生徒会長。それは学校内の生徒達の長であり、経験した人も少なからずいるだろう。さて、IS学園の生徒会長とはどの様なものか。一言で例えるなら、「学園最強」。文字通り生徒達の長であり、最強の称号。それがIS学園の生徒会長なのだ。そしてその生徒会長が、2年生の更識楯無。彼女は生徒会長であり、専用機持ちと同時に日本人でありながらロシアの国家代表のIS操縦者である。イタズラ好きな彼女は一夏を時には厳しく指導したり、時にはからかったりしたりして一夏だけでなく周囲の生徒を振り回すのはしばしば。では、彼女から見た2人目の男性操縦者井上大河はどう見えていたのか。
私が井上大河君と初めて対面したのは、7月の事だった。その日1年生は臨海学校へ行っていて、IS学園にはいなかった。彼を除いては。そこで私は顔合わせと挨拶の為に接触を図った。
1年生の寮の廊下を歩く水色のショートヘアーに黄色のネクタイの少女。彼女こそIS学園の生徒会長、更識楯無だ。何故彼女がここにいるのか。それは大河に顔合わせと挨拶をする為。本当は一夏にも会う予定だったが、臨海学校へ行っているため、まずは欠席した大河からという訳だ。そして大河の部屋にたどり着いた楯無。とりあえず2回ノック。
「どうぞ」
中から声が聞こえた。いよいよファーストコンタクト。警戒心を与えない様にしないと。軽く深呼吸して一息。さぁ、2人目の男性操縦者との初めての対面。意を決してドアを開けた。
「初めまして。君が井上大河君ね?」
私の目の前に立っていたのは、カーキ色の部屋着を着て、左腕に警告色の腕章を付けた短髪の男子。彼が井上大河君ね。織斑一夏君に続いてISを動かした2人目の男子。
「…あの、どちら様?」
臨海学校を欠席していた大河は目の前の水色の髪の女子生徒が何故自分の部屋にやってきたのかは分からなかった。
(黄色のネクタイ…2年生なら、先輩か)
「私は、このIS学園の生徒会長で2年の更識楯無。楯無でいいわよ」
「この学園にも生徒会長っていたんですね。で、その生徒会長が俺に何の用ですか?」
「本当は君と一夏君がいる時に一緒に挨拶しようと思ったんだけど、臨海学校で不在と聞いたから欠席していた君に挨拶をしに来たの。どうして大河君は臨海学校を欠席したの?」
「この日に限って日本重工の開発者とその下請けの会社とのリモート会議をする事になったんですよ。引き渡した鉄鋼神の稼働データと今後の開発等いろいろと」
大河は臨海学校に欠席しているのは、鉄鋼神の開発元の日本重工の開発者や下請け会社とのリモート会議をする事になっていた。
「それは大変ね。延期は出来なかったの?」
「今日しか出来ないらしくて、断れなかったんです。何かと向こうは競う様に開発してる様ですし」
日本重工の下請けの企業は、競う様に鉄鋼神の工具等や装備を開発している。当然護身用の装備も含めて。
「IS開発に携わる企業は、国からの依頼で請け負ってるから優れた装備を開発した企業が優位に立てるから必死なの。さて、本題に入るわ。私が今日大河君に会いに来たのは他でもないの」
話を区切り、楯無は大河に自身が来た理由を話し始めた。目付きも真剣になる。
「世界で2番目にISを起動させた男性である君の事を、少し調べさせてもらったわ」
「……はい?」
「君の専用機の鉄鋼神の開発元の日本重工の社長、井上寿一は君の父親ね?」
「……!」
大河は何故素性を隠していた自分の事を楯無は一体何者なのかと感じていた。彼女の目的が何なのかも分からない。
「母親は国会議員である早川雅美。そしてIS学園の卒業生である早川沙彩は君の異父姉。間違ってないわよね?」
楯無の問いに大河は答えない。全て正解だからだ。
ビンゴね。全て正解。国からならともかく、開発企業が直々に試作専用機を供与するのは不自然。一夏君の場合は織斑先生いう後ろ盾があるけど、大河君に関しては、IS企業の社長と国会議員。一件強力な後ろ盾に見えるけど、裏を返せば企業を乗っ取られて技術流出や買収、暗殺等のリスクが伴う。存在を消された大河君の事が知れ渡れば、間違いなく刺客を送り込むのは目に見えてるわ。ある意味、一夏君以上に危ない橋を渡ってるわね。
「……何故それを?」
「こういう調べ物は私の専門分野なの。驚いた?」
実は、彼女は裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の当主なのだ。なので、表沙汰になっていない情報を調べ出すのも、お手のもの。
「……何が目的ですか?」
「え? 私も専用機待ちなのかって?ご名答♪ 私も専用機「ミステリアス・レイディ」を所持し、更にロシア国家代表なのでした」
……と聞いてもいない事を話し出す楯無に大河は何なんだこの人はとわずかながら苛立ちを覚えた。
「…そんな事一言も聞いてないんですが」
「うん。聞かれてない。以上。生徒会長豆知識でした」
「役に立ちそうにない豆知識ですね」
いきなりやってきて心底どうでもいい豆知識を教えられた大河は苛立ちを抑えた。
「で、俺の部屋に来た理由は何ですか?」
「それはね、君の事を少し知りたいなって思ったの」
