そんな彼らの眼前に立ちはだかるかつての強敵達率いる軍勢に対し、修司は単身刀一本のみで歩むのだった。
[斬(ざん)]
異次元から来襲する敵軍勢を指揮している闇人から告げられた驚愕の事実に愕然となる聖龍隊。
自分達は他次元の者等の思想概念から生まれ出た虚構の存在――物語の中だけの存在だと告げられ、聖龍隊の面々は一気に失意の底に堕ちた。
自分達が今まで経験してきた辛く悲しい戦いや宿命・使命そして心の底から感じた喜びすら、その全てが創り出されただけのモノでしか無かった事実が胸中に深く突き刺さる。
しかし戦意を完全に失った聖龍隊を前にしても尚、事実を告げた闇人は容赦なく彼等の前に新たな刺客等を出現させた。
だが、それだけでなく、何と今まで闇人と同様の黒いローブを全身に纏い聖龍隊と激しく衝突していた黒ローブ達が、ローブを脱ぎ捨てその全貌を晒した。
その正体は何と、かつて聖龍隊のメンバーによって倒された事のある敵役・悪役達であったのだ。
DDガールズ、シスタージル、ブロス、イノーバ、黒川良(くろかわりょう)、ダァク、スコーピオン。
正体を明かした異次元からの軍勢の司令塔であった敵達、そして彼等に指示を受けて行動する数多の敵達。
聖龍隊はもちろん彼等に加勢しに来てくれた知人等までもが誰一人、事実を知った悲愴な心境で彼等と対峙し様と云う意思が芽生えずにいるばかりであった。
だがそんな中。一人、装着していた鎧を自ら脱ぎ捨て、聖龍使いこと小田原修司は、黒い和衣に赤い帯の姿を曝け出し、出現した敵勢に足を歩ませる。
突然着用していた鎧を脱ぎ捨て日本刀一本で自分達の前に歩み出る小田原修司の行動に理解できず驚愕する司令塔達は顔色を一変させ、歩み出た修司の後方で暗然と気落ちしてしまう聖龍隊の一同は修司に目を向ける。
修司は後方の仲間であった聖龍隊に何処か悲しく空虚な表情を浮かべる顔を向けて一言告げた。
「これからお前達が見るのは…………お前等が決して成っちゃいけない、存在だ」
そして修司は再び顔を前に向け、群がる敵の軍勢に顔を向けた。
その時、敵側に顔を向けた途端、修司の顔は一変し、目に力が入り顔つきが険しく豹変した。
修司の強く険しい面立ち、そして放たれる険しい眼光による睨みに、眼前の司令塔達は微かに身震いさせた。
そして修司は一本の日本刀 聖龍剣を納めた鞘を左手に持ち、そのままの状態で眼前に群がる敵軍勢に駆け出した。
「…………はっ、な、何をやっている! まずは聖龍使い、小田原修司を片付けろッ!」
修司の一睨みに固まってしまっていたシスタージルが気付き、小田原修司を先に始末するように自分達の前に群がる配下の軍勢に命令を下す。
怪人・妖魔、更には豹の爪(パンサー・クロー)の下っ端達も含んだ軍勢は、一気に一人の少年にその牙を向け襲い掛かった。
「っ…………!」
一人相手に大勢の敵が襲い掛かる瞬間を目の前に、少年に恋する聖女ミラー・ガールは声に成らない悲鳴を出した。しかし彼女は動く事が出来なかった。
自分が虚構の存在であり、家族や親友そして自分を含めた周囲の人々が実在してはいない架空の存在であった事に、深く悲しみ沈痛の心境で遭った為である。
そんな中、多勢の敵達が修司を殺めようと彼目掛けて飛び掛かった、その瞬間。
眩き一筋の閃光が一瞬だけ光り、何時の間にか修司は聖龍剣を左手に握っていた鞘から抜き取っていた。
そして次の瞬間「グワアァッ!」「ギャアッ」修司に襲い掛かろうと彼に飛び掛かった複数の敵達が一瞬でその体を切断され、断末魔を上げながら血を噴き出しては、その場に倒れて逝く。
その光景を目の当たりにしたミラー・ガールを始めとした聖龍隊の面々、そして軍勢に指示を与える立場の司令塔達は愕然とした。
噴き上がる深紅の血により赤く染まる地、そして浴びた血で赤く染まる修司の頬。紅色に染まる大地と少年の顔に誰もが驚愕していると、少年は斬り捨てた敵の血で紅に染まった刀を、眼前の敵勢と司令塔達に突き向ける。
刀を向ける彼の眼は、今まで以上に黒く染まり、まるで星の輝き一つも無い漆黒の夜空の如く、見詰めていると吸い込まれそうな感覚に陥る不思議な瞳。
修司はそんな瞳で司令塔達をしばし見詰め刀の切っ先を向けていたが、次の瞬間、再び駆け出しては自分に襲い掛かる敵を次々に斬り捨てて行った。
少年はただ斬り続ける 身体に塗れる血の温もりも 今はただ、無情に感じ
首、腕、胴体、敵の身体のあらゆる箇所を猛烈に斬り付け、自身も周囲も血色に染めてく
失意と云う名の現実(いま)を断ち切るかの如く、白き斬撃を躊躇い無く振り放ち続け
そんな少年の胸の内には、いつも彼等の姿だけが色濃く そして鮮明に刻まれていた
今はまだ言えない 別れの言葉は、まだ伝えたくはない
地獄の如き戦場(いくさば)の果てに、己の死に場所を 只ひたすら探し求めて
穢れた血を浴び 闇は敵の屍を越え 風の如く駆け舞い走る
斬り散る敵の肉は紅く 朽ち果てるまで艶やかな血潮を噴き出し 辺りを赤く紅く染めていく
息も絶え絶え…… ただ崩れ散る亡骸
骸の瞳が もはや未来を描き映し出す事は無い
虚無と化した 心に響く 嘆きと血飛沫の音階
刀を振るいては、微笑む事無くその力強い瞳で斬るべき敵を捉え続ける 孤独(ひとり)の少年がいた
穢れた現状(いま)に 高く舞い上がる少年は
欠けた心 求め その身 朽ち果てるまで
「………………」『………………』
苛烈に、猛烈に、少年は刃を振り回し、周囲の迫りくる敵を力強く一刀両断し続ける。
体を切り裂かれ、苦悶に満ちた顔で朽ちていく敵の面差し。斬り付けられた敵から噴き出る、辺りを覆い尽くす程の大量の血。
一方の修司は臆する事なく次々に敵を斬り倒しては、敵の体から噴き出る血で顔や身体が赤く染まりつつあった。
そんな修司に斬られ血を噴き出しながら絶命していく敵、敵から噴き出た血で真っ赤に染まる現状、そして敵の返り血を大量に浴びて赤くなっていく修司自身を見て、ミラー・ガールも聖龍隊の面々も自然と顔から血の気が引いていた。
時に敵の攻撃を回避し斬り付けては、時に敵を投げ飛ばし続けて刀を振るって敵の首を斬り落とす修司。
迫りくる女怪人の長髪を左手で掴んでは、右手の刀を逆手に持ち替えてスグに女怪人の首を切断してみせる。
首を落とされた女怪人の切断された面からは大量の血が噴水の如く噴き出し、血に塗れる修司の顔や黒和衣を更に紅く染めていく。
それでも尚、修司は自分に襲いくる敵勢を血に塗れながら斬り進んで行った。
更に修司は、先程切断した女怪人の地面に転がっている生首を蹴り飛ばし、迫りくる敵の顔面に直撃させる。
蹴り飛ばされた生首に直撃した敵は怯んでしまい、修司はその隙を衝いて怯んでしまった怪人に斬りかかる。
迷う事無く、躊躇いを見せる事も無く――迫りくる敵を斬り、血を全身に浴び続ける修司の顔。それは今までの無表情で感情を殆ど見せる事の無かった顔とは根本的に違い、厳つく強張り、恐ろしい程怒りや憎悪が滲み出ている――まさに鬼の様な形相で有った。
『………………』
鬼の様な強面の、実に悍ましい形相で敵を斬り血に染まる修司を目にして、その情景を目の当たりにしている聖龍隊は皆、顔面蒼白の表情で愕然とするばかりであった。
斬られた首・手・足・胴体――それらが辺りを鮮血に染めながら宙を舞う、そんな中を少年は只ひたすら斬り進むのであった。
人の血を さんざめく浴び続ける その血飛沫は、笑えぬ孤独(やみ)に咲く紅の花の如く鮮やかに色づく
嘆きの雨降れど 意思(おのれ)は隱れず夢にぞ現る君が姿を
聖女の瞳に帰(うつ)る 鏡のように 其処には真に欲する未来(じぶん)に逢えると信じ
穢れた闇で斬りかかり 首が 腕が 足が 血(あか)を噴き出し宙に舞う
散斬れた手足は紅い花の如く 舞いながら辺りに赤く咲き乱れ
闇(かれ)を見下ろす空は碧く 安らかなほど灰色である……
サヨナラ かつての己よ 涙は、心は 初めからない
[狂気の闇]
数多の者共の加勢怒声が響き渡っていた現状とは明らかに一変し、辺りには悪寒を感じてしまうほどの怪しい静寂が漂うばかり。
一人、全ての敵勢を斬り続けていた修司は、つい先ほどまで存命していた敵達の死に絶えた無数の屍の中、ただ立ち尽くしていた。
顔や胴体、刀を持つ右手に限りなく滲み付く赤い血水、そして血に染まる頬。修司は全ての敵を斬り終えると、まるで嵐が過ぎ去った後の様に静寂へと一変する。
修司が作り出した眼前の惨劇に身を固める聖龍隊や加勢に来た者等、そして只ならぬ表情で血塗れの修司を見詰める司令塔達。
皆が、全てを斬り終えた修司に目を向けていると、修司は徐に聖龍剣を握っていた右腕を動かした。
『ッ!』
刀を持つ腕を動かしてみせる修司に一驚し警戒の念を向ける司令塔達。
すると、そんな彼らの様子を察したのか、右手を動かした修司が顔を俯かせたまま司令塔達に言葉を告げた。
「……ちょっと待っとくれ」『……!』『…………』
修司の口から発せられる重く険しい言葉に、愕然と身体を硬直させる敵司令塔と聖龍隊の面々。
そんな面々に修司は続けて言った。
「血で……刀が滑り落ちそうなんだ」
そう呟くと修司は先ず、血で赤く染まる聖龍剣の刀柄を左上腕部分の衣で拭い取り、更に血を拭った刀柄を口に咥えると今度は血に濡れる右手を同じく左上腕部分の衣の布で淡々と拭い続けた。
この時、修司が右腕に装着していた、聖なる龍・聖龍がその身を潜めている七つの色取り取りの大粒の数珠にまで敵の返り血が付着していた。
平然と、落ち着いた様子で自身の右手と刀の柄に付着した血を拭い取ると、修司は再び聖龍剣を構えてその切っ先を敵司令塔の面々に向け、同時に彼等に今まで胸の内に抑えていた殺意と憎悪の念を込めた瞳で無言の睨みを利かせる。
『…………ッ!』
その漆黒の瞳から解き放たれる限り無き闇の激情に、司令塔達は感じた事のない恐怖を覚え始める。
そして修司は刀の刃を水平に構えると、眼前の司令塔達に殺気を放つ。
斬られる、そう感じ悟る司令塔達の中から、修司の桁外れの殺気に驚異を覚えたDDガールズの五人組が、一斉に修司に飛び掛かった。
しかし。
一筋の閃光が一瞬見えたその瞬間、修司に飛び掛かったDDガールズは彼が振るった刀で上半身と下半身を一瞬の内に切断されてしまう。
『ッ!』『ッ……!』「……ッ……!」
瞬く間にDDガールズの五人組を斬り捨てた修司の電光石火の早業に驚倒する他の司令塔に聖龍隊、そして先程から顔色を蒼くさせるミラーガール。
一瞬で五人組の司令塔DDガールズを斬り捨てた修司は、今度は彼女達と同じ異次元からの脅威と呼ばれる軍勢の司令塔を務める、ナースエンジェルの天敵ブロスにその悍ましい目を向ける。
「ッ……!」
殺意や憎悪に満ちた漆黒の瞳で睨まれたブロスは、修司から発せられる今までに感じた事のない恐怖を垣間見た。
そんなブロスに、修司は一直線に斬りかかる。
「ッ……」
ブロスは斬り掛かって来る修司に自身のエネルギーを右手から放出して光の球を成形しそれを修司目掛けて投げ付けた。
だが、修司はブロスが作り出した光の球を刀で弾き、軌道を逸らして回避して見せた。
驚くブロス、そして修司は右手持ちから両手持ちに刀を構え直して、力強く刀をブロスに振り付けた。
