向かいそして勝てた暁には、聖龍隊を正式に一つの防衛力として採用してくれると言ってくれているんだぜ。解る? 俺達は国家の命を受けて活動している組織だ、そんな組織に色々と役目を奪われた妬みや逆恨みなんて抱いているなんて、それこそ無駄だぜ」

 この修司の挑発交じりの発言に、ミナモトは声を荒げて反論した。

「フザケルな小僧! 戦いを理解していない役人たちが何を考えているか知らんが、私は認めんぞッ! あのちせはもちろん、聖龍隊の様な異常な連中が度等を組んだ組織なんて危険極まりないだけだッ。見ていろ……、今にきっと後悔させてやる。異様な連中に日本を護らせようとするお前はもちろん、そんなお前達に大義を任せてしまった愚かな国の役人たちも……全て! 我が自衛隊の権限を持って排除してや「と、言う訳らしいですけど、どうしましょうか? 大臣」

『…………え?』

 携帯を耳に当てながら修司が発した言葉に全身が硬直するミナモトと副長官。

 すると修司はミナモトに自身が持っていた携帯を突き出して「はい、アンタと話がしたいそうだ」と、ミナモトに携帯を手渡した。

 携帯を手に取り電話に出るミナモト、すると電話から出たのは。

「……長官、君はどうも自分の立場が解ってない様だな」

「そっ、その声は…………総理……!?」

 なんと電話から出たのは日本の総理大臣、つまりはミナモトの上役の立場の人間だった。

 更に「ミナモト長官、私も総理の側に居て、先ほどの君等の会話を聴かせて貰ったよ」「ぼっ、防衛大臣……!」総理の次に電話に出たのは防衛省の大臣。これもミナモトの上官に当たる人物である。

 二人の大臣はそのまま、驚愕して表情が強張り、自分より上の立場の人間の声を聞き愕然となっているミナモトに話し続けた。

「長官、私は君に聖龍隊の視察を命じただけで、決して聖龍隊の行動を妨害する様な事は一言も言ってはいないのだがね」

「あ……あ……っ」余りの出来事に言葉が発せないミナモト。

 更に、総理に続き防衛大臣もミナモトに言った。

「ミナモト長官、既に異次元からの脅威と呼ばれる軍勢への最終対抗策として聖龍隊が起用された事項は君の耳にも届いている筈だが。それなのに、未だ執着してしまっているとは恥ずかしくないのかね?」

「…………」

 ミナモトは緊張に緊張が重なり、返す事ができない状態だった。

 大臣達はミナモトに続けて告げた。

「長官いい加減、昔の栄光に縋るのは良し給え。何より、もう決着は着いているのだろ。自衛隊はかの最終兵器と呼ばれる少女ちせの改造に成功したものの、肝心の異次元からの脅威に自衛隊は全く歯が立たなかったではないか。それなのに、まだ自分たちで何とかできると思っているのか?」

「………………」

「長官、もはや我々は君達自衛隊に任せて居られるほど余裕は無いのだよ。異次元からの脅威と呼ばれる軍勢は、既にアジア諸国のみに限らず、アメリカ・ヨーロッパなど各地に出没しては多大なる被害を与えているのだよ。もう、君等自衛隊の手に負える相手ではないのだ。解ったかい?」

「……!」ミナモトは歯を食い縛った。

 そして大臣は先ほどのミナモトの発言に対しての解釈を述べながら話を締め括った。

「……君が自衛隊の権限を使って我々をどうにかしたいと思っているようだが、今はまず自分はもちろん自衛隊の現状と今後を良く考えて置く事だ。自衛隊は少女ちせの扱いにも不慣れで有るし、何より戦闘により激しく戦力が消耗してしまっている。君達の今の役職は、自分の大義名分を取られた鬱憤を愚痴零す事では無く、戦力が著しく消耗してしまった自衛隊の対策や、戦闘で傷付き住いを失くしてしまっている市民への救済と崩落した町の復旧に労力を費やす事が大事なのではないのか。……まぁ、今の君の立場では自衛隊の権限を自由に扱うなんて芸当、到底できないと思うがね」

「…………」

 次第に表情を蒼く変化させていくミナモト。

 最後に大臣はミナモトに、彼と彼の側近である副長官に対して事項を述べた。

「ミナモト長官、本日をもって君の……いや、君達二人が所属している自衛隊特別任務部隊は解散する。同時に君の統括司令長官としての役目も解任する。当然、副長官も同じだ。二人とも、これからは一自衛官として各々の役職に身を入れて務める事だけを考えていたまえ。日本の未来を考える大変な役職を離別できたんだ、これからはそんな重役では無い立場で気長にやっていきたまえよ、では」

 大臣はそうミナモトに告げると電話を遮断した。

「………………………………」

 大臣から告げられ、ミナモトは顔を蒼褪めさせ強張った表情のまま硬直していた。

「……み、ミナモト、長官……?」

 表情が変わり、様子も一変したミナモトに只ならぬ空気を感じて副長官が声を掛けるものの、ミナモトは何とも言えない表情で副長官を見た。

 そんな重苦しい空気の中、修司がミナモトに手渡した自分の携帯をミナモトの手から取り上げ上着のポケットに仕舞い込むと同時に、愕然と成っているミナモトに話し掛けた。

「どう? 大臣たちは何を言ったのかな? ミナモト自衛隊特別任務部隊統括司令長官殿」

 ミナモトの様子を察しながらも挑発するように不敵な嘲笑で話し掛ける修司の態度に、ミナモトと副長官は異様な心境で睨み返した。

 それと同時に、ミナモトは副長官に先ほどの通話の内容を伝えた。

「そっ……そんな……ッ!」「…………」

 通達を聞いた副長官は表情を一変させ愕然と成り、ミナモトは苛立ちと悔しさで一杯の表情を浮かべていた。

 そんな複雑な感情が入り乱れる心境の二人に、修司は再び挑発交じりの言動で話し掛けた。

「解ったかい? 上の人間達も、君達自衛隊にもう任せられないんだとさ。いくら勝利の為とはいえ犠牲を出し過ぎて、自衛隊そのものを壊滅させられちゃ国家も困る訳だよ、お解り?」

 最後に小馬鹿にする様な口調による一言を告げる修司の発言に、ミナモトと副長官は苛立った。

 更に「それにな、お二人さん。聖龍隊の後ろ盾には経済界に多大な影響力を持つ者達が居る事を忘れないで貰おうか。もし聖龍隊に何かあれば、そいつ等が黙っちゃいないぜ。だからこそ、国はアンタ等の様な貧弱な軍人さんよりも、俺達の様な屈強な能力者を選んだんだ訳だ……ま、もっとも、普通の人間が対抗できないからこそ能力者が優遇されるのは当然と言えば当然だろうけどよ」と修司は軽視しながら二人に不敵な言動を述べた。

 修司の一言一言に怒りを募らせて行くミナモトと副長官。そして修司は、そんな二人を脇目に通り過ぎると同時に彼等にポツリと呟き掛けた。

「アンタ達は自衛隊(じぶんたち)のやらかした後始末を片付けている方が性に合ってるぜ。大層な事言ってた割には、どんな犠牲を払っても全く勝てなかったお前達の言い分など最早誰も聞いちゃくれないんだよ。……無能な奴は無能らしく、大人しくしていた方が得策だぜ」

 そして最後に、修司は小さな声で一言吐き捨てた。

「解ったか……弾かれ者」『!!!』

 弾かれ者、つまり自衛隊はもちろん国家防衛の任務からも外された者と吐き捨てた修司の一言に、ミナモトと副長官は何かがキレた。

「……うわああぁ!!」「ッ!」

 副長官とミナモトは激怒の感情が昂った余り、怒りに任せて懐から拳銃を抜き取り、銃口を修司に向けた。

 と、その瞬間「……ありがとな」口元を微かに笑みながら、修司は二人に対して礼を呟いた。

『!?』

 銃口を向けた一瞬、修司の口から出た一言にミナモト達は驚異した。

 だが次の瞬間、一筋の閃光がミナモトと副長官の目に入り、何かが納まる音が耳に入った。

 そんな一瞬の出来事の間、二人が目を向けてみると修司が自身の腰に下げている刀に手を当て、刀を鞘に納めて行くのが目に入った。

 そして修司が完全に刀を鞘に納めた瞬間、修司に向けられていたミナモトと副長官の拳銃が二つに斬り分かれた。

『!』

 自分達の拳銃が切断されていたのを見て、ミナモトと副長官が驚愕したその時、二人は次に自分達の体の異変に気付いた。

 二人が異変に気付いた瞬間、なんとミナモトと副長官の体から大量の血が噴き出した。

「ぐッ!」「ッ……!」

 体を切り裂かれ、裂かれた個所から大量の血飛沫を放出しながら、ミナモトと副長官は前方に流れる様に倒れ込む。

「……銃口を向けられたんだ、自己防衛として充分成り立つな」

 修司は床に倒れ込む二人を見ながら言葉を吐いた。そんなミナモトと副長官、二人の周りには大量の血による赤い海ができていた。

 そんな赤い海の中で苦悶の表情を浮かべるミナモトが、ふと隣で同様に倒れ込んだ副長官の顔を見てみた。

 すると副長官の瞳孔は開きっ放しの状態で、既に副長官が絶命していたのをミナモトは理解できた。

 その時、自分の側近である副長官の死を確認したミナモトの側に修司が近寄り、ミナモトを不敵な表情で見下ろした。

「…………!」

 大量の出血で意識が朦朧とする中、ミナモトは必死に自身の意識を保とうとしながら同時に修司を睨み返した。

 そんな状態のミナモトを見下ろしながら、修司は血溜まりの中のミナモトに吐き告げた。

「ありがとな、これでまた聖龍隊の立場が良く成るぜ」

「……?」

 修司の言葉に理解できないミナモトが困惑していると、修司はその訳をミナモトに語ってやった。

「だってそうだろ? 日本政府はもちろん国連からも役目を言い渡されている聖龍隊、その上官である俺に銃口を向けたんだ。それも日本の自衛隊員であるお前さん達がだよ。日本政府に取っちゃ、これ程の大問題は無いよ」

「…………」

「まっ、だからこそ、これをネタに日本政府を言い包めれば、俺達聖龍隊の立場は今よりもずっと良く成るからな。其処だけは感謝するよ、ミナモト長官」

「お、お前……ッ!」

 日本の自衛隊員が国際的に認可されている聖龍隊の総長に銃口を向けた事実が有れば、日本政府は国際的に悪い立場へと成ってしまう。故に修司はこの事を日本政府に告げ、事実を明るみにしない代わりに聖龍隊への優遇を良くしようと云うのだ。その事実を生じさせたミナモトに修司は礼を告げ、一方のミナモトは怒りと悔しさで修司を睨みつけた。

 そして修司は膝を着き、ミナモトに話し続けた。

「ミナモト長官、確かにアンタの言う事にも一理ある。戦いとは常に非情なものだ。故に情に厚い聖龍隊の面々では力不足だと認識してしまうのも理解できる、それは否定はしない。だが犠牲ばかりの戦いでは何も生まれないのもまた事実。敢えて被害を最小限に抑え、戦力と成る兵士を活かしながら戦力を保ち続けると云う戦法も少なからず有る筈だ。しかし、そんな戦法もロクに考える事ができなかったのは、所詮お前の力量が其処までのものだったと云う事だ。哀れだな、ミナモト」

「! …………」

 見下すような冷たい眼差しでミナモトに吐き捨てる修司の一言に、ミナモトは愕然とした。

 するとその時、修司は徐にポケットから一本の注射器を取り出して、指で軽く注射器に衝撃を与えながらミナモトに言った。

「だが、そんな自衛隊の人間であるお前さんが、国連の下で働いている俺を殺そうとした事実を公表して祖国日本が危うい立場に成るのは俺だってごめんだ。だから安心して逝け」

 そう言うと修司は取り出した注射器をミナモトに刺し、中の液体をミナモトに注射した。

 ミナモトが朦朧とする意識の中、自分の体に打たれる注射を見詰めていると、注射をしながら修司がミナモトに告げる。

「ま、そんなアンタの事も少しは評価はしているよ。なんせ数多くの戦歴を残しているのは事実なんだからな。だからこれは俺からの餞別だ、有りがたく受け取ってくれ」

 そう言いながら修司は注射器の中の液体を全てミナモトに注射した。

 ミナモトが唖然としていると、修司はミナモトに教えてやった。

「これか? これは確か、筋弛緩剤(きんしかんざい)って薬だったな。そう確か……」

 次の瞬間、修司は不敵で空恐ろしい表情でミナモトに告げた。

「安楽剤って奴だよ」

「!! お……お前……ッ」

 事実を告げられミナモトは叫ぼうとしたが、薬による影響か顔の筋肉が硬直し、表情を変える事はもちろん口の筋肉を動かす事ができなくなっていた。

 修司は空に成った注射器をミナモトの眼前に放り捨て、その場を去ろうとする。

 そして部屋を出る前に修司はミナモトに言った。

「まぁ、安心してくれや。お前達が銃を取り出した事実を隠蔽してあげる為にも、俺が直々に日本政府に、アンタ等二人は戦場で戦死したって事にして貰うよう言っておくから。……運が良いよな、お前等は。国連側の俺に銃を向けて殺害しようとしたが敢え無く自己防衛で返り討ちされた愚かで哀れな男達では無く、戦場で勇敢に戦いながらも見事に戦火に散って名誉の戦死を遂げた軍人として片付けて貰えるなんて……」

 大胆不敵な面構えで小憎らしい表情の修司を、憎悪に満ちた眼光で睨みつけながらミナモトは目を見開いたまま死んだ。

 と、修司が部屋を出ようとしたその時、電動ドアからウッズが入って来た。

「修司様、お話終わりましたか……うわっ、これは……!」

 部屋に入った途端、血溜まりとその中で絶命しているミナモトと副長官の二人を目にしたウッズが驚いていると、そんなウッズに修司は平然と言った。

「ウッズ、済まねえがこの部屋片付けて置いてくれ。俺はちょっと日本政府に言っておかなきゃ成らない事ができたんでね。其処で寝転がっている二人の始末は任せたぞ」

 修司はそうウッズに告げ、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 一方のウッズは、血の海の中で亡くなっている二人を見下ろし、思わず溜息を衝きながら呟いた。

「……ふぅ。修司様ったら、掃除の手間を増やさないでくれと普段から言っているのに」

 そう愚痴を呟きながらもウッズは、修司の一瞬の刃で葬られた二人の後始末に取り掛かった。

 

 まさしく、修司の放った目にも止まらぬ瞬殺の刃によって、二人の軍人はこの世を去った。

 

 

 

 

[恐怖と不安]

 

 と、修司とミナモト達のやり取りを聖龍隊のメインコンピューターからハッキングしたカメラの映像で目に焼き付けた聖龍隊の面々は言葉を失っていた。

 ミナモトと副長官の発言だけでなく、二人に対して修司の口から出る全ての一言一句に皆只ならぬ感情を抱き覚えていた。

 見ていた面々は、まるで修司が故意にミナモト等に挑発する様な言動を吐き敢えて二人の気を逆なでし逆上させたのではないかと思い感じていた。そして逆上した二人に対し、自己防衛と云う名目の元、二人を斬り殺したのではないかと。更に二人が自分を殺めようとした事実を持って日本政府をも動かして行き、聖龍隊の活動を促そうとする。

 全ては修司の目論みなのではないかと、映像を見たバーンズもジュニアも、そして聖龍隊の面々は強張った表情で思い詰めていた。

 

