みにくい魔剣の子   作:えいちゃ

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もしかして:コメディ周りがすごい苦手





15歳と制服.2

 教室の中は、静かにざわついていた。

 陽の差し込む高窓のそばでは、黒い制服に身を包んだ少年少女たちが、思い思いの場所に腰を下ろしている。前列に座る者、後方で寄り添い合う者、談笑しながら肘を付き眠気を誤魔化す者──そこには、緊張よりも緩やかな待機の空気が流れていた。

 教室という形式ばった空間に集められることなど、今や彼らには珍しいことだった。けれど特に指示もなく、内容も伝えられずに呼び出された以上、意味を詮索しても仕方ない。

 誰もが、そう思っていた。

 その中で、トロイは椅子の背に軽く寄りかかりながら、隣の少女の様子をちらりと見る。

 深い蒼色のロングヘア。腰あたりまで真っ直ぐに伸びたその髪は揺れ、前髪の右側には、ひと筋だけ金色のメッシュが光を受けていた。整った顔立ちはどこか優しげで、少し俯き加減に表情を揺らしている。

 視線だけで周囲をきょろきょろと見渡している彼女は、普段より少しそわそわした様子だった。足元で揺れる靴のつま先が、その落ち着かなさを物語っている。

 

「トロイさん、なにがあるんだろうね?」

 

 小さな声でそう尋ねられ、トロイは肩をすくめてみせた。

 

「さぁー……教えてもらってないしねー」

 

 言葉とは裏腹に、その目は淡く揺れていた。まるで、何かを予感するかのように。

 笑みはいつもの調子だ。けれど、胸の奥にはどこか引っかかるものがあった。理由も分からないまま呼び出された場に、意味のない演出などしないはずの“あの子”の存在が、自然と頭をよぎる。

 教室の時計が静かに針を刻む音の中、誰かの喉が鳴った。

 机の表面に置かれた手が、無意識にリズムを打つ。

 空調の音だけが、やけに遠くで反響していた。

 何かが始まろうとしていた。

 まだ誰も、気づいていないだけで。

 ピ、と。

 静かに音が鳴ったのは、教室の自動ドアが開いた証だった。

 振り向く者、肩をすくめる者、気に留めない者──その中で、トロイはすっと目だけをそちらに向けた。

 そして現れたのは、見覚えのある長身の女性だった。

 淡い茶橙に揺れるロングヘアは、ふわりと撫でるようなウェーブを描き、前髪の奥でキラリと光る眼鏡の縁が教室の灯りを反射した。

 整えられた制服の着こなしはきっちりしていながら、肩の力が抜けた雰囲気が彼女らしさを滲ませていた。

 

 アンサー。

 第八騎士団《ORANGE》に所属する、教師としての顔も持つ女性騎士。

 教室に入るやいなや、彼女は手を軽く挙げながら、にこやかに言った。

 

「みんな、集まってくれてありがとう。……今日はちょっと、面白いお知らせがあって」

 

 その声は張り上げるでもなく、かといって曖昧な優しさだけでもない。

 耳に届いた瞬間、誰もが自然とそちらへ視線を向けていた。

 トロイは隣のブルーの様子をちらと見た。

 ブルーはきょとんとしたまま、両手を膝の上で揃え、小さく「んー?」と首を傾げる。

 教卓に立ったアンサーは、腰に手を当てるようにしながら柔らかく笑い──けれどその瞳の奥には、どこか確かな緊張感が宿っていた。

 何かが始まる。

 それを知らせる役を、この人が担うのだと分かっていた。

 静かな教室の空気が、ほんの少しだけ張りつめる。

 誰もが言葉を呑み込んだまま、アンサーの口元に注目していた。

 アンサーは、教卓に手を軽く添えると──少しだけ、視線を下げた。

 まるで言葉を選ぶように、ゆっくりとした口調で話し始める。

 

「えっとね、今日は……ちょっと特別な“お客さん”が来るの。ううん、正確には“来てくれる”って言った方が合ってるかな」

 

 その声音には、教師としての落ち着きよりも、どこか“紹介される側”への配慮が滲んでいた。

 ざわり──と、教室の空気が小さく揺れる。

 何人かの騎士が顔を見合わせる。

 少しの期待、少しの予感──何かを感じ取ったように。

 

「その子には、今日だけ……みんなと同じように、制服を着てもらう予定なんだ。ちゃんとした入学ってわけじゃないよ。ただの体験、ほんのちょっとの、ね」

 

 トロイは静かに息を吸った。

 その言葉の奥に、明確な名前がなくとも、思い浮かぶ顔はひとつしかなかった。

 

 「制服を着て」「今日だけ」「ここに来る」──

 その三つの要素だけで、何人もの思考が一点に収束していく。

 前列に座る者の中には、小さく頷いた者もいた。

 後方で組んだ腕を解く仕草を見せた騎士もいる。

 