ブロスは慌てて自身の剣で修司が振るう刀を受け止め攻撃を防ごうと、剣を構えて見せたのだが、何と刀を剣で受け止めた瞬間、修司の腕力と刀を振るう際の遠心力が一気にブロスの剣に衝突し、物の見事にブロスの剣は砕け散ってしまった。
「ッ……!!」
自身の剣が意図も簡単に砕かれた事に、非常に驚くブロス。
そして修司はそのまま刀をブロスの胴体に斬り付けた。
刀がブロスの身体を通過した瞬間、ブロスの身体から一気に血が噴き出した。
「ぐは……ッ」
斬られた箇所の傷口を押さえ、悶絶するブロス。
修司はそんなブロスに容赦なく第二の斬撃を振るった。
振るった刀が放つ閃光は、ブロスの顔を真一文字に切断して彼の命を奪い取る。
「ッ……き、きゃあっ!」
真一文字に顔を斬られ、其処から血を噴水の如く噴き出すブロスの最後を目の当たりにしたナースエンジェルは、夥しい程の出血に思わず悲鳴を上げる。
彼女の悲鳴が辺りに響く中、ブロスを斬った修司は平然と次の狙いを定めた。
次の標的を定め、右手に持つ刀の背を左手の甲に乗せて、その切っ先を次の狙いに向ける修司。
その姿はまるでビリヤードのキューを打つ様な刀の構え方であった。
次なる標的に刀の切っ先を向け、その闘志を相手に向ける事により極限まで己の精神を昂らせるのが、修司が自ら編み出した戦法である。
そんな修司が次に狙いを付けるのは、かつて魔法騎士(マジックナイト)の三人と対峙したイノーバであった。
修司はイノーバに刀の切っ先を向けて、彼に意識を集中させる。
そんな自分に向けて意識を集中させる修司の、鋭くも怪しくそして鈍い眼光を放つ瞳を不思議な情状で見詰めるイノーバ。
ふと彼は修司が自分に攻撃をしてくる前に、修司を片付けてしまおうと彼よりも逸早く動いた。
イノーバは目にも止まらぬ速さで修司の後ろに回り、彼の背後から攻撃しようとした、次の瞬間。
「……ッ」「ッ……!」
攻撃を仕掛けようとするイノーバに、修司は顔を振り向かせてその怪しく殺意に滾る瞳で睨み付けた。イノーバはそんな睨みに激しく動揺し怯んでしまい攻撃の手を止めてしまう。
その瞬間、空を切る様な音がイノーバの耳に聞こえ、それと同時に彼は自分の腹に感じた違和感に気付いた。
ふと腹部に目を向けると、その瞬間イノーバの腹が裂き開き、其処から夥しい量の血が噴き出て来た。
「うわぁ……ッ!」
斬り裂かれた腹部に異常なまでに驚愕するイノーバ。
彼が自身の斬り裂かれた腹部に気を取られているその隙に、修司は一瞬の間に腹部の傷と出血に気を取られているイノーバの首を斬り落とした。
斬られた断面からも腹部と同様に血が一気に噴出し、斬られたイノーバの生首は修司の足元に転がり落ちた。
『…………』『…………』
瞬く間に斬り殺されるイノーバの惨状を目にして、蒼褪める面持ちを更に蒼くしていく魔法騎士の三人にセフィーロから駆け付けて来たクレフ・ランティス・フェリオの三人。
そして修司はイノーバに続き、今度は狙いを黒川良(くろかわりょう)に絞る。
「ひ、ヒぃッ……!」
殺意と憎悪に満ちる修司の睨みに、完全に怯えて腰を抜かす黒川良。
修司はそんな腰を抜かして地べたに座り込む黒川に歩み寄る。
すると修司は怯えた表情で自分を見詰める黒川に対し、徐に言葉を掛けた。
「……哀れだな」「え……?」
修司の一言に只ならぬ動揺を見せる黒川。そんな彼に修司は暗い面立ちを見せつけながら問い掛けた。
「哀れだよな、黒川……自分の意を称え続け、更には自分の死すら気付かずにコムネットの中で暗躍し続けて……。己の死すら気付けず、更には自分自身が反してた意思あるツクリモノ……まさか自分自身もそのツクリモノであったと気付いた時は、さぞ悲感しただろうな」
「…………」
無言で腰を下ろしたまま修司の言葉に耳を傾ける黒川。
そして修司は刀を振り上げながら黒川に言った。
「でも安心しろ……そんな悪夢も……悪夢の様な現実は、この俺がきっちり片を付けて終わりにしてやるよ。……俺とは違い、苦境の現(うつつ)は……これで終わる……!」
この時、話し終えた修司の目付きが険しく厳つい目付きに豹変し、黒川は恐怖で背筋に悪寒を感じた。
そして修司が刀を振るおうと動作した瞬間。
「う、うわああッ!」
完全に恐怖で冷静さを失った黒川は、動揺と恐怖心の余り微かな抗いの行いか、修司の攻撃に対し両手を前に突き出してしまった。
それが過ちであった。黒川が突き出した瞬間、修司はその両手首を一瞬の内に斬り落としてしまう。
「う、うわああああぁぁぁッ!!」
切断され、失ってしまった両手首の断面から噴き出る血を前にして、恐怖で顔を引き攣らせ、声を荒げる黒川。
黒川が顔前で、自身の手首の断面から噴き出る出血に怖れ慄いているその間に、修司は聖龍剣を高々と振り上げては、恐怖で慄いている黒川の頭部目掛けて一気に刀を振り下ろした。
「ぐああッ」
頭部を垂直に一刀両断された黒川は断末魔を上げながら絶命した。
切断された頭部の大きな切り口から噴き出る血で、頭の頂上から真赤に成っていく黒川の亡骸を目撃したコレクターズの三人は、血で赤くなる黒川の死体と違い顔から血の気が引いていく。
修司は続いて、以前メタルバードやジュピター・キッドと共に、聖龍隊本隊の面々とは別行動して退治した負の感情から生まれ出た化身ダァクに刀を向けてみせる。
目の前で次々に敵を斬っては血に塗れる修司の行動を見て、微かに動揺し身体を震わすダァクは、恐る恐る修司に言い放つ。
「む、無理だぞ、私を倒そうとしても……。忘れた訳ではあるまい、私はお前たち人の憎悪や悲しみ……恨み妬みから生まれた存在。お前から感じられる闇の心……お、お前の憎悪こそ、私自身なのだ! 怒りや憎悪に満ち溢れているお前には所詮、この私を完全に倒し消滅させる事などできやしないのだよッ!」
修司からの威圧感に押されながらも、修司の心から発せられる憎悪や怒りがある限り、自分は消滅させられないと豪語するダァク。
すると修司は暗然な表情でダァクに言葉を返した。
「……お前は何にも解ってねえな」「? ……」
愕然と成るダァク、そして修司はそんな様子のダァクに悍ましい上目遣いで言い放った。
「オレの中にヒシヒシと満(み)ちるのは……憎しみや怒り、ましては悪意なんて単純なモンじゃねえ」
「…………!」
次の瞬間、修司の口から出た言葉にダァクは身震いした。
「オレのナカに存在しているのは、タダの………………恐怖(キョウフ)ダ……!!」
そう言った修司の眼は、今まで以上に怪しく不気味な瞳に成り果てていた。
「う……ッ、うわあああああああああああッッ!!!」
不気味の極みと言わざる負えない修司の眼光に、人の憎悪や怒り悲しみ等の感情から生まれたダァクも思わず恐怖で絶叫した。
そのダァクが絶叫した正にその瞬間、修司は何の躊躇いもせずダァクに刀を振り下ろし、その身を垂直に一刀両断してしまう。
縦に切断されたダァクの無残な亡骸を前に立ち尽くす修司、そしてその様子を先程から見続けている聖龍隊は目の前の惨状に言葉を発する事が出来ず黙然とするばかりであった。
その時、縦に切断したダァクの亡骸を見下ろしていた修司に、先程から修司の行為を傍観していたスコーピオンが攻撃してきた。
「このッ……!」
スコーピオンが修司に攻撃を与えようとした瞬間、スコーピオンの目の前から修司が忽然と姿を消してしまう。
「ッ……!? ど、何処に行った?」
一瞬で姿を晦ました修司に動揺しつつも、彼の姿を探し求めるスコーピオン。
と、その時。スコーピオンは自身の上空から只ならぬ殺気を感じた。
「ムッ、まさか……!」
スコーピオンが上空に目を向けてみると、其処には聖龍剣を振り上げ構える修司の姿が在った。
「なッ、なにッ!?」『ッ……!」
実はスコーピオンの攻撃が直撃する寸での処で修司は高く跳び上がり、スコーピオンの攻撃を回避していたのであった。
何時の間にか上方にその姿を移していた修司に驚くスコーピオンと聖龍隊。
そして修司はスコーピオンの巨大な本体の上に着地すると同時に駆け出し、一気にスコーピオンの巨体を切り裂いた。
「グオオオオオォォォ……!」
己の身体を一刀両断に切断されたスコーピオンは只ならぬ断末魔を上げながら、その巨体を消滅させた。
「…………」
あっと言う間にスコーピオンの巨体を消滅させた芸当を見せ付けた修司の戦振りに、ウォーター・フェアリーことアプリコットを始めとした聖龍隊は全員言葉を失くした。
そして最後に残った一人、シスタージルに修司はその激情に満ちた瞳を睨ませ迫る。
ジルは淡々と殺戮を遂行していく修司に恐怖の色を顔に浮かべていた。
血塗れの刀を手に持ち、一歩一歩とジルに歩み寄る修司。
意を決しジルは恐怖で意気消沈しつつも、自分に迫りくる修司に声を振るわせて言った。
「な……何故だ……何故お前は……! そう簡単に人を殺せる……!」
「……」
「ッ、何故なんだ!? 何故、我々だけが倒され殺され、消えなければいけないんだァ! 主人公の立場である英雄達だけが生き延び、私達敵役だけが無残に死ななければイケないんだ……! そ、そもそも……そもそも! ……お前達が……」
無言で歩み寄り迫る修司に怯えた表情で問い掛け続けるジル、その情景を聖龍隊の面々は鬱然の心持で見続けていた。
そんな中、ジルは意を決するかの如く、恐怖で滲む目で修司に言い放った。
「お前達が……お前達、三次元人が自分等にとって勝手に都合の良い筋書きを我々に与えているのが悲劇の根本なのではないかっ! 我々敵役だけでない……其処の聖龍隊にすら! 使命や出生と云う運命を……戦わせ、苦痛に喘ぐ受難を生み出したのは他でもない……三次元人(お前)ではないかッ!!」
今まで見せた事のない、悲痛な面持ちで眼前の血に塗れる厳つい顔立ちの修司に問い叫ぶシスタージル。
そんなジルの言動に、今まで彼女と対峙していたキューティーハニーとミスティーハニーのハニー姉妹に、ジルに父を殺められた早見青児、そして聖龍隊の皆々は顔を蒼白させ暗然と成る。
「……終わりか」「ッ……?」
と、その時。悲痛な面持ちで動揺しつつも語り続けるジルに、修司が顔を俯かせて声を掛ける。
修司の一声に酷く動揺するジル、彼女に修司は俯いたまま呟き続けた。
「終わりか…………お前の最後のコトバ……ソレデ、オワリカ」
そう呟くと、修司は俯かせていた顔を上げてジルに向けた。
一目修司の顔を見たジルは驚愕した。彼の悍ましい程の激情に満ち溢れた、その顔つきに。
「………………」
殺意に満ちた末恐ろしい顔を見せる修司に、ジルは身体を震わせて怯えきってしまってた。
そして修司は、そんな身震いして思う様に動けなくなってしまっているジルに、慈悲の欠片も無しに刀を振り上げた。
「ひィ……ッ!」
殺意と憎悪、そして怒りまでも表にしているその厳つい顔に睨まれるジルは、完全に平常心を失ってしまってた。
平常心を失い、半ば混乱状態に陥ったジルは、思わず腰に下げていた鞭を手に取り、修司目掛けて振り回した。
しかし修司は平然と落ち着いた様子で、刀を握る右手とは逆の左腕を前に出しては、ジルが振り回してきた鞭を何なく左腕に巻き付けさせた。
「ッ……!?」
自身が振り回した鞭を左腕に巻き取られ、完全に鞭の制御を不能にさせられたジルは非常に困惑してしまう。
そして修司は鞭を巻き付けた左腕を渾身の力で引っ張り、ジルを強引に自分の元まで引き寄せる。
引っ張られたジルがその体勢を崩した一瞬の内に、修司は右手の聖龍剣でジルの鞭を手にしている右腕を斬り付けた。
