「祝! 一万人突破ぁ!」
「「おめでとー」」
りんが宅飲み用に購入したビアカップを掲げて音頭をとり、やい子とグラスを鳴らして乾杯する。良い飲みっぷりですなぁ~、お前もなーと上機嫌な二人を眺めながら、なにがなんだか良く分かっていないへのじちゃんはうんうんと頷きながらちゅぱちゅぱと哺乳瓶を空けていく。
母親から直接授乳すると何故か眉をしかめて困り始めるため、へのじちゃんはもっぱら哺乳瓶派である。
「いやぁ、最初はどうなるかと思ったけどふたを開けてみたら1月で1万人達成。短時間動画専門のショートムービーも30000人突破してる。順調だなぁ」
「やー子大明神のお~か~げ~で~ご~ざ~い~ま~す~」
「当然だ。金入ったらちゃんと給料寄越せよ」
「もちもち」
へのじちゃんの顔芸()はショートムービーでバエる。これは間違いのない事だ。
とはいえ順調と言っても規模としてはまだまだであり、現状の月収は恐らく10万から20万の間だろうか。りんもやい子もそれぞれ別で仕事をしているため副収入としては悪くないが、かけた労力にはまだ見合っているとは言いづらい。
りんとしてはへのじちゃんと一緒に居る時間を増やすため、『へのじちゃんねる』だけで生活できるようになりたい。やい子も人気チャンネルの創設メンバーになれるチャンスとあって本気度が高いため、大人たちは今後について酒を酌み交わしながら真剣に議論を交える。
「やー子も本気って事で良いんだ?」
「おう。ちまちまと他所様の編集作業で食ってくのもなぁ。いつまでやってるのかって思ってたし、こんな逸材が居たらな。撮りたくなるよ」
なー? と酔っぱらい特有の絡み癖を発揮してやい子はへのじちゃんを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。妙齢の女性に抱き上げられると非常に困った顔になるへのじちゃんの表情は最高のストレス発散だ。
この表情を何故か母親にもするんだから良く分からない赤ん坊だよな、と内心で独り言ち、へのじちゃんをベビー椅子に座らせる。
「
ぶんぶんと頭を振るへのじちゃんをケラケラと笑いながら構い倒すりんの姿を見ながら、やい子は今後の企画について頭を巡らせる。平日の朝と夕方、この生配信は動かさない方が良い。通勤・通学中の誰かはもはや『へのじちゃんねる』のメイン視聴者層となっているからだ。
欲を言えば、この辺りの視聴者層をもっと獲得したい。日本全土で毎日6000万人以上が働いているのだ。そのうちの1%でも捕まえることが出来ればこのチャンネルはもう安泰と言っても良いだろう。
となると現在のコンテンツを更に強化する必要があるが、へのじちゃんパワーは偉大とはいえ赤ん坊タレント一択となっているのが現状だ。この辺にもっと彩が欲しい。
いっそ母親であるりんも出演させるかと思ったが、りんはモデルも行っておりそちらの仕事に現状だと影響が出るかもしれないためNG。やい子は裏方のため表に出る気はない。となると、更に他を持ってくる必要がある。
であれば。
「なぁ、りーん」
「あん? どったのやー子、酒が足りない?」
「ちげーって」
軽口を叩きあったあと、やい子は腹案を口にした。
「へのじちゃんってアレルギーとかあるか? 例えば、動物系で」