「少し緊張してると思うけど……ううん、きっとすごく緊張してると思うけど、それでも来てくれるって言ってくれたんだ」

 

 アンサーの言葉が続く。

 その語尾には、ごくわずかに“誇らしげな色”が含まれていた。

 

「だから、お願い。今日だけは、いつもより少しだけ、優しくしてあげてほしいな」

 

 彼女がそう結んだ瞬間──

 静まり返っていた教室の空気に、やわらかな期待が混ざった。

 何人かは、もう確信していた。

 これから入ってくる者が、どれだけの重さと勇気を携えているのかを──そして、自分たちがその手をどう迎えてやれるかを。

 教室の入り口に向けられる視線が、ひとつ、またひとつと増えていく。

 アンサーは一拍置いてから、やわらかく声を投げかけた。

 

「それじゃあ──入ってきて」

 

 扉の向こう側に向けたその言葉に、教室の空気がふたたび静まる。

 ピ、という電子錠が解ける音。

 それはとても小さな音だったのに、なぜか誰の耳にもはっきりと届いた。

 ──そして、静かに扉が開く。

 ゆっくりと差し込んでくる廊下の光の中、黒に近い深緑の髪が、光に照らされて淡く透けた。

 その髪に揺れる光を纏いながら、一人の少年が、ほんのわずかに俯き加減のまま教室に現れた。

 制服のネクタイを指先で少し押さえながら、リンデンは教室の中へと、おずおずと足を進める。

 

「……おはようございます」

 

 小さな声だった。けれど、しっかりとした敬意を含んだ挨拶だった。

 ──その瞬間だった。

 

 教室の中央やや右手寄り、整然と並んだ席の一つから、金属製の椅子がガタンと音を立てる。

 眼帯をしていないほうの目をカッと見開いて、スリーが立ち上がりかけていた。

 普段はどんな状況にも動じない彼のその反応に、隣の席でそれを見ていたフィフティとトゥエルヴが思わず目を見開く。

 二人の視線は、驚愕のままにリンデンへと注がれた。

 

 別の一角。アクシオンゲートの騎士たちが集まった島状の席では、レアリザスとエリスの椅子がほぼ同時にガタガタッと鳴った。

 体が先に動いたように、二人とも思わず立ち上がりかける。だが口を開くことはできず、代わりに、その視線だけが少年をまっすぐ射抜いていた。

 反対側、ORANGEの面々が集まっていた席では、プロブレムが最も派手に反応した。

 

「ヤバっ、リンデンくんじゃん!」

 

 跳ねるように立ち上がったその声は、場に似つかわしくないほどのテンションと響きで、空気をさらに波立たせる。

 その隣では、半目で座っていたモノが顔も動かさぬままボソリと呟いた。

 

「……座りなさいよ、バカブレム」

 

 声のトーンは冷ややかだが、耳はしっかりリンデンに向いていた。

 教室の空気が、形容しがたい熱と静けさの入り混じったものへと変わっていく。

 誰もが声を発しないまま、だが確かに、心の奥の何かが揺れていた。

 教卓へと向かう少年の足取りは、まるで踏み込むたびに空気の密度が変わるような、慎ましくも確かなものだった。

 ──その姿を、トロイは静かに見つめていた。

 椅子に腰を掛けたまま、ほんの少し身体を傾けて、蒼髪の隣から視線を伸ばす。

 蒼と金の光を受けたブルーの横顔は、驚きの余韻に軽く口を開いたまま固まっている。

 けれど、トロイの目はその先にいる少年──リンデンの背にだけ、まっすぐ注がれていた。

 

(あー……やっぱりー)

 

 心の中でだけ、ひとりごとのように思う。

 その口元には、微かに、けれど確かに薄い笑みのようなものが浮かんでいた。

 何のことかなんて、最初から分かってた気がする。

 だってこの場にいるのは、みんな“あの子”にとっての兄さんや姉さんばかり。

 今日が“誰か”を迎える日だとしたら、その“誰か”が誰なのか──考えるまでもなかった。

 ただ、それでも。

 こうして制服を着て、きちんと前を向いて、みんなの前に立とうとする“あの子”の姿を見てしまうと──

 

(……ズルいなー、リンデンちゃんは)

 

 そう、トロイは思った。

 ズルいくらいに真っ直ぐで、健気で、どうしようもなく愛おしい。

 無理してることなんてすぐに分かるのに、それでもちゃんと歩いてくるから、余計に目が離せない。

 たった一歩の前進に、どれだけの決意を詰め込んでるのか。

 それを一番知ってるのは、自分だと思うから。

 

(トロイさんの役目、今日はちょっと重いかもねー)

 

 そんなふうに、どこか自嘲気味に笑いながら、

 けれどその視線だけは、教卓へと向かって進むリンデンから、ひとときも離れることはなかった。

 教卓の前に立ったリンデンは、少しだけ背筋を正すと、アンサーの顔をちらりと仰いだ。

 彼女はその視線にやわらかく頷き、教室の空気に向けて、凛とした声で言葉を紡ぐ。

 