「っ、うわあああぁッ!」
右手の手首を切断され、噴き出す血と激痛で悶え苦しむジル。
そして修司は苦悶に喘ぐジルに続け様に刀を振り下ろし、情け容赦なくジルの身体を斬り続ける。
「ぐわッ、やめろッ……やめてくれ、グハ……頼む、もう…………やめて……くれ…………」
「うあァ! わァッ! ぐあぁ! うああァァ! ……」
幾度となく刃を浴びて、身体を無尽蔵に斬り付けられるジルは悲痛ながら修司に斬撃を止めるよう乞うた。
しかし修司の刃は止まる事無く、まるで狂気に駆られたかのように奇声を上げてジルの肉体を斬り続ける修司。
傷付けられる度に激しく飛散するジルの血、そして抉られていく肉。
「うわァッ、あああッ……!」
と、漸く修司の手が止まり、修司は一気に静まり返った。
ジルの方は既に体中の切り傷から血を噴き出し、彼女の体は所々肉が抉られ、動脈や骨が裂かれた傷口から垣間見れるほど、惨たらしい姿へと化していた。
全ての敵・全ての司令塔達が倒され、再び辺りには不気味なまでの静けさが漂っていた。
『……………………………………』
「……………………………………」
聖龍隊に加勢に来た者たち、そしてミラー・ガールは視界に広がる惨状に、只々顔を蒼褪めては言葉を失い愕然としている以外出来なかった。
眼前に広がる夥しい程の敵の亡骸と血の海と化す景観。血の海の中には、斬り落とされた敵の手や足、更には生首までもが其処ら辺に無数に転がっている有様。
修司によって斬り付けられた司令塔達は、全員がその死顔を苦悶に歪ませていた。
そして全ての標的を斬り終えた修司は、最後に自分が斬り殺したジルの惨たらしく地面に横たわる亡骸を無言で見下ろしていた。
「っ……っ…………」
目の前に広がる血の惨劇、そしてその惨状を作り出し最後に殺めたジルの亡骸を見詰める修司に、ミラーガールは何とか恐怖で出せなくなる声を懸命に口から出しては、修司に声を掛けようと勇気を振り絞って必死に声を出そうとした。
だが、そんな惨劇の静寂の中、最初に声を発したのは彼女でも、まして他の聖龍隊でも無かった。
「……これが……」
「っ……」『ッ……!』
自らが作り出した惨劇の場の中に立ち尽くしながら顔を俯かせている修司が発した呟きに、ミラー・ガールも聖龍隊も身を微かに震わせ動揺した。
そして修司は、ゆっくりと顔を上げ、そして振り向いては背後の聖龍隊に顔を向けて一言発した。
「コレガ、ホントウノ…………オレダ」『!!』
振り向いた修司の一言よりも、その顔を見て聖龍隊は驚愕し顔から血の気が一気に引いた。
振り向いた修司の顔、その瞳には最早生気が感じられず、焦点が合って無い虚ろな眼差しの、実に禍々しい瞳へと豹変していた。
そして一番愕然としたのが、そのギョロリとした生気の無い眼からは、一筋の鮮血の涙が流れている事だった。
『…………!』
目から血の涙を流す修司を目の当たりにし、聖龍隊の誰もが驚きと同時に異常なまでの悪寒をその心身に感じていた。
静寂な殺意、狂気の刃、そして悲憎(ひぞう)の心理が垣間見れる一筋の赤き血の涙。
目の当たりにした惨状と数多の敵に対して一騎無双の殺戮を淡々と行った修司の行動に、聖龍隊は皆言葉を失くし、心身ともに硬直するばかりであった。
[対峙する闇と闇]
敵対する存在を、全て残忍に斬り殺した小田原修司。
そして血の涙を流す修司の禍々しい顔を目の当たりにした聖龍隊は、誰もが沈鬱な心境であった。
修司の周囲に展開される惨殺された敵の屍と血の海による惨劇の景観に、聖龍隊の面々は顔面蒼白で今にも気を失いそうになる者も居た。
一方の修司は、最後の司令塔であったシスタージルを惨殺すると、次に未だ謎のベールに包まれている闇人に焦点を当てた。
頭から足まで黒いローブを身に纏い、その容姿を全て曝す事のない司令塔達に指揮を執っていた闇人。
そして全ての敵を血祭りに挙げた修司は厳つい顔で闇人と対峙し、その険しい顔立ちを変える事無く眼前の闇人を睨み付ける。
闇人の方はそんな修司と向き合いつつ、周辺に散らばる血溜まりの中の骸を見渡しながら修司に嘲笑を掛ける。
「……ハハ……ふははははははッ。漸(ようや)く本性を表したな、小田原修司! お前の中に滾る闇、その感情から惜し気も無く溢れ出る負の感情……憎悪・怒り、そして殺意の禍々しき破壊の思念がッ!」
闇人が言った次の瞬間、闇人や修司の周辺に点在している敵や司令塔達の亡骸や血溜まり、そして何と修司自身に纏わりつく返り血も、全てが突然、漆黒の闇に包み込まれる様に黒く染まっていき、それが地面に吸収される様に形を消滅した。
「なッ、なに!?」「これは……!?」
骸が黒く染まり、そして地面へ呑み込まれる様に消えていく敵の残骸を目の当たりにして驚愕するメタルバードやジュピター・キッド、そして聖龍隊の面々。
そして地面へと消えていった残骸は、そのまま黒い影の様に地上を蠢いて闇人の方へと移動を始めた。
蠢く影は、闇人と対峙している修司を避けながら、修司と真正面から向き合っている闇人に集結していく。
そして影の如き闇へと変貌した敵の残骸は闇人へと終結し、そして闇人の足元から身体に吸収されていった。
「あ、あっ……!」
影に変化した敵の残骸が全て闇人に摂り込まれるのを見て、驚愕の余り言葉を上手く発する事が出来ずにいる聖龍隊。
そして影いや闇へと変貌した敵の亡骸を、全て吸収した闇人は、再び眼前の修司に語り始めた。
「はは、やっとだ……やっと、お前はお前に戻れた訳だな」
「…………」
「はっはっは、そう悄気(しょげ)るな。そもそも、こんな世界なんてタダの気休めのお伽話じゃないか。無くなったって別に問題は無いだろ?」
「ッ……」
闇人の語りに無言で耳を傾ける修司は、闇人の語りの最後の言葉に対し、口元を歪ませて歯軋りをした。
そんな修司に闇人は淡々と語り続ける。
「いい加減、理解しろよ。そんな物語の、架空の存在共を救っても、所詮お前には何の見返りも無い。お前だって本心では解っているんだろ? どう足掻いたって自分には感情なんてモンは手に入らねえんだ」
「………………」
淡々と語り掛けられる闇人の話に対し、修司は沈黙を保っていた。
その時、不意にミラー・ガールが修司と対峙している闇人に話し掛けた。
「ね、ねえ! あなた……闇人って名前だったわよね」
「……はぁ?」「…………」
ミラーガールの問い掛けに対し小憎らしく返事する闇人、そして彼女の問い掛けに福耳を微動させて耳を傾ける修司。
聖女はそのまま闇人に問い掛け続ける。
「わ、私達が……私達が物語の、お伽話の中の人間って……ホントなの?」
「……」「……」
闇人と修司が黙然とする中、ミラーガールは更に闇人に問い質した。
「私達が……私達の感じていた幸せも悲しみも……此処に居るみんなとの思い出も……! 全部、作られたモノなの……!?」
『……』
「答えて! 私も、家族も、友達も……そして……そして、修司までも想像の産物だって言うの!? そんなのって……ッ!」
涙ながらに語るミラー・ガールの言葉に闇人と修司は沈黙し、ミラー・ガールの言葉を間近で聞いている聖龍隊の面々は揃って悲愴に暮れた。
そんな涙ぐむ魔鏡聖女に闇人は答え返した。
「……それは違うな」「え……っ」
闇人の発言に、口元を少しばかり微笑ませるミラー・ガール。
しかし彼女の微かな願望も、闇人は平然と圧し折った。
「お前等の様にな……お前達の様に、ただ淡々と与えられた筋書きを、いや運命を歩むだけの連中とは違い、この小田原修司は虚構の存在では無いのだよ」
「え……そ、それって……」
闇人の言葉に困惑となるミラーガール。
そんなミラーガールに聖龍隊の面々、そして黙然とし続ける修司を眼前に、闇人は太太しい態度で語った。
「詳しく語ってやろう。正確にはお前達の居るこの世界は通称【二次元界(にじげんかい)】と呼ばれる次元の一つだ。次元にはそれぞれ一次元、二次元、三次元、四次元の四つの次元が存在する。それ等は常に均等に、そして並行して各々存在しているのだが……その中でお前等が生まれ住んでいる、この二次元界は同じ四大次元・三次元界の人間達の思想概念から……すなわち夢や理想、想像の概念から生まれ出た世界であり、その二次元界に存在しているお前達自身も同様に三次元人の思想概念から生まれただけの虚実なのさ」
「そんな……っ!」
「そ、それじゃ……結局、私達は……!」
「人が考え、生み出した……いわゆる想像上の存在……!」
淡々と語り続ける闇人の話を聞いて俄かには受け入れられない事実に愕然となるセーラームーンに木之元桜、そしてキューティーハニー等。
「そんな……そんな! それじゃ、それじゃ……! 今までの俺達は何だったって言うんだよ……ッ!」
「俺達の戦いは、何だったんだ……ッ!」
語られる話に愕然となり、悲痛に訴える宇崎星夜とタキシード仮面。
「ふざけるなよ……! それならちせは……俺達の苦しみは本当に何だって言うんだ!」
物凄い剣幕で憤りを吐き出すシュウジ。
誰もが自分等に課せられた使命、そして自己の存在の全てが、ただ単に創られ与えられたモノだと衝き付けられ、言い様のない憤りを胸の内に溜め始めていた。
「ははは……ははははッ。お解りになりましたかね? お前達の今までの戦いも、苦痛も、悲しみも……感じていた幸せや希望、夢そのものがッ! 単なる存在しない虚構なのだよ……」
『…………』
淡々と太太しく語る闇人の言葉に絶句する聖龍隊。
そして闇人は、そんな聖龍隊に向かって大きくそしてハッキリと告げたのだった。
「夢も希望も……幸せも! お前等同様……存在しない夢幻(ゆめまぼろし)なのだよッ!!」
この一言に、聖龍隊の誰もが完全に心を折られてしまったのであった。
そんな憮然の悲愴な真情に陥る聖龍隊に、闇人は更に語り続けた。
「そしてミラーガール、それに他の連中も良ぉく聴け。お前達に苦痛の、苦難の相次ぐ非業の運命を与え続けていたのは他でもない、この二次元界を創造した三次元人であり、そして……」
次の瞬間、闇人は眼前の小田原修司、そしてその修司の背後に居ずる聖龍隊の面々に対し、不敵に告げた。
「そして……この小田原修司こそ、そんな三次元人と云う種族の一人なのだよ」
「!!」『!!』「…………」
闇人の一言に心底衝撃を受け愕然となるミラーガールに聖龍隊、そして一人ただ無言で闇人の発言に反応を見せず更に沈黙を保つ小田原修司本人。
衝撃の事実を知り、ミラーガールに聖龍隊は非常に驚愕し、心身ともに震わせた。
「うそ……修司が……修司が、この世界を生み出した種族の……!?」
驚愕したミラーガールは沈痛な面持ちで目を見開いて眼前の修司の背中を見詰めた。
「修司君が、この世界を……二次元界を生み出した三次元の、人……?」
「修司君の一族が、この世界を……そして私達を生み出し……」
事実を知り更に顔を蒼褪めさせたセーラーマーズとセーラーマーキュリーは悲愴な面持ちで呟いた。
誰もが闇人の口にした話に衝撃を受け憮然とし、皆の肩に重い空気が圧し掛かる正にその時。
一発の銃声が突如として響き、皆は騒然とした。
そして修司の顔側面に弾が掠り、その際の傷口から微量の血が流れ出した。
顔側面に弾が掠った修司は、驚きつつも険しい面持ちで静かに後ろを振り向いた。
