TS雷家事親父   作:ぱちぱち

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おいたはすんなよ?(ばぶばぶばばぶ?)

 犬が居る。

 

 母親のりんが「よぉし今日はお出かけだよ~♪」と言い出してへのじちゃんをベビーキャリア(おんぶ紐)で背負い、久方ぶりの街へと繰り出して数十分。

 

 見慣れない街並みに「ああ、ここはもう自分の知る国じゃなくなったのか」とノスタルジーを感じていたへのじ(良成)ちゃんが気付いたときにはデカデカと犬や猫の写真を張り付けた看板の店の中に居て、目の前にドン、という擬音付き(勘違い)で出されたのがこの犬猫である。

 

 犬と言っても赤ん坊だ。へのじちゃんには赤犬と秋田犬くらいしか犬種は分からないが、黒い毛並みの、ラブラドールレトリバーと呼ばれる犬種の子犬はつぶらな瞳で目の前にでんと座るへのじちゃんを眺めている。

 

 

つまりお前はうちに来るんだな(ばぶばぶばっばぶばぶばぶ)

 

「くぅん?」

 

あいわかった。お前の面倒は儂が見よう(ばぶばぶば。ばぶばぁぶばぶばぶ)

 

 

 へのじちゃんが念を押すかのように尋ねると、子犬はなに言ってんだこいつ? と首をかしげて尻尾を振り始めた。その様子を見てりんは「お互いに気が合ったんだねぇ」とのんきな表情でこのラブラドールレトリバーの子供を購入することを決断する。

 

 割と安くない出費となるがやい子からの提案と、更にへのじちゃんの情操教育の面でも生き物と触れ合わせるのは良い影響になるだろう。受け答えのせいでイマイチ軽い印象を受けるが、りんのへのじちゃんに対する愛情は本物である。

 

 かくして『へのじちゃんねる』に新しいレギュラーメンバー、『くろじ』が加わる事となった。

 

 

 

「基本的にメインはへのじちゃん。くろじは時たま混ざるか最初から同じ画面に居させるかその都度変えていこうと思う」

 

「おけまる」

 

「理由は聞けよ。まぁ、単純にずっと同じ画面でいると飽きが来るからな。視聴者は我がままだ。飽きればすぐに離れちまう」

 

 

 開設して1月。これは開設した側にとってみれば非常に短い期間だが、視聴者側の感覚だともう一月も追いかけている事になる。当然、へのじちゃんの百面相もそろそろ見慣れたころ合いだろう。見慣れたという事は次に飽きが来る。飽きればもうそのチャンネルを開くことはほぼ無くなってしまう。まだまだ少ない視聴者を離れさせるのは、『へのじちゃんねる』にとって死活問題となる。

 

 これの対策はまぁ簡単な所で言うと他チャンネルや著名人などとのコラボが手っ取り早いのだが、登録者数が1万人を超えたくらいの『へのじちゃんねる』にはわざわざコラボしてくれるなんて有名どころは居ないし声をかけてくる所はコラボする意味がない相手ばかりだ。なぜかVtuverから声がかかったときは思わず「え……どう、やります?」と問い返してしまった事もあるが、まぁそんな事はともかく。

 

 

「まずは重大発表って形で緊急動画の体で上げて、新メンバーの加入を宣言する。くろじは大人しい子だし赤ん坊と一緒にくろじが成長していく姿も人気になると思うんだ。ペット動画はいつだって人気コンテンツだからね。それに合わせてへのじちゃんの毎朝毎夕の活動にくろじがちょっかいをかけるシーンが撮影できれば美味しいね。画面に変化が生まれるしなにより切り抜きタイミングが出来る。これまではへのじちゃんの変顔切り抜きばかりだったけどこっからは可愛い路線で――」

 

「あー、やい子やい子。熱中してる所わるいんだけどさぁ」

 

「は? なに」

 

 

 凝り性の気があるやい子はずっと考えていた自分の考えを発表していくが、それを途中でりんに邪魔されて不機嫌になった。眉間にしわを寄せてりんに問い返すやい子に、りんはビデオカメラを手渡してちょいちょい、とへのじちゃんを指さす。

 

 

「あれ撮っといた方が美味しいんじゃない?」

 

 

 りんに促されてやい子の視線がへのじちゃんに向けられる。そこには椅子に座ったまま腕を組み、口をへの字に曲げたまま見下ろすようにくろじを眺めるへのじちゃんと、しょぼくれた顔を浮かべて仰向けになり、腹を差し出すかのように見せるくろじの姿があった。

 

 

おいたはするなよ?(ばぶばぶばばぶ?)

 

きゃんっ(はい……)

 

 

 たった十数秒目を離したすきに間になにか重大な取り決めが一人と一匹の間でなされている。その事実に愕然とした表情を浮かべながら口元をにやつかせてやい子はカメラの電源を入れた。

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