「皆さん、改めて──こちらが本日の“体験入学生”です。名前はリンデンくん。

 特別な事情があって、今日一日だけ、皆と一緒に授業を受けてもらいます」

 

 朗らかな紹介だった。けれどその言葉の輪郭は、どこかやさしく濁されていた。

 誰もが、その言葉の“奥”を感じ取る。感じ取れてしまう。

 ──それでも、言葉は言葉として、受け取られる。

 

「よろしくお願いします」

 

 リンデンの声は小さくとも、芯が通っていた。

 その姿勢が何より雄弁に物語る。

 そして、静かな拍手が広がっていく。

 ぱち、ぱち、と。最初は一部だったそれが、やがて教室全体を包むような、あたたかいリズムになる。

 歓迎というより、労いにも似た拍手──彼の足取りがどれほどの決意だったかを、知っている者たちの手の音だった。

 そんな中、トロイはそっと隣の少女に視線を移した。

 ブルーは──拍手をするでもなく、表情を動かすでもなく。

 ただ、じっと。夢を見るようにリンデンを見つめていた。

 焦点の合っていない瞳、口元はわずかに開いたまま。

 何かを思い出すでも、考えるでもなく、まるで目の前の光景そのものが夢の続きであるかのように。

 

(……あー)

 

 トロイは、半ば呆れたように、けれどどこか微笑を含ませたような表情で。

 ぽす、と控えめな手加減で、彼女の頭にチョップを落とした。

 

「いてっ」

 

 反射的に声を上げたブルーが、頭を押さえてトロイを見返す。

 涙目で、理不尽を訴えるような視線で。

 

「トロイさん、なんでぶったの……」

 

「んー……回収ー?意識、ふわっと飛んでたでしょー」

 

 気だるげにそう答えながら、トロイは再び前を向いた。

 ブルーはなおもリンデンを見ていたが、もうさっきのような“浮遊”はない。

 目が現実に戻ってきていた。少し名残惜しそうに、だけど。

 ──彼女はまだ、自分が見ていたものの名前を知らない。

 それを知るには、きっとまだまだ時間がかかるだろう。

 けれど、トロイはその“名も知らぬ視線”の正体を、よく知っていた。

 知っていても、そこには踏み込まない。

 それはまだ、触れてはいけないものだと知っていたから。

 

 

 

 アンサーの紹介と拍手が一段落したあと、教卓の前でリンデンは静かに一礼した。

 その仕草の一つひとつに、彼の丁寧な性質が滲み出ている。

 けれど教室の空気は、少しずつ賑やかさを取り戻し始めていた。

 アンサーはそんな空気を感じ取りながら、優雅にスカートの裾を返し、扉の方へと向かう。

 去り際、ふと振り返り──いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、私はちょっと準備があるから……あとは皆にお任せ、ね」

「でも、リンデンくんが居るからって羽目を外しすぎないように? 一応“学園”ですから」

 

 そんな釘を刺すような言葉に、教室の数名が“はーい”と生返事を返し、残りは笑いを含んだ沈黙で答える。

 そして、扉が閉まると──そこからは、洪水のような“嵐”だった。

 

「いぇーーーーーいっ!! 一番乗りーっ!」

 

 第一声を上げたのはプロブレム。

 机を乗り越えるようにして、誰よりも早くリンデンの元へと駆け寄ってくる。

 ぎらぎらとした好奇心と全力の笑顔をまとったまま、その腕をばっと広げて──

 

「久しぶりーっ!! リンデンくんかわいい!! やばっ、え、なんか背伸びてる!? やばくない!?」

 

「ぷ、プロブレム姉さん!? ちょっ、いきなりは……!」

 

 慌てて腰を引こうとするリンデンよりも早く、彼女の腕ががしっと肩に絡みつく。

 大仰なテンションで顔を近づけながら、「もう制服似合いすぎでしょー!」と騒ぐ彼女。

 だが、その瞬間──

 

「最強最可愛お姉ちゃんだぞー! かまえーっ!」

 

 別方向から、突風のような声が飛んできた。

 

「わ、うさ耳……!」

 

 視界に飛び込んできたのは、制服に身を包んだふわふわのうさ耳少女。

 オラスだ。普段は学園内でも人見知り気味な彼女が、この時ばかりは内弁慶を振り切っていた。

 まるで勢いそのままに跳び箱を飛ぶようなフォームで、リンデンの背中めがけて飛びつく。

 

「オ、オラス姉さんまで……っ」

 

「せーのっ、リンデンだっこー! だっこーー!! お姉ちゃんパワーで浄化してやるぞー!」

 

「お、重いです……!?」

 