 その時、ふと春日結が自分の足元を見渡してみた。

 其処は丁度、映像で修司がミナモト達を斬り付けたが際にできていた血の海が在った場所だった。

「……きゃあっ」

 自分の周りが血の海で在った事を知り、結は恐怖の余り悲鳴を上げて飛び跳ねる様に後ろに下がった。

 そして結に続き、他の面々も床に目を向けた。

 血塗れのミナモトと副長官が倒れ込み絶命していた所に目を向けてみて、誰もが背筋に寒気を感じるほど恐怖を感じ、顔から血の気が引いていた。

「……こ、此処でミナモト長官達は……」

「ああ、修司に斬り殺されたんだ……!」

 ミナモト等が倒れ込んでいたであろう個所を見詰めながら、恐怖と動揺が入り混じる心境で語り合う青児と衛。

「ふ、二人は戦死したって事にされているけど、本当は……っ」

「うん、修司に斬り殺されたんだ。ミナモト長官だけは安楽剤で死に至らされたようだけど……」

 獅堂光(しどうひかる)が二人が絶命していた個所を見ながら言うと、彼女に続いて天王はるかが呟くように話し返した。

「こ……此処で、人が……し、死ん……ッ……」

 今自分達の居る部屋で二人もの人間が斬られそして薬を打たれて死んだ事に、恐怖し怯え始めるちびうさ。

「か、彼は……修司君は、この部屋で、あの二人を……!」

 二人もの人間を手に掛けた修司の行動に愕然と成る葉月聖羅。

 と、その時、重苦しい場の空気の中、バーンズが言った。

「修司の奴、自衛官である二人まで手に掛けちまったか」

 このバーンズの一言に、すかさず場に居たシュウジが言葉を投げ返した。

「お、おい! までって……ま、まさかあのガキは前にも……」

 バーンズの発言に動揺するシュウジにバーンズは複雑な心境の元答え返した。

「……ああ、以前から修司は戦う事……いや、敵である相手を斬る事に躊躇いが無いんだ。今回は確かに修司の正当防衛が認められるが、それでも平然と相手を斬り付けられる、その精神は前から有るものなんだよ」

 この言葉を聞いた新メンバー、魔法騎士にコレクターズ、そしてシュウジとちせは驚愕した。

「し、修司君は……彼は、前から……人を斬り殺した事が有るの……!?」

 バーンズの話を聞いて動揺した龍咲海が恐る恐る訊ねると、ジュニアが重苦しい口振りで答えた。

「あ、ああ……義兄さんは以前から、敵と認識した相手は容赦なく斬り捨てているんだよ。そう……躊躇いも無くね」

 ジュニアの言葉に衝撃を受ける新メンバー達、そしてその内の一人コレクターズの篠崎愛が今度は訊ねた。

「あ、あの子……! 人を斬る事に迷いが無いの? そんな簡単に、命を……!」

 目を見開いて訪ねて来た愛に、再びバーンズが答え話した。

「……あいつは、以前から……いいや、むしろ始めっから人を斬り殺す事ができる……そんな奴なんだよ」

 バーンズの話に再び驚く新メンバー達に、続いて冥王せつなが深刻な面持ちで新メンバー達に語った。

「彼は……修司君は、本当に敵に対しては迷いも躊躇いも無く向かって行き、平然と相手を斬り付けられる……そんな一面が前々から目立ってはいましたけど」

「そ、そんなっ。相手が普通の人間なのに斬っちゃう訳? 修司君は……」

 せつなの話に驚き意義を唱えてしまう春日結。

「い、いくら聖龍隊の事を悪く言われたりしたからって、二人の人を斬るなんて……!」

「あ、あんなに沢山……血が……っ」

 悲痛な表情で呟く光に、映し出された映像越しとはいえ大量の血を目にした如月春菜が恐怖で怯えていた。

「あ、あの……。彼は……聖龍隊の総長の小田原修司は、いつもこうなの……?」

 怯えた目で訪ねて来るちせに対し、地場衛(ちばまもる)と海王みちるが険しい真顔で答えた。

「ああ、そうだよ。修司はいつもこうだ……! 相手が敵であれば容赦なくそして躊躇なく斬り捨てる事ができ、それにより自身が相手の血で真赤になろうとも何とも思わないんだ」

「前に彼の口から聞いた事が有るけど……彼にとって敵を斬るのは、食肉を切るのと大して変わらない感覚だそうよ」

 二人の釈明を聞き、益々恐怖で動揺が昂る新メンバー達。

 するとその時、獅堂光や龍咲海と同じ魔法騎士(マジックナイト)の鳳凰寺風(ほうおうじふう)が皆の前で語り始めた。

「……そう言えば、修司さんは以前、私達の前で暴走してしまった事が有りましたわ。アプリさんの故郷で在らせられるボスコワールドで怪人に逆上してしまい、辺り構わず破壊しながら敵を叩きのめしてしまった事がありましたけど……」

 風に続き、その現場に居たアプリコットも心痛な面持ちで語り出した。

「え、ええ……。あの時、私が止めていなかったら修司さん、多分相手を原型が留めていない程殴り続けていたわ」

 修司の平然と敵を、相手を斬り捨てられる異様な心構えに、誰もが言葉を失い不安に感じていた。

 その時、話を一通り聞いたシュウジが険しい表情で声を掛けた。

「な、なあ……」シュウジの一声に皆が意識を彼に向ける。

 そしてシュウジは険しい表情のまま、皆に言った。

「なあ、あの小田原修司……本当に大丈夫なのか?」「……え?」

 シュウジの一言に困惑する皆々、しかしシュウジはそれでも訴え続けた。

「大丈夫なのかよ……確かに、あのミナモト長官達への行為は正当防衛だとしても、平然と人を斬り殺せちまう様な奴が俺達の上官だなんて……」

『………………』

「なぁ、あいつ大丈夫なのかよ……!」

 シュウジの言葉にその場の誰もが沈黙した。

 とその時、場の空気が重く成り皆が黙り込んでしまう中

「……あ、あの……」

 コレクターズの春日結が皆に声を掛ける。

「なんだ、結……」

 沈鬱な顔でバーンズが声を返すと、結は皆に向かって話し始めた。

「い、いえ、その…………い、一応、話して置いた方が良いかなと……」

「だからなんだ?」何処か挙動不審な言動で話し出す結にバーンズが再度言い返す。

 バーンズに言われ、結は心痛な面持ちで皆の眼前に在るテーブルの上に、一台のノートパソコンを置いた。

 そして「……これを、見て欲しいの」と言うと、結はPCの電源を入れて画面を表示した。

「……こ、これは……ッ?」

 PCに映ったモノを見て、バーンズだけでなくその場の皆が驚き衝撃を受けた。

 

 

 その頃、ミラーガールはと言うと。

「……ふぅ、修司やウッズさんの所に書類運んだりして忙しいわ。最近みんなと会っていないけど、どうしてるかしら?」

 と忙しい職務を一段落させて基地施設内を歩いていた。

 そしてミラーガールはメインフロアを通り抜けようと部屋に入った。すると

「ふっふふ……あっ、みんな此処に居たの」

 ミラーガールが部屋に入ると、其処には聖龍隊のメンバーが修司とウッズを除いた全員が居た。

「ど、どうしたの? みんな、何だか凄い顔だけど……」

 部屋に入った途端に感じる重い空気、そして皆の只ならぬ表情を目の当りにして、ミラーガールは酷く動揺し困惑した。

 そんなミラーガールにバーンズが話し掛ける。

「ミラーガールか……丁度良い、ちょっとこっち来て見てくれねえか」

「えっ……え、ええ、何なの」

 戸惑いながらもバーンズに呼ばれて皆の方に近寄るミラーガール。

 そしてバーンズは眼前のテーブルの上に置かれたノートパソコンをミラーガールに見せつけた。

「な、何これ? ……ぱ、パソコン?」

 テーブルに置かれたパソコンにミラーガールが視線を向けていると、突然画面が変わり、黄色い球体の様なのがPCを見詰めていたミラーガールに話し掛けて来た。

「どうも、初めましてでありまする」「うわッ、何これ? 可愛いわね」

 突如画面に映り出た黄色い球体を見て、ミラーガールはその愛らしい見た目に笑顔に成った。

「何なに? 何なの、この黄色い……猫ちゃん? それとも、タヌキなの……?」

〔ガァ~~~~~~ッン〕「た、タヌキ……っ」

 タヌキと呼ばれた黄色い球体は痛心の余り涙目に成った。

 そんな黄色い球体は涙を流しながらも、ミラーガールに涙目で名乗り始めた。

「ち、違うでありまする。身共(みども)はIR(アイアール)と言うプログラムソフトでありまする……グスッ」

「えっ、そ、そうなの? はは、ごめんなさいね、IRの狸ちゃん」

「ッッッ! だから狸じゃありませんってばッ!」

 二度も狸呼ばわりされて立腹してしまう黄色いソフトIR。彼は昂る自分の感情を抑えつつ、再度ミラーガールに話を振る。

「ご、ごっほん……え、え~~ミラーガール殿、実に丁度良い所に来て下さりましたでありまする。貴女にも是非拝見して欲しいのでありまする」

「え? な、何を見せてくれるのタヌ……あっ、IR」

 思わず再び狸と呼びそうになりながらも何とか呼び直したミラーガール。

 そしてIRは画面を切り替え、ミラーガールに見せたいと云うものをPC画面に映し出した。

「これでありまする」「……こ、これって……?」

 画面が切り替わり、IRが画面に表示したモノを言い示すと、すかさずミラーガールがそのモノを拝見した。しかし、それを一目見たミラーガールは大変困惑した。

 

 何故なら画面に映し出されたのは、あの小田原修司の写真が記載された記事のようであったのだが、その画面には大きく【No Data】つまりは情報無しと表示されていた。

「……ね、ねぇ。これって……」

 困惑するミラーガールが画面を見詰めたまま指差し、そして皆に訊ねると、全員重く険しい表情でミラーガールに語り出した。

「さっき、コレクターズの子達から見せて貰ったの……」

 木野まことが実に不安で一杯で有る様な表情で言うと、続いて水野亜美も同様の面持ちで語った。

「私達も驚いているんだけど……」

「な、何ですか? この記事は……」

 不安と動揺で心中一杯に成るミラーガールが再び訊ねるとIRがPC越しから答えた。

「み、ミラーガール殿。これは、身共を始めとしたコムネットのソフト一同が懸命に調べて来た小田原修司の調査結果なのでありまする」

「え……し、修司の調査? な、なんでまた……」

 動揺しつつもミラーガールが訊き返すとコレクターズの春日結が悲痛な表情で答えた。

「そ、それがね、ミラーガール……実は、私達の所の博士、そう犬養博士が前々からIR達コムネットのみんなに調べて置くように言伝していたらしいの。しょ、正直、修司君の事を疑うのは悪いから、博士のその行動には私達は余り賛同はできないんだけどね。……だ、だけど」

「…………」

 悲痛な面持ちで話す結の言葉にミラーガールが耳を傾けていると、結に続いて今度は同じコレクターズの如月春菜が結と同様の表情で話し出した。

「けれど、IR達の調べでは彼の……そう、小田原修司に関するデータがいくら探しても見つからないんです」

「そ、それって、どういう……」

 ミラーガールが困惑していると、今度は篠崎愛がミラーガールに説明を述べ始めた。

「つまりねミラーガール。簡単に言うと、彼の出生記録はもちろん、戸籍すら見当たらない。要するに小田原修司に関する記録が何処にも無いのよ」

「…………」

 思わず黙然としてしまうミラーガールに、再び結が心痛な面持ちで話した。

「つまり、その…………あの子が、修司君がこの世に存在していないって事なの」

「そっ、そんな……!」

 結の話に愕然と成るミラーガール。

「し、修司が……修司がこの世には居ない人間って事? で、でも……」

 俄かに信じられないミラーガールが動揺しつつも言葉を返そうとすると、そんな彼女にIRが再び述べる。

「み、ミラーガール殿。身共達も最初は何かの間違いでは無いかと、更に念に念を入れて調べ直したのでありまするが……日本国内はもちろん、外国等の他国のデータベースにも修司殿の情報が無いんでありまする。つ、つまりは修司殿の存在証明が全くの皆無なのでありまする」

「そんな……! そ、それじゃ、あの修司は……修司は何だって言うのよ!?」

 IRの釈明に驚愕し半ば興奮したミラーガールが皆に訊き返す。

 しかし皆、彼女の必死の問い掛けに答える事ができずに下を俯くばかりであった。

 

 

 

[絡み合う疑心]

 

 そんな場の皆が不安の心境に浸りきっているその時、思い詰めた表情で地場衛(ちばまもる)が重い口を開いて皆に言った。

「なぁ、あいつ……」『…………』

 皆が衛の言葉に気を向いた瞬間、衛は皆に一言呟いた。

「あいつは、修司は……何者なんだ……?」

「……え……?」『…………!』

 衛の一言にミラーガールはもちろん、その場に居た皆が愕然と成った。

「な、何を言い出すの、まもちゃん……」

 うさぎが不安に満ちた表情で訊き返すと、衛は険しい神妙な真顔で話した。

「だ、だってそうだろ。戸籍も出生記録も無いなんて普通じゃ有り得ない……! そもそも、あいつが何処からやって来たとか、此処に来る前は何をしていたのか……みんなだって知らないだろ!」

 衛のこの言葉に誰も反論する事ができなかった。皆も衛同様に修司の経緯を知らなかったからである。

 更に衛に続き、ルナとアルテミスも険しい面持ちで互いの顔を見ながら話し合った。

「そういえば……あの子、修司君には、普通では感じられる筈の無い闇の様な部分が心にあるわ」

「確かに……普通の人間では先ずあり得ないほど強くも禍々しくも感じられる、得体の知れない闇が心に……」

 神妙な顔つきで語り合うルナとアルテミスに続き、聖羅も重く険しい面持ちで語り出した。

「ちょ、ちょっと待って。闇って……それって何の事なの?」

 事情を知らない新メンバーんの龍咲海が問い詰めると、事情を既に耳にしている海王みちるが説明した。

「彼はね……以前から心の底に得体の知れない闇を秘めているみたいなの。……それも、ただ恐ろしいってだけじゃ無く、何かもっと特別な……敢えて言うなら憎悪等では無く悲しみに近い感情の、それも何処か惹かれてしまう不思議な闇を、彼は心に持っているのよ」

『…………』

 みちるの話を聞いた新メンバー達は言葉を失う。

「そ、そう言われると……確かに、彼の心には何か得体の知れない、そう計り知れない程の闇の様な部分が」

「せ、聖羅! 何を言うのッ」

 妹の聖羅が発した言葉に驚くハニーがすかさず反論すると、続いてデューイが思い詰めた表情で語り出した。

「でも確かに彼が、修司が僕等とは何処か違うのは事実だよ。今思い出したんだけど、彼は何故かナースエンジェルはもちろんセーラームーンやキューティーハニーの治癒能力で自分の怪我を治されるのを拒み続けていた」

「そッ、そう言えば……!」

 デューイの語りを聞いて驚愕の表情を見せる宇崎星夜(うざきせいや)。

「で、でもなんで、りりかちゃんやうさぎさん達の治癒能力を拒んでいたんだろう……」

「さくら、みんなの治癒能力の根本は邪悪なモノを討ち滅ぼす力なのよッ。もしかしたら修司さんも今まで私達が倒して来た敵と同様に」

「止めろよ苺鈴(メイリン)! まだそうだと決め込むのは……」

 不安な表情の木之本桜にすかさず言い返す李・苺鈴、そしてそんな苺鈴を制止させる小狼(シャオラン)。

「ま、まさかッ。修司さんも今まで俺等が倒して来た敵と同じだって言うのかよ……ッ?」

「と、トシッ。そんな、まさか……!」

「疑いたくもないけど……同時に、僕達は修司さんの事を余りにも知らな過ぎている……」

 トシの発した言葉に間髪入れず反論するイサミ、だがそれと同時に自分達が修司の事を周知していなかった事実を述べるソウシ。

「し、修司さんが、そんな……」「存在していない存在……何を意味するのかしら」

 皆の会話や様子を見て不安に駆られ暗い悲痛な表情を浮かべるちびうさに対し、彼女の横で不安に感じながらも冷静に考え始めるほたる。

(彼の出生が無いと云う事は、元々この世に小田原修司と云う存在が虚構で在ったと云う事……!? そ、それじゃ、未来に聖龍隊の記録や伝承が無いのにも彼が関係しているって事かしら……)

