交戦規定 ~Outlaw Runner~   作:椚木

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同盟

「これは全て、私が始めたことなんです」

 そう語る小さなウマ娘の一層小さな掌は、勇気を振り絞るようにきつく握りしめられている。

 

 唐突な宣言にどう返したものかとしばし悩むオーデンだが、流石に彼女に言いっ放しにさせておくのは悪いと、残りの3人も思ったのだろう。

 

「そこまで気負わなくたって良いんだよ、コールちゃん」

 世話焼きそうなウマ娘が助け舟を出すように口を挟む。

 

「だな。どの道話に乗ったのはうちらなんだから」

 負けじと口を挟む勝ち気ウマ娘。

 

「皆さん……」

 

 そんな流れの中、眼鏡のウマ娘がコホンと咳払いし、話の流れを戻そうとする。

「オーデン殿は、今のストリート界隈の情勢については、既にご承知でしょうね」

「ああ」

「なら話は早いです」

 

 ストリート界隈の情勢やら趨勢なんていうのは年々移ろいゆくものだが、その辺の歴史については今は割愛する。

 

 ともかく近年の界隈については、実力と人気を兼ね揃えた穏健的な【総長】の君臨によって、極めて安定した、民主的とも言える統治が続いた。

 

 非公式のストリート・レースとは言え、それを実施するためには規模に見合った人員やら設備の手配といった運営が必要不可欠だ。

 その采配も担ったのが、現総長であった。

 

 具体的に言えば、

「こちらのチームからはこの位の人員を供出してください。そちらのチームはこれくらいで。おっと貴女のチームは最近規模も拡大してますし、それに合わせてこれ位の手配は可能ですよね」

 なんて感じだが、もちろん総長自身自分のチームから限界まで遣り繰りして苦労しているのは皆も承知であったから、表立って文句の声はあがらなかった。

 

 チーム間の対立や有力チームのエゴや思惑といった軋轢を、界隈への貢献度で代替させることにより直接的な抗争を回避するこのシステムが、極めて安定した理想的な状態を継続させた。

 

 そしてこの平穏状態が、長期に渡って続くのかと思われたが……

 

 

「ところがこの安寧を担った総長が、突然失踪した」

 オーデンが言う。それを聞いた皆も顔を強張らせた。

 

「はい、そうです」

 眼鏡のウマ娘が後を引き取る。

「つい先日、ストリートに君臨した彼女が、誰にも行き先を告げず、いなくなりました。本人の意志なのか。何らかの事件事故に巻き込まれたのか。現状定かではありません。……それを受けて、界隈にはただ動揺が広がりました」

 

「幸いレースの運営自体は既にマニュアルが出来上がっていたから、残った者で遂行可能なんだけどな。だから表立っての騒動こそ起こってはいない」

 勝ち気なウマ娘が続けた。

 

 そう。表立っての問題こそ起こっていない。

 

 ただここで、このストリートに眠っていた「獣性」とも呼ぶべきものが、鎌首を一斉にもたげた。

 

 まぁそうなるよな、とばかりにオーデンが語る。

 

「結局のところ『民主的』というと聞こえは良いが、要は各チームにどれだけ負担を押し付けるか分担するかって話な訳だろう。当然内心不満に思わぬ者はいなかっただろうな。そしてそれが一斉に吹き上がった」

 

 直哉に告げられ、世話焼きそうなウマ娘が暗い顔をする。その顔は、

「あんだけ総長にお世話になっておいて、皆勝手なんだ」とありありと語っている。

 

 その不平を持ったウマ娘たち。

「何で私たちはレースでこんなに活躍しているのに、運営まで重荷を負わされるの」

「古参の私達も、もっと尊重されて然るべきよ」

「あいつら古顔だからってデカい顔効かせやがって」

 

 そうした不満を、カリスマ性のあるリーダーが抑えつけている限りは良かった。

 しかしこうして彼女が失踪した今、残された運営陣に当たりは強くなった。

 

「このまま行けば、今の秩序も崩れて去る。硬直状態だったチーム間抗争も再開されるだろうし、何ならこの機会に成り上がろうとするものだって現れるだろうな」

 オーデンはざっくばらんに語ってみせた。

 

 その通り、界隈に噴き上がった不満を巧みに取り上げ、同調する者を上手いこと取り込み、【連合】として一大勢力を築き上げる者がいた。

 そいつはその【連合】の勢力をバックに、現運営陣の退陣と、ストリート・レースの運営権の譲渡といった要求に至るのだった。

 

「で、でも。もちろんそうした流れを手をこまねいて見ていた訳ではありません」

 コールが、息巻いて語る。

 

 穏健な流れが続いたストリート界隈を、元の弱肉強食の世界に戻すわけには行かない。そう考える者だっている。

 

 今の界隈の雰囲気に安寧を見出した者。

 争いを嫌う者。

 前総長の恩顧ある者。

 

 そうした者たちが集まり、【連合】に対抗する『同盟』を結成しようと呼びかける者がいた。

 

「それが……私だったんです」

 そう小さなウマ娘が、自らの胸に手を当て語るのだった。

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