すると修司の目に入ってきたのは、憮然の心中に浸る聖龍隊の群集の中から一人、機関銃を構え銃口から煙を上げて佇むシュウジが、忌まわしい程の憎悪の顔立ちで修司に銃口を向けつつ睨み付けていた。
「し……シュウジ……!」「シュウ……ちゃん……!?」
突如、眼前の修司に発砲したシュウジの行動に驚愕するメタルバードにちせ。
一方の修司は、自分に発砲してきたシュウジの憎悪に滾る厳つい顔を、横顔を向けて見返した。
そしてシュウジは、そのまま銃を向けながら眼前の修司に言い放った。
「お前が……お前が……!」「…………」
険しい目付きで睨み付けながら銃を向けるシュウジを、修司は無言で見続ける。
シュウジは憎悪に滾る顔から悲愴な感情を醸し出しつつ、修司に言い放ち続けた。
「お前が……修司! お前が、お前の一族が……ちせを……!」
「………………」
「お前達がちせを! ちせの人生を狂わせる結末を考え、与えたのか! 人間としてのちせを奪い、兵器としてのサダメを与え……更には俺やちせが生まれ育った町が壊れ失われていく筋書きを考えたのは…………お前なのかッ……!!」
「…………」
「何とか言えよッ!」
強く問い詰めても尚、無言で此方を見詰めるだけの修司に怒りの念が募るシュウジは、思わず再度発砲しようとした。
「や、やめろシュウジ!」「シュウちゃん止(や)めて!」
二度目の発砲を行おうとするシュウジを、メタルバードとちせが必死に制止する。
そんなシュウジ達のやり取りを傍観していた修司は、再び視線を眼前の闇人に向けて睨みを利かせる。
当の闇人は、事実を知って発砲したシュウジを見て、嘲笑いながら眼前の修司に言った。
「フハハハハ、やっぱだなッ。やはりお前には何にも手に入りやしない。手に入れかけた人との絆も関係も……脆く崩れ、消え果ててしまうのが、お前と云う異形の存在なのだよ……! ふははははッ」
不敵に嘲笑を上げる闇人は、更に自分を睨みつける修司に挑発するかのように突然謡い出した。
「おお修司、おお修司。貴方はなんて憐れなのでしょう」
「…………」
「おお修司おお修司、貴方はなんて孤独なんてしょう……誰からも求められず、誰からも理解されず。その心は常に満たされず干からび続け、真に欲する安息を感じ得られない…………おお修司おお修司、貴方はなんて……悲しいほどにオゾマシイのだろうな」
身振り手振りと謡いながら修司を挑発する闇人の言動に、先程から修司と闇人の対話を傍観していたミラーガールが痺れを切らして嘆き話した。
「な、何よさっきから……! そもそも……そもそも、何で私達や私達の世界が物語で、修司がその物語を生み出した他次元の人間だって、あなたは言い切れるの? 何で其処まで知っているのよ!?」
涙を堪え、闇人に強く問い質すミラーガール。
すると闇人は、微笑で体を小刻みに震わせながら語り返した。
「クックック、何で俺が知っているかって? 簡単だよ……結局のところ、俺もお前達と同じ様な存在だからな」
「え……? それって……」
困惑するミラーガールや他の聖龍隊を尻目に、闇人は淡々と語り明かしていく。
「そう、結局は俺もお前達と同じ……人の思想概念から生まれ出た存在だからさ。三次元人と云う、現実を悲観しながら生き続ける種族が……現実を少しでも忘れ、そして離れられる様に二次元と云う夢物語を生み出した。……そして俺は、そんな現実を心から憎み、現実から逃げ出した哀れな野郎の思想概念から生まれ出た存在なのさ」
「…………」
話を聞き、只ならぬ動揺で硬直してしまうミラーガール。
そして闇人は、不意に自身が被っている頭のフードを両手で鷲掴みしながら語り出す。
「……そう、三次元からこの世界に逃げて来た男……俺はその男の思想概念から生まれた……。故に、俺は知っている。お前達、二次元人の本来の筋書きも……そして小田原修司と云う三次元人の本質も……な」
次の瞬間、闇人は掴んでいたフードを取った。
今まで、その素顔を曝す事の無かった闇人のその行為に騒然となる聖龍隊の面々。
そしてフードを下ろした闇人は、黒色の頭髪を眼前の聖龍隊に見せ付ける様に顔を下に俯かせていた。
一人、無言で下を向く闇人は下を向いたまま、闇人自身がフードを取った事に驚き動揺している聖龍隊に、そして修司に言った。
「何故、俺が全てを……二次元界のお前達や三次元人の修司の事を知り得ているか……答えは実に簡単だ。何故なら……」
その瞬間、闇人は俯かせていた顔を勢いよく前に向けて、聖龍隊や修司等にその謎に包まれた素顔を見せ付けた。
『ッ!』『ッ!?』「!? ……ッ」「…………」
闇人の素顔をやっと拝めた聖龍隊は、全員目を丸く見開いて驚倒してしまった。
そして聖龍隊と同じく、闇人の素顔を見たミラー・ガールは自分の目を疑ってしまう。
だが一人だけ、小田原修司だけは厳つい表情を変える事無く無言で闇人を睨み付けていた。
そして、素顔を明かした闇人は、不敵な面構えで平然と堂々と言い放った。
「俺は…………修司(おまえ)だからなッ!!」
闇人の素顔、それは褐色肌に紅く怪しく光る瞳で有る以外は、その全ての骨格や顔立ちが完璧に、修司と瓜二つだったからだ。
[激突する闇と闇]
黒ローブでその全貌を覆い隠し、そのフードにて素顔を見せていなかった謎の人物 闇人。
明かされた彼の素顔は、何と肌が褐色、怪しく不気味な紅い瞳、後はその全てが対峙している修司と寸分違わず瓜二つの顔立ちであった。
謎めいていた闇人の素顔を目の当たりにした聖龍隊の面々は、その誰もが見慣れている修司と瓜二つの闇人の素顔に非常なまでに驚愕し、そして激しく動揺した。
「や……闇人が……っ」「し、修司君そっくり……!」
「こ、これは一体……!?」「どう言う事なの……!?」
険しい修司の顔立ちの素顔を見せ付ける闇人の表情を見て、ウラヌスとネプチューン、そしてメイカーとヒーラーが只ならぬ面持ちに豹変する。
「闇人が……修司と同じ顔……!」「ど、どうして……!?」
黒いフードで包み隠されていた闇人の素顔を目にして、衝撃で胸が詰まる早見青児とキューティーハニー。
と、聖龍隊の皆々が各々闇人の素顔に衝撃を受け口々に語っていると、険しい顔立ちで睨み付ける修司を脇目に眼前の闇人は自慢気に話し始めた。
「はっはっはっは、似ていて同然だろ。俺はこの修司の……小田原修司と云う三次元人の思想概念から生まれ出た存在。そう、お前達とおんなじって訳さ」
修司の思想概念から生まれ出たと豪語する闇人の発言に、動揺の色で顔を染める聖龍隊一同。
そんな闇人は修司と瓜二つの顔で狂気染みた表情を浮かべると、更に語り続ける。
「ははは、ようやくフードが取れたよ。いやぁ参ったねぇ……暑がりの俺様にとってフードを被りっぱなしってのは生き地獄だったよ。……ま、生き地獄なのは生まれた時からだったけどな。そうだろ、修司」
「………………」
不敵な態度と下衆な嘲笑で語る闇人の話に、闇人と対峙している修司は眉一つ微動だにせず、ただ無言で闇人と向き合っていた。
「俺はお前……お前は俺だ……! そうだろ!!」
眉間に皺を寄せて怒りの心情を顔に表す闇人は、眼前の修司に言い放つ。
その時、不敵な笑みを浮かべ続ける闇人は、唐突に眼前の修司に告げた。
「さあ……そろそろ全てを終わらせよう。この紛い物の世界も……何も感じられないお前自身も……全て消してやるぜッ!」
次の瞬間、闇人は自身の右手を下斜めに突き出し、そしてその右手から一瞬の内に黒い剣を出現させた。
出現させた剣の切っ先を修司に向けると、向けられた修司は険しい面持ちと鋭い目付きで眼前の闇人に言葉を投げ返した。
「……俺がさせると思ってんのか……」
すると投げ返された闇人は不敵な面構えで話し返した。
「……違うだろ? ……お前がしたいんだろ? 壊し、殺し……血と云う温もりを一身に感じていたいというお前の願望こそが…………この闇人(俺)を生み出したんだ」
二人はそのまま、しばしの間目を向き合わせて対峙した。
厳つい顔立ちで睨むように見入る修司、そして不敵に口元を微笑させ怪しい威圧感を醸し出し続ける闇人。二人の睨み合いを、聖龍隊は無言で傍観する以外できなかった。
次の瞬間、闇人と修司は駆け出し、真っ向から衝突し合った。
「うおおッ」「うりゃあッ」
修司と闇人は互いに剣と刀を激しく激突させ、火花を散らしながら鍔迫り合いに入る。
「ぐ……ッ」「ひひ……ッ」
取っ組み合う二人、しかし修司は顔を歪ませた険しい苦悶の表情に対し、一方の闇人は組み合いながら怪しく笑みを浮かべて見せる。
そんな二人の衝突を、ミラーガールを始めとした聖龍隊は最早どうする事も出来ず、只々傍観に徹するしか無かった。
そして修司と闇人は、互いに衝突し合わせていた刀と剣を弾き、一旦後方へと跳び下がった。
再び睨み合う二人、すると闇人は徐に左手を上に突き上げ、眼前の修司に話を掛ける。
「フッ、所詮お前に出来る事など何もない。どんなに頑張ろうと誰もお前を認めてくれる輩は居ない……そうだろ?」
「…………」闇人の問い掛けに返そうとはしない修司。
と、その時。闇人は激しい感情を表面に出した面持ちで修司に言い放った。
「お前が護ってきた力って…………これだろ?」
闇人が言ったその瞬間、闇人の周囲に無数の黒い矢が空中に出現した。
「……!」「あ、あれは……!?」
目を見開いて驚愕する修司、そして突如として闇人の周囲に出現した無数の黒い矢に一驚する聖龍隊の面々。
次の時、闇人は突き上げていた左手を前方へと向けると、その瞬間、闇人の周囲に点在していた宙の矢が前方の修司目掛けて一斉に飛んでいった。
「ッ!」
飛んでくる矢に一瞬驚く修司は、反射的に飛んでくる矢を刀で次々に弾き、そして折って参る。
しかし飛来する矢は余りにも数が多く、遂にその内の一本が修司の左肩に直撃してしまう。
「グ……ッ!」
矢が体に突き刺さり、異常なまでの苦痛に歪んだ顔に豹変する修司。
しかしそれを皮切りに、次々に無数に矢が修司に直撃していった。
「ぐわッ……!」全身に矢を喰らい、体を射抜かれる修司。
そんな無数の矢に射抜かれる修司を見て、聖龍隊の女子たちは各々悲観し悲鳴を上げる。
一方の修司は、体に何十本と云う矢が突き刺さり、身体を貫通している痛々しい姿へと変貌していた。
それでも修司は絶対的な苦痛に耐えながら一歩一歩と闇人に歩み寄ろうとする。
すると次の瞬間、修司の身体に刺さっていた無数の矢が突如として消滅し、修司の身体にも一片の傷跡も残っていなかった。
「ハァ……ハァ……ッ!」
荒い息を吐きながら前方の闇人を激情に満ちた眼光で睨み付ける修司。
そんな苦悶の表情を浮かべる修司を前にし、修司に突き刺さり消滅した無数の黒い矢に対して聖龍隊は疑問視した。
「い、今のは……?」
目を丸くして龍咲海(りゅうざきうみ)が呟くと、それに対し導師(グル)のクレフが解説した。
「恐らく、今の黒い矢はあの闇人が豪語していた闇の力と云うもので構成されているのだろう……実体に直接ダメージは与えないが、その代わり神経に直接痛みなどを与える事が出来る。故に、通常よりも何倍もの激痛を感じさせる事が可能なんだ……!」
いつもは冷静なクレフも、この時ばかりは額から大量の汗を流しながら、眼前の修司と闇人の闘いを複雑な心境で見据えていた。