 背中からぴたりとくっついて離れない彼女と、正面から絡みついて離れないプロブレム。

 リンデンは両手を中途半端に浮かせたまま、完全に左右を制圧されていた。

 そして教室のあちこちから、そんな様子に呼応するように笑い声と騒ぎの気配が膨らんでいく。

 ──まるで、堰を切ったように。

 大きな石が水面に投げ込まれたように、教卓前の騒ぎは教室全体へと一気に波及していった。

 それはもう、どこからどう見ても「休み時間」の風景で──誰ひとり、来客対応の“距離感”など守ってはいなかった。

 制服姿のリンデンは今、背中にオラス、正面にプロブレム、そして左右からも何人かが集まりはじめており──完全に包囲されていた。

 けれどその表情には、驚きと困惑だけでなく、どこかくすぐったそうな柔らかさが混ざっていて。

 

「兄ちゃんは……兄ちゃんは今、感動してる……!」

 

 そんな中、教室後方ではレアリザスが拳を握りしめながら謎の感極まりモードに突入していた。

 その瞳はうっすらと潤んでさえいて、ひとりで何かの“物語”に浸っている。

 

「兄さん、リンデンが困ってしまうぞ……」

 

 隣のヴェクサスが、そっと袖を引きながら宥めるように声をかけるが、レアリザスはそのまま陶酔の海に沈みかけていた。

 そんな様子を近場で眺めていたエリスが、微妙な間を置いて呟く。

 

「なんだか、感動するタイミング逃してしまいましたわ……」

 

 その表情は苦笑と戸惑いのちょうど中間地点にある、なんとも言えない表情だった。

 一方、いまだにリンデンの胸元に額をぐりぐりと押しつけているプロブレムの姿に、教室の片隅からは一人の少女が立ち上がる。

 モノだ。冷めた視線を送りながら、腰に手を当ててプロブレムに鋭い一言。

 

「バカブレム。さっさと離れなさいよ」

 

「えー!? やだー!」

 

「駄目、却下」

 

 モノが無造作にプロブレムの襟元をつかんで引き剥がすと、リンデンがようやく息をついたように軽く首をすくめた。

 そんな光景を見て、鉉覇はゲラゲラと豪快に笑い出す。

 

「なんか面白いことになってる説出てるわ! めっちゃ騒がしいんだけど!」

 

 「あーやば、マジでウケる」と続ける彼の横にいた煤墨と闇虹もそれに釣られるように、思わず肩をすくめながら苦笑していた。

 煤墨は「まあ……騒がしいのはいいことだよ」と呟き、闇虹は「平和って証拠だよね」とぽつりと漏らす。

 ──そして、そんな騒がしさの中。

 トロイは、ただひとり教室の片隅に座ったまま、喧騒の中心を静かに見つめていた。

 賑やかな声。笑い声。振り回されて困っているリンデン。

 それらすべてを遠くから眺めながら、トロイはほんの少し、目を細める。

 そして──その瞬間だった。

 リンデンがふと、トロイのほうを見た。

 誰に呼ばれたわけでもない。

 誰に促されたわけでもない。

 ただ、偶然のように。あるいは、必然のように。

 その視線が重なった一瞬、トロイは声も表情も変えずに、まぶたをひとつ落としてみせた。

 ──それだけで、リンデンは少しだけ肩の力を抜いたようだった。

 誰にも気づかれぬよう、そっと目を伏せ、兄姉たちの喧騒の波に身を任せていく。

 トロイは、そんな様子をただ見守っていた。

 誰よりも長く、誰よりも深く、その子を見てきた者として。

 やがて、扉がふたたび静かに開いた。

 パン、パン、と。

 軽やかな音が教室内に響く。打ち鳴らされた拍手が、空気を割って広がっていく。

 

「そろそろ席に戻ってくださーい。ほらほら、皆」

 

 教室の前に戻ってきたアンサーが、穏やかな声で微笑むように促した。

 その声には強制力こそなかったが、だからこそ皆は自然と従った。

 

「えー……もうちょっとだけ……」と名残惜しそうにしながらも、騎士たちは少しずつ元の席へと戻っていく。

 プロブレムが最後まで「もう一回ハグしていい?」と騒ぎ、モノに引きずられるように戻っていったのを見届けてから、リンデンもそっと歩き出した。

 ──あてがわれた席は、教室の中央やや前寄り。前後左右には誰かがいて、背後からも視線が届く場所。

 逃げ場のない位置だと感じながらも、リンデンは何も言わず、指定された椅子に静かに腰を下ろす。

 制服の裾を正し、背筋を少しだけ伸ばす。

 机に置かれた端末に視線を落としながらも、その指先はほんのわずかに震えていた。

 

「……これが、学園生活なんだ」

 

 小さく、誰にも聞こえないほどの声で呟く。

 その響きはどこか現実味を欠いていて、まるで夢の中で独り言を呟くようだった。

 教室の騒がしさはすっかり落ち着き、やがて静寂が戻る。

 教卓に立つアンサーが、背筋を伸ばし、ゆっくりと片手を掲げて言った。

 

