早いもので『へのじちゃんねる』が開設されてからそろそろ半年の月日が流れようとしている。
こういった記念日的なタイミングは動画のネタ稼ぎに便利なのだが、『へのじちゃんねる』を運営している
というのも100万人達成と記念日がズレて訪れそうなのだ。
3月経っても未だに再生も回り続けている大事故配信、地上波でも取り上げられ本人史上最高のヒットになった
つい先週90万人を達成したと思ったら、すでに登録者数は93万人。来週には100万人に届くかという速度であり、それは大変うれしいのだが。
「このままだと半年記念配信動画つくって次の週で100万人登録記念配信だよねぇ」
「嬉しいんだけど! 嬉しいんだけどそう連続で来るとさぁ!」
「
記念配信をおめでとーありがとーだけで終わる、というのも選択肢にはあるが、半年間応援してくれたファンには出来る限り応援してきてよかった、と思ってほしい。嘘偽りなく
こういう祝い事の時は自チャンネルだけではなく他のチャンネルとのコラボなんかが定番だったりする。やはり特別感が大事という事だろう。それを踏まえると、チャンネル躍進の切っ掛けにもなった相手とのコラボ配信を行うのが吉だろうか。
「6か月配信は『どどんぱち』のライバーさんに声かけて、通話配信とかどーよ! ほら凸待ちってやつ」
「凸されてもへのじちゃんが返事できねぇんだが。まぁ、へのじちゃんならなんとかなるか……?」
赤ん坊と通話配信。久しぶりに孫の声を聴くジジババでもないと喜ばないんじゃ、という内容だが、この半年間のへのじちゃんの実績を考えるとそれでも面白くなりそうな予感はある。どうやるのかは皆目見当がつかないが。
というよりも、だ。りんとやい子はへのじちゃんならどこまでやれるのか、という運営側としての大事な思案を半ば放棄しているところがある。いつだってへのじちゃんは二人の思惑を軽々飛び越え、信じられないような画を視聴者に届けてくれるからだ。
もちろん、ある程度の計画は行っている。こうやればいい画が撮れる、こうすれば面白い企画になる。それらを考える事を止めた訳ではない。ただ、どこかのタイミングでへのじちゃんはこっちの思惑を超えてくる。それをこの半年間で深く理解したのだ。
そしてもう一つの記念配信である100万人配信は、これはあっさりと決まった。100万人を達成した瞬間にへぶんを呼び出して記念に大絶賛ヒット中の『読経ロック』を生演奏をしよう、というものだ。
この企画になった理由は二つ。まず一つは『読経ロック』にはへのじちゃんの般若心経がメロディとして使われており、広い意味で言えばへのじちゃんも歌っていることになる。というよりもへぶんもそのつもりで発表の際には『へぶんwithへのじちゃん・園山住職』としていたりする。
それにもう一つの理由として、基本引きこもりでしかも3年間のスランプ?期に人間関係を断捨離したへぶんは基本暇人であるしなんなら毎日この家に来ている。最近はへのじちゃんの生活サイクルに合わせて早寝早起きしているため、呼び出しがしやすいのだ。
「じゃあ、大まかこれで。『どどんぱち』さんにはこっちから連絡入れてイケるか聞いてみる」
「おけまる。てんちゃんにはうちから話とくね。おーいてんちゃーん」
「いやあいつ居たんかい」
「ん。ベイビーちゃんのお昼寝見ててくれて……あ、てんちゃんも寝てるね」
普段なら用事がなくても部屋の片隅でぺちゃくちゃとうるさいため居るか居ないかがすぐ分かるのだが、今日はへのじちゃんのお昼寝に付き合って一緒にソファで寝ていたらしい。そら静かだな、と勝手に納得して、やい子は自室に向かうためリビングを出る。寝ている子供を起こすわけにもいかないからだ。
明らかに部外者であるのに自宅のソファを勝手に占領するおもしれ―女には、もうツッコミも入らないらしい。へぶんの池宮・明石家侵略計画は着々と進行している。
連絡を受けた『どどんぱち』側からは特に問題がないということで、関わりの深い
6か月記念と100万人登録数記念で連続コラボだとSNSでも報告。サプライズも考えたが今回はお祝いであるという前提で、へぶんの生演奏もあると宣伝。へぶんのSNSでも同じように『へのじちゃんねる』でへのじちゃんと一緒に歌うよ、と報告し、若干小火っぽくなったりもしたがファンからの期待度を上げたりして迎えた『へのじちゃんねる』開設半年記念配信は、静かな緊張感に包まれていた。
『……ま、まぁ。そういう事もあるよね!』
『そ、そそそうですよ』
「私はぁ、一曲歌えばまぁそれで良かったんですけどぉ。お祝いですしぃ」
「
期待度を煽りすぎて登録者数が加速し、おおよそ一週間先だと思っていた100万人達成と6か月配信とが見事に被るという珍事が発生したのだ。知育ゲームをやると事前に準備していた
そしてへぶんは場が混とんとしているからと空気を察して帰るような女ではない。堂々と部屋の中に入り込み、へのじちゃんを抱きかかえたへぶんはキッと目の前(ではなく画面の向こう)にいる
「前から思ってたんですよぉ。へのじちゃんなら私とのコラボだけで十分すぎるのにぃ。ノイズが多いなってぇ」
『……あぁ?』
『ノイズ? 誰が? 私が? 何言ってだこいつ』
明らかに喧嘩を売りに行っているへぶんの言葉に、画面の向こうに居る二人のVライバーの声音が変わる。喧嘩を売られたら殴り返せないようなメンタリティの人間は、何年も配信活動なんて出来るわけがない。殴られたらフルボッコにするくらいの気概をこの二人も持っている。なんなら喧嘩を売りに行っているへぶんの方がメンタルは弱い。
だが、へぶんには今、腕の中にへのじちゃんという勝利の女神が居る。この段階でへぶんにとっては勝ち確である。なんならご飯3杯までならイケる。
勇気とやる気に満ち満ちたへぶんは、画面の向こうに居る負け確の敗北者に更に言葉の追撃を浴びせようとし――
「
「へぶんっ!」
へのじちゃんの容赦のない
たとえば取引先に失礼をしたらそれが目上の者であれ
「
「あ、はい。ごめんなさい。調子に乗りました……すみません」
勝利の女神に軽く頬をはたかれ、へぶんはこんこんとへのじちゃんから説教を受ける事になる。途中で精神安定のために般若心経を口ずさもうとするがへのじちゃんはそんな逃げを許さず、その度に