推しの子を目指して   作:滑空ペンギン

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第13話 独占欲

 

 

 

次の日、今日は土曜日だが蘆原学園は土曜も午前中は授業があるため、ヒカルは教室に向かい机でアイ達と話していた。いつものように他愛もない会話を交わしていると、珍しい人物がこちらに向かってくるのが見えた。

普段は自分の机で寝たふりをしているか彩音さんと小声で話している大地くんが、少し緊張した面持ちでやってきたのだ。アイは身内以外の人間には興味が無いようで、大地くんの接近に気づいていないようだった。

 

「ヒカル…忠一に聞いたんだが、今日ダンジョンに連れて行ってくれるって……その、よろしくお願いします」

 

そう言って大地くんは深々と頭を下げてきた。

大地くんは毛量の多いサラサラの黒髪をした男子生徒で、どこか中性的な可愛らしさを持っている。何故か出席番号が1番になっているのも特徴的だった。他の生徒は皆五十音順に並んでいるというのに、彼だけが例外なのだ。

 

「その、オレあんまり運動は得意じゃないけど」大地くんは俯きがちに続けた。「彩音の事を守りたいから、その、早く強くなりたいから……俺にできることはやるから」

 

彼の声には切実さが込められていた。この学園ではレベル、つまり戦闘能力が全てを決める。強い者はあからさまに優遇され、弱い者は強い者に逆らえない。そんな力の論理が支配する学園で、大地は自分の非力さを痛感していた。

 

「こっちこそよろしく。今日は他にも何人か一緒に行くから、あんまり硬くならないでね」

 

ヒカルがそう答えると、彼の表情が少しだけ和らいだ。

 

そんな風に話していると、弾む様に彩音さんもやってきた。冬子の話では、彼女は転校前にモデルをやっていた様で所属事務所に勧められてこの学園に来てしまったらしい。モデルをやっていただけあり、漆黒の髪を背中まで流し、179センチの長身に豊かな胸元を持つ、日本人離れした抜群のスタイル。歩くたびに髪が優雅に揺れ、この学園では常に危険な視線を集めていた。

 

なおこの学園は身長の高い女性が多い傾向にあり、この体になり身長が随分と低くなったヒカルにとって、彼女のような長身の女性と正面で向き合うと視線の置き場所に困ってしまう様になってしまった。

 

「フユ~ありがとね、今日誘ってくれて。ヒカルくんもよろしく♪」

 

彩音さんの声は明るく、天真爛漫な性格がよく表れていた。彼女は社交的で少し天然気味、そして驚くほどよく食べることで知られている。学食では男子顔負けの量を平らげるのに、そのスタイルは微塵も崩れない。

 

「おはよう彩音さん、今日はよろしく」

 

ヒカルがそう挨拶を返すと、彩音さんは人懐っこい笑顔を見せた。

大地くんと彩音さんは中学からの幼馴染で、傍から見れば殆ど恋人同士と言っても過言ではない関係だった。彩音さんの明るく天然な性格と、大地くんの控えめで真面目な性格は絶妙に補い合っている。

 

しかし、この蘆原学園においては、そんな純粋な関係もこの学園の倫理感の前では脆いものとなりうる。

 

レベルが全てを決するこの学園で、大地くんの非力さは彩音さんを危険にさらす。既に、男子たちは彩音さんに不埒な視線を向けているし今のところ教室の男子は担任のクレハ先生にハマって居る為直接的な被害は無いが、それもいつまで続くかは不明だった。

 

だからこそ大地は焦っていた。一刻も早く強くなって、愛する彩音を守れる男になりたい。その一心で、普段は接点のない忠一に頭を下げてレベリングを頼んだのだった。

 

「大地くん、そんなに緊張しなくても大丈夫だって。ヒカルくんに任せればちゃんと強くなれるから」

 

いまいち硬さのとれない大地に涼香がフォローを入れる。

 

「そうだよ、カッちゃんフユも気合があれば大丈夫だって言ってたし」

 

彩音さんが大地くんの肩に手を置いて、安心させるように微笑む。カッちゃんとは大地くんを表すあだ名の様だしかし、その仕草一つ取っても絵になるのは、元モデルという経歴ゆえだろうか。

