決闘も終わり、食堂にはヒカル達の姿があった。
ヒカルの左右には由良と楓が座り、その隣にカナデ。対面にはアイと冬子が座って、冬子の隣に彩音、大地と続き、ゆかり、忠一、涼香が座っている。
「それで、随分と派手にやったみたいね」
冬子の声には呆れと心配が混じっていた。
「うっ、見てたのかい」
ヒカルはバツが悪そうに首をすくめた。
「当たり前でしょう。あんたが白馬の王子さましてるのは『カハク』に『
冬子のダメ出しに、ヒカルはとても気まずげに答えた。
「すいません。流れでああなったので、今更どうしようかと悩んでいるところです」
「ハァ~、そんな事だろうと思ってたわ。アイ、あなたからも何とか言ってやりなさいよ」
冬子は溜息をつきながらアイに視線を向けた。
注文したホットドッグを頬張っていたアイは飲み込んで、不思議そうに答える。ケチャップが頬についているのに気づいていない。
「う~ん、ヒカルが強かったんだから良いんじゃないの?」
「アイ、あんたね……まあそうなんだけど……まあいいわ。それとアイ、ケチャップがついてる。ヒカル、それで何か案は有るの?」
冬子はアイがつけてるケチャップをナプキンで拭きながら諦めたような表情でヒカルを見つめる。
「いや、もうどうなるにしろ速くレベルを上げて物理で殴るしかないなと思ってる」
ヒカルの答えはあまりにも直球すぎて、周りの仲間たちが苦笑いを浮かべた。
「まったくあんたは、見た目は二枚目なのに中身は三枚目ね」
「それはしょうがない。見た目はこんなだが、中身はどこにでもいる凡人だもの」
ヒカルは何を今更と冬子に答える。自分でも分かっていることだった。
少し気まずい空気を変えるように、ヒカルは話題を変えた。
「そういえば僕は途中で抜けちゃったから聞きそびれたけど、舞さん達のパーティーはどんな感じなの?」
「舞達は二層に進んだようだから、もう直きにクラスアップすると思うわ。綾子のパーティーも出来るだけ既知外領域ギリギリでレベリングをするように奨めたのが項を制したのか今のところ順調に進めているみたいね」
冬子の表情が少し明るくなる。他のクラスメイトたちの成長は喜ばしいことだった。
綾子パーティーとは、ギャル系女子5人組のパーティーで智也という大人しめな男子を囲っているグループである。
「そうだね。僕としては女子のレベル上げもだけど、吉彦と智也のレベルも早く上げないとまずいと思う。流石に『
この学園ではレベルアップで性的にハッチャケルのは男子の専売特許ではない事を原作知識から知っているヒカルは心配する。
「そうなのよね、まともな男子が少なすぎるのよ。まだマトモそうな虎太郎は何故か女子と一緒にダイブしないし」
冬子が発した言葉が気になり、ヒカルは聞き返す。
「虎太郎って不良組のトップだよね。女子とダイブしないってどういう事?」
「分からないわよ。不良組扱いだけど、女子に対しての態度は紳士的だから、女子の中での評価は高いのよ。でもダンジョンに誘った女子は何人かいるんだけど、どの子の誘いも断って、ずっと男子とかソロでしか潜っていないみたいなのよね」
冬子の困惑した表情を見て、ヒカルも首をかしげる。確かに虎太郎の行動は理解に苦しむものがあった。強くて頼りがいがあり、女子からの評判も悪くない、そんな男子を放っておく程この学園の女子は甘くはないはず。なぜパーティーを組もうとしないのか。
そんな疑問に首をかしげていると、突然聞こえてきた少女の声に、忠一以外のメンバーが驚きの表情を見せた。
「それはそうだろう。奴は女に興味が無いからね」
いつの間にかアイの隣の席でつ膝をついて高さを確保しつつ、自分の顔よりデカいスーパーDXジャンボパフェを攻略中のツクヨミの発した爆弾発言がメンバーの頭に理解されていく。その聞き捨てならない情報に、思わずヒカルは声を上げた。
「まって、ツクヨミどういう事!? なに、アイツホモなの!?」
周りの仲間たちも動揺を隠せずにいる。まさかそんな理由があったとは誰も想像していなかった。
ツクヨミはパフェから視線をそらさずに、面倒そうに答える。まるで当然のことを言っているかのような口調だった。
「だからそういっているじゃないか。昨日だってダンジョンの中でクラスメイト達を襲撃して盛っていたし。被害者は皆死に戻っているから誰にも知られていないしね」
「なにそれ怖。……忠一は何か知っているかい?」
ヒカルは情報通の忠一に視線を向けると、忠一は食べていたカツ丼を机に置きナプキンで口元を拭きながら答える。
「その情報は知らなかった。ただウチのクラスの不良組の死に戻りが他のクラスと比べてもかなり高い事は知っていたが、まさかそんな理由があったとは」
忠一も珍しく驚いた様子を見せている。謎の理解力を発揮する彼でも、この情報は流石に予想外だったようだ。
「というかツクヨミ、おまいさん普通にパフェ食べてるけどどうやって注文したんだよ」
この学園は銭という独自の学内通貨を利用していて現在は現金は存在せず、全ての取引を学生証に紐付けられた
電子決済で行われている。だから学園の生徒で無いツクヨミはパフェを注文出来ない筈である。
