続いてしんせん組の三人、花丘イサミ/月影トシ/雪見ソウシ等の視点です
[時代の流れ]
陽が落ち、辺りはすっかり暗く成り果てた日没刻。
大江戸町三丁目のとある古ぼけた日本家屋、此処は別名「三丁目のお化け屋敷」と近所に住む子供達から呼ばれている花丘家の住居である。
台所から漂ってくる味噌の香り、そして魚の焼ける少し焦げた様な匂い。
そんな匂いと煙が、開いた窓の隙間から漂ってきている花丘家。
家族揃って食事をする食卓には四人分の皿や御椀、そして箸が綺麗に並べられている。
そんな食卓に炊飯器や熱いお茶の入った急須を接せと運んでくる一人の少女。
その時、玄関の引き戸が開く音が古い家に響き渡り、それと同時に女性の声も響き渡る。
「只今ーーっ」「あ、ママ。お帰りなさい」
玄関から入って来た一人のスーツ姿の女性、この家の住人の一人である花丘玲子(はなおかれいこ)が帰宅して来たのだった。
帰って来た母の玲子を笑顔で出迎える娘の花丘イサミ。
母は草臥れた様子でスーツの上着を放り投げる様にイサミに手渡すと、そのまま洗面所に向かい其処で顔を洗い次にうがいをし、そして最後に手を洗い終わると食卓に腰を下ろす。
既に玲子の義父でありイサミの祖父である花丘観柳斉(はなおかかんりゅうさい)が、食卓である卓袱台(ちゃぶだい)に並べられている皿や御椀に夕食であるオカズの焼き魚や味噌汁ほくほくの炊き立て御飯を盛っていた。
母の玲子が卓袱台の前に並べられている座布団に座り込むのを見て、娘のイサミは家の一室の襖戸を開けて其処から声を上げた。
「パパーーッ、ママが帰って来たからご飯にしよう」
「ああ解った、すぐに行くよ」
イサミが呼ぶと部屋の奥から男の声で返事が返って来る。
そして呼び付けたイサミも母や祖父同様に卓袱台の前に腰を下ろすと同時に部屋の襖が開き、其処から一人の男性が部屋着用の浴衣姿で出てきた。
「あ、パパ、早く早く」
「はは、そう急(せ)かすなイサミ。もう私は何処にも行きやせんよ」
イサミに急かされ手招きされて部屋に入って来る一人の男性、イサミの父であり玲子の夫でもある花丘魁(はなおかかい)は笑みを浮かべながらイサミの隣に座る。
「よし、それじゃ……」『頂きます』
そしてイサミの両脇には母の玲子と父の魁が腰を据えると、祖父の観柳斉もようやく腰を下ろして初めて夕食に舌鼓し出す花丘一家。
そんな家族団欒の食事の最中、イサミは母の玲子に訊ねる。
「ねぇママ、今日も明日の朝のニュース情報の整理していて遅くなったの?」
母の玲子は疲れているのか、観柳斉の作った料理を頬張りながらイサミの質問に答える。
「うん、まぁね。市長の小田原修司の公言以降、アニメタウンの報道活動も日に日に激しさを増して来ちゃってるのよねぇ。はぁ、せっかくパパが帰って来てくれたのに、おちおち家でゆっくり一緒に居られないわ」
思わず溜息を衝いてしまう玲子。
実はアニメタウンの市長であり同時に聖龍隊の総長である小田原修司の【異次元からの脅威】に対する対抗手段として、実は聖龍隊そのものがその脅威と立ち向かう為の策で有ったと公言して以来、聖龍隊に護られて来たアニメタウンでは報道機関がこの話題で持ちきりと成り、アニメタウン中が騒然と成ってしまっていたのだ。
朝のニュースキャスターを職業にしている玲子も、修司の公言以降に湧き上がるニュース情報の整理に日夜追われ続けているのであった。
「はは……ママ、もう僕は何処にも行かないよ。だからそんなに落ち込まないで。また機会を見て休日にでも家族一緒に何処か出掛けよう、な」
気落ちしている玲子に微笑みながら話し返す夫の魁。
魁に続き、観柳斉も笑顔で玲子に言った。
「そうじゃよ、もう魁は何処にも行きやせんのじゃし、今は普段の生活をそれぞれ堪能していこうじゃないか」
観柳斉に言われた玲子は表情を明るくさせて言い放った。
「そうね、もう何時でも家族揃って居られる訳だしね。私も早く貯まった有休使って家でみんなと一緒に過したいわ。パパにもイサミにも、腕に選りを掛けて御馳走作ってあげたいし」
「ウ゛ッ!」「ぶほッ……!」
玲子の発言を聞いて酷く動揺してしまうイサミと魁。実は玲子の料理は御世辞にも余り上手くは無かったのだ。
そして花丘家の夕食が済み、家族各々台所に空いた食器類を運んで行く。
夕食時の食器の洗浄に関しては、いつも仕事で忙しい自分に代わって食事を作ってくれている観柳斉に代わり玲子自ら率先して洗浄していく。
一方のその他の家族はと云うと。魁の方は自室に籠り、何やら図面と向き合っていた。
そしてイサミの方はと云うと、祖父の観柳斉に自室に呼び出されていた。
二人は双方とも正座で座り、相手と向き合いつつ真剣な真顔で話をしていた。
「イサミ、お前は本気で聖龍隊の皆様方と一緒に異次元からの脅威と呼ばれている怪物共と戦う積りなのか?」
「はい! 私本気よ、お祖父ちゃん」
険しい面持ちでイサミに鋭い口調で問い質す観柳斉、それに対しイサミは毅然とした態度で返事を告げる。
そんな孫娘のイサミの言葉を聞いた観柳斉は表情を変えずに続けてイサミに告げた。
「しかしじゃイサミ。お前はもちろん、あのトシ君やソウシ君だってほとんど無力な普通の子供じゃろう。他の聖龍隊の方々は……ワシは未だに信じ切れぬが、魔法や超能力と云った通常ではありえない特殊能力を使えるからこそ、今まで途方もない悪者たちを倒して来れたんじゃ」
「………………」
「しかしお前たち三人は、御先祖様達が遺してくれたルミノタイトの武器だけしか戦う術が無いじゃないか。正直そんなお前達が聖龍隊の皆さんと一緒に共闘していくなど、返って足手まといではないか?」
「…………」
祖父の観柳斉の話に対し、何も言い返せないイサミ。
だが観柳斉はそんなイサミに対して動じる事無く、今度は悲痛な口振りで話し出した。
「それになイサミ……もしお前達三人に何か遭ったら残されたワシ等がどんな思いをするか解っているか? 玲子さんも魁が家に戻って来てくれて、ようやく家族四人揃ったと喜んでいるのに……もしお前に何か遭ったら、また玲子さんは悲しむんじゃぞ。無論、玲子さんだけじゃ無い、ワシやお前の父でやっと黒天狗党からの逃走劇に終止符を得て家に帰って来られた魁だって悲しんでしまうんじゃよ。それでもお前は本気で聖龍隊に居続けてこれからも怪物や悪人相手に戦って行くのか……!」
悲痛な口振りと表情で自分に話してくる観柳斉に対しイサミは居た堪れない心境に陥っていたが、イサミは力強い眼差しで観柳斉の目を見ながら力強く答えた。
「ええ、そうです! 私もう決心したの、お祖父ちゃん……!」
「い、イサミ……!」
険しい顔付きに意志の強さが感じられる眼力でイサミに言い返される観柳斉は動揺した。
更にイサミは力強い面持ちのまま観柳斉に自分の想いを釈明した。
「お祖父ちゃん私、もう決めたの。確かに黒天狗党を陰で操っていた黒天狗いいえ芹沢の御爺様が故郷の星に帰った事で黒天狗党は悪い組織じゃ無く成ったわ。そしてその天狗党に追われ続けていたパパも家に帰って来られた。だから私がしんせん組に成って戦う必要はもう無いわ、だけど……」