 

「ありがとう、彩音……」

 

大地くんの頬がほんのり赤らんだ。二人の間に流れる空気は、確かに恋人同士のそれだった。

 

そんな風になんだか青春してるなと和んでいたら、予鈴が鳴ったので各自の机に戻っていくしばらくすると担任のクレハ先生が入室してきて朝のHRが始まる。

 

「皆おはよう、今日も男子たちは殆どいないな……まあいい。伝達事項がある。ダンジョンに関することだ、よく聞いておけ。

昨日、第八階層でオークキングの目撃情報があったため。確認調査が実施され、複数のパーティーが派遣されていた。

そのうち一組がターゲットと遭遇。手に負えないと判断した伝令が脱出(エクソダス)で離脱したが…その後、予想外の事態が発生した。

突然現れた彷徨う脅威(ワンダリングモンスター)が、オークキングを一瞬で捕食。目撃証言によれば、巨大な青白い眼を二つ持ち、金属が擦れるような音を立てながら高速移動していたらしい。調査パーティーは無視されたため無事だったが、同様の目撃情報が第八階層で複数報告されている。

そのため学園は新しいレイドクエストの発布を決定した。

あなたたちはまだ第八階層には到達していないでしょうが…ダンジョンは何が起きるか分からない。頭に入れておくこと。伝達事項は以上よ。」

 

どうやら八階層で彷徨う脅威(ワンダリングモンスター)が出現したらしい、昨日出会わなくて助かった出会っていたらどうなっていたことやら。

 

 

 

 

一年(かのと)組教室

 

昨日はダンジョンの瘴気酔いと寝不足で授業を休んだ由良と楓が教室にやってくると、仲の良いグループの女子が直ぐにやってくる。

 

「二人とも昨日は来なかったから心配してたんだよ、大丈夫だった?ん?」

 

近寄ってきた女子生徒たちは直ぐに二人が着けている見慣れないエンブレムバッジが目に入る。

 

「えっ……ふっ二人ともそのバッジって……」

 

そんな女子たちの動揺の混じった言葉に、楓がきょとんとした表情を浮かべる。まるで今気が付いたかのように

 

「あ、これ?」と胸元のバッジに視線を落とし、次の瞬間ぱあっと花が咲いたような笑顔になった。

 

「いいでしょ~、昨日もらったんだ♪」

 

楓は両手を後ろに組んで少し体を前に傾け、まるでお気に入りの洋服を褒められた子供のように嬉しそうに胸を張る。バッジが教室の蛍光灯を受けてきらりと光った。

その隣では由良が、頬をほんのり桜色に染めながら人差し指でバッジの縁をそっと撫でている。唇の端がくいっと上がって、抑えきれない嬉しさがにじみ出ていた。時々楓の方をちらりと見ては、二人だけの秘密を共有しているような幸せそうな表情を浮かべる。

 

「ね、お揃いなんだよ」

 

由良の声は普段よりも少し高く、弾んでいる。バッジを指でちょんちょんと触りながら、まるで宝物を自慢する子供のような無邪気さを見せていた。

 

無職(ノービス)の女子が成り経てとは言え第三次職(サードクラス)にさらに他にも複数のクラスを持つヒカルに抱かれる。

それもこの学園ではとても望めない程、優しくリードされながら二晩も抱かれたのだ初夜で完全に隷属し二夜目には更に深く隷属し完全にヒカルに落ちてしまっている。

 

そのため一昨日までの二人とは明らかに違う雰囲気——ティーンエイジャー特有の若々しさの内に隠しきれない艶を醸す二人に、教室の女子たちは動揺を隠せないでいた。

楓と由良を包む空気は、恋に落ちた少女特有の甘やかな輝きと色を知った艶めかしさに満ちており、それは教室の隅々まで静かに波紋を広げていく。

女子たちの騒めきが一つ、また一つと連鎖し、やがて教室全体を包み込んだ。

 

その異変に気づいた男子たちの視線も、次第に二人へと向けられていく。女子以上にパートナーバッチに気が付いた男子たちの動揺は露骨で、この時期にパートナーを得ている者など稀有な存在だ。

