さて、久しぶりになるが物語の裏話でも。
前回ストリート・レースの成り立ちについて説明したが、今度は実際面。
「開催されるレースを支障なく進行させるために、現場でどの様な努力が払われているのか」
本編で解説した以上のことについて、少し補足しておくか。
と言ってもあらゆる物事がそうであるように、現実世界で何かを作用させるのは、結局のところアナログ。人力(ウマ力)に他ならん訳だが、当然ストリート・レースだって、どれだけ最新鋭の設備を導入したとて、最後にモノを言うのはヒト(マンパワー)。
具体的に言えば、本編でも語られた通りコースの端々に、出走外のウマ娘を立たせている訳だ。
彼女たちは本編での説明の通り、コースの案内役。出走者たちにコーナーや突入地点の場所を示す役割を担っているのだが、同時に外からの闖入者の監視と静止の役割も兼ねている。
主に高所や要所に立った見張り役が、エリア内に闖入者が入ってきたのを見つけると、向かう先の要員に連絡を送る。
それを受けた見張りは、行き先を塞いだり時間を稼いだりと言った具合だ。
そう言えば「行き先を塞ぐ」っていうのも、元から取られている方策だな。
もちろん本当に通行止めなんてしたら、道交課のお役人さんがすっ飛んでくる訳でそれはない。
あくまでこう、幅の狭い道路に更に車が停まっていたり。何故か道路上に物が散らばっていたり。
「こちらに行きづらいな~。向こうから回ろうかな~」、「もう一本先の曲がり角で曲がるか~」
心理的にそんな気にさせて、回り道をさせる。レースコース上に進ませないという方策。
あらかじめそうした方策を取る場合もあるが、普段から過剰にやると片付けもそんだけ手間がかかるということで、緊急時にだけ行う「仕掛け」も用意されている。
時間を稼ぐっていうのはその名の通り。
「すみません、道に迷っちゃって。駅まで行くにはどうしたら良いでしょう」
「この辺りにコンビニってありますか?」
そうやって相手に話しかけ、足止めする。
要は出走者ウマ娘が通過する数瞬ないしは数秒(あまりにも差が付きすぎて時間が長くなる場合、見張り役からレース運営の方に苦情が飛ぶ場合もある)の時間を稼げれば良いのだから、話しかける内容なんて何でも良いのだ。
それに相手だって可愛いウマ娘に近距離で話しかけられて悪い気はしまい?
こうした見張りってのが『ボランティア』。つまり界隈の各チームから供出された人員であったり、【チップ】稼ぎの個人であったりっていうのは、もうお分かりだろう。
そして本人が直接レースに出られる訳でもない言ってみれば『雑用』。しかしレースを成り立たせるために必須のこれら要員の確保のために、各チームどれだけの人員を供出するか。どれほどの見返りが用意されているのか。
そういった取り決めを界隈の者同士で交わすために、政治的な判断が求められる。
それに辣腕を発揮した者が、自ずと上に立っていくっていうのは当然の成り行きだ。
スタートの旗振り役。
これもボランティアウマ娘の役目だ。
大きなレースみたいな発バ機がない以上、完全同時スタートってのは原理的に無理ではある。
しかしストリートレースってのはあくまでスピードと『魅せるもの』の総合表現な訳で、そこに関しては「有利不利はお互い様」と予め承知してある。
もちろんあんまり酷い場合は旗振り役の権限でスタートのやり直しが認められているが。
他にもカメラ・ドローンの操縦者。
競技場間の連絡役。
レース結果の記録者と確認者。
トラブルに備えた用心棒。
万が一の裁定役。
自発的あるいは取り決めで供出された人員が様々な役目を担うことで、日々のストリート・レースが成り立っているのだ。
「取り決め」って言うのも人員の供給問題に限らず、レースのルール。
出走人数やらスタート方法やら何かが起こった際にどう処理するかなどなど、レース全般に関わる取り決めのことだ。
当然ルールってのは施行して実際に運営しているうちに穴やら問題点が見つかる訳で、そういったものは随時議題に上げて討議し、改定したルールを再交付することになる。 こういった流れも、現実世界のそれと何ら変わりはない。
そう。結局のところストリートっていうのも、社会の縮図に他ならないのだ。
そうそう。話にもあった「リレーを持ちかけたにも関わらず、『出走人数が定まっていない』とルールの穴をついて1人で勝ったトレセン学園のウマ娘」。
ルールブックを一読しただけでストリート側のロジックの欠落を見出したそのウマ娘の名前を、ナリタタイシンと言うらしい。
おっと、トレセン学園は生徒がストリートで走ることを公には認めていない訳で、あくまでこの話はオフレコで頼む。