「…………」
突然黙り込み下を俯き出すイサミに対し、観柳斉は無言でイサミを見詰めた。
そしてイサミは意を決するかの如く、再び語り出した。
「だけど……私は、いいえ! 私達も戦うわ! 今まで聖龍隊のみんなには返し切れない恩が有るし、何よりみんなの助けに成りたいの! 確かに御爺ちゃんの言うとおり、私たち三人が戦う術は御先祖様達が遺してくれたルミノタイトを組み込んだ武器だけよ。でも、それでも私達は少しでも良い! 少しでもみんなの力に成ってあげたいの! そりゃ、ちょっとは怖いけど……それでも今までの仲間達と一緒であれば怖くなんかないわ。何より、今なにもしない間々では結局この世界は異次元から来襲する怪物達に襲われてメチャメチャにされてしまう! 私は今まで、聖龍隊で多くの人達を助けて来たし、逆に聖龍隊のみんなに助けられた事も沢山有った! だから今度も聖龍隊の一員としてアニメタウンの人達だけじゃない、世界中の弱い人達の為に戦いたいの!」
「い、イサミ……お前……!」
孫娘のイサミの口から出る力強い言動に怯み出す観柳斉。
するとその時「お父さん、イサミを信じてあげて下さい」
「か、魁……」「ぱ、パパ……!」
その場に観柳斉の息子でありイサミの父でもある魁が顔を覗かせた。そして魁はそのまま二人が対話している観柳斉の部屋に入ると語り出した。
「信じてあげましょうよ御父さん。イサミはもちろん、お友達であるトシ君やソウシ君は黒天狗党と戦い続けながら、しっかり成長しています。そりゃあ、私だって娘であるイサミの身が心配です。だけど時に親は、敢えて子供を信じて大人しく見守っていかなければ」
「じゃ、じゃが……」
困惑する観柳斉に、魁は続けて釈明する。
「それに……私は黒天狗党から解放されて以降、何度か聖龍隊の総長である修司君や彼の親友であるバーンズ君やジュニア君、そしてアッコちゃんや修司君の執事であるウッズさんと面識しました……確かに修司君は少し謎めいた部分が有ります、だけど彼の側近であるウッズ氏や息子のジュニア君、更には御友達のバーンズ君やアッコちゃんを見ていると彼等は本当に優しく他人思いな素晴らしい人物である事だけは断言できます」
「…………」
「修司君の言うとおり、聖龍隊の戦力無しにはこの国はもちろん世界そのものが壊滅してしまいます……! 安心してください、私もウッズさんや犬養博士共々、バックで聖龍隊のサポートを任せられています。イサミを始め多くの聖龍隊の子供達が無事に戦いを乗り越えられる様に万全の体勢でサポートしていきます」
「むむ……」
腕を組み考え込んでしまう観柳斉に、魁は最後にこう告げた。
「御父さん、イサミ達を……聖龍隊を信じましょう」
そして父に続きイサミも言った。
「お祖父ちゃん、お願いします!」
しばし考え込む観柳斉は、組んでいた腕を解き下ろして険しい顔付きのままイサミに毅然とした態度で言った。
「…………解った。イサミ、お前やトシ君達を信じよう」
「……!」「お、お祖父ちゃん……!」
観柳斉の言葉を聞いて歓喜に満ちる魁とイサミ。
すると喜ぶ二人を眼前に観柳斉は態度を変えずに言い放った。
「正し……! 決して無理をするな、それだけは約束してくれイサミ」
「は、はい! 解りました」
祖父に対し頭を下げて返事をするイサミ。
更に観柳斉は神妙な面持ちでイサミに言った。
「イサミよ、それに魁。お前達に一つ話しておきたい事が有る」
「え」「な、何? お祖父ちゃん」
戸惑う魁に訊き返すイサミに、観柳斉は語り始めた。
「イサミ、お前が聖龍隊を信じて一緒に戦い抜く事は素晴らしい考えじゃとワシは思う。しかしその判断が後々どの様な結果に、どの様な時代を呼び込んでくるかは見当も付かんのじゃぞ」
「じ、時代……」「……」
観柳斉の発した時代という言葉に深く感じ入ってしまうイサミと魁。更に観柳斉は神妙な面持ちで語り続ける。
「ワシ等の先祖で新撰組発明係の本隊である、京の新撰組の事は知っているじゃろ。彼等は真剣に日本の未来を護り抜こうと結束を固めて行った幕末の英雄じゃ。しかし彼等は激動の日本で変わり続ける歴史の波に逆らえず、最終的に総長である近藤勇(こんどういさむ)は討ち首に遭い、副長で有る土方歳三(ひじかたとしぞう)は当時の北海道で有る蝦夷地(えぞち)にて旧幕府軍として最後の抵抗を試みたが敢え無く新政府軍に敗れ去り戦死してしまった……」
「「…………」」
「ワシが言いたいのはじゃイサミ、それに魁。未来を護って行こうと真に想い願っていても、激しい動乱の中ではどんな屈強な英雄も武士も虚しく散ってしまうものなのじゃよ。――イサミ、お前が信じている聖龍隊の英雄達も同じじゃ。どんなに素晴らしい才や技量を持っていようと、激動の時代の中では波間に揺れるちっぽけな木の葉同然じゃ。故に、ただ激戦の中を生き残れない可能性もある上に、その強大な能力故に後世では危険な存在として歴史に汚名が刻まれてしまう可能性だって少なからずあるんじゃよ」
観柳斉の只ならぬ釈明に聴き溺れるイサミと魁。観柳斉は表情を一変せず真剣な顔と目を向けながら語り続けた。
「……もちろん、お前達同様、聖龍隊の皆様方はとても心の優しい真っ直ぐな方々である事は解っておる。しかし、その強大な戦力は後の歴史にどの様に遺ってしまうのか……下手をすれば危険な輩共として聖龍隊の名が遺り、その一員としてイサミやトシ君ソウシ君らまでもが歴史に汚名を遺してしまう事をワシは懸念しておるのじゃよ。――其処でイサミ、お前に一つ祖父であるワシから宿題を出す」
「へ?」
突然の祖父の発言に驚きキョトンとなってしまうイサミに、観柳斉は思わせ振りな面立ちで語った。
「イサミ、お前達三人は言っては何じゃが、聖龍隊では最も戦力の低い方の面々じゃ。故に力の弱い、そうお前達が護って行きたいと思っている町の人々と同格に近い目線で物事を見ていられる。そんな非力な存在に近い目線からお前は聖龍隊の内側から彼らがどんな人物でどんな思想を持って戦いに挑んているのか、それをしっかりと己の目と耳で捉えるのじゃ。そして己が記憶と心に彼等の生き様を刻み込み、後世に遺せるようにしておくのじゃ。かつてワシ等の先祖である新撰組も、新政府軍に刃向った為、官軍に仇なす賊軍として戦争が終わるまで汚名を着せられてしまった。歴史と云うのは動乱の時代では、時おり謝った情報が流れてしまい間違った歴史が後世に遺ってしまう事など珍しくは無い。故に聖龍隊の真の歴史を、思想を後世に遺す為にも、お前やトシ君達を始めとした若い聖龍隊の子達は決して命を粗末にしては成らぬぞ。良いな、お前達の様な若い子は歴史を、いや未来を遺し創りだすだけでは無い、その時代に生きた人々の想いを後世に在りのままの形で伝え遺して行く事も大事な責務なのじゃよ」
