聖龍隊 気高き二次元人達   作:セイントドラゴン・レジェンド

16 / 17
 今回が一応最終話ですが、補足の話としてエピローグもアップする予定であります。

 まだまだオリキャラや話の全貌が明らかに成っていない個所は、後にアップするエピローグにて御教えする予定であります。
 主人公の正体および、その心理の真実が明らかに。

 EDはエンディングの略です。この曲は、タイトルはもちろん歌詞も主人公や周囲のキャラ達の心情を表していると思い、載せました。


聖龍伝説  気高き二次元人達  決着(終焉)

[chapter:三人の勇将と闇の分身]

 

 闇人より生み出された三体の分身、それと対峙するのは。

 仲間であるデューイより剣を借りては、それにて奮闘するバーンズ。

 同じ広範囲を攻撃できる武器を持っている事で、二人で二体の分身と共闘するジュピターキッドとミラーナイト。

 一人と一体、二人と二体は、それぞれ火花を激しく散らしながら熾烈を極める戦いを繰り広げていく。

『……………………』

 目の前で激しい烈戦を繰り広げる各々、そして彼等同様に自身の分身とも言える闇人と真向から衝突し激戦を開始する修司を見て、その激烈さに思わず無言で戦いを傍観する聖龍隊の面々。

「……バーンズ、ジュニア君……キーオ……修司……」

 そして先程、闇人から自身の存在についての事実を指摘され、憮然の境地に至ったミラーガールは眼前で激しく衝突しあう皆々を悲観していた。

 

 そんな闇人の分身と烈々に激戦を続ける一人、バーンズであったのだがデューイから借り取った剣で果敢に斬りかかっていくが、分身の方は余裕綽々でバーンズの剣戟を避けていくばかり。

「く、クソ……! ちょこまかと……ッ!」

 振り回していく剣戟を意図も簡単に避けてみせる分身に、バーンズは次第に苛立ちを募らせていった。

 と、その時だった。

 必死に剣を振り続けるバーンズの剣を、闇人の分身は一瞬の隙を衝いて奪い取ってみせた。

「ッ!」「あぁ……ッ!」

 剣を取られ愕然となるバーンズに、その光景を見ている聖龍隊の面々も一驚した。

 そして次の瞬間、分身はバーンズから取り上げたデューイの剣を振り下ろし、バーンズの左肩から腰の辺りまで一気に斬り裂いた。

「ぐはッ……!」『ッ!!』

 身体を斬り裂かれ悶絶するバーンズに、その情景を目の当たりにして驚愕する面々。

「バーンズ……!」

 肩から下方に一直線に裂かれたバーンズを見て衝撃を受けるミラーガールは思わず叫んだ。

 するとバーンズは裂かれた身体を後ろへよろめかせつつ口元に苦笑を浮かべ、裂かれた肉体をゆっくりと接着させていった。

「バーンズ、あなた……!」

 身体を裂かれたバーンズを見て心配するセーラーヴィーナスの言葉に、バーンズは苦笑いを彼女に向けながら返した。

「へ、へへ……結構痛いが、何とか再生で補えるから……大丈夫だぜ、ヴィーナス」

 そうヴィーナスを始めとした聖龍隊の皆に告げるバーンズは、言葉を告げながら同時に裂かれた箇所を少しずつ接着するように、身体を再生させていった。

「イテテて……畜生、よくも……! ……ん、待てよ(……ハッ、そうか!)」

 斬られた身体を再生させていくバーンズは、眼前の分身と向かい合う中、ある事に気付いた。

 と、身体を再生し終えたバーンズに分身が、バーンズより奪い取ったデューイの剣で再度バーンズに斬り掛かって来た。

「ッ!」

 自分に斬りかかって来る分身に気付いたバーンズは、咄嗟に振り掛かって来る剣を避けて見せ、分身の背後に回ったその瞬間。

「そりゃッ」「!」

 バーンズは自分の身体をスライムの様な軟体の状態に変化させて、分身の身体に纏わり付いた。

「あっ!」「バーンズ……!?」

 前触れも無く自身の身体を御得意の軟体化にして、分身の身体に纏わり付くバーンズを見て驚愕し困惑するキューティーハニーとミスティーハニー。

 そして身体に纏わり付いて分身の自由を封じたバーンズは、更に分身の身体に絡み付きつつ呟いた。

「へへ、やっぱりな。闇の領域(テリトリー)は特殊能力を封じる事は出来ても、身体能力までは封じられない訳か」

 分身を生み出した闇人の作り出した闇の領域(テリトリー)。全ての特殊能力を無力化し、ヒロイン達の力ですらも封じて使用できなくする闇の力。しかしバーンズの様な軟体生命体の身体能力には闇の力は効かない事に、バーンズは気付いた。

 バーンズはそのまま闇人の分身の体に纏わり付き、瞬時に自身の身体から翼を生やすと上空に高々と飛び上がった。高層ビルよりも、そして天空の雲上よりも高く飛び上がる。

 そして雲上に辿りついたバーンズは、一気に真下に向かって垂直に錐揉みしながら急降下した。

「さあ、これでも喰らいやがれッ……!」

 身動きを封じた分身共々、物凄い速さで急降下しつつ落下に回転を加えていくバーンズ。

 雲を突き抜け、摩天楼のビルの屋上を過ぎ、バーンズは地面擦れ擦れの所で分身の体から離れ、分身だけが急回転しながらアスファルトの地面に叩き付けられた。

 地面に激突すると同時に舞い上がる土煙、その煙が次第に晴れ上がると、その中から現れた闇人の分身は、大破したアスファルトの地面に出来たクレーターに頭から突き刺さった状態で動かなくなっていた。

「へ、へへ……や、やったぜ……はぁ」

 動かなくなった闇人の分身を確認したバーンズは同時に身体の力が一気に抜け落ち、後ろへと倒れ込んでしまった。

「バーンズ!」

 仰向けで地面に倒れ込むバーンズを見て声を上げるミラーガール、そして彼に気を掛ける聖龍隊の面々。

 一方、当のバーンズは一人、灰色と化してしまった空を仰向けで見上げながら溜息を衝きつつ想った。

(ふぅ……もう、動けねえぜ……はは)

 最初から今の今まで激しい戦闘を続けていたバーンズは、体に蓄積された疲労で動く事すら困難となり、思わず余韻に浸りながら苦笑を浮かべた。

 かつて自分の家族、そして文明までも人間の武力によって滅ぼされた人外の少年は、一人灰色と化した大地に仰向けで寝そべり、灰色の空を見詰め続けた。

 

 一方その頃、ジュピターキッドとミラーナイトは二人で協力し合って二体の闇人の分身と対峙していた。

 激しい火花を散らし衝突し合う四人であったが、キッドとナイトの方は分身二人に圧されていた。

「はぁ、はぁ……」「ハァ……き、キリがないぜ……」

 二人の表情からは明らかな疲労が目に見えていた。

 だが、そんな二人と対峙し戦っている二体の分身達は、お面の様に無表情な面を変える事無く、そして疲れる事無く戦闘態勢に身構え、二人を睨み付けていた。

「か、彼等は闇人同様……僕たち聖龍隊側の英雄達が使える技に能力が、自在に使えてしまうようだ……」

「い、今まで鏡の国で色んな戦いを眺めては来たが……此処まで真似る事のできる奴は草々居ねえぜ」

 苦悶の表情を浮かべる二人の少年は、自分達を始めとしたこの二次元界の幾多の英雄や能力者の力を自在に使いこなせる闇人、その分身をジッと険しい面差しで見詰めた。

 そして彼等と対峙する二人の分身は、それぞれ右手に再度武器を出現させてジュピターキッドとミラーナイトに攻撃を仕掛けようとする。

「ヘッ、今度は光とイサミの武器を真似しやがったぜ」

「いい加減、僕等のモノマネの芸当は止めてほしいよ」

 魔法騎士(マジックナイト)の獅堂光(しどうひかる)と新撰組の少女花丘イサミ等が使用する武器を右手に出現させ敵意を向ける二体の分身を、キッドとナイトは荒い息遣いで睨み返した。

 二人は互いに背中を合わせ、自分達を挟み合う二人の分身相手に、どう立ち回ろうか頭の中で思索に更けた。

 と、その時「ッ、そうだ。……ミラー・ナイト、ちょっと」「ん?」

 何かを思いついたのか、キッドがナイトに耳打ちをする。

 誰にも聴こえない程の声量で自分の思案をナイトに伝えるキッド。

 そしてキッドから彼の思案を伝え聞いたナイトは徐にキッドに訊き返す。

「上手くいくのか? そもそもそれじゃ、あの分身達が真正面から此方に攻撃を仕掛けて来ない限り、こっちから仕掛け返す事が出来ないんだぞ」

 するとキッドは険しい面立ちでナイトに言葉を返した。

「多分、大丈夫。さっきからの闇人の言動や感情の昂りを見ると……確実に小田原修司と非常に酷似している……! 闇人が攻めッ気の多い義兄さんと全く同じなら、その分身である彼等も同じように自分から此方に仕掛けてくるのは目に見えて解る」

「………………」

 キッドの冷静かつ的確な判断に、ナイトは唖然とし言葉を失くす。

 そして案の定、二人の分身はキッドとナイトに真正面から向かって行った。

「よし、来たぞ!」「……」

 キッドとナイトは一直線に向かってくる分身二人に対し、背中を合わせて互いにそれぞれの分身の攻撃に備えた。

 そして分身二人がスグ眼前に駆け寄った瞬間、キッドとナイトは一斉に駆け出し、各々の分身の攻撃を掻い潜った。

「ぐッ」「ッ!」

 しかし分身の攻撃を少しばかり回避し切れず、掠り傷を負ってしまう。

 だがその瞬間、キッドは上半身をひねり後方に向かって力の限り鞭を振るった。

「そりゃっ」「!」「!」

 キッドの振るった鞭は二人の分身、その二つの首に巻き付き締め上げた。

 首に鞭を巻き付かせ、二人の動きを同時に封じて見せたジュピターキッド。すると

「はっ!」

 其処にミラーナイトが自身の得物である蛇腹剣ミラー・ブレイドで身動きできない闇人の分身二人を縦横無尽に連続で斬り付けた。

 一心不乱にミラー・ブレイドを振り付け乱れ狂う斬撃を浴びせ続けるミラーナイト。

 そしてミラーナイトの攻撃が済むと同時にキッドが分身二人の首に巻き付けていた鞭を解き、再び身構える。

 互いに攻撃の態勢に身構えるミラーナイトとジュピターキッドは、最初とは立ち位置が逆転した二人の分身を板挟みしつつ、分身達に得物を向けて言い放った。

「これで……!」「最後だッ」

 二人は一気に闇人の分身二体に向かって走り出し、そしてナイトとキッドは二人同時に闇人の分身二人に硬化させ剣状に変化させたキッドの鞭とミラーナイトのミラー・ブレイドで同時に止めを刺した。

 止めを刺された闇人の分身二人は、有無も言わずそのまま消滅した。

「はぁ、はぁ……」「ハァ……」

 二体の分身の消滅を確認したキッドとナイトは荒い呼吸の中、互いに顔を合わせて言葉を交わす。

「や、やったな……」「う、うん……! はぁ」

 ナイトとキッドは一言交わすと、溜まりに溜まっていた疲労で双方とも突然その場に座り込んだ。

 特にジュピター・キッドの方は変身を維持できないほど疲労が溜まっていたのか、地に膝を着いた途端変身が解除され、元のジュニアの姿へと戻ってしまった。

 

 こうして三人の勇将は、死力を尽くして闇人が生み出した三体の分身を撃破した。

 

 

 

 

[迷いを打ち払った鬼神]

 

 一方の修司と闇人は

 

 輝く鏨(たがね)の日本刀/聖龍剣、闇の力により作り出された漆黒の剣。

 修司と闇人。互いに同じ顔立ちである二人は、寄り激しく、寄り火花を散らして各々の得物で激突していた。

 だが、先程の劣勢を跳ね返す勢いなのか、闇人が次第に修司の猛攻に対し圧され始めていた。

「くっ……!」「ッ……!」

 追い詰められていく闇人に対し、修司は厳つい顔立ちで闇人に刀を握り締めて迫っていた。

 その時、闇人は修司に説き掛ける様に語り始めた。

「お、お前だって解っているだろ。どんなに有名なキャラクターでも……名を馳せた名作だとしても……結局はタダのおとぎ話だ、創作物だ! いつかは人々から忘れ去られ、誰も気にしなくなる……!」

「………………………………」

「……解っているのか! どんなに護り切ったとしても、結局いつかは御伽噺と云うモノは誰からも見向きもされなくなる……! お前のやっている事は、結局無駄に終わるだけなんだよッ」

 修司に説き掛け言い寄る闇人、しかし修司は彼を睨み付ける鋭く末恐ろしい眼光を消さず、そのまま静かに言葉を返した。

「黙れ……!」「! ……」

 修司の発した一言に驚愕する闇人、そして修司は殺気に満ちた厳つい眼光で眼前の闇人に刃を向けて続けて言葉を発した。

「黙れ……!!」「……ッ!!」

 途切れる事のない修司の底のない闘志と殺意を感じ取った闇人は、もはや修司の中で滾る戦意と闘志が消え去る事は皆無だと悟り愕然となる。

 そして再び修司は正面の闇人に猛々しく刀を振るい出した。

「クッ」

 修司の戦意を削ぐ事が不可能に陥ってしまった闇人は、修司同様再び漆黒の刃で対峙するのであった。

 

 激しい剣戟の最中、闇人は修司の刀を弾き飛ばすと同時に修司の首裏の襟の部分を掴むと後方へと投げ飛ばした。

 だが闇人に投げ飛ばされた修司は地面に叩き付けられる直前、地にしっかりと両足を着地させ、自身の襟首を掴んでいた闇人の腕を左手で掴み返し、そして逆の右手で闇人の胸ぐらを掴んだ瞬間、そのまま投げられた勢いを利用して闇人を投げ返した。

「グッ!」地面に投げ付けられる闇人。

 修司はそんな闇人に対し右足を高く上げ、そのまま右足を闇人の顔面に向けて力の限り振り下ろした。

「!」

 闇人は寸での所で修司の足踏みを回避したが、力一杯振り下ろされた修司の右足は、その強烈な威力によりアスファルトの地面に巨大なクレーターを作り出した。

「クッ……はぁ、はぁ」「っ……っ……」

 再び睨み合う闇人と修司、その異様なまでの情景に傍観に徹している聖龍隊の面々は思わず黙然としてしまっていた。

 

 しばし睨み合いを続けていた修司と闇人、だが次の瞬間、二人はその沈黙を破るかの如く一斉に駆け出し刀剣を振るい合った。

『うおおぉッ!!』

 雄叫びを上げながら二人の得物は激しく衝突し合った。

 と、その瞬間、二人の得物がぶつかり合う衝撃なのか、二人を中心に衝撃波が発生した。

「うわあっ!」「くっ……」

 凄まじい衝撃波に、思わず怯んでしまう女子たち。

 一方の修司と闇人は、互いに一歩も退かず激しく刃を振るい、ぶつけ合う。

 二人の刃が激突する事で生じる凄まじい衝撃波は、何と天高く聳え立つビルの窓ガラスを割り、砕け散った無数のガラス破片が地上に降り注ぐ。

「きゃあっ」「る、ルリ子!」

 降り注ぐガラスの破片に驚き戸惑う聖龍隊の一人、鎧天狗こと芹沢ルリ子に浴びせられるガラスの破片を、身を挺して防ぐ恋仲の銀天狗こと田能久健。

 二人と同様、他の者達も自分等に降り注ぐガラスの破片に戸惑い慌てふためく。

「ひぃッ!」「あ、危ない!」

 ガラスの破片から自身を護ろうと頭を押さえるゴールデン天狗こと印堂陽に、からくり天狗こと東上別府高丸。

『きゃあっ』

「そ、そんな……! まさか、刀と剣が衝突するだけで此処までの衝撃が……!」

 降り注ぐ破片に思わず互いを抱き合って身を伏せるタピオカ・ライチに、修司と闇人の激しい衝突により生じる衝撃波に目を疑ってしまう長女のジャスミン。

「な……なんて凄まじい……!」

「修司と闇人……二人の武器が、闘志が激突する度にあの衝撃波が発生するのか……!?」

 凄まじい衝撃波、そしてその衝撃波の元と成っている修司と闇人の闘志のぶつかり合いを目の当たりにし、息を呑んで驚愕し尻込みするプリンスゼラにカノン。

「な、なんと凄まじい闘いなのだ……!」

「こ、これでは迂闊に近づく事すら出来ない……」

 修司と闇人の凄まじい激戦に思わず目を奪われてしまうクレフにランティスであったが、その時フェリオが刃と刃を激しく振るい合っている修司と闇人の二人を指差した。

「あ、いけない! 二人にもガラスの破片が大量に……!」

 皆が視線を向けると二人の頭上から、大量のガラスの破片が雨の様に振って来たのであった。

 視線を向けた誰もが、闇人と対峙している修司の身が危険だと察した。しかし

「うりゃうりゃうりゃうりゃッ!」

「おらおらおらおらッ!」

 修司と闇人は互いに刃を衝突させ合い、既に周りが見えていなかったのだ。

 そんな二人にガラスの破片は容赦なく降り注いだ。だが

「うりゃーーッ!」「うおぉおおお!」

 天をも貫く雄叫びを上げながら激しく刃を衝突させる二人、その二人の激突する刃から発せられる凄まじい衝撃波が降り注ぐガラスの破片を粉々に砕いた。

 二人は刃を衝突させ発生させる衝撃波で微塵のガラスの破片を撥ね返し、粉々の破片に光が乱反射する事で形成された煌めく光の半球の中を、只ひたすら刃を交え続けていた。

 ガラスの破片を砕き、光り輝く半球の衝撃波の中を凄まじい気迫で刃をぶつけ合う修司と闇人。

 そんな二人の鬼気迫る闘いを目の当たりにし、闇人の分身と決着を付けたバーンズにジュニアそしてミラー・ナイト、弾かれるガラスの破片で煌めく衝撃波の中で闘い合う二人の様子に思わず見惚れてしまう聖龍隊の面々、そして先程とは違い血相を変えて奮闘する修司の気迫に驚くミラー・ガール。皆、誰もが言葉を失くして修司と闇人の一騎打ちを傍観する。

 

 しばし激しい衝突を繰り返す修司と闇人であったが、最後の刃の激突を皮切りに二人は弾かれる様に互いとも距離を置いた。

「はぁ、はぁ……」「はァ……ッ」

 荒い呼吸で眼前の闇人に視線を逸らさず直視する修司に対し、闇人の方は呼吸を荒く吐くと口元を歪ませて修司を睨み返す。

 肩で呼吸をする二人は、しばし互いを睨み続け、決して視線を逸らさない。

 重く険しい空気が辺りに流れる中、二人の一騎打ちを複雑な心境で見守り続ける皆々。そんな皆の中でも、特にミラー・ガールは修司の安否を気にし、自然と手を胸の辺りで組み、愛しい少年に祈りを向けた。

 そして次の瞬間、修司と闇人は駆け出し再び刃を激しく衝突させ合った。

「うわァーーーーッ!!」「うぉおおーーッ!!」

 激しい感情を剥き出しにし雄叫びを上げて互いの刃を振るってく二人は一層火花を散らして闘い続ける。

 激突する度に刃から生じる紅い火花、それは二人の激しく凄まじい――熱く、そして悲しく滾る闘志が燃え上っているかの如き鮮麗な火花であった。

 先程、闇人により色が無くなった灰色の街並みに、唯一紅く鮮やかな火花を散らす二人の模様は心を揺さ振られるほどの情景であった。

 その時だった、闇人が一瞬の内に修司の胸倉を掴むと、そのまま彼をビルの壁に叩き付けようと力の限り投げ飛ばした。

「あッ!」「い、イケねえッ」「義兄さん!」

 投げ飛ばされる修司を見て酷く驚くバーンズにミラーナイト、そして修司の義弟のジュニア。

『!』更にその光景を目にして聖龍隊の面々も一驚した。

「ッ……! (修司……!)