 

中でも、これまで二人にアプローチを仕掛けていた数名の男子は、まさに鼻先で扉を閉められたような屈辱感に苛まれ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

そんな教室の空気の変化の中で、女子の一人がついに意を決して口を開く。

 

「それって……パートナーバッジだよね」。

 

その問いかけに、楓の頬がぱっと朱に染まった。でも持ち前の明るさで、にっこりと笑顔を浮かべる。

 

「うん!そうだよ~」

 

楓の声は弾んでいた。いつものように手をひらひらと振りながら、友達たちに向き直る。彼のことを話したい衝動が胸の奥底から湧き上がってくる。昨夜の温かな手の感触、優しいキス、繋がる充実感、二人だけの特別な時間——全てを友達に聞いてもらいたくて仕方がない。

 

けれど同時に、頭の片隅で冷静な声がささやいた。もしも彼のことを詳しく話してしまったら、この中の誰もが彼に興味を持つだろう。彼の強さと魅力を知ってしまったら——。

 

「でも、まあ……彼の事はまだ、秘密かな♪ね~由良」

 

楓はいたずらっぽく舌を出して、普段通りの明るい調子で言葉を濁す。内心では複雑な感情が渦巻いているのに、表面的にはいつもの社交的な楓のまま。友達たちの好奇心に満ちた視線を受けながらも、彼女は上手に話題をそらそうとする。

 

「そうそう、まだ……ね」

 

由良が小さく頷きながら、楓の気持ちを汲み取るように優しく相槌を打つ。楓の明るく煙に巻こうとする対応を見ながら、彼女もまた同じ不安を抱えていることを、その控えめな表情が物語っていた。

 

「えー、教えてよ~!どんな人なの?上級生・同級生?」

 

友達の一人が身を乗り出して尋ねると、楓は両手をぱたぱたと振って笑った。

 

「もう、みんなってば好奇心旺盛なんだから!」

 

クラスの女子たちも内心は必死だ、寮の先輩や教師などからこの学園で生きるにはできるだけ早く少しでもまともな男子を見つけて積極的に媚びを売って行かないと悲惨な事に成ると散々忠告されているからだ。

そんな女子たちの、前に明らかに幸せいっぱいですといった雰囲気を発しながらも相手の男を隠そうとする女子が居るのだ。

そんな皆をを前にしても楓は、話したい気持ちが胸の奥で踊っているのに、それを隠すように明るく振る舞う。彼の素晴らしさを自慢したい気持ちと、それを知られてはいけない気持ちが激しくせめぎ合う中で、彼女はいつもの社交的な笑顔を保ち続けた。

 

「うん、本当に素敵な人だけど……今はまだ内緒♪」

 

由良が静かに頷く。楓の明るい演技を理解しながら、その短い言葉の中に、同じ不安と複雑な心境を込めていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

(みずのえ)組 休み時間

 

 

 

休み時間のチャイムが鳴ると、教室はいつものように慌ただしくなった。

ヒカルは席に座ったまま、次の授業の準備をしていた。まだまだレベルも一年の中ではトップだろうが学園のトップ勢にはまだまだ及ばないため普通はやらない毎日のダンジョンダイブに来週からは女子のレベル上げと忙しい日々が続いている。

 

そんな時、いつものようにアイがヒカルの席にやってきた。しかし今日は少し様子が違う。

 

「ヒカル~」

 

アイは普段よりも甘い声で名前を呼ぶと、後ろからそっとヒカルに抱きついた。柔らかな感触と共に、アイの香りがヒカルを包み込む。

 

「うわっ、アイ?どうしたんだよ急に」

 

「んー、別に~。ただヒカルに会いたかっただけ」

 

アイは頬をヒカルの背中に押し付けながら、少し拗ねたような声で答える。その仕草が妙に可愛らしくて、ヒカルの心臓が少し早鐘を打った。

 

「いやこの所ずっと一緒に居ると思うんだけど」

 

「それは『一緒に居る』じゃないもん。ちゃんとお話しできないし」

 

アイの腕がヒカルの胸元でぎゅっと締まる。まるで離したくないとでも言うように。

 

「最近ヒカル、他の人ばっかり構ってる」

 

