交戦規定 ~Outlaw Runner~   作:椚木

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呼びかけ

 『同盟』の呼びかけ人コールオブダイヤは、前総長のチーム【白い庭園】に所属する、ストリートの一員であったという。

 

 強権を振るう【連合】の圧力に際して、このまま手をこまねいて権力を譲り渡して良いのかと抵抗を呼びかける彼女である。

 元々総長の人柄を慕ってチームに加入した身だ。

 総長が築き上げた今のストリートが、見るも無惨に崩されていくのを見るのが辛すぎる。それを傍観するだけの自分は、なお許せない。何としても守りたい。

 

 そうした一心だった。

 

 しかし表立って事を荒げたくないと、他のチームメンバーたちは積極的な行動には移ろうとしない。皮肉にも野心のない総長が直属のチームメンバーを温厚な面子で固めていたのが、こうした逆境に災いする形となった。

 

 その様な中、彼女1人が反逆の声を挙げる。

 

「【連合】の支配を許すな! 奴らに支配されたらどうなる。きっとレースの運営も何もかも、奴等の思い通りの圧政が下される。それを防ぐためにも、【連合】に反抗する【同盟】を結成しよう!」

 

 その声は小さく、もみ消されるかと思われた。

 

 とは言え前総長の体制に不満を持つ者があらば、当然成り上がりの【連合】に不満を持つ者だっている訳である。

 前総長のチームメンバーという肩書を持つ呼びかけ人の旗振りは、そんな者たちにとっても丁度よい大義名分であった。

 

 そして呼びかけに応じた中でも特に有力なのが、ここに集まった者たち。

 

「『強いチームは優遇する』という名目こそ気に入ったが、【連合】のやり口は気に食わん」とする勝ち気なウマ娘、カツラミヤビ。

 

「強行的な連合主のやり方は、いずれ自壊に至るでしょう」と冷静に見る、眼鏡のウマ娘がグラスナルビー。

 

「前総長には恩があるし、この子の力になってあげたいんだけどねぇ」と世話焼きのトマトケツィアプ。

 

 そして今は監視の任務についている、タイトアンドチニー。

 

 4人はそれぞれ、自らのチームを指揮するリーダーである。彼女たちが加われば【同盟】の規模は瞬く間に強大なものになる。無論彼女たちの背後にも、幾つかのチームが控えており、【同盟】が結成次第加わる予定になっていた。

 【連合】に対抗できる勢力にまで拡大するのは、時間の問題だろう。

 

 

 長くなったが、ここまでの相互理解と確認を得た一行である。

 

「そうです……。ですから結成に先立って、まずは私が示す必要があった。もう後戻りは出来ない。それだけの覚悟でここに来ているのだということを」

 そう言って、コールはその身に抱えた包みに視線を注いだ。

 

 中にあるのが、ストリート・レースを運営するためのマニュアル、関係各所へしたためた各種書類・伝票類。それらを纏めたファイル一式。それを保存したUSBメモリ。

――バックアップは消去済みだ。

 

 まぁ別にそれがなくともノウハウさえあれば野良レースなど運営可能だろうが、【連合】だって体面がある。

「無理にレースの主催権を奪って無様な運営をしてしまった」ともなれば、その威信はガタ落ちだ。

 

 だからああまでして、このファイルを取り返そうとしたのだ。

 

「おおっと、皆して顔突き合わせて深刻な顔して、どうしたん一体」

 

 そうもしている間に、監視をしていたタイトアンドチニーが戻って来て、景気良さそうな声で皆に語りかける。

 

「せっかくの結成式なのに今からお通夜みたいな雰囲気じゃ辛気臭くて叶わんな。せや、ちょうど目的の物もあるじゃないか。早く分けようじゃないか」

 

 USBメモリの本数は、5本。

 コールと同盟の主力メンバー4人。1人が1本ずつ預かる。

 

 「そうだった」とばかりに、早速コールが皆に配らんとする。

 厳重に包んでいた布を2,3回もめくれば目的の物が出てきた。それを丁重に取り出す。

 そして彼女から、一人ひとり受け取る賛同者たち。

 

 これを受け取るということは、すなわちファイルを奪って逃げた呼びかけ人の「共犯者」になることに等しい。同盟に加わるということの「誓い」に他ならない。

 

「…………」

 まさにその儀式が行われる、その時である。

 

「おい」

 後から来て、真っ先にUSBメモリを受け取ろうとするタイトアンドチニー。

 今まさに手渡されんとするとき、オーデンが怒鳴る。

 

「なっ」

 手を伸ばしたまま思わずたじろぐタイトに、彼女は更なる罵声を浴びせる

 

「さっき私たちから離れてコソコソしてたとき、誰に連絡つけてたんだ」

 

「だ、誰って。別に敵と連絡なんかとって」

 

「誰も『敵と』なんて言ったつもりはないが」

 

「…………」

「…………」

 

 如何なる洞察を働かせたのか知らないが、タイトの内通を見破ったオーデン。

 

「おい、それってどう言う」

「タイトちゃん。冗談だよね」

 

 剣幕につられてカマをかけられた。いや、それでもつい口をすべらせた直後なら「言葉の綾」だよとなんとでも言い訳できた。

 しかしこの気まずい沈黙こそがオーデンによる嫌疑を確信に導くものであり、皆に十分な疑いを振りまいてしまった時間でもある。

 そしてその嫌疑は、今さら覆しようがないことに気づいたタイトである。

 

「きゃっ」

 

 コールからUSBをひったくると、彼女の胸を突き飛ばし駆け出していた。

 

「おい、タイト!」

「待ちなさい!」

 

 突き飛ばされたコールを受け止めるメンバー。

 突然の喧騒に何事かと目を剥く通行人。

 

 その様な中、即座に反応しこの裏切り者を追いかける者がいた。

 

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