観柳斉の真に迫った釈明を聞いたイサミは、強い決心に満ちた表情で祖父の観柳斉に宣言した。
「は、はい……解りました。花丘イサミ、必ず生きて激戦を乗り越えてみせます……! そして同時に自分達の、いいえ、聖龍隊のみんなの想いも全て、
在りのまま真の記録として後世に遺して行く為にも決して命を粗末には致しません!」
「うむ! しっかり頑張るんじゃぞイサミ。花丘家の名に恥じぬ、立派な戦歴を遺しつつ生き抜いて見せるのじゃッ!」
孫娘のイサミが見せた力強い言動に、観柳斉は穏やかな表情でイサミを激励したのだった
歴史、それは時おり謝った解釈により事実とは異なる記録が残ってしまう。
それは時の権力者によって、また有る時は動乱の時代ゆえに謝った情報が流れてしまう事によるものだ。
イサミは異次元からの脅威との激戦に絶対生き残るだけでなく、同時に聖龍隊の真の激情を見届けそして後世に伝える為にも何か行動を起こそうと決意するのだった。
[例え弱くても]
イサミを始めとしたしんせん組の面々、月影トシに雪見ソウシ等の三人は訓練場にてキューティーハニーと仕合をしばし行った後、少しばかりの休憩を取っていた。
すると突然、トシが口走った。
「いやぁ、さっきは驚いたよなぁ」
トシに続き、ソウシも缶ジュースを口に運びつつ語った。
「あ、ああ……あの女の子、確かちせって名前の子、とんでもない能力だったよね。生半可な攻撃や技では中々壊れない訓練場の壁を大破させちゃうんなんて……」
二人が話しているのは、先ほど訓練場で能力を上手く制御できずに暴発させてしまった最終兵器のちせに関してだった。
彼女は物の見事に強固な訓練場の壁に大穴を開けてしまい、彼女と仕合っていたメタルバードを黒焦げにしたのであった。
そんな唖然としながら語り合う二人を尻目に、イサミは二人の傍らでノートを片手にペンを走らせていた。
「ん? おいイサミ、お前さっきから何ノートに書き込んでいるんだ?」
脇目も振らずにノートに掻き込んでいくイサミを見て気になったトシが訊ねてみると、イサミはトシに答えた。
「ああ、これは遂さっきの聖龍隊の共同訓練での様子を記しているのよ」
「えッ、な、何の為に……?」
ソウシが不思議がって訊ねるとイサミは平然とした態度で答える。
「私ね、聖龍隊のみんながどんな思いで戦い、そしてどんな心境で聖龍隊に居るのか……それをしっかりと記録に遺して置きたいのよ。私なんかが書き遺したって誰も目を通してくれないかもしれないけど、それでも本当の聖龍隊がどんな組織だったか。そして聖龍隊のみんながどの様な人物だったか。後世でも語り継いで貰えるように記しておきたいのよ」
イサミの話を聞いて、トシとソウシは途方もない内容の話に若干唖然としてしまった。
その時。
「あ、イサミちゃん」「お疲れさま」
「あ、ジュピターにマーキュリー」
同じ聖龍隊の仲間であるセーラー戦士、セーラームーン/マーズ/マーキュリー/ジュピター/ヴィーナス/タキシード仮面/ちびムーン、更に外部系戦士のウラヌス/ネプチューン/プルート/サターン達がイサミ達同様、訓練を終えてその場にやって来た。
そしてその内の二人、ジュピターとマーキュリーがイサミに声を掛けたのだ。
イサミはセーラー戦士達に明るい顔を向けた。
「どうしたの? イサミちゃん」「なに書いているの?」
訓練場脇の通路に座り込みノートと向き合いつつ記載しているイサミを見て、気になったマーズとヴィーナスがイサミに訊ねる。
二人の問い掛けにイサミは穏やかな笑みを向けて答えた。
「はい、実は聖龍隊の……みんなのやり取りや日常を記しているんです」
「え?」「わ、私達の?」「はい」
話を聞いてポカンとしてしまうウラヌスとネプチューンに、イサミは明るく返事をする。
そしてイサミは続けて力強く述べていった。
「私、聖龍隊の皆さんがどの様な心情や想いで戦っているのかを遺しておきたいんです。この先の未来でも聖龍隊の真の情景を伝え遺しておくのも、これからの時代を生き続ける者の役割かなって思いまして……」
イサミの話を聞いて、ちびムーンが笑みを向けて言い放った。
「うわぁ、とっても素敵じゃない」
ちびムーンに続き、サターンも笑みを浮かべてイサミに言った。
「聖龍隊の様々な思想を後世に、未来に遺して行こうなんて……素晴らしい考えですね、イサミさん」
サターンの言葉に、イサミは照れながら釈明した。
「そ、そんな…………ただ私の様な、武器だけしか戦力に成らない弱い隊士はそれぐらいしか出来ないかなって……」
そんな頬を赤くするイサミの言葉にマーズが告げた。
「そんな事無いわよ、イサミちゃん」
マーズに続きヴィーナスも笑顔でイサミに言う。
「そうよ。イサミちゃんだって充分役に立っているわよ。それに武器に頼ってるって言っても、私達だって変身する為のアイテムが無いと戦士に成れないんだから其処はおんなじよ」
笑顔で話すヴィーナスに続いてタキシード仮面が穏やかな口調でイサミに言った。
「それにしても立派な心掛けだな。聖龍隊の真情をそうして記録に遺し、後世に伝えて行こうと考えているとは……」
イサミの心掛けに感心するタキシードに、イサミは温厚な微笑を浮かべて言った。
「い、いえ私はただ、他のみんなと違って戦闘力も低いし、こんな自分でも何か聖龍隊の為に少しでも出来る事は無いかって思って……それで、聖龍隊の人達の思想や生き方をノートに書き留めておいて後々言い伝えられるようにしているだけです」
するとイサミのこの言葉を聞いたセーラームーンが優しい微笑を浮かべてイサミに言葉を発した。
「イサミちゃん、それだけでも凄い事だよ。私達、聖龍隊の真情を未来に伝え遺す為に真剣に記録に記しているなんて偉いじゃない」
セーラームーンに続きマーキュリーも神妙かつ穏やかな表情を浮かべてイサミに告げた。
「うさぎちゃんの言う通りよイサミちゃん。例え弱くても……いいえ、どんな人にだって必ず何かの、そして誰かの役に立てる事が有る筈ですもの。聖龍隊がどんな想いで戦っていたかを記録として遺して置く事も、とても大事でとても重要な素晴らしい考えだと、私は思うわよ」
「あ、亜美さん……ありがとうございます」
穏やかな笑みで評価を言ってくれたマーキュリーに礼を述べるイサミ。
「……………………」
だが、この時セーラープルートだけは一人思い更けていた。
「……ん、どうしたんだいプルート。何一人で思い詰めている様な顔をしているんだい?」
「え……い、いえ、ちょっと……」
ウラヌスに訊かれたプルートは若干の動揺を見せながらも答えた。
そして彼女は内心静かに思っていた。
(……イサミちゃんが聖龍隊の記録を遺そうとノートに書き留めているのは良いとして、なんで未来には彼女が遺している筈の聖龍隊の記録すら無いのかしら? イサミちゃんは事細かく記しているし、何より国連が絡んでいる様な世界的規模の計画である今回の【異次元からの脅威】に対する歴史は全く記録に遺ってない……一体、何がどうなっているのかしら……?)
