推しの子を目指して   作:滑空ペンギン

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第2話 始まりの門

学園長のスピーチが長々と続く入学式。「国を担う」などと華々しい言葉が並ぶが、ヒカルには建前にしか聞こえなかった。普通科の生徒は結局のところ労働者、いや、消耗品程度にしか見られていないのだろう。

入学条件に「容姿」の項目があるだけあって、体育館は美しい女子生徒で溢れていた。その中でも際立つ存在がいた。漫画のような表現かと思っていたが、本当に目の中に星が輝いているような瞳を持つ少女—星野アイだ。彼女の隣では、同じくらいのロングヘアーの少女が妙に警戒するようにキョロキョロしていた。

眠気と戦いながら入学式を終え、各教室へ向かう流れの中、ヒカルはアイの姿を追った。隣の挙動不審な少女と一緒に歩く彼女の姿を見つけて少し安堵する。同じクラスになれたことが分かり、ひとまず安心した。

 

「ファーストダイブに一緒に行けるようにしないと」

 

教室に着くと、担任のクレハ先生による説明が始まった。シニヨンにまとめた髪、グレーのスーツ、タイトスカートが映える、抜群のプロポーションを持つ女教師だった。この学園の担任教師はみなこの学園のOGで在学中に何かしらの罠職と言われるSSR職になってしまった卒業生がなると原作で説明されていたので彼女もそうなのだろう。

そうして学園の基本説明を受け、チャイムが鳴ると休み時間になった。

ヒカルは立ち上がり、斜め前のアイの席へ向かった。

 

「こんにちは、僕の名前はヒカルよろしく。君の名前は?」

 

アイは星のように煌めく瞳を大きく見開き、柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「あ、こんにちは!私は星野アイっていうの。よろしくね、ヒカリくん」

 

「ヒカル?アンタまさかヒカルなの」

 

アイの後ろの席から、先ほどまで挙動不審だった少女が割り込んできた。

 

「えっと確かに僕はヒカルだけど、君は?」

 

「あっ、えっと私は冬子」

 

冬子—どこかで聞いた名前だ。少し考えた末、ヒカルはハッとした。

 

「冬子…もしかしてB小町のニノ?」

 

冬子の表情が驚きから一転、真顔になった。「あなた何者」

 

「うーん、一番星を守るようににお願いされた、読者の一人…。そういう君は?」

 

「私も同じ。この学園に突然入れられた読者の一人。あなたも特典をもらっているの?」

 

「そうだね、いくつかの特典を貰っている。君と僕の目的は同じだと思うけど、パーティーを組まないか?」

 

「…分かったわ。アイ、明日のファーストダイブ、彼と一緒に行きましょう」

 

アイは二人の謎めいた会話に首を傾げたが、すぐに明るい表情に戻した。

 

「えっ、私も? うーん…いいよ! みんなで行った方が心強いし、二人とも優しそうだもん。実は明日のダイブ、すごく不安だったんだ」

 

部外者には意味不明な二人の会話を聞いていたアイは、作り物めいた笑顔から、徐々に本物の笑顔へと変わっていった。

 

「それでアンタもここに来るときに何かもらったモノがあるの?」と冬子が尋ねる。

 

「そうだね、幾つか貰っていたね。その聞き方だと君も何かしら貰ったと思っていいのかな。でも、いきなりそんなことを聞くのは不用心過ぎない?」

 

「はっ!、こんなところに送り込まれている時点で最悪なんだから、ちょっとでも確率を上げないと話にならないわよ。それにアンタは男で、あたしやアイは女だから、スタートダッシュをミスれば簡単にツムわよ此処じゃあね、それに中身はまだ分からないけど外見はいいからね。だからよろしく」

 

「あのね、二人とも」

 

アイが少し困惑した様子で割り込んだ。

 

「私は馬鹿だからはよく分からないけど、 明日のダンジョン実習頑張ろうね!でも、何が『最悪』なの?ここってダンジョンを攻略する為の学園じゃないの?」

 

アイの言葉に僕と冬子は言葉を無くした冬子は一瞬言葉に詰まり思わずといったふうにアイに問い詰める

 

「えっ!アイあなたこの学園について説明受けてないの!」

 

「えーとダンジョンの授業が有って卒業するといい仕事に就きやすいって先生に聞いてたんだけど、違うの?」

 

アイの答えに僕と冬子は引きつった顔でお互いを見つめることになった。

 

「さすがに男の僕から説明するのはまずいと思うんだけど、キミに任せていいかな?」

 

「詳しくは後で話すけど、この学園は色々ヤバいからあたしから離れないでよアイ」

 

アイは二人を交互に見つめ、少し考えた後で明るく微笑んだ。

 

「うん、分かった! 私も二人の力になれるよう頑張るね。ほんとすっごいきれーな顔してるよね、ヒカリくんだっけ。明日はよろしくねー」

 

「ヒカリじゃなくてヒカルだよ」

 

翌朝、特別実習のためクラス全員で学園の地下深くにある「羅城門の大空洞」に集合した。ほぼ全員が制服姿で、プラスチック製の盾と短杖ほどの棒を武器として渡された。クラスメイトたちの顔は皆こわばっていた。

