「人を増やそう」
「賛成」
「えぇ……私、あんまり知らない人はちょっと……すんません」
やい子の言葉にりんが端的に賛同し、そのやり取りに何故かへぶんが口を挟むが、やい子の冷たい視線に最後まで言い切らずに口を閉じる。ここ数日、池宮・明石家でよくみられる光景である。
例の大事故配信から1週間が経過した。本当に休む間もなく雨あられのように降り積もっていた連絡や問い合わせもようやく途切れ、SNS上は兎も角として『へのじちゃんねる』運営としては平穏が戻ってきたと言っても良いだろう。
SNS上では未だにオカルト関連のインフルエンサーがワイワイと騒いでいるし、目の前で口に両手を当てて「黙ってます」のポーズをしているへぶんの周辺は一切火力が落ちない炎上を続けているが、まぁ『へのじちゃんねる』とは関係がない事だから、
まずは自分たちに降りかかった災難から身を守るのが先決。至極当たり前の事だろう。
「今回の事で分かった。私とりんだけじゃもう回しきれんわ。いつのまにか登録者数も40万超えてるし? この規模ならチーム組んでるって他は!」
「そやねー。うちももう少しイケると思ってたけど、今回のは流石に堪えたわぁ……てんちゃん居なかったら詰んでた」
「ですよねぇ! 私めっちゃ頑張りましたよねぇ! なんだか? この一週間で子供の世話とかめちゃめちゃ上達しちゃったしおむつとか秒ですよ! 秒!」
「でもてんちゃんが原因で炎上に繋がっちゃってるのはちょっと良くないよね」
「はんにゃーはーらーみーたー」
持ち上げて落とすりんの話術に対し、へぶんは般若心経を唱えることで緊急回避を行った。真っ当に批判を受け止めるとド三流メンタリティがボドボドになってしまう。それが
うるさいのが黙ったのを確認した後、やい子は口を開く。
「とりあえず事務方を最低一人追加ね。今回みたいな時にてんに頼りきりは良くないわ。こいつ絶対にどっかでまたやらかすから。あとは渉外してくれる人が居れば最高かな」
「ベイビーちゃんを預けられるくらい信頼できる人じゃないとね。てんちゃんは確かにドジっ子だけど、ベイビーちゃんが居れば大丈夫だと思うよ?」
「それ世話する方が逆になってるからな???」
さらっとへのじちゃんがへぶんを世話する思考になっている辺り、りんがへぶんをどう評価しているのかが気になるところではあるがまぁそんな事は棚に上げておくとして、問題は信頼できて事務も出来るなんて人材に、
なにせりんもやい子もまだ20代前半の若造だ。互いに専門職という事で独り立ちして食べているが、業界内のキャリアではペーペーも良い所である。人脈なんてたかが知れているのだ。
特にやい子の方はほとんど単独で仕事を受けている編集屋のため、繋ぎのある相手なんて零細の配信者やたまにヘルプに入る同業他社の誰それくらいのものである。事務所に所属しているりんはそれよりも大分マシだが、それでも一モデルが持つ人脈なんてたかが知れている。
そう考えると、だ。
「ぎゃーてーぎゃーてー」
目の前で一心不乱に般若心経を唱えるこのおもしれー女に頼る事になる、のだが。それはやい子としては非常に嫌だ。先ほど口に出してもいったが、こいつは絶対にまた何かやらかすとやい子は確信している。へぶんと関わって1週間の間に起こった出来事を考えれば、こいつは絶対に信頼してはいけないタイプの人間だというのは確定的に明らかだ、と思っているのだ。
その点は実を言うとりんも同じ感想なのだが、りんの方はへぶんがなにか起こしてもへのじちゃんなら大丈夫だろうという自分の娘への絶対なる信頼があるため、やい子ほど深刻には受け止めていない。ただその結果で今回のようにめちゃめちゃ忙しくなる可能性があるため、へぶん以外の人手が欲しいという思いはやい子と同じだ。
「りんの方の事務所にはなんか伝手ないの? 信頼できる事務方さんとか。ほら、結構古い事務所だし伝手ありそうじゃん」
「もう聞いてみたけど信頼できるってのがネックみたいね。ほら、信頼できる人って大体どっかに所属しててフリーってのはほとんどないみたいなんよ」
「あー」
まぁ当たり前の話で仕事が出来て信頼できる人は大体だれもが求める人材である。りんとやい子のように元々友人関係であれば兎も角、新しく来る人に求めるには大分高いハードルになってしまうだろう。
かといってりんもやい子も田舎から出てきた人間で、昔からの付き合いが続いている相手はそれこそお互い位である。地元に目を向ければ信頼できる人柄だと分かっている人間は複数いるが、そんな彼ら彼女らには今現在の生活がある。配信業という浮き沈みの激しい業界に、今の生活を捨ててきてくれと言い切れるほど
ではどうするのかというと、どうしようもないというのが現状であり……堂々巡りとなりかけたその時、救いの声は思いがけないところからかけられた。
『へのじちゃんねる』初コラボの相手である赤ちゃん系Vtuver『
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