プルートは未来で、そうちびムーンと共にやって来た、未来の世界では聖龍隊に関する記録が一切遺っていない事実に頭を悩ませていた。
やがて彼女達は知る事に成るのだろうか。
聖龍隊はもちろん、本来彼女達が出逢う事すらなかった面々である事を。
彼女達が一堂に揃い、そして共生している筈が無かった事実を。
[どんな過去でも]
「ふぅ、ハニーさんとの取っ組合いは骨が折れるぜ」
「ふふ、僕としては可憐なハニーさんと仕合えるだけで至福の時だけどね」
愛の戦士キューティーハニーとの練習仕合を終えて、トシは軽く溜息を衝きながら手拭いで頭部の隅々まで汗を拭い、それに対しソウシは美女であるキューティーハニーと仕合えた事に満足していた。
一方のイサミは、相も変わらずノートに向き合い記録を綴(つづ)っていた。
「イサミちゃん頑張るねぇ」
「ああ、隅から隅まで聖龍隊の記録を書いていくつもりだな」
ノートに真剣な表情で向き合い記録を書き綴るイサミを見て、改めて感心するソウシとトシ。
その時、ソウシが何を思ったかノートに書き綴るイサミに歩み寄り話し掛けて来た。
「い……イサミちゃん……」
「ん……なぁに? ソウシ……」
ソウシに話し掛けられたイサミはノートに向き合ったまま、ソウシと目を合わさずに黙々と鉛筆を走らせる。
するとソウシは思い詰めた様な心痛な面持ちでイサミに言う。
「あ、あのさ、イサミちゃん……」「……?」
ソウシの思い詰まった表情にすら目を向けず、ひたすら書き続ける
そして意を決する様に、ソウシは重苦しい口調でイサミと話し出した。
「い、イサミちゃんは……聖龍隊の全てをノートに……記録として遺していこうと思っているんだよね……」
「うん、その積りよ」
「つ、つまり……その…………ハニーさんの事も書き留めておくのかい?」
「え? ……そ、そうだけど……」
「…………それじゃ……ハニーさんが人間で無い事もかい……」
「!」「ッ!」
ソウシの言葉にイサミもトシも愕然と成り、イサミは走らせていた鉛筆を止めてしまう。
「…………」
イサミは静かにソウシに顔を向け、ソウシの顔を見詰めた。
ソウシは自分に顔を向けたイサミを、悲愴漂う顔付きでジッと見詰めながら話し続ける。
「聖龍隊の事を……みんなの事を書き留めるって事は、同時にみんなの辛かった過去や悲しい出生も記録に遺し、他の人達に知らせてしまう事なんだよ」
「…………」
「イサミちゃん……! 確かに聖龍隊の真の姿を後世に伝える為に記録を取り続ける事は立派だと僕は思うよ。だけど人に知られて欲しくは無い過去(きろく)は誰にだって有るんだ。それは聖龍隊のみんなも同じ事だ。ハニーさんは人間では無く人工生命体だったり、その妹さんの聖羅さんなんか人工生命体だけでなく豹の爪(パンサークロー)の一員として僕等と戦っていた過去が有るじゃないか」
「……」
ソウシの話にイサミは返す言葉が無く、黙り込んでしまう。
しかし無言のイサミにソウシは更に話し続けた。
「ハニーさん達だけじゃ無い、他の聖龍隊のみんなだってそうだ。セーラー戦士達は前世ではもちろん、未来でもちびうさちゃんや多くの人達との確執が有った故に悲しい戦いを強いられてしまっていた。ナースエンジェルは自分の大切な人達を護ろうとし続けて、遂には探し求めていた命の花が自分の命の中に封印されている事を知って苦しみ抜いた。さくらちゃんはカードの収集の際はもちろん、カードに関する様々な事件でたくさん傷付いて来た。新しく来たコレクターズのお姉さん達や魔法騎士(マジックナイト)のお姉様達はまだ昔どんな事が遭ったか聞かされてはいないけど、恐らくは僕等や聖龍隊のみんなと同様、辛い過去を経験して来た筈だよ。そして何より、あのちせって女の子の事だ。聞いたところ、彼女は勝利の為だけに自衛隊によって身体を改造されてしまったと云うよ。そんな事実もイサミちゃんは記録として遺して行こうと考えているのかい?」
「…………」
ソウシに指摘され、イサミは下を俯いて黙り込んでしまった。
そしてイサミ達三人の周りに重い空気が溜まって行く。
そんな空気の中、イサミは意を決するかの如く顔を上げてソウシに力強い眼差しを向けつつ言った。
「ソウシ……アナタの言っている事は私、良く解るわよ。だけど……」
「……」「……」
力強い眼差しを向けられながら悲愴な面持ちで直立するソウシに、二人の重苦しい会話に入れずに困惑してしるトシ。
イサミは困惑するトシを尻目に、悲愴な表情を浮かべるソウシを直視しつつ話を続けた。
「だけど……いくら記録に遺したくは無い事とはいえ、決して逃れられないのが過去……いえ、過去という宿命じゃないの?」
「ッ!」「しゅ、宿命……?」
イサミの発言に表情を一変させるソウシ、そしてイサミの発した言葉に困惑するトシ。イサミはそんな二人に言い聞かせるように語り始めた。
「確かにソウシの言うとおり……ハニーさんや聖羅さんだけでなく、聖龍隊のみんながそれぞれ人に知られたくは無い過去や悲しい思い出が有るわよ。でも、だからって遺しちゃいけない過去なんて有る訳無いわ。辛い過去や悲しい記憶が有ってこそ、人は正しい未来を、明日を夢見ていられるのよ」
「「………………」」
「どんな過去や事実であろうと、それから逃げていてはダメなのよ。辛い過去や悲しい想いを忘れず背負い続ける事で、人はその過去を教訓として正しく生きようとする事が出来る筈なのよ」
「「…………」」
「二人だって聖龍隊と過しているから解るでしょ。みんな自分の悲しい思い出や悲惨な過去を忘れずに、ちゃんと受け止めているからこそ力強く前を向いているんだって。自分の過去から逃げている様な……逃げてばかりの人なんか聖龍隊には居ないって! だから私はみんなの過去を歴史の一部として遺して置くのよ。そしてみんなと一緒に、みんなの辛かった過去を共に背負い続けるつもりなの。自分が人では無かった、悪人に騙されたり洗脳されて大切な人と戦い傷付け合ってしまった、護りたい人達の為に自分の命を投げ捨て様とした――そんな辛く苦しかった過去があるからこそ今の自分が居るんじゃない。私はそんな教訓をこの先の人達にも伝えていきたいの。たくさんの人達に知って貰いたいの――聖龍隊のみんなの……辛くても、力強く逞しく生きて来た真実の歴史を後世に遺したいの……!」
決意に満ちた顔立ち、そして力強い熱弁を振るうイサミの話を聞いて、ソウシとトシは返す言葉もなく只黙り込んでしまう。
そして弱々しい顔立ちになってしまっていたソウシとトシは、決意に満ちた様な険しい顔立ちに表情を一変させてイサミに顔を向けた。
「……うん、その通りだ。ごめんイサミちゃん、僕が間違っていたよ」
「そ、ソウシ……」
険しいながらも優しさを感じる温厚な表情でイサミに謝罪を述べるソウシ、彼は続けてイサミに話を述べた。
「確かにそうだ、どんな人だろうと過去から逃げる事など出来やしない。いや、むしろ過去を受け入れそして背負い続ける事で、人は力強く未来(まえ)に一歩踏み出す事が出来るのかもしれない。どんなに辛い過去で在ろうと、それを経験したからこそ現在(いま)を明るく過していけるんだ。すっかり忘れていたよ、聖龍隊に入って学んだ大切な事を……思い出させてくれてありがとう、イサミちゃん」
「ソウシ……」
話の最後にイサミに謝罪と感謝の言葉を述べるソウシに、静かに歓喜するイサミ。
そんなイサミに、ソウシに続きトシも述べ始める。
「お、俺もソウシ程じゃないけどイサミの話には凄く何かを感じたよ。確かに、どう足掻いたって過去から逃げる事なんてできやしねえし目を背ける事もできねえ。全部まとめて受け入れてこそ、今まで以上に強く生きて居られるのかもしれねえな」
「トシ……」
普段からは感じられない真剣さを発しながら述べるトシの台詞に、イサミは嬉しく思った。
二人の親友からの理解を得られたイサミは、再び聖龍隊の真情を記録に遺し続けようと心に固く決めたのだ。
[伝えていきたい想い]