「では、今日の授業を始めます。テーマは──第九軌道人類史と現在進行中の“認知戦争”について」

 

 空気がぴんと張りつめた。

 それは、この世界の根幹に関わる話題。

 誰しもが関わり、逃れることのできない“人類の歴史”そのものについての授業だった。

 淡く光るホロディスプレイが教室前方に展開され、青白い文字列と年表が静かに浮かび上がる。

 リンデンは、それを見上げながらそっとペンを握った。

 ──たった一日だけの、学生生活。

 けれどそれは、彼にとって“持たされた夢”ではなく、“自分で選び取った今日”だった。

 目を伏せ、ゆっくりとまばたきを一度。

 その一瞬に、ほんの少しだけ、表情が緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 授業が進むにつれて、教室の空気も徐々にほぐれていった。

 淡々と進むアンサーの講義を前に、リンデンは黙々とメモを取り続けていた。

 ノートアプリに整然と並んでいく文言。まるでそれだけに集中することで、他のすべてを遮断しているように。

 ──けれど、彼を放っておくような騎士たちではなかった。

 

「リンデンくーん、教科書忘れたーっ!」

 

 そんなわけがない。

 隣の席から突然声を掛けてきたプロブレムは、さも当然といった顔でリンデンの机にぐいっと身を寄せてくる。

 

「ほら、こっち半分見せて? あ、メモもばっちりだー!やば、天才の匂いするぅ!」

 

 言葉を並べながら、ずいっと肩が触れる距離まで近づいてくる。

 リンデンは戸惑いながらも、軽く頷いて教科書を少しだけ傾けて見せた。

 ──が、プロブレムは視線を教科書に向けているくせに、ちらちらとリンデンの横顔ばかりを見ている。

 

「えっ、近すぎる? えへへ、でもノーカンノーカン。教育的指導ってことで!」

 

 いつの間にかノートまで覗き込んできて、「この式ってこの間の戦闘統計で出てきたやつだよね?」などと、話しかけるテンポも止まらない。

 もはや“教科書忘れ”という前提はどこかへ消えていた。

 その様子を前列から横目で見ていたモノが、眉間に皺を寄せながら「やめなさいよ……」とため息を漏らすのも当然だった。

 前の方の席では、鉉覇が頬杖をつきながらホロディスプレイを眺めていた。

 その頭の上にはいつも通り、黒いクマのぬいぐるみのような使い魔がちょこんと座っている。

 ──が、そのクマがリンデンの方を向いて、何やら身振り手振りを始めた。

 前足(らしきもの)をぴっと上げたり、左右に振ったり、耳をぴくぴくと揺らしてみせたり。

 まるでリンデンに、授業内容の要点を伝えているかのような動きだった。

 リンデンは一瞬ぽかんとしたが、次の瞬間には小さく「……ありがとうございます」と呟いていた。

 その様子をちらと見ていた鉉覇が、自分の使い魔とリンデンの間に通っていた空気にふと気づく。

 

「……え、待って。もしかして、クマって俺より良い兄貴してる説、出てない?」

 

 そんな呟きに、近くで座っていた玄鉄が吹き出しそうになりながらも咳払いでごまかし、闇虹は苦笑いで首を横に振っていた。

 

 休み時間。

 教室の空気がざわざわと緩み、誰かが談笑しながらお菓子の小袋を配っていた。

 そんな中、リンデンはやや緊張の色を残したまま、自分の席で静かに座っていた。

 

「リンデンちゃんまだ緊張してるんだしー?」

 

 そう言いながら、唐突に横からぴょいっと現れたのは、制服姿の紫亜だった。

 何の前触れもなく、ぴょん、とリンデンの膝の上に乗ってくる。

 

「ほらほらー、お姉ちゃんが居れば落ち着くんだしー? 紫亜は優しいからサービスするんだしー?」

 

 リンデンがぎょっとして身体を硬直させるのもお構いなしに、彼女は背を預けてぬくもりを分け与えてくる。

 ︎︎それを見た叢裂も慌てて続いていた。オッター貿易の席からも、名乗りを上げるようにマイナスが席を立つ。

 周囲の誰もそれを止めず、むしろ日常のように受け入れている空気がまた、異世界のようで。

 ──それでも、リンデンは少しずつ、その空気に慣れていった。

 次の授業、短い雑談時間、ノートを覗き込んでくる誰か、肩越しに質問をしてくる誰か。

 騎士たちは皆、彼にとって“世界の最前線に立つ存在”だったはずなのに、今はただの“お姉ちゃん”と“お兄ちゃん”の群れだった。

 そして夕方。

 窓の外には淡い夕焼けが滲み始め、教室の照明がひとつ、ふたつと灯される。

 ──賑やかで、慌ただしくて、暖かい時間だった。

 リンデンは、割り振られていた席で、ふと自分の手のひらを見つめた。

 何も持っていないその手。けれど今日一日、それは誰かと触れ、何かを受け取っていた。

 

