交戦規定 ~Outlaw Runner~   作:椚木

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デビュー戦1(中級・アスレチックコース)

 既に集まっていたチームメンバーを紹介される。

 

「――この2人は見ての通り姉妹。んで姉ちゃんにバトンを渡すのが、シャトルマイハマ」

 

 言うほど似ていない2名を紹介された後、アンカーにバトンを繋ぐメンバーの名を紹介された。

 

「よろしく」

 シャトルマイハマという名の撫で付けるような鹿毛のウマ娘は、しかしその癖の強そうな髪型とは逆に、人懐こそうな笑みを臨時の出走者に向けるのだった。

 

「ああ、よろしくな」

 オーデンも彼女に挨拶を交わした後、ミヤビにあらためて尋ねた。

 

「あんたは走らないのかい」

 

「うちは今日はオブザーバーみたいなもんや」

 

「それでこちらに大役を背負わせたと」

 

 そう。ミヤビはこの助っ人に、レースのアンカーを任せたのだった。

 

 臨時の出走者に最終的な順位を担わせるこの采配について、「代行だからこそ、バトンタッチの回数も少ないほうが良いだろう」と、シレッと答えるチームリーダーである。

 

 レースの時間まではもう少々あった。

 

「そういや腹の具合はどうなんや?」

 

 元々夕食に行こうと外に出ようとしたオーデンたちをミヤビが呼び止め、そのままレースの下見に入ったのだった。

 

「ああ、カウンターで軽食を出してもらうよ。走るならそれ位で良い」

 

「そうかい。悪いな」

 

 と今度は隣の少女のことも忘れてないよとばかりに、

 

「お嬢ちゃんもこの間は悪かったな」

 

「え」

 

「同盟だよ。反故にしちまって、お嬢ちゃんにも恥をかかせたし。すまんな」

 

「…………元々無理なことを言ったのは私の方ですから」

 

 コールはあらためてミヤビのチームメンバーたちを見渡した。

 

 先ほどの撫でつけ髪のシャトルマイハマもそうだが、紫色に染めた髪の持ち主がいる。姉妹は姉を名乗る方が常に切り傷の耐えなそうな活発的なタイプ。妹は身体よりは口のほうが良く回る、マシンガントークの持ち主。

 

 チームメンバーたちのパーソナリティは個性的で、おおよそ統一感の欠片もない。

 

 しかし彼女たちは皆、どこかこのリーダーと通底しているところがあった。

 

 それは裏表のなさそうなところであったり、一見威圧感があっても話してみれば人好きのするところであったり。

 

 そうやって気の合う者たちが寄り合う様にして生まれ、そして仲間との日々を過ごすのが、チームというものである。

 そして同盟とは、ここにいる彼女たち一人ひとりを、漏れなく抗争に巻き込むことに他ならないのだ。

 

 ただ【連合】憎しで衝動のまま旗振りをしている時には考えもしなかった。

 こうして一人ひとりと触れ合うことで、自分の軽挙を今さらの様に実感し、そして恥じるのだった。

 

「まぁそんな風に思い詰めんでいい。嬢ちゃんの考えていることは大体分かるけどな。うちのチーム員とてちょっとやそっと殴られたからってべそかいちゃうような情けないタマしとらんで。まぁ反故になった今さら言ってもしょうがないんやが、一度やると決めたら腹括るだけの覚悟は持ってんだ。うちの面子は。見くびらないでくれるかい」

 

 ミヤビの言葉にコールはハッとしたように顔を上げる。

 いつしか静まり返っていたチームメンバーたちが彼女に向ける顔は、静かな熱情に満ちていた。

 

 照明がチカチカ瞬く視界の中、彼女らを見つめていると、

 

「大体抗争に負けたからって命<タマ>取られる訳でもあるまい。そこはなるようにやるだけやねん」

 

 次いでミヤビはそう励ますようにカラカラと笑うのだった。

 

 愛想を返すように彼女の方を向くと、コールはそっと瞼を拭った。

 

「ほな、そろそろレースの時間や」

 

 そのまま時間を見たミヤビが仲間に告げる。

 

「よろしく頼むさかい、姉ちゃん」

 

 出走者たちは立ち上がると軽く屈伸なりをし身体を解しスタート地点へと向かう。

 オーデンも皆の後についた。

 

 

 オーデンが立つのは、無論最終中継ポイント。

 彼女と並ぶ他のチームの者達は、このランクを幾つもすっ飛ばして初っ端中級者レースに参加することとなった新顔のことを、ある者は胡散臭げに、ある者は興味深く伺っていた。

 もちろんただのウツケがこうしてリーダー直々の指名で呼ばれることなどない点は相手も承知の上。

 その上で彼女らは思っているのだ。

「ああ、確かに

でもそれと『ストリートとは

 

 

 歓声があがった。

 レースが始まったようだ。

 

 バトンタッチ地点にいたオーデンはもちろん直接見ることができない訳だが、モニター越しに観戦したコールたちの視点からは、レースの流れは以下のような形になる。

 5チーム参加のリレー戦。ミヤビたちのチーム【Iron Edge】は中央の枠をとった。

 彼女の話によれば、現状対抗と目されるのはライバル【ウサ耳キャノン】だがこれは大外枠。

 要注意のチームとしてはやはり助っ人を連れてきた【抹茶味】がある。

 