イサミは休憩がてら、さくらカードの使い手でもある木之本桜(きのもとさくら)の元に出向き、彼女から色々と話を聞き出していた。
「……と云う訳なの、さくらちゃん。私、聖龍隊のみんなの事を後の歴史でもちゃんと伝えていける様に、みんなの想いを記録に遺して行きたいのよ」
穏やかな微笑みを浮かべながら、さくらに自分の考えを釈明するイサミ。
「うわぁ、すっごいアイデアだね、イサミちゃん」
さくらは満面の笑みでイサミの聖龍隊の記録を遺して行く事に感銘を受け、イサミの問い掛けに答えていく。
「えっと、それじゃ……まずさくらちゃん、貴女が聖龍隊に入った切っ掛けって、どんな経緯だったの?」
イサミに問われたさくらは上目使いで思い考えながら質問に答え、そしてイサミと談話を述べ始めた。
「うんとね……あれは友枝町で、私達の町の公園にカードが出現して急いで駆け付けてみたの。すると其処には聖龍使いとメタルバードが既に駆け付けて居たんだけど、二人は公園に出現したカードを悪い魔物と思って攻撃しようとしていたから、私が慌ててウィンディ(風)のカードで二人を止めたの。それからお互いに協力して何とか現れたカードを封印する事が出来たんだけど……それを切っ掛けに私や小狼(シャオラン)君達も聖龍隊に勧誘されたんだ」
「そっか、聖龍使いやメタルバードとそんな事が……そして、それがさくらちゃんが聖龍隊に誘われた切っ掛けなのね」
「ま、まあね。でもメタルバードの方は、既に私や小狼君達の事知っていたみたいだけど……」
「そ、そうなのっ? そう言えば、最初彼と会った時もやけに私達の事知って居た様な……」
「う、うん、そうだよね。私達の事すごく知っていたのよね、メタルバード……もしかして私達の事、得意のテレパスで知っていたのかもね」
「有り得るわね。彼は市長である修司さんから色々と許可をもらって、町で活躍している私達の事を調べさせていたって聞いた事が有るわ。だからこそ私達の家にパーティーへの招待状を送って来られたみたいだけど……」
「あ、懐かしい! 私達が最初に出逢ったパーティーだね!」
イサミの発したパーティーの言葉に、さくらは笑顔で歓喜した。
自分達が最初に顔を見合わせた市長主催のパーティー。其処で彼女達は意気投合し、更に市長である小田原修司こと聖龍使いにアニメタウンを護る為の英雄組織を結成するので協力して欲しいと土下座をされてしまったが為に、致し方なく聖龍隊に加盟したのだった。
「懐かしいわね、あの頃……」「うん……」
イサミとさくらは当時の記憶に思い更けた。
市長である修司からの招待状、それを見て驚き慌てた面々。
そしていざパーティーで顔を見合せた時は初対面だった為に戸惑いつつも有ったが、次第に和み合い仲睦まじくなっていった彼女達。
更に小学生であるにも拘らず、不在である市長のポストにスピード就任した小田原修司から明かされた聖龍隊と云う英雄組織の結成、そして自分達もその一員として共に戦ってくれる様にお願いされたあの日。
思えば、あの日から自分達は共に過し共に戦い、そして共に歩んできたのであった。
「あの時の修司さん、やけにハッチャケていたと云うか、随分今と雰囲気が違っていたわね」
「そうそう、あの頃は無理やり明るく振る舞っていたって後から聞いたよ。本当は大人しい性格の人なのにね」
笑顔であの頃の修司が今と違う事を語り合うイサミとさくら。
その時、思い更けていたイサミとさくらであったが、唐突にイサミがさくらに訊ねた。
「……さ、さくらちゃん」
「ん? なに、イサミちゃん」
「さ、さくらちゃんは最初……聖龍隊に誘われて、困惑しなかった?」
「え? そ、それって……」
イサミに訊かれ動揺するさくら。するとイサミは悲痛な面立ちで訊き続ける。
「いえね、ただ……さくらちゃんは無理に戦う必要は無いかなって、そう思ったの」
悲痛な面持ちでイサミに言われるさくら。すると彼女は笑顔でイサミに言い返した。
「イサミちゃん……ありがとう」「え?」
「ありがとう、心配してくれて。でも私は大丈夫。私、自分のカードで少しでも大切な人達の力に成りたいの。カードを沢山の人達の為に役立てたいの。だから今でも聖龍隊に居るんだよ」
「…………」
さくらの台詞に言葉を失くすイサミ。そんなイサミにさくらは話を続けた。
「私ね、危険な魔力を秘めたと云われるカードでも、必ず多くの人達を救える力に成れるって信じたいし、それを証明したいの。私、聖龍隊に入ってから多くの人達と仲良くなれた。イサミちゃんやりりかちゃん、うさぎさんにハニーさん、そしてアッコさんに修司さん……本当に沢山の人達とお友達になれた。私はそんな掛け替えのない大事なみんなの為に少しでもカードを正しく使って助けていきたいの」
「……」
「私ね、ホントに聖龍隊に入れて、誘われて良かったって思ってる。聖龍隊に誘われていなければイサミちゃん達とも逢う事すらなかった、うさぎさん達セーラー戦士やキューティーハニーはもちろん、ナースエンジェルのりりかちゃんに今回新しく加わったコレクターズに魔法騎士(マジックナイト)のお姉さん達、そしてあのちせさんにも出逢っていなかった。みんなと出逢う事が出来たのは全部、修司さんが聖龍隊を結成してくれた御蔭なんだもの。私、聖龍隊に入れたと云うよりも、聖龍隊のみんなと逢えた事が凄く嬉しいの」
「さくらちゃん……!」
自身が使えるカードを少しでも人の役に立てたいという想い、そして聖龍隊に入れたよりも其処で沢山の人と関わりを持てた事に深い感銘を得られたと豪語するさくらの話に、イサミは驚き衝撃を受けた。
更にさくらはイサミに告げた。
「私、みんなと逢えた聖龍隊をこれからも遺して行きたい。イサミちゃんが聖龍隊の真実を未来に遺して行きたいように、みんなと出逢えた聖龍隊を私はずっと遺して行きたいの……!」
このさくらの言葉にイサミは心の底から感激した。
友に出逢えた、人と出逢えた。そんな当り前の喜びを満面の笑顔で口にする少女さくら。
イサミはそんな少女の、平凡ながらも人との出逢いと云う幸せ、その想いもしっかり記録に遺し後世に伝えていこうと思い立ったのだった。
[戦う勇気]
聖龍隊基地施設、その通路をノートと睨めっこしながらイサミが歩いていた。
すると目の前から一人の少女がやって来た。
少女は前方のイサミに気付き、お互いに衝突しない様にイサミに声を掛けた。
「あ、ねぇちょっと」「ん……あ、貴女は」
イサミも自分に声を掛けて来た少女に気付いて、彼女に顔を向けた。
声を掛けて来たのはコレクターズの主柱メンバーである春日結(かすがゆい)だった。
イサミは声を掛けた結に微笑みながら話し掛けた。
「た、確かお姉さんは新しく入って来たコレクターズの春日結さん!」
「ど、どうも。ええっと、確かあなたは……」
「あ、私は花丘イサミです。どうしたんですか? なんだか元気が有りませんけど……」
「う、うん……実はね……――」
イサミは元気のない表情を浮かべる結を気にして訊ねると、結は気欝な表情で語り出した。
自分達コレクターズは他の聖龍隊の英雄隊と比べると現実空間での戦闘実績が無い為、セーラー戦士のウラヌスやネプチューンに色々と指摘され言われ続ける胸に突き刺さる言動。
そして――それ以上に本物の戦場で戦う事に対しての恐怖心が心裏に潜んでしまっている事を、結は包み隠さずイサミに伝えた。
話を聞いたイサミは、訳を話してくれた結に対して何も言わずに全てを聞き入れていた。
その時、全てを話し終えた結が唐突にイサミに訊ねて来た。
「ね、ねぇ。イサミちゃん」「な、なんでしょうか?」
「イサミちゃんはその……平気なの? 聖龍隊と一緒に居て……」
「へっ?」
驚くイサミに結は語り続けた。
「そ、そのね……私、最初は聖龍隊の事とても憧れているし、尊敬もしてる。もちろん、今でもそれは変わらないわよ。だけど……そんな尋常でない人達の中に、普通の人である私達が紛れ込んでいると思うと凄く不安になっちゃって……」
「…………」
