推しの子を目指して   作:滑空ペンギン

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第18話 初めての決闘

 

 

 

不良組の襲撃から数日が経ったが、あれ以来絡まれることもなく、あの襲撃は突発的なものだったのかと思い始めていた。

休み時間、女子のレベル上げについての計画を冬子と女子のまとめ役である舞さんと話し合っていた時のことだった。常に展開している『地図帳(アトラス)』に、赤色のマーカーが数本集まって移動しているのが表示されている。赤色のマーカーは先日襲撃してきた不良組に付けたマーカーなのだが、方角的に特別教室棟へ向かっているような気がする。

 

この時間、特別教室棟の地下にある『工作室(ファクトリー)』には、カナデ先輩と楓の『職人(クラフター)』コンビ、そして毎回手伝わされるからと『職人(クラフター)』を取得した由良の三人がいることがマーカーからも分かる。

 

「ごめん舞さん、ちょっと用事ができたから席を外すね。冬子、ちょっと行ってくる」

 

「了解。あんまり無茶しちゃダメよ」

 

そう言ってヒカルは教室を飛び出していった。

特別教室棟の工作室

特別教室棟は作図室や探索学などの特別教室が集まる建物で、その地下には主に『職人(クラフター)』が武器の作成や修理を行うための『工作室(ファクトリー)』がある。

工作室(ファクトリー)』は人工的にダンジョンの第一階層程度の瘴気(みあずま)濃度を保てるように作られている。これは学園のダンジョン研究の成果の一つで、モンスタークリスタルを消費して『瘴気(みあずま)』を発生させ、『魂魄結晶(ソルデバイス)』を失った者でもスキルを使用できるようになっている。

そんな『工作室(ファクトリー)』は誰でも使うことができ、カナデ、楓、由良の三人は合同ダイブの日以外はほぼ毎日入り浸っていた。

 

昨日、皆で4階層の『階層守護者(フロアガーディアン)』を倒し5階層に到達、新たな素材を入手した3人は朝から工房に籠もって作成に励んでいた。利用者のピークは昼休みの時間帯だが、現在『工作室(ファクトリー)』を使用しているのは3人だけだった。

そんな『工作室(ファクトリー)』に似つかわしくない集団が入室してきて、3人に声をかける。

 

「よう、ヘボ『職人(クラフター)』が一丁前にやってるじゃないか。そんなことしても無駄なのによ」

 

その声を聞いたカナデは、声の主を見て顔を青ざめた。入口からやって来たのは、カナデが以前まで所属していたクラブの部長だった。その後ろには部員と、数日前にヒカルに返り討ちにあった『(かのと)』組の男子数名も混じっていた。

「ヒュー先輩、マジでこの女やっちゃっていいんすか?」

「すっげー巨乳」

カナデの体を見て『(かのと)』組の男子のテンションが上がっていく。

「おう、好きにやっちまえ。俺らは隣の一年ちゃん達をいただくからよ」

そう言うと上級生たちは楓と由良をニタニタとした笑みを浮かべながら近づいていく。

「あたし達はもうヒカルくんのパートナーなんだから、訴えたら治安部隊が飛んでくるわよ」

カナデ達は少しでも距離を取ろうと後ずさるが、元々あまり広くない作業ブースの間仕切りによりそれ以上は下がれない。

学園のルールと現実

意外かもしれないが、同意のない行為の強要はこの学園でも禁止されている。また、パートナーのいる女子生徒への接触は、パートナーの男子の許可がない限り禁止されている。

しかし、カナデの元クラブの上級生はこの時期の一年ならどうにでもできると侮っているし、最悪引き連れている一年男子に『学生決闘(メンズーア)』をさせればよいと楽観していた。

そして隷属を上書きされ続けた女子の堕ちやすさも理解していた。

 

「お前みたいな『職人(クラフター)』に騙された一年がかわいそうだろ。それに俺達の目的はお前じゃなく

て、その一年達だよ。せっかく捕まえて楽しんでたのに、死に戻ったら居なくなってて、いつの間にかパートナーまで作ってるんだもんよ。人のモン横取りしといて、その一年の野郎にはしっかりお礼をしなくちゃな」

 

