TS雷家事親父   作:ぱちぱち

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なんたる辱め……(ばぶばぶばぶ……)

 清潔感のある白い部屋の中、おむつを替えられるへのじちゃんは終始口元をへの字に曲げていた。

 

 

なんたる辱め……(ばぶばぶばぶ……)

 

 

 視線の先にあるカメラを親の仇のように睨みながらおむつ交換に身をゆだねる事暫し。

 

 

うん?(ばぶ?)

 

 

 履き替えられたおニューのおむつ(下着)から感じる心地いい感触にへのじちゃんは表情を変え、くいくいとおむつの裾を握ったりズラして感触を確かめ、

 

 

素晴らしい履き心地だ!(ばぶばぶばばばぶばぶ)

 

 

 満足そうな表情を浮かべて何度も頷いた。

 

 

 

 

「あの、ぜひ今後ともうちの専属モデルをお願いしたいんですが」

 

「お誘いいただきありがとうございます。大変光栄なお話ですし一度持ち帰り検討させて頂きたいのですが……あ、はい。こちら私の名刺となります」

 

「これはご丁寧に。こちらが私の――」

 

 

 『へのじちゃんねる』初めての企業案件は紙おむつのCMモデルだった。企業側としては最近人気の赤ちゃんが居るという事で声をかけたのだが、実際に撮影を開始するとびっくりするほど表情豊かな赤ん坊モデルに目の色を変えて勧誘を仕掛けてきた。

 

 条件的にも通常の赤ちゃんモデルよりも美味しい仕事であり、また全国区での放送のため知名度アップも期待できる。りんとやい子(大人たち)も本当の意味で前向きに検討しているが、専属という点が少し引っかかる。

 

 

「多分、一か月後にはもっと条件が跳ね上がると思うんよね」

 

「お・現役モデルの勘か?」

 

「いんや、うちのマネちゃんが安売りすんなって言ってんのよ」

 

 

 へのじちゃんの母親である池宮りんは、ギャル系ファッション雑誌等でモデルを務めている現役モデルだ。事務所にも所属しているしそこで自分のマネジメントをしている担当者には『へのじちゃんねる』についての相談なども行っている。

 

 りんが所属している事務所は子役のマネジメントは行っていないが、それでも売り時と攻め時に関する点の助言は信頼して良いとりんは思っている。

 

 問題はへのじちゃんの現状が赤ん坊であることが大きな価値となっている点で、時価が高いうちに売り込むべき商材である点だろう。あまりに欲張って引っ張り過ぎれば価値がなくなってしまうかもしれない。その見極めはりんとやい子(大人たち)が行わなければいけないものだ。

 

 

「うちはなんだかんだ、成長してもへのじちゃんは人気者の予感がするけんどね」

 

「お。敏腕編集者の直感?」

 

「そんな大層なもんじゃないけどさ」

 

 

 若干の願望も含めた言葉にりんがにやけ顔で応じ、やい子が嫌そうな顔でそれに応える。なんだかんだこの二人の仲が良好なのも『へのじちゃんねる』の好調を支える要因かもしれない。

 

 

 

 撮影したCMは2か月後から放映予定だという。それまでの間くれぐれも不祥事だけには気を付けて、あとできればうちの会社で取り扱ってるベビー用品のモデルをしてほしいと前半は注意、後半は懇願を受けたりんとやい子(大人たち)は曖昧な表情で答えを濁しておく。1月どころか1週間後には更に条件が上がりそうな食いつき具合にちょっと引いているのだ。

 

 この温度差は常日頃モデルの赤ちゃんに悩まされている人間とそうじゃない人間との差だ。へのじちゃんという圧倒的に手がかからない赤ちゃんしか知らないりんとやい子(大人たち)には分からない感覚だろう。

 

 企業からの案件を終えたため、次にりんとやい子(大人たち)が取り掛かったのは同じような業種の人とのコラボである。子育て系というジャンルは昔から存在しており動画配信者だけをとっても元アイドルやら俳優やら多数の著名人が自己流の子育て法を発信している。

 

 りんもへのじちゃんを産んでからはそういった動画を見るようになったし、実際に子育てをしている人間は多かれ少なかれ興味があったりお世話になったりするジャンルだ。そしてこのジャンルに興味がある視聴者層は『へのじちゃんねる』の視聴者層と被る部分が多い。つまり潜在的な『へのじちゃんねる』の視聴者層と言っても良い。

 

 コラボ動画やCM撮影を経て、りんとやい子(大人たち)はへのじちゃんの特異性は「大人が求めているレスポンスを返せる頭の良さ」だと見定めた。扱いの難しい赤ちゃん子役という存在の中で、へのじちゃんの特性は頂点を狙えるものだ。

 

 へのじちゃんが赤ちゃんだと呼べる年齢で居られる期間はおおよそあと1年。それまでにへのじちゃんを伝説の赤ん坊と呼ばれるまでに押し上げる。それが出来るだけの力とポテンシャルをこの赤ん坊は持っている。

 

 その為に、まずは取れるところから数字を持っていく。頭の中で皮算用を弾かせながら、りんとやい子(大人たち)はコラボの打診をしてきた子育て系配信者たちに連絡を取った。

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