「そんなことないよ」

 

「ある~」

 

アイは頬を膨らませながら、ヒカルの正面に回り込んできた。そして何の躊躇もなく、ヒカルの膝の上に抱き着くように座る。

 

「ちょ、アイ!ここ教室だよ!みんな見てるって」

 

確かに教室中の視線が二人に注がれていた。男子たちは羨ましそうな視線をおくり、女子の一部は苦々し気な視線をアイに送る。

 

「いいの。みんなに見せつけてやるんだから」

 

アイはヒカルの首に腕を回しながら、無邪気な笑顔を見せる。その笑顔には少しだけいたずらっぽい光が宿っていた。

 

「見せつけるって何を」

 

「ヒカルは私のものだって」

 

アイの言葉に、ヒカルの顔が真っ赤になった。

 

「もう、そんなこと大きな声で言うなよ」

 

「えー、だって本当のことだもん。ねぇ、ヒカル?」

 

アイは首を傾げながら、上目遣いでヒカルを見つめる。その表情があまりにも可愛らしくて、ヒカルは何も言い返せなくなってしまった。

 

「あのね、ヒカル。最近寂しいの」

 

急にアイの声がしおらしくなった。膝の上で小さくなるアイの姿が、まるで甘えたい子猫のようだった。

 

「寂しい?」

 

「うん。前はもっと私とふーちゃんの三人でお話ししてくれたのに、最近は他の人のお世話ばっかり」

 

アイは小さなため息をつく。その仕草さえも愛らしくて、ヒカルの胸がきゅんとした。

 

「ごめん、気づかなくて」

 

「ううん、ヒカルは優しいから仕方ないの。でもね、たまには私だけを見て欲しいの」

 

アイの指がヒカルの胸元で小さく円を描く。その仕草が妙に色っぽくて、ヒカルは困ってしまった。

 

「今も見てるよ」

 

「本当?」

 

アイの瞳がぱっと輝いた。まるで星が瞬くように美しい瞳だった。

 

「ああ、本当だ」

 

「じゃあ、明日は私達と一緒にいてくれる?三人で」

 

「それは…」

 

「だめ?」

 

アイは少し不安そうな表情を浮かべる。その表情があまりにも切なくて、ヒカルは断ることができなかった。

 

「わかった、明日の日曜日、空けとくよ、でも午前中はレベル上げが有るからそこは譲れない、まだ油断できるような強さじゃ無いからね」

 

「やったぁ!」

 

アイは嬉しそうに小さく飛び跳ねた。膝の上で弾む感触と甘い匂いをダイレクトに感じる。

 

「でも、人がいるところでこんなことするのはやめようよ」

 

「えー、いいじゃん?あれ?…ヒカル~元気になってるよ」

 

アイはくすくすと笑いながら、周りを見回す。確かに他の女子たちが複雑そうな表情でこちらを見ていた。

 

「みんな、私がヒカルの特別だってわかったと思うな」

 

「君は本当に…」

 

ヒカルは苦笑いを浮かべながら、アイの頭を優しく撫でた。アイの髪は絹のように滑らかで、撫でるたびに良い香りがした。

 

「んー、気持ちいい」

 

アイは目を細めて、まるで猫のように喉を鳴らした。その仕草があまりにも可愛らしくて、教室中にざわめきが起こる。

 

「はい、そろそろ授業の準備をしようか」

 

「もうちょっとだけ~」

 

アイは名残惜しそうに言いながらも、素直にヒカルの膝から降りた。でも、完全に離れるのではなくヒカルに寄りかかるようにして、まだヒカルにくっついていた。

 

「アイは甘えん坊だなぁ」

 

「ヒカルにだけだもん」

 

アイの頬がほんのりと桜色に染まった。その恥じらいの表情が、彼女の可愛らしさを一層引き立てていた。

次の授業のチャイムが鳴るまで、二人はそうして寄り添っていた。教室中の注目を浴びながらも、アイは満足そうな笑顔を浮かべていた。きっと今回の目的は十分に果たせたのだろう。

 

でも此方を見る冬子の視線がなんだか生ぬるくてムカついた。

 

 

 

 

 

 

 

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