 最初に飛び出したのは、やはり大外【ウサ耳キャノン】。開幕で前を確保する魂胆。その後ろに1チームついて3番目が【Iron Edge】となった。

 

 コースだが「アスレチック」の名称がつく通り、障害物なども配置され、代わりに壁や塀、障害物それ自体を足場にすることが許された特別競走だ。

 

 実際そうしたものを利用して「魅せ場」を作る者。純粋にスピード競争に明け暮れようとする者とが入り乱れてレースは混迷化。

 

 先頭のパフォーマンス中に後続が接触しかねないなどのトラブルがありつつもレースは進行し、1着【抹茶味】、2着【ウサ耳キャノン】。

 

 オーデンにバトンをつなぐ【Iron Edge】は順位を維持して3番目の到着となった。

 

 

「頼むぞ」

「ああ」

 

 バトンは滞りなく渡された。

 

 駆け出したオーデンはここまで善走したシャトルマイハマを後方に置き去り、自らの受け持つコースを激走する。

 

 先行とのバトンタッチの差は数秒、しかしこの数秒は狭いこのコースでは大きい。

 

 前を行く者は当然有利なコース取りをし、追いかける者が前の者を抜こうと思ったら、別の道を征かなければならない。

 

 3番手のオーデンが順位を維持するだけなら、このまま走って支障ないだろう。

 しかしもし今からトップを狙うとしたら、その挑戦のコースを選ばなければならない訳だ。

 

「勝てて当然やんな」

 

 カツラミヤビが意地悪くそう問うているのが聞こえるようだ。

 

 なるほど、あの駅前で皆の前で見せた走り。

 速度だけで言ったら、このレースも問題なく勝てる。

 

 しかし先に言った通りストリート・レースは単調なコースとは違う障害物まみれの悪路。

 ただ速さだけではなくそれを捌く技術も求められている。

 

 それにレースにかける意気込み。

 

 昼の新人レース。

 才能豊かな若いウマ娘がいた。見込み違いなどでなく、掛け値なしにそうだと断言してよいだろう。

 しかし5位だった。

 

 所詮ストリート・レースなのだ。

 わざわざ危ない真似をする必要なんてない。道悪のコースで怪我をしたらどうする。非正規のレースで自らの前途を閉ざすことはないんだから、程々に行こう。

 

 才能があればあるほど。

 天性のスピードに恵まれた者であるほど。

 

 その様なセーブが働くことになる。

 

 もちろん、彼女も決して手を抜いたとか、全力で走らなかったとか、そういった訳では無い(どこのレース界であろうと、それはご法度の行為だ)。

 

 それでもだ。

 意気込みというのは、確かにレース結果に現れる。

 

 それにバ群に沈んだとか初めてのレースで不慣れだったとかいったことも、まぁ起こる。

 

「トレセン学園は生徒がストリート・レースに参加していると、公に認めていない」

 この言葉の真の意味が、分かっただろう。

 

 両者が戦った結果起こるのは、

 

・訓練を受けた生徒による一方的な蹂躙劇。

・状況判断によるサボタージュ

 

 このいずれか。そもそもレースが成立しないのだ。そんなものに、己の生徒を差し出すわけにはいかんだろう?

 

 まぁあの若いウマ娘は学園の生徒でこそないが、それでもそこを目指す者。

 彼女がそうなのは、これはもう仕方のないことなのだ。

 だって彼女の本来の舞台は、ここではないのだから。自分の花開く場所で力を発揮して欲しいと、我々も心から願うよ。

 

 

 ではオーデン。

 君はどうだね。

 

 君は自分から望んでここにやって来た。

 

 彼女と違うのは、野心を持つこと。

 何かを目論み、あの追われるウマ娘と接触を果たした。

 同盟なき今も、実のところイニシアチブは彼女の手の内に握られたまま。

 それを保護したのは誰であろうお前だ。

 優しさだけで迷える彼女を拾ったなどと、そんなことは決してない筈だ。

 

 自分からゲームの盤上に登りプレイヤーとなり、そしてストリートの覇者たらんとするのなら――

 

 バ群に沈んだとか初めてのレースで不慣れだったとか、そうした自らが被る不利の一切を、『主人公』は跳ね除けて当然なのだから。

 

 

 再度になるが、こう問われるのだ。

 

「勝てて当然やんな」

 

 面白い。

 

 レースが始まってから前走がやって来る前に考えたこと。

 そして少し走っただけで分かるこのコースの在り様。

 

 それらを踏まえた上でこれだけの思考を巡らせたのは、最初のコーナーに飛び込んで前方2人を射程に捕らえるまでのごく短い時間だった。

 

 そしてミヤビの打算――ああ、彼女も界隈でチームを率いる者なのだ。それだけの企図を巡らせて当然なのだ。――を知ってなお、彼女に感謝していた。

 

「ありがたい。私をこのステージに引き上げてくれて」

 

 この物語の主人公は自らがクリアするべき目標を今一度鋭く見据えると、

 

「Weapons Tight,雇用主<employer>より与えられし任務<order>を確認。距離1,200。走路、アスレチック。目標、先行2名。これを捕捉。直ちに追撃し、これを差す」

 

 そう宣言し、更に加速した。

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