推しの子を目指して   作:滑空ペンギン

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第17話 ありふれた悪意

 

 

 

 

 

 

昼食の後、工房棟に寄ってカナデ先輩の試作品をいくつか受け取り、試し切りを兼ねて既知外領域4層でレベル上げを行うため、ヒカル達は4人で羅城門に向かった。忠一大地チームは既知外領域3層でレベル上げをするらしく、先にダンジョンへ潜っているはずだ。

 

今日のダイブは、ヒカル、アイ、冬子、由良の4人で行うことになった。カナデと楓の『職人(クラフター)』コンビは昨日入手した素材を加工するのに忙しく、今は工房に籠っている。

 

鳥居を抜け、転移のために円の中心にヒカルが立ち、いつものように転移を行おうとしたとき――ドン、という衝撃を背中から受けた。後ろを確認する間もなく転移が始まり、ヒカル達は消えていった。

 

この時ヒカルに体当たりした生徒は『無職(ノービス)』であったが、認識外からの衝撃であることに加え、体格の差もあり、ヒカルは中心から押し出されて、体当たりをしてきた男子生徒を中心に転移をしてしまった。

 

 

 

第『壱』階層、『既知』領域

 

現在既知領域一層の玄室――普段ヒカル達が活動している既知外領域第三階層のものよりも狭い玄室には、20人ほどの男子生徒がたむろしていた。彼らは壬組の生徒だけでなく、辛組の生徒も多数混じっていた。彼らはレベル上げをするでもなく、ここに連れられてくる獲物を嬲るために暇を潰していた。

 

そして玄室の中心部が揺らぎ始め、6人の男女が現れる。

 

ヒカルに体当たりしてきた生徒は囲んでいる生徒に合流し、中心部にはヒカル達5人が残された。

 

「よう、ヒカル。こんな所で会うなんて奇遇じゃねえか」

 

玄室の入り口を塞ぐように立つ男子達の中から、一人の半端に長い金髪で耳にはピアスを付けた男子生徒が、ニヤニヤと底意地の悪そうな笑みを浮かべて話しかけてきた。

向こうはヒカルの名前を知っているようだが、生憎ヒカルには全く見覚えがなかったので、反応に困っていた。

 

ヒカルの見る限り、玄室内にいる生徒はすべて一年であり、全員で『脱出(エクソダス)』を使う必要性は少ないかなと脅威度を下方修正した。

 

「えっと、どちらさんですか。生憎見覚えがないのですけど」

 

その男子はヒカルの言葉に、黒く細い眉毛を不快そうに歪めた。

 

「ふざけやがって。俺は『(かのと)』組のレオだ、このチビ。ちょっと顔が良いからって調子に乗りやがって、俺がせっかくパートナーにしてやろうかと思ってた女を取りやがって。まあいい、お前は直ぐに忘れるんだから」

 

また別の男子が出てきて喋り始める。

 

「そうそう、チビのくせに調子に乗っちゃって。この学園は強い奴が正義なんだから、雑魚はおとなしくしていればボコられずに済んだのによ」

 

「心配すんな、その女どもは俺らがしっかり面倒見てやるからよ」

 

彼らの物言いに妙な自信を感じたヒカルは、確認の意味を込めて一応聞いてみることにした。

 

「強い奴ってことは、君たちはもうクラスアップしたのかい?」

 

すると金髪は、アホなことを聞くなと言わんばかりの呆れ顔を見せて。

 

「はっ、何を言ってやがる。クラスアップなんざしなくても、お前みたいなチビの坊ちゃんが俺らに勝てるわけねえだろ。常識的に考えろよ、馬鹿かてめぇ」

 

実際、彼らは中途半端に外の感覚が抜けておらず、この学園では体格の差などレベル差の前では毛ほどの意味もないことを理解していないようだ。実際に、囲んでいる男子の中には職を持っているものは一人もない。『無職(ノービス)』が20人ほどの集団では、一番低レベルのなおかつ接近戦が得意でない『術士(マギ)』と『遊び人(ニート)』の由良でも、魔法を使わずSPを節約して肉弾戦で対応すれば撃退できるほど戦闘力に開きがある。