更に海に続いて同じ魔法騎士(マジックナイト)の獅堂光(しどうひかる)が、同様と困惑に満ちた只ならぬ表情で言った。
「そ、それに……あの闇人が放った矢。まるで……まるで、さくらちゃんのアロー(矢)と何処か似ている様な」
「え……!?」
光の言葉に驚いた当の本人、木之元桜(きのもとさくら)は改めて思い返してみると、確かに闇人が修司に放った無数の矢は、自分が使用するさくらカードの一枚アロー(矢)と非常に酷似している事に気付いた。
と、魔法騎士等やカードキャプターのさくらが戸惑っている最中、闇人は先ほど無数の矢を浴び苦悶の表情を浮かべる修司に下衆な嘲笑で言葉を掛けた。
「ああそれと……こんな武器も使ってみようかな?」
と如何にも狂気染みた笑みを浮かべると、闇人は右手に所持していた剣を消し去り、空いた右手から黒い靄を噴出させてそれを形にしていった。
「!」
そして黒い靄が形ある武器へと構成されたのだが、それを見た修司は驚愕した。
「あ、あれって……!」「あ、あの形状は……!」
闇人が構成させた武器を目の当たりにしたちびムーンとプルートは驚愕し声を上げた。
そして誰よりも驚いている一人の少女、セーラーサターンは驚きの余り口を押さえながら発した。
「わ……私の、武器……!?」
闇人の手から出現した武器、それはセーラーサターンが使用する鋭利な刃が剥き出ている独特の形状のサターン専用の武器と寸分違わず同じであったのだ。
そして出現させた武器に驚き怯んでいる修司の隙を付いて、闇人が出現させたサターンの武器と同形の武器で修司を斬り付けて来た。
「くっ」
咄嗟に攻撃を回避しようと後方へ下がる修司、しかしホンの少しばかり闇人が振るった武器の刃部分が修司の胸元を切り裂いた。
「ッ!」
かすり傷を負った修司は絶句した。掠り傷程度の切り傷とは思えないほど、修司の身体には激痛が走ったからだ。
だが、そんな激痛に悶える修司よりも闇人が何故サターンの武器と同形の武器を出現させ使えたのか、聖龍隊の面々は困惑してしまう。
そんな聖龍隊の疑問に疑問を感じる顔を見た闇人は、再び聖龍隊に顔を向けて語り出した。
「はっは、面白い顔だな。何故この俺が木之元桜のアロー(矢)やサターンの武器を出現させて使えたのか不思議なんだろ? 答えは簡単、これも闇の力の一つ……複製の力さ」
「ふ、複製……?」
コレクターアイが蒼褪めた面持ちで口にすると、闇人は不敵な笑みと態度で答え語り始めた。
「そうだ。闇は常に自ずと俺達の周りに存在する超自然的な力だ。そして俺やお前達の周りに点在している闇、それは影なのだ。影は常に物体と共に存在し、その物体に光と云う闇とは対極的な力が当てられてこそ初めて存在する事が出来る……それが影と云うモノだ」
『………………』
闇人の解釈に、自分達が創造された存在で有る事を知らされ愕然と成る聖龍隊の一同は、顔を蒼褪め硬直させつつ耳を傾ける。
そんな心痛な心境に追い込まれた聖龍隊に、闇人は淡々と語り続けた。
「そして影の主な特徴は、その物体の姿形を寸分違わず同じ形状に写し変わる事が出来る事だ。物体と同じ形に成れる影は、まさに物体を複製させたもう一つの姿形って訳なのさ。……ようするに、そんな影とほぼ同じ物質である闇は、殆どのモノを複製することが可能なんだよ。そう、お前達の能力(ちから)や武器も等しく同じに……」
「そ、そん……!」
闇人の発言に驚くばかりに言葉を失ってしまうミスティーハニー。
と、闇人が自慢気に聖龍隊に語っていると、闇人の背後から修司が歩み寄り、闇人に声を掛ける。
「……オイ」「アァ?」
声を掛けた闇人が振り返ってみると、修司が険しく厳つい顔付きで闇人を睨み付けながら話し掛けて来た。
「今は……俺が相手……だろうが……ハァ」
鋭い目付きに荒い呼吸で話し掛けてくる修司に対し、闇人は突拍子に笑い出した。
「はは……ハーーハッハッハッ。いや済まん済まん、うっかりお前の相手をするのを忘れちまってたよ。いや済まんな、現実同様に無視されて辛かっただろう?」
「…………」
闇人の一言に苛立ちを感じる修司は、口元を歪ませて更に闇人を睨み付けた。
しかし闇人は、そんな修司の心情を察してか、更に修司に挑発するかの様に一言一句吐き続けた。
「はははははッ、そう、そうだよなァ! お前は何時もそうだった……どんなに励もうと、どんなに努めようとも、決して誰もお前を認めてくれはしなかった!」
「……」
「誰もお前を見てくれない……誰もお前を認めてくれやしないッ! そう、お前は所詮……この世界の二次元人よりも劣っている哀れな存在だ!!」
そう言い放った瞬間、闇人は右手に持っていたサターンの武器と同形の武器を消し去ると同時に、右手を人差し指と中指そして親指だけを伸ばした拳銃の様な形にすると、人差し指と中指の二本を修司に向けて口にした。
「ショット……!」
すると闇人が向けた二本の指から無数の黒い弾丸が放出され、修司に直撃した。
「ぐわッ……!!」
全身に無数の弾を浴びた修司は、傷は無く激痛だけが感じられる攻撃に顔を歪ませる。
「ま、また……」「今度はショット(撃)を……!」
その光景を見ている聖龍隊の内の李・苺鈴(リ・メイリン)と李・小狼(リ・シャオラン)は、闇人が魔力を秘めたカードの一枚・アロー(矢)に続いてショット(撃)までも使用して見せた事に深く驚愕した。
一方の闇人は攻撃の手を緩める事無く、修司に果敢に攻め続ける。
「オラオラどうしたどうした! 足掻いて見せろよオイッ」
「……ッ」
時に手にする武器を様々な多種多様の武具に変化させて攻撃してくる闇人の猛攻に、修司は防戦一方であった。
そんな二人の苛烈な闘いを目前としつつも、聖龍隊は皆々顔から生気を失くし無言で傍観に徹するばかりであった。
「…………修司…………」
だが一人だけ、ミラー・ガールのみが単身自分と同じ顔の闇人と激しく衝突している情景を静かに、そして心痛な心持ちで見詰めていたのだった。
[元鏡(げんきょう)]
「くそ……クソッ……!」「ヒッ、ヒヒ」
果敢に攻撃の手を与えようとするも避けられ続け焦り出す修司に対し、攻撃を回避しながら修司の行動を嘲笑う闇人。
二人の闘いは更に激しさを増していくばかりであった。
「し、修司……」『…………』
激情に駆られ、熾烈に闇人と対峙する修司を悲観するミラーガールに対し、他の聖龍隊の面々は誰もが自分達の実情――自分等が創造された存在である事に非常なまでに落胆し、苦心に陥っていた。
そんな情状の中、闇人の方も果敢に攻めてくる修司に攻撃を仕掛けていく。
「おらよッ!」
突出的に自分の足元に黒い球を出現させた闇人は、それを修司目掛けて蹴り飛ばした。そう、しんせん組の月影トシが使う「龍の目」と同形の武器を。
「く……ッ」
修司は飛んでくる球を咄嗟に回避して見せるが、修司が回避したその瞬間、闇人は大型の弓矢を、あの鳳凰寺風(ほうおうじふう)が使用している弓矢とほぼ同形の弓矢で長い矢を修司に向けて放った。
「ぐあ……ッ!」
丁度心の臓の部位に矢が貫通し、修司は心臓に激しい痛みを感じ取り悶絶した。
「ああ…………ッ!」
心臓の激痛に苦しみ悶える修司、だが闇人は休むことなく修司に技を放ち続ける。
「それそれッ、喰らえ喰らえッ!!」
「ぐああ……ッ!!」
炎・雷・氷・風――等々の様々な技で容赦なく攻撃を加える闇人、その攻撃を直に受ける度に精神(心)に激しい苦痛を感じ悶絶し続ける修司。
聖龍隊の、二次元世界の英雄隊の力や技そして武器までも、己の闇の力で複製しかつ強化した状態で使用してくる闇人の猛攻に、修司は次第に体力気力を消耗していく。
「…………………っ」
そんな次第に生気を失い疲労していく修司の姿を見て、ミラーガールは顔から血の気が引いていった。
「修司……修司……っ」
生気を失い、疲労困憊の状態へと陥っていく修司の痛々しい姿に、ミラーガールは泣き叫びそうになる口を手で押さえ、必死に自分の激情を抑えつつ涙で潤う瞳で悲観した。
「だ、誰か……誰か……お願い、修司を……修司を助けて、お願い……!」
居た堪れなく成ったミラーガールは周りに居る聖龍隊の皆に涙目で言い寄る。
しかし聖龍隊の誰もが顔を俯かせたり顔を背けたりと、ミラーガールの呼び掛けに対し彼女からの懸命な視線から目を逸らす。
「ど、どうしたのよ、みんな……どうして……! なんで……!?」
自分の呼び掛けに対し目を逸らし拒む姿勢を見せ付ける聖龍隊を目の当たりにし、ミラーガールは悲痛な思いに駆り立てられる。
ミラーガールの助けを求める呼び掛けに対し目を逸らし続ける聖龍隊の皆々。
彼等は皆、自分達に与えられた使命や宿命、望んでもいない運命と人生に悲観していた。
戦いや争いばかりの道行きしかない人生で生み出され、血みどろで傷付きながら生き永らえる。そんな人生なら生み出されない方が良かった。
誰が物語の世界で生んでくれと頼んだ。誰が生み出し創ってくれと願った。
そう自身の心の内で思い悩み続ける幾多の英雄達の辛くも悲しい心情を、ミラーガールは彼等の暗鬱な表情から薄々ながら感じ取っていた。
「うぉりゃ! うぉりゃッ!」「くっ、グ……ッ」
聖龍隊の面々が自分達の苦楽に満ちた道行きが、人生が全て与えられ創り出されたモノであると心痛に至る中、自らの闇で作り出した巨大な二刀の刃を振り回して修司に斬り掛かっていく闇人の執拗な猛攻に、苦境に追い詰められる修司は汗だくになりながらも懸命に日本刀 聖龍剣で闇人が勢いよく振り翳してくる二双の太刀を防ぎ続ける。
「はぁ、はぁ……ッ、ごほっ、ゴホッ」
と必死に闇人の攻撃を防ぎ続けていた修司が突然激しく咳き込んでしまう。
その情景を目撃したミラーガールは顔色を一変させて気付いた。
「ハッ、あれは……! (あれは確か、ナースエンジェルが指摘していた小児喘息(しょうにぜんそく)……!) 」
激しい咳を起こす修司を見て、ミラーガールは先ほど修司がまだ聖龍使いの姿であった時に起こしてしまった激しい咳に対し、ナースエンジェルが指摘した事で発覚した修司の持病・小児喘息の発作が再び再発してしまった現状に危機感を感じ取った。
「お、お願いよみんな! た、例え能力が使えなくっても……何とかみんなで協力すれば修司に加勢出来る筈よ! ねぇ!」
「………………」
「……なんで……何で誰も修司を助けようとはしないのよっ。修司は……修司は……一人で闘っているのよ……! 能力も使えない、ただ自分自身の意志と身体能力で闇人を……自分と瓜二つで、私達の技や力を自在に使いこなす事が出来る闇人と闘っているのよ! それなのに何故誰も修司を助けようとしない訳……!?」
涙ながらに訴えるミラーガールに対し、聖龍隊の面々は彼女に答えた。
「だ、だけど……」「……」
言葉を返そうとするものの、発言が途切れてしまい言葉を失うタキシード仮面と早見青児。
「私達……私達は……!」
「私達……本当は実在する人間じゃ無かった。只の創り出された、創作上の人物……今までの私達が経験してきた戦いも、辛い思いも……その全てが、最初っから決められていた事……っ!」
自分達の辛かった思い出や悲しい出来事の全てが、予め決められていた事実と――自分等が創作上の、物語の中だけの存在であった事に非常なまでに失望してしまうちびムーンとセーラーサターンは、今まで誰にも見せた事の無い悲愴な面持ちをミラー・ガールに向けた。
