2084年 作:キージェンエグゼ
時刻はそろそろ17時に差しかかる頃だった。歴史修正局の局員たちは、来るべき<二分間同調>に備え、ホール中央のミンムーを囲むように机や椅子を片付けていく。床の金属板が軋み、わずかに埃が舞う。<二分間同調>のためだけに設計されたこの広大なホールには、すでに列が形成されていた。スミダはその列の端に立つ。顔見知りの者も多い。だが、その中に、見覚えはあるが話したことのない者が二人いた。
ひとりは、造営局の整備士らしき若い女だ。名は知らない。だが、その女が油まみれのスパナを手にしているのを、廊下で何度か目にしたことがある。文学製造機の保守を担当しているのだろう。アジア系にしては目鼻立ちがくっきりとしており、27歳前後だろうか。艶やかな黒髪に、頬のそばかすが映える。どこかアスリートを思わせる機敏な動作。腰に巻かれた<性秩序維持連盟>の青いサッシュは、女の張りのある臀部の輪郭をいやでも目立たせていた。
スミダは最初にこの女を見た瞬間から、理由もなく嫌悪感を抱いていた。その理由は、自分でもはっきりと分かっている。女が発している、あの耐えがたいまでの「潔癖さ」のせいだ。スミダは基本的に女という存在が好きではなかったが、中でも若く愛らしい女たちを強く忌み嫌っていた。無垢さを盾に忠誠を競い合い、スローガンを暗唱して悦に入り、反正統派を嗅ぎまわるのは、決まって彼女たちだった。正義を演じることでしか自己を保てないようなその姿は、スミダにとって吐き気を催すものだった。
この整備士の女も、その手合いに違いない。しかし、彼女には他の女たちとは異なる何かがあった。彼女と廊下ですれ違ったあの時——その黒い目が、スミダを射抜いた瞬間——背筋に氷柱を流し込まれたような恐怖を覚えた。あの目には、言葉を超えた敵意が宿っていた。彼女が忠誠監察局の回し者ではないかという疑念が、ふとスミダの脳裏をかすめた。荒唐無稽に思えるその疑念が、なぜか払拭できない。いや、それは恐怖に過ぎなかった。感情が先にあり、理由があとからついてきたのだ。
もう一人は、ユウ・セイレン。<党内核心>の制服である黒の軍装に身を包んだその男が近づくと、周囲の空気は凍りついたように静まる。スミダはその名を知っていた。知らぬ者はいない。彼は新世界同盟の絶対的権力を支える少数精鋭のひとりであり、一般人の想像が及ばぬ任務に従事する「天上人」である。
ユウ・セイレンは異様な魅力を持っていた。顔立ちには下卑た笑みと肉食獣のような肉体の威圧感がありながら、物腰には妙な品があった。眼鏡を鼻の上で整える癖があり、その仕草には、まるで18世紀の貴族が嗅ぎタバコを差し出すかのような優雅さが漂っていた。その滑らかな動きに、なぜか警戒心が和らぐのだ。
スミダは、過去数年のあいだにユウ・セイレンの姿を何度か見かけていた。そのたびに感じるのは、彼が完全な正統派ではないという直感——あるいは願望——だった。彼の目には、「私は違う」と語る何かがあった。もしかするとそれは反正統派の兆候ではなく、知性、あるいは孤独のにおいかもしれなかった。いずれにせよ、彼と一対一で言葉を交わせたなら何かが変わるような気がした。だが、それは叶わぬ夢であり、スミダが本当に求めていたかも怪しい。自らそれを確かめようとは、今まで一度も思わなかったのだ。
ユウ・セイレンが腕時計にちらりと視線を落とす。それを見てスミダは、まもなく<二分間同調>が始まることを悟った。