『へのじちゃんとTVを見よう』はへのじちゃんねるのメインコンテンツへと成長した。これはそれまでの動画と違って『へのじちゃんとTVを見よう』は毎日夕方の決まった時間に生配信しているという強みを活かしてのものだ。
毎日夕方。大体の人は帰り際だったり帰宅したばかりのタイミングにふとスマホを見ると通知がやってくる。それから数十分ほどの時間を赤ん坊と一緒に幼児番組を見るという行動が、疲れた現代人に刺さったのだと運営している大人たちは考えているが、実際の所は孫を見つめる顔の赤ん坊を後方保護者面して眺めている奴らが多いだけだったりする。
とはいえこの『へのじちゃんとTVを見よう』という企画は大当たりであり、『へのじちゃんねる』の鈍化していた成長も急激に盛り返し、ついに登録者数五千人を突破。小躍りする
「あと、生配信で大きかったのはへのじちゃんのやらせ疑惑が一気に無くなった事だな」
「うちのベイビーちゃんの可愛さをようやく分かったんだね♪」
「違わい。いや、違わないか。実際に生配信で見たら加工だなんだってのは言いにくいんだろ」
へのじちゃんを取り巻く論争のうち、最初期からずっと言われていた「この赤ん坊の顔は加工されている」という議論が、生配信を流し始めてからは一気に話題に上がらなくなった。生配信で動いている赤ん坊の顔を加工するというのは結構な技術と機材が必要なため、わざわざそこまでやる理由はないという結論が出たからだ。
それでもまだ地味に「あの赤ん坊は加工されてる!」とSNSで叫ぶ人間も多いが、こういう奴はたとえ目の前でへのじちゃんが口をへの字に曲げても同じことを叫ぶので大体の人は無視している。
「この路線、良いね。生配信は事故が怖いんだけどへのじちゃんは正直赤ん坊かどうかたまに疑問に思うレベルで安心してみてられるっていうか何かやらかしてほしい感のほうが勝るっていうか」
「どゆこと?」
「おまーの娘はすげーって事だよ」
赤ん坊やペットの動画を撮る動画配信者は多いが、その手の動画では生放送というのはあまり使われない。突発的な事故などが起きた場合、コントロールが出来ないからだ。
だが、へのじちゃんに関してはこちらの言葉を理解してる節があるしなんならやい子はこの娘がいきなり言葉をしゃべりだしてもおかしくはないレベルの知能を有していると思っている。動画編集という生業上いろいろな人間を見てきたやい子は人物鑑定にはちょっとした自信を持っている。そのやい子の眼が、へのじちゃんの眼には確かな知性が宿っていると強く感じているのだ。
生配信を売りにする赤ん坊配信者。うん、新しいし早々後追いがでるジャンルでもない。上手く流れをつかみ続ければ、一気に駆け上がるポテンシャルはあるとやい子は思っている。
さて、そうなるとだ。生配信の場合、やはり大事なのはリアクションだ。へのじちゃんは言葉が話せない以上、会話で視聴者を繋ぎとめる事が出来ない。故に常に画面に動きが求められるのだが、そうなってくるとへのじちゃんがリアクションを返すための
夕方の教育番組は、我ながらナイスなチョイスだったとやい子は思っている。あれは常に画面が動いているのでへのじちゃんの反応も多く、何よりへのじちゃんの顔面が面白いから常に画面を見て居られるのだ。
「という訳で、なんか良い考えない?」
「ん、あるよ? 面白いかわからんけど」
「……あるなら言えよ」
良い考えが思い浮かばなかった為、やい子はへのじちゃんの事を一番見ているりんに尋ねてみた。すると至極あっさりとした様子でりんは頷きを返してくる。
目をパチクリとさせたあと、恨み節全開でそう告げるやい子に、りんは陽気な笑い声をあげた。
「いやー、だってうち、あれ見てると眠くなるんだよね。あんま言いたくなかった♪」
「は?」
「へのじちゃんが一番面白い反応返すのはさ、ニュースなんよねぇ」
あっけらかんとした表情でそう言ったりんに、やい子は少し黙った後に「んん?」と首をかしげる。ニュース番組をみて楽しい赤ん坊。どういう関連があるのかがやい子の頭の中では繋がらなかった。