 目前までビルの壁に飛ばされていく修司を目の当たりにしたミラー・ガールは驚愕と極度の心配の感情で心臓が酷く高鳴った。

 だが、誰もが投げ飛ばされた修司に視線を向けていた、その時

「くっ……!」

 修司は空中で態勢を変え、右手に握っていた日本刀 聖龍剣を口に咥えると激突しそうになるビルの壁を両足で着地し、そのまま壁を蹴りその勢いで闇人の方へ飛んで見せた。

「な、なにッ!?」『ッ!』

 宙で態勢を変えて、激突する寸での処で壁を蹴り返し闇人の方へと再び突進していく修司の行動に、彼を投げ飛ばした闇人もそれを見ていた聖龍隊の一同も皆愕然としてしまう。

 そして壁を蹴り返し激突を免れた修司は、そのまま四つん這いで地面を駆け出し闇人に猛進してみせる。

 修司の咄嗟の行為に驚き戸惑う闇人を前に、修司は突進しながら口に咥えていた刀を再び右手に持ち替え、更に両手でしっかりと刀を持つと刃を闇人に振り付けながら叫んだ。

「聖龍剣術……鳴り牙!」

 野獣の如き猛進突進の勢いで、そのまま相手を斬り付ける剣術 鳴り牙を闇人に向ける修司。闇人は何とか突進してくる修司の刃を受け止める。

「ク……ッ!」

 口元を歪ませ、必死に攻撃を防いでみせる闇人。一方の修司は、険しい顔付きで闇人に振るった刃に、更に力を籠める。

 そして闇人の方も修司の刃を受け止めた自身の得物に力を籠めて、修司ごと攻撃を弾き返した。

 

 再び距離を取って互いに厳めしい顔付きで睨み合う修司と闇人。

 すると修司は落ち着いた様子で呼吸を殺し、鋭い眼光で眼前の闇人を睨みつつ、刀背を左手に乗せ切っ先を闇人に向けると言う彼独特の構えを表す。

『………………』

 先程と打って変わって冷静沈着な対応と雰囲気に変貌した修司に、周りの誰もが意表を衝かれた。

「な、なんだ。これは……!」

 二人の闘いを目視していたバーンズが、余りの闘いの様子に眼を見開いて驚愕していた。

「なんて闘いなの……!」

「時に熱く……時に冷静に……。戦いのスタイルを幾度となく変えている……!」

 闇人と闘う修司の多種多様に変わり続ける闘いぶりに眼の色を変えて愕然となるコレクターアイとセーラープルート。

 

 勇ましく、冷徹に、猛々しく、荒々しく 野獣の様に大胆に、機敏に 多種多様な闘いの姿勢(スタイル)を実践し闇人と闘う修司の姿に、二人の決闘を傍観している面々は言葉を発する事も忘れ、静かに二人の激闘を見続けた。

 そんな中、バーンズが皆と同様、修司と闇人の闘いに目を奪われつつも呟いた。

「これは、いったい……っ!」

 戦闘の中で様々な姿勢に転じながら戦い続ける修司の姿に肝を抜かれてしまう彼の一言を耳にし、彼と同様に二人の激闘に驚き言葉を失くす聖龍隊や駆け付けた助っ人達にミラーナイトが言葉を掛けた。

「あれが…………真の修司だ」「え……!?」

 ナイトの言葉に彼の横に居たジュニアが動揺を見せると、ナイトは続けて闘いを傍観している者達に語った。

「あれこそ孤高の武人である小田原修司の、心の奥に隠された本当の姿だ……!」

「本当の、姿……」

 ナイトの言葉を聞いた獅堂光が呟くと、ミラーナイトは真剣で険しい真顔で言った。

「戦人(いくさびと)。千差万別(せんさばんべつ)、どんな姿にも成り変われる……魔物」

「魔物……!」

 その一言に傍観者である周囲の皆々は騒然となった。

 熱く、しかし冷静に――冷徹に冷酷に――多種多様・千差万別に己の戦い方を変えつつ目の前の敵と向き合い火花を散らし激しく闘い続ける武人。

 その変幻自在の闘いぶりに、傍観に徹している皆は更に言の葉を失くす。

 と、その時。闇人と対峙している修司の様子がより一層変化した。

 目の前の闇人に対し無言の厳つい顔立ちで睨みつつも、両手でしっかりと聖龍剣を握り切っ先を闇人に向けた正眼の構えを修司は取っていたのだが、そんな修司の体から何とも言えない底無しの闘志がオーラの様に滲み出ているのを、彼と対峙する闇人も二人の闘いを見守る皆々も感じられていた。

 と、皆が修司の体から滲み出てくる紅の闘志に似た意思に気付いた次の瞬間。修司の背後に異様な存在を視覚で捉えた。

 それは夢か幻か、尋常ではない熱く紅い闘志のオーラを全身から発する修司の背後に、それは居た。

 まるで血に染まったかのような赤黒い肌、その巨体から感じられる異様で恐ろしい風貌、白とも銀とも見られるボサボサの髪に聳え立つ二本の角、そして修司同様に闇人を睨み付けるその目は怪しく不気味に紅く光っていた。

 その異様な存在に気付いた闇人に傍観する皆々は顔から自然と血の気が引いていった。

 底無しの闘志を全身から発し続ける修司の背後に垣間見える畏敬の存在 赤黒き巨体な鬼神の姿に誰もがド肝を抜かれてしまう。

 そして、その異様で末恐ろしい鬼神の全貌は、ふっと消えた。

 消えた鬼神の姿を見た闇人は、不敵に微笑むと修司に言った。

「へっ……バケモノめ」

 と、闇人に一言掛けられた修司は厳つい表情を変えず、闇人を睨み続けたまま言い返した。

「違うな、俺は……そう俺は…………鬼よッ……!!」

 自らを鬼と豪語する修司はそう闇人に告げた瞬間、再び自身と同じ顔の闇人に向かって行った。

 

 熱く滾りながらも、時に冷静沈着に物事を判断しつつ敵を迎え撃つ武人。

 冷徹な武人で有れば、時には荒れ狂う野獣として戦場(いくさば)を駆けずり回り命を喰らう武人。

 その獰猛ながらも勇ましい姿は正しく 人を超えた鬼神そのものなのかもしれない。

 

 

 

 

[傷付け合い……]

 

 修司と闇人、二人の激闘は治まる事を知らず、聖龍隊や彼等を助けんが為に駆け付けて来てくれた者達、それに続いて駆け付けたミラー・ナイト等が傍観する中、ただ執拗に、そして虚しく続いていた。

「うりゃあッ」「うおぉッ」

 互いに一歩も退かず、もはや我武者羅(がむしゃら)状態で刀を剣を振るい合い続ける修司と闇人。

 修司の刃は物理的な傷を負わせる為、闇人の体には傷を付ける事は出来ないでいた。

 闇人の方も、彼が用いる闇の力は相手に物理的損傷を与えず、同じく修司の肉体を傷付ける事は無かった。

 しかし双方とも、長引く戦いの疲労で、その表情からは痛々しいほどの真情が見て取れた。

 

 二人の闘いを見守り続ける聖龍隊の面々は、次第に疲労に満ちていく修司と、そんな彼と同じ顔の闇人の様子に何とも居た堪れない心境に陥る。

「………………」「……なに……なんなの……っ」

 表情に悲痛な心情を浮かべるセーラーサターンとちびムーンは二人の闘いを見て目を潤わせる。

「こんな……こんな事って……」

「何、この闘い? こんなにも胸を締め付けられる闘いが有るなんて……っ」

 黒き衣の修司と黒いフード姿の闇人、両者の激しい闘いぶりを目の当たりにし、次第に目に涙を溜め始めるセーラームーンに心を痛めるセーラーマーズ。

「こんなにも……心が痛む闘いが、今私達の目の前で……!」

「っ…………」

 二人の闘いに心痛な心持ちに駆られるキューティーハニー、彼女の横では同じ心境に駆られるミスティーハニーが悲痛な顔色で激しく闘い合う二人を視界に捉えていた。

「……つらい……辛すぎるよ……っ。こんなの……見ていられないよ……っ!」

「なんて……なんて切なく、悲し過ぎる闘いなの……!」

 余りの痛心な情景に、木之元桜は遂に涙を耐えきれず一粒の雫を瞳から零し、ナースエンジェルは闘いの有様を悲愴な心情で呟き瞳に涙を溜め始める。

「こ、こんなのって……!」

「ああ……こんなにも心が痛む闘いが、今まであっただろうか」

「無情……って言葉が、此処まで似合っちまう闘い。今まで見た事もねえよ……」

 修司と闇人が激しく闘い合っている様子に目を潤わせて悲観する花丘イサミ、激闘の様に心臓の箇所を思わず掴み痛心の域に達する雪見ソウシ、闘いを見て無情という言葉が自然と頭に浮かぶ月影トシのしんせん組の三人。

「なに……っ、何だか……何だか、とっても胸が苦しい……っ」

「っ……っ……」「………………」

 眼前の闘いに胸が苦しく感じるほど締め付けられるコレクターユイに、口を手で押さえ必死に泣き出しそうになるのを堪え続けるコレクターハルナ、無言の眼差しのまま悲痛な心境で顔を蒼褪めさせていくコレクターアイ。

「か……悲し過ぎるよ、この闘い……!」

「え、ええ……本当よ」「同じだからこそ感じてしまう、この心の苦痛……」

 悲しい心境に駆り立てられ酷く動揺し始める魔法騎士(マジックナイト)の光、海、風の三人。

「お、おい……これって……!」

「あぁ……っ……」

 激しく衝突し合う修司と闇人の戦闘を見ていたシュウジとちせも蒼褪めた表情で愕然とした。

「な、なんと……!」

「これ程までに虚しい闘いが、今まであったであろうか……!」

 駆け付けた者のゴールデン天狗とからくり天狗の二人までも、修司と闇人の壮絶な闘いを目の当たりにし悲痛な心情に陥った。

「うう……っ」「な、なんて痛ましいの……っ」

「……すぎる……余りにも、悲し過ぎる光景だわ……」

 遂に泣き出してしまうライチに痛々しい光景に悲観するタピオカ・ジャスミンのニイハオ姉妹(シスターズ)。

「小田原修司、そして闇人……二人の同じ顔を持つ者同士が互いを傷付け合う、この闘いは……!」

「まるで……自分で自分を傷付け、痛め付ける……なんと惨く、切ない決闘なのだろうが」

 同じ顔の二人が互いに傷付け合う様を見て居た堪れない心境に駆られるプリンス・ゼラにクイーン・アースのカノン。

「なんと……なんと、痛ましい闘いなのだ……!」

「お互い、一歩も退かずに……自身と同じ顔の相手を……そう、自分自身を傷付けて……!」

「こんなにも胸が苦しく、心が痛むなんて……!」

 凄まじい気迫の中闘い続ける二人の、悲しくも切ない激闘に表情を険しくさせるクレフにランティス、そしてフェリオの異世界セフィーロより駆け付けて来た面々。

「ふ……ファイター、メイカー……あの二人……」

 震える口調で傍らに居る二人に声を掛けるセーラーヒーラー、彼女に声を掛けられたファイターとメイカーの二人は悲痛で優れない顔色の面持ちで答えた。

「え、ええ……こんな痛々しい闘いに成るなんて……!」

「さすがの私でも……これは予想していませんでした」

 目を覆いたくなるほどの痛々しい闘いに予想していなかったファイターとメイカーは何とも悲壮な激闘に心を痛めていた。

「っっ…………!」

 互いを激しく痛め付け合う修司と闇人の闘いぶりに口を押さえて絶句してしまうアプリコットことウォーター・フェアリー。

「…………!」

 言葉を失くし、ただただ二人の激闘を見据える事しかできないバーンズは静かに肩を震わせる。

「ッ……」「…………」

 ジュニアとミラー・ナイトの二人は、心居た堪れない中、ただひたすら闘いを見届けていた。

「っ……あぁ……っ」

 そしてミラー・ガールは只一人、今にも涙が零れ落ちそうな悲痛な面持ちで激しく傷付け合う二人を、その鏡の瞳に捉え続けていた。

 

 そんな周囲の人々の目を気にせず、修司と闇人は一層激しさを増しながら刃を振るい合い続けた。

「うりゃあッ!」「うおおッ!」

 もはや掛け声とは程遠い雄叫びを上げながら、双方とも力の限り刃を振り下ろし続ける。

 そして凄まじい激闘の最中、二人は言葉を発した。

「はァ……前々から……!」「……そうだ、前からずっと……!」

 厳つく悍ましい程の強面で、二人は天地を揺らがすほどの怒声を言い放った。

『お前(自分)を………………ブッ殺したかった!!』

 そう言葉を吐いた瞬間、双方の刃は激しくぶつかり互いに鍔迫り合いのまま睨み合った。

 

 自分で自分を傷付けて、そして痛め付けて

 自分自身を殺め、命を終わらせようとするまでの悲しい闘志

 そんな悲劇的な二人の闘いを傍観し続ける周囲の皆々の心は締め付けられ、苦心の極みに至っていた。

 

「うおおおおぉォお!!」「うりゃあああぁぁあッ!!」

 しかし周りの皆が痛心に至り重い空気が肩に感じる中、修司と闇人は未だに刃を振るい合い続け、激しい火花を散らし衰える様子が全く無かった。

 誰もが火花を散らし激しく闘い続ける二人の痛々しい情景に顔を引き攣らせ悲愴な真情に感極まっていた。

 

 そんな二人の刃が激突し合い生じる金属音が鳴り響いている、正にその最中の出来事だった。

「…………やめてっ!」「!」「!」

 突如、辺りに響き渡る悲痛な一声に、修司と闇人の攻撃の手が止み、二人とも声の方に顔を向けた。

「!?」「ッ?」

 バーンズとジュニア、更にジュニアの横で闘いを傍観していたミラーナイトも視線を向けた。

「え……!」

 そして集団で修司と闇人の一騎打ちを見続けていた面々は、自分等と共に闘いを観ていた一人の少女に目を向けた。

 皆の視線の先に居たのは 涙をポロポロと流し、悲痛な眼差しに悲愴な面持ちに表情を変化させていた青白い衣を纏った一人の少女。

 

 魔鏡聖女ミラーガールが涙で濡れる瞳で闘い続ける修司と闇人を見詰めていた。

 

 

 

 

[その瞳(鏡)に映るのは]

 

「……もうやめて……お願い……!」

「ッ……」「アッコ……!」

 涙ながらに激闘し合う修司と闇人に悲願するミラーガールの悲痛な言葉に、闇人は顔を引き攣らせ、修司は涙を流し自分等の闘いを必死に制止しようと問い掛けてくる彼女の悲痛な表情に心を射抜かれる。

「アッコちゃん……」「っ……!」

 ミラーガールの突然の悲痛なる叫び、そして涙を流す彼女の言動に驚き立ち尽くす。

 そんな様々な想いの皆の注目を浴びながら、ミラーガールは再び目の前の修司と闇人に向かって言葉を投げた。

「お願い、もう……もう…………もう、自分で自分を……自分自身を傷付けないで!」

『!!』

 ミラーガールのこの一言に、修司と闇人は双方とも愕然と化した。

「み……ミラーガール……!」「うっ……っ」

 悲痛な想いに満ちるその言葉を耳にした聖龍隊の女性・女子達は一心に自分の心中で渦巻いていた悲しい心の痛みが一気に溢れ出し、中には思わず一粒の涙を零す者の姿もあった。

「アッコ……」

 ミラーガールの心から放った一言に、修司は失意の念に駆られ、刀を振るう右腕を静かに下ろした。

「……………………」

 だが修司とは対極的に違い、闇人は所持していた剣を消滅させミラー・ガールの悲痛な涙で濡れる瞳に自然と視線が見入ってしまい、彼女の瞳を身体を微動に震わせつつ見詰めてしまっていた。

 涙で溢れる彼女の瞳、涙で潤うその瞳は実(まこと)しやかに美しく輝く、まさに穢れを知らないその瞳は映るモノ全てを鮮明に反映する鏡そのもの。

 闇人は、そんなミラー・ガールの悲しい涙を流す鏡の如き瞳に自分自身の姿が反映されている事に気付いた。

 鏡の瞳に映り込む自分の顔 悲愴な表情の、その鏡の瞳に映る己の現在(いま)の姿と顔に、闇人は己の内から激しい情状を昂らせていった。

 そして

「……ほざけ…………ホザケーーッ!!」

 突如として闇人は激情に駆られたかの如く激しい表情に豹変し、自身の右腕から2メートルも有ろうかと云う、巨大なチェーンソーの太刀を出現させた。

 そしてチェーンソーの回転鋸刃を激しく唸らせ、眼前のミラー・ガールや彼女の周囲で佇む聖龍隊の皆々に猛進し駆け出した。

「ッ!」「あァッ!」「ッ……!」

 脇目も逸らさずミラー・ガール達に向かって突進しつつチェーンソーの太刀を振るい翳す闇人を目にし驚愕するバーンズ、ジュニア、ミラーナイト。

「あッ!」「ヒッ!」

 激しい金属音を唸らせ迫りくる闇人に、心身ともに衝撃が走る聖龍隊士達。

 闇人は太刀を唸らせ猛進しながら彼等に叫んだ。

「これで全員……真っ二つにしてやるぜぇッ!!」

 血走った眼で太刀を構えら直進してくる闇人に、誰もが騒然と化した。

 

 セーラームーン、タキシード仮面、ちびムーン、マーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナス、ウラヌス、ネプチューン、プルート、サターン等の美少女戦士達。

 愛の戦士キューティーハニーと妹のミスティーハニー。

 白衣の天女ナースエンジェルにカードキャプターの木之元桜(きのもとさくら)。

 強き想いと結束力で共に戦ってきた三人組、花丘イサミ、月影トシ、雪見ソウシ等の新撰組。

 電脳世界コムネットで戦ってきた戦歴を持つコレクターユイこと春日結(かすがゆい)、コレクターハルナこと如月春菜(きさらぎはるな)、コレクターアイこと篠崎愛(しのざきあい)。

 異世界セフィーロより得た強力な魔法を用いて戦う魔法騎士(マジックナイト)の三人、獅堂光(しどうひかる)、龍咲海(りゅうさきうみ)、鳳凰寺風(ほうおうじふう)。

 異次元からの脅威に対抗する為、自衛隊により身体を改造されたサイボーグ少女ちせ。

 別世界ボスコワールドより此方の世界に来たプリンセス・アプリコットことウォーター・フェアリー。

 そして主戦力であるメンバーを補助する為に結成された別働隊の面々、別働隊を指揮するウエルズ、早見青児(はやみせいじ)、宇崎星夜(うざきせいや)にデューイ、李・小狼(り・しゃおらん)に李・苺鈴(り・めいりん)の従兄妹、瑠美乃一族の頭首であるくノ一の高木はるかに鎧天狗こと芹沢ルリ子、ちせの恋人のシュウジ。

 更に聖龍隊メンバーの危機に駆け付けて来てくれた人々。スターライツのセーラーファイター、メイカー、ヒーラーの三人。かのパンサーゾラの息子である黄昏のゼラことプリンスゼラ。クイーンアースより駆け付けた加納望(かのうのぞむ)ことカノン。田能久健こと銀天狗率いる新黒天狗党のゴールデン天狗にからくり天狗、そしてニイハオ姉妹(シスターズ)のジャスミン・タピオカ・ライチ。異世界のセフィーロより助太刀に来たフェリオ、導師(グル)のクレフにその弟子のランティス。

 闇人はそんな面々までも、自分と修司の決闘の最中に悲痛な訴えを叫んだミラー・ガールごと激しく唸るチェーンソーの太刀で一刀両断に斬り裂こうと一直線に突っ走る。

 闇人より創り出された闇の領域(テリトリー)により、全ての特殊能力を封じられた一同は、もはやどうする事も出来ず、愕然とする皆の中には思わず顔を背け目を逸らす者の姿もあった。

 しかし一人だけ、ミラーガールだけは顔を背けず視線を逸らさず、真っ直ぐに自分達に向かって走って来る闇人に顔を向けて、激情で血走る彼に優しく微笑むとそのまま言葉を掛けた。

「大丈夫、だって……だって修司は、あなたは……」

「うおおおおぉおおッ!」

 唸り叫びながら猛進する闇人に、次の瞬間ミラー・ガールは誰もが思いも寄らなかった言葉を闇人に掛けた。

「だって、あなたは……本当は…………とても優しいんだから」

 

 ミラー・ガールが言葉を発したその瞬間、辺りに響いていた闇人のチェーンソーの太刀の轟音がピタリと止まり、代わりに静寂がその場の皆を取り囲んだ。

「…………ん、どうしたんだ?」「え……!? こ、これって……」「……」

 静まり返った現状に違和感を覚えたバーンズにジュニア、そして無言のミラーナイトが目を向けてみた。

「ど、どうしたのかしら? 音が止んだ」「い、いったい何が……?」

 突然の静寂に只ならぬ感覚に至ったマーキュリーとマーズが恐る恐る顔を上げて、自分達に猛進してくる闇人に目を向けてみる。すると誰しも想像していなかった事態が目に飛び込んできた。

「えっ。こ、これって……!」「!? ……」

 誰しも、その光景を目の当たりにして言葉を失った。

 何と闇人が、ミラー・ガールにチェーンソーの太刀が直撃する寸前の処で、太刀の動きを止めていたのだった。

 そして何より皆が驚いたのが、その時の闇人の異常なまでの様子であった。

 彼の表情には色濃く、酷い動揺の情状が浮き彫りとなっており、慈愛の涙を流すミラー・ガールの顔を見詰めながら硬直していたのだ。

 ミラー・ガールの慈愛に満ちた瞳に映り込んだ己を直視した闇人は、動揺により身体を小刻みに震わせながら言葉を発した。

「……見るな……見るな……」

 そして突然、彼は叫んだ。

「俺をそんな目で見るなァ……!」

 突如、狂乱状態に陥り叫び上げる闇人。そんな彼を間近で目の当たりにする聖龍隊の面々はその常軌を逸した様子に愕然となった。

「見るな……見るな……ッ!!」

 そして遂に頭を抱えて、その場にうずくまってしまう闇人の姿を目の前したミラー・ガールは他の皆と同様に事態を呑み込めず、只々うずくまる闇人を見据えていた。

 

 と、その時。

「……そうだ。お前は……俺はいつだってそうだった」「!」

 突如闇人の真後ろから発せられる言葉に、闇人は異様なまでに動揺した。

 闇人の背後から彼に発せられる言葉は、闇人の心理に深く突き刺さっていく。

「そうだ俺は……お前はアッコの瞳(め)を見詰める事が……直視する事ができなかった」

「……!」

「いいや、正確に言えば……その鏡の様に透き通った瞳に映り込む、自分自身を直視できなかった。向き合う事が出来なかった……そうだろ」

「………………」

「弱い自分、現在(いま)の自分……そして夢も希望も無い、三次元と云う現実で生きていく事すら苦痛に感じるしか出来ないでいる自分を映し出す鏡。そんな鏡の目に見詰められたら……自分自身を、自我を保つ事すら難しくなる。……弱い自分を、そして業により汚れ切った自分を映し出す……忌々しくも、真に美しい瞳(め)だ……」

 自分の背後から語り掛けてくる、その真に迫った言葉の数々は闇人の真情を鋭く捉えていた。

 と、次の瞬間「……っ!」闇人は背後から只ならぬ殺気を感じ取った。

 異様なまでの殺気を感じた闇人は咄嗟に後ろに振り返る。

 彼の目に飛び込んで来たのは、闇人自身に語り掛けていた当の本人、修司が殺気立った悍ましい顔立ちで刀を高々と振り上げ、闇人に刃を振り下ろそうとしている瞬間を。

「!」

 異常なまでの険しくも恐ろしい修司の殺気に満ちた表情を目の当たりにし、闇人は反射的に右手に漆黒の剣を出現させ、修司の振り下ろされる刃を剣で受け止め防ごうと、鎬(しのぎ)の部位を修司に突き出す形で前に押し出した。

 そして振り下ろされた修司渾身の力が込められた刀が、刀による攻撃を防ごうとする闇人の剣と衝突した。

 辺りに響く激しい金属音、そして刀と剣が衝突した際に生じる火花が見せる強烈な光に、その情景を目の当たりにするミラーガールや聖龍隊の皆は固唾を呑み込んだ。

 だが、修司の振り下ろされた刀と闇人の防御の剣が激突した、まさにその時。

 修司が持てる力を全て込めた渾身の刃による一撃が、闇人の剣を砕き散らした。

 剣を砕き破壊した刃は、そのまま闇人を頭から腹部に至るまで一刀両断に斬り裂いた。

「ぐあああああああああぁぁああああ……」

 天をも突き破る断末魔を上げる闇人の、尋常でないその姿を見たミラー・ガール達は余りの異様な光景に顔面蒼白で顔を引き攣らせ、背筋が凍てつく程の情感に襲われる。

 そして頭から腹部まで真っ二つに斬り裂かれた闇人の裂かれた隙間から、闇人を一刀両断にして見せた修司の、その異様なまでの強面を覗かせていた。

 その殺気に満ちる厳つく恐ろしい、しかし何処かしら悲愴な情状も感じ取れるその顔を見たミラーガール達の心に、突如として何故かしら修司の心の声が聞こえて来た。

 悲しく、そして虚しくも末恐ろしい口調の言葉がミラーガールや聖龍隊の皆々の心に届いた。

「……俺を殺(や)れるのは……俺しかいねぇんだ……!」

 異様なまでの厳つい顔立ち、そして殺気に満ち溢れる瞳からは微かな悲愴と空虚が感じられ、聖龍隊の皆々はそんな修司の表情と瞳に圧倒された。

 

 自身の体を一刀両断された闇人は、その真っ二つに斬り裂かれた身体で最後の力を振り絞るかの様に修司に、そして周囲の聖龍隊の皆々に告げた。

「これが、お前の選んだ結末か、修司よ……それも良い……。しかし、決して忘れるな。お前は、そう俺達は……その命尽き果てる、その時まで決して逃れ得ぬ宿命を……業を背負い続け、生きていくのだ……! 例え、奇跡の力を持っていようと抗う事も侭成らない因果がお前を……そして、お前の周りに居る者等を苦境に追い込み続けるだろう……」