「私達の戦いは何だった訳……! お父様が死んでしまった結末も、私やハニーお姉さまが人で無い人工生命体として生まれ出た事も……全てが定められた筋書きだったって言うの……ッ!?」
「聖羅(せいら)…………っ!」
自分達の忌まわしい生い立ちや愛する身内の死、その全てが定められた物語の筋書きで有った実情に激しく心を揺さぶらせる葉月聖羅(はづきせいら)ことミスティーハニーに、そんな激しい心情に駆られる妹の涙で潤む瞳を目にして居た堪れない心境に陥る姉の如月(きさらぎ)ハニーことキューティーハニーは、悲痛な表情を浮かべながら思わず悲しみに暮れる妹の顔から視線を逸らしてしまう。
「みんなの命が……私達の想いが……その全てが……単なる創り出された産物……!」
今にも気絶してしまいそうな蒼褪めた表情で立ち尽くすナースエンジェルの顔からは、完全に生気が失われつつあった。
「ウソだ、ウソだよ……! 私や私の家族が、友達が……みんなみんな、創られただなんて……」
悲しみに暮れる木之元桜、彼女の目からは大粒の涙が一滴一滴と零れ落ちていく。
「俺達が……そんな……!」
「僕達は……僕達が生まれ育ったこの世界が……僕等の今までが、全て紛い物の創作……」
「そんな……! それじゃ……それじゃ……私達の人生って……! 苦しかった戦いや思い出って、何だった訳……っ!」
自分達を含めたこの世界そのものが、全て創り出された創作の物語であったと知り愕然となる二人の少年月影トシに雪見ソウシ、そして悲痛な面持ちで眩い瞳に涙を溜めて嘆く少女花丘イサミ。
「私達の……私達の今までは何だった訳? 与えられた使命に過酷な戦い……今までの私達が感じ取った感情は、単なる創造の……っ!」
「私達が悲しみ、苦しんでいたのも……何もかも、ただ観て楽しむ為の決まり事だった訳なのですか……っ?」
「そんな……そんなのって……!」
自分達が体感してきた過酷な出来事の、その全てが与えられ決められていた実情に、コレクターズの篠崎愛(しのざきあい)、如月春菜(きさらぎはるな)、そして春日結(かすがゆい)の三人は、心の底から悲感した。
「……セフィーロで感じた楽しい思い出も……そして辛かった柱制度までも……全部……全部、最初っから決められていただなんて……!」
「私達の戦いは……辛く過酷な葛藤は、物語と云う娯楽の為に与えられていただけだと言うの……!?」
「……私達の戦いは……試練は……全て運命付けられていた事……!」
獅堂光(しどうひかる)は活気に満ちた表情から悲嘆蒼白な面持ちに豹変し、龍咲海(りゅうざきうみ)は同様の心情を色濃く顔に表し、鳳凰寺風(ほうおうじふう)は胸を抉られる様な事実を突き付けられ思わず口を手で押さえてしまうほど愕然としてしまい、今まで辛く厳しい現実と葛藤を乗り越えて来た三人の魔法騎士(マジックナイト)達は、各々事実を知って悲嘆の底であった。
「兵器に成った私……私が壊した物……私が、殺した命。……全部……全部……架空の、おとぎ話……?」
「……ふざけるな……フザケルなよ……ッ! それじゃ……それじゃ本当に俺達は何だったって言うんだよ……! 周りの命が死に絶え、周囲の町や故郷が壊れ消えていくのも……全部が、そう……! 全部、三次元って異次元の連中が勝手に俺達に与えた運命(さだめ)だったと言うのか……!! そして……」
兵器に改造された自分はもちろん、破壊した物や殺めた命も、全てが架空の出来事であると認識したちせは、自然と体から力が抜け落ち、唖然としながら膝を着く。一方のシュウジは愛し合うちせが兵器と化してしまったのも、彼女が兵器として多くの命を奪ってきてしまった顛末も、全てが三次元と云う自分達とは別の次元の人間達が勝手に与え創り生み出した産物であった事実に行き場の無い激情が込み上がり、怒りに満ちる厳つい顔で、一人の人物に鋭い眼光を向けた。
その人物こそ、ちせやシュウジを始めとした多くの二次元人に非業の運命を与え、そして彼等と彼等が生まれ住んでいる二次元界をも創りだした他次元の三次元界の人間。小田原修司(おだわらしゅうじ)本人だった。
そう、聖龍隊の誰もが小田原修司への真実を知って、彼に対して言い様の無い懸念に駆られていた。
自分達が生まれ住んでいる二次元界を生み出し、自分達に苦境と悲愴に満ちた運命を与え歩ませた他次元の人間、三次元人。
修司はそんな自分達に非業の顛末を与えた三次元人、その種族の一人であった事実に、聖龍隊は彼と同じ姿の闇人と苦戦を強いられている修司を助ける気が起きなかったのである。
「……みんな…………っ」
真実を知り、それにより修司への見方も豹変させてしまう聖龍隊の皆の真情を悟ったミラーガールは、とても悲しく居た堪れない心境に駆られ蒼然と成ってしまった。
とその時、ミラーガールは悲愴に至りそうな自分の心を奮い立たせ、聖龍隊の皆に言った。
「……みんな……!」
ミラーガールの一声に皆々彼女に顔を向けた。
皆の悲愴や苦悩、暗然とする面差しが目に飛び込むものの、ミラーガールは怯む事無く意気消沈する皆に強い眼差しで語り始めた。
「みんな……確かに私達は……私達の世界はツクリモノだったのかもしれない、創作上の御伽噺なのかもしれないわ……っ! だけど私達が一緒に、共に沢山の困難や試練を乗り越えて今に至ったのは紛れもない事実なのよっ」
「ミラー、ガール……」
ミラーガールの力強い口調にセーラームーンが悲愴な面持ちで呟いた。
強く気高い意志と慈愛に満ちた鏡の如き美しい瞳を皆に向けながら、魔鏡聖女ミラー・ガールは更に語り続けた。
「みんなが、私が……全員が一丸と成って頑張って来られたから私達は今までどんな困難だって乗り越えられたんじゃない。例えそれが別の異世界……別の異次元の人々が創り出した筋書きだったとしても、私は満足よ」
「み、ミラーガール……!!」
聖女の発言にキューティーハニーは心底驚愕し激しく動揺した。
そして魔法のコンパクトで華麗なる聖女を始め多種多様の姿に成り変われる少女は、自分と同じく思想(おもい)から創られ生み出された大切な友等に話した。
「私は……私だって、自分や自分を愛してくれた人達が創作上の、そう物語だったって知ってショックよ。だけど私達は私達に変わりないじゃない……! 此処に居る、一人一人と楽しい時間を過ごせ、仲良くなれた。そうして絆を深めていけたからこそ、どんな困難だって一緒に乗り越えられてこれたんじゃない……。例え……例え、それが決められていた物語であったとしても、私はみんなと出逢えた筋書きを、運命を心から仕合せ(幸せ)だって想えるわ……!」
『………………』「……ミラーガール……」
ミラーガールの煌めく瞳から溢れだす力強い心と慈愛に満ちながらも気高い言葉の数々に、聖龍隊の一同は感極まり思わず無言と化してしまった。
と、ミラーガールが聖龍隊の皆に語り付いているその時
「ぐああぁッ」「はっ!」
突如ミラーガールを始めとする聖龍隊の皆々の耳に入る悲痛な叫び声に、ミラーガールは即座に振り向いた。
すると、振り向いたミラーガールや視線を移した聖龍隊一同の目に飛び込んで来たのは。対峙してる闇人に滅法痛め付けられ、道路に点在している瓦礫に体を叩き付けられ苦悶の表情を浮かべている修司の姿だった。
「修司……ッ!」
散々に体を痛め付けられ追い詰められる修司の現状を目の当たりにし、ミラーガールは悲痛な心境で絶句してしまう。
一方の闇人は薄ら笑いを浮かべながら瓦礫に寄り掛かる修司に歩み寄り、下衆な嘲笑で見下しながら吐き捨てた。
「ひゃははははッ。ほらほら、いくら頑張っても努力なんて実る訳が無いんだよッ。努力は実らず夢は叶わず……それが現実だって理解してるだろうがッ! いい加減ヤメロやッ、無駄な人生歩むよりも終わらせちまおう……そう、この非現実である二次元界と同じになッ!!」
「……ッ……ッ」
悪態暴言を衝く闇人の言動に、修司は肩から息を上げながら自分に吐き捨ててくる闇人を睨みつける。
「……解るだろ? 望んだって手に入らない、それが夢であり理想なんだ。人は手に入らず叶わない願望を絵と云う表現で具体的に表し、そしてそれを変化させて漫画やアニメと云う形で実現できない夢幻(ゆめまぼろし)を具現化している……それがこの二次元界なんだ。お前もいい加減抗うのはやめろ。この世界も、二次元人も……そして自分自身も、全て無くしちまおうぜ」
「……ッ」
完膚なきまでに痛め付けられ苦悶の表情を浮かべる修司に睨まれながらも、修司とは真逆の余裕綽々の微笑を浮かべる闇人は容赦なく修司に吐き続けた。
「お前もこの世界も……誰も救われないんだよ。永遠に出現し続ける敵と、幾度となく戦い続けていかなきゃ為らないのが二次元人の宿命だ。哀れましい程に争い続けなきゃ成らない性(さが)を持って生まれた二次元人……お前はそんな奴等と自分を何処かで重ねているんだろ?」
「…………ッ」
「そう……二次元人はその特殊な能力や使命故に、延々と傷付き戦い……争い続けなければいけない宿命であり、永遠に平和の訪れる事の無い虚しいだけの存在……」
「……」
「……まぁ、お前にとっては楽園だろうがな。生まれ付き破壊と殺意の衝動に駆られ……平穏な現実では異端児として周りから軽蔑されるお前ですら、この二次元世界では思うが儘に破壊行為が出来るのだからな」
見下すような眼と顔つきで修司に語り続ける微笑の闇人、そして闇人は更に自分を睨み続けている修司に彼と同じ顔付きからは想像もできない程の下衆な嘲笑で舌舐めずりを見せながら言った。
「所詮お前も二次元の英雄達と同じ、平穏な人生なんて手に入れられないんだよッ。特殊な能力、特別な使命、そしてお前の様な異形の輩どもは……未来永劫その身が滅び得るまで……! 傷付け合い、争い続ける以外の未来(みち)しか無いんだよッ!!」
「ッ……!」
闇人の発言に顔色を一変させる修司。
と、その時「違うわ!」「……っ?」「ッ……!」突如掛けられた悲痛な声に顔を向ける闇人と修司。
二人が向けた視線の先、其処には目に涙を溜めて悲痛な表情を浮かべるミラー・ガールが、その涙を溜める瞳で二人を見詰めていたのだった。
「アッコ……」「…………」
自分達に向けられる聖女の悲痛な目線に、修司は思わず唖然としてしまい闇人は無言でミラーガールを見返した。
そんな二人に問い掛ける様に、ミラーガールは誠心誠意訴え出した。
「私達の能力は……力は、決して戦う為のモノじゃない……ッ! 此処に居るみんな……みんな! 誰かを傷付け、犠牲にしていく為に戦っている訳じゃないの……!」
「ミラーガール……」
ミラーガールの力強い言葉に若干の感銘を受けるセーラーマーズ。
ミラーガールはそのまま続け様に眼前の闇人に告げ語った。
「私達は何も、好きで戦っている訳じゃないっ。沢山の人の想いを背負い、大勢の命を護る為に……自分にある能力で少しでも力を貸し、手を差し伸べていってるのよ……ッ」
『………………』
涙を目一杯に溜めて語らうミラーガールの言葉に、話を聞く修司や闇人、そして聖龍隊や駆け付けて来た皆々も揃って耳を傾け続ける。
そして最後にミラーガールは力一杯、闇人に言った。
「何も……何も、私達は戦う為に能力を得たんじゃない……! みんなと……此処に居るみんなと一緒に過ごしていける、穏やかな日常を望んでいるのっ!」