 

そして話は終わりとばかりに、彼らは武器すら抜かずにバラバラに近づいてくる。

ヒカルはニヤニヤしながら完全に油断している金髪に一息で飛び込み、その棒立ちの膝の皿に前蹴りを叩き込み、膝が逆に曲がる音を感じながら、流れるように隣に立っていた壬の男子の足をローキックでへし折る。崩れ落ちる二人を尻目に、『保管庫(ストレージ)』から引き抜いたカットラスで、目の前の光景にフリーズし案山子のように立っている男子生徒の首を飛ばし、玄室の入口付近を確保する。

 

「アイ、冬子、由良、こっちへ」

 

固まっている賊を尻目に、玄室中央にいる3人を退路の確保できた入口に移動させ、入れ替わるようにヒカルは中央に進み『挑発(プロヴォーク)』を発動する。圧倒的な格上の発動したスキルに抗えず、彼らにはもうヒカルのことしか眼中になく、攻撃しようと近づく端から雑に処理されていく。しかしスキルの術中にある彼らは、目の前で仲間の首が飛ぼうが袈裟に裂かれようが、ヒカルに襲いかかることしか頭にない。彼らが全滅するのに1分もかからなかった。後に残るのは足を折られ、ヒカルに襲いかかれなかった二人だけだった。

 

「冬子、アイと由良を連れて少し離れていてくれ」

 

「分かったわ。無理はしないでよ」

 

「大丈夫、少し彼らに聞きたいことがあるだけだから」

 

そう聞くと冬子は、まだ戸惑っている二人を連れて玄室の外に連れ出してくれた。

 

「さて、お前らちょっと聞きたいことがあるから答えてくれるよね」

 

ヒカルはあえて『威圧(コアース)』を発動させ、何もかも垂れ流し怯える彼らに、あえて足音を響かせゆっくりと近づいていった。

 

 

尋問も終わり、二人には外に帰ってもらった外の3人に合流するため玄室を出て三人と目が合うと、すぐにアイと由良が泣きそうな顔で抱きついてきた。二人は緊張が解けたのか本格的に泣き始めた。二人の頭を撫でながら、ヒカルは近づいてきた冬子に、二人から聞き出したことを報告する。

 

「どうやら彼らだけの計画で、別動隊や上級生は関わっていないようだ。今回のことは女子と仲のいい男子を狙った衝動的なもので、僕たちを狙った理由は、小柄な僕の方が大柄な忠一よりリスクが少ないと思ったからららしい。

 

そしてその計画に『(かのと)』組のグループが合流して、この人数になったようだ。それからウチのクラスの不良グループは、僕の予想以上に探索が上手くいっていないようだ。ほとんど死に戻りしてるらしく、まともにレベルを上げられていないようだ」

 

「なるほどね。こんなことする暇があれば、少しでもレベルを上げればいいのに」

 

「正直、今日は一旦出直した方が良いと思う。この二人の今のメンタルでダイブは危険だと思う。そして外に出たら『交換士(オペレーター)』のスキルで皆に警告を飛ばせないか?」

 

「そうね、一旦出ましょうか。外に出たら『接続(コンタクト)』で皆には知らせておくわ。アイ、由良、帰るから『脱出(エクソダス)』を使うわよ」

 

そうして今日のダイブは中止にして、寮に帰ることにした。

 

ダンジョンを出て寮に着く頃には、二人も落ち着きを取り戻したみたいだが、今日は休んでもらうことにした。一緒にいた方が良いのは分かるが、こんなことがあると少しでも早くレベルを上げないと安心できないので、二人のことは冬子に任せて羅城門にとんぼ返りをする。そして既知外領域4層で目につくモンスターを掃討しながらゲートを目指すヒカルであった。

 

 

 

 

 

 

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