「……ホント、外から見るのと中から見るのとは大違い。聖龍隊って本当は華やかな所だと思っていたけど意外にシビアで……現実の世界で戦った事が無いだけでこんなに周りと格差が有ったなんて、今の今まで気付かなかった。最初はコムネット同様、現実の世界でも楽に戦えるかなって思っていたけど実際は全然ダメダメで……」
「……」
落ち込む表情でイサミに話す結。すると結はイサミに顔を向けて言った。
「ねぇ、イサミちゃん」「は、はいっ」
突然声を掛けられ驚くイサミ。結はそんなイサミに訊ねた。
「い、イサミちゃんは聖龍隊が結成した当初から居るって聞いたけど、怖くは無いの?」
「え……」
「怖くないの……? 戦う相手が普通でない怪物やお化けでも勇気を出して戦えるの?」
結の質問に一瞬動揺するイサミ。そしてイサミはしばし下を向いて考え込むと視線を結に戻して彼女に言った。
「怖くないと言えば嘘に成ります。だけど私はもちろん、私同様に不思議な能力(ちから)を持っていないトシやソウシも臆せず戦う事は出来ます!」
「い……イサミちゃん……!」
この時のイサミの目からは何とも言えない力強い意思が溢れ出ており、そんな目で見られながら告げられた結は内心とても驚いた。
そんなイサミは力強い眼差しを結に向けながら、更に言い続けた。
「確かに……今までも私達は怖い思いを沢山してきました。そして今回も、今まで以上に強い敵が大群で攻めて来ますし、何より世界中の命運を背負って挑む戦いに参加する訳ですし責任だって有ります! だけど私は……いいえ、聖龍隊の仲間が一緒に戦ってくれるのであれば怖くなんかありません! 今まで共に戦ってくれた心強い仲間が居てくれれば、怖さなんか半減です!」
「…………」
「私は今まで通り仲間を、聖龍隊を信じています。そして他の聖龍隊のみんなも私を信頼してくれているのなら、その信頼に応えてあげたいんです。結さん達だって、そんな仲間の一人なんですよ。誰だって一人じゃ心細くなって臆病に成ってしまいます。だからこそ、自分を頼ってくれる信頼してくれる人に対しては、精一杯その期待に応えてあげたくなるのが真情なんです!」
イサミは結に、力強い眼差しに穏やかな微笑みを向けながら言った。
「それは結さん達もおんなじでしょ? コムネットでどんな戦いを経験してきたか私知りませんけど、どんな苦境や逆境でも一緒に乗り越えてくれた春菜さんや愛さんってお友達が側に居てくれたからこそ、辛かった戦いも無事に乗り越えられて来たんじゃないですか?」
「……!」
イサミに言われ無言で驚く結。イサミの言葉は確実に、結の心に突き刺さっていた。
そしてイサミは最後に、穏やかな微笑みで結に言い聞かせたのだった。
「結さん達は今までコムネットで沢山の人達の協力を得られたからこそ戦って来られたんでしょ? でも、これからは今まで以上に沢山の人との繋がりが支えとなり自分を奮い立たせる力に成ってくれる筈です。現に、私もそうです。聖龍隊と云う仲間が、絆が有ったからこそ自然と心の底から勇気が湧きあがって来られたんです。結さん達だって、ちゃんと勇気を出して私達と一緒に戦う事が出来る筈です!」
この時、イサミは最後にある言葉で話を締めくくった。その言葉は結の心に深く入り込み、そして同時に衝撃を彼女に与えたのであった。
「聖龍隊の一番の強み、それは仲間を思いやる優しい心と仲間と共に未来(まえ)へと進み続ける力強い意志です……!」
衝撃を感じた結は目を丸くして驚嘆するのであった。
人と云うのは、決して一人では生きていく事はできない。
無論、一人だけでは出せる筈の実力や勇気すら発揮する事も難しい。
自分を頼り、自分を信頼してくれる人が一人居てくれるだけでも、人と云うのは自然と勇気が湧き出てくる。
そして己自身も、自分を頼ってくれるその人の為に奮闘し続けようと思い浮かべる事ができる。
そんな心情をイサミは力強い言動で春日結に伝えたのだった。
[不思議な世界で]
この日、イサミ達三人は練習仕合で魔法騎士(マジックナイト)の三人、獅堂光(しどうひかる)龍咲海(りゅうざきうみ)鳳凰寺風(ほうおうじふう)の三人と仕合っていた。
イサミ達はお得意の剣戟に球技そして弓で応戦していくが、魔法騎士の三人が繰り出す魔法を用いた技の数々に押されていき苦戦を強いられていた。
そして仕合が終わり、双方共に一息入れ始めた。
「はぁ……いやぁ危なかったな、さっきのトシ君の攻撃は」
「たくっ、光ったら……油断しているからそうなるのよ」
「ふふ、それにしてもイサミさん達も良く頑張りましたわ」
先ほどの仕合で危うくトシの放った龍の目に直撃しそうになったが済んでの所でそれを回避、そんな光に注意をする海に、イサミ達三人の戦いぶりを微笑みながら称賛する風。
「ふぅ……光さん達の技って、セーラー戦士やさくらちゃんのとは一味違った技よね……」
「あ、ああ……後もう少しで光さんに俺の龍の目を当てれそうだったのにぃ……」
「仕方ないさトシ、光さんに当りそうだった龍の目を、咄嗟に海さんが自分の繰り出した技で弾き返しちゃったんだもの。何より向こうは魔法が使える時点で僕等より実力が上なのは当然だろう?」
一方のイサミ達も、付き合いが長いセーラー戦士達やさくらのカードとは違った魔法を繰り出す光達の戦い方に目を奪われ、そして光に直撃しそうな龍の目を瞬時に自身の技で弾き返した海の技量に称賛の言葉を述べた。
そして一時、双方共に休憩を取った後、イサミは魔法騎士の三人からも話を聞き取った。
かつて魔法騎士が異世界セフィーロで経験してきた数々の激闘、そして苦悶な現状に立ちはだかった時の心の格闘。
それら全てを、イサミは事細かくノートに書き記して行った。
「……そうだったんですね。セフィーロって世界で光さん達は色々と辛い事が遭ったんですね……」
光達からセフィーロでの出来事を聞いたイサミは凄く心を痛めた。そんなイサミに風が優しく告げる。
「イサミさん、そんなに悲しまなくても大丈夫ですわよ」
風に続き、悲痛な表情を浮かべるイサミに海が声を掛ける。
「そうよイサミちゃん。もうセフィーロでの悲しい戦いは終わったんだから、そんな顔しないで」
そして最後に光が微笑みながら元気良くイサミに言う。
「そうだよ、イサミちゃんっ。もうセフィーロの柱制度(はしらせいど)は無くなったんだし、そんなに悲しまないでよ。私達はもう大丈夫だからさっ」
「ひ、光さん」
光に元気付けられたイサミは少しばかり顔色を明るくさせて話を続けた。
「そ、それで……光さん達は最初、聖龍隊に加盟してくれって修司さんから言われた時、どんな心境でしたか?」
イサミに質問をぶつけられた光達は揃って答え始めた。
「まあね、やっぱり最初は戸惑っちゃったわよ」
海に続いて風がイサミの質問に答える。
「そうですね。修司さんの計画は、異次元からの脅威と呼ばれる軍勢に聖龍隊が対抗するだけでなく、同時に異次元亜空間ゲートをウッズさんに造らせて色んな世界と自由に交流が持てる様にしていくのが最終目的みたいですの」
そして光も穏やかな顔でイサミに告げる。
「まあ、いつでもセフィーロに行き行きできるし、それに聖龍隊に加われば自由にゲートを使わせてくれるみたいなんだけどね。私達にとってはそれが一番嬉しい事なんだ」
「ふぅ~~ん、修司さんは其処まで計画を具体化していたんですね……」
修司の計画を光達から聞いたイサミは、改めて修司の計画性と行動力そして先見の目による眼力に関心するのであった。
イサミは続けて、光達に質問をぶつけてみた。
「光さん達はセフィーロに行く前から聖龍隊の事を知っていたみたいですが、どんな風に最初は聖龍隊の事を思っていましたか?」
この質問に海が最初に答える。
「どんなって言われても……極々普通に、町の報道やニュースで取り上げられている程度しか聖龍隊の事は知らなかったわ」
海に続いて風も微笑みながら答える。
「そうですわね、私(わたくし)も海さんとおんなじですわ。聖龍使いも一般の報道で伝えられたように、言動などの素振りで年配の男性かとばかり思っていましたし」