「…………」

 闇人を斬り捨てた修司が厳つい顔立ちで聞き入れる中、闇人は更に修司や聖龍隊の二次元人達に語り続ける。

「そんな因果とは真逆で……何れ、そいつ等は……二次元の者共は消え果て、やがて滅びるだろうがナ……! ……それでも貴様は、そんな種族を……二次元人共を死守する為、そいつ等の決められていた運命ですら捻じ曲げ、大幅に変えていくのであれば……! その歪みは、やがてお前だけではない……お前の同種族である三次元人にすら、新たな驚異を生み出し続ける結果と成ろう……!」

 そして最後に闇人は、修司や二次元達に言った。

「さらばだ、哀れな三次元人よ……そして虚無の夢想から生み出された二次元人達。この何れ消え逝く二次元の……御伽(おとぎ)と云う世界の中で……ゆっくりと朽ちて逝くが、イイ……」

 その言葉を最後に、一刀両断にされた闇人は黒い靄(もや)と成り果て、闇人を斬り捨てた修司の体に吸い込まれるかの様に沁み込んで行った。

「…………………………」『…………………………』

 場に残されたのは、闇人を斬り捨て憮然の心境で俯く修司と、そんな彼を悲愴な面持ちで見詰める聖龍隊の皆だけであった。

 皆の視線を一身に浴びながら、闇人を斬り捨てた修司は力果てるかの様に、その場に膝をついた。

 

 孤独の武人と黒き者、相反し合う二人の熾烈な闘いは、こうして幕を下ろした。

 しかし、彼等の胸の奥には言い様のない感情が未だに犇(ひし)めき蠢(うごめ)いていた。

 

 創り出した種族 三次元人。 創り出された存在 二次元人。

 全く異なる者同士が、互いの真実を知り得た今、何かが変わろうとしていた。

 

 

 

 

[ツクラレテ、も尚……]

 

 修司と闇人、同じ顔を持つ二人の激しくも熾烈な闘いが終わり、その場には空虚な静寂だけが辺りに溢れていた。

 そんな現状の中、闇人を斬り倒し一人憮然と俯く修司に聖龍隊の面々が静かに声を掛けた。

「……し、修司、くん……?」

 実に困惑し切った表情で恐る恐る声を掛けるキューティーハニー、しかし当の修司は反応する素振りを見せず膝をつき顔を俯かせるばかりであった。

「し、修司君……」「あ、あの……」

 若干蒼褪めた面持ちで声を掛けてみるセーラームーンとヴィーナス、だが修司の反応は返って来なかった。

 誰もが場の空気に、そして自身の真情により重く辛い心境の最中、バーンズが声を掛ける。

「……修司」「…………」

 だが、それでも修司からの反応は返って来ず、バーンズは神妙な面持ちで修司に話し掛け続ける。

「修司……アイツが、闇人が言っていた事は……本当なのか?」

「……」

「オレ達が、俺達の世界も全て創作上の……物語の世界だと言うのか? …………答えてくれ……!」

 悲痛な口振りで強く問い掛けるバーンズの言葉に、修司は若干顔を上げて答えた。

「……ああ、本当だ」『!!』

 全てを観念したかの様に暗鬱な口調で放たれた修司の一言に、その場の誰もが驚愕し蒼然となった。

「そ……! そんな……」「やっぱり、私達は……」

 心の何処かで闇人の語った話が偽りであってほしいと想い願っていた者達は落胆した。

 皆のそんな心境を悟ってか、修司は俯いたまま心痛の情状に駆られていた。

 

 そんな苦心に至る現状の最中、一人空虚の心を痛める修司に歩み寄って来る者が足を歩ませる。

 その者は一人失意の底に至る修司の前で歩ませていた足を止めると、静かに修司に言葉を掛ける。

「……あ、あの……」「…………」

 何処かあどけない言葉遣いで声を掛けて来た女子の声に、修司は俯かせていた顔を少し上げて少女が誰なのか確認した。

 修司は顔を上げて少女の顔を見た途端、胸の奥に激しい痛みを感じた。

 顔を上げ目の前に居たのは、最終兵器ちせであった。

 ちせの顔を見た途端、修司は居た堪れなくなり思わず顔を再び俯かせて、ちせから視線を逸らす。

 しかし、ちせの方は目を逸らす修司に悲しげな表情を向けながら、再び声を掛ける。

「あの……し、修司君……」

 呼び慣れてない修司への問い掛けに挙動不振に成るちせ。それでも尚、彼女は下を俯くばかりの修司に話し掛け続けた。

「修司君……私も……私はもちろん、私の周りの人たち……そして、この世界も……本当は物語の、フィクションと云う名の……創作なの……?」

「…………」ちせの問い掛けに体を震わせ答え返す事を戸惑う修司。

 だが、彼女を含めた数多の二次元人達への様々な罪悪感が、重い修司の口を開かせた。

「……そうだ……全て、全て……! 俺達が……俺の一族が、お前達に与えたモノだ……!!」

 悲痛な心持ちで震える修司の口から発せられた彼の言葉を聞き、彼の言葉を目の前で聞き入れた聖龍隊の皆々は悲感の極みに至った。

 しかし、その言葉を眼前の修司の口から聞いた少女ちせは、その顔を穏やかな表情に変化させて修司に言葉を返した。

「……良かった」「……え?」

 ちせの口から出た言葉に真から衝撃を受けた修司は思わず顔を上げ、言葉を呟いたちせの顔を見た。

『…………!?』「ち、ちせ……!?」

 修司同様、ちせの口から飛び出た言葉に異常なほど驚く聖龍隊の面々、そして彼女の恋人のシュウジ。

 そんな騒然とする周囲の皆の注目の中、ちせは穏やかな表情を変える事無く、顔を上げた修司に自分の想いを語り出した。

「良かった、全部……全部、ただの物語で。……たくさんの物が、人が……私が殺めてしまった命も、全て単なる物語で……良かった」

「……………………!」

 ちせの一語一句に驚きを隠せない修司は、体を震わせながら心身ともに衝撃を感じていた。

 そんな意外な言葉を語るちせに戸惑いを見せる修司は、目を丸くしながら彼女に話し返す。

「ち、ちせ……! 何を言っているんだ。お前を……お前を、兵器に改造される筋書きも……お前が能力(ちから)を暴走させて多くの命を奪い、苦しんでしまった顛末も……! 全部、全部…………三次元人が与えちまった運命なんだぞ!! それなのに……それなのに……っ」

 体を震わせながら修司は悲痛に満ちた口振りで、ちせに話し続けた。

「……お前を苦しめたのは……俺達の一族だと言うのに……! 何故、良かったなどと言えるんだ……!!」

 悲痛に満ちた修司の言葉に対し、ちせは穏やかな様子で答え返した。

「私は……私と云う存在は。戦争で多くの命を奪い、そして勝利する為だけに破壊尽くす最終兵器……。だけど、そんな私が……私が飛び交っていた戦場が全て物語だったのなら……死んでしまった命、壊れ果ててしまった町……全部がおとぎ話の中だけの出来事で、本当は戦争なんて悲劇は起きてなかった……」

「…………」

「誰も……死んでなんか無かった……そう思うと、なぜか凄く……凄く、嬉しく想ってしまうんです」

 そう言いながら、ちせは優しく微笑んだ。

「ッ! ち、ちせ……!」

 ちせの真意に満ちた言葉の数々に衝撃が胸に突き刺さる修司。

 兵器として悲運な結末を、運命と云う名の筋書きを与えてしまった一族【三次元人】そんな三次元人と同種族の自分に語ってくれる一語一語に、熱くそして微かな痛みが胸中に感じられた。

 と、其処に、ちせに続いてミラーガールが悲愴な心境の修司に歩み寄り声を掛ける。

「修司……」「あっ……ッ……」

 声を掛けて来たミラーガールに返事をしようとする修司であったが彼女に対しても、ちせや他の二次元人達同様に人知れず罪悪感を抱いていた為、返事を躊躇ってしまう。

 そんな発言を躊躇う修司の言動に対し、ミラーガールは悲しげな顔で優しく語り掛けた。

「修司、今は色々と思う処は有るでしょうけど……取り敢えず、今はみんなと一緒にゆっくり休みましょう。みんなも色々と思う処は有るかもしれないけど……これで、これで……ようやく長かった戦いが終わったんだもの……だから今は、ゆっくり休んで、それから色々と話を聞かせて」

「………………」

 ミラーガールの優しい言葉の数々に対し暗然の面持ちで顔を俯かせる修司。

 そんな無言の境地に成り変わってしまう修司を見て、ミラーガールは彼の手を取ろうと手を差し伸べた。だが

「やめてくれッ」「!」

 手を差し伸べようとしたその時、修司が突然声を荒げてミラーガールに言い放った。

「し……修司……?」

 突然の拒絶に困惑してしまうミラーガール、すると荒げた声で制止した修司が激情に満ちた顔を彼女や周囲の皆々に見せ付けながら荒々しく語り出した。

「何故……何故、お前やちせは……そんな態度を取っていられるんだ……!」

「…………」「…………」

 荒々しくも悲痛な真情が感じられる修司の発言に戸惑いを感じるミラーガールに穏やかながらも悲愴な面持ちで修司を見詰めるちせ。

 そして修司は、そんな二人を始めとした眼前の聖龍隊の面々に向かって、半ば興奮しながら語り出した。

「何故お前等は、そんなに平然と俺に接していられるんだッ! ……俺は、俺は…………俺は、お前達を騙していたんだぞ!」

『…………』『…………』

 修司の必死な問い掛けに黙り込んでしまうミラーガールとちせ、そして聖龍隊の面々。

 更に修司は、悲痛な真情に満ちた声で皆々に言い放った。

「お前等を欺き……そして、逃れられ様のない運命を与えてしまった種族である俺を何故……!?」

『…………』

 行き場のない焦燥感を吐き散らす修司の言動に、悲愴な心境に駆り立てられる一同。

 すると修司は突然、右手に握っていた日本刀の切っ先をミラーガールに向けた。

「え……!」

 突然刀を向けられ驚愕するミラー・ガール、そしてその光景に目を丸くして驚く周囲の皆。

 修司は刀を、そして苛立ちに駆られる表情を皆に向けて強く語り出した。

「お前達は俺が憎くないのかよ! キューティーハニー、そしてミスティー……! お前たち姉妹に人工生命としての宿命を与えたのは……元を辿れば俺たちなんだぞ!」

『…………』

「それだけじゃない……お前ら姉妹の父親、如月猛(きさらぎたけし)が死ぬ筋書きも……そして青児の親父が死んじまったのも、全ては俺達が……!」

『…………』「…………」

 修司の語りに言葉を失うハニー姉妹と早見青児(はやみせいじ)は、激しい表情を浮かべる修司を悲愴な心理で見詰める。

「まこと! お前が両親を早々に亡くし、辛い日々を過ごさせる生い立ちを送らせたのも……! お前達セーラー戦士に戦い続ける苦痛な宿命を与えたのも……俺の一族なんだぞ……ッ!!」

『…………』

 修司の悲痛な一語一句に胸が圧迫されるほどの心痛を感じるセーラー戦士達。

「りりか、さくら……俺はお前等に辛く悲しい日常を与えて来た一族な上に、お前達を騙し続けて来た……! この俺が憎い訳ないだろう……!!」

『……』

 激情に駆られる修司の言葉に、森谷りりかことナースエンジェルと木之元桜(きのもとさくら)の二人は心苦しくなる。

「他のみんなだってそうだ! 騙し欺き……お前等を苦しめ続けていた三次元の人間である俺に、憎悪の一つぐらい感じているんだろ……ッ!?」

『…………』

「俺はお前達を騙し続けて来た外道だ! それで何故! お前等は其処まで……自分を保てるんだ……!!」

 辛く悲愴な激情に満ちた面差しで問い掛けてくる修司を目の当たりにし、他の面々は悲愴な面持ちで中には思わず修司から視線を逸らす者までも居た。

「解らねえ……解らねえよ、お前達が……」

 

 だが、そんな悲愴に満ちた想い場の空気の中、再びミラーガールが修司に言葉を掛けた。

「修司……良く聞いて」「ッ……」

 決意に満ちた顔で言葉を掛けてくるミラーガールに、修司は不意を衝かれたかのように酷く動揺する。

 そしてミラーガールは重い口を開き、憮然の心中である修司に優しく話し始めた。

「例え……例え、私達がツクリだされた存在であったとしても……」

「……」

「私達は……いえ、私だけでも……! 今まで通り……修司の友達で居るわ」

「……!」

 慈愛に満ちたミラーガールの一言に、修司の胸中に激しく締め付けられる程の心痛が迸った。

 騙し続けて来た、欺き続けて来た。それなのに相も変らぬ態度と優しさ、そして何より心の籠った慈愛に満ちた感情を自分に向けてくれるミラーガールの温もり溢れる言葉の一つ一つに、修司はミラーガールの心の奥底から微塵も汚れてない確かな輝きに満ちた精神を確実に感じ取った。

 そんな確かな輝きの精神を心中に秘めたミラーガールは憮然に陥る修司に近づき、そっと彼に触れようとした。

 だがその瞬間「……ハッ、や、止めてくれアッコ!」「!」

 ミラーガールが修司に触れようとしたその時、修司は再びミラーガールを拒絶するかの如く、自分に触れようとするミラーガールを大声で拒んだ。

 困惑してしまうミラーガールを眼前に、修司は必死な真情を顔に表し、ミラーガールに強い口調で話し始めた。

「やめてくれアッコ……! 俺なんかに触れちゃいけない、いけないんだよ……!!」

「……」修司の語りに、更に困惑してしまうミラーガール。

 すると修司は焦燥に満ちた激しい表情をミラーガールに向け、悲痛ながらに話し続けた。

「俺なんかに……俺なんかに触れちゃいけないんだよ、お前達は……。俺は、俺は……こんなにも血を浴び汚れているというのに……! お前の様な心の綺麗な女が……二次元人が、俺みたいな身も心も汚れた三次元人なんかに触れちゃ……イケないんだよ……ッ!!」

「…………」

 自分の様な心身ともに汚れている三次元人に、心の綺麗な二次元人が触れる事を拒絶する修司に、ミラーガールは悲愴な心境に駆られつつ内心驚いてしまった。

 

 しかし、そんな修司の言葉を耳にしても、ミラーガールはにっこりと顔を微笑ませると、そっと修司に近づき、そして優しく抱き締めた。

「……え……!」

 拒絶しているにも拘らず、自分に触れて見せる処か、なんと抱擁してきたミラーガールに大変驚き動揺する修司。

 そんな中、両腕で包み込むように修司を抱擁するミラーガールは、抱き締める修司の耳元に優しく、そして温かく囁いた。

「……大丈夫だよ。修司は、修司はね…………修司だって、もう辛い想いはしなくて良いの……! もう、もう……」

 次の瞬間、ミラー・ガールは経った一言、修司の耳元に呟いた。

「もう……孤独(一人)じゃ無いの」

「!! ……ッ」

 優しさに満ち溢れた一人の慈愛の精神を内に秘めた魔法の鏡の聖女、その聖女が自分に告げた偽り無き慈愛の言葉に、心中に今まで自分の激情を隠し溜め続けた修司の固く閉ざされた内なる壁は、一瞬で崩壊した。

 内の壁が崩壊した瞬間、修司は自分を抱き締めるミラーガールの肩の上に額を押し当て、耐え凌ぎ胸の奥に秘めていた激しい感情が一気に溢れ出し、涙無き慟哭を上げた。

「うっ……ッ…………うおおおおおおおおぉぉおおおおお!!!」

「……」

 自分の肩の上で涙無き慟哭を上げる修司を、ミラーガールは心情を変える事無く、涙を流さず慟哭する修司に肩を預け、その肩に額を当て顔を乗せる修司の頭を優しく撫でた。

 そんな激しい情状を爆発させ、雄叫びの如き慟哭を上げる修司。そしてそんな修司を自分の肩を預け、尚も彼を優しく労わるミラーガール。二人の姿を目の前に、皆々は目を潤わせ、涙で瞳を濡らし、頬から一筋の煌めく水を流した。

 

 

 ツクラれた存在、二次元人。そしてツクリだした存在、三次元人。

 完全に相反の関係である少年と少女、二人の姿に周りの二次元人達は心を射抜かれた。

 

 殺意と憎悪、常に負の感情で満たされる少年は、周りを騙し欺くしか、周囲の人々と触れ合う事は出来ずにいた。

 しかし聖なる慈愛の少女は、少年の抱える孤独を人一倍感じ取り、そして誰よりも少年の苦しみを悟った。

 そして精一杯の抱擁で少年の苦痛を癒す様に、一人全てを背負い孤独に苦しみ続けていた少年の心を少しでも温めようと真に接した。

 

 自分の中の激情と、自分自身との決着を付けた少年は、全ての変身ヒロインの基となった二次元の少女の心からの優しさで、次第に閉ざしていた心を徐々に少しずつでは有ったが確実に開き始めていた。

 

 

 

 

[ホウカイする世界]

 

 ミラーガールが苦心に喘ぐ修司を優しく抱き締める、その時であった。

「あ……あ、あれは何だッ?」

 何かに気付いたタキシード仮面が上空を見上げて指を差した。

「え……あ! 空が……!」

 タキシード仮面に指摘され上空を見上げた早見青児も、空を見て愕然とした。

「え……! ウソ……!!」「な……何が、いったい……!?」

 続けて空を一目見たセーラープルートと龍咲海(りゅうさきうみ)が震える唇で言葉を発した。

 その他の皆々も、全員空を見上げて、上空に起こっていた異変に対し驚愕した。

 なんと闇人の力で澄んだ青色から暗い灰色に豹変していた空に罅(ひび)が入り、そして砕けていきながら次第に暗黒の空間が顔を覗かせ始めていた。

 皆の反応や言動で異常事態に気付いた修司とミラーガールも粉々に砕けていく天空を目にして激しく動揺した。

「こ、これって……」「…………」

 砕けていくと同時に真っ暗な空間を覗かせていく空を見て、顔色を悪くしていくミラーガールに言葉を失う修司。

 

 と、その時。

 顔を覗かせた暗黒の空間、その隙間から何やら紅い目の様なモノが怪しく光った。

 その異様な輝きに一驚する皆々、そしてその紅い目は次第に暗黒の空間から這いずる様に出ては地上の聖龍隊の面々にその全貌を現した。

「ピギャーーーーーーーー……」

 姿を現すその異形の存在が発する、耳鳴りがするほどの甲高い鳥の様な鳴き声に、地上の皆々は思わず耳を塞いでしまう。

 そして姿を現した異形の存在、それは全身が限りなく漆黒の巨大な鳥であり、その瞳は怪しくも紅く不気味に輝いていた。

「な……なんだ? あの馬鹿デカイ鳥……!?」

 崩れていく空の裂け目から出現した巨大な黒い鳥を、震える声で月影トシが名指した。

 そんな突然の空の異変、そして突如として出現した黒き鳥を目の当たりにし、動揺と混迷が入り混じる最中

「ピギャーーーー……まさか、闇人が負けるとはのう……まあ、所詮は弱き心から生まれた、同じく弱い存在。当然と言えば当然かもな」

「! い、今……!」「し、喋った……! あの鳥……」

 姿を現した黒い鳥が唐突に人語を喋りだし、我が耳を疑うほどに驚愕してしまうコレクターアイにセーラーサターン。

 黒い鳥は、そんな地上の聖龍隊を見下ろしながら語り出した。

「……フハハハ、まさか……創作の者共が此処までヤレルとは……。しかも、己の分身でかつ弱い自分自身である闇人を、ソウゾウの力を持った三次元人の小僧が打ち負かしてしまうとは…………フハハハッ、いや何が起きるか解らぬわッ」

『…………』淡々と語り続ける黒い鳥に黙然としてしまう面々。

 すると黒い鳥は、その禍々しい風貌で地上の皆に告げた。

「フハハハ……! 我が名は絶夢鳥(ぜつむちょう)。全ての夢を、希望を喰らう存在(モノ)じゃ……!」

「ぜ、絶夢鳥……!」

 突如として崩壊する天空の裂け目から現れた漆黒の巨大な鳥【絶夢鳥(ぜつむちょう)】に、聖龍隊の皆々は異様なまでの感覚に陥り絶句した。

 絶夢鳥は禍々しい雰囲気を漂わせながら、紅く光る目で地上の面々を見下ろしつつ言った。

「ワハハ、いやそれにしても……良くぞ我が放った闇人、そして彼奴が蘇らせた猛者共を倒しつくしたのう。ほんに、想定外の事じゃったわ」

「な、何だと!」

「闇人は……闇人は! お前が生み出したのか……!?」

 絶夢鳥の言葉に驚愕するタキシード仮面に早見青児、それに対し絶夢鳥は嘲笑で返した。

「ハハハ、正確には其処に居る小僧……小田原修司の心の内に潜む負の感情を具現化しただけじゃ。簡単に言えば三次元人の思想概念から生み出された、お前達と全く同じじゃて。ハハハ……」

 嘲笑いながら答える絶夢鳥の言動に、絶夢鳥から醸し出される禍々しい気配と共に圧迫される心境の皆々。

 と、その時だった。

「お、おい! 空が……!」

 宇崎星夜が上空を指差すと、絶夢鳥が現れた空の裂け目が更に崩れていき、天が砕けながら暗黒の空間に呑み込まれていく。

「こ、これは何だ……! 一体、何が起こると言うんだ……!?」

 愕然とした表情でバーンズが言うと、上空の絶夢鳥は不気味に嘲笑しながら吐き捨てるように言い放った。

「ひゃははは、しかし時すでに遅い! もはや、次元に生じた歪みは戻りはしない。世界は……そして全ての次元は崩壊し、消え果てるのじゃ!!」 

『!!』

 絶夢鳥の発言に驚愕する一同。

「そ、そんな……!」

「全てと言うと……! まさか、別の世界である異世界までもが消滅するのか……!?」

 別世界から来たクイーン・アースのカノン、そしてセフィーロからやって来たクレフが驚愕していると、そんな面々に絶夢鳥は嘲笑いながら答えた。

「ははは! そうじゃ、異世界であるクイーン・アースはもちろんセフィーロも……いいや、次元と云う次元、この二次元界も三次元界も全てが暗黒の闇の中に呑み込まれて消え果てるのじゃッ!!」

 淡々と語る絶夢鳥の話に愕然とする一同、そんな中ミラーナイトが険しい神妙な面持ちで語り始めた。

「絶夢鳥……怒り・憎しみ・悲しみ・恐怖そして絶望を司る、実に禍々しい存在……! この世界が……いいや、宇宙と共に産まれ存在し続ける、負の感情の根源……!!」

「え……!?」

 ナイトの口から出た話に一驚する皆々、そんな皆にナイトは続けて切実ながらに語り明かした。

「奴は……絶夢鳥はこの時を待っていたんだ……! 喜びや夢、希望だけで無い……怒りや憎しみ、悲しみに絶望と云った負の感情を含んだ……全ての感情・思想概念で創られたこの二次元界を自分の領域である暗黒の闇に取り込み、全ての想いと言う想いを喰らう積りだ!!」