「いやいや、カナデ先輩に楓と由良はもう僕のパートナーですから、ちょっかい掛けるのやめてくれませんかね」

 

突然『工作室(ファクトリー)』にヒカルの声が響く。

想定外の乱入に部長は面倒くさそうな雰囲気を出しながら部下たちに質問する。

 

「おい、お前らカギを閉めとけって言ってただろうが」

 

「えっと、確かに閉めたハズなんですけど」

 

入口の鍵は確かにしまっていた。最初は原作の斗馬のようにぶち破ろうかとも考えたが、『保管庫(ストレージボックス)』に扉を回収し、中に入って元の位置に戻すという、ポイントで器用さを上げているヒカルだからこそできたことであった。

 

「ヒカルくん!」

 

ヒカルの登場で三人が男子たちの間を抜けてヒカルに飛び込んでくる。それを抱きとめて男子達を睨みながら話し出す。

 

「もう一度言いますけど、彼女たちは僕のパートナーですから、ちょっかいかけるのやめてくださいね」

 

そう言うと男子達の中から、先日ダンジョン内で話をした金髪ピアス君が出てくる。しかし、この年代のファッションはダサすぎないか?みんな髪を染めて外ハネロン毛にピアスも似合って無いのにパンツが見えるほどベルトの位置を下げた腰パンって、ダサすぎる。

ヒカルがそんな時代のギャップを感じていると、金髪ピアスが話し始める。

 

「よう、ヒカル。会いたかったぜ。よくも俺の女を獲ってくれたな」

 

何が面白いのかニヤニヤとヒカルに話しかけてくる。

 

「いや、お前の女じゃねえでしょ。彼女たちは僕のパートナーだよ。そんなことも分からないの」

 

「言ってくれるじゃねえか。おい、この学園には学生同士の揉め事は決闘で決着をつけるって知ってるか」

 

「ああ、知ってるが?まさか『学生決闘(メンズーア)』で決めようっていうのかい」

 

「そうさ。まさか逃げないよなあ」

 

なぜか勝ち誇ったような雰囲気で話を進めていく金髪ピアス。だが『学生決闘(メンズーア)』で決めるのなら手っ取り早く、成立した約束を破るようなら決闘委員会の先輩たちが制裁してくれるだろう。

 

「よし、分かった。それなら『学生決闘(メンズーア)』で決めよう」

 

その言葉を言った瞬間に、決闘委員会の腕章と白い覆面をかぶった人たちが現れ、場を仕切り始めた。決闘場のある場所に移動させられる。

 

決闘用の魔法陣についたヒカル達の周りは、『学生決闘(メンズーア)』をやると聞きつけたギャラリーたちに囲まれている。

決闘場の中心に決闘委員会の人が立ち、宣誓を上げる。

 

「『学生決闘(メンズーア)』とは、在学の徒が等しく保有する自力救済の権利なり。

決闘に於いては、如何なる身分階級と雖も、これに左右されることなし。

決闘の権利は在学の徒が等しく有する権利にして、同時に決闘を辞する権利をも併せ持つものなり。

決闘の法則は、挑戦を受けし者がこれを定め、挑戦者は法則に異議を唱うること能わず、また法則を理由として決闘を辞すれば、即ち敗北と見做さるるものとす」

 

そして決闘委員を通して決闘の内容が決められる。ヒカルはカナデ、楓、由良の三人のパートナー権を賭けて、相手が賭けるものはマジックアイテムの大剣ということになった。

 

「これにて双方賭けるモノは決まった。それでは、受諾者により決闘のレベルを決定すべし!」

 

「レベルは『何でもあり(バーリトゥード)』で」

 

そうヒカルが宣言すると、対戦相手とギャラリーから歓声が上がる。そしてヒカル対上級生8人を含む1人対12人の『学生決闘(メンズーア)』が始まった。

 

ヒカルは左手にドロップ品の一つである全長40センチほどの十手を手にしていた。

最初の対戦相手は金髪にピアスを光らせた男で、手には初心者セットの小剣を握りしめて決闘場に足を踏み入れてきた。

 

「かっこ着けちゃってよ。お前死んだぜ。俺は昨日『戦士(ファイター)』にクラスアップしたんだぜ。どう

だ、凄いだろ……ビビって声も出ないか」

 