最後に光も笑顔でイサミに答えた。
「そうだね、聖龍使いってどう聞いてもお爺ちゃんみたいな喋り方だし、てっきり白髪が一杯のお爺さんかとばっかり思っちゃったよ」
「は、はぁ……た、確かに……聖龍使いの口調って、古風な年配者の喋り方みたいですしね……」
光の台詞に唖然としてしまうイサミであった。
その時、海が突然言い出した。
「それにしても……異世界ならまだしも、まさかコッチの世界でも魔法って存在していたのが驚きよね」
海に続き、風も神妙な面持ちで言った。
「そうですわね……セフィーロの様な異世界ならまだしも、こちらにも同じような魔法が使える人達が居たなんて驚きですわ」
そして光も笑顔で話した。
「確かにね。聖龍隊には実際、魔法だけでなく超能力や格闘術、それにコレクターズの子達みたいに科学力で戦う子やイサミちゃん達の様に不思議な道具で戦う子が居るんだから凄いよね」
「そ、それほどでもありませんよ、はは」
イサミは多少照れながらも、苦笑いを浮かべながら光に言い返す。
すると風が突然、微笑な面立ちで言った。
「そう思うと……セフィーロだけでなく、私達の世界そのものが不思議な世界かもしれませんね」
風の発言に光たちも、イサミ達も驚き動揺しつつ言葉を発した。
「確かに……風の言う通り。セフィーロだけでなく此方の世界にまで魔法が有るなんてね……!」
「う、うん……! 魔法が使えるのはセフィーロの人達だけじゃ無かったんだね……!」
海、光の両名が驚きに満ちた表情で語ると、続いてイサミ達も愕然としながら話し出した。
「そ、そう言えばそうですよね……。私達もてっきり、魔法ってさくらちゃんやナースエンジェル、それにセーラー戦士達やアッコさんだけが使えるんだとばかり思っていました……」
「ぼ、僕もイサミちゃんと同じ……。魔法って、てっきり御伽話とかの中だけの話だと思っていたけど、実際に魔法を使える人達が聖龍隊には居るんだものね」
「そ、それによ……魔法と言っても、みんなそれぞれ違っているしな……。さくらのはカードを使った多種多様な魔法だし、ナースエンジェルは回復系の魔法中心だし、セーラームーン達はそれぞれ炎や水それに電撃や光とか色々と使える技も一人一人違っている……。あ、あのアッコさんだって、ミラーガールに変身できるように成る前から、人とか動物とか更には無機物にまで変身する事が出来ていたって言うし……何だか魔法と言ってもみんな全然違うよな……」
その場の皆が唖然としているその時、光が満面の笑顔で皆に言った。
「――まぁ、それだけこの世界もセフィーロも素敵な世界だって事じゃ無い?」
「え?」「ひ、光?」
突然の光の言葉に驚く風と海、そしてイサミ達しんせん組。
そんな五人に光は平然と笑顔で語った。
「私達のこの世界には不思議な力で沢山の人の幸せを護っていきたいって願っている人達が居る。そしてそれはセフィーロでも同じ、多くの人達が希望を夢見て前を向いて生きている。私達の世界もセフィーロの様な不思議な異世界も結局のところは全くおんなじ世界みたいなもんだよ」
光の話に言葉を失くし、黙って光の話を聞き入れるイサミ達。
最後に光は目の前の五人に笑顔で明るく告げた。
「海ちゃん風ちゃんっ、それにイサミちゃんにトシ君ソウシ君――私達がこうして同じ所に、聖龍隊に居られるのは偶然じゃ無い筈だよ。不思議な能力(ちから)を持った人達が集まって一緒に行動していくのは、それこそ不思議な能力(ちから)で不思議な世界を護って行く為の必然的な運命なんだよ。だからみんな、精一杯頑張って互いに協力しながらこの世界を護って行こう、ねっ」
交じりっ気無しの明るい笑顔で言われ、海に風そしてイサミ達は光と同じ笑顔で返事をした。
「ふぅ、何だか笑顔の光に言われると変に納得しちゃうわね」
「ふふ、そうですわね。光さんの自信溢れる笑顔はもちろん彼女の言っている通り、私達の世界もセフィーロ同様不思議な世界には変わりありませんものね」
光の台詞に対し、安堵の頬笑みで光の話に感銘を受ける海と風。
「成るほど、光さんの言う通りだ。確かに異世界と同じでこの世界にも魔法は存在していた。故にどちらも等しく同じ不思議な世界には変わりありませんね」
「へへ、確かにな。魔法だけでなく怪人やオバケ、悪の組織に変身ヒロイン、そして漫画の様なヒーローチームに……俺達の周りって、ホントに面白い事だらけだぜ」
「うん、私も光さんと同じ。魔法だけでなく超能力や不思議な人達、そして世界中の人達を護る為にも聖龍隊(ここ)に集まったみんなで協力し合いながら戦いましょう」
ソウシ/トシ/イサミ達も光の意見に賛同し、そして海と風同様に光の話に感動した。
そしてイサミ等はそれからも楽しく話をしながら光達と親睦を深めていった。
互いに協力しながら、互いに護り合いながら、互いに大切な仲間を想いやりながら。
共に魔法や超能力が存在する不思議な世界を護り抜こうと、心に決めるのだった。
[勝たなければ意味が無い]
イサミはその後、新メンバーの一人であるちせの所に出向き、彼女と色々と話をした。
ちせから彼女の経緯を聞いたイサミは心痛極まった。
生まれ付き身体の弱い彼女は病院に入退院を繰り返す日々を過ごしていたのだが、そんな日々の中でも時おり恋人のシュウジが病院に足を運ばせてくれていたので、ちせは入院生活も大して辛くは無かった。
しかし自衛隊によって人体改造の適合者として目を付けられ身体を改造され戦場に駆り出される事と成ってしまった。
そして戦場で制御できない能力(ちから)によって敵味方問わず傷付け殺してしまった日々。
そんな辛い戦場での日々の中、戦場で偶然にも恋人のシュウジと再会した事により、シュウジ共々逃避行を続けていたらバーンズとさくらの二人組に見つかってしまい聖龍隊に連行されたとの事。
そんな経緯をちせの口から聞き取ったイサミは悲痛な心境の中ペンを走らせノートに記録を綴って行った。
「……………………」
ちせから一通り彼女の経緯を聞き、そして多少の会話をしたイサミはちせの事を思い更けながら、無言で下を俯きながら施設内の廊下を歩いていた。
ちせの過去が余りにも暗くシビアなものであった事が、イサミの心を深く動揺させていたのだ。
と、その時。悲痛な心境に浸り歩いていたイサミの前から、トシとソウシが歩いて来てイサミに声を掛けた。
「おっ、イサミ。どうだ調子は?」
「と、トシ……」
「イサミちゃん、どうしたんだい? 何だか顔が暗いよ」
「そ、ソウシ…………実は……」
イサミは二人に話した。兵器に改造されたちせの経緯を、そして彼女の心の苦境を。トシとソウシはイサミの話を聞き、悲愴な心情に駆られた。
「そ、そんな……」
「あ、あの人に……ちせって女の人には、そんな事が遭ったのかよ……」
ちせの事情を知って愕然と衝撃を受けるソウシとトシ。そんな二人にイサミが沈痛な面持ちで言った。
「ね、ねぇ……トシ、ソウシ……」
「「…………」」
二人はイサミに悲しげな顔を向けて、イサミの話に耳を傾ける。
「私ね、耳にしたんだけど……ちせさんを聖龍隊に加えさせたのは、何も無理やり戦わせる為じゃ無いんだって。……聖龍隊のみんなで異次元からの脅威と戦ってそれで撃破した後、国際的にも認可された組織として聖龍隊を成長させて権限を得ようと修司さんは考えているみたいなの。権限が有れば、ちせさんの様な能力者はもちろん、私たち聖龍隊の生活権も保守できる様にしていけるって考えなのよ」
トシとソウシに語るイサミは、更に続けて語った。
「二人も、前に修司さんから聞いた事は有るだろうけど――聖龍隊は特別な能力者や存在を世間から護る為にも設立したって。不思議な能力を使えるって事は、同時に周りの人達から異形の者として見られて危険視されてしまう……だからこそ修司さんはしっかりとした権限を持てるまで聖龍隊を組織化しているのよ。そして、あのちせさんも自衛隊や他の権力から護る為にも……――」