『!!』

 蒼褪めた表情で語るミラーナイトの顔を一目見て、その場の誰もが事の事態の重さを身に感じた。

「す、全ての負の感情……それらの根源が、あの絶夢鳥なの……!?」

「憎悪や絶望……怒りに悲しみと言った、暗い感情の全てが……! あの禍々しい鳥から生まれたって言うの……!?」

 衝撃的な事実を聞かされ、驚くばかりのセーラームーンにキューティーハニーが悲愴ながらに言うと、ミラーナイトは更に皆に話した。

「そうだ。奴は全ての異世界・次元……そう、宇宙が生まれた起源であるビック・バン(宇宙最大にして最初の大爆発)から生まれた、負の感情を司る存在……! 奴の存在こそが、負の感情と呼ばれる憎悪や悲しみ怒り等の激情を、心を持つ者全てに与えて来たんだ。心に積み重なった数多の激情を取り込み、更なる存在へと変貌する為遂に……遂に、奴は全ての異世界、全ての次元を自らに取り込もうとしている……!!」

 激しくも悲愴な真情で、淡々と皆に語り明かすミラー・ナイト。

 そんな最中も、天に広がる裂け目は更に轟音を響かせながら崩壊し、そして暗黒の空間へと呑み込まれていった。

 

 闇人により灰色の、空虚な空へと豹変してしまった空。

 しかしその灰色が更に、今度は全ての元凶・全ての負の感情を生み出す絶夢鳥の出現により、暗黒の闇に吸い込まれる様に崩れていく。

 

 

 二次元に同時に存在する数多の異世界、そしてその二次元界を含んだ一次元・三次元・四次元といった全ての次元。

 そんな全てを闇の空間に取り込み、様々な人の想いを吸収しようと思索する絶望の権化 絶夢鳥。

 

 地上の皆々は、そんな絶夢鳥により崩壊していく空を 世界を  何より二次元と云う自分達の世界がホウカイし消滅していく様を、ただ見ているしかできなかった。

 

 

 世界も、想いも  全てが

 

 

 

 絶たれ、そして無へと塗り変えられていく

 

 

 

 

 

[立ち上がる少年]

 

 

 そんな絶望的な状況の中、一人立ち上がる者が地上の皆々の中に在った。

 

 少年は自分を優しく抱き締めてくれたミラーガールの元より立ち上がると、足元に転がっていた自分の得物である刀を手にし、そのまま愕然と崩壊していく空を見上げる皆の中を歩み進む。

 

 その少年を見たバーンズは、愕然とした心情の中、少年に声を掛ける。

「し…………修司……?」

 声を掛けられ、少年修司は思い更けた様な影のある顔を、静かにバーンズに向けた。

「……」「……修司、どうした……?」

 暗い面差しを向けられたバーンズは戸惑いながらも言葉を返した、すると修司は暗然とした面立ちのままでバーンズや皆に返した。

「みんな……もう、少しだ。もう少しで……全てを済ませられる」

「……え?」『……?』

 暗く悲しげな暗然の表情の修司の言葉に一瞬困惑するバーンズに皆。

 そして修司はその表情のまま周囲の皆の前でミラーナイトに話し掛ける。

「キーオ」「……」

 ミラーナイトは険しい顔立ちのまま修司の話に耳を傾けた。

「キーオ……あれが、そうなんだな。あれこそ……この俺が、この二次元界に来た事で生じてしまった歪み。その歪みより力を得て、更に力を欲する余りに全ての世界・次元を取り込もうとしている根源……そうだろ」

 修司の問い掛けにミラーナイトは静かに首を頷かせた。それに対し周囲の皆は修司の発言に言葉を失うほど内心衝撃が走った。

 ミラーナイトが首を頷かせたのを確認した修司は、再び足を歩ませつつ、崩壊していく空を見上げながら皆に声を放った。

「みんな」『っ…………』

 声を掛けられた皆々は、動揺しつつも修司の声に耳を向けた。

「もうすぐだ、もうすぐ……もう少しで、何もかもが……」

「な、何もかもって……お前」と、バーンズが修司に話し掛けようとしたその時

「……ごめんな」『!』「! し、修司?」

 何の前触れも無く修司の口から出た謝罪の一言に凄く驚異する皆にバーンズ。

 修司は続けて皆に語り明かした。

「ごめんな、俺の身勝手な願望のせいで此処までみんなを巻き込んで……ごめんな」

『…………』

「俺は……俺は…………結局、みんなの様な英雄に……多くから慕われる存在には、到底成れる筈は無かったんだ……」

 悲愴に満ちた言葉で語り明かす修司に、皆は彼の只ならぬ様子を察した。

 そして修司は、更に皆に謝りつつ、ミラーガールに話し掛けた。

「出逢う筈の無い……戦う筈の無いお前達を引き合わせてしまった。運命と云う名の軸を激しく狂わせ、更なる苦境へと皆を誘ってしまった……。特に……特にミラーガール、俺はお前に……お前自身に最も救われたと云うのに、そんなお前を戦いの渦中に引き摺りこんでしまった……! それが何より申し訳ない」

「え……!!?」

 修司の発言に酷く困惑するミラーガール、そんな聖女に少年は悲愴な苦境で話し続ける。

「お前は、お前は……こんな醜く、周りから嫌われている俺と違い……本当に、周りの皆から愛されている存在だと云うのに……! 俺が、この世界に来た事で……お前を辛く苦しい戦いの渦中に引き摺りこんでしまった……! 俺は、俺は……俺はただ、俺と違い愛される存在を……愛と云う心を持ち合わせ、感じられる存在を……! 護りたかっただけなのに……! 愛に満ちているお前を、戦いに引き摺りこんでしまった……本当に、申し訳ねぇ……ッ!!」

 辛く悲しい、そんな切羽詰まった真情で延々と謝罪を唱え続ける修司の言葉に、ミラーガールは困惑する気持ちよりも彼の苦境に喘ぐ心中を察し、居た堪れない心境に

至った。

 自身の謝罪と詫びの言葉を唱え終わった修司は、刀を引き摺りながら再び歩き出した。

 彼は弱々しく歩みながら、まるで死人の様に呟く。

「……もうすぐだ……もうすぐ……もうすぐ、終われる……」

 生気のない目、活気を失ったその瞳は、天空で全ての物語そして世界を呑み込み消滅させようとしている絶夢鳥だけを捉えていた。

 

 その時だった。

「……修司君……!」「……」

 突然声を掛けられた修司は立ち止り、ゆっくりと声の方に意識を向けた。

 其処には、切羽詰まった様な悲痛な面持ちのキューティーハニーが立ち尽くしていた。

 ハニーは悲痛な表情で修司に言った。

「修司君……あなたが……アナタが、この世界、二次元界とは別の世界である三次元界から来た子だって事は解った。……そして、あなたがこの世界に来た事で多くの人の運命を狂わせてしまった事も、あなた自身の言葉で理解できるわ」

「……」

 愛の戦士の言葉に耳を傾け、無言で立ち尽くす修司。

 するとキューティーハニーは悲痛な表情のまま、修司に問い掛けた。

「……それじゃ……それじゃ……あなたの、あなたの居た世界での、私達の物語は……どんな筋書きだったの……!?」

 修司に問い詰めるハニーの表情が蒼褪め一変していくのを、修司も周りの皆も感づいた。

 そしてハニーは憮然に近い表情で修司に話し掛ける。

「あなたが、この世界に来た事で……多くの人の運命が変わってしまったと云うなら、本当はどんな物語だったの……!」

「……」ハニーの悲痛な問い掛けに修司は未だ黙然としていた。

 そんな無言の境地に至る修司に、ハニーは思い切って問い掛けた。

「そう、あなたが……あなたが来た事、つまりは居た事で助かった命、そう……! あの時、あなたが身を挺して護ってくれた夏子は……まさか……!」

 悲痛な苦心に喘ぐハニーの言葉に、修司は口を開いた。

「……そうだ。夏子は……お前の無二の親友である秋夏子(あきなつこ)は、あの時…………本来、死んでいた」

「!!」『!』

 修司の口から出た事実に愕然と成るハニーに、その修司の言葉を聞いた皆々。

 以前、秋夏子が豹の爪(パンサークロー)の銃撃を一身に浴びてしまいそうに成った瞬間、修司こと聖龍使いが彼女の間に入り身を挺して夏子を護った。

 しかし本来、物語の筋書きであれば、秋夏子はその時豹の爪の銃撃を一身に浴びて絶命しているのだという。

 親友の本来辿るべきであった末路を知って愕然と成るキューティーハニー。

 そんな驚愕するキューティーハニーに周りの皆を尻目に、修司は語り続けた。

「俺は……俺は、少しでも人の為に……お前達の様に誰かを救い、そしてお前等の様に成り変わりたいと願い続けた……! 故に、俺はこの世界に赴き……少しでも多くの非業の運命を変えようと模索し続けて来た……! しかしだ……その結果が、あの闇人を……そして闇人を生み出した絶夢鳥を出現させる兆候へと成り果ててしまったがな」

 淡々と語られる事実に愕然とし続ける皆々、そんな皆の前で修司は更に語った。

「でも俺は……! 俺は……こんな俺に相も変わらず接し続けてくれた女を……俺を、人として扱ってくれた女を戦いに誘(いざな)ってしまった……!!」

 そう語る修司は、再び顔をミラーガールに向けると彼女に言葉を掛け続けた。

「済まなかった……本当に、済まなかったアッコ……! 心優しいお前を、戦う存在へと変貌させてしまって……!」

 修司は身を震わせながらミラーガールに言葉を投げる。

「怖かったろうに……辛かっただろうに……! それなのにお前を……他人を想い、誰振り構わず優しさを掛けられるお前を……俺は戦いの場に誘った……! 何より、そんなお前の御蔭で、俺が一番為し得たかった願望が……非業の運命を変える事が出来た。……詫びの言葉も告げたいが、同時に沢山の優しい想いも救い出せる結果も成し遂げられた……! ありがとう、そして…………ごめんな」

「…………」

 修司に投げ掛けられる言葉の数々に、肩を震わせて劇震するミラーガール。

 だが、その修司の言葉を聞いて、周囲の皆々が騒ぎ始めた。

 そんな騒然となる皆の内の一人、宇崎星夜(うざきせいや)とデューイが血相を変えて修司に向かって問い掛けた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! つまりミラーガールが現れたのも……アッコさんがミラーガールに変身できる様になったのも、修司さんがこの世界に来たからなのか!?」

「そ、それじゃ……! ミラーガールの奇跡の力で、命の花を解放しても生きて居られたナースエンジェル……森谷りりかは……!」

 二人の切羽詰まった問い掛けに、修司は悲愴な面持ちで答え返した。

「……そうだ。りりかは……ナースエンジェルは……本来は、自身の命に封印されている命の花を解放し……自ら死を選び、朽ち果てた……!」

「っ!」「ッ!」「そ、そんな!」「……!」

 告げられた事実を耳にし、ナースエンジェルは思わず口を塞ぎ、デューイに星夜そしてカノンは驚愕した。

 更に其処へ追い打ちを掛けるかのように他の面々も口を揃えて修司に言い放った。

「じゃ……! じゃあ、プーが……プルートが死にそうになった時も……!」

「私が、さくらちゃんのカードで死ぬ直前まで時を戻して、死ぬ事が無くなったのも……!」

「私が……私が、泉から蘇ったのも……全ては……っ」

 蒼褪めた悲愴な顔色で唱えるちびムーン、ミスティーハニー、そしてウォーターフェアリーの言葉に、修司は静かに返した。

「……そうだよ。みんなが……みんなが助かったのは、他の誰でも無い、この俺ですらない……全部、アッコの……ミラーガールの力があってこそ助かったんだ。セーラープルート、ミスティーハニー、アプリコット……いいや実を言えば内部系のセーラー戦士、お前達が最初あのDDガールズと対峙した際は……本当なら、お前達五人は、あの時一回、全員死んでいた……! この場に居る者の大半は、決められていた物語の筋書きでは……既に絶命し、息絶え……存在すら無かった者が多い……!!」

『!!』

 修司の口から語られる真実に、皆は完全に言葉を失うほど落胆した。

 

 皆に語るべきであった事実を告げた修司は、再び前へと歩み出した。

 そして数歩進んだその時、修司は不意に言葉を発した。

「カノン」「! ……っ」

 名を呼ばれたカノンことクイーンアース出身者で、地球での名を加納望(かのうのぞむ)は動揺した。

「カノン……こっちに来てくれ」「…………」

 呼び出されたカノンは困惑しながらも修司に駆け寄った。

 自分に駆け寄ったカノンを確認した修司は、彼の間近で呟いた。

「……耳を貸せ」

 そして半ば強引にカノンの耳を自分の口元に近寄らせ、そして周りには聞こえないようカノンに囁き掛けた。

 すると修司の言葉を一人耳に捉えたカノンは、表情を一変させて酷く動揺しながら修司に顔を向け問い掛ける。

「し……修司君。今、なんて……!?」

 酷く動揺した表情を向けるカノンに、修司の方は表情を変える事無く平然と答え返す。

「今言った通りだ。俺が為すべき事をやり遂げた後は……全ては、お前の能力に掛かっている。一人、全ての事柄を推し付けて申し訳ねえが……これは、お前しか出来ないんだ……」

「だ、だけど……君は……!」

 困惑し酷い表情を見せるカノンに、修司は再び耳元で囁き掛ける。

 再び耳元で修司の言葉を聞いたカノンは、より一層表情に動揺の色を表し、顔から血の気が引いていった。

「そ、そんな……!」

 血の気の無い蒼褪めた表情のカノンに、修司は穏やかに話し明かした。

「解っただろ。それに比べれば……こんな俺の様に、汚れ切った三次元人の事など……みんなの頭ん中には無い方が幸せだってもんだ」

「…………!!」

 修司からの言伝に驚きと戸惑い、そして同様と困惑を隠しきれないカノン。

 

 そしてカノンと話し終わった修司は、およそ二歩ほど歩くと其処で立ち止まり、皆に背を向けながら言葉を投げ掛けた。

「みんな」『…………』

 確実に様子が可笑しい修司からの言葉に、耳と意識を向ける皆。

 修司はそのまま背中越しに語り出した。

「これで終われる……俺の長かった苦境の日々も、異形の者として産まれ苦しむ人生も……何より、みんなの苦しく悲しい物語も……全部終われる」

 皆が修司の言葉に意識を集中させていた、その時。修司は唐突にミラーガールに言葉を投げた。

「何より、アッコ……」「……」

 修司の言葉に耳を傾けるミラーガール、そして皆々。

 何かを決意した様な背中を見せ付けながら、修司はミラー・ガールに述べ続ける。

「こんな血で汚れた俺が……二次元人とは違う俺が口に言うのも、おこがましいけど……最後に、お前に一番言いたかった事がある」

 そう言うと修司は、振り向きながらミラー・ガールに……そして皆に向かって言った。

 

「こんな俺に《愛》を……《人を信じる心》を教えてくれて……ありがとう……アッコ、みんな……!」

 己の真情が詰まった言葉を発しながら振り向いた修司の顔。それは瞳から一筋の煌めく涙を流す、今まで誰にも見せた事の無い、穏やかで優しい微笑みだった。

 闇の如き漆黒の瞳から輝く涙を流す修司の微笑みを見た途端、ミラーガールを始めとした、その場の誰もが驚きと感動を胸の底から湧き上がらせた。

 

 そして皆、何かを察したのか一斉に修司の許へと駆け寄ろうとした。

「修司……」

 ミラーガールが駆け寄ろうと同時に修司に声を掛けようとした、次の瞬間。

「な、なんだ!?」

 突如、修司の体から黒い靄が激しく噴き出し、その凄まじい衝撃に駆け寄ろうとした者は全て立ち止まってしまった。

 まるで獣の如く四つん這いと成り体から黒い靄を噴出する修司の異様な現状に、周りの者は皆目を見張った。

 そして修司は身体を起き上がらせると、獣の如く厳つい顔立ちで天に向かって雄叫びを上げた。

「うおおおおオオぉぉオオオオ……」

 その異様な光景に、周囲は言葉を失う。

 更に体から噴出した黒い靄は、修司の全身を覆い被さる様に包み込み、その背中から巨大な荒々しい風貌の黒い翼を出現させた。

「…………!」「こ、これは……!」

 余りの事態に、バーンズとジュニアは酷く戸惑いながら立ち往生する。

 そんな最中、一人黒い靄に体を包み込み、背中から巨大な漆黒の翼を生やした修司は、我が物顔で天を飛び続ける絶夢鳥を睨み付けながら言い放った。

「聖龍総長、小田原修司……参る!!」

 その瞬間、修司は背中に出現した巨大な黒い翼を羽ばたかせ、一気に空へと駆け上った。

「ああ……!」「し、修司……!」「こんな事って……」

 背中に巨大な翼を出現させ空へと勢い良く舞い上がった修司を目の当たりにして、愕然と成るウラヌスに青児そして李・苺鈴(リ・メイリン)。

 だが、その時だった。

「止めてくれッ! 誰か修司を止めてくれ……ッ!」

 と、カノンが血相を変えて酷く動揺しながら叫び回る。

「か、加納……!?」「加納先輩……?」「カノン……」

 突然血相を変えて叫ぶカノンを見て困惑する星夜にナースエンジェルそしてデューイ。

 其処に様子が一変したカノンを見て、慌てて彼を宥め様と駆け寄るバーンズがカノンに声を掛けた。

「カノンどうしたんだ? 一体、何をそんなに……」

 するとバーンズに問われたカノンは、その目から大粒の涙をボロボロと流しながら大声で答えた。

「修司は……修司は死ぬ気だ! 絶夢鳥(ぜつむちょう)と対峙して全てを終わらせ……自分自身も死に果てる積りだッ」

「な、なにッ!?」『!』

 カノンから告げられた言葉に一驚するバーンズに皆々。

 カノンはそのまま、まるで助けを求める様に唱えた。

「彼は……! 彼は、自分が撒いてしまった災いを……元凶である絶夢鳥と一人で戦って死ぬ積りなんだ! 自分がこの世界に来た為に……自分の行いで狂い、捻じ曲げてしまった為に起こってしまった、この戦いを終わらせる為に一人で……一人で死ぬ気なんだッ!!」

「か、カノン……! それを修司は……修司はお前に言い残したのか?」

 懸命に唱え続けるカノンの切羽詰まった言動に戸惑いながらも訊き返すバーンズ、それに対しカノンは悲痛な心情で目に涙を浮かべて答えた。

「彼は……彼は僕に言ったんだ……! 自分が絶夢鳥と共に消滅したら……僕に、この僕に……! 僕自身の能力で、此処に居るみんなはもちろん、この世界の人々全ての記憶から、自分の事を……小田原修司の記憶を抹消してくれと、僕に言ったんだ……!!」

「なッ、何だと……!!」

 カノンから告げられた修司の言伝に驚愕するバーンズに皆。

 更にカノンは号泣しながら語った。

「彼が……彼が言うには……! 本来、僕の人の記憶を消す能力は……命の花を解放させ死んでしまうナースエンジェルを、そして森谷りりかの記憶をみんなから消し去る為に有ったと云うんだ……!!」

「え……!!」「そ、そんな……!!」「わ、私の……!」

 告げられた事実に耳を疑う星夜にデューイ、そして当の本人であるナースエンジェル。

 そんな悲劇的な事実を修司から聞かされたカノンは、更に修司から伝え聞いた事を眼前のバーンズに涙ながらに語った。

「本来なら……ッ、本来の話なら……! ナースエンジェルが……りりか君が、命の花を解放させる為に自らの命を絶った直後に……! 僕が……この僕が自ら、りりか君を失って悲しむ……星夜君やデューイ、それに彼女の家族や親友と云った周りの人たちの記憶から……森谷りりかと云う人間の記憶を消し去り、皆の悲しみを拭い取る役目を自負する……! それが……それが! この僕が本来行う筈であった結末だったんだよ……ッ!!」

「な……な……ッ!」

 カノンの語りに愕然と口を動かし一驚するばかりのバーンズ。

 そして最後にカノンは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、そんな悲愴な面持ちを皆に向けて言い放った。

「彼は……! 彼は! 自分が絶夢鳥と一騎打ちして果てた後、僕の能力で自分に関する記憶を……小田原修司の記憶をみんなから消してくれと……! 自分の様な汚れた存在を、みんなの頭から綺麗さっぱり拭って欲しいって、僕に言ったんだ!!」

 普段は決して見せない程の、大粒の涙を延々と流しながら唱え続けるカノンの言葉に、ただただ騒然となる皆々。

 

 皆、単身一直線に絶夢鳥へと飛び向かう修司を見上げ、悲愴に極まり満ち溢れる面差しへと表情を一変させるのであった。

 

 そして漆黒の翼で空へと羽ばたき、一人絶夢鳥に向かって行った修司を瞳に焼き付けるミラーガールは、心中居た堪れないほどの悲しく苦しい想いを吐き出すかのように

空に向かって叫んだ。

「修司ーーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

[闇の魂(やみのこころ)]

 

 一方、地上の皆を気にも止めずに飛び続ける修司は、その背中に生やした巨大な禍々しい漆黒の翼を広げて一直線に絶夢鳥に向かった。

 そんな修司の勇ましくも末恐ろしい姿に気付いた絶夢鳥は、不敵に微笑しながら呟いた。

「くくく……遂に、其処まで覚醒したか……闇の者よ」

 そう呟いた瞬間、絶夢鳥は自身の翼に生えている羽の一本一本を飛行可能な怪物に変化させた。

 翼の生えたガーゴイルに酷似している怪物は次々に絶夢鳥の体から解き放たれ、絶夢鳥に向かって行く修司に飛来していった。

「来い、怪物共……! 共食いの時間だ……!!」

 敵意に満ちた厳つい強面を浮かべ、修司は自分に迫って来る怪物たちに狙いを付ける。

 そして怪物が修司に攻撃を仕掛けようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで修司は怪物を一刀の如く斬り捨てた。

「グギャアアァァ」

 修司に斬られると同時に、怪物は断末魔を上げながら消滅した。

 その後も修司は自分に迫って来る無数の怪物たちを次々に薙ぎ倒しては、一刀のみで見事に斬って捨てて見せる。

 尋常でない修司の戦振りに、唾を呑み込み傍観しているしかない地上の聖龍隊の面々は複雑な心境で、ただ修司を見守る事しかできなかった。

 

 そんな一刀のみで迫って来る敵を果敢に斬り倒す修司の姿を見て、絶夢鳥は怪しく嘲笑しながら話し掛ける。

「ぐへへへ……遂に目覚める事が出来たのかな? 闇の者よ」

「!? 闇の、者……?」

 絶夢鳥の掛けた言葉に、敵を斬り続ける修司は困惑した。

 すると絶夢鳥は続けて修司に嘲笑を向けながら語り出した。

「そうじゃ闇よ。お前は闇、全てを呑み込み喰らう事のできる闇よ……。お前は生まれたその時から、その闇を心に秘めておる。お前の心、いや魂は、紛れも無く…………闇の魂(やみのこころ)通称ダーク・ソウルじゃ」