 内心、修司の存在が元から無かった偽りの人物で在ったのか、そして自分とちびうさがやって来た未来の世界に聖龍隊の記録などが遺されていないのも修司が絡んでいるのではないかと疑問視し始めてしまう冥王せつな。

「存在していないって……ほ、ほんとに、何がどうなっているの!?」

「み、皆さん、少し落ち着きましょう。彼が何者かは不安に残る所ですが、今は此処に居るみんなで一丸となって……」

「って何を言っているのよ風! 一緒に成って戦う彼の正体が謎だらけなのに、気を許して一緒に戦えるはず無いでしょッ!」

 不安の余り困惑してしまう光に何とか周りを宥めようとする風、しかしそんな風に強く反論する海。

「……私、言いたくは無いけど、博士達の今回の行動には感謝しているわ。正体も不明の、得体の知れない人と一緒に戦うなんて……それも、そんな彼の指揮下で共戦して行くなんて到底無理よ」

「で、ですが……そんな彼の指揮が有ったからこそ、今まで聖龍隊は活動できていたのでは……」

「そ、そうだよ愛ちゃん。まだ彼が本当に、みんなが不安に思う程の少年じゃないのかもしれないし」

 素性の不明な修司の下で活動する何で無理だと主張する愛に、春菜と結が優しく話し掛ける。

「そ、存在していないって……どういう事なのかな、シュウちゃん」

「い、いや、俺にも何が何だかさっぱり……」

 周囲の不安な心境で混乱する状況の中、自分達も同様に不安と困惑の心情で混迷してしまうちせとシュウジ。

 そんな皆の状況を目の当りにして、ミラーガールは何とか場を宥めようと話を掛ける。

「み、みんな落ち付いてよ。まだ其処まで困惑するほどの事でも……」

 だがその時であった。

「み、みんな……!」

 皆が混迷の状況下の中、水野亜美が一人意を決して困惑している皆に声を掛けた。

「あ、亜美ちゃん……?」「亜美さん、何です、か……?」

 声を掛けて来た亜美にうさぎやミラーガール、そして他のみんなが顔を向けた。亜美の顔は、何処か暗く何やら蒼褪めている様に見れた。

 亜美は意を決し、皆に語り始めた。

「みんな、実は私……少し彼に……修司君について妙な偶然が有るのに気付いたの……」

「ぐ、偶然……?」蒼褪めた暗い表情で語り出す亜美の言葉と様子に戸惑う火野レイ。

 すると亜美は、蒼褪めた暗い表情のまま眼前の皆に話した。

「私、彼がアニメタウンにやって来た日を中心に色々と個人で調べていたんだけど彼……修司君がアニメタウンの市長に就任する為に彼がアニメタウンに引っ越してきた時期が……」

『…………………………』皆が無言で亜美の話に耳を傾ける。

 そして亜美は次の瞬間、仲間である聖龍隊の皆に告げた。

「彼がアニメタウンにやって来た日と、世界中の至る所に異次元からの脅威と呼ばれる怪人や魔物の軍隊が襲撃して来た、つまりは出現し始めた時期が……ほぼ一致しているのよ……!」

『!!!』亜美の説明に、その場の誰もが驚愕した。

 自分達が戦おうとしている、全ての世界を脅かしている異次元からの脅威と呼ばれる軍隊。それが確認された時期が、丁度修司がアニメタウンにやって来た時期と一致している衝撃の事実を知って、聖龍隊の面々は全員愕然と成った。

「じゃ、じゃあ。彼が街に現れてから、世界中に怪物たちが出現する様になったって事?」

「ぐ、偶然……って言えるレベルじゃ無いよ……!」

 事実を知って動揺する愛に、怯えた様な蒼褪めた表情で呟く結。

「偶然にしては……余りにも、でき過ぎているさかい……」

「ほ、ほんとよ……! 彼の出生記録が世界の何処にも無いのはもちろん、彼が町にやって来てから世界中に異次元からの魔獣が出没する様になったって、偶然と片付けること自体が余りにも無理だわ……!」

 衝撃の事実に驚くケルベロスに、そのケルベロスの意見に賛同する様に重く険しい面持ちで話すルナ。

「お、おいジュニア! お前、親父から……ウッズから何か聞いて無いか? 修司の事についてよ」

「そ、そうよっ。ウッズさんと修司さんは此処に居るみんなの中では一番付き合いが長いんだし、何よりウッズさんは修司君の執事。彼について何かしらの事は知っている筈でしょ?」

 父親が議題にあがっている修司の執事であるジュニアに言い寄るバーンズと木野まこと。しかしジュニアは困惑の表情を向けながら二人の問い掛けに答えた。

「じ、実は……僕も以前から義兄さんの事について色々と疑問に思っていた事が有るんだ。だから父さんに少し訊いてみたんだけど、肝心な所だけは上手く話をかわされてばかりで結局は何も答えてくれないんだ……」

「そんな……」

 ジュニアの返答に思わず悲痛な表情を浮かべるアプリコット。

「ま、まさか……! 俄かには信じたくないけど、彼も異次元からの脅威と何かしらの関係が有るんじゃないのか……!?」

「あ、アルテミス! あなた、何言っているのよ! そんな、修司君が……」

 パートナーのアルテミスの発言に反論する愛野美奈子であったが、彼女自身の胸中にも小田原修司に対しての疑心が芽生え始めていた。

「み、みんな……」

 驚愕の事実を知って疑心暗鬼に駆られてしまう周りの皆を見て、ミラーガールは悲痛な心境で困惑してしまっていた。

 

 自身がこの世に生を受けたと云う証はもちろん何処で生まれ育ったのかも全ての記述が無い少年 小田原修司。

 更に、彼がアニメタウンに姿を現した時期と、世界中で異次元から襲来してくる怪物たちが確認された時期が一致していた事実。

 これらの事実を知った聖龍隊士たちは、誰もが小田原修司に対しての行き場の無い疑心に陥ってしまう。

 存在していない存在。この意味を知った時、彼女達の力強い心が砕けてしまうのかもしれない。

 

 

 

[違う存在]

 

 聖龍隊の皆が、素性が不明な上に異次元からの脅威である魔獣が世界中に出没したのと同時期に街にやって来た修司に対して行き場の無い不安不信、そして疑心の感情を抱き始めたその時。

「…………なによ……」

「……え……あ、アッコ……?」

 下を俯いたまま、突然重い口調で呟くミラーガールの一言に戸惑うバーンズ。

 そして次の瞬間、ミラーガールは俯いていた顔を上げて皆に言い放った。

「何よっ! 修司が何処からやって来たとか、出生や戸籍が無いからって、何でみんなは其処まで修司の事を疑う訳!?」

「あ……ッ、アッコ……」

 眼前の皆に涙目で言い放つミラーガールに、バーンズはもちろん他の聖龍隊までも意表を突かれる。

 ミラーガールは力強くも意思のハッキリとした瞳に涙を溜めて皆に言い続ける。

「確かに……修司が何処から来たとか、前は何をして過ごして来たのかは、私も知らないわよ。だけどそれが何だって言うの? 修司が今まで私達の為に、そう自分なりとはいえ懸命に頑張ってくれているのはみんなだって知っているでしょ……!」

「だ、だけどよアッコ。言いたくねえけど、あいつには本当に得たいの知れない部分が有るのはお前だって解っているだろ? オレだって疑いたくはねえけど、何分あいつには俺のテレパスも効きゃあしねえし、修司の心に底の知れない闇が潜んでいるのも感付いているだろ。何より、あいつの戸籍や出生記録が存在していないだけでも充分怪しいのに、まさか俺達が戦うべき軍勢である異次元からの脅威が世界に出没し始めた時期と同時期にアニメタウンにやって来たのも、偶然にしては余りにも……」

 ミラーガールの言い分に返答するバーンズ、しかしミラーガールは今にも泣き出しそうな悲痛な表情でバーンズに言い返した。

「バーンズ、あなたまで何を言うのよ……! ……確かに、修司の心には誰もが想像できないほどの闇が有るのは私だって既に知っている。私だって修司の戸籍が無かったり、異次元から来襲する敵達と同時期に街にやって来たのにも不安を感じるわ、だけど……!」

 胸が裂けそうなぐらい、辛い自分の真情を抑えながらミラーガールは皆に話し続けた。

「……だけど、それでも修司は修司じゃ無い。修司が誰よりもみんなを、聖龍隊のみんなを思い続けているのは、みんなだって気付いているでしょ」

「アッコちゃん……」『…………』

 ミラーガールの懸命の思いが彼女の涙が溜まる瞳から感じ取るうさぎに他のセーラー戦士達。

 更にミラーガールは続けて修司について釈明していった。

「確かに修司は私達とは少し……いいえ、大きく違っている所はいくつもあるわ。自分の趣味と相手の趣味が一緒でも、それを共有できずに上手く人と交わる事ができなかったり、人の恋愛事を始め対人関係には全くの無関心だし……」

『…………』

 ミラーガールの修司への釈明に思わず無言で耳を傾ける一同。

 そしてミラーガールは涙で更に輝きを増した瞳で必死に修司への釈明を語り続ける。

「時おり私達とは会話がかみ合わない事も有る。そして何より……修司はみんなと、そして私と目を合わしてくれない。私の目を見て語ってくれない、私と……向き合ってくれた事は無いわ」

「アッコ……」「アッコちゃん……」

 遂に自身の中に秘めていた辛い想いも吐き出し曝け出したミラーガールは涙を溜めていた瞳から一粒の煌めく水滴を零した。それを見たバーンズや女子達は内心、衝撃を受けた。

 そして、ミラーガールは思わず瞳から零れ出てしまった涙を拭き取り、再び皆に力強い眼差しを向けて語り続けた。

「で、でも……そんな修司にだって良い所はちゃんと有るの、みんなだって知っているでしょ。度が過ぎて時おり私達が困っちゃう事も多々有るけど物凄く几帳面だし、誰よりも聖龍隊や周囲の人達の事を見てくれている、それでみんなの様子が少しでも可笑しければ気に掛けてくれる……。修司は誰よりも、聖龍隊のみんなを気にしてくれている……みんなは、そんな修司の事を疑う訳?」

『…………』

 ミラーガールの問い掛けに対し、しばし答え返す事が出来ない一同。

 続けてミラーガールは心痛な面持ちで皆に問い掛けた。

「少しばかり周囲の人と違っていても、その人の本質とは関係ない筈よ。むしろ普通と違うからこそ、その人間の個性や価値が更に光り輝くんじゃないの、少なくとも私はそう思うわ」

『…………』

「周囲の人と違っていてもそれで良いじゃない。周りと違うからってそれを非難する権限は誰にも無い筈よ。何より周囲の人と違うからこそ一人一人がそれぞれの輝きを持っているんじゃないの?」

『……』

 下を俯いて考え込んでしまう面々にミラーガールは二言告げた。

「みんなはそれでも……それでも、修司の事を疑うの? 偏見の眼差しを修司に向けるの!?」

『……』

「修司を……聖龍隊(わたしたち)の総隊長を信じてあげようよ、ねえ」

 ミラーガールは自身の心中に有った全ての思いを吐き出し、皆に必死で訴え続けた。

 しかし。

「だ、だけどよ……」

「あいつ、本当に何を考えているのか解らないし……少し気味が悪いんだよな」

 衛と青児が思い悩んだ末に呟いてしまう。

「い、いくらアッコちゃんの頼みとはいえ、ねぇ……」

「正体の不明な彼に付いて行こうとは、到底……」

 火野レイと水野亜美が苦悩の表情で言うと、二人に続きうさぎと美奈子の二人も同様の表情で言い返した。

「わ、私だって、アッコちゃんと同様に信じたいよ。けど……」

「以前から彼の心の闇には不安を感じていたし、それに付け加えて戸籍も出生記録も存在していなかったなんて……」

 美奈子の言葉に木野まことも続いて言った。

「得体の知れない、の一言しか云い様が無いわ……」

 更に外部系の四人もミラーガールの訴えに対し疑問視する意見を述べた。

「ミラーガール、君は小田原修司と言う人間を過信し過ぎているんじゃないのかい? 彼が何処の誰かと言う前に……彼の、そう小田原修司と言う人間の存在そのものが虚構であり実在していないかもしれないんだよ?」

「はるかの言う通りよアッコちゃん。厳しい事言うようだけど、あの子が本当に実在している少年なのか疑問に思うわ。現に戸籍すら無い上に、彼が町の市長としてアニメタウンに在住して来たのと同時期に異次元からの脅威が世界中に出没しているのは、紛れも無い事実なのよ」

「確かに、みちるの仰るとおりですわ。彼の心には、今まで私達が戦ってきた敵とは桁違いの……それも得体の知れない底無しの闇が見え隠れしています。普通と考えるのは余りにも無理が有りますわ」

「アッコさんの言う事も理解できるけど…………やっぱり、少しばかし修司さんに対して思う所はみんなと同じだわ」

「…………」

 天王はるか、海王みちる、冥王せつな、そして土萠ほたるの言葉をも聞いて一人悲痛な思いの中黙り込んでしまうちびうさ。

「そ、そんな……セーラームーンや他のセーラー戦士まで、そんな……!」

 セーラー戦士達の返答を聞いて愕然と成るミラーガール。すると

「悪いけど、私達も彼女達と同じだわ」

「え……!」

 ミラーガールが顔を向けると其処には不安に満ちた表情で立ち尽くすハニー姉妹が立っていた。

「は、ハニーさん。それに、聖羅さん……」

 ミラーガールが二人に戸惑っていると、姉妹は揃ってミラーガールに話し返し始めた。

「私も……悪いけど、彼の事を信じ切ってあげられないわ……」

「残念だけど、彼が実在しているのかはもちろん……異次元からの脅威との関連性も考えられる以上、彼を信頼する事はできないわ」

「そんな……っ!」二人の言葉に痛感するミラーガール。

 しかし他のメンバー達も容赦なくミラーガールに反論し続けた。

「みんなの言う通りだよ、ミラーガール。この世に存在していない奴の事なんか信用できないよ」

「お、俺も……なんだか不安に成って来たよ。このまま修司さんに付いて行っていいのか……」

「デューイ……星夜……」

 修司に対しての疑心の真情を述べるデューイと星夜の言葉に悲愴な表情を浮かべる森谷りりか。

「良く良く考えてみたら、修司さんって謎だらけじゃない。最初っから不安要素しか感じられないほど傍若無人な一面も多かったし、これを機会に考えを改めましょうよみんな」

「で、でも……」「……」

 李・苺鈴(リ・メイリン)の釈明に憂悶してしまう李・小狼(リ・シャオラン)と木之本桜。

「でもアッコさんの言う通り、修司さんは今まで私達の事を思い続けてくれていたわ。それも本当に必死で……!」

「だ、だけどよイサミ。その修司さんの行動そのものが俺達を騙す為の策だったとしたら、どうするんだよ?」

「トシの言う通りだよイサミちゃん。修司さんが……いいや。小田原修司と名乗っている彼が、今まで取って来た行動全てが、僕達を欺く為の彼の計略なのかもしれないよ」

 ミラーガールの意見に賛同するイサミに対しても、小田原修司を疑い続けてしまうトシとソウシ。

 そし現存メンバー同様に、新たなメンバーも修司に対しての疑心不審を吐き述べて行く。

「彼自身の言動全てが虚言……考えられなくも無いわね」

「あの子が……私(わたくし)達に投げ掛けてくれた言葉そのものが嘘偽りだったって云うのですか?」

「そんな……っ」

 小田原修司の口から出た一言一句全てが虚言で在ったと述べる愛に対し、戸惑う春菜と困惑する結。

「まさか……彼も異世界から攻めてくる軍勢の仲間なんじゃ……!」

「そ、そんなっ。海ちゃん、まさか修司君が、そんな……」

「口にしたくは有りませんが、否定はできませんわ。魔法や何らかの術で姿を変えているだけで、本当は異次元からの軍勢の一員……そう、私(わたくし)達を監視する為に送りこまれて来たスパイなのかも……!!」