「……贅沢、ですよね」

 

 誰にも聞こえないように、また小さな声で。

 そしてまた、そのまま──教室の時間は、少しずつ暮れていった。

 

 

 

 

 窓の外に沈む太陽が、教室の中に淡い金色の斜光を差し込んでいた。

 照明はまだ点いていない。騎士たちの声と、椅子を引く音、タブレットを閉じる音だけが、ゆるやかに空間を満たしていた。

 

「──はい、それじゃあ、今日の授業はここまで」

 

 教卓の前でそう宣言したアンサーの声は、いつも通りやさしく、少しだけ名残惜しそうだった。

 その言葉に、教室の空気がわずかに動く。

 リンデンは自分のノートを閉じながら、ふ、と小さく息を吐いた。

 ──一日だけの、学園生活。

 何もかもが非日常だったはずなのに、気づけば少しずつ、心のどこかに馴染んでいた。

 今日が終わる。

 ただそれだけのことなのに、胸の奥に、わずかな寂しさが残った。

 

「せっかくだから、最後に──みんなで写真、撮ろっか?」

 

 アンサーが、ぱちんと手を打ち鳴らしながら教室を見回した。

 

「リンデンくんの制服姿、今日だけだしね? 思い出にしなきゃ!」

 

 その言葉に、教室のあちこちで「賛成!」「記念写真〜!」という声があがる。

 すでにプロブレムは「集合〜集合〜!」と叫びながら教卓の前に走っていて、煤墨は「立ち位置くらいは考えておかないとね」と苦笑しながら仕切り始めていた。

 リンデンも、教卓の前へと向かう。

 その途中で、ふと背後の扉が開いた。

 静かな足音とともに現れたのは──黒を基調とした衣装に身を包み、顔全体をディスプレイ付きのお面で覆った人物。

 その姿はあまりに特徴的で、誰もが一瞬で気づいた。

 

「……陛下!」

 

 誰かの声が教室に響き、視線がその人物に集まる。

 仮面に青白く浮かぶ表示が、小さく微笑んでいた。

 久条運命。

 GARDENにおける《皇帝》のコードを唯一持つ者、そしてこの少年の“拾い主”。

 その仮面越しの笑みは、今日という日を見届けに来たことを、何よりも静かに告げていた。

 

『……間に合った。写真、まだ撮ってないよね?』

 

 その声は、感情を抑えたような優しさを帯びていた。

 その場にいた誰もが自然と振り返り、そして微笑む。

 運命の登場で場が少し落ち着いたのも束の間、すぐに教室のあちこちから「じゃあ並ぼう!」という声が飛び交い始めた。

 

「センターはもう決まりでしょー?」

「リンデンしかいないよねー」

「文句なし!」

 

 そんな声とともに、当然のように彼を“真ん中”に推す意見があがると、リンデン本人は戸惑いながらも、皆の視線に背中を押されて、教卓前の中央にある椅子へぽつんと座った。

 制服の前を直し、少し緊張気味にネクタイに手をやる姿が、どこか初々しい。

 だが、その小さな姿のまわりには、自然と人が集まり始める。

 

『私は──リンデンの、後ろがいいかな』

 

 最初にそう声を上げたのは、運命だった。

 仮面越しに柔らかく笑みを浮かべ、すっと背後に立つ。言葉以上に、その立ち位置が全てを物語っていた。

 育ての親として、守り人として、そしてこの世界に彼を連れてきた“責任者”として。

 続いて、やる気に満ち満ちた顔のプロブレムが「じゃあ私がその隣──」と勢いよく前に出ようとしたところで、

 

「却下」

 

 半目のままのモノが、ぐいっとプロブレムのパーカーのフードをを引っ張って制止する。

 

「このバカを抑えるから、私はここでいい」と、中列の端に移動するモノ。

 誰も否定しなかった。というか、誰も否定できなかった。

 

「で、左右どっちが誰だー?」

「そこ、大事でしょ。リンデンの“隣”だよ?」

 

 再びわちゃつき始めたその時、自然と視線が一人の騎士へと集まった。

 少し離れた場所に立っていた彼女は、皆の意図を察して肩を竦める。

 

「まー……そうなるよねー」

 

 そう言って、ゆっくりと歩み寄るトロイ。

 いつもどおりの脱力した調子だったが、その歩みには揺るぎがなかった。

 彼女が腰を下ろしたのは、リンデンの左側──すなわち、彼の利き腕側。

 

「よし、じゃあ右──」

 

 その時、トロイの目に映ったのは、少しだけソワソワと、周囲の空気に押し出されそうになっていた少女の姿だった。

 

「ブルーちゃん。右側、座ってくれるー?」

 

「──う、うぇっ!? わ、わたし!? あの、でも……わ、私でいいのかなぁ……?」

 