「ほぼ」というのは、一名だけ明らかに浮いた格好の人物がいたからだ。艶消しの胴巻きを着け、編み上げ式のコンバットブーツを履き、右腰には40cmほどのコンバットナイフ、左腰には大ぶりのククリナイフ、後ろ腰にはハンドアックスを差し、胸にはビー玉が満タンに入ったガラス瓶を数個ぶら下げ、支給された棒の先には20cmほどのナイフが差し込まれていた。

この異様な恰好をしていたのはルームメイトの忠一だった。

 

「あの子、なんかすごい装備してるね…」

 

アイが小声で言った。

 

「私たちの武器は、このプラスチックの盾と棒だけなのに。みんな緊張してる? 私、手が震えちゃってる」

 

クラスメイトから距離を置かれていた忠一だが、二人組の女子に話しかけられ、一緒にダイブすることになったようで3人で始界門に消えていった。

ヒカルのパーティーも緊張しながらダイブの順番を待っていた。

次々と「初回登録用」と説明されている始界門に送り込まれていく。普通科の生徒である僕たちには誰も知らされていなかったが、レベル限界のゴブリンがうじゃうじゃいるダンジョンの既知外領域にランダム転移されるのだから最初から生還を望まれないダイブの超絶クソゲーでも難とか生き残らなければならない。

ワンダリングモンスターやアグレッサーに遭遇しなければ、不可能ではないはずだ…と思いたい。

「き、緊張するねー」

 

アイが声を震わせながら言った。

 

「でもダンジョンの中で死んでも、中での記憶を忘れるだけで生き返るんだよね? 本当に大丈夫なのかな…みんなどう思う? 私、ゲームとかやった事ないからわかんないけど、戦えるのかな」

 

「なに気弱な事言ってるの絶対生きて生還するわよ、アイ。生き返れるといっても、実際にダンジョンの中では死んでいるんだから、絶対に体に良くないから油断しちゃ駄目よアイ。ヒカルアンタもしっかりしなさいよ」

 

「うん、分かってる死にたくないからね」

 

アイは冬子に抱きつきながら言った

 

「わたし何も知らなかったし、冬子ちゃんがいてくれてホントよかったよ。それにヒカリくんも一緒だし、何とかなるよね?」

 

「もちろん絶対に生還してやるし、僕が死んでも二人を守るから。最善を尽くそう」

 

「ありがとう。私も二人の足を引っ張らないように頑張るね。何か出来ることあったら言ってね」

 

そして順番待ちの間に、ヒカルはステータス画面を開いてみた。

 

神木光Lv0

職種なし(ノービス)Lv1

貪欲吸収(グロウアップ)

保管庫(ストレージボックス)

定型技能

振り分けポイント:0

称号:霊落者

新野冬子をパーティーに加えますか? はい いいえ

星野愛をパーティーに加えますか? はい いいえ

 

新しい項目が出現していることに気づき、「はい」を選択した。

 

「なにこれ、いきなり目の前に出てきて、『ヒカルからパーティーの申請が届いています』って表示されているんだけど」

 

「あっわたしの方にも来た」

 

とアイが驚いた様子で言った。

どうやら二人にパーティー申請のメッセージが届いたようだ。ヒカルは小声で説明した。

 

「僕のスキルでパーティー編成ができるみたいな文字が出てきたから選択してみたんだけど、二人にも見えるんだね。『はい』や『YES』みたいな文字があればそこをタッチしてほしい。それで編入されると思うから」

 

「ふーん、なるほど!」

 

アイは興味深そうに空中を見つめた。

 

「ここをタッチすればいいのね。こんな感じ?」

 

二人が目の前の空間を指で押すような動きをすると、「パーティーに加入しました」というメッセージとともに、表示が変化した。

 

「わぁ、本当だ!」

 

アイが目を輝かせた。

 

「これってヒカリくんの能力なの? どんな効果があるの?」

 

「まだ出来るようになったばかりで分かんないや、追々検証していこうと思ってる」

 

神木光Lv0

職種なし(ノービス)Lv1

貪欲吸収(グロウアップ)

保管庫(ストレージボックス)

定型技能

振り分けポイント:0

称号:霊落者

 

新野冬子Lv0

職種なし(ノービス)Lv1

具現化(マテリアライザー)

定型技能

称号:霊落者

 

星野愛Lv0

職種なし(ノービス)Lv1

定型技能

称号:

 

 

そうこうしているうちに、転移門の前で生徒達のサポートをしているクレハ先生が近づいてきた。

 

「さあ、次はあなた達の番よ心の準備は大丈夫?」

 

クレハ先生の声には悲壮感と罪悪感に後悔の色が滲んでいた。

 

「それではあなた達の番です門の中心にある二重の円の中心に固まってください。転移の際には円の中にいるものを同じ場所へと送りますがまれにはぐれることが有るので、体を接触させてくださいこの場合手をつないでいれば間違いありません」

「ヒカリくん、冬子ちゃん」

 

アイが二人の手をぎゅっと握った。

 

「さあ行こう。絶対に生き残ろうね」

 

僕らのファーストダイブが、今始まろうとしていた。

 

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