 海の発言に豪く動揺する光、そして修司は本当は異次元からの脅威と呼ばれる軍勢が放ったスパイなのではないかと語る風。

「だ、だから前から言っているだろッ。あの小田原修司は本当に信用に値する奴なのかどうか。謎だらけの男を信じられる訳が無い!」

「……シュウちゃん……」

 険しい顔付きで言い放つ恋人のシュウジの言動に対し悲愴な面持ちで辛い心境に浸るちせ。

 新メンバーだけでなく、遂にはパートナーの小動物までもが口々に言った。

「あの子……修司君には、前々から心に存在していた闇に嫌という程気が惹かれて云ったわ。並の人間からは到底感じ得ない程の強大かつ雄大な闇が……」

「心の闇……それが彼の……小田原修司の正体に関係しているのかも……」

「うぅむ……。心に潜む闇、か……こりゃ良く良く考えな、ワテらがトンデもないしっぺ返しを喰らわされるかもしれへんなぁ……」

 修司の心の中に潜む闇に対し只ならぬ疑惑を抱くルナとアルテミス、そして心中に闇を抱く修司を警戒するケルベロス。

 そんな皆々の心境そして言葉を目の当りにし、ミラーガールは拳を……体を震わせた。

 そしてミラーガールは皆に向かって言い放った。

「……なによ…………何よっ!」

 目に涙を大いに溜めて言い放つミラーガールに、聖龍隊の一同は驚く。

 そしてミラーガールは力強い涙に滲む瞳で皆を睨み付ける様に見詰めながら突然吐き出した。

「何よっ、人と違うからって何でみんなは其処まで修司を疑うの!? 何で信じてあげられないの!? 口にはしないだけで本心から私達を慕ってくれている修司をみんなは、なんで信用してくれないのよ……!」

『…………』「……アッコ……」

 悲痛な思いを全て吐き出す様に声を荒げて言い放つミラーガールの一句一言に悲痛な心意に陥る面々そしてバーンズ。

 そして次の瞬間、ミラーガールは皆に対して吐き出し続けた。

「大題、違うのは修司だけじゃないじゃん……! 私はもちろん、此処に居るみんなだってそれは同じじゃない!」

『!』「あ、アッコ……! おい」

 突然のミラーガールの言葉に愕然と成る一同にバーンズ。

 そしてバーンズがミラーガールの肩に手を乗せ声を掛けようとすると、ミラーガールは肩に乗せて来たバーンズの腕を払い除け、そのまま眼前の一同に吐き続けた。

「私達だって修司同様、周りの人達と違うじゃない。それなのに何でみんなは修司の事だけをそんなに非難するの……!」

『…………』ミラーガールの発言に対し黙り込んでしまう一同。

 ミラーガールは涙で滲む瞳で皆を見詰めながら語り続ける。

「私達だって充分、普通の人とは違うじゃない。英雄やヒロインに変身して戦えるなんて、もはや普通とは呼べないじゃない。それなのに……」

『…………』

 無言と化す皆に彼女は更に名前を上げてそれぞれに問い掛けて云った。

「私だって口にはしたくないけど……セーラー戦士は前世からの宿命で戦わなくては成らなくなって、もう普通の女の子には戻れないじゃないですか!」

『……』

「ハニーさんに聖羅さんだって、装置の種子から生まれ出た人工生命体で人間では無かったとはいえ、今ではこうして私達と一緒に居られているじゃないですか!」

『ッ……!』

「さくらちゃんだって、ある日突然魔法が使え初めて、もはや普通とは言えなくなっちゃっているじゃない」

「……!」

「りりかちゃんも同じよ。ナースエンジェルに変身して多くの命を救える力を得られたけど、それは所詮普通の人とは違っている事を差しているじゃない」

「っ……」

「イサミちゃんにトシ君ソウシ君だって、先祖が遺した道具で変身できる事ができるでしょ? それは何の事情も知らない人達から見たら充分怪しく思われてしまう事なのよ」

『…………』

「コレクターズのお姉さん達だって、自分がそんな偏見の眼差しで周りから見られていたら辛いでしょ。今みんなが修司に向けている視線はそれなんですよ!」

『…………」

「魔法騎士(マジックナイト)の三人だって解っている筈ですよ。魔法と言う強大な力には必ず危険が伴い、それ故に周囲から危険視されてしまう事を……!」

『…………』

「ちせさんだってそう……兵器に改造されて、周りから怖がられてしまって、誰よりも周囲から偏見の眼差しを浴びて人一倍苦しんだでしょ……! それなのに……」

「……」

「アプリちゃん……あなたはこの世界に来た頃、周りから耳の形や目の色が違うからって怖がられたり異質に見られてたじゃない。今アプリちゃんが修司に向けている視線や思想は、その時アプリちゃんを偏見していた人達と同じなのよ……ッ!」

「……ッ!」

「バーンズやジュニアだって、私達と同じように変身する事ができるから解る筈よ」

『…………』

「特にバーンズ、あなたの種族である超獣族は容姿だけでなく特殊能力や高度な文明が災いして理解してくれなかった人間達に滅ぼされたの忘れたの!? 良い、超獣族が滅ぼされてしまったのは人間と理解を深められなかったからなの。それなのに貴方は今まで、そう聖龍隊の誰よりも修司と付き合いが長いのに、その修司の事を信用できないの!?」

「……」

 思わず黙り込んでしまうバーンズに、ミラーガールは険しい潤んだ瞳で睨む様にバーンズを見詰めて彼に語った。

「超獣族と人間。互いに相手を理解していれば、それこそ超獣族も滅びる事も無かったし上手くいけば今でも超獣族の文明は現存していたかもしれないわ。それと同様に、私達だって少しでも修司の良い所や悪い所を受け入れて上げなきゃ……! それが本当の意味での、人と人との関係の在り方なんじゃないの……?」

 ミラーガールに言われ続けた聖龍隊の一同全員は、言葉を返す事も出来ずに俯いて黙り込んでしまう。

 そしてミラーガールは涙目の悲しい面持ちで更に語った。

「私ね……以前、ミラーガールの変身を解除している所を親友に見られてしまった事が有るの……」

「え……ッ?」

 突然語り出したミラーガールの言葉に驚く一同。

 ミラーガールはそれでも平然と悲痛な面持ちで語り続けた。

「友達はね、突然ヒロインであるミラーガールが私に、元の加賀美あつこの姿に成った事に凄く驚いた。でも、それだけじゃない。私はその親友が放った一言に遂カッとなって、思わず手を上げてしまった」

 悲痛ながらも淡々と語るミラーガールの話に様々な表情で身を入れて聴く一同。

 そんな一同にミラーガールは語り続ける。

「そして親友に手を上げた事に気付いた私は、どうにかその親友と和解しようと話し掛けようとした。……だけど、声を掛けようとその親友の手を掴んだ瞬間、その親友は私の手を激しく払い除けたわ」

『…………』

 話を聞いて悲愴な面持ちでミラーガールを見詰める一同に、ミラーガールは悲痛で涙で潤んだ瞳を放ちながら語った。

「その時の親友の目を、私は今でも忘れない……。まるで、そう……異質なモノを見る目……人では無い異常な存在として私を睨み、そして汚れたモノに触れられたかの様に私の手を振り払ったわ……」

 ミラーガールの話を聞いて愕然と成り表情を固めてしまう一同。

 

 そしてミラーガールは涙を浮かべた悲痛な表情で皆に呟いた。

「……みんな、勝手すぎる……」

 そう呟いたミラーガールは悲痛な面持ちのまま部屋を出て行った。

 残された一同は皆、暗然とした心情で俯いたまま、誰も何も言葉を口から発する事は無かった。

 

 変身すると云う事は、最早普通の人では無い異質な存在。

 そんな芸当ができる自分達が、同じ異質な存在と感じられてしまう修司に偏見と軽蔑の眼差しを向けるのは間違っている。

 例え同じ存在でも違う存在でも、共に解り合い全てを受け入れて生きていく。

 鏡の聖女はそう皆に説き、一人暗く悲しい心境のまま駆け出してしまった。

 その場に残された面々は、彼女の悲愴な言葉の数々を、どう受け止めたのだろうか。

 

 

 

 

[孤高の少年]

 

 皆が修司に対して抱く不審不安を、何とか改めさせようと懸命に自らの解釈を説いたミラーガール。

 しかし皆が修司に対して抱いてしまった蟠りの感情は簡単に改めさせる事が困難であり、憤りを感じたミラーガールは皆の前から立ち去り、一人施設内を暗然と歩いていた。

 

 一人、目から微かな涙を流しながら暗鬱な表情で俯きながらミラーガールが歩いていると、何処からともなく激しい金属音が彼女の耳に入って来た。

「……この音」

 涙目の顔を上げたミラーガールが施設内部に響き渡る金属音に気が付く。

 そして音の出所を辿って行くと、其処は聖龍隊の訓練場であった。

 ミラーガールは激しい金属音が聞こえてくる訓練場の扉の前で立ち尽くし、扉を見詰めながら思い呟いた。

「この音……そうだ、刀による金属の……。修司が、中に居るのかな……?」

 訓練場から響いてくる金属音が刀によるものであると感じたミラーガールは、修司が訓練場で日本刀を用いて鍛錬を行っていると思い察した。

 戸籍も、出生記録も存在していない――つまりこの世に存在している証が無い少年・小田原修司。

 ミラーガール自身が好意を抱いている、いつも一人で居る事を好んでいる修司が、訓練場で一人黙々と鍛錬で刀を振るっている。

 そう思ったミラーガールは一人複雑な心境であった。

 しかし彼女は目に溜まっていた涙を拭い取り、弱々しかった表情を力強い顔立ちに一変させて、訓練場に入ろうと意を決した。

 

 電動式の両扉が開き、ミラーガールが訓練場に足を踏み入れると、其処では修司が単身日本刀で黙々と鍛錬を行っていた。

「ッ……修司……!」訓練場に入り、鍛錬をしていた修司を一目見たミラーガールは驚き言葉を失った。

 其処に居た修司は、黒い絹製の和服、腰周りには黄色い帯を巻き付け、その帯には通常より重い鍛練用の赤い日本刀を下げて、何処か物思いしている様な表情で刀に手を掛けていた。

「……………………」

 一人、刀に手を掛け鍛錬を続ける修司を見て、ミラーガールはその容姿から醸し出される気高くも何処か寂しそうな雰囲気に感じ入るのと同時に思わず無言で見惚れてしまった。

 だが修司はミラーガールに気付かず、自分の周囲に点在している複数の藁を巻かれた自分と等身大の標的に、修司は意識を集中させて刀に手を掛ける。

 そして次の瞬間、刀を鞘から抜き取り周囲に在る標的を次々に一瞬の内に斬って行く。

 斬られた等身大の的は物の見事に真っ二つに切断され、しかも藁の中には頑丈な鉄骨が巻かれていたのだが、修司はその鉄骨までも一刀両断してしまう。

「…………!」

 そんな修司の一刀による一瞬の芸当に言葉を失くして驚くミラーガール。

 と、その時「ッ」「っ……!」修司がミラーガールの存在に気付いた。

 ミラーガールも自分に気付いた修司に感付いて戸惑う。

「……アッコか。どうしたんだ」

 ミラーガールに気付いた修司が声を掛けると、ミラーガールは悲愴に満ちた険しい面持ちで修司を見詰めた。

 修司の方は、再び視線を若干ズラしてミラーガールの方を見詰めていた。

「どうしたんだ。そんな顔しやがって」

 修司はそんなミラーガールの顔を指摘した。

「……し、修司」

 ミラーガールは顔を下に俯かせながら、若干上目使いで修司を見ながら返事する。

「…………」

 いつもと様子が違うミラーガールに、修司は彼女を無言で見続ける。

 そんな息が詰まるほどの空気の中、意を決してミラーガールの方から修司に話を持ち掛けた。

「ね、ねぇ……修司」「……なんだアッコ」

 戸惑いながらも話しかけてくるミラーガールに対し修司は無愛想な面持ちで返事する。

「あ、あの……少し話が有るんだけど、良いかな?」

「……ああ、まあ良いぞ」

 愛想の無い表情で返事する修司は、そのままの恰好でミラーガールと訓練場の端に設置されているベンチで腰を下ろして会話を始めた。

 

「…………あ、あのさ、修司」「……ん」

 ベンチに座りながら話し掛けるミラーガールに対し、修司はミラーガールに横顔を向けたまま前方を見入る様に向いていた。

 そんな修司にミラーガールは変わらず話し掛け続ける。

「し、修司、あのさ」「……」

 困惑の心境の中、無言の修司に話し掛けるミラーガール。

 そして彼女は、どうにかして修司に少しでも自分の事を打ち明けてくれる様、彼に話し出した。

「し、修司はさ。アニメタウンに来る前は、何していたの……?」

「……何で今それを訊く」「えッ。そ、それは……」

 無愛想な顔で訊き返されたミラーガールは動揺した。そして修司は再び思い詰めた様な表情で前を向いたまま黙り込んでしまう。

「…………」

 修司に掛ける言葉が中々見つからず心の中に憂悶の心情が溜まって行くミラーガール。

 そして彼女は勇気を出して再度修司に話し掛けた。

「し……修司」「なんだ」

 相も変わらず無愛想で返事する修司、だがミラーガールはそんな修司に臆する事無く語り始めた。

「し、修司はさ……聖龍隊のみんなと一緒に、この世界を護る為に戦うのよね」

「……」

 だが修司は口を閉ざしたまま黙り込むものの、それでもミラーガールは修司に語り続けた。

「確かにさ、異次元からやって来る大軍勢には普通の戦力である軍隊じゃ歯が立たないのは解るわよ。だけど、本当にみんなに戦わせる積りなの?」

「…………」

「ほら、イサミちゃん達は使用する武器が特別なだけで後は普通の子供だし、他のみんなだって下手をすれば命の危険に晒されるのよ。……ま、まぁ、それは私や修司も同じだけど……」

「…………」

「わ、私さ……みんなの意志を否定しちゃうかもしれないけど……みんなには為るべく戦って欲しくないの」

「…………」

 このミラーガールの言葉に対し修司は何かを感じ入ったのか、修司の福耳が微かに動いた。

 そしてミラーガールは心痛な面持ちで無言状態の修司に語り続けるのだった。

「…………」

「ほら、みんなはそれぞれ違う発端だったけど、好き好んで戦ったりしてきた訳じゃないじゃん。セーラームーン達はいきなり星の戦士として戦いの道を歩む事になっちゃったり、キューティーハニーは例え自分が人間で無かったとはいえ凶悪な犯罪組織と戦う事に成ってしまった……。さくらちゃんは、たまたま家にクロウカードを封印していた本を偶然の間違いで開放してしまった事が切っ掛けでキャプターに成らざるを得なかった。りりかちゃんはナースエンジェルとして地球の命を護る為にブロス率いるダークジョーカーと戦わざるを得なかった。イサミちゃん達は、自分達の町を護る為に、そしてイサミちゃんのお父さんや家庭の安らぎを取り戻す為に新撰組に成って黒天狗党と戦い続けていた……みんな最初は戦う事に乗気では無かった筈でしょ? 誰もが心の底から戦いを望んでいた訳じゃ無かった。違う修司」

「………………」

 ミラーガールの話を無言で聴き続ける修司は神妙な面持ちであったが口を噤んだまま言葉を返そうとはしなかった。

 そんな中、ミラーガールは話を続ける。

「新メンバーの人達だってそうよ。以前ボスコワールドで出逢った魔法騎士(マジックナイト)のお姉さん達だって争い事が嫌いな優しい人達なのよ。コレクターズのお姉さん達は、今の今まで電脳世界以外の現実世界では戦った事も無いのにいきなり世界の為に一緒に戦えって言われて凄く困惑しているわ。其処は私はもちろん、他のみんなだって同じでしょ。……それ以上に、あのちせさんにも戦わせるのは、正直言って彼女に不憫過ぎるわ」