そう言い放つと、男は小剣を振り下ろしてきた。しかし、ヒカルにとってそれはあまりにもゆっくりとした動きに映る。振り下ろされる小剣の側面を十手で横に振り抜いた瞬間、想定されていない方向からの衝撃に小剣はガードの直ぐ上辺りからブレードが真っ二つに折れ、金属音と共にその場に落下した。

剣が折れたことに呆然と動きを止めた相手の顎を、ヒカルは右拳を下から振り上げる。骨が粉砕する鈍い音と共に男の身体は数メートルも飛び上がり、重い音を立ててレンガの地面に叩きつけられた。

ギャラリーから歓声が上がり、すぐに決闘委員が駆け寄ってポーションを振りかける。外傷は瞬く間に再生したが、気絶したまま股間を濡らした対戦者は決闘場から無様に引きずり出され、次の挑戦者が送り込まれた。

クラスアップしていると申告してくれた最初の一人以外は、ヒカルは顎ではなく鳩尾を狙うことにした。だが結果は同じだった。一年の最後の一人に至っては、決闘場に入ってくるのを嫌がり、決闘委員に無理やり押し込まれる始末。武器を抜こうともしなくなったので、ヒカルは首を掴んで持ち上げた。相手が振り回した手足がぶつかってくるが、レベル差もあり何も感じない。持ち上げたまま腹部に拳を叩き込み、手を離すと糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

とうとう上級生の出番となった。

 

「一年にしては、なかなかヤルみたいだが、俺は『戦士(ファイター)』系『二次職(セカンド)』の『闘士(ウォーリア)』だぞ。クラスアップはしてるみたいだが、所詮は『一次職(ファースト)』。レベルの違いを思い知れ」

 

そう宣言すると、上級生は勢いよく飛び出し、一直線に長剣を振ってきた。しかし、その速度すら想定以下でしかない。ヒカルは余裕をもって軸をずらし、右手で相手の顎をかち上げる。ポキリと顎の折れる音を感じながら、天を向いた顔面を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。男はバウンドして、うつ伏せに倒れ込む。

審判がすぐに走り込んで勝敗を告げ、ポーションをかけ始める。治療が終われば決闘場から引きずり出され、次の対戦者の入場が促されるのだが、残りの対戦者たちは逃亡を図り、決闘委員に次々と取り押さえられていた。

四次職(フォース)』の決闘委員に抵抗できるはずもなく、決闘場に放り込まれた者たちは片っ端からヒカルに粉砕されていく。もはやただの消化試合と化してしまった決闘は、あっけなく終わりを告げた。

 

 

学生決闘(メンズーア)』が終了し、ギャラリーの興奮も収まってきた。そんな中、決闘の景品として晒し者にされていた三人の少女――カナデ、楓、由良が解放され、一目散にヒカルの元へと駆け寄ってきた。

 

「ヒカルくん!」

 

楓が最初にヒカルの胸に飛び込み、続いて由良とカナデも左右から抱きついてくる。三人の温もりと震えがヒカルに伝わってきた。彼女たちがどれほど恐怖と不安の中にいたかが、その震えから痛いほど伝わってくる。

 

「もう大丈夫だよ」

 

ヒカルは優しく三人の背中に手を回した。その瞬間、緊張の糸が切れたように楓の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「怖かった……本当に怖かった……」

 

楓の嗚咽につられるように、普段は気丈な由良も涙声になっていく。

 

「ヒカルくん、ありがとう……本当にありがとう……」

 

カナデも声を震わせながら、ヒカルの腕にしがみついていた。大きな塊が押しつぶされヒカルの意識が向きそうになるが全力で意識をそらしているが。

抱き着いている三人は、もしヒカルが負けていたらどうなっていたかを考えると、恐怖で身体が震えるのを止められなかった。

しばらくして、決闘委員の先輩が賭けの景品である大剣を持って近づいてきた。

 

「ナイスメンズーア」

 

そう言ってサムズアップを送りながら大剣をヒカルに手渡すと、にやりと笑って人ごみの中に消えていった。

ヒカルは三人に抱き着かれたまま、静かに決闘場を後にした。今日という日を、彼女たちは一生忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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