 思いがけず指名されたブルーは、肩をびくっと震わせ、わたわたと慌てふためく。

 周囲から軽く背中を押されるようにして、一歩、また一歩とリンデンの隣へと歩み寄った。

 小さく「し、失礼します……」と呟きながら、そっと腰を下ろす。

 まるで夢の中に迷い込んだかのような、頼りない視線がリンデンの横顔をちらりと見つめていた。

 結局、あちこちで意見が飛び交った末に、全体の並びは各騎士団ごとに固まるような形に落ち着いていった。

 前列中央にリンデン、その後ろに運命。そして左右にトロイとブルー。

 その横に千紫の面々や第六起源魔術教会、反対にはORANGEとオッター貿易、アクシオンゲートとブレイドラインが前列……自然と、“家族”のような配置が出来上がっていく。

 

「え、でもさ……誰が写真撮るんだ?」

 

 誰かがぽつりと呟いた瞬間、場に小さな静寂が走る。

 

「──あ」

 

 教室の全員が顔を見合わせたその時。

 勢いよく教室の扉が開かれ、飛び込んできたのは、MAZE.lab所属の研究員たちと──一際目立つ、小柄な白衣姿の少女だった。

 

「お写真を撮ると聞きましてっ! ちびりすがお助けに来ましたっ!」

 

 白衣の袖がだぼだぼと揺れるほど、勢いよく手を上げる少女。

 淡い青髪に白いヘアバンド、そしてぱっつん前髪に元気いっぱいの笑顔。

 研究員用のネームプレートには《ちびりす》と書かれていた。

 

「今日のために、撮影用の高感度カメラ端末も用意してありますっ!」

 そう言って、背中のポーチからすぽんと取り出されたのは、妙にプロ仕様なカメラユニット。

 あまりの本気度に、皆が一瞬たじろぐ。

 

「ちびりすちゃん……それ借り物なんじゃ……」

「もういいよ、撮ってくれるなら……」

 

 背後で同行していたMAZEの研究員たちは、どこか諦め半分と微笑半分の表情を浮かべながら、手慣れた様子で照明パネルや三脚を設置し始める。

 

「ファギナさーん、ちょっと照明持ってもらえますか? あと、ちびりすちゃん用の踏み台もお願いしまーす!」

「りょかーい……アレ?もしかして、ここでこっそり髪の毛を抜けば量産の準備整う……?」

「ここに来てまでやめてくださいねー? ︎︎セナルは反射板と皆の配置整理おねがーい!」

「前側の配置失礼しますねー。全体的にもう少し右寄りで……あ、リンデンくん、ここに連絡先入れておくから……」

「朝にメイズ先生に怒られたよねー!ちょっと今一瞬寒気感じたからさっさと整理続けてー!」

 

 次第に教室の空気が撮影スタジオのように整っていくなか、リンデンは自分の隣のブルーをちらりと見て、小さく首を傾げた。

 ブルーはぎこちない笑顔を浮かべたままで視線を返してくる。リンデンは、不安げさまよう彼女の手をそっと握った。

 ──なんでもない放課後。

 けれど、それはたった一度しかない、宝物のような時間だった。

 

「皆さん、撮りますよーっ!」

 

 教室の前方──カメラユニットの隣で、ちびりすが元気よく片手をぶんぶんと振り回していた。

 研究員たちが手際よく照明と背景を整え、準備は完了している。カメラのレンズに映るのは、GARDENの騎士達と、たった一日だけ制服を着た魔剣の子。

 

「はーい、こっち見てくださいねーっ、目線くださーいっ!」

 

 その掛け声に、全員の視線が自然とカメラへと向かう。

 肩と肩がぶつかるほどの密度の中で、各々が笑ったり照れたりしながら、いつになく素直にカメラを見つめていた。

 

「それじゃあ──カウントダウンいきますっ!」

 

 ちびりすがカメラを覗き込む。その表情は真剣そのもの。

 

「さんっ!」

「にーっ!」

「いち──っ!」

 

 ──その瞬間だった。

 

「えへっ」

 プロブレムが満面の笑みで、隣のモノに思いっきり飛びついた。

 

「ちょ、やめ──っ!!」

 

 思わず体勢を崩したモノが、隣のオーバーフローを押し、その勢いがそのままORANGEの列を連鎖し、さらに隣接するオッター貿易の面々まで伝播する。

 

「――すっぱああああん!」

 

 さらに紫亜が、ニヤニヤしながら楓の臀を平手で勢いよく叩いた。

 

「いったぁ!?」

 

 悲鳴をあげた楓が跳ね上がるようにのけぞり、その足が前にいたエリスのふわふわの狐尻尾を踏みつける。

 

「ッっつっ、あ゛ああぁっ!?」

 目を見開いたエリスの全身の毛が、バチバチに逆立った。

 

 突如起こった連鎖事故に、周囲の空気が一瞬フリーズする。

 ブルーは、なにが起きたのかわからないまま目をぎゅっと閉じて、隣のリンデンの腕にしがみついた。

 