「……」

「ちせさんは無理やり改造されて戦場に駆り出されたんだし、せめて戦いの場からは遠ざけて欲しいのよ。無論、彼女を保護した状態でね」

 ミラーガールの話に黙々と身を入れて聴く修司は全く微動だにせず、ただ険しい顔付きで前を見据えていた。

 だがその時、不意に修司はミラーガールに突然話し出した。

「……だがなアッコ。例えちせを始め聖龍隊の者たちが戦わなければ、世界を護り切る事は成し得ない。何よりあいつ等は皆、不思議な能力(ちから)を身に付けている。そんな輩が世間体を気にせず出歩ける様にする為にも、聖龍隊が一丸となって異次元からの脅威と立ち向かい、そして世界から認められなければ成らない。……これは避けては通れない道筋なんだ」

「………………」

 力強くも誇り高く、そして雄大な精神が伝わって来る修司の言葉に、ミラーガールは衝撃を受けつつ言葉を失った。

 そして修司は真剣な眼差しで前を向いたまま、ミラーガールに横顔を向けたまま話言った。

「……だが、もしも聖龍隊の皆が争う事を嫌うのであれば、俺も無理には戦わせたくない」

「し、修司……」

 修司の言葉に微かな喜びを感じるミラーガールであったが、修司は続け様にミラーガールに語った。

「何より、戦う気の無い連中を戦場に投じれば余計に戦況が悪化すると俺は思う。戦う意思無き者が戦場に居るなんて、それこそ非常識だからな」

「…………」

 修司のこの発言にミラーガールは再び悲しげな表情を浮かべて沈黙してしまう。

 そんな沈黙してしまうミラーガールに対し、修司は表情を変えずに語り続ける。

「……アッコ、お前はどうしたい?」「……えっ」

 突然訊ねられ不意を突かれたミラーガールに、修司は立て続けに問い質した。

「お前は今回の戦いに対して不満か? ……確かに。平和を愛するみんなに戦えと云うのが可笑しい話だ、それは認識しているよ」

「……」

「だけどな。俺はみんなが、聖龍隊が確実に世界から存在を認められる……そんな組織にして行きたいんだ」

「…………」

「……俺は前世の事は殆ど解らないが、セーラー戦士達だって自身のその強力な能力で時には危険視されてしまっていたのかもしれない。無論、それは聖龍隊のどの隊士でも同じ事だと思う。故にそんな皆が周りから迫害されてしまう事だけはどうしても阻止したいと自負している」

「……!」

 修司の思想を聞いて愕然と成るミラーガール。

 すると修司はフッと立ち上がると、ミラーガールに言った。

「だけどなアッコ。もし皆が戦いたくないのであれば、俺はそれで良いと思っている」

「え……!?」

 驚くミラーガールに修司は話した。

「俺はただ、みんなに前を向いて真っ直ぐに生きていて欲しいんだ。その為ならどんな事でもやり遂げるし、逆にどんな非道な行いにも心身を染めようとも決意している」

「……」

「だからこそ、戦意無き者には穏やかな世を、戦意有る者はそんな穏やかな世を過して行く者等を護る為に全身全霊を持って戦い抜く――俺は自らが定めたこの信条の元、戦い抜こうと心に決めた。……まぁ、俺には戦うぐらいしか才が無いのだから当り前だがな」

「…………」修司の台詞に心を揺さぶられるミラーガール。

 そして修司は最後にミラーガールにこう告げた。

「アッコ、もしお前も戦いたくないのであればそれで良い。人を愛し、人を信じられるお前達が争う事を望まないのであれば、俺はそれを尊重したい……命を賭けて戦うのは、戦うしか能の無い俺だけで良い」

「ッ!」

 力強く険しくも、何処か悲しい儚さを感じさせる面差しの修司が放った言葉に愕然と成るミラーガール。

 思わず呆然と成るミラーガールに、修司は神妙な横顔を彼女に見せつけながら言った。

「お前達の様な、心の美しい者達を未来に生かしそして遺す事こそ、この俺の譲れない思いだ」

「……!!」修司の一言にミラーガールは衝撃を受け言葉を失う。

 そして修司は立ち上がり、そのまま訓練場から立ち去った。

「…………………………」

 修司の強く気高き言動に圧倒されてしまい、ミラーガールは修司に訊きたかった事を述べる事無く話が終わってしまい、そして一人残された訓練場で、只々呆然とするしかできなかった。

「…………修司」

 不敵に怪しくも何処かしらに気高きオーラを人知れず放つ修司、そして彼の瞳から感じられる雄大な心いや野心に圧倒しつつも魅入られ、神妙な面立ちで立ち尽くすばかりであった。

 

 ミラーガールは少しばかり困惑してしまっていた。

 素性の不明な修司ではあったが、彼の言葉や挙動から感じられる強い意志と人を魅了する不思議な野心に、聖龍隊の皆の言う通り確かに違和感を感じていながらも同時にその野心から感じる魅力に惹かれ、そして彼の一句一言から伝わる意思の強さに敬意の念を心の底から湧き上がらせていた。

 

 底の見えない測り知る事が困難な闇の心、そして決して折れない名刀の如き力強い意志、更に戦いを好まない者を護ろうとする微弱ながらも優しさが感じられる信念。

 魔鏡聖女は小田原修司から感じた三つの精神的特徴に心を激しく揺さぶられ、そして改めて魅了されてしまったのだった。

 

 

 

[英雄達の心情]

 

 一方その頃、ミラーガールに問い告げられた聖龍隊の面々は、それぞれ各部屋で時を過ごしていた。

 誰もが小田原修司への不信感や不安、そしてミラーガールの心情に対し、未だに心の内を整理し切れていなかった。

 

「…………」「…………」

「……ハァ~~、どうしようホントに」

 同室の仲間達が沈黙している中、思いっきし溜息を付いて呟く月野うさぎ。

 そんなうさぎの溜息と呟きを聞いて水野亜美が口を開く。

「そうよね……彼の事もまだ何にも解らないし、何よりこんな気持ちでは戦いに身を入れられないわ」

 亜美に続き木野まことも表情を曇らせて言った。

「アッコちゃんの気持ちも少しは解るけど……やっぱり、修司君の得体の知れない部分に不安を感じちゃうわ」

 セーラー戦士の誰もが不安の胸中に心を沈ませていた。

 だが、その時。

「だけど……修司君は今まで、本当に私達の為にしか行動していなかったわよね」

 火野レイが唐突に話し出すと、続いて冥王せつなも神妙な面持ちで語った。

「そうでしたわ。彼は時として自分の命を投げ出して、自ら危険に晒されながらも私達を護ってくれた事も一度や二度じゃありませんわ」

 だがそんな二人の言い分に地場衛が強く言い返した。

「だ、だけど……! あいつがそうやって俺達を護って来たのも、全ては俺達自身を欺くための策かもしれな」

「まもちゃん止めてッ! 修司さんの事悪く言わないで上げて……!」

 突然衛の発言を制止する声に、衛は唖然とした。

「ち……ちびうさ……」「ちびうさ……」

 ちびうさの突然の発言に驚く衛とうさぎ、そして同室に居たセーラー戦士達。

 驚く一同に対し、ちびうさは必死さが伝わる顔付きで皆に言った。

「まもちゃんもうさぎも……それにみんなも、修司さんの事を信じてあげようよ」

「ちびうさ……」「リトル・レディー……」

 ちびうさの発言に複雑そうな表情を浮かべるうさぎと冥王せつな。

 そしてそのままちびうさは皆に語り始める。

「……確かに、みんなの言う通り修司さんは何処か謎めいているし、とても怖い一面が有るのは解るよ。だけどアッコさんだって言っていたじゃない! 修司さんは口にしないだけで心の底から私達の事を思ってくれているって」

「…………」「そ、そうだけど……」

 ちびうさの発言に対し困惑するばかりの火野レイに愛野美奈子。

 更にちびうさは悲痛な面持ちで皆に言い放った。

「わ、私思うの。修司さんはただ人一倍、他人に自分の思いを伝える事が不器用な人なんじゃないかって。……私、前々からそう感じていたし、何よりアッコさんの話からもそれが伝わってきた」

『…………』

「修司さんの事はまだ解らない事だらけで、みんなが不安に感じてしまうのは仕方ないと思うよ。でも今は……今は私達セーラー戦士だけでなく聖龍隊のみんなと協力してこの世界を、この時代を護らなきゃいけないんだよ!」

 戸惑い黙然としてしまう皆にちびうさは必死に問い質した。今は立ち止まっている時で無く、皆で一丸となって世界を、現在(いま)を護り切らなければ成らない事態であるのだと。

 未来から来た少女ちびうさだからこその心に来る熱弁であった。

 そしてセーラー戦士達はちびうさに言われて思い返していた。

 今まで小田原修司が自分達に対して如何に身を粉にして努めて来てくれていたかを。

 かつて、まだ戦士が五人しか揃っていない時、五人の戦士達ムーン・マーキュリー・マーズ・ジュピター・そしてヴィーナスが味わった史上最大の危機。五体の妖魔DDガールズとの死闘の最中、傷付き倒れて行く自分達を阻まれていたバリアーで近づく事も出来無い為に助ける事すら出来ないで居る修司こと聖龍使いが悔しさの余り真赤な鬼の面から大粒の涙を流し、拳から血が滲み出るまで幾度となくバリアーを破壊しようと四苦八苦していた過去を。

 ちびうさが敵の術中に嵌りブラックレディと成り果て自分達セーラー戦士はもちろん聖龍隊の面々と対峙してしまった時には、身を挺してちびうさを説き伏せ、セーラームーンやミラーガールそして聖龍隊の総力を挙げてちびうさを必死に制止した過去を。

 破滅の力を司るサターンこと土萠ほたるを巡って、ちびうさ達内部系と外部系の二組が度々衝突してしまった際には、ミラーガールこと加賀美あつこと修司が双方の間に入り、双方の話を聞いた上で皆の仲を取り持ってくれた過去。

 そして通称カリスマ組と呼ばれるセーラーウラヌスとネプチューンの天王はるかと海王みちるの二人も、かつての事柄を思い起こしていた。

 戦士としての宿命を優先し、時には衝突し合っていた当時のセーラー戦士達と聖龍使い率いる聖龍隊。しかしそんな自分達にも憐れみや慰みを掛けてくれるセーラームーンやミラーガールの心温まる優しさ、そして対峙した際には力尽くでも自分達を止めようと容赦なく刀を振るってきた聖龍使い。しかし戦いが終わればミラーガールは、聖龍使いは自分達に手を差し伸べて共に歩む道を自分達に示してくれた。

 セーラー戦士達は皆、小田原修司こと聖龍使いと加賀美あつこことミラーガールの今までの行いや言動の一つ一つを思い返し、再び黙然となった。

 

 

 更に別室でも。

「……ねぇ、私思ったんだけど」

「……ん」「何? 姉さん」

 重い空気が漂う一室で、沈黙を破って如月ハニーが早見青児と葉月聖羅に話し始めた。

「アッコちゃんが言っていた事だけど……確かに、私と聖羅は人間では無かった。それでも修司君は青児さんや他の聖龍隊のみんなと同様に私達姉妹を快く受け入れてくれた……だけど、私達はそんな彼を拒絶し否定してしまった……」

「だ、だけどよハニー。衛やみんなが言っている通り、確かに修司の実態は謎が多すぎる……! 戸籍も無いし、何より異次元から来襲してくる怪物共が世間に出現した頃と同時期に街にやって来たのが余計怪しいぜ」

 ハニーの語りに反論する青児に、ハニーは悲愴な面持ちで話し返した。

「そ、そうだけど……青児さん、彼を、修司君をもう少し信じてみる事はできない?」

「なッ……!?」突然のハニーの一言に驚愕する青児。

 更にハニーは妹の聖羅にも声を掛けた。

「聖羅……貴女も、もう修司君の事は信じてあげられない?」

「えッ。そ、それは……」

 訊ねられた聖羅は困惑し、言葉を返せなかった。

 そしてハニーは悲痛な微笑みで二人に話し始めた。

「修司君は確かに普通の男の子とは違っているわ。聖龍隊と言う組織を自分から結成したのに余り相手と関わりを持とうとはせず、対人的な情緒に関心を示さなかったわ。……でも彼は、どんな存在であろうと容姿や風貌で区別せず、その人の内面で価値観を見出したりしているじゃない。バーンズの様な人外の子はもちろん、人工生命体である私達を受け入れてくれた彼を、私達は素性が解らないだけで差別してしまっている……! 私達を……人で無かった私達を、彼はその後も変わらず何気なく接してくれた。……こんな嬉しい事は無いのに、私達は……ッ!」

『…………』

 悲痛な表情に一変するハニーを目にして、青児と聖羅は居た堪れない心境に感じ入った。

 人で無い自分達を受け入れ共に戦い生きてくれていた少年 小田原修司。

 その近寄りがたい雰囲気を常に醸し出している反面、相手が何者であろうとその真情で全てを見極めて価値観を測る事が出来得る広い視野を持つ彼を疑ってしまう事に対し、物凄く申し訳なく思う愛の戦士キューティーハニー。

 そんなハニー同様、改めて修司に対しての考えを改め始める早見青児と葉月聖羅。

 

 

 そんな複雑な状況は、他の面々も同じであった。

「……ねぇ、みんな」「なんやねん、さくら」

「どうした?」「…………」

 心痛な面立ちで同室の皆に話し掛ける木之本桜。彼女の呼びかけに反応を示すケルベロスに李・小狼に苺鈴。

 さくらは悲しげに話し始めた。

「ねぇみんな。さっきの……そう、アッコさんの話……」

 するとこのさくらの言葉を聞いた苺鈴がしかめっ面で言い返した。

「ああ、さっきの……。まぁ、アッコさんは修司さんに気が有るからあんなに感情的に成っちゃったんだろうけどさ。でも、だからってあんなに言わなくても良いわよね。修司が普通で無いのなら自分達だって普通じゃないって……。そりゃぁまあ、確かに私達はもちろん今ではさくらだって魔法が使えるから普通とは呼べなくなっちゃっているけど。それでも、出生記録も存在していない修司さんと一緒にされるなんて心外だわ」

 苺鈴の話を悲痛な面差しで聞き入れるさくら。

 すると彼女は悲痛な眼差しで苺鈴はもちろん、その場に居る小狼やケルベロスにも自分の語り明かした。

「だ、だけど苺鈴ちゃん、それに小狼くんにケロちゃんも聞いて。私はアッコさんの気持ちも少しは理解できるの」

 さくらの話に真剣な顔付きで彼女に視線を向ける二人と一匹。

 さくらは眼前の友らに語り告げた。

「修司さんは確かに周りの人達とは少しばかり違う。時おり会話が噛み合わなくて、お互いに困っちゃう事も多々有るし……自分の興味と云うか、趣味とか楽しみも余り打ち明けてもくれない。……でも、修司さんには他にも沢山良い所が有るじゃない。凄く几帳面で良く私達の些細な言動にも敏感に気付いてくれて、何か可笑しな所が有ればスグに声を掛けてくれて困っている問題を一緒に解決してくれたり。な、何より戦いでは途方も無い決断力で私達を指揮して導いてくれたり、修司さんが居なかったらきっと大変な事にも成っちゃっていたかもしれないんだよっ」

『…………』

 さくらの話を聞いて険しい顔付きで黙り込んでしまう一同。

 そんな皆にさくらは話し続けた。

「アッコさんも言っていたじゃない。人の良い所も悪い所も、全て受け入れて一緒に仲良く過して行く。それが本当の対人関係……ううん、本当の意味での友情じゃないのかな」

『…………』

 さくらの話を聞き終わった皆は表情を一変させ、空虚な面立ちで呆然としてしまった。

 人の短所長所全てを受け入れて、打開しながら過す。これが本当の意味での人と人との繋がりであると、さくらはミラーガールが自分達に伝えた思想を再度自分の口から自身の友に改めて伝えた。

 

 