「! ミラーガール……っ」「あぁ……っ」
ミラー・ガールの悲痛な心の叫びを聞き、聖龍隊や加勢の者達は情動を揺さぶられ感極まった。
「アッコ……!」
同じくミラーガールの言葉に感銘を受けた修司は顔色を変え、目は薄らと潤んでいた。
しかし一人だけ、ミラーガールの熱い言葉と想いを眼前で聞き入れていた闇人は口元を怪しく笑ませた。
そして闇人は唐突に笑い出した。
「……はは……わっハッハ! 笑えるぜ、こりゃ傑作だ」
「ッ!」「?」
突然前触れも無く高笑いし出す闇人に対し、厳つい顔に豹変する修司と突然笑い出した闇人に困惑するミラーガール。
皆が突然笑い出した闇人に困惑の面差しの表情をする中、当の闇人は腹を抱えながらミラーガールに話し出した。
「はっは……腹で茶が湧くほど笑えるな加賀美あつこ! そもそもの発端は……全てはお前自身にあると云うのになァ」
「え……!?」
闇人の口から発せられた言葉に、困惑していたミラーガールは更に惑った。
「い、言うな闇人……ッ!」
その時、瓦礫に寄り掛かっていた修司が激痛に喘ぐ身体を起こして闇人に言葉を掛ける。
しかし闇人は自分に問い伏せてくる修司を見下した悪態で蹴り飛ばした。
「ふんッ」「ぐッ……」
修司は闇人に軽く足蹴りされ、今度は地面へと身体を叩き付けられ、痛みによりそのまま地面に倒れ込んでしまう。
「あ……!」
闇人に足蹴りされ、地面に身体を預けてしまう修司を目の当たりにして、ミラーガールは再び悲痛な表情を見せる。
そして修司を蹴り飛ばした闇人は、手にしていた剣の切っ先をミラー・ガールに向けて語り始めた。
「ミラーガール! お前は何も気づいていないのだな。つくづく愚かで……いや、憐れな女だなッ! 全ての起源はお前の存在だと言うのによォ……!」
「え……そ、それって……?」
闇人の一言一句に酷く困惑の心情に陥ってしまうミラーガール。
そんな顔に困惑と動揺の色を濃く反映するミラーガールに、闇人は普通に淡々と語り聞かせた。
「ミラーガール、いや加賀美あつこ。お前自身は知らなかっただろうが、お前はこの二次元界でも最も古いタイプの二次元人なのだよ」
「え……!」
闇人の一言に一驚するミラー・ガールに闇人は語り続けた。
「お前自身は気付かなかったか? 周りのヒロイン達が自分同様に変身できる事に……それはお前自身が英雄達と同じ様に変身できるのではない、英雄が……ヒロイン達は全てお前をモデルに生み出された二次元人だからだ! 魔法のコンパクトで……道具によって己の姿を望みのままに変えられる変身願望を持つお前を基に、多くの変身ヒロインや変身系能力を持つ二次元人……如いては極普通の人間であった者に特殊な能力や異形の力が得てしまう発端も、全てお前自身をモデルに創り出された二次元人であるからだ! ……そう其処に居るキューティーハニーにセーラームーン達、ナースエンジェル、魔法騎士(マジックナイト)やコレクターズ、そして新撰組の様な変身が可能な二次元人はもちろん……極普通の人・存在であったのに、ある日特別な発端などで特殊な能力を得た木之元桜(きのもとさくら)に体を改造されてサイボーグに変わり果ててしまった最終兵器のちせも……! 加賀美あつこ、お前を基に生み出されたキャラクターだからだ!!」
「っ…………!」
闇人の口から出た事柄に衝撃を受け、顔や身体を微弱に震わせるミラー・ガール。
「アッコちゃんが……彼女を基に、私達は……」
語られた内容に愕然となるキューティーハニーを始めとした聖龍隊の一同。
そんな衝動に駆られるミラー・ガールや聖龍隊に闇人は怒涛の如く語り続けた。
「そう、多くのヒロインや二次元人達が使命や宿命に縛られ極普通の日常を、平穏を過ごせなくなった根本は……お前自身なのだよ、加賀美あつこッ!」
「私が……私、が……!」
顔に多大なる心痛の色を浮かび上がらせるミラー・ガール。
そして闇人は――腕を構え手の指を怪しく蠢かせ、下衆な面立ちで止めの一句を、悲愴な心情に駆られるミラー・ガールに言い放った。
「お前こそが……全ての二次元ヒロインやヒーロー達に非業な運命を与えた………………元鏡(元凶)なのだよッッ!!!」
闇人の放ったその一言に、聖龍隊の誰もが絶望に駆られる中たった一人強い意思を保っていたミラーガールの不屈の心は折れてしまった。
「て……てめェーー!」
闇人の放った発言に怒り狂った修司は、再び自分と同じ顔である闇人に刀を振り翳しながら突進していった。
「はは、ハハハハハハっ。ハーーハッハッハ……」
聖龍隊の面々に続き、遂に保っていた心を折られ憮然としてしまうミラー・ガールに、ミラーガールの強く輝かしい心を折られた事に怒り狂って猛進してくる修司を目の当たりにした闇人は、一人不敵に、そして下衆な嘲笑を高々と上げ続けた。
[目覚めさせる騎士と湧き上がる意思]
自分達が創作上の存在であった事を告げられ落胆してしまう聖龍隊に続き、自分の存在が数多の悲運な戦いを強いられるヒロインを始めとした二次元人の基盤で在った事を知り失意に浸るミラーガールこと加賀美あつこ。そして二次元人達に幾つもの事実を告げて落胆させ、悲しみに陥れた闇人に怒りの刃を振るう修司。
そんな情景を見る闇人は、まるで絶望に陥る二次元人達に怒り狂う修司等を目にして嬉々とした表情で微笑んでいた。
微笑む闇人は果敢に斬りかかって来る修司の振るう刃を意図も簡単に回避し続け、その顔には余裕を感じさせる微笑を浮かべていた。
「ハァ、ハァ……!」
眼を血走らせ、怒りで冷静さの無く成った剣劇で斬り掛かる修司。
そしてしばらくの間、修司の刀による猛攻を飄々(ひょうひょう)と回避し続けていた闇人が、不意に素手で在った右手から太刀を出現させて刀を振るう修司目掛けて振り翳した。
「ぐッ」
突如闇人が振ってきた太刀を、修司は自分が振るっていた刀 聖龍剣で防いだ。
だが修司が刀で闇人の太刀を防いだ瞬間、太刀を受け止めた拍子に聖龍剣が弾き飛ばされてしまったのだった。
「あ……ッ!」
刀を弾かれ丸腰の状態に成ってしまった修司は酷く動揺する。
と、修司が動揺しているその隙に、闇人が手にしている太刀を修司目掛けて振り下ろした。
「そりゃァッ」「!」
太刀を振り下ろす闇人、そして闇人の攻撃に敏感に察する修司。
次の瞬間、修司は闇人が振り下ろした太刀を寸での処で白刃取りして動きを封じた。
「ぐ……ッ!」
真剣白刃取りにより、辛うじて顔の間近で太刀の動きを止める修司。
しかし太刀を挟み込み受ける両手は、太刀に込められる力に何とか抵抗するので精一杯であった。
そんな修司の苦境に追い込まれる現状を、複雑な心意で見据える聖龍隊やミラー・ガール。
修司はそんな情景の中、必死に自分の頭上に振り下ろされそうになる太刀を両手で受け止めていた。
されど、修司の手や腕は震え出し、少しでも力を抜いてしまえば漆黒の太刀は修司の頭部を襲う事であろう。
必死に、懸命に太刀を受ける修司。そんな修司に闇人は言葉を掛けて惑いを誘った。
「……いい加減諦めろ。生き続けたって何も良い事無いじゃないか。お前には自分の死を、存在に対して何も感じてはくれない連中ばかりが周りに居るじゃないか」
「ッ……」
「二次元人達だって最早そんな連中と同じだ……事実を知ったアイツ等がお前を受け入れてくれる訳がないだろう。そう、お前は誰にも受け入れられず……只一人、孤独の中で生き続けるしかない性分であるのを忘れた訳じゃないだろ?」
「…………ッ」
闇人の発する言葉に顔を歪ませ始める修司。
そして闇人は聖龍隊の皆にも聞こえるほどの声量で、更に修司の惑いを誘って見せる。
「もう良いんだ、楽に成ってよ……辛い中を無理に生きる必要なんてないんだ。辛い人生はもう……終わらせても良いんだよ」
「ッ……ッ……」
修司の顔に若干に困惑の表情が見え始めると、闇人は容赦なく修司に追い打ちをかけた。
「死ぬ勇気が無いからって、無理に生き永らえなくても良いんだ……。死ねないのなら俺が手を貸してやる……なぁに、お前はたんに全てを諦めて体の力を抜けば、それだけで全てが終われる」
闇人は修司に体の力を抜けさせる様に問い掛け、自身が力を込める太刀を修司に浴びせようと試みる。
修司の顔色に微弱ながらの悲痛な面持ちが見え始めるのを確認した闇人は、最後に修司に穏やかな口調で語り聞かせた。
「昔っから勇気が出なくて辛かったんだよな……一思いに死のうと学校の屋上や駅のホームから飛び降りようとしても、怖くて飛び降れず余計苦しむ事と成ってしまった。それと同じく、カッターや刃物で手首や首の動脈を切り付け命を断とうとしても、痛みが怖くて出来なかった臆病で出来損ないの自分に腹が立ち……遂には知識不足から、薬なら何でも大量に飲めば死ぬ事が出来ると思ったお前は大量の風邪薬や頭痛薬を一片に飲み干した。だが結局は死ぬ事が叶わなかったお前に、無情な母親は「何バカやってるの!」とお前を蔑むばかりで誰もお前の苦境を、真情を理解してくれる者は居なかった現実……お前はそんな現実を、そしてそんな現実を生き続けなければならない自分の立場を心から憎み嫌ったんだよなぁ……」
『!!』
闇人が修司に語った話に、聖龍隊の皆は全員驚愕し愕然となった。
そして一方の修司は、今にも気を失いそうなほどの蒼褪めた悲愴な面持ちに表情を豹変させていた。
自分に太刀を振り下ろす闇人への対抗心、そして自身の意思が次第に弱まると同時に消えていく生への想い。
太刀を受け止める修司の両手の力は、少しずつ確実に減り消失していった。そう、修司の生きる意思が消滅するのと同時に。
遂に修司の目からは完全に生気が失われ、それと同時に腕の力が一気に落ちた。
それを感じ悟った闇人は、狂気に満ちた瞳と面立ちで修司に受け止められていた太刀に、力を一気に込めた。
「死にやがれぇッ!!!!」
狂気に満ちた叫びを上げながら、闇人は太刀を一気に振り下ろす。
「ッ……!」「っ……!」
聖龍隊もミラー・ガールも、誰もが修司の最後を悟った。
その時だった。
空を切る様な音が聞こえたと思いきや、それと同時に闇人が修司に振り下ろしていた太刀が弾かれた。
「何奴ッ!?」
太刀を弾かれた闇人は顔を一方向に向けた。
それと同じく、聖龍隊もミラー・ガールも、そして闇人の太刀が弾かれた拍子に地面に尻を着く修司自身も闇人と同じ方向に顔を向けた。
其処には一人の人物が、一歩一歩静かに、確実に歩み寄って来ていた。
「……いい加減にしろ……ッ。いつまでウジウジしてやがるんだ……ッ!」
「お、お前は……!」
「……!」『!』
突如姿を現し、顔の口元には苛立ちの心情を浮かべるその人物を見て、闇人は驚き動揺し、修司は絶句し、ミラー・ガールや聖龍隊は一驚した。
闇人や修司、聖龍隊やミラー・ガールの視線の先で佇んでいたのは。
青と白の西洋の騎士をモチーフにした様なコスチューム、右手には通称蛇腹剣(じゃばらけん)と呼ばれる剣劇と鞭の二つの特性を用いた蒼く透き通った剣を所持している一人の少年。
「お前……何故、此処に……!」
その少年に対し闇人は驚きつつも問い質す。
すると闇人に続き、地面に座り込む修司も突如姿を現したその少年を一目見て、目を丸くしながらも震える唇で名を呟いた。
「き……キーオ……ッ」
修司に続き、ミラーガールも彼の名を口に出した。
「キーオ……!」
