TS雷家事親父   作:ぱちぱち

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TS雷家事親父

 19XX年。東京のはずれに居を構える坂東家(ばんどうけ)は重たい沈黙に包まれていた。

 

 長年家族を支え続けて居た家長、坂東良成(ばんどうよしなり)が倒れたためだ。夕方、散歩から帰ってきた良成は玄関先で昏倒。物音に気付いた妻・洋子が救急車を呼び病院に搬送されたが、医師は手の施しようがないと沈痛な面持ちで宣告する。

 

「帰りたい」

 

 意識を取り戻した良成は、自身に降りかかった災いを耳にした後、そう家族に告げた。家に戻りたい。最後は家族と過ごした家で死にたいと。

 

 婿養子の運転する車で妻と娘に支えられて、良成は自宅へと戻った。そして、自室の布団の中で最後の時を待っている。

 

 

「母さん。母さん……洋子」

 

「はいはい、お父さん。貴方」

 

「ようついてきてくれた。儂のような頑固もんに、よう我慢してついてきてくれた」

 

「あらあら」

 

 

 良成は昔ながらの考え方の男だった。女房には常に旦那を立てろ、一歩引いてついてこい等、平成の御世には古臭いと言われた考え方だが、それが正しいと心底から信じていた。家長は家に責任を持つ者だ。弱弱しい家長など家族にとって害悪でしかないとすら思っていた。

 

 だから、今、初めて。死ぬ間際になってようやく弱音を見せた夫の姿に、洋子はしょうがない人ね、とクスクス笑ってその手を握る。

 

 言葉なんていらない。16で嫁にきてから50年も人生を共にしたのだ。

 

 良成は喋れるうちにとこの後についてを語る。遺言だ。この家は洋子が生きている限りは洋子が、洋子の後は長男が継ぐ。金銭的な財産は洋子が半分、残りを兄弟姉妹で分けるように伝えた。

 

 朦朧とする意識の中、最後まで言い切った良成はぐっと胸の奥から何かがせりあがってくるのを感じた。体の奥から根こそぎ何かが出ていこうとしている。

 

 抗えずにがばっと口を開けると、そこから飛び出すように良成の意識は宙へと放たれた。体から出ていこうとしていたのは良成自身の魂だったのだ。

 

 

「お父さん!」

 

「おじいちゃん!」

 

 

 視界の下で自分の体に縋り付く子供や孫たち。そして、自分の体の傍で静かに涙を流す洋子を見て、良成は思った。ああ、良かった、と。自分には自分が死んで涙を流してくれる家族が居たんだと。幸せだったんだと。

 

 戦争、貧困、そして急激な発展。昭和のほとんどを生きて激動としか呼べない時代に生き抗っていた自分だが、自分の人生は、存外悪いものじゃなかったんだと思えたのだ。

 

 ああ、光が見える。

 

 吸い込まれるように天へと昇っていく良成の魂。良成は、救われたような気持になって天へと昇って行った。

 

 

 

 そして

 

 

 

バブッ?(うん?)

 

「あー痛かった! でもマジきゃわわ! よろしくねあたしのベイビーちゃん!」

 

 

 光を抜けた先に良成を待っていたのは八百万の神々や仏様ではなく、真っ黒な肌に髪を金髪に染めたギャルだった。

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