 そしてナースエンジェルこと森谷りりか達の部屋でも他のメンバーと同じような事が起こっていた。

「ねぇ星夜、デューイ」

「なんだよりりか」「……?」

 森谷りりかの呼び掛けに反応する宇崎星夜とデューイ、二人にりりかは神妙な面持ちで言った。

「私達、本当にこれで良かったのかしら……?」

「よ、良かったって」「……」

 りりかの発言に対し困惑の表情を見せる星夜と無言のデューイ。

 森谷りりかはそんな二人に続けて語った。

「確かに修司さんに対しては不明な点が目立つけど、けど今はそれを指摘し合って立ち止まっている場合じゃないでしょ? 実際に異次元からの脅威で多くの人達が傷付き倒れているのが現状なのよ」

『…………』

「今は私達が……いいえ、聖龍隊のみんなが疑いの余り立ち止まっている場合じゃない。それこそ本当に、今まで以上に一丸となって立ち向かわないと世界中の人達が死んでしまうわ!」

「り、りりか……」「…………」

 りりかの話を聞いて悲愴な想いに駆られ始める星夜とデューイ。

 そしてりりかは真剣な眼差しで二人に語った。

「私達は聖龍隊のみんなと協力した事によってブロスを……ダークジョーカーを倒す事ができた。そして私の命の中に封印されていた命の花も、アッコさんの聖なる力で命の花だけが解放された御蔭で私は今でもこうして星夜やデューイ達と笑い合う事ができる。……だから今度も星夜にデューイ、そして聖龍隊のみんなと手に手を取って協力しながら世界中の人々の命を護りたい! 折角ダークジョーカーを倒せたのに、命の花も無事に蘇らせて世界中の命を救えたと云うのに、それがすべてダメに成ってしまう! お願い、星夜、デューイ。修司さんの事を疑ってしまう気持ちは解るけど、今はそれを堪えて。世界中の命を護る為にも、また聖龍隊のみんなと協力して頑張りましょッ」

『…………」

 りりかに言われた二人は考え込んでしまう。

 

 

 しんせん組の三人、花丘イサミ、月影トシ、雪見ソウシ等が滞在している部屋では。

 重く心苦しい空気の中、イサミは椅子に腰を下ろしテーブルに置かれていた一冊のノートに悲愴な面持ちで目を通していた。

 そのノートは、修司によって瞬殺されたミナモト長官によって破かれた聖龍隊の記録を綴ったノートであった。

 破かれた背表紙の部分はテープで補修され、紙面はミナモトによって足踏みされたりした為に皺くちゃの汚れ塗れに成っていたが、イサミは一心不乱にノートを読み返していた。

 聖龍隊結成時から自分達の事に目を光らせていた修司、古い価値観には決して縛られず合理的主義と先を見通す事ができる秀でた先見性を備えた修司、どんな事態に陥っても決して諦めず仲間や力の弱い人々を死守しようと躍起になる修司、しかし自分が命の危険に晒されても構わないのに対し仲間が自身の命を危険に晒すと異常なまでに叱咤する修司。イサミはそんな修司の様々な一面を、自分が書き綴ったノートを読み返して思い起こしていた。

 今まで自分達の為に様々な施しをしてくれた修司……アニメタウンの市長として、聖龍隊の総長として、二つの立場から自分達に力を貸してくれた修司の今までの言動を思い返して、イサミは修司の取って来た行動が全て嘘偽りとは到底思えないと確信した。

 

 

 一方、新メンバーの電脳戦士コレクターズの三人は。

「……春菜ちゃん、愛ちゃん」

 突然黙り込んでいた春日結が、自分と同じく沈黙していた如月春菜と篠崎愛に話し掛ける。

 春菜と愛が心痛な面持ちで結に顔を向けると、結は悲痛な面持ちで二人に語り始めた。

「私達、このままで良いのかな? そ、そりゃ、確かに修司君が本当は凄く恐いほど気難しい男の子で、しかも戸籍も何も存在していない子だって事は不安でしか無いよ。……だ、だけど本当に、このままで良いのかな私達……」

「結ちゃん……」「結……」結の話を聞いて悲しい顔を浮かべる春菜と愛。

 そんな中、結は春菜と愛に語り続けた。

「し、修司君の正体は確かに謎のままだよ。だけどジッとしているだけじゃ、何も始まらないよ! 春菜ちゃんも愛ちゃんも色々と思う所は有るだろうけど、今は考えるより先ず行動しようッ! 迷ってばかりじゃ答えなんて見つからないよ」

「結ちゃん、貴女……!」「結……!」

 春日結の力強くも真剣で必死な真情が伝わる問い掛けに、如月春菜と篠崎愛は心を揺さぶられた。

 

 

 魔法騎士(マジックナイト)の獅堂光(しどうひかる)龍咲海(りゅうざきうみ)鳳凰寺風(ほうおうじふう)の三人は。

「……私達、彼の事を疑ってしまっているけど……ホントに良かったのかな……?」

「ホントですわ……私達にも御声を掛けてくれた修司さんを、私達は一方的に疑ってしまって……」

「……ボスコワールドでもそうだったけど、あの子は本当に根の優しい良い子なんだって私は感じたんだ。……海ちゃん、風ちゃん」

 暗鬱とした表情で語り合う海と風と光。

 そして光が唐突に海と風に告げた。

「ねえ! 海ちゃん、風ちゃん!」

「……光?」「光さん……」光の咄嗟の発言に驚く二人。

 そんな二人に光は神妙な表情で語り始めた。

「私、アッコちゃんの言う通りだと思う。確かに修司君って周りと少し違う所が有るけど、だからってそれで非難しちゃ修司君に凄く悪い気がするよ」

「光……」「光さん」

 唖然とする二人に光は力強く語り続ける。

「彼と……修司君と過していた時期は、まだ短いけどさ。でも、彼が本当に弱い人達を思いやれる優しい男の子だって、海ちゃんも風ちゃんも解っているでしょ」

『………………』

「私ね、アッコちゃんの言った台詞にすっごく共感しているんだっ。周りの人と少し違っていようとも、それがその人の持っている輝きで、その人の個性なんじゃないのかな。私はそう思える」

『…………』

 光の話に呆然と驚きの余り表情が固まってしまう海と風。

 

 

 そして聖龍隊の一同との話を終えて、ちせの待機用の一室で二人一緒に考え更けてしまっているちせとシュウジの二人は。

「…………」

「……やっぱり、あのガキは只モンじゃ無かったんだよ。今じゃ日本政府だけでなく、国連までも味方側に惹き込んで……遂には平然とあのミナモト長官と副長官の二人もあっさりと斬り殺しやがって……! しかもミナモト長官の場合は冷酷にも筋弛緩剤で安楽死させやがって……何より、二人の死因は戦場で死んだ戦死だと国に言って捏造しやがるとは……恐ろしいガキだぜ」

 先ほどの場で聖龍隊の面々と一緒に見た監視カメラの映像、そして聖龍隊から聞いた小田原修司の敵を平然と斬り捨てられる精神思想を見聞きしたシュウジが修司への不満不信を呟く中、ちせは一人座り込みながら黙然としていた。

「やっぱり……所詮は聖龍隊も、俺達が居た自衛隊と同じ……いや、それ以上に恐ろしい所だ。あんな素性も不明な上に、平然と人を斬り殺せちまうガキが司令塔をしているなんて異常にも程が有る……! どうする……」

 シュウジは素性も不明でしかも平然と人を殺められる修司が司令塔を務めている聖龍隊が、自分の恋人であるちせを所有物として扱い更には自身を蔑にしていた自衛隊以上に危険な組織だと感じてしまい、どうにか聖龍隊から抜け出す策を考えていた。

 するとその時、そんな考え込むシュウジに突然黙り込んでいたちせが話し掛ける。

「……ね、ねぇ……シュウちゃん……」

「ん? なんだちせ」

 シュウジが訪ねると、ちせは気欝な面持ちでシュウジに言った。

「あ、あのさ、私…………その……」

「? ……」

 鬱然と暗く語ろうとするちせにシュウジが耳を傾けていると、ちせは暗い面持ちを一瞬で力強い眼差しに一変させてシュウジに言った。

「私……聖龍隊のみんなと、協力したいの……!」

「な……ッ!」

 ちせの言葉に一瞬自分の耳を疑ってしまうシュウジ。

「な、何を言っているんだちせ! 聖龍隊の様な得体の知れない連中と協力したいなんて……! いや、それ以前に聖龍隊に居ると云う事は連中以上に得体の知れない、正体も不明で冷酷な小田原修司の下で戦うと云う事なんだぞ!」

「…………」

「解っているのかッ? そもそもお前は戦う必要は無いんだ。ただ自衛隊に適合者として強引に体を改造されて無理やり戦場で戦わされていたお前が戦う必要なんて……無いんだよ……!」

 語りの終わりを悲痛な様子で締めくくるシュウジ。するとそんな心痛な面持ちのシュウジにちせが優しく話し返した。

「……シュウちゃん、ありがとう」「え……?」

 突然ちせから礼を言われ驚くシュウジ、ちせはそのまま話し続ける。

「ありがとう、こんな身体になってしまった私を……人を殺すしかできなくなってしまった私を、ずっと気に掛けてくれて」

「…………」

 穏やかな笑みで感謝を告げるちせの言葉に、シュウジは不意を衝かれたかのように唖然としてしまい言葉を失ってしまった。

 そんな穏やかな笑みを浮かべながら、ちせはシュウジに力強くも優しく語り続ける。

「だけど、私はもう大丈夫。私、まだ少し戸惑っているんだけど、やっぱり聖龍隊のみんなと協力していきたいって思い始めてるの」

「ち、ちせ……」ちせの言葉に困惑するシュウジ。

 そしてちせは、まるで安心してと言わんばかりの穏やかで満面の笑みをシュウジに向けて告げた。

「私、あのアッコちゃんだけでなく多くの聖龍隊の人達に勇気付けられて励まされ続けてきた。そして修司君からは殺めるのではなく護る為にその力を使えと、私に戦争で使われる兵器以外の運命(みち)を開かせてくれた。……こんな身体、こんな大勢の命を奪い続けて来てしまった兵器と成ってしまった私に、小田原修司は、そしてアッコちゃん達聖龍隊のみんなは優しく接してくれた。私は……私は、兵器以外の存在として、聖龍隊のみんなの力に成りたいの……!」

「…………」

 ちせの力強い言葉の数々に、シュウジは言葉を失くして愕然とした。

 更にちせは穏やかな笑みをシュウジに向けながら温厚に話した。

「それにね、前にアッコちゃんが言っていたのよ。確かに修司君は人付合いも口数も少ないから、良く周りから誤解されやすい子なんだって。……だけど、それだけで彼の本質を勝手に決めたくは無いし、何より修司君にはもっと自分を変えて欲しい為にも、変わらない付き合いをしていきたいって、アッコちゃんが話してくれたの。私も、修司君の前に、その修司君を心から信じてあげているアッコちゃんの言葉を信じてみたいの……!」

 この言葉を聞いたシュウジは完全に言葉を失い呆然としてしまった。

 

 

 

 所変わって、此処は聖龍隊別働隊の待機室。

 部屋には先ほどの会話を目の当りにして思わず考え更けてしまっている別働隊の特別指揮官ウェルズと、同じく別働隊員の高木はるかと芹沢ルリ子等が気難しい面構えで座り込んでいた。

「……どういう事なんだろう。あの修司君が存在している証明が、この世の何処にも無いなんて……」

「そうですよね……余り思いたくは無いですけど、やはり他の皆さんの仰っている通り、なんだか不気味ですわ」

「………………」

 気欝な心情で語り合うはるかとルリ子に対し、ウェルズは一人胡座を掻き両腕を組んでひたすら考え込んでいた。

 すると突然、ウェルズが組んでいた腕を解いて自分の太ももを景気よくパンッと叩くと言い放った。

「よしッ、考えるのはもう止めだ! 答えなんて見つからねえのに考えてたって、それこそ時間の無駄だぜ」

 迷いが晴れた様な爽快な表情を見せるウェルズに動揺するはるかとルリ子の二人が思わず反応する。

「どッ、どうしたの? 急に晴々とした顔を浮かべて……」

「ウェルズさん……!?」

 すると声を掛けて来た二人にウェルズは実に気持ちの良い顔で話し返した。

「何を言ってやがるんだいお二人さん。確かに修司に付いては何の答えも見出せないでいるが、それと俺達がやらなきゃいけねえ事と何の関係が有るって云うんだ」

『ッ……!』ウェルズの言葉に思わず躊躇う二人。

 そんな躊躇する二人にウェルズは続けて言った。

「修司が何処の誰で、何者なんかなんて後からまた調べたりすれば良いだけじゃねえか。今俺達がすべき事はただ一つ、みんなで協力してこの世界を護らなきゃいけない事なんじゃないのか?」

『…………』

 言葉を完全に失う二人に、ウェルズは平然と告げた。

「とにかくだッ。今は考えるんじゃ無く行動する事の方が大事って事だ。修司は修司、俺達は俺達。例え修司の正体が何であろうと、俺達が取るべき行動に変わりは無いだろ?」

 話の終わりにウィンクを二人に投げて語り終わるウェルズの話に、はるかとルリ子は唖然としつつも心の底から納得した。

 

 

 そしてとある一室では。

 神妙かつ気難しそうな面持ちで三人一緒にテーブルを囲み着席しているバーンズ/ジュニア/そしてアプリコットがウッズに問い掛け続けていた。

「……父さん、いい加減教えてよ。義兄さんは……小田原修司って人間は、一体何者なんだい?」

「…………」

 父であるウッズに訊ねるジュニアであるが、当のウッズは何も返そうとはせず、ただただ無言で3つのティーカップに紅茶を注いでいた。

「おいウッズ教えてくれよ。修司は一体何処の誰で何者なんだ? お前は今の今まで修司と共に生活したり仕事の補佐に就いていたんだから何かしらの事は知っているんだろッ?」

「…………」

 バーンズに問われ続けても尚、ウッズは表情や態度を変える事無く三人に飲ませる紅茶の用意に着手していた。

「ウッズさん、修司さんは一体何者なんです? 私だって修司さんの事を疑いたくは無いですが……でも、やはり気に成って……」

 不安に満ちた表情で訪ねるアプリコット。

 するとウッズは淹れ終わった紅茶を三人の前に差し入れると同時に三人に問うた。

「皆さんはどうしたいんですか?」「……え?」

 ウッズの問い掛けに戸惑うバーンズにジュニア、アプリコット。

 そしてウッズはそのまま穏やかな表情で三人に話し始めた。

「……確かに修司様は普通のお人ではありません。でも、だからこそ皆さんと馴染める事ができたと私は思います」

「!?」

 驚き動揺するバーンズ。するとウッズはそのまま三人に言った。

「申しては何ですが、同じ様に普通では無い皆さん自身もまた、修司様に対し理解が出来そして修司様に理解して貰える存在でないでしょうか」

『…………』ウッズの台詞に返す言葉が無い三人。

 そして最後にウッズは温厚な笑みを浮かべて三人に言った。

「それにそんな問題、今まで幾多の戦いや試練を乗り越えてきた皆さんにとっては大した問題では無いでしょ。今は何より、自分達がどの様な行動を取るべきか……あなた達なら正しい決断が下せると、私は信じていますよ」

 そう言い残してウッズは部屋を出て行った。

 ウッズが部屋を出ていき、残された三人はウッズが淹れてくれた紅茶を神妙な面持ちでジッと見詰め思い更けていた。

 

 

 小田原修司への疑心不審、それと同時に頭の中を駆け巡る小田原修司への思想とミラーガールの悲痛な叫び、そして涙を溜める鏡の如き美しい瞳。

 