「ダーク、ソウル……!」

 絶夢鳥の発した言葉に驚きを隠せない修司。だが絶夢鳥は容赦なく修司に話し語った。

「そう、闇の魂ダーク・ソウル……。お前の様な者は、百年いや数年と……必ずこの世に生まれてくる、実に忌まわしくも気高き存在……。その強大な闇の魂を持つ者は、全てが歴史を動かし、時には狂わせるほど影響を与える逸材でもある」

「な、何……!」

「お前の存在……それは世界を、人を、全てを狂わせ、全てを惑わせてしまう元凶」

 驚く修司、彼に絶夢鳥は語り明かし続けた。

「そう確か……お前の様に意思強く、そして闇に満ちた心を持った者は、長い歴史の中で淡々と語り継がれる存在へと成り果てた。己が理想の為に何万の命を奪い尽くし自らの領地を広げていったチンギス・ハーン……世界に牙を向け、己がままに暴挙を振るい続けたアドルフ・ヒットラー。お前はそんな奴等と同じ、闇に満ちた心を生まれた時から持っておる……歴史上、必ず存在しなければならない逸材なのじゃ」

「………………」

 絶夢鳥の話に驚きを隠せずにいる修司、そんな彼に絶夢鳥は更に衝撃的な話を告げた。

「しかしじゃ、そんな闇の魂を持つ者らの天命は極めて短い……最後には非業の末路だけが待っておる」

「ッ……!」

「歴史を動かし導く闇の魂を持つ者……しかし、その生涯は淡く短く、必ずと言っていいほど非業の最期しか待ってはおらん」

 話を聞いて更に驚く修司。すると絶夢鳥は意味深な口振りで修司に語り出した。

「じゃが我は……お前さん同様、いやお前以上に深い闇の心を持った男を知っておる」

「え……!」

 自身の闇が、とても深いモノであると知り得ている修司は動揺した。自分以上に深い闇を持つ者が他にも居た事に酷く驚いたのだ。

 そして絶夢鳥は驚きに喘ぐ修司と、先程から修司の戦振りを見続けながら話にも耳を傾けている地上の聖龍隊に聞こえる様に言った。

「小田原修司、確かに御主の闇の魂も、歴代の闇の魂を持つ者らに匹敵するほど、禍々しくも深い闇じゃ。しかし、かつて日ノ本には……お前さんを含んだ歴代の闇の魂を超える闇の魂を持つ者が存在していた……その多くの人々を魅了する生き様に苛烈な振る舞い、その者の影響で今の日ノ本も在ると言っても過言ではない」

「…………」

 かつて日本に実在した、自分以上に強大な闇の魂を持つ者の存在を告げられる修司。

 だが淡々と語り続ける絶夢鳥は、その禍々しい赤い瞳を輝かせながら修司に言い放った。

「じゃが! その者は同時に多くの者等が恐れられ、敵だけに非ず自分の身内ですら刃を振るい命を奪った武人でもある。そして最後にその者は自らの配下である家臣に裏切られるという非業中の非業の最期を遂げ……遂には自らの命を刃で絶った。そう、業火に等しい炎に包まれた…………本能寺でな」

「ッ!!」『!!』

 絶夢鳥の話を聞いて、その絶夢鳥に向かって飛び続ける修司に、地上の聖龍隊は全員凄まじく驚愕した。

 日本人なら誰もが知っている人物。その鮮烈な生き様で人々を魅了し続けるカリスマを備えた武人。その武人が燃え盛る炎の中、自分を裏切った家臣の名を叫びながら命果てる様を、聖龍隊はもちろん修司自身も脳裏に浮かび上がらせた。

 

「おのれ…………光秀ぇーーーーッ!!!」

 

 絶夢鳥の口から出た驚愕の語りを全て聞いた、その時。

「……くっく……ふははははは……」

 突然、話を全て胸中に刻み込んだ修司が小さく不敵に笑い出した。

 そんな修司の様子に気付いた地上の皆、そして絶夢鳥が修司に視線を向けると、修司は小さく微笑しながら絶夢鳥に言い返した。

「ふははは……それがどうした」「ッ……」

 不敵な修司の発言に眼光を鋭くさせる絶夢鳥、修司はそんな絶夢鳥に続けて言った。

「それがどうした……! 俺は俺だッ。例え何万の者から慕われる者と、何万の命を奪い尽くした者と、同じ魂を持っていようが俺は俺だ! そして今俺が為すべき事……それは絶夢鳥! お前を滅ぼす事よォ!!」

 荒らしく狂気に満ちた修司の言動に、絶夢鳥は嘲笑を上げながら修司に返した。

「ふはは……はははは! そうか、それでこそ闇の者よ! 多くの思想を導き、多くの思念を育て上げ……そして数多の運命を狂わせ、命を奪い尽くす史上最大最悪の……最強(最凶)の存在! 闇の魂を持つ者、小田原修司よ!!」

 そして修司は果敢に、苛烈に、自分に迫りくる無数の敵を斬り付けては消滅させていく。

「うおおッ」

 雄叫びを上げながら敵を一刀のみで斬り倒すその姿は、まるで荒れ狂う野獣そのものであった。

 そんな野獣の如く敵を薙ぎ倒していく修司を見て、愕然となる地上の聖龍隊。その中に、一人悲痛な面持ちで今にも心が折れそうになる少女ミラー・ガールの姿が在った。

 一方の絶夢鳥は、もはや人の風貌では無くなった修司を一目見て、軽く嘲笑しながら言葉を吐いた。

「ふははははははっ、闇の魂を持つ者よ、遂に……遂に、自ら闇へと墜ちたかァッ!」

 だが修司は、それに対して平然と、厳つい顔立ちで強く主張した。

「闇に墜ちたァ? ……否! 俺は闇そのものよッ!!」

 自らが闇であると豪語する修司は、更に勢いを増しつつ一人、絶夢鳥へ向かって飛び続けるのであった。

 

 

 

 

[全てを終わらせ]

 

 勢いが衰える事無く、それどころか増しながら絶夢鳥に猛進していく修司。

 闇の如き漆黒の翼を広げ、もはや人の風貌から遠ざかっているその容姿に、地上の皆々は肝を抜かれる。

 

 しかし、絶夢鳥も何もしない訳では無かった。

 修司が自らの羽から生み出した無数の敵と戦いながら、自分の真上まで飛来したその時、絶夢鳥はその紅く怪しい瞳を光らせ、その眼光に修司を捉えた。

 そして瞬時に、自らの体から孔雀の羽根に似た無数の触手を放ち、修司目掛けて放ち飛ばした。

「クッ」

 自分目掛けて飛んでくる触手を交わしながら態勢を変える修司。

 その時、修司は咄嗟に右手首に装着している大粒の数珠を、そう聖龍が封じられている七色の数珠玉を千切る様に左手で掴み取ると、同時にそれを振り投げながら叫んだ。

「頼む、聖龍!」

 すると修司が投げ飛ばした瞬間、七色の七粒の数珠は光り輝き、その光の中から巨大な色取り取りの七体の龍が出現した。

『ウオオォォォ……』

 雄叫びを上げながら解放された七色の七体の龍。

 そんな鮮やかな七体の龍を目の当たりにして、地上の聖龍隊、その初見である者等は驚愕した。

「あッ、あれが……!」

「あれが、聖龍……!? 話には聞いていたけど……!」

 聖龍はもとより、龍と云う幻獣すら初めて見るシュウジにちせは驚倒するほど呆気に取られた。

「す、凄い……!」

「あれが聖龍……この街の、アニメタウンの守護獣と呼ばれている」

「き……綺麗……」

 その色取り取りの鮮やかな風貌に一驚するコレクターアイ、自分達の町より護ってくれていたと云う伝説の龍を目の当たりにして驚くコレクターハルナ、そして七体の龍それぞれが一体ずつ中には微妙に色が異なり鮮やかな風貌を醸し出す聖龍に思わず見惚れるコレクターユイ。

「聖龍……あれが……!」

「この世界の自然、その力を司り守護していると云う伝説の……!」

「……修司君は……修司君は、あの龍達に認められたからこそ聖龍使いに成れたんだ……!」

 セフィーロの竜とは異なる、胴体の長い体形の龍に驚きを表しつつある魔法騎士(マジックナイト)の海・風・光の三人は、目を輝かせて見上げる。

「あ、あれが……! この世界の龍」

「な、なんて美しい……! 素晴らしい、鮮麗された色合い……!」

「す、スゲぇ……! あの一体一体がそれぞれ、炎・水・樹・氷・大地・雷・風を司っているのか……!」

 紅蓮の炎の体を持つ火炎龍(かえんりゅう)、澄み切った水の体を持つ水龍(すいりゅう)、草花生い茂る苔の生えた緑の体を持つ樹木龍(じゅもくりゅう)、その青白い体から全てを凍て付かせる冷気を放つ氷龍(こおりりゅう)、全身を砂や岩石で構成している岩石龍(がんせきりゅう)、激しい電撃で火花を散らす体の雷龍(いかずちりゅう)、透き通った風の体の風龍(ふうりゅう)。各々七体の聖龍を目にしたセフィーロのクレフにランティスそしてフェリオの三人はその美しさに思わず驚異する。

 

 そして解き放たれた七体の聖龍に修司は叫んだ。

「聖龍!」

 名を呼ばれた聖龍は、優雅に空を舞いながら修司の方を見た。修司は意を決して聖龍達に命じた。

「聖龍! 頼む、絶夢鳥の動きを止めてくれッ!」

 これに対し聖龍達は同時に言葉を返した。

『御意ッ』

 すると聖龍達は絶夢鳥の周りを囲むように飛行し、そして突発的に絶夢鳥の体に各々噛み付いては完全に動きを封じてしまったのである。

「お、お前等……!」

 突然体を四方から噛み付かれ身動きを取れなくなった絶夢鳥は凄まじく困惑する。

 と、その時である。

「絶夢鳥!」「ッ!?」

 名を呼ばれ、声のした真上を見上げてみる絶夢鳥。

 見上げてみると丁度頭上に、一人空中で静止し、刀を立てて右手側に寄せ、左足を前に出して構える通称《八双の構え》で刀を構えているのが目に入った。

 修司を見上げ続ける絶夢鳥、それと同じく地上から修司を見続ける聖龍隊の面々。彼らが刀を構え宙で停止している修司を見上げているその時、突然修司の刀が強烈に光り出した。

「な、なぬッ」「え……!?」「あ、あの光は……!?」

 突然発光し出した修司の刀に驚く絶夢鳥に地上の面々。

 修司は絶夢鳥を見下ろしながら光り輝く刀を構えつつ、厳つい顔で言った。

「絶夢鳥、この光が何だか解るか……! この光は俺が……俺が、この世界で学び得て来た感情による光だ! 俺は……俺は、みんなから分け与えて貰ったこの光で、お前を

斬る!!」

 凄まじい気迫で絶夢鳥に己の闘志を告げる修司。

 だが、修司のこの言葉を聞いた途端、絶夢鳥は様子を一変させて修司に強く反感した。

「そ、それは紛れも無く光の……負の感情を打ち払う光! じゃが小田原修司! その光を解き放てば……我を倒す為に使用すれば、闇の心を持つお前も……負の感情で満たされている、お前も死ぬぞッ!」

『!!』

 絶夢鳥の口から出た言葉に衝撃を体に走らせる地上の聖龍隊。

 だがしかし、そんな絶夢鳥の言葉をしかと耳に聞き入れた修司は、それでも態度を変える事無く平然と苛烈に言い放った。

「それがどうした! そんな事、俺が気にするとでも思っているのかッ!!」

 そう怒鳴った瞬間、修司は自身の体に纏わり付かせていた黒い靄を消し去り、背中の羽根すら消して一気に絶夢鳥の頭目掛けて急降下した。

「うおおおおぉぉおおッ!!」

 雄叫びを上げながら光り輝く刀を逆手に握り直し、切っ先を真下に向けながら垂直に落下していく修司。

 そんな修司の姿を見て、絶夢鳥は慌てた口調で自身に噛み付いては動きを封じている聖龍達に告げた。

「お、お前達! お前等の主が……主君が自ら死のうとしているんじゃぞ! 止めなくて良いのか!?」

 すると問われた聖龍達は、平然と落ち着いた様子で、絶夢鳥に噛み付いたまま答え返した。

「我々はただ、主君の……あの小田原修司の命に従うまで」

「あの者は覚悟している……自分の生に対する宿命も、己が背負い続けなければならない運命(さだめ)も」

「故に……既に修司は決意しておる。己がやり遂げなければ成らぬ事柄を……」

「例え、それで己が死のうと……あの者は死をも恐れぬ気高き精神(こころ)を、この二次元界の者達から教え授かった」

「もはや、あの男の信条を……信念を捻じ曲げ、止める事は誰にも出来ぬ」

「先程、主が言った通り……あの者の心は完全な闇じゃ。じゃが決して闇だけに非ず。その闇に満ちた心には、一筋の光が……微かな光をも存在する」

「闇があれば光も在る、光があれば闇も存在する。それこそ、絶対的な光と闇の関係じゃ」

 そして七体の聖龍達は、同時に強い口調で言い放った。

『闇、それは全ての命が還り 全ての命が誕生する 決して耐えてはならない存在(力)成り!!』

 

 七体の聖龍達が放った格言、その力強い言葉に地上の聖龍隊は皆々、揃って心中を熱く震わせた。

 それと同じく聖龍達の言葉に愕然と成る絶夢鳥は、自分目掛けて急激に飛び降りてくる修司に再び目を向ける。

 頭上の修司、彼は闘志と覚悟に満ちた厳つく険しい顔立ちで、自身の得物である日本刀 聖龍剣を両手で逆手の状態で力強く握りながら、切っ先を絶夢鳥の頭部目掛けて垂直に落下しながら標的である絶夢鳥に言い放った。

「印籠を渡してやるぜッ! 絶夢鳥ッ!!」

 殺気すら感じるその厳つい面立ちに酷く動揺した絶夢鳥は、七体の聖龍達によって動きを封じられている体から、苦し紛れに羽毛と羽毛の狭間から無数の孔雀羽根の形状をした切れ味抜群の触手を、修司目掛けて放った。

 無数の触手は修司の体を幾度と斬り付け、修司の顔や肩、身体の彼方此方に無数の切り傷が生じる。

 しかし修司は怯む事無く、そのまま絶夢鳥の頭部に向かって一直線に落ちつつ、二次元の皆々から教え授かった意思である光を放つ聖龍剣の切っ先を向ける。

 そして「うおおおおおおぉぉおおおお!!」雄叫びを上げつつ、修司は絶夢鳥の頭部に迫る。その光景を地上から見上げている聖龍隊、その中の一人ミラー・ガールは死ぬかもしれないと解っていても尚迷う事無く絶夢鳥に迫っていく修司を目に捉えて叫ぶ。

「修司ーーッ!」

 そして遂に、修司の光り輝く刃は、絶夢鳥の頭部に突いた。

 グサッという肉を貫いた音が、低くそして鈍く地上の皆々の耳にまで届いた。

 そして頭を光の刀で貫かれた絶夢鳥は只ならぬ奇声を上げた。

「ぐッ…………ッ……グアああああァァあああぁぁぁぁ……」

 すると見る見る内に絶夢鳥の体内から強烈な光が生じ、同時にその肉体が激しく崩壊、その際の罅から光が漏れだした。

「グオオオオおおおォォォ……」

 激烈な断末魔を上げながら、絶夢鳥はその漆黒の闇と同等の肉体を消滅させていった。

 地上の聖龍隊は、誰も彼もが次第に消えていく絶夢鳥を目の前にして無言で立ち尽くす。

 と、その時だった。地上で上空の消え行く絶夢鳥を傍観していた皆々の心中に、なん絶夢鳥の声が聞こえて来たのだった。

(二次元の者共よ。この宇宙が、世界が生まれたその時から……人と云う生き物には、他の生命が簡単には持ち得ぬ《心》と云う感情を持っていた。それは我自身が、その心の半身……負の感情を司り、人と云う知能を持ってしまった生き物に感情を与えた絶対の存在であるからじゃ。我は人に感情を与え、その感情から生み出される負の感情を喰らっていたからこそ、今この時まで我は次元を超越した存在へと成り得た訳じゃ)

 更に絶夢鳥は真剣な口振りで二次元人達に語った。

(我と云う感情が、心があったからこそ……お前達、人の思想概念から生まれ出た二次元人が居るのじゃ。我の存在、我と云う心が居たからこそ、人はお前等を生み出せた……つまり、我こそがお前等二次元人の基となった存在であり、そしてお前等二次元人同様、人の感情・思想概念から常に生まれ存在する事ができるのじゃよ……)

 そして最後に、絶夢鳥は二次元人達の心に直接言い放った。

(忘れるな、我もお前らも元は同じ心である。つまり……お前達が存在し続ければ、この我も何れは再び蘇るのじゃよ……!! さらばだ、人の感情(こころ)から生まれ、そして人々に数多の感情を与え続ける……我が同等の存在らよ)

 そう伝え遺し、絶夢鳥はその肉体を完全に光の中で消滅し、そして意識を完全に失った。

 

 人に感情の半身、負の感情を与えたと豪語した絶夢鳥。そして二次元人達は、その負の感情を含んだ全ての感情・思想概念から生まれ出た存在であると。

 二次元人が居る限り、この世に創作と云う物語がある限り、再び負の感情を司る自分は生まれ蘇る。

 

 怒り・憎しみ・悲しみ・恐怖そして絶望という負の感情の根源である絶夢鳥(ぜつむちょう)

 

 だが、そんな負の感情もまた、大いなる二次元を始めとした創作の世界を築く、虚しくも必要不可欠な感情(こころ)なのかもしれない

 

 

 

 

[闇(いのち)消え果て]

 

 

 光り輝く修司の刀に貫かれ、激しい光を己が体内から生じられ消滅した絶夢鳥(ぜつむちょう)。

 その絶夢鳥の体内から発せられる強烈な光に、思わず目蓋を閉じ顔を逸らしてしまっていた地上の聖龍隊。

 

 やがて光が治まり、皆各々静かに目蓋を開けてみると、目に飛び込んできた情景は。

 相も変わらず激しい戦闘により陥没し大破したアスファルトの道路、凄まじい衝撃波で完全に砕け散ったガラスの破片、それら全てが色鮮やかで鮮明な情景で周囲に広がっていたのだった。

 

 闇人により、色と云う色を完全に失い空虚な灰色に染まっていた瓦礫だらけの街並みは、再びそれぞれが極当たり前の色を取り戻していた。

 

 そして次に彼等は、先程まで激しい空中戦が行われていた空を見上げた。

 空は所々、薄らと白く浮かぶ雲が点在した、見事なまでの澄んだ青空が広がっていた。

 

「お……俺達……」「助かった……のか……?」

 先程とは打って変わって、完全に穏やかな情景が辺りに広がる現状に唖然とする早見青児にタキシード仮面。

「街も……空も……何もかも、元に戻って……」

 目に入る全ての景色が元通りの色に戻り、思わず周辺を見回し続けるセーラーネプチューン。

「終わったのか……」「あ……」

 突然、事態が急変した為に愕然と成るバーンズとジュニア。

 と、皆が辺りを見回していた時。

 風を切る様な音が耳に届き、そしてガキッと激しい音を立てて周辺を見渡していた聖龍隊の眼前に、修司の得物である聖龍剣が空から落ちて来てはアスファルトの地面に突き刺さった。

「こ、これは……!」「修司君の聖龍剣(せいりゅうけん)……!」

 目の前に落ちて来た聖龍剣に驚愕するゼラとカノン。その時、ミラーガールがハッと気づき皆に言った。

「……っ! み、みんな! 修司は……」

『ッ!』ミラー・ガールに声を掛けられ、彼女同様に気付く皆々。

 誰もが無我夢中で、先程まで絶夢鳥と激しく対峙していた小田原修司(おだわらしゅうじ)の姿を、辺りを見渡しながら探した。

 と、その時だった。

「……え……! あ、あれ……」

 何かに気付いたちびムーンが自然と上空に向かって指を差した。

 皆、ちびムーンの指した上空に目を向けてみると、思わぬ光景が目に飛び込んできた。

「ハッ、あれは……!」

 視界に飛び込んできた情景に、銀天狗はもちろん他の者達も我が目を疑った。

 

 何と天高くから修司が真っ逆さまに地上へと落下していくのが、聖龍隊の皆の目に入って来たのだ。

「し、修司!」

 驚き声を上げるバーンズ、しかし修司は目蓋を閉じ抗う事も無く為すがままに空高くから墜ちていく。

「こ、このままじゃ……!」

 このままでは何れ地面に激突してしまう事は誰の目から見ても明らかであった。

 と、切羽詰まった急な高木はるかの言葉を皮切りに、バーンズが駆け出した。

「くそ……ぐわッ」「バーンズ!」

 駆け出そうとした瞬間、勢い良く地面に転んでしまうバーンズにジュニアが声を掛ける。バーンズは苦悶に満ちた表情で呟いた。

「く、くそ……体が、動かねえ……!」

 急速に落下する意識の無い修司の許へと駆け寄ろうと空高く飛び上がろうとしたバーンズであったが、先程までの闇人の分身との激しい戦いの後遺症か思う様に体が動かせなくなってしまってた。

 そんな最中も、修司は目を覚ます事無く地上に向かって落下し続ける。

「や、ヤバいぞ」「な、何か策を講じなければ……!」

 落下し続ける修司を見て焦り出すフェリオに続き、この状況を何とかしようと策を考慮するランティス。

 と、誰もが無意識で落下していく修司を見ているしかなかった、その時。

「…………っ」

 何かを決意したかのような力強い面立ちで、ちせが突然自身の背中から機械の翼を形成し空へと急速で飛び上がった。

「ち、ちせ!」

 突然前触れも無しに飛び上がる恋人のちせを見て驚くシュウジ。

 皆が落下していく修司を目にしながら戸惑い慌てる中、ちせは一人颯爽と急速に落下していく修司に飛び向かった。

 そして高層ビルとビルとの狭間で、ちせは落ちる修司に勢い良く飛び付き落下する修司を受け止めた。

 だが二人とも勢い余って高層ビルのガラス窓に激突し、ちせは修司を受け止めたままガラス窓が連なるビルの側面を滑る様にずり落ちてしまう。

「ちせ!」『!』

 ビルのガラス窓に追突し滑り落ちてしまうちせと彼女に受け止められた修司を目の当たりにして、シュウジと他の面々は大変驚き慌てて二人の許に駆け寄る。

 一方のちせは、ビルの窓ガラスに激突し更にそのまま側面を滑り落ちながらも、受け止めた修司の身が傷付かないよう機械の翼で包み込むよう地面に着地していた。

「ちせ、大丈夫かッ?」

 シュウジを始めとする面々が駆け付ける中、ちせは痛みに耐えながら皆に答え返す。

「シュウちゃん、みんな……私は何とか。で、でも……」

 ちせは空中で受け止めた修司に目を向ける。

 それに続いて駆け付けた周りの皆々も、まるで眠る様に瞳を閉ざす修司に目を向ける。

 完全に意識を失っている修司を見て、バーンズが慌てて声を発した。

「なッ……ナースエンジェル! 急いで修司の容態を見てくれッ、大至急処置を行うんだ!」

「は、はい!」

 バーンズに指示を受け、ナースエンジェルは急ぎ自身のアイテムである電子手帳型のエンジェルハートカルテを開き、気絶している修司の容態を調べ始めた。

「り、りりか! 修司さんは……修司さんは!」

「りりか……修司は大丈夫なのか……!?」

「今調べてる、もう少しで……っ」

 修司の安否を気にする星夜とデューイに迫られても尚、真剣にそして冷静にカルテと向き合いながら修司の容態を確認するナースエンジェル。

「りりか君……! 修司は、彼は……!?」

 切羽詰まった表情でナースエンジェルに問い掛けるカノン。

 更に其処へミラーガールも修司を受け止めたちせの元に駆け寄り、目を瞑る修司を自分の元へ抱き寄せ必死に声を掛け続ける。

「修司! 修司! しっかりして、修司!」

 しかし何度声を掛けても修司が目を開く事は無かった。

 一向に目を覚まさない修司に、一抹の不安を感じる周囲の皆々。

 その現状に焦ったバーンズは、再びナースエンジェルに一刻も早い処置を行うよう指示を告げようとした。

「ナースエンジェル! 早く、早くなんとか…………ッ?」

 指示を告げようとナースエンジェルに顔を向けてみると、何故か彼女の顔から生気が失われていた。

「な……ナースエンジェル。どうしたんだ……?」

 顔色を豹変させるナースエンジェルに動揺するバーンズが訊ねてみるが、彼女は蒼褪めた表情でハートカルテを見詰めたまま硬直していた。

「り、りりか? どうしたんだ……?」「りりか……?」「りりか、君……?」

 星夜、デューイ、カノンが疑問に感じ訊ねてみるがナースエンジェルは一向に蒼然とする表情を変えず硬直となる。

 何事かと思った星夜が恐る恐るナースエンジェルが閲覧しているハートカルテを覗きこんでみた。するとカルテのちょうど心電図を表している電子表示が一本の平行線を映しながらピーという音を発していた。

