TS雷家事親父   作:ぱちぱち

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誤字修正、AimaY様、Othuyeg様、ジャック・オー・ランタン様ありがとうございます


バッカモーン!!(ばっぶばぶぅ!)

 最近、SNSを騒がせる赤ん坊が話題となっている。

 

 彼女の名前はへのじちゃん。母親らしき女性が投稿した一枚の写真が発端となった騒動は、女の子なのにへのじとはなんなのだ、可哀そうではないかという論調から始まり、母親が動画をアップロードするなどして行くうちに現在では実は男の子なのではないか派とへのじちゃんで良いじゃないか派、そしてそういう問題じゃない派となんにでも噛みつきたい派に分かれて論争が続いている。

 

 最後は論外としても、このへのじちゃんを巡る騒動は時間が経つほどに一番最初に語られていたいくらなんでもその名前は可哀そうという声は極少になっていった。

 

 何故なら彼女は写真に写るたび、動画に映るたびに口元をへの字に曲げて怒り狂っているからだ。

 

 

 

 

バッカモーン!!(ばっぶばぶぅ!)

 

 ピシャーン! と近隣に雷が落ちたかのような勢いでへのじちゃんは吠えた。大きく振りかぶった右手が母親の頬を捉える。

 

 バシーンッ!(ぺちっ)

 

「あいた~♪」

 

 頬を捉えた一撃に母親のギャルが悲鳴を上げるが、その程度では怒り狂った雷親父(べいびー)の怒りは止まらない。二度、三度と両の頬にへのじちゃんの一撃が見舞われるたび、母親は「ひえぇ♪」「かわい♪」と泣声を響き渡らせる。

 

 へのじちゃんは怒っていた。大往生をしたと思ってから目が覚めて、どうやら自分は生まれ変わりをしたと確信してからこっち、ひたすらに怒り続けていた。

 

 まず最初の怒りは母親に向けてのものだった。池宮りんという名の今生の母は独り身でへのじちゃんを産んだ。シングルマザーという奴である。それは良い、たった一人で子供を育てるなどなにかしらの事情があるのだろうし、祖母の助けを借りながらであるが働きつつへのじちゃんを育てようとするその姿勢は立派である。へのじちゃんの前世である良成の感性でもその点は十分以上に評価できる。

 

 それは良い。そこには一切の文句もないのだが――

 

年頃の女子が(ばぶぅばぶぶぶ)そんなに肌を出すんじゃない!!(ばぶばばぶばぶぶぅぅ!!)

 

「うっはへのじちゃんめっちゃ切れてる。マジ受けるんですけど♪」

 

 撮れ高撮れ高、と母親は意味の分からない言葉を言いながらへのじに向かって板状の何かを向ける。へのじちゃんにはそれが何か良く分からないが、上手い事いけばお小遣いが増えるらしい。独り身の母親は収入も限られるだろう。その助けになるのなら、とそれを向けられる際はへのじちゃんは黙って母親を睨みつけるようにしている。それが良いらしい。

 

 いや、今はそんな事はどうでもいいんだ問題じゃない。問題は、母親の服装だ。

 

 母親――りんはへのじちゃん(良成)の感性で言えば水着かと思われるような服装で仕事に出ようとしている。股下まで足を露出している短いジーンズにへそを出し、胸元を大きく見せる上着。こんなものを着て歩いてたら昭和の時代ならいつ暗がりに連れ込まれて乱暴されてもおかしくはなかった。その上、肌の色から恐らく南米かどこかの移民だと思われるが母親の顔立ちは非常に整っており、今は同性であるへのじちゃんをして魅力的だと思わせる女性だった。

 

 へのじちゃんは抗った。この自分の母にして尊敬できる人物だが非常に脇が甘い(とへのじちゃんは思っている)女性に懇切丁寧にもっとまともな服を着なさいと伝えたのだ。

 

 たとえば自分が付けていたエプロンを外し、母親の足に(へのじちゃんの手が届く限界の高さ)くくりつけたりもした。母親はそれを見て「え、うちの子凄くね?」と板状のなにかを向けるようになった。それからも事あるごとに母親に意識改善を促していたが、ある時へのじちゃんは察した。

 

駄目だ、相手にされてない(ばぶっ、ばぶばぶばぶ)」と。

 

 このままではいけないという焦りと、上手くいかないもどかしさ。それらが積りに積もったとき、へのじちゃんは切れた。

 

 目の前に置かれていた積み木のブロックを、土台からひっくり返したのだ。

 

バッカモーン!!(ばっぶばぶぅ!)

 

 これが後にへのじちゃんの代名詞にもなる積み木ブロックちゃぶ台返しの、最初の瞬間であり。

 

「あ、こら。おいたしちゃメーでしょ。お片付けしましょうね~♪」

 

む、あいすまん(ば、ばぶばぶばぶ)

 

 なお初めて母親に叱られたのもこの時であった。へのじちゃんは自分が悪い時には素直に謝れるベイビーちゃんなのだ。




結石が痛くて現実逃避に書いた小説にお気に入りがついて感激してます。ありがとうございます。
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