「ふふー……で、こうなるんだよねー」

 

 そして最後に、悪戯げな笑みを浮かべたトロイが、すっと身体を寄せ、リンデンの肩に頭を預ける。

 

 ──刹那。

 

 フラッシュが焚かれた。

 

 光の中、少年とその“兄姉”たちの、奇跡の一枚が切り取られた。

 その直後──。

 

「ぎゃっ──!?!?!?!?」

 

 ぐらり、とORANGEから伝播した崩壊が加速。

 いくつかの列がバタバタと倒れ込み、崩れていく。

 三脚が揺れ、カメラユニットがガタガタと跳ね上がった。

 

「あっ」

 

 ちびりすの間の抜けた声とともに、カメラが派手な音を立てて床に転がり──レンズが、見事に真っ二つに砕け散った。

 

「ああああああああああっ!?!?!? 」

 

 教室中に響き渡る、ちびりすの絶叫。

 笑い声、悲鳴、騒然とした声が重なって、教室は完全にお祭り状態となった。

 ──けれどその中に、どこか確かで温かい、ひとつの“幸福”が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──とある日の、運命の私室。

 静かな空間に、紅茶の香りがほんのりと広がっていた。

 薄いカーテン越しに射し込む光が、書架とソファの隙間に柔らかな陰影を描き出している。

 ソファに腰掛けた運命は、手元の端末を静かに見つめていた。

 ディスプレイに映るのは、少し前に撮影された、制服姿の集合写真。

 中央にいるのは、少しだけぎこちなく、それでもどこか嬉しそうに笑う少年──

 まだ不器用な笑顔が、見ているこちらの胸に触れるような、そんな一枚だった。

 

「陛下、あの時の写真ですか?」

 

 そっと声をかけながら、リンデンが紅茶の乗ったトレイを運んできた。

 気遣うような動きで二人分のティーカップをテーブルに並べ、対面の椅子に静かに腰を下ろす。

 

『うん。ようやく届いたからね』

 

 運命の仮面から響く声は、どこか嬉しそうだった。

 ディスプレイに浮かぶ表示が、小さく綻ぶような微笑みに変わる。

 

「カメラの修復に時間を要したとはお聞きしていますが、随分と時間が掛かりましたね」

 

 リンデンは手元のカップに口をつけながら、どこか懐かしむように目を細めた。

 その声音には、写真に込められた騒がしさと思い出がしっかりと根を下ろしている。

 16歳を越え、声変わりを終えた彼の声は、もう幼さの残るそれではなかった。

 背も伸び、制服姿の記録を見返すたび、そこに映る“過去の自分”との違いが、ひときわ浮き彫りになる。

 端末越しにその成長を見ていた運命は、静かに頷きながら、ディスプレイを微笑ませる。

 

『最近、訓練はどう? カノン達が……だいぶしごいてるみたいだけど』

 

 紅茶の湯気が、二人の間をふんわりと揺らす。

 

「ええ、まだまだ身につけなければいけないことは沢山ありますので」

 

 リンデンは、ほんの少しだけ苦笑する。

 

「時間を割いて頂いてるからには、しっかりと覚えないと。……そう思っています」

 

 その言葉に、運命はゆっくりと瞬きをひとつ。

 そして、端末を“かたり”とテーブルに置いた。

 画面に残る一枚の写真。

 中央には、気恥ずかしそうに、それでも確かに微笑む少年の姿。

 その周囲には、兄姉のような仲間たちが、それぞれの仕草と笑顔で囲んでいた。

 それは騒がしく、くだらなく、けれど確かに“居場所”と呼べるものが写った写真だった。

 運命はそっと、仮面越しのまなざしをリンデンへ向ける。

 そして、小さく、けれど確かに、言葉を落とした。

 

『──君は、よく、頑張ってるね』

 

 その一言に、リンデンはわずかに目を見開いたあと、照れたように笑う。

 

「……ありがとうございます。陛下に、そう言っていただけるのなら」

 

 そっとカップに視線を落とすその姿は、あの日より少しだけ大人びて見えた。

 テーブルの上では、端末の画面がほのかに光り続けている。

 真ん中で笑う少年を中心に、騎士たちが肩を寄せ合った、騒がしくも幸福な記録──

 それは、ほんのひとときの学園生活の、ささやかな証だった。

 その空気のまま、ふたりは静かに紅茶を口に運ぶ。

 穏やかに、変わりゆく時間を抱きしめるように。







難産すぎておかしかったらごめんなさいの気持ち


恐らくここからひたすらボスラッシュばりの連続戦闘(10万字予想)が続くので、息継ぎの為に話の間(1.2.閑話.3.4みたいな感じ)でも閑話を差し込むべきかどうか。

  • ずっと戦闘でもいいよ、あまり気にしない
  • 息継ぎは欲しい、差し込んで欲しい
  • 叡智閑話
  • イベのトロイさんちゃんの掘り下げビビった
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