これが、私が井上大河君を知る最初の日だった。私はまだ彼のISについての考えや何がしたいのかは分からないけれど、私にとっては一夏君同様学舎で学ぶ大切な仲間だと思っていた。それと大河君はISで装備を自作したりと器用な所があったりしたわね。
ある日、楯無が廊下を歩いていると、少し大きめの段ボール箱を手にした大河が歩いてきた。
「あら? 大河君じゃない。これからどこへ行くの?」
「整備室ですよ。日本重工から装備の設計図とそのパーツやら何やら届いたので、それを作りに」
大河に届いたのは鉄鋼神の新たな拡張装備の設計図とパーツだ。前はコンテナで送られてきたのだが、とうとう自分で作る様になったのだ。
「君のISの装備は基本は工具なのに、護身用とはいえやたらと物騒な武装があるのは織斑先生から聞いたわ。製作者は大河君に何をさせたいんでしょうね?」
「それは分かりません。聞いてもはぐらかされましたよ」
楯無と話した後に整備室に着いた大河は、設計図と思われる冊子をパラパラとめくり、一通り読んだ。
「よし。分かった。着工!」
大河は待機状態の鉄鋼神を親指で弾くと、両腕を部分展開させた。「着工」というのは、大河がISを展開させる為の掛け声だ。
まずはペンチで鉄板を曲げ、それからグラインダーで切断し、最近届いたIS仕様のエアブラシでパーツを塗装。そして内部に半導体やらモーター等を取り付けていく。そんなこんなで組み立てていき…
「…出来た」
完成した。しかしそれは送られてきた設計図に書かれた物とは全く違う物だった。すると…
「大河君。調子はどう?」
「丁度完成したところですよ。これです。設計図とは全く違う物が出来ましたよ」
「どれどれ…?」
楯無は大河の先にある物を拝見する。そして楯無は渡された設計図と完成した物を見比べるのだが、目を疑った。
「……何これ?」
「何なんでしょうね?」
それもそのはず、設計図には作業用掃除機の図面が描かれているのだが、実際組み立て完成したのは掃除機なんてものではない。中型で明らかに銃の様な形をしており、下部には何やらボトル状の物体が装填されている。そのボトルにはハザードマークのシールが貼られていた。
「何でボトルにハザードマークが…」
「おそらくこれ噴霧器ですね。使う機会はなさそうですが」
ボトルにハザードマークがある事が気になる楯無をスルーしながら銃にしか見えない噴霧器であろう物を構える大河だった。
大河君の鉄鋼神は装備の大半は工具が占めてるけどどう見ても武器にしか見えない装備がいくつか搭載されてるし、護身用って割には明らかに戦闘用にしか見えないわよね…。開発者達は一体大河君に何をさせようとしているの…?
…とまぁ、大河君のISに関してはこれくらいにして、次は大河君がISについてどう考えてるか。一夏君は「大切な人を守りたい力」って言ってたけど、大河君は何やらシビアな考えの持ち主だったわね。
ある日、生徒会室にいた楯無は大河にある事について聞いていた。それは、大河がこのIS学園で何をしたいのかだ。
「大河君。あなたはIS学園に在籍しているけれど、今は何をしたい?」
「何って…簡単です。知りたいんですよ。ISが人類の未来にもたらすものは何なのか。そして何故自分がISを扱えるのか。俺には知る権利があります。それが今の俺のしたいことです」
大河はIS学園に入学してから気になっていた事を話した。まずISは人類に何をもたらすのか。世界最強の兵器であるISの登場で女性優位の世界をもたらしたが、その先の未来、ISは人類に何をもたらすのか。そして何故自分がISを扱えるのか。これについてはまだ分からない。だが必ず真実に辿り着いてみせる。それが大河の目的だ。
「そう。大河君。一夏君にも言ったんだけど、あなたが思っている以上に、ううん。あなたの想像を超えるほど、ISっていうのはこの世界で価値がある物なの。そして、それを手に入れる為なら、人の感情も尊厳も命も、全てを犠牲にする事を厭わない人もいるのよ」
「……愚かだ」
「それが人間よ」
ISが人類にもたらすもの…ね。私も気になるわ。この世界はISによって変わってしまったんだもの。この先、世界はどこへ向かっていくのかしら……そして男性である自分自身が何故ISを扱えるのか。世界中が注目している事ね。下手をすれば身の危険があるのに…あの時から大河君は自ら茨の道を進もうとしていたのね。それだけじゃないわ。いつだったかしら…忘れる事の出来ないあの日が来るまで…
楯無は思い出した。その日、大河が意味深な事を言っていたあの日を。
「楯無さん。一度でも自由に生きたいと思ったことはありませんか?」
「え? どうしたの急に?」
「言葉通りですよ。全てのしがらみから解放されて、背負っている物も全て下ろして自由に生きる……素晴らしいとは思いませんか?」
大河君が時々変な事を言ったりしたりするのは知っていたけど、あの言葉は妙に違和感があったわ。でも、一夏君や箒ちゃん達は「いつもの事」と流していたわね。私もあの時は考えすぎかと思って軽く流していたわ。でもまさか…
「あの日が大河君を見た最後の日になるなんて…」
いかがだったでしょうか? リアルが忙しく、久しぶりに更新ですが、何かやけに物足りなさを感じます…次回は千冬から見た大河を予定しています。
今回はここまでです。感想お待ちしています。