 その表示を見た途端、星夜はナースエンジェル同様に顔から生気が失われていき、星夜は震える唇でナースエンジェルに声を掛けた。

「り……りりか……これ……」

 星夜に訊ねられたナースエンジェルは、その生気のない表情で悲愴な言葉を口から発した。

「……心臓が、止まってる……」

 ナースエンジェルの口から出た言葉に、駆け寄って来た全ての皆が衝撃を受ける。

 

「と……止まってる、って……」「つ、つまり……」

 告げられた言葉に尋常でないほどの動揺を表情に見せるセーラースターファイターとセーラースターヒーラー。

「じゃ、じゃあ……!」「そんな……!」

 余りの衝撃に顔を真っ青にしながら悲観的な面持ちに一変するヴィーナスとマーズ。

「修司が……修司が……! そんな……!!」

「そんな、修司さんが……修司さんが……!」

 動揺の余り普段は決して見せる事の無い程の表情を浮かべるウラヌス、そして次第に目に涙が溜まりつつあるサターン。

「そんなぁ……そんな……ッ!」

「修司君が……修司君がっ……あぁ……!」

「ウソだろ……!? あ、あの修司が……」

 目の前で目蓋を閉じる修司を目にしながら悲愴な心境に駆られるちびムーンにセーラームーン、そしてタキシード仮面。

「心臓が止まっているって……! そ、それじゃ、まさか……」

「あの絶夢鳥の仰っていた通り……光の刃を放ったが為に、修司君自身の命も……」

「修司君の命すら、消えてしまったって言うの……!?」

 コレクターズの結・春菜・愛は余りの事に胸を痛めた。

「そんな……修司さんが……修司さんが……し、死ん……!」

「そんな……ウソだろ……!?」

「修司さんが……死んでる? そんな……」

 告げられた事実に愕然と悲愴にも似た暗い感情に陥る木之元桜(きのもとさくら)に李・小狼(リ・シャオラン)と李・苺鈴(リ・メイリン)。

「修司君が死んでるって……そんな……!」

「っ……っ……」

「…………」

 心に深く芽吹く悲痛な想いに、魔法騎士(マジックナイト)の光・海・風は憮然と化した。

「修司さんが、修司さんが、修司さんが……!」

「そんな……ま、間違いだろナースエンジェル。間違いだって言ってくれッ」

「あの光で……聖龍剣から放たれた光で修司さん自身も死んでしまったなんて……!」

 悲痛の余り壊れたラジカセの如く幾度と同じ言葉を呟くイサミの傍らで、トシとソウシがナースエンジェルに訂正を求める。しかしナースエンジェルは悲愴な面持ちで二人に無言の答え返しを見せる。それに対しトシとソウシは愕然となった。

 

 駆け寄った皆々が蒼然と成りつつある現状の中、ナースエンジェルの言葉を聞いて誰よりも憮然とした想いに至るミラーガールは蒼褪めた表情で呟き始めた。

「修司……修司……修司が、修司が……死んだ? ……ウソでしょ。ウソと言ってよ、りりかちゃん……修司が死んでいるなんて、ウソよね……」

 ナースエンジェルに悲痛な口振りで問い掛けながら、ミラーガールはそっと自身が抱き寄せる修司の首元に指を当ててみる。

 その瞬間、ミラー・ガールは修司の脈が全く反応していない事に気付き、ナースエンジェルの言う事が正しい事に気付いた。

 修司は死んだ、その事実を思い知らされたミラーガールの表情から瞬く間に明るさが失われていった。

「……うそ……ウソよ……っ」

 余りの悲愴感に追い詰められるミラーガールは、動揺し出す真情を必死に堪えながら震える唇で皆に言った。

「誰か……誰かッ。お願い、何でも良いから修司を……!

 兎にも角にも、どの様な手段でも良いから死んでしまった修司を助けて欲しいと嘆願し出すミラーガール。しかし周囲の暗く重い心境に陥る皆を前にして、ミラーナイトが辛い心情のミラーガールに話し掛けた。

「アッコ……それは無理だ」「え……!」

 ナイトの口から出た言葉に悲愴な面持ちで困惑するミラーガール。ナイトはそんな彼女に無想の表情で語り出した。

「アッコ、修司にはな、俺達の特殊能力はもう全く効きやしないんだよ。いや、それ以前に……どんな能力を用いたとしても、死んでしまった人間は、もう……」

「そ、そんな……」

 悲しみに暮れるミラー・ガール。と、その時。彼女はハッと思い付いた。

「ハッ、そうだ! コンパクト」

 幾度となく自分や仲間の危機を救ってくれた聖なる鏡 セイント・コンパクトなら修司を助けられると思い立ったミラーガールは急ぎコンパクトを開いた。

 そしてコンパクトの紅い星の部分を触れては聖なる力を発動させようと試みる。しかし何故かコンパクトは微塵の反応もせず、力を使用する際に発せられる青白い光すら輝きもしなかった。

「ど、どうして……どうしてコンパクトが使えないの? 何故……」

 辛い心情を、涙を流すのを必死に抑えながらコンパクトを弄り続けるミラーガール。その姿に周囲の皆は居た堪れない悲愴な気持ちに駆られる。

 そんなミラーガールにミラーナイトは真剣な表情で問い掛けた。

「アッコ……何故コンパクトが使えないか、解るか?」

「…………」

 問われたミラー・ガールは涙に濡れる瞳をナイトに向ける。

 悲しみに囚われた瞳で見詰められながら、ナイトはミラー・ガールに話した。

「アッコ、そのコンパクトは人の想いを……願望を結集させて力に変える作用がある。しかし修司に対しては、その能力すら無力化してしまう以前に……修司自身、自分の死を望んでいたんだ」

「な、なに……? キーオ、それは……どういう……!?」

 ナイトの発した言葉に酷く動揺するバーンズが訊ねると、ナイトは悲愴に満ちた険しい真顔でバーンズや皆に答えた。

「アイツはな、生きたくなかったんだよ……修司がこの二次元界に来た事で多くの二次元人の運命が捻じ曲げられ、そして大幅に変わり果ててしまった。既に死んでいる筈の存在を生かし続けたり、出逢う筈の無い人々を巡り合わせてしまったり……修司は多くの二次元人達の決められていた運命を変える事だけを望んで、この世界にやって来た。……しかし、アイツ自身は生きて居たくなかったんだよ。生まれてこの方、幸せってものを……本当の幸せを求め続けても、それを感じ取る事の出来なかった自分とは違い幸せってものを感じられるみんなを……幸せを感じて欲しい存在であるみんなを護る為にも、修司は自ら死を選んだんだよ」

「そんな……」

 淡々と語るミラー・ナイトの話に耳を疑う皆々。ナイトは更に悲愴な面持ちで話を続けた。

「みんなには生きて欲しく、自分は死を望み欲し続け……修司はそんな筋書きを、未来を想い願った。そして最後には……自らが欲していた死を、安らぎを手に入れて……」

 と、延々と語り続けるミラーナイトの首元を突然バーンズが両手で掴み掛り、ナイトに言い寄った。

「おいキーオ! 何だよそりゃ……それじゃ修司は、修司は…………修司はオレ達を生かして置く為に、そして自分の死を望んでこの世界に来たって事か!!」

 バーンズに言い寄られるナイトは、皆の悲痛な視線を一身に浴びながら小さな声で呟くように答えた。

「……ああ、そうだ」

 その言葉に、周りの誰もが失意に感極まった。

 

 一方のミラーガールは、既に死に絶え冷たく成りつつある修司の亡骸を抱き寄せながら、ぽつりと呟いた。

「……ほんと、ずるい」「え……」

 ミラーガールの口から出た悲痛な呟きに、皆が修司の亡骸を抱き寄せるミラーガールに目を向けてみる。

 するとミラーガールは悲愴漂う微笑みを浮かべながら、冷たくなった修司の顔を見詰めて言った。

「ずるいよ、修司は……こんな笑顔、今まで見せてくれた事……無かったのに……」

 その言葉に内心驚く皆々は、静かにミラーガールが見詰める修司の顔を覗きこんだ。

 命消え果て、冷たく成っていく修司の顔を見た途端、その顔を見た誰もが愕然とした。

 その顔からは微塵の苦痛も感じられないほどの、全ての苦しみから解放された様な穏やかで優しい、誰にも見せた事の無かった修司の本当の微笑みが浮かび上がっていた。

 修司の安らかな死顔を見た途端、誰もが胸に溜めこんでいた悲しく辛い感情を次第に顔から浮かび上がらせてしまう。

 そんな皆に感化され、遂にミラーガール自身も堪えていた激情を、必死に抑え込んでいた感情を清き瞳から一気に放出した。

 

 辺りに響く哀しいほどに激しい泣き声、その鏡の様に透き通った瞳から溢れ出す幾つもの大粒の涙

 無情にも穏やかな笑みを浮かべる鬼の如き少年の死顔に零れ落ちる涙

 締め上げられるほど、身に降り懸かる辛く苦しい悲しみの真情に、天にも届く程の慟哭を上げ続ける聖女

 

 しかし愛し続けてくれた聖女が流す大粒の涙が幾らその微笑みに零れ落ちようとも、孤独に囚われ自ら自身の死を望み選んだ少年が目を覚ます事は無かった。

 聖女、そして聖女の周りで悲しみに暮れる皆々の慟哭だけが虚しく響くだけであった。

 

 自身の願望を、願いを率直に叶えられる力を持った聖女は、そんな願いを叶え続けてくれたコンパクトを死に絶えた少年の胸に置いたまま、心中思い更けた。

(幸福になりたいとまでの我侭(わがまま)は言わない……普通でいい……普通の日々で……! そんな普通の日々でさえ……運命の変わってしまったこの世界では望む事すらできないの? 教えてよ、神様……!!)

 

 

 

 

 

[姿現す神々と生きていた命]

 

 悲しみに暮れる聖女ミラーガール、そして彼女同様に悲痛な想いに駆られる聖龍隊の皆々。

 誰もが目を覚ます事の無い修司に激しい感情を向けていた、その時。

 

 命潰(つい)えた修司、そしてその修司を抱き寄せ大粒の涙を幾度となく流し続けるミラーガールを取り囲んでいる皆の背後から、二人分の足音が悲しみに暮れる皆に近づいて来た。

 その二つの足音は皆のスグ背後まで歩み近づくと立ち止まり、そして唐突に声を目の前の皆に掛けて来た

「……遂にやり遂げたか、修司君は」「……え……」

 その声にミラーガールが、そして他の面々も顔を向けた。するともう一人の人物も顔を向けた面々に言葉を掛ける。

「強く気高い意志を、精神を持った……生まれながらに孤独に囚われ続ける少年が起こした奇跡。この目でしっかりと見せてもらったよ」

 突然目の前に現れた二人に、その場の誰もが現れた二人に視線を釘付けにした。

 最初に声を掛けたのは、頭に赤いベレー帽を被り、顔には黒縁の眼鏡を着用、そして独特の団子鼻の成人男性。その隣に居るのは、二番目に声を掛けた初老の白人男性であった。

「あ……あなた達は……」

 二人の男性を見て愕然と成る皆々の中、ミラーナイトだけが二人の顔を見た途端、表情を一変させて唖然とした。

 

 と、その時。

「来てくれたんですね……御二方」「え……!」

 今度は現れた二人とは真逆の方向から声が聞こえ、皆はその方角に顔を振り向かせた。

 そして皆の目に飛び込んで来たのは、なんと体中ボロボロの花丘魁(はなおかかい)博士と犬養基継(いぬかいもとつぐ)博士が二人掛かりで、全身傷だらけのウッズ・J・プラントを肩で担ぎながら三人揃って立っていたのである。

「ぱ、パパ!」「博士ッ」

 父である魁博士、そして自分達を支援し続けてくれる犬養博士を見て声を上げる花丘イサミとコレクターユイ。

 だが何よりも三人を見て愕然と成っていたのが、ジュニア・J・プラント本人だった。

 異次元からの敵勢による急襲で、サポートフロアの在る基地ごと攻撃されて死亡していると思われていた実父のウッズの生きた姿に、ジュニアは思わず目から涙を浮かべて父に駆け寄った。

「と……父さァん!」

 息子であるジュニアに続き、ウッズの双子の弟であるウェルズも生還していた兄のウッズの許に駆け寄る。

「兄貴ッ!」

 そして息子と弟に祝福されながら、ウッズは傷だらけの体で二人と抱き合った。

 互いに抱き締め合う親子そして兄弟の再会の傍らで、結を始めとしたコレクターズが犬養博士に事情を訊ねてた。

「は、博士、無事だったんですね」

「ああ、あの襲撃の後、ウッズ氏に逃げるようにと言われていたが、どうもその気になれなくてね……。同じ心境であった花丘氏と逸早くウッズ氏の許に駆け付けては瓦礫の中から辛うじて生きていたウッズ氏を助け出す事が出来たんだよ」

 其処に娘のイサミを抱き締める花丘魁も事の事情を語った。

「何とかウッズさんを助け出す事が出来たんだが……敵襲による影響か、通信が使えなくなってしまってね。私達は傷だらけのウッズさんを連れて此処まで来た訳なんだが……」

「パパ……」

 痛心な魁の気持ちを察してか、悲痛な面持ちで父の顔を見上げるイサミ。

 花丘魁と犬養博士は、更に皆に語った。

「此処に向かう途中、色々とウッズさんから聞かされたよ。……俄かには信じられないが、私達の居るこの世界は全くの創作物、つまりはおとぎ話の中の世界で、修司君はその物語を創作つまりは創造した人々の居る別世界から来たんだと……」

「私も未だに信じられない……我々が創作上の人間で、修司君はその創作物を生み出した世界の住人であったとは……」

 ホコリ塗れの姿で、此処に来る道中ウッズから聞かされた事実を眼前の皆々に明かす魁と犬養。

 

 そんな時、ウッズは自分に抱き寄ってくれるジュニアとウエルズを優しく押し退け、苦痛に喘ぐ身体を引き摺りながら皆の眼前に現れた二人の前まで歩み寄る。

「待っていました。いつも……いつも、修司様は貴方方の事を語ってくれてました」

 そう二人組に言うと、ウッズは彼等の眼前で跪き、地面に正座しながら深々と頭を下げた。

 そんなウッズの行動に戸惑う皆を尻目に、ウッズは下げていた頭を上げて、両手を合わせると二人に向かって丁寧に述べた。

「良く来てくれました、二次元界の創造主……ウォール・トゥーサム。手塚治虫(てづかおさむ)氏、そしてウォルト・ディズニー氏」

 ウッズの口から出た言葉に、その場の全員が驚愕した。

「な、なに!」「この世界の、創造主……!?」

 驚きの余り血相を変えて言葉を返すタキシード仮面と早見青児。

 そんな中、二人の神は穏やかながらも真剣な表情でウッズに話し返した。

「ウッズさん、今まで苦労ばかりさせてしまって申し訳なかった」

「手塚先生、そんな事はありません。貴方はもちろん、修司様がこの世界の行く末を暗示していたのは重々承知していますとも」

 神の一人 ベレー帽を被った黒縁眼鏡の手塚治虫にウッズは穏やかに言葉を返した。

「ウッズ君、彼は……修司君は少しは変われたかね? この二次元と云う創作の世界の中で……」

「はい、Mrウォルト。修司様は顔や態度には殆ど出してはいませんでしたが、確実に変わり続けて来られました」

 神の一人 ウォルト・ディズニーの何処か虚しさが感じられる穏やかな表情で訊ねられたウッズは、疲労が垣間見れる顔で答え返した。

 ウッズが二人の神と対話しているその時、彼等の対話を間近で聞いていたバーンズが唖然としつつも神々に話し掛けた。

「あ、あんた等が、この世界を……二次元界って呼ばれている俺達の世界を生み出した、その……修司と同じ三次元人、な訳です……か?」

 戸惑い途切れ途切れの口調で訊ねるバーンズに対し、手塚治虫とウォルト・ディズニーは二人とも穏やかな微笑で言った。

「いやいや、僕は別に神様なんて大した存在じゃない。ただ自分の好きだった漫画に対して一生懸命に取り組んだ、それだけの男だよ」

「私も別に全知全能の神などでは無い。自分の愛してやまないキャラクターを、そしてキャラクター達が自由に幸せに暮らしていける世界を夢見続けた、しがないアル中の老人だよ」

 各々バーンズを始めとするその場の皆に語り明かす二人の神。そして神々は揃って、憮然と死に絶えた修司を膝で寝かすミラーガールに声を掛ける。

「少し良いかい? ミラーガール、いやアッコちゃん」

「っ……」

 手塚治虫に声を掛けられたミラーガールは流し続けていた涙を止めて、涙で潤んだ瞳を神々に向けた。

「加賀美あつこ……いや、今はミラーガールとみんなから呼ばれているんだったね」

「あ……あ……」

 しかしミラーガールはウォルト・ディズニーにも声を掛けられても尚、悲しみの余り言葉を返す事が出来なかった。

 そんな悲しみで胸が一杯のミラーガールに、二人の神は悲しそうに話し出した。

「アッコちゃん、まさか君が……君が修司君の影響で最も変わる事が出来た二次元人だったとは……驚いたよ」

「え……そ、それって……」

 手塚治虫の発言に困惑するミラーガールに、今度はウォルト・ディズニーが話し掛ける。

「私達は、この世界 二次元界を更なる発展に導く為に……私達が生まれた三次元界から彼を、修司君をこの二次元界に誘ったのだよ」

「そ、それって……!」

 ウォルト・ディズニーの言葉に戸惑い驚くミラーガール。そんな中、神は悲愴な真顔でミラー・ガールを始めとした場の二次元人達に語り明かした。

「此処に居るみんなも薄々は気付いているだろうけど……彼は、修司君はとても暗く悲しい孤独を……いや、闇に等しい心を生まれた時から持ってしまっていた」

「一方、私達は日々変わり続けるこの二次元界の行く末を案じていた。私達は私達の世界で暮らし生きている人々に、夢や理想の素晴らしさを教え説く為にも、この世界を生み出しては日夜発展させて来た」

「人は誰しも、夢や想像を形ににしたり実現させる力を持っている。そしてこの世界は修司君や僕達の生まれ育った三次元界の人間の……夢想の産物なのだよ」

「夢や理想を現実に、真実にできる可能性を掛け……私たちは修司君をこの世界に送り込んだのだよ」

 二人の神々から語られる事実に衝撃を受ける皆々。

 更に神々は悲愴ながらも真剣な表情で、愛する人の死を悲しむミラーガールに話した。

「そしてミラーガール……君はこの世界で生まれ暮らしている多くのヒロイン・能力者、彼等の基礎となった能力の根源と呼ぶべき存在でもあるのだよ」

「そ、そんな……っ!」

 ウォルト・ディズニーの述べた衝撃の事実に、俄かには信じられないミラーガール。そんな彼女に手塚治虫が悲痛な面持ちで話し説いた。

「アッコちゃん、君のそのコンパクト。それは修司君がこの世界に来る前まで存在し、そして使えていた代物であった筈だ。僕達の世界の人々は、そんな望み願えばどんな姿・存在にも成り果てられる君をモデルに多くの二次元人を、キャラクター達を生み出してきた。君のその様々に姿を変える事が出来る特殊な能力は、今はもちろん後々の二次元人達の基と成りえる希少な力でもあるんだよ」

「私の力が……存在が……!」

 手塚治虫の話に愕然とした心境に駆られるミラーガール。だが次の瞬間、手塚治虫はその悲痛な表情を更に悲愴で心痛な面持ちに変化させてミラーガールに重い口調で語り出した。

「しかし君のその能力は、同時に多くの二次元人の存在に無限の可能性を齎(もたら)してしまう結果にも成ってしまっているのだよ」

「無限の、可能性……!?」

 涙で濡れる瞳で唖然とするミラーガールに、手塚治虫は更なる衝撃の事実を彼女や場の皆に話し明かした。

「そうだ、君の如何なる姿や存在、そして更なる力を得ては己の姿形を変化させる事の出来る能力の根源は、正に全ての二次元人の可能性を高め、そして飛躍的に向上させる根本でもあるのだ。……しかし、同時にその力は二次元人を危機的状況に追い詰めてしまう事も見込まれてしまっている。無限の可能性、それは同時に……無限の危険性をも、示してしまっているんだよ」

「っ……!!」

 語られる自身の能力の可能性に、ミラーガールは衝撃の余り言葉を失った。

 

 と、二人の神がミラーガールに語り明かしている時、周囲の皆々が神々に話し掛けて来た。

「あ、あの……」「て、手塚先生……」

 涙ながらに話し掛けてくるセーラームーンにヴィーナス。

「手塚先生、そしてウォルト・ディズニー……彼は、修司君は……っ」

 キューティーハニーが悲痛な素振りで問い掛けると、神々は皆の心境を察して心痛な想いで語った。

「……君達の思っている事は、言葉にしなくても十分に解る。だけど……」

「私達ですら、彼の変えてしまった運命を……彼自身が決意していた己の死を変える事は、もはや不可能なのだよ」

「そんな……っ!」神々の言葉に心を深く痛めるさくら。

 神々は立て続けに皆に語り継いだ。

「彼はこの世界から来た時から決意していた……多くの非業な運命を辿ってしまう二次元人を救い出せるなら、生まれた時から負の感情しか持ち合わせていない自分の命など代わりに投げ捨てても構いはしないと……」

