これは許可を取ったゲームの製作元がどうせならゲームの宣伝もお願いしたい、という事で無料で機材も提供するし配信の許可も出す代わりに軽く口頭でゲームの紹介を行う、という取り決めがされたからだ。
プレイするゲームは順番に入れ替わる記号を選択していく順番ゲームと呼ばれるものだ。例えば猪鹿蝶と並んだあとに猪鹿?とくる。この場合?の部分は蝶となるため、出てきた選択肢の中から蝶を選べば正解となる。
もちろん例題では大人がやると簡単すぎるため、正解が続けば徐々に難易度が上がっていく仕様の機材が製作元から提供された。カラフルで赤ん坊でも安心して扱えるよう角ばった部分が取り除かれた板状のゲーム本体には大きな画面がついており、その画面には一般向けのノーマルとハード、そして一般向けには表示されないインフェルノという難易度が追加されている。
「知育ゲームでインフェルノとは一体」
「
「撮れ高撮れ高」
全然想定していなかった面白ポイントに思わず素でコメントするしゃくに、普段は赤ちゃん用の玩具に目もむけないへのじちゃんの珍しいはしゃぎよう。これは撮るっきゃないとやい子はカメラを回した。もちろんしゃくの体が映っているため後ほど没にされるが、音声は導入部分で扱われることになる。
さて、まずは商品説明である。製作元から貰った台本を見事な声音で読み上げるしゃくにへのじちゃんが拍手を送ると、しゃくが照れたような声で1オクターブ高い声で笑い声をあげた。へのじちゃん側は素であるがしゃく側としてはプロレスで見せ場を譲られたレスラーの気分だ。単調な台本読みに変化を加えてしかもこっちに手柄を譲るなんて、としゃくは解釈しているがへのじちゃんにはそんな思惑はもちろん一切ない。
説明が終わった後は早速へのじちゃんによるお試し遊戯である。流石に最初はという事で難易度はノーマルを選択。通常の赤ん坊を想定した難易度である。
「
「はい。ではここからはへのじちゃんさんと一緒にテストプレイするよ! みんなもついてきてね!」
某遊園地の案内のお姉さんみたいなテンションでしゃくがセリフを読み上げる。渡された台本がまんま過ぎてそういえば昔、あそこのバイトしようと思ったな、と若干のノスタルジックを感じながらしゃくがへのじちゃんに操作を促すと、へのじちゃんはおばあちゃんがテレビを見るように目をぎゅっと細めてゲーム機のディスプレイを見始める。
「
「あ、へのじちゃんそっちは駄目。もどっちゃうからね、こっちを押して」
「
「ああそれ電源だから押しちゃダメぇ!」
余り知識はないが好奇心旺盛なへのじちゃんの行動にしゃくが慌てて軌道修正を図る、という図が大体5分ほど続き、ようやくプレイ画面にたどり着いた時にはしゃくはぜぇはぁと荒い息をついていた。特に動いたわけではないがそれくらい疲れた、という意思表示だろうか。
「保母さんってすごい……それじゃぁ、ここからは実際にゲームをやってみよぉ!」
「
しゃくの勢いに押されてへのじちゃんも手を上げて声を上げる。気分は若い子に囲まれて一緒に声を上げて頑張るおじいちゃんである。
今回プレイする順番ゲームは言葉が理解できない赤ん坊のために作られたこともあり、順番に並んでいく記号も簡単な△や〇といったものだ。最初に△〇△〇△?と出てきた問題に、画面上に大きく表示された△と〇のどっちかを選んで答えるものだ。
そして最初の問題だからだろう、正解である〇のパネルは緑色であり、間違いの△は赤のパネルで表示されている。これは信号機と同じ理屈で緑色は正解・肯定のイメージカラーであり、赤はネガティブなイメージがあるためだ。
良く作られてるなぁとしゃくが感心していると、へのじちゃんは特に悩むことなく赤のパネルを押して不正解になり大きな×が画面に表示される。
「……おぉっとここでへのじちゃんいきなり不正解! 0歳児にはいささか難しかったかなぁ!?」
「
ルールを聞いた時には理解した風であったが一回失敗するまではちゃんと聞いていない。老人あるあるみたいな事をやらかしたへのじちゃんに一瞬動揺するも、流石に修正力でしゃくはセリフを繋げていく。腕を組み、うんうんと頷く姿には「ああわかった。完全に理解した」という吹き出しの文字まで見えてくるようだ。
若干不安を覚えながらも表面上はそれを見せることなくしゃくは動画の進行を行い、へのじちゃんもこれ以降は一度もミスすることなくノーマルモードを終了。最初のアレは本当に仕様を理解してなかったっぽいと周囲に見せつけた。それが普通なんだが普段が普通じゃないため撮影していたやい子は逆に驚いていたりする。
「さて、次は今回の見せ場である私とへのじちゃんさんのバトルですね。インフェルノモードでどっちがミスなく早く終われるかの勝負、という事なんですが……へのじちゃんさんは大丈夫です? その、赤ちゃんってあんまり長く起きられないんですよね」
「
「あ大丈夫っぽいですね了解です」
なぜか赤ん坊と会話が成立しているしゃくを尻目に、『どどんぱち』の撮影スタッフとやい子とで機材の準備が進められていく。しゃくの体を見せるわけにはいかないため、ゲーム機のディスプレイ情報をPC上で読み取り動画にしないといけないからだ。手元を移せばいいへのじちゃんとは手間暇が変わってくる。
「じゃあこっからは仁義なき戦いだぁ! 赤ん坊だろうと私ぁ手加減しねぇからよぉ!」
「
だいたい20分ほどの作業時間兼休憩を挟んだ後、しゃくとへのじちゃんの前口上を挟んでからバトルがスタート。
最初の問題は『四苦八?』の?を埋めろというものだった。回答時間は1秒。
「
「………え、なにこれギャグ?」
がめんに出てきたパネルをポンと押して回答したへのじちゃんは正解となり、フリーズしていたしゃくは不正解となった。たった一秒のバトルの勝者はへのじちゃんである。この瞬間、
まぁ流石にこの内容は、という事で再戦を行い、そちらの方では互いに10問目まで回答しそこでダブルノックアウトと非常にいい勝負となり動画も無事撮り終えることができた。
ただ問題が出るたびに、
「なんで知育ゲームで四字熟語つかってんだよぉ!」
「赤ん坊がやるゲームじゃないのかよぉ!!?」
「なんでへのじちゃんさんは正解してんの!!?」
としゃくの悲鳴のような声が上がり、それが面白いという事で配信されたコラボ動画は非常に好評であったそうな。
鮫頭悲鳴集という切り抜き動画が大バズりしたのはまた別の話である。
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