 英雄達は考え、そして思い続ける。

 時折見せる修司の奇抜な言動・挙動、そして戦いの中で見せる苛烈な戦ぶりとカリスマ性に、聖龍隊の面々は不思議な魅力を感じてもいた。

 敵に対しては容赦なく斬り捨て、仲間に対しては厳しいながらも適切な発言を述べる修司。

 戦いの中で一際目を引く異様なまでの精神力そして集中力、更に眼前の敵に対しても刃の先を向けて鋭い眼光を飛ばす聖龍使いとしての修司。

 聖龍使いの修司は決して敵に背を向ける事無く挑み続け、その背は仲間を護る為の盾としか使う事は無い。

 いや、その背には仲間の命と思いを全て背負っていると感じられる威圧感が常に漂っていた。

 しかし時には、その現実的な思想から発せられる古い価値観に縛られない合理主義によって厳しくも切ない決断を下すのだが、それは同時に困難を乗り切る為の最善の策でもあった為、聖龍隊の皆は何も反論できずに納得させられた事も一度や二度では無かった

 聖龍隊の誰もが抱いていた小田原修司への不信感とは裏腹に、そんな小田原修司に惹かれていた。

 

 自分達はこれからどうするべきか。素性の不明な小田原修司に対し、どう接し対処して行けば良いのか。

 皆々真剣に思い続け、そして考えた。

 聖龍隊と云う、他には類を見ない存在が背負う多くの想い、そして責務。

 

 英雄達は決断した。

 

 

 

 

[黒き者からの言伝]

 

 その頃、修司はと言うと。

「……………………」

 一人、アニメタウンの都市部、その一角に在るビルの屋上で町を見下ろしつつ眺めていた。

「…………」

 気欝な表情を浮かべてる修司のその顔には、何処かしら空虚な寂しさや悲しみも感じられた。

 と、その時。町を眺めている修司の背後から声が修司に掛けられた。

「どうしたんだ? 今度はどんな風に周りが崩壊するか考えていたのカ」

「!!」

 自分に掛けられる声に驚愕する修司。

 慌てて振り返ると、其処には全身黒いローブに身を纏い、手首の部分には金色の鎖の飾りを身に付けている人物が立っていた。

 修司は自分と同じ背丈のそのローブに気付くと、眼光を鋭くさせてローブを睨み付けた。

「お、お前は……ッ!!」

 黒ローブを見た修司は異様なまでに驚愕する。

 するとローブは怪しい嘲笑をしつつ修司に言葉を吐いた。

「ヒャッヒャッヒャ、お前はも~~う気付いているんだろう? 聖龍隊の連中は既にお前の事に気付き始めている。みんなみんな、お前に対しての不信感で心を一杯にしてる」

「…………」

 高々と嘲笑を上げながら暴言を吐き続ける黒ローブに対し、修司は厳つい顔付きで黒ローブを睨みつける。

 そんな睨みつけて来る修司に対し、黒ローブは悪言を修司に言い続ける。

「そもそもよぉ~~、お前の様な他人の愛情や信頼を感じられないバケモノに、他人を纏める事が……人様を護れる事なんかできる訳がねえだろうが」

 黒ローブの悪言暴言に対し、修司は表情を変える事無く、厳つい険しい顔付きで眼前の黒ローブに睨み続ける。

 しかし黒ローブの方は態度を変える事無く不敵な口調で修司に問い続ける。

「もういい加減やめようぜ。どんなに頑張ったとしても報われないのが、お前と云う心を感じられない異形のバケモノの性なんだよ。もうこんな茶番は終わりにして楽になれよ、そう過去(かつて)の自分の様に生に執着する事無く……よ」

「…………ッ」

 黒ローブの言葉に修司は表情を微かに変化させた。

 そして黒ローブは一歩一歩、修司に歩み寄りながら更に吐き掛ける。

「……もう無理なんだよ。物を、人を……そして関係までも破壊してしまうお前なんかに人との繋がりなんて、幸せなんて得られる訳がねえんだよ……!」

「…………」

「お前は一生……そう、どんなに努力しようと、どんなに励もうと誰からも認められる事無く、たった一人で絶望の中を生き続けるか、絶望を終わらせる為にチッポケな勇気を振り絞って生を絶つか……そんな人生しか歩めねえんだよ」

「……」

「誰からも認められず、誰からも必要とされず、誰からも理解されない存在……それがお前だ、小田原修司」

「……ッ」

 下唇を噛み締めて己の体を震わせる修司に、黒ローブは容赦なく吐き捨てる。

 そして黒ローブは遂に修司の前まで歩み寄り、その真っ黒なローブのフードで隠している顔を修司の顔に接近させて、間近で修司に言った。

「……もう楽になって良いんだよ。無駄に夢とか希望とか得ようと考えるな。所詮、お前みたいなバケモノには手に入れられる筈が無いんだよ。……ほら、良く考えてみろ。今の今までお前をまともに見てくれていた奴等が居たか? 笑う事ができず、何を考えているか解らないと云うだけで周りから不気味で関わりたくも無いバケモノ扱い。……今では聖龍隊の連中ですら、お前の事実に気付いて異形な存在として感じ始めている」

「…………!」

 顔から大量の汗を掻き、動揺の色を濃くして行く修司。

 そして最後に黒ローブは修司に告げた。

「……虚無の夢や希望を手に入れようとはせず、昔の様に現実的に自分の夢や希望を諦めてしまえよ。どうせバケモノであるお前には、どう足掻いたって夢が叶う訳は無いし幸せと云う希望すら手に入れる事は出来ないんだからよ。……そもそも、アイツ等は元から存在自体が虚構の存在なんだ。そんな奴等を死に物狂いで護って行ったって、誰もお前を評価してくれる人間は現れない。……誰からも評価されず認められず、お前は周りから完全に隔離されていき、孤独な人生しか歩む事が出来ない。自分の望む未来など夢のまた夢、幻なんだよ……」

 黒ローブの一言一言に動揺と煩悶の感情を露わにして行く修司は、思わず自分の背後に在った屋上に設置されていた鉄製の手摺りに寄り掛かった。

 と、修司が手摺に寄り掛かった瞬間。修司の寄り掛かる腕を掴む何かに、修司は気付いた。

「!」

 驚いた修司が自分の腕を掴む者を確認する為振り向くと、修司は更に驚愕した。

「な……ッ、なにッ?」

 修司が振り向くと、手摺の向こう側に修司の腕を掴み引っ張ろうとしている目の前の黒ローブと全く同じ姿の黒ローブ達が何人も修司の腕を掴み引っ張ろうと力を入れていた。

 彼等は高層ビルの屋上で在るにも拘らず空中で停止し、手摺を越えて修司を引っ張ろうと更に力を入れる。

「ぐ……ッ」腕を引かれる修司は抗った。

 と、そんな修司に目の前の黒ローブは言葉を投げる。

「ヘッヘッヘ、もう諦めろよ。……疲れただろ? もう充分だ、手に入らない夢や理想を追う必要なんて無意味だ無価値だ。未来(さき)への希望など掴み取れる訳が無いんだ……」

 そして。

「……もう、終わりにしようぜ」

 眼前の黒ローブがそう告げた瞬間、手摺の向こう側で修司の腕を引っ張る複数の黒ローブ達は一気に力を入れて、修司をビルの屋上から引き摺り出した。

「!!」

 ビルの屋上から引き摺り出され、真っ逆さまに高層ビルから落下して行く修司。

 しかしこの時、修司は心の中で人知れず思い更けていた。

(……ああ、もう俺の人生もこれで終わりか。……もう無理に自分を偽って生きる意味も無く成るんだな。……もう疲れた……楽に成りたい…………そうだ、これが俺の望みだったんだな……命が消えてくれる、そんな永久(とわ)の安らぎを、俺は欲していたんだっけ……)

 意識が薄れていく中、修司はもう抗う事は無く、成すがままに地上に落下して行った。

 

 

 と、その時だった。

(……修司……修司……)

 落下して行く修司の耳に、自分の名を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。

(これは……ああ、なんだ……ただの幻聴か)

 再び修司は思考を無にして落ちて行く。

 すると「……修司……修司……」再び修司の耳に声が届いた。それも、今度はハッキリと聞こえたのであった。

「……え……?」

 自分の名を呼ぶ声が幻聴で無い事に気付いた修司は、そっと閉じていた目蓋を開いてみた。

 目蓋を開けた修司の目に入ったのは、何やら青白い、それも背中には不思議な青く淡く光り輝く翼を広げた人影が視界に入って来たのだ。

「あれは……」

 薄れゆく意識の中、修司はその人影に視点を合わせて行く。

 そして、青白い人影に視点が合い、修司はハッキリとその人影を視界に捉えた。そして同時に驚いた。

 何故なら。

「……修司ーーッ!」「ッ……あ、アッコ……!」

 落下する修司の目に入って来た自分の名を呼ぶ声の正体は、青白いコスチュームに背中に淡い青白い光を放つ翼を生やして滑空しながら此方の方に向かってくるミラーガールこと加賀美あつこの姿であった。

「アッコ、お前……!」

 驚く修司、しかしそんな修司に更に驚く事態が起きる。

「修司ーーッ」「総長ーーっ」「修司さーーッん」

 四方から聞こえてくる様々な声、修司は落下しながら周囲を見渡してみた。

「こ……これって……!?」

 修司の目に入って来たのは、地を駆け、空を飛び、と様々な手法で、落下して行く自分に一直線に駆け付けて来る聖龍隊の面々であった。

「お……お前等……!」

 修司は自分の目を疑った。黒ローブから、既に自分の詳細の不明さを知って、自分の事を怪しく思ってしまっている筈の仲間達が脇目も反らずに自分の方へと駆け寄って来ていた。

 すると、駆け寄って来る仲間達の一人、空から高速で飛来してくるバーンズこと銀色の疾風(かぜ)メタルバードが落下して行く修司に向かって大声で叫ぶ。

「修司! まさかテメエ、こんな所で全部終わらせようとは思っちゃいねえだろうなッ!」

「……!」

 修司が驚いていると、そのメタルバードの後を付いて来るように、ジュニアことジュピターキッドが背中に虹色の羽を生やして飛行するアプリコットことウォーターフェアリーの腕を掴んで飛来してくるのが目に入った。

「あ、アプリ……大丈夫かい? 僕を掴んだまま飛行して……重くない?」

「平気よ、これぐらい……い、今は一刻も早く修司さんの元に……!」

 フェアリーに気を使うキッドであったが、一方のフェアリーは地面に落ちて行く修司に駆け付ける事で頭が一杯であった。

「…………」

 メタルバードにキッド・フェアリー達の言葉に唖然としていると、三人に続いて他の聖龍隊の面々も修司に呼び掛ける。

「わーーッ、修司君が危なーーい!」「い、急いで何とかしないと……!」

「このままじゃ、コンクリの地面に直撃だわ」「間に合って……!」

 ビルの屋上から落下して行く修司を見て、心配の余り慌てて混乱する月野うさぎことセーラームーンを始めとするセーラー戦士達。

「修司君、今行くから……!」

 懸命に走り続け、地上から何とか修司が落下してしまう前まで駆け付けようと必死になる如月ハニーことキューティーハニー。

「修司さん! 何とかするから諦めないでーー」

 カードの魔力で背中に羽を生やして空から飛来する木之本桜(きのもとさくら)。

「修司さん、今助けるからーーッ」

 ピンクと白の衣を纏い、必死に走行し修司の方に駆け付ける森谷りりかことナースエンジェル。

「修司さーーんッ」

「クソッ、このままじゃ間に合わねえぞ……!」

「何とかしないと、地面に落ちちゃう……!」

 必死に駆け付けようとも、このままでは修司が落下するまで時が間に合わない事を悟り困惑してしまう花丘イサミに月影トシ、雪見ソウシの新撰組三人。

「だ、ダメ……! これでは、とてもじゃないけど間に合いません……」

「諦めちゃダメよ春菜!」

「そうだよ……! せっかく犬養博士と花丘さんが作ってくれたこのコレクトスーツで頑張れるだけ頑張らないと、博士達にも修司君にも申し訳ないよ!」

 犬養博士と花丘魁によって作り出された現実空間用のコレクトスーツで空から滑空して向かうコレクターズの三人。しかし慣れてない現実空間用のスーツによるジェット飛行の為、中々思った通りに速さを出せないでいる如月春菜(きさらぎはるな)が悲愴な面持ちで困惑していると、そんな春菜に喝を入れる篠崎愛(しのざきあい)と、力強くも優しく励ましを掛ける春日結(かすがゆい)。

「修司くーーッん! 今行くからねーーッ!!」

「絶対助ける……いえ! 絶対、間に合わせてみせるからッ」

「どうか諦めないで……! 必ず間に合わせてみせますから」

 それぞれ赤・青・緑の鎧を身に纏い、大声で修司に呼び掛ける獅堂光(しどうひかる)そして絶対に間に合わせてみせると言い切る龍咲海(りゅうざきうみ)必死ながらも懸命な表情で修司に呼び掛ける鳳凰寺風(ほうおうじふう)の魔法騎士(マジックナイト)の三人。

「…………っ」

 そして最後に、一人だけ無言で誰よりも必死かつ懸命な表情で滑空し修司に駆け付ける最終兵器のちせ。

「み、みんな……」

 修司が唖然としているその時、更に修司の目に彼が信じられなかったモノが入って来た。

「間に合えクソーーッ!」

「もっとスピード出せないの、このジープ!」

「これじゃ全然間に合わないわよッ」

 ジープに大人数で乗り込み運転するウェルズに、もっと早く走行する様に言い寄る李・苺鈴(リ・メイリン)、そして焦りの表情を浮かべる葉月聖羅(はづきせいら)ことミスティーハニー。

 更に、その三人以外にもジープには他の面々が乗り込んでいた。

「くそっ、まさか黒ローブの野郎が既に修司の所に出向いていたとは……!」

「し、しかも修司さんを突き落としたのか?」

「ま、間に合ってくれ……!」

「黒ローブめ、一体何が目的なんだ……!」

 車内にて必死な面構えで語り合う早見青児(はやみせいじ)に宇崎星夜(うざきせいや)、そして李・小狼(リ・シャオラン)にデューイ。

「あ、あれが黒ローブ……!? みんなが言っているけど、一体何者なんだ? 宙に浮いているって事は、やはり聖龍隊の連中と同じ能力者かなんかか……?」

「考えたって仕方が無いわシュウジ君。今は一時でも早く彼の……もう一人の修司君の所に駆けつけないと……!」

 同じく車内にて、初めて肉眼で捉えた黒ローブに驚きを感じるシュウジ、そしてそのシュウジに言葉を掛けるハイレグレオタード姿の高木はるか。

「修司殿! 今行きますぞッ。お待ち下さいませーーッ!」

 そしてジープから身を乗り出して、癖なのか古風な口調で修司に呼び掛ける甲冑姿に天狗の面を装着している状態の芹沢ルリ子。

 修司の目には、既に自分を見限ったと思い込んでいた仲間達が、地面に真っ逆さまに落下する自分に向かって一直線に猛進してくる姿がしっかりと入ってきた。

「み、みんな……!!」

 駆け付ける仲間の姿を見て、修司の胸中には何かとても熱いモノが湧き上がって来た。

 それが感動なのか、喜びなのか、修司には全く解らなかったが、彼の意識の中に途轍もない意思が湧き上がった。

 

 そして修司は思った。

(……俺にはまだ、やらなければいけない事が…………有るんだ!)

 落下する修司と地面との距離が後僅かの最中、修司は懐に手を突っ込み中を弄った。

(例え……例え、過ちであろうと……! 俺は、俺の信念に沿って生き続け、そして……戦うのみ!)

