「やっぱりお困りだと思ってましたよぉ。水臭いですよ同じ赤ちゃんライバー同士なんですから、相談してくださいよぉ」
「酒が飲める
数週間ぶりに顔を合わせた
「以前、そちらさまと行ったコラボ以降、当事務所の
「へのじちゃん関連が今大フィーバーしてるじゃないですかぁ。それで最初のコラボ先って事でうちもおこぼれに預かっちゃったんですよねぇ。一週間で一気に2万人も登録者増えちゃって震えましたぁ」
「なにそれ羨ま。こっちは死にそうなほど大変だったんよ」
「ああ。でしょうねぇ……そちら様の規模でこの規模の祭りが起きると手がいくらあっても足りないでしょう」
本音で羨ましがるりんに、田中氏が同情の視線を向ける。そこそこの規模があるライバー事務所『どどんぱち』でも『へのじちゃんねる』が起こしたレベルの祭りや炎上は経験したことがない規模だ。そしてそれほどの規模の動きだからこそ
「業務委託? 『どどんぱち』に所属するって事ですか?」
「いいえ、所属ではなく一部の業務を委託です。もちろん所属して頂けるなら望外の喜びですが、現状それは『へのじちゃんねる』様にとってはあまりメリットにならないでしょう。ですので弊社としましては事務作業や法廷手続きも含めたネット対策など、個人だとどうしても手が回らない部分ですね。その辺りの業務代行を提案させていただきたいのです。もちろん無償で、とは言えませんが配信サポートなどを行わない分勉強はさせていただきますよ」
「いや。そりゃ事務手続き代行してもらえたりするならちゃんと金払いますけど。うちに都合よすぎませんか? それ。他の所属ライバーさんとかが文句言いませんか?」
田中氏の言葉にやい子がそう尋ねる。田中氏は具体的な数字を出していないが、この言い方であると、彼の隣に座る渡部が事務所に支払っている手数料よりも大分安くなりそうなのだ。それは金を払う側の『へのじちゃんねる』としてはありがたい事だが、それを傍から見る事務所ライバーがどう思うだろうか。
やい子の言葉にこくりと頷いて、田中氏が口を開く。
「羨ましいと思うものは多いでしょう。だからこそ『どどんぱち』としてもある程度の利益を求めております」
というよりも、この話が通った段階で『どどんぱち』側は大きな利益を得ることが出来る、と考えている。なにせ現在、『へのじちゃんねる』はまさしくネット界隈の台風と言える存在なのだ。
更に『へのじちゃんねる』自体のコンテンツも良い。基本的にへのじちゃんの生活を見守るというスタンスで配信も動画も作成されているため、通常のライバーなどよりも炎上に繋がりにくいのだ。無論
これだけ優良なライバーと繋がりを持てるんなら全力を出すしかないだろう、というのが『どどんぱち』上層部の思惑だ。実際にたった一度のコラボをしただけの
数年で5万人にようやく到達したというのに、それがたったの数週間で倍になったのだ。こんなもん全力しかないだろう。仮に所属ライバーがなにか言って来たら『どどんぱち』上層部はそう言い切る心算だ。出来れば取り込みたい。だが、それに対する対価を用意できるとは思えない。故に業務委託で繋がりを持つことを『どどんぱち』は優先した。
委託とはいえ契約関係になる以上、これまでの一コラボ先という関係よりもグッと関係性が縮まるし、他の所属ライバーとのコラボなども申し込みやすくなる。十分すぎるほどの『飴』を用意できるのだからライバーたちも恐らくは納得する。『へのじちゃんねる』との契約はそれだけの価値があるものだ。
「
もちろんそこまで赤裸々に上層部の思惑を語るわけもなく、田中氏はもっとオブラートな表現で『へのじちゃんねる』の影響力と関係を持つことにより十分すぎるほどに『どどんぱち』が利益を得られることを語り、りんとやい子もその説明に納得した。
りんの腕の中で話を聞いていたへのじちゃんは、なんとなく田中氏の背後に居る会社側の思惑を感じ取ったが、営利企業である以上実利を求めるのは当然の事である。それが
後日、正式に『へのじちゃんねる』と『どどんぱち』の間で業務委託契約が取り交わされ、契約相手でもあるし予定していたコラボが全てなくなったという事情もあるためしばらくの間は『どどんぱち』所属のライバーとのコラボを優先することが
人知れず、某歌い手の自室で般若心経がリピートされる事となったのは別の話である。
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