壬の男子達がなんでこんなに死に戻りするのかの説明回です。
学食の一角で、昨日ヒカル達を襲い返り討ちにあった一年『
「おい、本当にあいつ等がダンジョンに入るときに割り込んだんだろうな」
茶髪の外はねパーマの男子が、昨日ヒカル達の転移に割り込んだ男子に怒鳴りつける。
「本当っすよ直樹さん。確かにあいつを突き飛ばしたところまでは覚えてるんすよ」
「じゃあなんで全員死に戻ってんだよ」
割り込んできた男子生徒が直樹と呼ばれた男子に殴られ、頬をさすりながら返答する。
「えっと……実はヒカルの奴がメッチャンコ強くて、皆やられちまったとか?」
「馬鹿か!そんなことあるわけねえだろ。ちったあ頭で考えやがれボケが!」
「何を騒いどるんや」
その時、彼らに声がかけられた。坊主頭に195センチの長身。制服の上からでも分かる鍛え抜かれた筋肉。そして何より印象的なのは、その口元に浮かぶ人懐っこい笑顔だった。しかし、その体格が与えるはずの威圧感は全くなく、非常に存在感の薄い印象を受ける何ともちぐはぐな男が、トレーを片手にゆっくりと歩いてきた。
彼の存在に気づいた途端、騒がしかった不良たちの声がピタリと止まる。
「あっ、虎太郎さん!いや、昨日ウチのクラスのヒカルをボコってやろうと待ち伏せしてたんですけど、何故か皆死に戻りしちゃいまして……それの事で話してました」
その話を聞くと、虎太郎の笑みが消え、鋭い眼光が直樹を捉えた。
「その話、詳しく聞かせてくれるか」
「はっ、はい!実は……」
直樹が昨日の出来事を詳細に語ると、虎太郎の表情に興味深そうな色が浮かんだ。
「ヒカルか……面白そうだな」
「俺たちはこの後ダンジョンに行きますけど、虎太郎さんも一緒にどうですか?」
「いや、俺はちょっくら用事があるから。今日は後から一人で行くことにするよ」
そう言って虎太郎は素早く食事を済ませると、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべたまま食堂を後にした。
その後、彼は『
光の粒子が彼の身体を包み込み、新たな力が宿っていく。
「ほう、これがクラスアップか……クラスは『
虎太郎は自分の新たな能力を確認しながら、満足そうに呟いた。
「まあいい。あいつ等もダイブしているはずだ。ちょっくら狩りにでも行くか」
そうしてクラスアップを済ませた直樹は、羅城門へ向かって歩き始めた。その足取りは軽やかで、まるで楽しい遊びに向かうかのようだった。しかし、その瞳の奥には、獲物を狙う野獣の光が宿っていた。
ダンジョンにダイブした虎太郎は、薄暗い石造りの通路を一人静かに歩いていた。腰に下げたトマホークが歩くたびに軽やかな音を立てる。順調にモンスターを狩り、経験値を獲得していた時、近くから聞き覚えのある声が聞こえてくるのに気が付いた。
「おい、こっちの方角で合ってるのか?」
「たぶん大丈夫っすよ、直樹さん」
声の方向に向かっていくと、薄暗い通路の向こうから先ほど別れた直樹たち六人が進んでくるのが見える。彼らは警戒しながら慎重に足を進めているが、相手が虎太郎だと気が付くと一斉にほっとした表情を浮かべ、警戒を解いて近づいて来る。
「虎太郎さんお疲れ様です、ダイブしてたんすね」
「おう、用事が終わったからな。お前らの成果はどうだ」
「ぼちぼちっすね。流石にこの人数だとゴブリンでも負けませんよ」
直樹が胸を張って答える。確かに六人もいれば、既知領域の1階層では上級生のパーティーにさえ遭遇しなければ十分な戦力だった。
「虎太郎さんも一緒にどうっすか?」
「そうだな、一緒に行かせてもらおうか」
「よっしゃ、虎太郎さんが一緒なら頼もしいっす!」
虎太郎が合流したパーティーは、より順調にモンスターを倒していく。彼の戦闘力は圧倒的で、トマホークを振るう度にゴブリンたちが次々と倒れていった。六人の不良たちは虎太郎の強さに感嘆の声を上げながら、安心しきった様子でダンジョンを進んでいく。
「虎太郎さんマジで強いっすね!」
「これなら奥まで余裕で行けそうっす」
「ヒカルの野郎なんか目じゃないっすよ」
そして一行は玄室へと辿り着いた。中央にいた数匹のゴブリンも、虎太郎の一撃で呆気なく倒れる。そして『
「やったぜ!これで今日は大収穫だ!」
「虎太郎さんのおかげっすよ!」
その時だった。
シュッ
空気を切り裂く音と共に、虎太郎のトマホークが一人の男子生徒の脳天に深々と突き刺さった。
「え……?」
突然の出来事に何が起こっているのか理解できない彼らの前で、虎太郎は無表情にトマホークを引き抜く。致命傷を受けた男子生徒は光の粒子となって消えていった。
「虎太郎さん!?何を……」
混乱する仲間たちを尻目に、虎太郎は冷静にトマホークを構え直す。その動きは迷いがなく、明らかに慣れたものだった。
「うわあああ!」
パニックに陥った不良たちが逃げようとするが、狭い玄室では逃げ場がない。虎太郎のトマホークが次々と彼らを襲い、一人、また一人と光の粒子となって消えていく。
「やめろ!やめてくれ!」
「虎太郎さん、なんで!なんでこんなことを!」
叫び声が玄室に響くが、虎太郎の表情は変わらない。むしろその口元には、獲物を狩る獣のような満足げな笑みが浮かんでいた。
最後に残ったのは直樹だけだった。壁に背中をつけ、震え上がりながら虎太郎を見上げる。
「虎太郎さん……何でこんな事を……」
虎太郎はトマホークの血を拭いながら、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。しかし、その瞳は冷酷そのものだった。
「お前ら油断しすぎだ。だから毎回俺の経験値になっちまうんだよ」
「じゃ、じゃあ俺らが毎回死に戻りしてるのも……」
直樹の顔が青ざめる。断片的に残る記憶の欠片が、恐ろしい真実を物語っていた。
「そうだよ。経験値は無駄にできないからな」
虎太郎はトマホークを振り上げた。その刃が薄暗い玄室の中で鈍く光る。
「お前らは俺にとって重要な経験値源なんだ。記憶を失って何度でも騙される。そして何度でも俺の糧になってくれる」
「やめろ……やめてくれ……」
しかし、直樹の懇願も虚しく、鋭い前蹴りが腹部に突き刺さる。吹き飛ばされ正常な呼吸が出来なくなった直樹は完全に戦意を消失しているそして、虎太郎がゆっくりと近づいて来る。
そしてやめてくれと懇願する声だけが迷宮に響いていった。
そしてすべての行為を済ませた虎太郎は直樹の頭にトマホークを振りおろした。
静寂が玄室を支配する。虎太郎は一人、戦利品を回収しながら満足そうに呟いた。
「今日も良い狩りだった。お前ら明日もまた、よろしく頼むぜ」
そして彼は何事もなかったかのように、ダンジョンから立ち去っていく。明日もまた、同じことが繰り返されるのだった。記憶を失った六人が、何も知らずに虎太郎を信頼し、そして再び彼の餌食となるために。