 沈下していた自身の強い意志を再び湧き上がらせ、修司は先ほどとは打って変わった厳つい表情の顔に懐から取り出したモノを装着した。

 漆黒の黒(やみ)の如き瞳に、修司は無の境地から湧いてくる様な強く誇り高き意思を浮かび上がらせ、そして唱えた。

 

 

 

 

[開戦(はじまり)]

 

「武装」

 次の瞬間、修司の体が遂にコンクリートの地面に落下し激突してしまった。

「あ……ッ!!」「そ、そんな……!」

 コンクリートに落下した修司を見て悲観的な思想に駆られ愕然と成るメタルバードにジュピターキッド、そして他の聖龍隊の面々。

 そして聖龍隊の面々と同様、真っ逆さまにコンクリートに直撃落下したであろう修司を見て、衝撃を隠せないミラーガールは顔を真っ蒼にして叫んだ。

「っ……し……修司ィーーッ!」

 コンクリートの地面に落下した修司を目の当りにして、聖龍隊の誰もが修司の安否に対して絶望視していた。

 すると、落下の衝撃で舞い上がる砂煙の中から一つの人影が浮かび上がる。

「……え……」

 現れた人影を見て、ミラーガールを始め全ての聖龍隊の面々が驚き、その人影に注目する。

 砂煙が次第に晴れて行く中、影はゆっくりと立ち上がり、直立不動の堂々とした身構えで巻き上がる砂煙の中からその姿を完全に現した。

 完全にその人影の姿を己の目で確認したミラーガールは、その鏡の如き美しき瞳を輝かせて叫んだ。

「あ……あぁ……っ……修司!!」

 舞い上がっていた砂煙が治まり、その中から姿を現したのは他の誰でもない、紛れも無い聖龍使いに姿を変えた小田原修司だった。

 

 小田原修司、いや聖龍使いは闘志に満ちた鋭い眼光をその漆黒の瞳から放ちながら威風堂々と身構えていた。

「あ、あれが……!」

「せ、聖龍使い……」

「修司君の、彼が変身した、姿……」

 姿を変えた修司の聖龍使いとしての容姿を初めて肉眼で見たコレクターズの三人は衝撃を受けた。

「あれが、聖龍使い……!」「……」

 そしてコレクターズ同様、初めて聖龍使いを見たシュウジとちせの二人も愕然としていた。

 そんな聖龍使いが鋭い眼光を放っていると、彼の周囲に聖龍隊の面々が集まって来た。

「しゅ、いや聖龍使い、大丈夫か!」

「聖龍使い怪我は……!?」

 聖龍使いの元に駆け付けたタキシード仮面とセーラーウラヌスが声を掛けると、聖龍使いは返事をせず無言で二人を見つめ返した。

「聖龍使い!」「良かった、動ける様ね」「……うむ」

 続いて声を掛けるキューティーハニーとセーラーマーキュリーに、聖龍使いは小さく頷いた。

「修司さん……!」「御身体、大丈夫ですか?」

「うむ、大事ない。……気遣い、感謝する」

 心配して声を掛けて来るさくらとナースエンジェルに、聖龍使いは返事と共に礼の言葉も返した。

「ひゅ~~、良かったぁ。地面に激突した時は、どうなるかと思ったぜ」

「肝が冷えましたよ。……まぁ、変身が間に合ってくれてホントに良かったです」

「寿命が縮まりましたよ、もぅ……でも、ご無事で何よりです」

 聖龍使いこと修司の無事を心から安堵し、一気に体の力が抜けてしまうトシとソウシに、修司の無事を喜ぶイサミ。

「す、凄い……これが、現実の英雄(ヒーロー)の変身……!」

「聖龍使いの変身シーンは初めて見るけど、まさか一瞬で変身できちゃうなんて……!」

「うわぁ……や、やっぱり、その鬼の面を生で見ると、結構怖いですね……」

 以前より聖龍隊の面々の変身シーンを見て来たが改めて驚かされる篠崎愛。聖龍使いの変身にも他の英雄同様に驚きつつ感動してしまう春日結。そして聖龍使いの鬼の面を直で見て、改めてその面から発せられる威圧感に若干の恐怖を感じてしまう如月春菜。

「うわぁ! 久々に見られたよ、修司君が聖龍使いに成る瞬間」

「お面を被るだけで変身するなんて、シンプルだけど効率が一番良さそうね」

「何はともあれ、ご無事で何よりでしたわ」

 久方ぶりに修司の変身シーンを目の当りにして歓喜する獅堂光、お面を被るだけで変身を成せる修司に称賛の言葉を掛ける龍咲海、そして修司の無事に安堵の微笑みを浮かべる鳳凰寺風。

「怪我……無いみたい、ですね。良かった……」

 そして聖龍使いの側に降り立ち、安心の表情を静かに浮かべて安堵するちせ。

 皆が聖龍使いに変身した修司の無事を確認したその時、メタルバードやキッドにフェアリー達が聖龍使いに話し掛けた。

「タク……ッ、心配掛けさせやがって……」

「でも、無事で何よりだよホント」

「で、でも……あんな高層ビルから落ちて、本当に大丈夫ですか……?」

 気に成るフェアリーが声を掛けると、聖龍使いは力強い眼光をフェアリーに向けて返した。

「うむ、大丈夫じゃ。何ともない」

 すると今度は、皆に遅れてミラーガールが聖龍使いに駆け寄り、彼に言葉を掛けた。

「修司……!」

 駆け寄るミラーガールに、聖龍使いは静かに言葉を告げた。

「ミラーガール……」

 聖龍使いが言葉を返すと、ミラーガールはその鏡の様に輝く瞳に涙を浮かべて聖龍使いに言った。

「……良かった……! 無事で、良かった……!」

「………………」

 涙目で言葉を呟くミラーガールの言動を目の当りにして、聖龍使いは無言で彼女と向き合っていた。

 そんなミラーガールの様子と言動に、それを見ていた周囲の聖龍隊の面々も、自然と表情を穏やかに緩ませた。

 更に続いて、今度はウェルズ率いる聖龍別働隊の面々がジープに乗車して、ようやく駆けつけて来た。

「お、おい……! 大丈夫かァッ!?」

 目を丸くして慌てて駆け付けるウェルズ。

「だ、大丈夫なのッ? 修司君は……」

「ミスティー、大丈夫よ。間一髪の所で聖龍使いに変身していたから修司君は無事よ」

「そ、そうか……。ふぅ、焦っちまったぜ」

 ウェルズと同じく急いで駆け付け修司の安否を気に掛けるミスティーハニーに姉のキューティーハニーが答えると、ミスティー達と共に駆け付けて来た早見青児が安堵の表情を浮かべる。

「修司さん!」「大丈夫!? ビルから真っ逆さまに落ちたけど……!」

 ジープから飛び出す様に降りる李・小狼と李・苺鈴は、真っ先に聖龍使いの所に駆け寄って行った。

「ど、ど……どういう事だァッ? 黒ローブが一人じゃないぞ!」

「まさか、黒ローブの奴が他にも居たなんて……!」

 空中に浮いている数人の黒ローブを見上げて確認し驚愕する宇崎星夜に動揺するデューイ。

「あれが噂に聞いた……! でも、あんなに居た訳? 黒ローブって……」

「一人、二人…………十一人も……! 何奴なのじゃ、あの者等は?」

 真上から自分達を見下ろしている黒いローブ達を見て驚愕するピンク色のハイレグレオタードのくノ一衣装を纏う高木はるかに、十一人も居る黒ローブに警戒する鎧姿の芹沢ルリ子。

「や、奴等は……いったい……!?」

 初めて目の当たりにする黒ローブ達に只ならぬ心情に浸るシュウジは、空中に停止して自分達を見下ろしている黒ローブ達を無言で見据えていた。

 

 聖龍隊を見下ろす黒ローブ達、そして黒ローブ達に見下ろされる聖龍隊はお互いに無言で見詰め合っていた。

 すると聖龍隊の一人、メタルバードが黒ローブ達を見上げながら云った。

「確か……全員かどうかは解らねえが、あのローブの一人は闇人って名乗っていたな」

 メタルバードに続きジュピターキッドも自分等を見下ろす黒ローブ達を見上げ返しながら言う。

「うん、でも他の黒ローブ達は何だろうか……油断ならないね」

 皆が上空で佇む黒ローブ達を見ていると

「……チッ、まぁ良い。それじゃ、おっぱじめるか」

 ローブの一人、最初に修司の前に姿を現した一人が軽く舌打ちをすると右腕を高々と上げて見せ、そして一気に上げた腕を下ろしてみせる。

 するとその時、突如通信が入った。

「おっ、どうしたウッズ!」

 メタルバードが通信機に話し掛けると、通信機の向こうからウッズが答え返した。

「皆さん! 先ほど反応が有った場所では何か起きていましたか?」

 慌てる口振りでウッズが訊ねるとメタルバードが答えた。

「ああウッズ、お前の指摘通り来てみたら修司の所に黒フード共が現れていやがったぜ。オマケに奴等、修司の奴を高層ビルの屋上から突き落として亡き者にしようとしていやがったぜ」

「え! し、修司様は無事なんですかッ?」

 メタルバードの答えに驚くウッズが訊き返すと、メタルバードは真顔で答えた。

「ああ大丈夫だ。修司は地面に激突する寸前、聖龍使いに変身できたから身体に大事は無い」

「そうですか、良かった…………皆さんも、ご自身の意志で向かってくれて何よりです」

 ウッズは心から安堵した。実は都市部で謎の反応が出現したとウッズから聞いて、聖龍隊の面々はそれぞれの意志で修司の所に駆け付けていたのだった。

「それよりもウッズ、何か遭ったのか?」

 通信して来たウッズにメタルバードが訊ねると、ウッズは慌てた口調で通信機を通して現場に居る聖龍隊の面々に告げた。

「あ、そうです! 皆さん気を付けて下さい、皆様方の周辺に次元の歪みが生じています」

「歪み??」

 通信を聞いて戸惑うメタルバードに現場の面々。

 と、その時だった。「来ます!」ウッズが突然叫んだ。

 すると聖龍隊の周囲に、突如黒い渦の様なものが空中に出現した。

「こ、これは……!?」

 突如目の前に出現し始める幾つもの黒い渦に皆が驚いていると、黒い渦から鋭く黒いゴツゴツとした皮膚観が見て取れる三本爪の巨大な手が、黒い渦の縁を掴みつつ、渦から出ようとゆっくりその全貌を現にする。

 聖龍隊の面々が見据える中、黒い渦からその巨大な三本爪が唸り声を上げながらその全貌を現した。

「ウオオォォォォ……」

 それは巨体に翼を生やした黒いドラゴンであった。

「キャアアァッ!!」「ど、ドラゴンッッ!?」

 巨大な全貌を聖龍隊の皆に見せつけ、金色の瞳で聖龍隊を睨み付ける黒いドラゴンに、セーラームーンとヴィーナスは悲鳴を上げる。

 更に巨大な黒いドラゴンに続き、他の黒い渦からも続々と怪人や妖魔、そして今まで聖龍隊の誰もが見た事も無い様な怪物達が出現して来た。

「こ、これは……!」

 メタルバードが眼前に現れた怪物達に目を奪われていると、通信機から再びウッズが皆に話し掛ける。

「皆さん気を付けて! 先ほどから皆さんの周囲に多くの反応が現れております! これは間違いありません……異次元からの脅威と呼ばれる軍勢です!」

「こ、これが……!」

「な、何てこった。こんなにも多種多様な怪物共が相手なんて……!」

 次々と出現してくる怪物の群れに驚愕するタキシード仮面に顔を蒼褪める早見青児。

 そして怪物達は聖龍隊の周りを取り囲んでいった。

「逃げ場無し……か」「いよいよ、敵さんも本腰を上げてきたようだね」

 囲まれてしまった状況を把握し神妙な面持ちで呟くセーラーマーズに、短刀を構えて戦闘の態勢に入るセーラーウラヌス。

「こ、この怪物達を呼び集めたのは、あの手を上げた黒ローブなのかしら?」

「そうかもしれないわね。あのローブ達の様子を窺っていると、どうもあの黒ローブが彼等に指示を促しているっぽいわ」

 上空で自分達をジッと見下ろしている黒ローブ達を見て険しい顔で語り合うセーラーマーキュリーとネプチューン。

 そんな中、怪物達は続々と集結していき、聖龍隊の周囲を取り囲んでしまうのであった。

 

 と、その時。皆と同様、黒ローブ達に視線を向ける聖龍使いに横に居たメタルバードが不意に話し掛ける。

「おい、修司」「…………む」

 本名で呼ばれた聖龍使いは小さく唸るように返事をする、するとメタルバードはそのまま真剣な顔付きで聖龍使いに話し続ける。

「オレはな、修司……お前に付いて色々と思う所は有るんだよ。それは此処に居るみんなが同じだ」

「…………」

 無言を保つ聖龍使いに、メタルバードは表情を変えずに言った。

「……だがな、今はそれどころじゃねえ。お前の真意や素性については、この戦いが終わったらじっくり話聞かせて貰うから覚えておけよ。先ずは目の前のコイツ等を片付けるのが先決だからな」

「………………」メタルバードの発言に有無も言い返さない聖龍使い。

 するとメタルバードに続いて今度はジュピターキッドが軽く微笑みながら話し掛ける。

「だからササっと終わらせて、みんなでゆっくり話し合おう。それまで僕等はもちろん、義兄さんだって死ぬんじゃないよ」

「…………」

 聖龍使いがキッドに横目を向けていると、今度はミラーガールが優しく聖龍使いに話し掛けて来た。

「修司……私はもちろん、聖龍隊のみんなは本当に修司の事を気にしているのよ。でも、それと同じぐらい、私もみんなも修司を信じている。……だから、この戦い絶対に勝ちましょうねッ。そして戦いが終わったら話しましょう」

 ミラーガールが力強い瞳で聖龍使いに話すと、ミラーガールは続け様に聖龍使いに言った。

「私……もっと修司の事が知りたいの……! だから生きて……生きて、またみんなで話し合おう、修司!」

 この時聖龍使いは、このミラーガールの力強くも慈愛精神に満ちた優しい言葉に内心感化されていた。

 そしてミラーガールは聖龍使いに言葉を掛ける。

「修司……ううん、聖龍隊の総長 聖龍使い。お願い、指示をちょうだい」

 耳に入る信頼の感情が詰まったミラーガールの言葉、そして指示を待つ仲間達の視線を一身に浴びる聖龍使いは、腰に下げている日本刀 聖龍剣を抜刀し構えると、その異様な雰囲気が漂う漆黒の瞳に力強い闘志を溢れさせて皆に言い放った。

「同志諸君………………武運を祈る」

 聖龍使いのこの言葉を、しかりと耳に捉えた聖龍隊のメインメンバー、十一人のセーラー戦士、愛の戦士キューティーハニー、魔法のカードの使い手木之本桜(きのもとさくら)、白衣の天使ナースエンジェル、幕末の英雄の意思を継ぐ花丘イサミ/月影トシ/雪見ソウシの新撰組三人、電脳空間コムネットから抜擢され新たに創り出された現実空間用のコレクトスーツを着用して戦いに挑むコレクターユイ/コレクターハルナ/コレクターアイの三人のコレクターズ、異世界セフィーロで培ってきた魔法と経験を武器に全ての人々の命運を背負って覚悟を決める獅堂光(しどうひかる)/龍咲海(りゅうざきうみ)/鳳凰寺風(ほうおうじふう)の魔法騎士(マジックナイト)達、そして目の前で自分達を睨み付ける異次元からの脅威と戦う為に身体を改造された最終兵器のちせ。

 メインメンバーに続き、彼等の補佐を役割とするウェルズ・j・プラント率いる早見青児(はやみせいじ)、ミスティーハニー、李・小狼(リ・シャオラン)と李・苺鈴(リ・メイリン)、宇崎星夜(うざきせいや)にデューイ、ハイレグレオタードの派手な忍装束の高木はるかと鎧姿に天狗の面を装着している芹沢ルリ子、そして恋人のちせの負担を少しでも減らしたい想いで配布された機関銃を厳つい顔付きで抱えるシュウジ。

 誰もが目の前に陣取っている幾多の怪物達に自身の武器を身構え、そしてその闘志の矛先を怪物達に向ける。

 

 既に上空にも飛行型のクリーチャーやモンスターが多数飛来している中、聖龍隊の面々はその表情に覚悟の真情を浮かべた。

 そして怪物達の唸り声や雄叫びが響き渡る中、聖龍隊の世界の命運を賭けた戦いが今、始まろうとしていた。

 

「ウギャオオオオオォォォ…………!!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。