「自分と違い、皆から愛され、皆から慕われる……そう、真に人々の心の支えに成って上げられるキャラクター達を、命を賭けて救い出す事が彼の本望だったのだよ。私達は、そんな彼の決意を知っていた上で、修司君をこの世界に送り込んだのだよ」

 二人の神が放った言葉に、ジュニアが血相を変えて吐き散らした。

「ふざけないでくれッ。それは単なる義兄さんの……小田原修司や神である貴方達の勝手な都合じゃないか! 今まで散々好き勝手な事やって退けた上に、勝手に自分の命投げ捨てて……! 結局貴方達も兄さんも、身勝手な三次元人に変わりませんよッ!!」

「ジュニア、なんて事を!」

 息子のジュニアが放った言動に驚くウッズ、そしてジュニアの言葉に胸を痛める神々。

 と、ジュニアが悲痛な自身の心情を吐き出していると、他の聖龍隊の面々も辛苦の表情で神々に訴えた。

「神様お願い! 修司さんを……修司さんを生き返らせて、助けてよっ」

「こ、この世界を創った神様なら、それぐらい出来るだろ? お願いだよ、神様……」

 涙ながらに訴えるちびムーンに続き、必死に成って祈願する月影トシ。しかし手塚治虫とウォルト・ディズニー、二人の神々は首を振らず無言で立ち尽くすばかり。

 

 この時、ミスティーハニーは死に絶えた修司を抱え悲しむミラー・ガールに目を向けていた。そして生前の修司の言葉を思い出した彼女は、意を決して二人の神に申し上げた。

「神様、お願いです! 彼を、修司君を救ってください……何なら私の命を代わりに消滅させても構いませんから」

「ミスティー、あなた何を……!」

 妹のミスティーハニーの発言に酷く動揺する姉のキューティーハニーに、ミスティーは涙を流しながら強く反論した。

「私は……私は、元々死ぬはずだった……本当なら私が此処に居なくても同然の存在だったのなら、私が代わりに死ぬべきなのよっ。……彼じゃない、本来の筋書きで死ぬはずだった私が……私が死んでいる筈だったのに……!」

 死ぬ筈だった自分の命を救い、そしてこの世界の為に自ら死を選んだ修司の行為や心情に強く感銘を受けたミスティーは、そんな修司によって救われた命を……自分の存在を死と云う無から救い上げてくれた修司こそ本当に今此処に、皆の前にこそ居なければならない。そう考えたミスティーハニーは、本来存在を失っていた自分の命を擲(なげう)って修司の死こそ無かった事にしてほしいと眼前の神々に祈願した。

 するとミスティーハニーに続いて他の面々も神々に悲痛な面持ちで願い出た。

「神様っ、この私も本来は戦いの中で死んでいた存在です……! 私こそ死ななくてはいけないんですっ!」

「プルート!」「プー!」「プルート、君は……!」「……!」

 セーラープルートの悲痛な訴えに驚き心を痛めるサターン、ちびムーン、ウラヌス、そしてネプチューン。

「手塚先生、ウォルト・ディズニー……私も本当なら命の花を解放させた、その時に死んでしまっていた命なんです。彼が私の様な存在を救う為に、今まで無理して来た上に自分の命を投げ捨てたって言うんだったら……私の命を差し出しますから、彼を修司さんを助けてあげて!」

「りりか!」「りりか……!」「りりか君……ッ!」

 ナースエンジェルの苦痛に至る悲しい訴えに、悲痛な面差しで叫ぶ星夜、震える口調で名を言うデューイ、そして涙目で顔を震わせるカノン。

「お願いですッ、私も本当なら死んだままだった存在なんです! 神様お願い、修司さんを……アッコさんの、みんなの大切な人を生き返らせてください!」

「あ、アプリ……ッ!」

 更に続いてウォーター・フェアリーことアプリコットの切なる願いを目の当たりにして、彼女の涙に溢れる瞳を見詰めながら胸が苦しく成るジュニア。

 そんな修司の二次元界介入によって命を救われ、存在を保てた彼女達の切なる願いを聞いた手塚治虫とウォルト・ディズニーの二人の神々。

 だが二人の神は神妙な顔立ちで祈願する皆々を眼前に語り始めた。

「……済まない、それはできないんだ」

「そ、そんな……ッ!」

 手塚治虫の言葉に痛心するミスティーハニー。続いてウォルト・ディズニーも皆に語る。

「彼は心の底から望んでしまっていた。自分の死を、そして君達の存命を……。彼の決意は固い、それはまるで古より存在し続ける闇と同様に変わる事の無い信念でもある。……故に、彼の信念を、決意であり心からの願いである君たち二次元人の存命を失くしてまで……そして自ら望んでいた己の死を変える事は、ほぼ不可能なのだよ」

「そんな……修司……ッ」

 神々の言葉に絶望の心情に至るバーンズ。彼に続き、いつも修司やバーンズ達の周りで何気ない会話をしていたタキシード仮面や早見青児も重い口を開いた。

「勝手だ……勝手すぎるぜ、修司の奴は……!」

 口元を歪ませた沈痛な面持ちのタキシード仮面に続いて、青児も行き場の無い情状を苦悶に満ちた表情から吐き出した。

「年下のくせに偉そうに威張ってばかりで……無茶な事ばかりさせやがるし……俺達には傷付くな、死ぬなって言うくせに、自分ばっかり傷付いて、無茶ばかりして……ホント、勝手な男で…………頼りがいのある、奴だった……!」

 悲しくも今の現状を変えられない苛立ちに思わず目から涙を零す青児を見て、キューティーハニーを始めとした周りの皆々は暗然と成るのであった。

 

 その時、唐突にミラーガールが悲しむ自身の実情や周りの皆の心境の中、手塚治虫とウォルト・ディズニーに言葉を掛けた。

「……手塚、先生……ウォルト・ディズニー」

『…………』

 神々はミラーガールの方へと顔を向けた。そしてミラーガールは皆が見ている中で二人の神に申した。

「神様……私、わたし……正直、自分が全ての能力の……この世界の人の根源だとか、難しい事は良く解りません。だけど……だけど、私が今望んでいるのだけは確実に解ります……」

『…………』

「私は……今まで色んな物や人に変身してきました。自分が思い望んで来た、思い通りの自分に成る事が出来ました……! だけど……だけど、今私が望んでいるのは何にでも成れる力じゃない……! どんな自分にも変身できる力じゃない……! まして、全ての二次元人や能力の根源でもない! 私が望んでいるのは……ただ一つ! 修司と……修司やみんなと一緒に居られる世界を心から! 心から望んでるんです……!!」

 神々に告げられる聖女の悲痛な心からの願望に、彼女の願いを耳にした周囲の皆々は心を深く抉られるほど痛めた。

 そして更にミラーガールは二人の神に言い放った。

「修司やみんなと一緒に生きていけない世界なら……私は魔法なんて使えなくて良い! 変身なんて出来なくても構わない。このコンパクトも要らない、だから……だから修司を!! ……お願いします……っ」

 大粒の涙を絶えず流し続けながら、生まれ続けてから大事にして来た鏡を、コンパクトを手放してでも修司を救って欲しいと二人の神に願い続けるミラー・ガール。

 そんな辛く苦しく、そして悲しく切ない心境に苛(さいな)まれる青の聖女の必死な願いを前にして、神々もその表情に苦心の真情を浮かび上がらせる。

 二人の創造神に続き、神々と同様に聖女の必死の姿に心打たれ、苦しい心境に駆り立てられる周囲の二次元人達。

 

 孤独と云う闇に囚われ 存命させるという使命の元、最終的には自らの命を擲ってまで己が唯一愛する事の出来た二次元界を死守して見せた黒の武人の少年。

 そんな少年の死に嘆き哀しむ青の聖女の懸命な願いの心情に 彼女の姿を見た周囲の二次元人達は酷く感銘を受けるのであった。

 

 誰もが心苦しい心境の中、望んでいた死を自ら選び目蓋を閉じた少年は 決してその瞳を開ける事は無かった。

 

 

 

 

[舞い降りる希望]

 

 青き聖女が嘆き悲しみ、そんな聖女の姿に心打たれる面々。

 皆が重く切ない空気の中、感極まっていたその時である。

 

「……アッコ……アッコ……」「……え、誰……?」

 突然聞こえて来た女性の声に戸惑うミラーガール。最初、彼女は何か空耳的な声だったと思うのだが、その女性の声は他の皆にも聞こえていたのだった。

「い、今、誰か……」

「だ、だけど……この声は、此処に居るみんなとは明らかに違う声だし」

 突如耳に入る女性の声に困惑するタキシード仮面に青児。

「い、今の声……」「女の人の声みたいだけど……」

 謎の声に驚きを隠せない鎧天狗こと芹沢ルリ子に花丘イサミは困惑してしまう。

 と、皆が謎の女性の声に動揺している、まさにその時であった。

「え……なに? コンパクトが……!」

 突如、何の前触れも無く、冷たくなった修司の胸に置かれていたコンパクトが今まで以上に淡く蒼く輝き出し、その強烈な光に修司を抱き寄せていたミラーガール自身も周りの皆も驚いた。

 そして強烈ながらも不思議と神秘的な青い光に導かれるかのように、真っ青な空の果てから一羽の鳥らしき飛行物体が飛んで来た。

「な、なんだアレはッ?」

「あの姿……まさか絶夢鳥(ぜつむちょう)か!?」

 突如空の彼方から飛来してくる巨大な蒼い鳥に驚愕する面々。

 皆が此方に向かってくる青い巨大な鳥に怯んでしまっていると、其処に先程修司によって解き放たれた七体の聖龍達が声を掛けに来た。

「案ずるでない、皆の衆」「か、火炎龍……!」

 紅蓮の炎を身に纏う火炎龍の一声に一驚するセーラーマーズ。すると今度は清き水流の水龍が話し掛けて来た。

「恐れなくても大丈夫じゃ。あの方は絶夢鳥と似ているが、全く非なる存在」

「似て非なる、存在って事……?」

 龍咲海が訊き返すと、代わりに草木生い茂る樹木龍がそれに答えた。

「そうじゃ、あの方は絶夢鳥とは相反の関係……負の感情である心の半身とは真逆の、感情なのじゃ」

「負の感情とは真逆……?」

 困惑する春日結(かすがゆい)に雷龍が答える。

「そう、絶夢鳥が負の感情である怒り・憎しみ・悲しみ・恐怖そして絶望を司る心の半身なら……あの御方はそれとは相反する感情、奇跡・希望・信頼・絆・愛情を司る、もう一つの心の半身……!」

「奇跡に、希望……!」

 雷龍の言葉に驚異する木之元桜、そして彼女同様に驚異する皆々に澄んだ風の風龍が語り明かした。

「あの御方もまた、絶夢鳥と同じく……この宇宙が、世界が生まれた切っ掛けであるビック・バンより生まれ出た存在。青い輝きに満ちた化身……魔鳥(まちょう)様で在らせられる」

「魔鳥……! なんて美しい青き光なのだ……!」

「ほんとに……見ているだけで不思議と心に被さった重い感情が、少しずつ消えていきますわ」

 その神々しくも美しい青白い光を放つ魔鳥の大空を飛ぶ姿に感動するプリンスゼラに鳳凰寺風。

 すると、そんな美々しい御姿の魔鳥に見惚れる面々に、砂や岩の体を持つ岩石龍が言った。

「見ているだけで心が洗われるじゃろう。それはあの御方が真に人々の希望や愛情を司っているからじゃ」

 岩石龍に続いて凍てつく冷気を放つ身体の氷龍が皆に言う。

「かつて人々は、その神々しくも美しい……眺めているだけで幸せに感じられる魔鳥様を見て、いつからかそれが童話【幸せの青い鳥】へと伝承されていったのじゃよ」

「な、何だって!?」

「つまり、あの魔鳥こそが幸せを運ぶ青い鳥のモデルとなり、幸せの青い鳥そのものなのかッ?」

 氷龍の発した話に驚愕するゴールデン天狗とからくり天狗の二人。

 と、皆が突如空の彼方から飛来する青白い魔鳥に驚き慄(おのの)いていると、その魔鳥がスグ眼前まで舞い降りて来た。

「皆の者……良くぞ、この人々の想いで溢れ返る二次元界を護り通してくれたの」

「しゃ、喋った……!」

 地上に舞い降りては話し掛けて来た魔鳥に驚く雪見ソウシ。するとその時、突然七体の聖龍達が地上に舞い降りた魔鳥に頭(こうべ)を垂れた。

『御久し振りで御座います、魔鳥様』

「うむ……聖龍達よ、良くぞ己が主君の本懐を遂げさせる手助けを為し得たのう。我は心より感激であるぞ」

『ハッ、勿体無き御言葉で!』

 七体同時に挨拶を述べる聖龍達に、魔鳥は御誉めの言葉を告げると、七体の聖龍達は同時に強く言葉を返してみせる。そんな聖龍達の言動を不思議がった皆々は、思わず聖龍達に訊ねてみた。

「せ、聖龍どうしたんだ? 魔鳥とは、何かしらの顔見知りなのか?」

 バーンズが訊ねてみると、聖龍達は真顔で皆に答え話した。

「顔見知りも何も、魔鳥様は我々を生み出してくれた親同然の御方なのだ」

「何だとッ!?」

 火炎龍の発した言葉に物凄く驚くウエルズ、そして続けて他の聖龍達も口々に話していった。

「魔鳥様はこの宇宙が最初に生まれた際に生じられたビック・バンより生まれ出た」

「それから心ある生き物が健やかに暮らしていけるよう、この地球はもちろん様々な世界や遥か遠い宇宙の星々に自然を生み出していったのじゃ」

「大自然の力を司る、我々聖龍もその際魔鳥様によって生み出されたのじゃ」

「心を持つ生き物だけで無い……命ある、生命溢れる世界を築くには、我等の様な自然の存在が絶対的に不可欠なんじゃよ」

「自然と云う命を育む《命の揺り籠》そんな厳しくも温もり溢れる自然を生み出し、同時にそれを司る我々も生み出してくれたのが魔鳥様じゃ」

「全ての生きとし生ける命は、もはや魔鳥様が生み出したと言っても過言ではない」

『……………………』

 聖龍達の真剣な語りに思わず唖然としてしまう皆々。

 

 と、皆が聖龍達の語り事に耳を傾けていたその時。

「……アッコ」

 再びミラーガールの本名を呼ぶ女性の声が聞こえて来た。

「だ、誰なの……?」

 息絶えた修司を抱き寄せ意気消沈しているミラーガールが問い掛けると、魔鳥の青白い輝きとミラーガールのセイント・コンパクトの青き光が反応し合う様に強く光り出す。

 そして共鳴するかのように発光する青き光の中から、一人の女性が白いワンピースの様な 天使の如き身形で現れた。

「あ、あなたは……!?」

 突然現れた白い衣の女性に驚くセーラームーンが訊ねると、女性は優しい微笑みを浮かべながらミラーガールに声を掛けた。

「アッコ、今まで良く……良く頑張ったわね」「あ、貴女は……」

 今まで見た事の無い女性に声を掛けられ、消沈するミラーガールは悲しみつつ戸惑ってしまう。

 だが、この時ミラー・ガールは目の前に現れた女性に不思議と親近感を感じた。

 そしてミラー・ガールも、周囲の皆も、光の中から姿を現した女性の容姿を目を凝らして観察した。

 輝かしい黒髪に、少しばかりふわりとした柔らかそうな髪質のお下げ髪が肩の辺りまで伸びている特徴的な髪型の女性。年はおそらく中・高生ぐらいの胸や体付きが若干発育している容姿。しかも、その女性の顔立ちが何処となくミラーガールこと加賀美あつこと似ていた。

 自分と酷似している年上の女性をしばし見詰めていたミラーガールは、突然何かに気付いた。

「ッ、まさか……あなたは……!」

 思わず声を発したミラーガールに対し女性は優しく微笑むばかりであった。

 そして女性に対し悟ったミラーガールは驚きつつも言葉を放った。

「まさか…………お姉、ちゃん……!?」

 ミラーガールのこの言葉を耳にした周りの面々は大変驚愕した。

「何だと!?」『えッ!?』

 驚くバーンズに他の面々、そして二人の神々もそれを聞いて驚きながら口に出した。

「な、何だって……!」

「奇跡だ、死んだ加賀美あつこの姉が現れるとは……!」

 この時、ウォルトが放った言葉に、初めて加賀美あつこに姉が居たと云う事実を知った面々は豪く驚いた。

「えッ、アッコさんのお姉さんが……!」

 心痛な言葉に対し、神は悲しそうに答えた。

「ああ、昔亡くなったアッコちゃんのお姉さんだ」

 神の言葉に心を痛める面々に、バーンズが険しい面差しで言った。

「そう言えば、前に修司に聞いた事がある。アッコには既に他界してしまった姉が居たんだと」

「あ、アッコには姉が居たのか……しかも、死んでいたなんて……!」

 初めて加賀美あつこに姉が居た事、そしてその姉が既に他界していた事を耳にした青児が動揺しながらバーンズに話し掛けると、バーンズは悲痛な険しい面持ちで話し返した。

「ああ、昔……未熟児で産まれてしまい、わずか三日でこの世を去った 尊くも儚い存在(いのち)」

『!!』

 バーンズの口から出た衝撃の事実に、初めて知り得た面々は愕然と悲愴ながらに驚いた。

 そして妹に当たるミラーガールや周囲の皆々を前に、眩い輝きを放ちながら姉はミラーガールに語り掛ける。

「アッコ、今まで辛い中……良く頑張ったわね。私は姉として、そして貴女と云う素晴らしい妹を持てた一人の女性として心から誇りに思えるわ」

「お、お姉ちゃん……っ」

 生まれて初めて、いや本来なら顔を合わす事すら叶わなかった死別した自分の姉の優しい笑顔と言葉に、ミラーガールは思わず感動してしまう。

「お姉ちゃん、私……」

 感動する中、ミラーガールは必死に自分の今の心情を言葉で亡き姉に伝えようとするのだが、修司を失った悲しみと突然姿を現した姉に対しての動揺と感激の情状が複雑に絡み合い、上手く言葉を発する事が出来なくなってしまっていた。そんな妹の現状に誰よりも早く気付いた姉は、悲しげな微笑みでミラーガールに話し掛ける。

「アッコ、貴女は頑張った分、本当に辛い事もたくさん経験しては悲しく苦しい局面にも耐え凌いで来ました……そして今、貴女は自分を始めとした、この二次元界と云う創作の世界を……人々の想いが詰まった素晴らしい世界を護り抜いた少年の死に、誰よりも悲観している心境。私には、ちゃんと解るわ」

「っ、お姉ちゃん……!」

 言葉で伝えなくても、自分の辛く悲しい心境を理解してくれる姉の言動に甚く感激に浸るミラー・ガール。

 そして穏やかな笑みのまま、聖女の姉は彼女や周囲の皆々に語り掛ける。

「その子、小田原修司君の今までの行い、そして揺らぐ事のない決意を、私は妹であるアッコを見守りながら同時に見届けてきました。そう、皆さんと共に」

 姉がそう言った瞬間、姉の周囲に一筋の青白い光が照射され、その光の中から声が聞こえて来ては、見据え続ける聖龍隊の面々に話し掛けて来た。

「皆さん、良く頑張りましたね。私は皆さんが力を合わせて全てをやり遂げる、この時を心から待ち侘びていました」

「そ、その声は……!」

 光の中から現れる声の主に驚愕するセーラームーン。

「非業の運命を変える為、自分自身の想いを全て賭けて全力で戦い続けた彼……小田原修司には心から感服した」

「あッ、あぁ……!」

 目の前に現れる光の中から出て来た声の主に、思わず口を塞いで愕然と成るキューティーハニー。

「自分と同じ種族である三次元人によって決められた運命を歩ませられる事に対し、とても悲観していた彼は本心からアナタ達に本当の幸せを歩ませたかったんでしょうね」

「あ、あなたは……!」

 光の中から姿を見せる声の主に思わず顔から笑みが零れてしまうナースエンジェル。

「本当に、彼には感謝してもしきれないわ。……愛しい子供達、そして子供達が幸せに暮らせる世界を必死に護ってくれた彼には御礼の言葉も言い尽くせない」

「ほえっ? そ、その声……それに、その優しい笑顔」

 懐かしい声に写真などで見た優しくも温もり溢れる笑顔を見た途端、唖然と驚きと感動が微量ながらも胸の奥から湧き上がって来る木之元桜。

「全ての命に……いいえ、全ての心に想いを寄せ続けた彼の偽りない真情は、遂に彼の本望である運命変動を促し、そして実現できたのです」

「あ、あなた、様は……!」

「こ、こんな事って……ッ」

「な、何と言う事でしょう……っ」

 光の中から姿を現す眩いオーラを放つ声の主の姿を一目見た魔法騎士(マジックナイト)の光・海・風の三人は思わず涙目で感極まってしまった。

「彼は多くの人を……心を思い続けては、それらを絶対に失わないよう全身全霊で戦い続けて来たその勇姿、此処に居る誰もが見ていました」

「あ! あぁ……っ!」「こ、こんな事が……ッ」「ッ……」「…………!」

 優しい微笑みを浮かべながら言葉を告げるその者の顔を見て歓喜に至るジュニア、ウッズ、ウェルズ、そして驚いてしまうウォーター・フェアリー。

「彼は我々、二次元人にも負けない程の揺るぎない信念を曲げずに進んで来れたからこそ、此処まで生きようと思えたんだろうな」

「ッ! あ、ああ……ッ!!」

 目の前に現れた二人組の人外の男女、その内の人外の男の声に二人組に凝視の目を向けたバーンズは、自然と目から涙が溢れた。

 嘆き悲しみ憮然の心境に陥っていた聖龍隊の面々の前に姿を現した、青白い光から出現した者達。それは何と、前世のセーラームーンの母親に当たるクィーン・セレニティ。戦いの中、身を挺して娘であるミスティーハニーを護ったが為に命を落とした如月猛(きさらぎたけし)。現ナースエンジェルの前世でもある、淡い青色が基調の衣装を身に纏い、緑色の目を持った伝説の白衣の天女、ナースエンジェルピュアホワイト。ミラー・ガールの姉同様、既に他界し死別していたさくらの母、木之元撫子(きのもとなでしこ)。そして、かつて異世界セフィーロの柱制度により魔法騎士の三人に自身の命を絶ってもらったエメロード姫。ブラウンヘアーに空色の透き通った瞳の、ウォーター・フェアリーことアプリコットと瓜二つの容姿である、今は亡きジュニアの母のウッズの妻、そしてウエルズの義姉であるアンリ。そして最後に姿を見せたのは、超獣族の王族である前国王とその妃、そうバーンズの亡き両親だった。

 聖龍隊メンバーにとって途轍もなく馴染みのある面子が青白い光の中から姿を現し、彼等を見た聖龍隊は騒然となった。

 そんな面々の中心で姉は再びミラーガールに親身に成って語り掛ける。

「此処に居る皆さんは、例え肉体が滅びようとも常に大切な存在である皆々さんの事を陰ながら見守り続けておりました。そして同時に、二次元人達の非業の運命を変えて行こうと模索しつつ自問自答を繰り返していた彼を、小田原修司の行動にも目を光らせていたんです」