「問題ないよ。このスーパーDXジャンボパフェはヒカルのカードで注文したから問題ないさ」
うすうす予想していた通りの答えがツクヨミから有りヒカルは諦めながら確認する。
「ツクヨミそのパフェ確か6万銭位したと思ったんだけど」
ヒカルの記憶によると濃厚アイスクリームと季節のフルーツをふんだんに使用して築城されたそれはとても素面で注文出来る様な金額ではなかったはずだ。そんなヒカルの質問にツクヨミはいけしゃあしゃあと金額を答える。
「そうだよ。正確には税込63000銭だね」
皆が平然と会話を進める中で大地と彩音は初めて見るツクヨミに困惑していた。突然現れた謎の少女が当然のように会話に参加し、しかも衝撃的な情報を投下してヒカルと親しげに会話力している状況に戸惑いを隠せずにいる。
そのため大地は一番親しそうに見えるヒカルに彼女の事を質問した。
「なあ、ヒカル。この子は一体何者なんだよ?」
ヒカルは少し困ったような表情を浮かべながら答える。
「えーっと、ツクヨミは……何て言ったらいいんだろう、僕達のお目付け役?みたいな感じって言えばいいかな?こんな風にいきなり現れて意味ありげな事を言って来る良く判らない存在だけど、悪い奴では無いから仲良くして欲しい」
大地君にツクヨミの事をどう説明して良いか悩んだが、自分たちも良く判らない存在のツクヨミの事は曖昧な説明になるしかない。
「そう言えば、決闘で手に入れた大剣はどうなのよ?マジックアイテムなんでしょう」
冬子が思いだしたように決闘の賞品だった大剣の事を聞いて来る。
「あ~あの大剣ね……マジックアイテムではあるんだが、癖が強すぎるというか、まあここで出すのはだめだからダンジョンの中で見せるけど」
第『肆』階層、『既知外』領域
ヒカルは決闘で手に入れた大剣を取り出す、両刃の直剣で剣身は120㎝で比較的肉厚の作りをしている。
「これなんだよ」
ヒカルが鞘から抜き放った剣に魔力を込めると、剣身が突然『シャラシャラ』と鈴の様な音を立てながら流れる様に変化を始めた。まるで水が流れる様に、剣身は無数の小さな刃へと分かれ、それぞれが鎖状に繋がれた蛇腹剣へと姿を変えていく。その過程で柄の長さも片手で扱うような長さに変化していく。
「お~ガリアンソード」
剣の変化を見た冬子は目を輝かせて剣に近づくき、カナデ先輩も近づいて来て観察を始める。
「蛇腹剣ですね。変形ギミックを持つ武器は癖が強くて使いにくいものが多いみたいですけど、見た目の格好良さとロマン性で、実用性の割に人気が高いんですよ。だから高値で取引されることが多いみたいです。だから、
「正直ぼくの好みではないかな、SPを込めればそれだけ伸びて行く様だけどポジション的にもタンク寄りだから大剣形態だと大きすぎるし、蛇腹剣だと間合いが遠すぎる」
そういいながらもヒカルは蛇腹剣を鞭の様に使いこなしている様に見える。
「器用値に振っているから使えない事は無いけどやっぱり要らないかな」
忠一にも渡してみるがやはり合わないみたいで直ぐに返してきた。結局誰も使わないので『
冬子の仲魔達もモーショボーが新しく加わり、ピクシーはハイピクシーに成長しカハクも、ゴブリンのモンスターカードでの悪魔合体でアチェリに変化している。
ヒカルの隣でブラックドッグを引き付けている大地は、今はタワーシールドを背負っておらず、代わりに左腕に青いヒーターシールドを装備している。体格の小さい彼には一般的な大きさの盾でも少し大きく見え、右手には突きを多用する大地に合わせてカナデの作ったマインツ型グラディウスを装備している。
今も飛び掛かるブラックドッグを盾で殴り付け、噛みついてきた別の個体の首筋に剣を突き入れて消滅させていく。大地がブラックドッグのヘイトを取りつつ、槍を持った彩音が隙を見つけて突き殺している。
「ブラックドッグは殴りにくくて詰まんない」と積極的に前に出ないアイだが、オウルベアの相手は楽しいらしい。
「任せて」と声を上げると飛び込んでいき、立ち上がると2メートルを越える体格から繰り出される腕の振り下ろしをハンマーの一撃で相殺し、流れるように左足を殴りつける。
体制の崩れたオウルベアに涼香も加勢して切りつけ、ダメージを与えていく。最後はアイの一撃を脳天に受け、瘴気に返っていった。
ある程度進むと、ヒカルは忠一とポジションを交代して
通常、侍系は刀系統の武器に補正が付くのだが、忠一は「刀とはどこまでが含まれるのか」をカナデ達と徹底的に検証していった。打ち刀から始まり、太刀、大太刀、長巻と順次試していく中で、薙刀にも補正が乗ることを発見した。しかし、同じ長柄武器でも槍は和槍でも補正は乗らず、見た目は刀に似せたスプリング刀にも補正が乗らなかった。このことから、製法が関係しているのではないかという結論に至った。
そのため現在の忠一の装備は、メインウェポンとしてカナデ作の刃渡り2尺3寸の大薙刀を手に持ち、背中には3尺3寸の大太刀を背負い、腰の革製剣帯には打ち刀を差している。ブラックドッグの群れもオウルベアも危なげなく処理しつつ一番近いゲートに進んで行った。