現れた少年、それは此方の世界では姿桐男(すがたきりお)の名で生活していた時期もあった、加賀美あつこに魔法のコンパクトを授けた鏡の国の女王の息子で、実質鏡の国の王子であるキーオ、その彼が扮するもう一つの姿 魔鏡騎士ミラーナイト当人だった。
ミラー・ナイトは厳つい面差しで地べたに座り込む修司に問い掛けた。
「修司……! お前の……お前が俺に語ってきた覚悟はそんなものかッ!」
「ッ!」
ミラーナイトの一言に体を震わせ反応する修司、ミラーナイトはそのまま悲愴な面立ちの修司に問い続ける。
「お前は何のために戦ってきた……! お前がこの二次元界で感じた、みんなの想い……学び得て来た滾る意思……! それは全部、紛い物だったか……!? ……お前なら解る筈だッ」
「!」ミラーナイトの一言一句に驚嘆し絶句する修司。
更にその際、ミラーナイトは自分の足元に転がっていた修司の得物 聖龍剣を手に取り、徐に修司の方へと放り投げた。
自分の目の前に放り投げられた聖龍剣を見ても尚、修司の眼には迷いと絶念の思想が取り巻いていた。
そんな修司の心情を察したミラーナイトは、厳つい表情を変えずに迷走し続ける修司に熱く語り問うた。
「お前が、この二次元界で感じ得た多くの二次元人達の想い……そして彼等が伝えていく、後世にすら語り継がれる数多のメッセージ……! 全部忘れた訳じゃないだろッ!」
「…………」
ミラーナイトの台詞に意思消沈していた修司は激しく心を揺さぶられた。
更にミラーナイトは眼力一杯の険しく強い面魂(つらだましい)で修司に告げ続けた。
「修司! お前が護りたかったのは、本当は英雄達でも無ければ、この世界の二次元人達でも無い……! 英雄達、ヒロイン達……それらを始めとした数多の二次元人達、彼らが伝え遺してくれた物語、いや物語という伝説では無かったのか……!?」
「……!」
ミラーナイトの迫真の一言一言に返す言葉も儘為らない修司。
そんな愕然の面立ちで絶句する修司に、突如として姿を現したキーオことミラーナイトに驚愕してしまってる聖龍隊――彼等が見詰める中、ミラーナイトはその表情に更なる強い意志を表に出しながら修司に告げる。
「お前は……お前なら必ず自分に打ち勝てる筈だ! 何故なら……」
ミラーナイトは自身の拳を震わせて、そして一気に自分の真情を修司に吐き出し、言い放った。
「何故なら、お前は……! 俺が……俺が生まれて初めて……惚れた女が! 心から愛し、信じている男なんだからなッ!!」
「ッ……」『!!』「! ……き、キーオ……!」
ミラーナイトの口から飛び出した彼の辛苦の心情が悟られる告白に、言葉を投げ付けられた修司も眼前でミラーナイトの話を聞いていた聖龍隊も、そしてミラーガール自身も驚愕し一瞬で顔色が変わった。
ミラーナイトから告げられた力強い声援、そして彼の口から吐き出された修司自身への本音と募っていた恋情を耳にし、失意の心中であった修司は眼前に放り投げられている自分の得物である聖龍剣に視線を向けた。
視界に聖龍剣を捉えた修司は、ゆっくりと放られた聖龍剣に手を差し伸べる。
そして聖龍剣を手に取ると、白銀に輝く刃に暗鬱な自分の顔が映し出されているのに、修司は気がつく。
聖龍剣に反映された自身の顔を見詰め続けていく内に、修司の中から何か言い様のない熱いモノが込み上げて来た。
刃に映る自分の暗鬱な表情を見ながら。かつての自分の力強い意志を思い返す修司。
空虚な心、欠けた心から、再び込み上げてくる想いに、修司は駆り立てられていく。
修司は聖龍剣を右手に握りしめると、そのままゆっくり立ち上がって見せた。
「う……ッ……うおおおおぉぉおお……!」
低い唸り声を発しながら、まるで産まれたばかりの獣の子が立ち上がるかの如く、修司は再び自分の中に秘めていた信念を湧き立たせた。
「ッ…………!」
立ち上がる修司を見て、動揺の色を隠せない修司と同じ顔の闇人。
そんな闇人同様、立ち上がる修司を目の当たりにする聖龍隊の面々は、その修司の顔立ちを見て驚いた。
先ほどまで、今にも死にそうだと感じ取れてしまう程の弱々しい面立ちであった顔とは違い、その顔には今までに無いほどの強い意志と信念が浮き出た厳つい面魂に変わり果てていたからだ。
己が内に再び底の無い闘志と信念を滾らせる修司は、痛みに喘ぐ身体を耐え凌ぎつつ、眼前の闇人に聖龍剣を向けた。
「はぁ……はぁ……!」
再び立ち上がり闘志を向けてくる修司を見て、闇人は酷く動揺していた。
「ま、まさか……!」
驚く闇人であったが、スグに己の心理を切り替えて、再び微笑しながら修司に語り掛ける。
「ふふ……ははははッ。なんだ、まだヤルのかよ」
すると修司は闇人を睨み付けながら、彼に自分の闘志を伝える。
「……ああ、まだだ。まだ……まだ、終わらせたくな、いや……ゼッテぇ終わらせねえ……!」
ゼェゼェと呼吸で厳つい目付きによる睨みを闇人に向ける修司を見て、ミラーガールや聖龍隊の面々は誰もが言葉を呑み込み愕然と立ち尽くしてしまう。
と、再び闘志を奮い立たせて、刀を闇人に向けて構える修司の鬼気迫る風貌を目の当たりに、二人の対峙を無言の静寂で見続けていた聖龍隊の中から二人の人影が歩み出した。
その二人の内、一人は修司と闇人の対峙を前に立ち尽くしている聖龍隊の一人、デューイに一言発した。
「……デューイ」「!?」
突然声を掛けられ戸惑うデューイに、その者は言った。
「これ……借りるぜ」
そう言うと彼は、徐にデューイが腰に下げている剣を手に取り、デューイが有無も言わないまま剣を鞘から抜き取り、そのままもう一人と共に修司の方へと歩を進めた。
「んっ……?」「ッ……」
自分達に歩み寄って来る二人に気付き、何事かと気に掛ける闇人に横目で二人を視界に捉える修司。
歩み寄る足を止め、徐に闇人と対峙する修司の両側で立ち止まるその二人に、闇人と修司は声を上げた。
「お前等は……ッ!」「ば……バーンズ……! ジュニア……!」
唖然と無言の傍観に徹してしまっていた聖龍隊の軍勢の中から修司の両側まで歩み寄ってきたのは他でもない、修司の相棒であった実質聖龍隊での№2の実力者でもあるメタルバードことバーンズ・ウィングダムズ・キングズ。そして修司の良き弟分である義兄弟のジュピターキッドことジュニア・J・プラントの二人であった。
二人を見て修司は、素姓を偽り皆を欺き通してきた自分に対し激しい嫌悪感を、バーンズとジュニアも他の聖龍隊と同じく心の奥に抱いていると思っていた為、自分の両側まで歩み寄ってきた二人の行動に多大なる驚きを感じ取った。
そして驚いている修司に、先ず闇人の力によって特殊能力を封じられた為に元の姿に敢えて戻っているバーンズが話し掛ける。
「修司……今はお前が誰だろうが、オレ達のこの世界が全て虚構の物語であろうが……先ずは目の前の闇人を……お前と瓜二つの野郎を倒す事が何よりも先決だ……!」
「………………」
いつもと違い険しい真顔の顔立ちで眼前の闇人に、先ほどデューイから有無も言わないまま借りた剣を向けるバーンズに、修司は思わず衝撃を受けた。
バーンズに次いで、同じく険しい真顔の童顔でキッドも続けて修司に話し掛ける。
「その通りだ……! 僕達が、世界が……例え物語で在ったとしても……! 僕達がやるべき事は変わらない! 僕等の世界を……みんなの世界を、壊させて成るものかッ!」
「……!」
いつもは父親同様、冷静で落ち着いた性格のキッドが放つ力強い熱弁に、修司は非常に驚かされた。
そんな三人のやり取りを眼前で見せ付けられる闇人は、不敵な笑みで三人に言い放った。
「ふははは……! 無駄だ無駄だ、この世界は……お前達、物語の連中など誰も求めちゃいない! 絵の上だけの……絵空事の夢幻なんか存在しているだけで鬱陶しい!! お前達はな、三次元人が持つ事が出来ない……得られる事が出来ない、夢や理想から生まれただけの虚しい存在なのだよ……!」
だが、この闇人の発言に対し、バーンズとキッドは返した。
「ウルセぇ……! オレ達が何者だろうと、この世界が偽りの世界だろうと……オレがお前を叩きのめす事には変わりねえんだよ」
「例え、僕達を含んだこの世界の全てが偽りの……虚構の存在だったとしても、僕達がこの世界で歩んできた道のりは確実に有ったんだ。……消されて堪るもんか」
デューイから借りた剣の切っ先を向けて宣言するバーンズ、顔に装着していたジュピターキッドのアイマスクを外しながら述べていくキッドの発言を聴いた闇人は、その表情に若干の焦りを浮かべた。
バーンズ、ジュニア、そして修司の三人に闘志を向けられ追い詰められた闇人は、突然自らの影から三つの黒い影を分離させ、自身の周りに配置してみせた。
「ッ!」「ッ?」「ッ……!?」
自身の足元に生じていた影から三つの動く影を飛び出させた闇人の行動に驚くバーンズ・キッド・修司。
そして闇人の影から出て来た三つの影は、蠢くように形となって次第に地上から立体的に浮き出て来た。
修司・バーンズ・キッドの三人が険しい目で見つめる中、三つの影は完全な人型と成り、三人の前にその全貌を現した。
「なッ! こ、こいつは……!」「……!」「ッ……」
バーンズ、キッド、修司は 目元に動揺の色を浮かばせて驚いた。
闇人の影から分離した三つの影、それが何と闇人と、いや小田原修司と瓜二つの姿をしている漆黒の三人組に変貌した。
三体の分身を自身の影から作り出した闇人は、作り出した三体の分身共々、眼前の三人を睨み付けた。
『………………』
険しい面立ちで眼前に立ち塞がる闇人と彼が作り出した三体の分身と対峙する三人。
そして闇人は修司達三人に言い放った。
「さぁ、これで俺の方が分が良く成った。四対三、頭数では此方が有利だな」
闇人の指摘に、修司達は彼らに対し警戒をしつつ攻撃に備える態勢に身構えた。
と、その時だった。
「何を言ってやがる……お前は満足に計算すら出来ないのかよ」
そう言って、先ほど姿を現したミラーナイトが修司達の方へと歩み寄ってきた。
「?」ミラーナイトの発言に困惑する闇人。
そしてミラーナイトは修司達のグループに加わると、再び闇人に告げた。
「ほら、良く見てみろ。……これできっちり四対四じゃねえか」
「ッ!」「き、キーオ、お前……!」
自身も修司達に加勢する形で戦闘に加わると宣言するミラーナイトの発言に、闇人も修司も非常に驚愕した。
そんな驚愕する修司に、ミラーナイトは対峙する闇人と分身三体から目を逸らさず話した。
「修司、俺達は分身の方を処理する。お前は、自身の分身でもある闇人と決着(けり)を付けろ。……お前は、お前に勝つべき時は今だ!」
力強いミラーナイトの一言一句による台詞を耳にし、修司は彼と同様の力強い面差しで頷いた。
そして遂に、本当の決着が始まろうとしている。
修司、バーンズ、ジュピターキッド、ミラーナイト。
闇人、そして彼が生み出した三体の分身。
目の前に居るのは、自分の空虚な心が生み出した禍々しい分身。そして例え物語で在ろうと、自分達にとっては掛け替えのない生まれ育った大事な世界を破壊しようとする倒すべき敵。
一人の三次元人と、三人の二次元人の少年達。一人の三次元人と瓜二つの顔を持つ、皆が大事に思い焦がれる世界を壊そうとしている黒い者と分身達。
それぞれの思想(意思)は様々で違えど、自分達の命運を賭けた最後の一線に、少年達は挑む覚悟を腹に決めていた。