 そして光の中から現れた今は亡き人々の神妙な面差しの中、姉はそっと妹であるミラーガールに抱き寄せられる冷たくなった修司の許へと近づいては、その修司を抱き寄せる妹のミラーガールに優しく話し掛けた。

「アッコ、妹である貴女に訊きたいわ。その子を……修司君を、あなたはどうしたいの?」

「………………」

 朗らかな後光を放ちながら問い掛ける姉の言葉に、ミラー・ガールは悲愴な面立ちで、しばし思想に更けた。

 そして考えに考えた鏡の聖女は、その鏡の様に澄んだ瞳に強い意志を表しては問い掛けて来た姉に面と向かって答えた。

「お姉ちゃん、私……私、修司に思って欲しいの。……生きてて良かったと、自分は産まれてきて良かったんだと、そう思いながら生きてほしいの……!」

 妹の切なる願いを聞き入れた姉は、そっと妹に微笑み返すと同時に優しく言葉を掛けた。

「……あなたの願い、確かに聞いたわ。ほら、その偽りない願いが再び鏡に願いと云う光を灯したみたいよ」

「えっ?」

 姉の言葉にミラーガールが目を向けてみると、死に絶えた修司の胸の上に置いていた聖なる鏡セイントコンパクトが淡く光り出していた。

「こ、コンパクトが……!」

 突然優しくも穏やかな光を発したコンパクトに驚き動揺するミラーガールに、姉は優しく説いた。

「アッコ、今まで……そう、修司君や此処に居るみんなと出逢う前からコンパクトを使っているから解るわね。コンパクトには使う人の……コンパクトを託された人の願いを増幅させて力に変える効力が有るの。貴女の修司君への想いが、それこそ無限の力と成って修司君に注がれているのよ」

 

 魔鏡聖女ミラーガール、本名 加賀美あつこ。

 一人の少女の真なる願いは、彼女の持つコンパクトにより無限の力と成り果てては、力尽きた少年の冷たい体へと注ぎ込まれていった。

 

 後に数多の二次元人の基となる少女 加賀美あつこ

 

 その偽りない、そして限りの無い願いの 願望の想いは二次元界に多大な影響を齎(もたら)し、これからも永遠に齎し続けて行くことだろう

 

 

 

 

 

[カエル、少年]

 

 淡い光を発し続けるコンパクトを修司の胸元に置いたまま、修司の亡骸を地上に降り立った魔鳥(まちょう)の背中に乗せる聖龍隊一行。

 

 修司の亡骸を魔鳥に乗せ終わったバーンズが徐にミラーガールに話し掛けた。

「アッコ、これで良いのか。これでよ……」

 何処か悲愴な雰囲気で話し掛けるバーンズの言葉に、ミラーガールは微笑みながら答えた。

「ええ、これで良いの。修司には、自分の本来居るべき世界で、心の底から生きていて良かったと思いながら過ごしてほしいから」

 そんな言葉を口にするミラーガールの表情には、何処かしら寂しさにも似た無理強いな情状が感じられているのを、彼女の周りの皆々は薄々気づいていた。

 

 ミラーガールは考えていた。生きる事自体に喜びを感じない修司に、自分の生まれた本来居るべき世界すなわち三次元界で【生きる事】について心から喜々と感じて欲しいと。

 そして今、そんな青き聖女の真に迫った切なる願いを秘めた聖なる鏡セイント・コンパクトと共に、己の生に喜びを感じない少年は元居た世界である三次元界に帰還しようとしていた。

 修司を背中に乗せ、彼を元いた三次元界に送ろうとする魔鳥は、眼下の皆々に顔を向けて問い掛けた。

「お主ら、これで本当に良いのじゃな。修司を三次元界に送り帰せば、おそらく二度とお主らと相見えぬ事と成るじゃろう」

 魔鳥の言葉に、問い掛けられた皆々が口を揃えて魔鳥に言葉を返した。

「……いえ、魔鳥。修司を元いた世界に還してください。俺達と違い、実在している存在である修司は、この二次元界には不似合いです」

「不似合いかどうか以前に、修司君には元の世界で幸せに過ごしてもらいたいし……私達は大丈夫です」

「………………」

 若干無愛想ながらも何処か寂しさを醸すタキシード仮面に、無理やり寂しさを堪えるセーラームーン、そんな二人の様子を見たクィーン・セレニティは悲愴な面差しを浮かべていた。

「修司君には、ほんとに今まで沢山救われたわ。だからこそ、自分の生まれ育った三次元界で平和に過ごしてほしいんです」

「……本当に、彼には救われたわ。そう、言葉に表す事も侭に成らないほどに……。私を生かす為にこの世界に来たと云うなら、今度は彼に……修司君にこそ、生きる喜びを感じてほしい……!」

「………………」

 キューティーハニーとミスティーハニー、娘二人の切なる想いを聞いて苦心な心境に至る如月猛。

「人は、生きている……たったそれだけで幸せだと感じられると、私は今でも信じています。だからこそっ、修司さんには生きる事の喜びを知ってほしいんです!」

「…………」

 活き活きとした微笑みで魔鳥やミラー・ガールの姉に言うナースエンジェルの切なる想いに、ナースエンジェルピュアホワイトは穏やかな表情で嬉しく感じていた。

「少し寂しく成るけど……でも、修司さんが無事に生き還れるなら……生きる事を幸せだって感じてもらえるなら、修司さんが元の世界に還れるよう、祈っています」

「……」

 娘である木之元桜の心優しい言葉に感銘を受ける母親の撫子。

「寂しくは成る……だけど、修司さんに生きる喜びを知ってもらう為だもの。此処は快く送ってあげてください」

「うんうん!」

「生に対する幸せ……そんな当たり前の幸福を、修司さんに限らず全ての人が感じていないと」

 笑顔で修司を送り出す花丘イサミ、月影トシ、雪見ソウシ等の振る舞いに、周囲の鎧天狗や銀天狗、そしてゴールデン天狗やからくり天狗に高木はるか、多数のカラス天狗達も笑顔で修司を見送る。

「短い間だったけど、修司君の願いが叶って本当に良かった。でなきゃ、私達もみんなに出会えなかったし」

「揺るがない信念、それが起こした奇跡の上で、私達はこれからも懸命に生き続けて行きます」

「だからこそ、修司君にもそれを感じ取ってほしい。生きる、そんな単純ながらも人として根本的な幸せを」

 まだ出逢って間もないコレクターズの結・春菜・愛の三人は、少し寂しそうな面持ちで修司への私情を語る。

「私、本当に修司君や聖龍隊のみんなと出逢えて嬉しかったっ。だからこそ修司君にも、生きて幸せな人生を歩んでいって欲しい!」

「光の……みんなの言うとおりだわ。修司君には、まだまだ先が長いほど有るんですもの。彼の人生は、これからよ」

「彼には、これからを精一杯生きていてほしいですわ……生きる事の喜びを、堪能しながら」

「………………」

 魔法騎士(マジックナイト)の光、海、風の優しい気遣いに、穏やかな笑みを浮かべて彼女等を見詰めるエメロード姫。

「私も……彼には生き続けてほしい。こんな兵器に成り果ててしまった私に、掛け替えのない素敵な仲間達と巡り合わせてくれたんですもの。……私自身、生きている事自体を苦しんでいた時期があったけど、聖龍隊のみんなと出逢って、そんな自分を変える事が出来た。私が変われたんだもの、修司君だって立派に変われる筈だわ。そうでしょ、シュウちゃん」

「……ああ、そうだな。俺達自身、聖龍隊と出逢って無かったら、どんな風に運命や自分の心境が変わっていたか解らねえけど、これだけは言える……みんなと出会えて良かった。だから、そんな想いを与えてくれた修司にも、平和な世界で生きていてほしい。……こんな、平和が長続きしない二次元界とは違う、三次元界で」

 修司や聖龍隊の皆との出逢いに心から感謝を述べるちせ。そして、ちせ同様に自分達に輝かしい未来と、それを齎(もたら)してくれた聖龍隊への感謝を口にしつつ、聖龍隊と自分達を引き合わせてくれた修司には平和に生きていてほしいと願うシュウジ。

「思えば……長いようで短い時期だった。一人っ子だった僕に、父と叔父しか居なかった僕を義兄弟として認めてくれて、共に兄弟分として過ごして来られた。……ありがとう、義兄さん」

 魔鳥の背の上で安らかな顔を浮かべる修司に、ジュニアは今までの感謝の言葉を告げた。

「修司さん、私……甦ってから、多くの事を学び、そして経験してきました。それらが全て、修司さんがこの世界に来た影響で更なる能力(ちから)を使えるようになったアッコさんの影響だったとしても、私は本当に生き返れて嬉しく思います。生き返ってスグに死別してしまったとはいえ、生前の友であるフロークとも再会できた……タッティー、オッターそしてエンダーとも再会する事が出来ました。そして、それ以上に貴方やジュニア、バーンズさんやアッコさんを始めとする聖龍隊のみんなと出逢い、そして同じ時を過ごせる事が出来ました……本当に、感謝しても、し尽くせません……! ありがとう、修司さん……!」

 修司の二次元界介入により更なる能力を得たアッコのコンパクトによる力で、偶然にも生き返る事が出来たウォーター・フェアリーことアプリコットは、生きてかつて自分を想ってくれた友や知人と再会でき、更には修司やアッコを始めとした多くの人々と親しく成れた結果に心から感激した事柄を、瞳を閉じた修司に告げる。

「修司……お前は、オレのテレパスでも読み取れないほど、悲惨で虚しい人生を歩んで来たんだな。……だからこそ、オレ達の様な創作の存在の身に降り懸かる悲劇すら拒み、そして俺達を護り抜こうと必死に成っていたんだな……こんな、おとぎ話の俺達の為に……!」

 創作上の存在であるにも拘らず命を懸けて必死に戦い続けて来た修司の、自身のテレパスでは読み取れない悲しく虚しい日々を過ごしてきた修司を悲観しつつ、そんな過去を抱きつつ創作上の自分達を命懸けで護り抜いてきた修司の今までの行動に礼を述べるバーンズ。

「……修司。お前は確かに、この二次元界で生きる強さとやらを学び、そして勝ち取って来た筈。その強さと聖龍隊の二次元人達から教わった学びを忘れず、向こうの世界でも達者で暮らせ……孤独の闇を、纏いし者」

 険しいながらも悲愴な感情を浮かべるミラーナイトは、二次元界で学んだ強さを忘れずに生きろと目蓋を閉じる修司に語り掛ける。

 その他の面々も、瞳を閉じ静寂に包まれる修司に言葉を掛けて行き、最後に彼を一番慕いそして想い続けるミラーガールが修司にそっと話し掛ける。

「修司……今まで、本当にありがとう。聖龍隊と云う繋がりを私だけでなく多くの人たちに与えてくれて……私に、こんな素晴らしい絆を授けてくれて……何より、私は…………貴方と出逢えて、本当に幸せだった……! 聖龍隊のみんなと出逢えた幸せも凄く嬉しいけど、それ以上に修司と出逢えた事が一番の幸せであり、誇りだわ」

 そして青き鏡の聖女は静寂に瞳を瞑る孤高の武人に優しく囁いた。

「みんなと会わせてくれて……修司と逢わせてくれて、ありがとう」

 そう聖龍隊の皆や修司自身との出逢いを心から感謝する言葉を囁きながら、ミラー・ガールは瞳を閉じる修司の頬に軽く口づけをした。

 そんな聖女の言動と姿に、周りの者達は皆感激してしまい思わず目から涙を零してしまう。

 

 かくして、皆がそれぞれ修司に対する真意の言葉を述べ終わると、彼を背に乗せた魔鳥が修司の胸の上に置かれたセイント・コンパクトごと修司を乗せて空へと舞い上がった。

 淡い青い光を発しながら修司と共に空へと舞い上がっていくコンパクト。そして修司とコンパクトを乗せた魔鳥を見上げながら静かに見送る地上の一同。

 そんな面々にアッコの姉を筆頭とした光から現れた者達が微笑みを浮かべつつ別れの言葉を告げた。

「皆さん、どうか運命の変わってしまった、この二次元と云う物語の世界の中でも……どうか、どうか幸せで有り続けてください。私達はいつも、あなた達が幸せに、そして懸命に生き続けて行く歩みを陰ながら見守っています」

 最後に姉は穏やかな微笑のまま告げる。

「どの様な過酷で悲しい運命でも、決して諦めず抗い続ける皆々さまの行く末を……心から案じております」

 そう言い残して、姉も他の面々も静かに消えて行った。

 そして天へと舞い上がっていた魔鳥も、修司と修司の胸に置かれたコンパクトごと次元の壁を乗り越え、スゥっと消えていった。

 その瞬間、ミラーガールの周囲に光の靄が煌めき、そして彼女の姿が次第に変わっていき遂には元の加賀美あつこの姿へと戻ってしまった。

 元の姿に戻り果てたアッコに驚き戸惑う皆々に、神である手塚治虫氏とウォルト・ディズニー氏が説いた。

「修司君が元の三次元界に戻り、かつアッコちゃんが今まで使って来たコンパクトが無くなった事により、アッコちゃん自身の能力も消えたんだろう」

「元々、修司君がこの世界に居なかったとしても……行く行くはコンパクトは自然に消滅して、アッコちゃんは本来の普通の女の子に戻っていた。そして今、コンパクトも、そのコンパクトに影響を与えてセイント・コンパクトに変貌させた根本である修司君自身も居なくなった事により、アッコちゃんは本来在るべき姿である加賀美あつこと云う一人の少女に戻れたと云う訳だ」

 二人の神々の説明に、アッコは少し悲しげに呟き始めた。

「……そっか、私……もう、ミラーガールはもちろん、何にでも変身できる女の子じゃ無くなったんだ……。ただの、いいえ普通の女の子に戻った。それだけなのね」

「アッコ……」「……」

 悲しそうに呟くアッコの言葉に胸を痛めるバーンズと、少し悲しげな険しい真顔で彼女を見詰めるミラーナイト。

 そして主である修司が居なくなった事により、七体の聖龍達も今まで世話になった聖龍隊の面々に別れを告げる。

「さらばだ、皆の衆。我らが此処に居る必要性は、もはや無くなった」

「主たちはこれから、自分自身の意思で未来へと突き進む必要がある」

「我々は大自然の守護者、これからはこの二次元界の自然を護りつつ、主ら物語の世界で奮闘し続ける者達を密かに見続けておるぞ」

「達者でな、我等聖龍を従えさせた闇の気高い意志を持つ少年を救った、素晴らしき者達よ!」

 そう言い残し、七体の聖龍達も天へと舞い上がると同時に周囲に散らばる形で各々飛び去ってしまった。

 

 そして二次元界を創造した二人の神 手塚治虫とウォルト・ディズニーの二人も皆の前から消え去り、辺りには空虚な程の静けさだけが残っていた。

 

 

 

 一方、魔鳥に乗って自分が生まれた三次元界に帰ろうとしていた修司はと云うと。

 

 次元と次元の狭間、その狭間を優雅に飛行す魔鳥の背の上で閉じていた瞳を開いた。

「………………こ、此処は……」

 朦朧(もうろう)とする意識の最中、そんな修司に魔鳥は話し掛けた。

「目を覚ましたか、闇の魂を持つ少年」

「あ、あんたは……」

 未だ意識がはっきりしない修司に、魔鳥は修司が意識を失っている間に起こった全てを話し明かした。

 魔鳥から事の全てを聞いた修司は、不確かな意識のままで魔鳥に話し返した。

「魔鳥……俺は、これから……やっぱり、三次元界にカエルのか……?」

「む……? 何やら乗り気ではなさそうじゃが」

「…………」

 魔鳥に話し返されて、唐突に無言に成ってしまう修司。

 そして、しばし黙り込んでいた修司は、意を決して魔鳥に言った。

「なぁ、魔鳥……」「何じゃ」

 返事する魔鳥に、修司は神妙な表情で語った。

「実はな、俺は…………」

 修司は魔鳥に自分の意思を伝えた。そしてその修司の意思を聞かされた魔鳥は、修司の方を向いて彼に言った。

「……良いのか、それこそ本当に二次元界・三次元界への影響が懸念されるが」

「……構わない、いやむしろ、既に二次元界に多大成る影響が出てしまっている。もう、俺がどうのこうのと云う問題では無くなってしまった」

 そして魔鳥は、再び修司に真剣に告げた。

「……本当に良いのじゃな」

 それに対し修司は、真剣な真顔で返した。

「……ああ、もう決心したよ」

 穏やかな状況の中、会話を続ける修司と魔鳥は次元の狭間で飛び続けた。

 

 

 

 

[本当の始まり]

 

 手塚治虫とウォルト・ディズニーの二人の神、加賀美あつこの死別した姉と聖龍隊の面々と親しい間柄である者達、そして目の前に姿を見せた【幸せの青い鳥】のモデルである魔鳥。

 そんな通常では決して御目に掛かれない存在らを目の当たりにし、そして自分が生まれ育った三次元界へと帰ってしまった修司と彼と共に去ってしまったコンパクト。そんな愕然とする現状の中、皆ただただ唖然と立ち尽くしながら修司を背に乗せた魔鳥が飛び去ってしまった空の方を見上げていた。

「……行っちまったな」「ああ、そうだな」

 空を見上げながら寂しげな表情を浮かべ合う早見青児とタキシード仮面。

「なんか、あっと言う間の日々だったわね」

「ええ、本当に、あっという間だったわ」

 虚しさが漂う顔で空を見上げるマーキュリーの言葉に返す、彼女と全く同じ表情を浮かべるマーズ。

「行ってしまったか……」

「あの子、元の世界でも、元気に生きてくれるかな……?」

 銀天狗に続き言葉を呟くルリ子の言葉に対し、イサミ達が元気良く返した。

「大丈夫ですよルリ子さんっ」

「修司さんは元いた世界でも元気にしてくれるって!」

「僕たちを元気づけ、更には未来を切り拓いてくれた人が、自分の未来を生きてくれなきゃ困りますよ」

 イサミ、トシ、ソウシの言葉を耳にし、ルリ子は自然と顔に明るさが浮かび上がる。

「……アッコ」「アッコさん……」

 しかしバーンズとジュニアは、皆より少し前の方で空を見上げるアッコの寂しげな後ろ姿を見て虚しく思っていた。

 そして二人に続いて他の皆々も寂しげなアッコの背中を見て虚しくも寂しく感じた。

 バーンズは思い切ってアッコに言葉を掛ける。

「あ、アッコ……大丈夫、か……?」

 すると言葉を掛けられたアッコは後ろを振り向き、後方に居たバーンズや皆に笑顔で答えた。

「……大丈夫よ、みんな。みんなこそ、そんな悲しそうな顔してちゃマズイでしょ」

「っ……?」

 アッコの言葉に戸惑うバーンズや皆。そんな皆にアッコは笑顔のまま明るく話した。

「まだ私達聖龍隊の仕事はたくさん残っているでしょうが。先ずはこの瓦礫だらけの町を修復して、一日も早く町のみんながいつもと変わらない日常を過ごせる様にして行かないとっ」

「アッコ、お前……」

 思わずアッコの発言に固まってしまうバーンズ。アッコは更に話し続ける。

「ほらっ、修司が居なくなったってさ、私達が別れちゃうとか全てが終わっちゃう訳じゃ無いじゃん。そ、それに、私が変身出来なくなっても、それは私が元の普通の女の子に戻っただけで事態が悪く成った訳でもあるまいし、別に悲しむ必要も無いじゃない……」

「あ、アッコさん……」

 次第に表情を微妙に変化させていくアッコに動揺していくジュニア、だがアッコはそれでも話を進める。

「な、何より……別に、悲しむ事でもないしっ。修司が死んだ訳でもない。ただ修司は自分の世界に、元いた世界に帰っていっただけで……元の世界に帰っただけで、悲しむ事なんかじゃないし……だっ、だい…………だいじょ……ぶ……っ」

 遂に少女は堪えていた涙を瞳から零し始めてしまい、次々に目から涙を流してしまう。

 申し訳なさそうに目から零れてゆく涙を袖で拭う少女の痛い気な姿に、目の前の一同は全員心を深く痛めてしまう。

「……アッコ……!」

 少女が流す涙を目の当たりにして悲痛な心境に至るバーンズや皆。

 

 その時、彼等の背後から少し離れた所に突き刺さっていた、かの修司が愛用していた日本刀 聖龍剣

 その刀を何者かが地面から抜き取り、右手で刀を肩で担いでみせると、眼前で悲しみに浸る聖龍隊の背後から前触れも無く話し掛けた。

「全く、たかが人一人居なくなっただけで、此処まで意気消沈しちまうとは……情けねえな」

「え……っ?」

 自分の後方から話し掛けてくる、その毒舌交じりの言葉遣いに皆思わず後ろを振り向いた。

「何の為に今まで頑張ってやったと思ってるんだ? これじゃ…………おちおち元の世界に帰る事すら出来やしねえな」

 ふてぶてしく語り続けるその口調、そして挑発するような不敵な面構えを見て、皆言葉を失った。

 

 そして悲しみに陥っていた少女 加賀美あつこは一人みんなの隙間を軽く押し退けて、言葉を失う皆の前に歩み出す。

 そんな唖然とする少女に、その者は不敵に言葉を吐いた。

「なんで泣いてる? こんな不細工で無愛想な男が消えて喜ぶところだろ? 何より……お前に悲しげな顔は似合わねえよ。アッコ」

 

 少女は思わず、大粒の涙を目から溢れさせながら、目の前に姿を見せる少年に駆け寄り、そして抱き付いた。

 

 

 

 

 

「修司ィっ!」

 

 

 少年は次元の狭間で、希望を司る魔の鳥に、二次元の人々と出会って得た真情について、こう述べた。

 

「この気持ちを……忘れたく……ないっ……!」

 

 

 

 

 

[ED]

 

 

仲間由紀恵 - 負けない愛がきっとある

 

 

 

WHY 好きな気持ちは 鋭い棘

 

WHY 迷いすぎると 自分に刺さる

 

段々と花びらを咲かせる 薔薇のようでも

 

本当は心に震えてる愛が怖い

 

壊れそうで…(壊れそうで…)

 

 

抱きしめてくれるより もっと解ってほしい

 

優しさをくれるより 寂しさを 越えてゆく力欲しい

 

 

負けない愛だって この胸に必ずあるはずよ

 

確かな愛だって 求めればいつかは見えるから

 

今どうなってゆこうと いま運命に逆らう

 

強さを 信じさせて

 

 

 

WHY あどけなさから 生まれる罪

 

WHY 知らないことで 誰かを責める

 

感情がなにげない不安を 複雑にする

 

関係ないことばを選んでは言い訳して

 

逃げてばかり…(逃げてばかり…)

 

 

慰めてくれるなら もっと叱ってほしい

 

間違いを許すなら 傷さえも包み込む夢が欲しい

 

 

負けない愛だって この胸に必ずあるはずよ

 

確かな愛だって 求めればいつかは見えるから

 

今どうなってゆこうと いま愛情に従う

 

強さを信じさせて

 

 

 

負けない愛だって この胸に必ずあるはずよ

 

確かな愛だって 求めればいつかは見えるから

 

今どうなってゆこうと いま運命に逆らう

 

強さを信じさせて

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。