「「………………」」
イサミの心痛に染まりながらも必死な釈明を聞き、トシとソウシは無言ではあったが険しい顔付きで耳を傾けていた。
と、イサミとトシソウシの三人が話しているその時。
突然イサミが手に持っている、聖龍隊の皆の記録を書き綴ったノートが強引に何者かに取られてしまった。
「あッ、ちょっと……!」
ノートを取られイサミが振り向くと、其処には二人の軍人が立っていた。
そしてその内の一人が険しい顔付きでイサミのノートの中身に目を通していた。
「あ……あなた達は……」
イサミが動揺しながらも訊ねると、ノートと睨み合っていた軍人の傍らに立っていたもう一人の軍人がイサミに怒鳴り付けた。
「其処の子娘ッ、この御方は自衛隊特別任務部隊統括司令長官のミナモト長官であらせるぞ、言葉を慎めッ!」
男の横暴な発言に少しばかりムッとするイサミ達。
そんなイサミのノートを、ミナモトはしばし読み更けていた。
「……フッ」
そしてミナモトは鼻で小さく嘲笑すると、いきなりイサミのノートを背表紙から真っ二つに引き裂いた。
「あッ!」「お、おっさんテメェ……!」「ああ……!」
突然ノートを引き裂いたミナモトの行動に驚愕するソウシとトシ、そして自分が必死になって書き綴っていたノートを無残に引き裂かれてしまい悲痛な衝撃を受けるイサミ。
一方のミナモトは引き裂いたノートを自分の足元に落とした。
「あ……」
イサミはすぐに引き裂かれた自身のノートを拾おうと駆け寄り手を伸ばしたのだが
「……ッ」「イ゛……ッ」
ノートに手を伸ばした瞬間、ミナモトが口元を歪ませてイサミの手を踏み付けた。
「い、イサミちゃんッ」「な、何すんだよ、お前ッ」
手を踏み付けられ痛がるイサミを見て声を荒げるソウシとトシ。
するとイサミの手を踏みつけながらミナモトが吐き捨てた。
「おっと、済まん済まん。ゴミを踏みつけようと思ったらいきなりお嬢ちゃんの手が伸びて来てしまったから踏んでしまったよ」
ミナモトのこの言葉に、イサミは手を踏まれながらもすかさず言い返した。
「ご、ゴミって……」
ミナモトは冷たい視線でイサミを見下す様に見詰めながら呟いた。
「もちろん、私が真っ二つにした意味も無い調書の事だよ」
この発言にイサミはカッとなり、ミナモトに踏み付けられていた手を力ずくで抜き、ミナモトを睨みつけながら反論した。
「ご、ゴミだなんて! 聖龍隊の、みんなの事を記した記録の何処がゴミだって言うんですか!?」
イサミのこの発言に対してミナモトは彼女の言動を嘲笑うかのような、ふてぶてしい嘲笑を満面に表情に浮かべて吐き捨てる。
「ふっふ、お嬢ちゃん。聖龍隊の様な得体の知れないバケモノ共の事を記録に遺したって意味が無い。ちせの様に危険な存在を匿い、更には彼女と同様の危険極まりない連中で構成された組織など誰も認めやしない。記録に遺したって、あんな奴等の存在など簡単に揉み消されるのがオチだろう」
「!! ……」
ミナモトの台詞に怒りが募り始めるイサミ。更にミナモトは嘲笑を浮かべながらイサミ等に吐き捨てるのだった。
「どんなに記録に遺そうと、それを上回る権限を持った存在によって記録など簡単に塗り潰されるだけだ。聖龍隊の様な異形の連中など、歴史に遺したって何の得も意味も無い。戦いが済めば済めばで、組織を解体するなりメンバーを監視体制の中見張るなりしなければ日本と言う国そのものが危険な目で世界から見られてしまう」
そしてミナモトは再度、自分が引き裂いたイサミのノートを踏み躙ると、最後にイサミ達にこう吐き捨てた。
「良いか、どんな能力を持っていようと全ては結果なのだ。戦果を挙げなければ聖龍隊(ここ)の連中など邪魔者以外の何者でも無い。まっ、お嬢ちゃん達もただ生かされているだけの無能な国民で終わらない様に精進する事だな。そして聖龍隊の様な危険な連中と一緒に、身を犠牲にしてでも良いから異次元からの脅威と討ち果て給え」
ミナモトは三人にそう述べると、有無も言わず一緒に居たもう一人の軍人共々その場を立ち去った。
二人がその場を立ち去ってすぐ、イサミはミナモトに引き裂かれた上に踏み躙られたノートを手に取り、目を滲ませながら重い口を開いた。
「……聖龍隊は……みんなは……聖龍隊(ここ)のみんなは邪魔者なんかじゃないのに……!」
イサミはミナモトに吐き捨てられた数々の言葉に、苦渋の悔しさで胸中を一杯にしていた。
そんな涙目で引き裂かれたノートを抱え込み座り込むイサミに、ソウシが声を掛けた。
「い……イサミちゃん……」
しかしイサミはソウシに振り向く事無く、ただただ落ち込むばかりであった。
そんなイサミに、ソウシは意を決して力強く声を掛け、更に言い放った。
「い……イサミちゃん! 悔しがってばかりじゃいけないよ」
「そ、ソウシ……」
ソウシの力強い掛け声に、イサミはようやくソウシの方に目を向けた。彼女の目からは薄らと涙が溜まっているのがソウシとトシから確認できた。
「僕だって……僕だってあんな事言われて悔しいよ! 聖龍隊は今の今まで、多くの人達を救ってきた功績が有るのに、それを全て否定されたんだから……!」
「…………」
ソウシの力強い発言に、涙目で悲痛な面持ちのイサミは驚き思わず無言に成ってしまう。
そんなイサミにソウシは力強い顔付きで更に話し続けた。
「だけど……だけど本当に悔しいんだったら、聖龍隊を僕等の力で少しでも良いから世間に認められる様にして行かなくっちゃ! 確かにあのミナモトって軍人の言葉には僕も不快に思うよ。だけどあの人の言っている事で一つだけ正論が有る。それは結局、全ては結果だけが物を言う事実だ。聖龍隊が邪魔者でも無ければ、同時に危険な集団で無いと世間に証明する為には、僕達しんせん組の団結力に加えて聖龍隊のみんなが一団と成って一緒に戦いを勝ち抜き、そして国連から認められなきゃいけないんだ!」
「ソウシ……」「…………」
ソウシの力強い発言力に、イサミもソウシの傍らで話を聞いているトシも感極まっていた。
最後にソウシはイサミに向かって告げた。
「イサミちゃん、君が遺して行きたい聖龍隊の記録を無駄にしない為にも、聖龍隊が本当に人々から必要とされている組織だって事を世間に認めさせようよ! その為にも異次元からの脅威との戦いに挑み、そして生きて勝ってみせようじゃないかッ。戦いに勝って聖龍隊の真価そのものを世間に認めさせ、更に記録にだって遺しちゃおうじゃないか」
そうイサミに言うと、ソウシは座り込んでいるイサミに手を差し伸べた。
「ソウシ…………」
イサミは顔付きを険しくさせ、更には自身の目に溜まっている涙を腕で拭うと、すかさずソウシの手を取った。
イサミの手を握ったソウシは、そのままイサミの手を引っ張り彼女を立ち上がらせた。
そしてソウシに立ち上がらせて貰ったイサミは険しいながらも明るい笑顔でソウシに言った。
「うん、解ったわソウシ。私頑張る。絶対に聖龍隊が必要である組織だって事を周りの大人達に認めさせてみせるわ! その為にもソウシ、そしてトシ、今まで通り力を貸して」
イサミの発言にソウシとトシは笑顔で明るく答えた。
「ああ、もちろんだよイサミちゃん」
「上等だぜ、あんな胸くそ悪いオッサン共の好きにさせてられっか。俺達の実力、世界中に認めさせようぜ!」
三人はお互い、右手の甲を差し伸べソウシ/トシ/イサミの順で手を重ねて、互いの健闘と自分達の決意を此処に誓った。
歴史とは無情な物である。勝者にしかその権限を与えらず、敗者には歴史はもちろん言葉すら述べる権限も無い。
ただ、勝たなければ周りの者達から認められない現実だけが存在する。
故に、少女と少年たちは決意する。
自分達と共に歩んできた聖龍隊が。
決して危険な存在では無く、人々から愛される真の英雄集団であると世界に認可させる為にも、これから起きるであろう激戦に勝ち抜き、更には聖龍隊の真実を後世に遺して行く為にも絶対に生き残ってみせようと。
幕末の英雄の意志を受け継ぐ子供達は固く決心するのであった。